知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「物」の発明における性質の記載

2011-10-23 22:27:42 | 特許法29条2項
事件番号  平成23(行ケ)10050
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
 原告は,審決が,相違点1についての検討に当たり,
「本願発明における「抗骨粗鬆症活性を有する」なる記載は,組成物の有する活性を単に記載したものであり,「カルシウム,キトサンを配合した組成物」の用途を特定するものとは認められないため,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」,
「引用発明は,腸管内でのカルシウムの吸収率を増加させる作用を有し,骨粗鬆症を予防,治療するための組成物に他ならないものであるから,相違点1は,実質的な相違点とはいえない。」
と判断したのは誤りであると主張
し,その理由として,本願発明が,骨粗鬆症の治療に対しカルシウムを骨へ直接取り込むことを主眼とする上記引用発明とは異なる技術思想に基づくものであること,本願発明が,カルシウムを補給する前に骨の劣化を抑えることが重要であるとの観点から,カルシウム,キトサン,プロポリスの3種混合物としたことを技術的特徴とするもので,その配合成分のうちキトサンは,骨吸収を抑制する役割を担っているのに対し,引用発明のキトサンの役割は腸管内でのカルシウム吸収を促進するためのものであり,両者の役割が本質的に異なることなどを述べる。

 しかし,原告が本願発明の技術的特徴として主張する,骨粗鬆症に対する治療手法としての機序や,キトサンが骨吸収を抑制するという役割などは,本願発明を特定する特許請求の範囲において記載されておらず,「物」の発明としての本願発明を特定するものではないから,そのことを理由に引用発明との相違点の判断を否定する原告の主張は,失当といわなければならない。

 なお,本願発明における「抗骨粗鬆活性を有する」との記載は,「物」の発明である本願発明の抗骨粗鬆活性という性質を記載したにすぎないものであり,また,引用例Aの「カルシウム吸収促進性」の記載も,引用発明の組成物が有する性質を記載しているにすぎず,いずれも「物」としての組成物を更に限定したり,組成物の用途を限定するものではないから,これらの記載の相違は実質的な相違点とは認められず,この点に関する審決の判断に誤りはない。

法2条1項1号の商品表示と法2条1項3号により保護されるべき商品の形態

2011-10-23 21:55:26 | 不正競争防止法
事件番号  平成22(ワ)9684
事件名  不正競争行為差止等
裁判年月日 平成23年10月03日
裁判所名 大阪地方裁判所  
裁判長裁判官 山田陽三

(1) 法2条1項1号の趣旨は,他人の周知の営業表示と同一又は類似の営業表示が無断で使用されることにより周知の営業表示を使用する他人の利益が不当に害されることを防止することにあり,商品本体が本来有している形態,構成や,それによって達成される実質的機能を,他者の模倣から保護することにあるわけではない。

 仮に,商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態を商品表示と認めると,商品表示に化体された他人の営業上の信用を保護するというにとどまらず,当該商品本体が本来有している形態,構成やそれによって達成される実質的機能,効用を,他者が商品として利用することを許さず,差止請求権者に独占利用させることとなり,同一商品についての業者間の競争それ自体を制約することとなってしまう。
 これは差止請求権者に同号が本来予定した保護を上回る保護を与える反面,相手方に予定された以上の制約を加え,市場の競争形態に与える影響も本来予定したものと全く異なる結果を生ずることとなる。
 これらのことからすると,商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態は,同号の商品等表示には該当しないものと解するのが相当である。
 ・・・
 そこで検討すると,原告商品は,ざるとしての機能に加え,柔軟性があり,変形させることができるという機能もあり,これにより従来のざるにはない用途に用いることができるというものである。
 そうすると,柔軟性があり,変形させることができるという形態的特徴は,原告商品の機能そのもの又は機能を達成するための構成に由来する形態であり,上記(1)のとおり,商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態として,法2条1項1号の商品等表示には当たらないというべきである。
 具体的にみると,基本的形態として原告が主張する構成は,いずれも,柔軟性を持たせるための構成若しくは柔軟性があるという機能それ自体又はざるとしての機能を発揮させるための構成であり,商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態であるというほかない。また,使用時形態も,柔軟性があり,変形させることができるという機能の結果生じる形態であり,これも商品の実質的機能を達成するための構成に由来する形態,結果である。
 ・・・

