知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

不正競争防止法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」の解釈

2007-01-30 07:23:55 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)17405
事件名 商号使用差止等請求事件
裁判年月日 平成19年01月26日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 高部眞規子

『(1) 不正競争防止法2条1項1号に規定する「混同を生じさせる行為」とは,他人の周知の営業表示と同一又は類似のものを使用する者が自己と上記他人とを同一営業主体として誤信させる行為のみならず,両者間にいわゆる親会社,子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係又は同一の表示の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信させる行為(広義の混同惹起行為)をも包含すると解すべきである(前掲最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決,最高裁平成7年(オ)第637号同10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事189号857頁参照)。
(2) 前記第2の1の争いのない事実等及び前記1(3)の認定事実によれば,被告は,平成14年5月に商号を「杏林ファルマ株式会社」に変更して,目的に医薬品,医薬部外品などの製造,販売等を加えたものであり,原告の営業と同一の営業を行うおそれがある。
よって,被告が,上記のような営業を行うについて,「杏林ファルマ株式会社」を使用することにより,原告の取引者又は需要者は,被告をもって,キョーリングループの一員,あるいは,原告との間に資本的な繋がりがあるなど,緊密な営業上の関係があると誤信するおそれがあるものと認められる。』

請求項が減縮された場合に「実質上特許請求の範囲を変更」するかどうかの判断3

2007-01-30 07:10:55 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10072
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『(1) ・・・
(2) 上記(1)の記載によれば,従来,新聞やテレビ専門雑誌の番組欄を見てチャンネル,放映開始時刻等を確認していたが,番組欄で確認した番組をテレビ受像機に表示させるには,テレビの画面と番組欄とを突き合わせる必要があり,煩わしかったり,番組欄で所望の番組の放映開始時刻を確認するのに失敗するという問題(課題)があったところ,このような課題を解決し,所望の番組を確実に選択でき,選択された番組を含めて番組の内容を容易にサーチできるようにする番組選択装置を提供することが,訂正前の請求項1に係る発明の目的であり,そのための構成が,同請求項1に規定した番組選択装置の構成であるものと認められる。
(3) そして,訂正事項bにおける「第一のRAM」,「第二のRAM」は,それぞれ,訂正前の請求項1の「入力手段」,「サーチ手段」が有する記憶装置をより具体的に規定したものであり,「限定手段」は,訂正前の請求項1の「選択手段」による番組の表示位置の選択の前提となる表示すべき番組表の内容について,具体的に規定したものであり,「更新手段」は,番組内容の表示位置を指定するための位置指定に関して,カーソルの移動に伴って必要な処理内容を具体的に規定したものであり,「記憶手段」は,訂正前の請求項1の「少なくとも開始時刻とその終了時刻とその放映チャンネルとを含む情報」が記憶される手段を具体的に規定したものであるから,訂正事項bの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれるということができる
3 そうであれば,訂正事項bは,訂正前の請求項1に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項bに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲を変更するものではない。』

『発明の目的は特許請求の範囲の請求項において規定された構成によって達せられるものであり,新たに構成が付加されたり構成が限定されれば,目的も,それに応じて,より具体的なものになることは当然であって,訂正後の発明の構成により達せられる目的が訂正前の発明の構成により達せされる上位の目的から直ちに導かれるものでなければ,発明の目的の範囲を逸脱するというのであれば,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は事実上不可能になってしまうから,相当でない。そうであれば,訂正事項により付加,限定された構成により達成される内容が,訂正前の発明の目的に含まれるものであれば足りると解するのが相当であり,本件においては,上記2のとおり,訂正事項bの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれる。』

次の判決も同趣旨。
事件番号 平成18(行ケ)10071
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