 法2条4項によれば,「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。被告は,原告商品の使用時形態は需要者が通常の用法に従った使用に際して認識することができる形状には当たらないとして,その他のざるとしての形態的特徴は,いずれも乙2ないし8に記載された原告商品に先行するざる又は水切りざるが備えている構成であるか又は周知の形態若しくはざる一般にみられるありふれた形態であると主張する。

 しかしながら,原告商品の使用時形態それ自体が,法2条4項により保護される商品の形態(形状)であるかはおいても,使用時形態のように変形自在であるという原告商品の特性は,少なくとも需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる質感等に反映されることは明らかであり,法2条1項3号により保護されるべき商品の形態として十分に考慮されるべきものである。


職権による周知技術の証拠調べが違法となる場合

2011-10-23 10:49:46 | 特許法29条2項
事件番号  平成23(行ケ)10010
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(3) 以上の記載によると,本件審決では,本件特許出願当時の周知技術の認定に審決引用例を用いたものであるところ,職権により周知技術についての証拠調べをした場合,当事者の主張内容や当該技術の周知性の程度によっては,証拠調べの結果を当事者に通知せず,これらの書証について当事者に意見を申し立てる機会を与えなかったとしても,直ちに特許法150条5項の規定に違反するとまではいえないが,本件では,審決引用例に基づく周知技術の認定により原告の主張が排斥されていることや,後記第4の2(3)イ(ア)bのとおり,審決引用例からは,「・・・キャピラリチューブ」が周知の技術であるということはできないことに鑑みると,証拠調べの結果を原告に通知し,相当の期間を指定して意見を述べる機会を与えるべきであったというべきである。

 しかし,審決引用例の記載からは,「・・・キャピラリチューブ」が周知の技術であるといえないものの,後記第4の2(3)イ(ア)bのとおり,このようなキャピラリチューブが存在しなくても,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に欠けるものとはならないから,審決引用例についての証拠調べの手続に違法があったとしても,結果として,これが本件審決の結論に影響を及ぼすものとはいえない

機能の共通する周知技術の適用と設計事項の認定

2011-10-16 23:12:50 | 特許法29条2項
平成23年9月27日 平成23年(行ケ)第10099号
審決取消請求事件
裁判長 塩月秀平

引用発明及び周知技術の一具体例である甲3に記載された技術は,補正発明と同様,画像の有無によって放射エネルギーのON・OFFの点灯制御を行う点で共通する。
 これらを勘案すれば,引用発明の印刷方法において,レーザ放射装置および光ファイバケーブルよりなる乾燥装置を,周知技術1の「紫外線を放射するLEDを用いてモジュール化したLEDアレイを印刷物の幅方向に複数並べ,モジュール化したLEDアレイ単位で制御を行う印刷物の乾燥装置」に置き換えることに格別の困難性は認められない

 そして,前記のとおり,引用例の図2の構成は,レーザ照射装置をONにすれば,レーザ管で生成されたレーザ光が光ファイバケーブルを構成する全ての光ファイバに等しく導入され,全ての光ファイバの端部から紫外線が照射されるものだが,引用例には,図2の構成にとどまらず,画像が存在する場所にだけ放射エネルギーを当てるという技術的思想が開示されており,そのために,印刷枚葉紙の幅方向の一部分だけに限って放射エネルギーを当てることの示唆も存在する

 したがって,引用例に接した当業者であれば,引用発明に周知技術1を適用する際,印刷製品の幅方向に複数並んだLEDアレイ全体を一律に点灯制御して,幅方向全域にわたる放射エネルギーの照射・非照射を単純に切り換えるといった点灯制御はもとより,引用例の上記示唆が動機づけとなって,モジュール化されたLEDアレイ単位で点灯制御を相互に独立させ,画像が存在する部分だけに限って放射エネルギーを当てるような点灯制御までをも容易に想到し得るというべきである。

 また,モジュール化されたLED単位で点灯制御を独立させる場合,画像の有無の判断を当該LEDアレイ単位,換言すれば,当該LEDアレイの照射領域単位で行うようにすることは,単なる設計的事項にすぎず,画像が存在する場所にだけ放射エネルギーを当てるという観点でいえば,画像の有無の判断単位と,エネルギーの放射単位とを領域的に一致させるのが普通であるといえるし(敢えて一致させないことの必然性に乏しい),また,そのようにすることは,回路設計を行う当業者にとって自然な発想といえる。

よって,相違点2,3に係る構成は,引用発明に周知技術1を適用することによって,容易に想到し得るものというべきである。

従たる引用発明としての周知技術の扱い

2011-10-16 22:45:15 | 特許法29条2項
平成23年9月28日 平成22年(行ケ)第10351号
審決取消請求事件
裁判長 飯村敏明

 他方,審決が判断の基礎とした出願に係る発明の「特徴点」は,審決が選択,採用した特定の発明(主たる引用発明)と対比して,どのような技術的な相違があるかを検討した結果として導かれるものであって,絶対的なものではない。発明の「特徴点」は,そのような相対的な性質を有するものであるが,発明は,課題を解決するためにされるものであるから,当該発明の「特徴点」を把握するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題及び解決方法という観点から,当該発明と主たる引用発明との相違に着目して,的確に把握することは,必要不可欠といえる。
 その上で,容易想到であるか否かを判断するに当たり,「『主たる引用発明』に『従たる引用発明』や『文献に記載された周知の技術』等を適用することによって,前記相違点に係る構成に到達することが容易であった」との立証命題が成立するか否かを検証することが必要となるが,その前提として,従たる引用発明等の内容についても,適切に把握することが不可欠となる。

 もっとも,「従たる引用発明等」は,出願前に公知でありさえすれば足りるのであって,周知であることまでが求められるものではない。しかし,実務上,特定の技術が周知であるとすることにより,「主たる引用発明に,特定の技術を適用して,前記相違点に係る構成に到達することが容易である」との立証命題についての検証を省く事例も散見される。特定の技術が「周知である」ということは,上記の立証命題の成否に関する判断過程において,特定の文献に記載,開示された技術内容を上位概念化したり,抽象化したりすることを許容することを意味するものではなく,また,特定の文献に開示された周知技術の示す具体的な解決課題及び解決方法を捨象して結論を導くことを,当然に許容することを意味するものでもない

 本件についてこれをみると,審決は,・・・,「特定の引用発明」のみを基礎として,これに特定の技術事項が周知であることによって,本願発明と引用発明との相違点に係る構成は,容易に想到することができるとの結論を導いたものである。
・・・
 引用発明においては,「吸水性ポリマー層」が吸水材として用いられ,プラスチック袋の内面に「被覆」されたものであること,・・・,被覆された層は,溶剤に溶かしたり熱溶融したりするなどして,流動性を持たせた吸水ポリマーにゼオライトを練り込んだものが被覆されることによって,プラスチック袋の基材と一体化されて,積層されていると理解される。被覆された層の一体化された形状は,「吸水性ポリマー層」が吸水した場合であってもなお,その形状が保持されるものと理解するのが合理的である。
 そうであるすると,引用発明において,「消費者が,液状の廃棄物でほとんど,あるいは完全に飽和された吸収材との偶発的で,望ましくない接触をすること」を回避する目的のために,さらに「液体透過性ライナー」を「吸収剤」に隣接して配置するとの構成を採用する動機はない

動機付けを否定した事例

2011-10-16 21:08:15 | 特許法29条2項
平成23年9月28日 平成22年(行ケ)第10388号
審決取消訴訟
裁判長 飯村敏明
知財高裁の判決紹介あり)