事件番号 平成18(行ケ)10070
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

請求項が減縮された場合に「実質上特許請求の範囲を変更」するかどうかの判断2

2007-01-30 07:00:53 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10071
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『(1) ・・・
(2) 上記(1)の記載によれば,従来,見たい番組を録画予約する場合,録画予約の設定にバーコードを使って録画開始時刻を読み込ませたり,一週間を単位として毎週同時刻に同じ番組を録画予約することで,簡易に録画予約をする方法があったが,これらの方法は操作が煩雑であり,特に,放映時間が連続する異なるチャンネルの番組を録画する場合や同じ番組が週によって異なる時間帯に放映される場合にはその設定が煩雑なものになるという問題(課題)があったところ,このような課題を解決し,見たいテレビ番組を見逃すことがなく,容易に操作が可能な放送内容受信装置を提供することが,訂正前の請求項1に係る発明の目的であり,そのための構成が,訂正前の請求項1に規定した放送内容受信装置の構成であるものと認められる。
(3) そして,訂正事項aにおける「録画再生部」は,訂正前の請求項1に明示の記載はないものの,請求項1に係る放送内容受信装置が当然に有しているものにすぎないし,「限定手段」は,訂正前の請求項1の「位置指定手段」による位置指定の前提となる表示すべき番組表の内容を具体的に規定したものであり,「更新手段」は,番組内容の表示位置を指定するための位置指定に関連して,カーソルの移動に伴って必要な処理内容を具体的に規定したものであり,「映像信号出力部」は,請求項1に係る放送内容受信装置に必要とされる映像信号出力部の機能を具体的に規定したものであるから,訂正事項aの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれるということができる。
3 そうであれば,訂正事項aは,訂正前の請求項1に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項aに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲を変更するものではない。』

『発明の目的は特許請求の範囲の請求項において規定された構成によって達せられるものであり,新たに構成が付加されたり構成が限定されれば,目的も,それに応じて,より具体的なものになることは当然であって,訂正後の発明の構成により達せられる目的が訂正前の発明の構成により達せされる上位の目的から直ちに導かれるものでなければ,発明の目的の範囲を逸脱するというのであれば,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は事実上不可能になってしまうから,相当でない。そうであれば,訂正事項により付加,限定された構成により達成される内容が,訂正前の発明の目的に含まれるものであれば足りると解するのが相当であり,本件においては,上記2のとおり,訂正事項aの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれる。』

次の判決も同趣旨。
事件番号 平成18(行ケ)10072
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

事件番号 平成18(行ケ)10070
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

請求項が減縮された場合に「実質上特許請求の範囲を変更」するかどうかの判断1

2007-01-30 06:47:34 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10070
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『(1) ・・・訂正事項bに係る「番組表出力手段」,「更新手段」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているということができる。
 (2) ・・・訂正事項bの「番組表出力手段」と「指定手段」は,特許査定時の請求項3における「記憶手段」と「指定手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであり,「更新手段」と「サーチ手段」は,特許査定時の請求項3の「記憶手段に記憶されているテレビ放送の内容の中から,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチするサーチ手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであるから,訂正事項bの具体的内容は,いずれも,特許査定時の請求項3に係る発明の目的に含まれるということができる
 (3) そうであれば,訂正事項bは,特許査定時の請求項3に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項bに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲を変更するものではない。』

『発明の目的は特許請求の範囲の請求項において規定された構成によって達せられるものであり,新たに構成が付加されたり構成が限定されれば,目的も,それに応じて,より具体的なものになることは当然であって,訂正後の発明の構成により達せられる目的が訂正前の発明の構成により達せされる上位の目的から直ちに導かれるものでなければ,発明の目的の範囲を逸脱するというのであれば,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は事実上不可能になってしまうから,相当でない。そうであれば,訂正事項により付加,限定された構成により達成される内容が,訂正前の発明の目的に含まれるものであれば足りると解するのが相当であり,本件においては,上記(2)のとおり,訂正事項bの具体的内容は,いずれも,特許査定時の請求項3に係る発明の目的に含まれる。』

『訂正事項bに係る「番組表出力手段」,「更新手段」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているものであって,訂正事項bの「番組表出力手段」と「指定手段」は,特許査定時の請求項3における「記憶手段」と「指定手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであり,「更新手段」と「サーチ手段」は,特許査定時の請求項3の「記憶手段に記憶されているテレビ放送の内容の中から,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチするサーチ手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであるから,訂正事項bの具体的内容は,いずれも,特許査定時の請求項3に係る発明の目的に含まれるということができる。』

次の判決も同趣旨。
事件番号 平成18(行ケ)10072
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

事件番号 平成18(行ケ)10071
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

相違点の技術分野と共通しない分野の引用例(技術分野の同一性)