 そうすると,補正後発明は,通常の場合においては少ない待ち時間で高い確率でメッセージ(データ)の伝送が可能であるとともに,最悪の場合においても有限の最大待ち時間を保証することを解決課題とし,その課題を解決するために,
「前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが・・・予め設定される待ち時間が保証できる間は,前記データは事象指向でバスシステムを介して伝送され,他の場合には,前記データは時間制御されるモードでバスシステムを介して伝送される」
との構成を採用したのであるから,上記「時間制御されるモード」は,有限の最大待ち時間を保証するように制御されるアクセス方式ということができる。

 これに対して,引用発明では,受信誤り率が小さい場合においては接続遅延が小さく,かつ,受信誤り率が大きい場合(高トラヒック時)においても高いスループットを実現する多重アクセス方式を提供することを解決課題として,同課題を解決するため,端末と無線基地局間の通信トラヒックに応じて,受信誤り率が小さい場合にはALOHA方式のような衝突の起こり得る多重アクセス方式を用い,受信誤り率が大きい場合にはポーリング方式のような衝突の起こり得ない多重アクセス方式を用いる構成とした発明である。

 ポーリング方式は,各端末に送信権が巡回して付与されるアクセス方式であり・・・,引用発明においても,最大の待ち時間を保証することは可能といえる。

 しかし,引用発明は,高いスループットを実現することを解決課題とする発明であって,最大の待ち時間を保証することを解決課題とする発明ではない。また,引用発明が,時間制御されるアクセス方式を用いており,最大の待ち時間を保証することが可能であるとしても,高いスループットを実現することによって,必然的に最大の待ち時間を保証することができるとはいえない。引用例の段落【0019】には,ポーリングを行った端末からパケット信号が継続して送られてくる場合,ポーリングアドレスを変更せずにポーリングを行う旨記載され,同記載部分からも,引用発明が必ずしも最大の待ち時間を保証するものではないことが理解できる。

 したがって,引用発明と補正後発明において,・・・,引用発明と補正後発明との解決課題が相違する以上,引用発明における「伝送すべきパケット信号の受信誤り率のしきい値を設定すること」から,補正後発明における「伝送すべき各パケット信号の送信から受信までの待ち時間を設定すること」に変更する動機付けはなく,また,その作用効果においても相違すから,上記変更が,「当然に導きうる単なる判断指標の変更に過ぎない」ということはできない。


(所感)請求項の用語の解釈はこれでいいだろうか。請求項には最大の待ち時間を保証し得る事項は特定された。がしかし、その請求項の「データは時間制御されるモード」は、時間制御さえ行えばよく必ずしも最大の待ち時間を保証するものではない。「データは時間制御されるモード」には、確かに完全に待ち時間を保証するものも含まれるが、引用発明の程度に時間制御するものも含まれると解する方が良いと思う。
 ↑
再度読み直すと、審決のように「受信誤り率のしきい値を設定すること」を「受信までの待ち時間を設定すること」とすることを単なる判断指標の変更と言うことには無理がある。判決のとおりでよい。
 

基本的な解決課題と付加的な解決課題

2011-10-16 20:09:27 | 特許法29条2項
平成23年9月28日 平成23年(行ケ)第10002号
審決取消請求事件
裁判長 飯村敏明

 上記のとおり,補正前発明と引用発明とは,基本的な構成及び解決課題を共通にするものであって,同解決課題を実現するために補正前発明の相違点A,Bに係る構成を採用することは,当業者において,何ら困難を伴うものではなく,容易に想到し得るというべきである。

 原告は,補正前発明は,「・・・という問題点を有していた」(上記(1)ア の段落【0035】)との解決課題をも有し,引用例には,上記課題についての開示も示唆もない旨主張する。
 しかし,補正前発明が,引用発明と共通する解決課題のほかに,付加的解決課題をも有していたとしても,本件においては,引用例に接した当業者において,補正前発明の相違点A,Bに係る構成を採用するに当たり,そのことの故に困難であるとする根拠とはならない。原告の上記主張は,採用の限りでない。

発明相互に相違点がある場合の特許法39条2項所定の「同一の発明」

2011-10-16 19:47:04 | Weblog
平成23年9月28日 平成22年(行ケ)第10379号
審決取消請求事件
裁判長 飯村敏明

 特許法39条2項所定の「同一の発明」について,複数の発明相互の構成において相違部分がある場合に,その相違点に係る構成が,解決課題に対して,技術的な観点から何ら寄与しないと評価される場合には,複数の発明は,同一の発明と解すべきであるが,相違点に係る構成が,そのように評価されない場合には,特許法39条2項所定の同一の発明とはいえない。
そこで,上記観点から検討する。
・・・
 甲44の記載があったとしても,ビッグボーナス役が内部当選していることを音で報知するとの技術が,スロットマシンの技術分野において,解決課題に対して,技術的な観点から何らの寄与をしないと評価される構成であると認めることができない。甲9及び甲21の記載があったとしても,同様に,ビッグボーナス役が内部当選していることを音で報知するとの構成が,スロットマシンの技術分野において,解決課題に対して,技術的な観点から何らの寄与をしないと評価される構成であると認めることができない
 本件特許発明と特許第4060340号発明とは,特許法39条2項所定の同一の発明であるとはいえず,審決に同項に違反しない。


同日付判決 平成22年(行ケ)第10380号も同趣旨

指定商品名に含まれる略語の識別力

2011-10-16 11:15:46 | 商標法
平成23年09月20日 平成23年(行ケ)10085号
審決取消請求事件
商標権、行政訴訟
裁判長 塩月秀平
(別観点から再掲)

(2) 被告の主張に対する判断
・・・
イ 被告は,本願商標の観念及び称呼について,本願商標中「TV」部分は,指定商品「電気通信機械器具」に含まれる「テレビジョン受信機」を意味する略語であるから,当該指定商品に使用する場合には出所識別機能を有しないが,「プロテクタ」部分については,商品の品質等を直ちに表示するものではなく,出所識別機能を有するから,本願商標中「プロテクタ」部分が要部として認識され,この部分からも観念及び称呼が生じると主張する。

 確かに,本願商標中「TV」部分は,指定商品「電気通信機械器具」に含まれる「テレビジョン受信機」を意味する略語であるから,これを指定商品「テレビジョン受信機」に使用する場合には出所識別機能を有しないといい得る。しかしながら,テレビジョン受信機は「電気通信機械器具」の一部にすぎないし,他方において,本願商標中「プロテクタ」部分についても,当該部分は「保護する装置」との意味を有する英単語の片仮名表記と解されるところ,指定商品「電気通信機械器具」に含まれる「電気通信機械器具の部品及び附属品」には,その性質上,電気通信機械器具を静電気,電波,磁気,衝撃等から保護するための装置が包含されると解される(特に,「電気通信機械器具の部品及び附属品」に含まれる「保安器」は,雷から電気通信機械器具を「保護する装置」である。)から,「プロテクタ」部分を指定商品「電気通信機械器具」に使用するか,少なくともこれに含まれる「保安器」に使用する場合には,出所識別機能は極めて低いものといえる。

 そもそも「TV」も「プロテクタ」も普通名詞として一般に通用している語であることも踏まえ,上記の検討にかんがみると,本願商標中「TV」部分と「プロテクタ」部分は,それぞれ異なる指定商品との関係において出所識別標識としての機能がないか,極めて低いものであって,出所識別標識としての機能に差異があるとはいえない。したがって,本願商標においては,「TVプロテクタ」全体が一体のものとして把握されると理解するのが自然であり,本願商標中「プロテクタ」部分のみを要部として抽出することは不相当というべきであり,この部分からも称呼及び観念が生じるとする被告の上記主張は採用することができない。