2007-01-29 07:27:56 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 中野哲弘

『原告は,「刊行物に記載された発明」とは,刊行物に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から当業者が把握できる発明をいうのであり,刊行物が出願公開公報である場合には,出願された発明だけに限られるものではなく,例えば,従来例の欄に記載されている技術的事項も記載されている発明であるから,甲4公報におけるカチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤も,「刊行物に記載された発明」に該当すると主張する。
 確かに,刊行物が出願公開公報である場合に,「刊行物に記載された発明」が出願された発明だけに限られるものでないことは原告主張のとおりである。しかし,上記のとおり,甲4公報において,カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤は,それ自体が何らかの技術的課題を解決するとして開示されているわけではない上に,これを,本件発明1が解決しようとする技術的課題の解決のために採用することについて何らの示唆もないのであるから,本件発明1の前記相違点3に係る構成が当業者に容易に想到できたものであることの論理付けに用いることはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。』

『次に原告は,液晶表示装置に用いられている技術は有機エレクトロルミネッセンス表示装置にもそのまま応用されており,両者は極めて共通性の高い技術分野であると主張する。
しかし,液晶表示装置と有機エレクトロルミネッセンス表示装置とに共通して利用できる技術があるとしても,本件発明1の前記相違点3に係る構成の容易想到性を判断するに当たっては,有機エレクトロルミネッセンス表示装置と液晶表示装置とは,技術分野を共通にするということはできない。なぜなら,本件発明1の前記相違点3に係る構成によって解決しようとした技術的課題は,前記のとおり,有機エレクトロルミネッセンス素子の化学変化を生じないような接着剤の選択であるところ,かかる観点からの接着剤の選択は,有機物である有機エレクトロルミネッセンス素子の場合と,無機物である液晶素子との場合では,接着剤の化学的組成等の点において大きく異なるものと解されるからである。』

構成と効果の関係を適切に評価していない審決

2007-01-29 07:04:31 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10325
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『 審決は,構成要件(A)(B)を備えることにより,構成要件(C)(E)(G)(H)等の手段,手順を採用することが可能となり,それに伴い,トンネル切羽断面上の全作業基準点が直接照射されるため,正確なマーキングを行うことが可能になって,余掘り・アタリを大幅に減少させることができるとの格段の作用効果を奏すると判断している。
しかしながら,構成要件(A)についての審決の判断が誤りであることは前記判示のとおりである。また,審決は,本件発明と甲1発明との一致点については明示的に認定しておらず,相違点についても「少なくとも以下の点で相違している」としているのみで,構成要件(B)(D)(F)(G)(H)(I)については前提となる対比判断をしないまま,本件発明の作用効果として(G)(H)に言及して判断をしている。審決が認定した作用効果は,トンネル切羽断面上の全作業基準点を直接照射することから生ずるものであり,主として構成要件(F)(G)(H)に関する事項であるが,審決は,これらの構成要件について甲1発明などとの対比判断をしていない。このように,対比判断を行っていない構成要件に基づいて,格段の作用効果があるとして,本件発明の進歩性を否定できないとした審決には結論に影響を及ぼす誤りがあるというべきである。』

特許法67条2項の処分の「用途」の解釈

2007-01-25 07:14:35 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10724
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『(1) 本件の争点
特許法67条2項の「その特許発明の実施について…処分…を受けることが必要である」との文言は,「物(有効成分)と用途(効能・効果)という観点から処分を受けることが必要であったこと」と解すべきであり,本願に係る処分における「用途」と先の処分に係る「用途」が同一である場合には,特許発明の延長登録は認められない(当庁平成17年10月11日判決・平成17年(行ケ)第10345号(最高裁HP登載)参照)。本件では,この解釈について当事者間に争いはなく,主たる争点は,先の処分に係る「用途」と本件処分に係る「用途」が同一であるかどうかである。すなわち,原告は,本件処分に係る「用途(効能・効果)」は,「再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法」であって,先の処分に係る「逆流性食道炎」とは異なると主張する。これに対し,被告は,先の処分と本件処分に係る「用途(効能・効果)」は,それぞれの承認書に記載されているとおり,いずれも「逆流性食道炎」の治療であり,本件処分において変更されたのは,用法及び用量にすぎないと主張する。』