動機付けを否定した事例

2011-10-16 10:49:26 | 特許法29条2項
2011年9月20日 平成22年(行ケ)10369号
知的財産高等裁判所
行政訴訟、審決取消請求事件
裁判長 塩月秀平

ウ 甲第4号証には,無効理由3について審決が認定した技術的事項が記載されている(前記第2の4(1))。しかし,前記イのとおり,甲8発明では高速搬送レーンによって送られるネタ皿を客が取ることは想定されていないから,甲8発明と甲4発明が同一の技術分野に属し,客に飲食物を供給するというごく抽象的なレベルでは使用目的,用途や使用用途に共通するところがあるとしても,客が搬送されてくるネタ皿を自ら取り上げることを前提とする甲4発明を適用する動機付けがない

(2) 前記(1)のとおり,甲8発明では高速搬送レーンによって送られるネタ皿を客が取ることは想定されていないから,注文品を搬送する高速搬送レーンとそれ以外の飲食物を搬送する通常のクレセントチェーンの高さを各別に異ならせ,両搬送装置を移動する飲食物(ネタ皿)相互の区別をより明瞭にする必要に乏しく,かかる高さを異にする構成を採用する動機付けに欠ける。

 原告は,客が高速搬送レーンの上のネタ皿を物理的に取り上げることができないわけではないなどと主張して審決の認定を非難するが,甲第8号証の段落【0011】の記載にかんがみれば,甲8発明の装置において客が高速搬送レーンのネタ皿を自ら取り上げることがないように配慮されていることは明らかである。のみならず,甲8発明に基づく本件発明の容易想到性判断(動機付け)においては,装置の物理的構造上,客が高速搬送レーンからネタ皿を物理的に取り上げることができるか否かに焦点を当てるのではなく,サービスの同質性の有無も念頭に置く必要があるのであって,原告の上記主張は失当といわなければならない。

特許請求の範囲の記載の解釈-文言解釈の限界を超える解釈を否定した事例

2011-10-10 22:06:23 | 特許法70条
事件番号 平成22(ワ)38409
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年09月20日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 阿部正幸

d(a) また,原告らは,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された本件発明の実施例には,レールが建物2の外壁に設置されており,目地プレートが建物2の床面に支持されているわけではないものも記載されているから(図20,23),被告製品のように,目地プレートが建物2の床面に支持されているわけではなく,建物2の外壁に設置されたレールによって支持されている構成も,目地プレートの「他端部が前記渡り通路用開口部の床面に左右方向にスライド移動可能に取付けられ」ているものに当たると主張する。

(b) しかしながら,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないところ(特許法70条1項),「床面」とは,「壁面・天井などに対して,床。床の表面」を意味するものであり(広辞苑第6版2864頁),「取り付ける」とは,「機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置したりする。」ことを意味するものである(同2048頁)。また,「設置」とは「設けて置くこと。」(特許技術用語集第3版105頁)を,「装置」とは「取り付けて置くこと。備えつけること。」(同113頁)を,それぞれ意味するものである。
 したがって,構成要件Cの「床面に…取付けられ」という用語を普通の意味で解釈すると,被告製品のように目地プレートを建物の外壁に設置する場合は,これに当たらないものと解される

(c) また,特許請求の範囲に記載された用語は,願書に添付した明細書の記載すなわち発明の詳細な説明等の記載や図面を考慮して解釈するものとされているところ(特許法70条2項),本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載が存在する。
・・・

(d) 上記発明の詳細な説明の記載等によれば,本件発明において,目地プレートの一端部を渡り通路の目地部側端部の床面上に前後方向にスライド移動可能に支持し,他端部を渡り通路用開口部の床面に左右方向にスライド移動可能に取り付けること(構成要件C),及び,一対のスライド側壁の一端部を渡り通路の目地部側の側壁に前後方向にスライド移動可能に取り付け,他端部を渡り通路用開口部が形成された外壁に左右方向にスライド移動可能に取り付けること(構成要件D)の技術的意義は,従来の渡り通路の目地装置では,地震等での左右の建物の大きな前後左右方向の揺れ動きを吸収することができず,床用目地装置と壁面用目地装置との接続が難しいなどの欠点があったのに対し,上記構成を採ることにより
① 左右の建物が地震等で前後左右方向に揺れ動いた場合に,目地プレート及び一対のスライド側壁がその動きに追従して移動し吸収することができるため,目地プレートや一対のスライド側壁が損傷するのを防止することができ,安全に長期間使用することができること,
② 構造が簡単で,大きな前後方向の揺れ動きに追従することができること,
③ 構造が簡単なため,容易に設置することができ,安価に製造することができること,などの効果を得ること
にあるものと認められる


 そして,構成要件Cの「床面に…取付けられ」の意義を上記(b)の通常の意味どおりに解し,目地プレートの他端部を,建物の外壁ではなく通路用開口部の床面に取り付けることによっても,上記本発明の第1の実施の形態(段落【0008】~【0016】,図1~9)のように,従来技術の上記欠点を解消し,上記効果を実現することができるといえる

 そうすると,本件明細書において,「特許請求の範囲」における目地プレートの他端部の取付けに関する記載内容と,本件発明の実施の形態を示す図面とが整合しない点があるとしても,「床面に…取付けられ」という記載について,これを「外壁に…取付けられ」という場合を含む意味に解釈することは,文言解釈の限界を超えるものとして,許されないというべきである
また,本件明細書の他の記載を見ても,構成要件Cの「床面に…取付けられ」に関して,上記(b)の通常の意味と異なり,床面だけでなく外壁に取り付けられることを含む意味で使用する旨を定義する記載は存在しない。

 原告らの主張は,採用することができない。

*所感 自由競争の原則の例外を特許法は規定している。競業者に過度の監視負担を課したり、予測可能性を下げて萎縮効果を生じさせるように70条を解釈すべきではない。この観点から特許請求の範囲の「文言解釈」を明細書の発明の詳細な説明の些細な分析により書き換えることは許されないと考える。筆者はこの観点からこの判決を支持したい。

PCT出願の却下処分取消訴訟の争点につき、内閣の権限に属するとして内閣の見解に基づき判示した事例

2011-10-09 17:38:51 | Weblog
事件番号 平成21(行ウ)417
事件名 手続却下処分取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月15日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

第2 事案の概要
 本件は,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」という。)に居住する北朝鮮国籍を有する者が,1970年6月19日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「PCT」という。)に基づいて行った国際特許出願について,上記出願人から上記発明に係る日本における一切の権利を譲り受けた原告が,日本の特許庁長官に対して国内書面等を提出したところ,特許庁長官から,上記国際出願は日本がPCTの締約国と認めていない北朝鮮の国籍及び住所を有する者によりされたものであることを理由に,上記国内書面等に係る手続(以下「本件手続」という。)の却下処分を受けたことから,被告に対し,同処分の取消しを求める事案である。
・・・

第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件国際出願は,特許法184条の3第1項所定の「国際出願」として,同項により,日本において「その国際出願日」にされた特許出願とみなすことができるか)について

(1) 我が国が北朝鮮を国家として承認しているかについて
 ア 国家の承認とは,新たに成立した国家に国際法上の主体性を認める一方的行為を意味するものであるところ(乙9),証拠(乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,我が国の政府は,我が国がこれまで北朝鮮を国家承認しておらず,したがって,我が国と北朝鮮との間には国際法上の主体である国家の間の関係は存在しない,との見解をとっていることが認められる。また,本件全証拠によっても,我が国がこれまでに北朝鮮を明示又は黙示に国家承認したことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって,我が国は北朝鮮を国家として承認していないものと認められる。