『(2) 「用途(効能・効果)」の意義
 一般に「用途」とは「使いみち。用いどころ。」(広辞苑第五版)を意味するところ,このような「用途」の通例の意義によれば,医薬品の「用途(効能・効果)」,すなわち当該医薬品の「使いみち」とは,医薬品が作用して効能又は効果を奏する対象となる疾患や病症等をいい,これに対し,医薬品の投与間隔,投与量,摂取方法など,当該疾病に対して医薬品が効能又は効果を発揮するための具体的な方法等を「用法及び用量」というと解すべきである。』

『(4) 病態や薬理作用における異同
次に,「再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎の維持療法」の対象となる病態や本件処分に係る薬理作用等について,項を改めて検討する。
・・・
エ 以上によれば,先の処分と本件処分は,医薬品の薬理作用が同一であり,投与される対象となる疾患の病態が異なるということはできず,実質的には投与期間を延長することに意義があるものであるから,本件処分に係る変更承認申請書に記載されているとおり,用法及び用量を異にするにすぎず,用途(効能又は効果)は同一であるというべきである。』


次の判決も同趣旨
事件番号 平成17(行ケ)10725
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所


事件番号 平成17(行ケ)10726
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所

職務発明の支払時期の規定がない場合の消滅時効の起算点

2007-01-25 06:52:03 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)18196
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成19年01月17日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 市川正巳

「1 消滅時効の成否について
(1) 消滅時効の起算点
ア 契約,勤務規則等によって職務発明について特許を受ける権利を使用者に承継させた場合,従業者は,対価の支払時期が契約,勤務規則等に定められていない限り,直ちに相当の対価の支払を請求することができるから,上記特許を受ける権利を承継させた時期が相当の対価についての消滅時効の起算点となる。
イ 前提事実(4)イ及びウのとおり,原告は,被告に対し,本件特許発明1及び3に係る特許を受ける権利を,それぞれ昭和62年4月1日及び平成4年2月18日に譲渡したものであり,仮に,原告が本件特許発明2の発明者であるとしても,原告は,遅くとも昭和63年3月2日までに本件特許発明2に係る特許を受ける権利が被告に譲渡された旨主張している。
ウ したがって,時効期間を5年と解した場合はもちろん,10年と解した場合であっても,相当の対価の支払時期を定めた契約,勤務規則等が存在しない限り,本件各特許発明についての相当対価の請求権は,時効消滅したものとなる。」

「(2) 原告の平成16年規程に基づく主位的主張について
ア原告は,主位的に,平成16年規程が原告に適用されることにより,被告は消滅時効を援用し得ない旨主張する。・・・
(エ) これらの事情を総合的に考慮すると,平成16年規程においてその実施前に行われた発明の取扱いに関する規定等が設けられていないことをもって,同規程が施行前の発明にも適用される趣旨であるとは解することは到底できず,同規程は,同規程施行後の発明に適用されるべきものと認めるべきである。
したがって,被告は,平成16年規程の制定により時効利益を放棄したものではないし,被告による消滅時効の援用が権利濫用に当たることもないから,原告の主位的主張は理由がない。」

「(3) 原告の本件就業規則58条に基づく予備的主張について
ア 原告は,予備的に,本件就業規則58条をもって職務発明についての規定と見るべきところ,特許として登録されるか否かが判明しない限り「業務上有益なる発明」に当たるか否かの判断ができないから,消滅時効は完成していない旨主張する。
イ 前提事実(5)イのとおり,本件就業規則58条において,「業務上有益なる発明」は,「永年誠実に勤続した者」又は「業務上有益なる…改良又は工夫,考案をなしたる者」などと同列のものとして位置付けられ,表彰対象として挙げられている。
 また,表彰の方式は,賞金の授与のほか,賞状又は賞品の授与とされている(同規則59条)。しかも,発明に係る特許を受ける権利等の譲渡は,表彰の要件とはされていない。
 また,上記「業務上有益なる発明」であるか否かは,その発明が特許を受けられることと必ずしも同義ではない。
 さらに,前提事実(5)イのとおり,本件就業規則第11章は,平成16年規程の施行後も,変更されることなく存続している。
 これらの事情によれば,本件就業規則58条は,恩典的な表彰について定めたものであるにとどまり,同条をもって,職務発明の取扱いに関する規定と解することはできないというべきである。」