 イ これに対し,原告は,1991年9月17日に開催された第46回国連総会は,北朝鮮の国連加盟を承認する決議を全会一致で採択しており,同決議には日本も参加して賛成票を投じているのであるから,これによって,日本が黙示に北朝鮮に国家承認を与えたものとみなされる,と主張する。
 しかしながら,証拠(乙7の1,2)によれば,北朝鮮の国連加盟は無投票で承認されたものであり,我が国は積極的に賛成票を投じたものではないことが認められるから,原告の主張はその前提を欠くものである。また,証拠(乙10)及び弁論の全趣旨によれば,国連の加盟を容認することと当該国を国家として承認することとは別個のものであり,当該国の国連加盟を容認することをもって当該国を国家として承認したことにはならないものと一般に解されていることが認められる・・・。

 ・・・原告は,日本国政府が昭和37年にモンゴルの国連加盟承認決議に日本が賛成したことがモンゴルの国家承認に当たる旨の国会答弁を出していることから,北朝鮮についても国連加盟承認決議に賛成したことが国家承認に当たると解すべきである旨主張する。しかしながら,ある行為が国家承認に当たるかどうかは承認国側の現実の意思によるものであるから,我が国がモンゴルを国家として承認する意思の下に,同国の国連加盟承認決議に賛成したことをもって国家承認に当たるとの判断を表明したとしても,そのことによって他の国についても,国連加盟承認決議に賛成したことによって直ちにその国を国家承認したことになるとの見解を表明したものということはできない

(2) 未承認国である北朝鮮と我が国との間で,多数国間条約であるPCT上の権利義務関係が生じるかについて
 ア PCTは,我が国,北朝鮮その他の多数の国家が加盟する多数国間条約であり,各国が所定の手続を踏むことにより当該条約に加入することが可能な開放条約である(PCT62条,パリ条約21条)。
 本件では,我が国と北朝鮮との間でPCT上の権利義務関係が生じるか否かが問題となっているところ,ある国から国家承認を受けていない国(未承認国)と上記承認を与えていない国との間において,その両国がいずれも当事国である多数国間条約上の権利義務関係が生じるかという問題については,これを定める条約及び確立した国際法規が存在するとは認められない
 一方,証拠(乙6の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,我が国の政府は,国家承認の意義について,ある主体を国際法上の国家として認めることをいうものと理解し,国際法上の主体とは,一般に国際法上の権利又は義務の直接の帰属者をいい,その典型は国家であると理解していること,また,我が国の政府は北朝鮮を国家承認していないから,我が国と北朝鮮との間には国際法上の主体である国家間の関係は存在せず,したがって,未承認国(北朝鮮)が国家間の権利義務を定める多数国間条約に加入したとしても,同国を国家として承認していない国家(我が国)との関係では,原則として当該多数国間条約に基づく権利義務は発生しないとの見解をとっていること,が認められる。
 そして,当裁判所は,日本国憲法上,外交関係の処理及び条約を締結することが内閣の権限に属するものとされ(憲法73条2号,3号),我が国及び未承認国を当事国とする多数国間条約上の権利義務関係を我が国と未承認国との間で生じさせるかということも,外交関係の処理に含まれるものといえることに鑑み,上記の政府見解を尊重し,未承認国である北朝鮮と我が国との間に両国を当事国とする多数国間条約に基づく権利義務関係は原則として生じないと解するべきであり,PCTについても,原則どおり我が国と北朝鮮との間に同条約に基づく権利義務関係は生じないものと考える(知的財産高等裁判所平成20年12月24日判決参照(これこれ))。

関連事件:

平成19年12月14日 平成18(ワ)6062 未承認国の著作物の我が国の著作権法による保護の可否
平成19年12月14日 平成18(ワ)6062 外国の団体の我が国の民事訴訟における当事者能力

意匠法39条1項ただし書の,原告が「販売することができないとする事情」に該当する場合

2011-10-02 22:30:27 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)9966
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年09月15日
裁判所名 大阪地方裁判所  
裁判長裁判官 森崎英二

ウ 販売することができないとする事情(意匠法39条1項ただし書)
 被告らは,被告大創による被告商品の譲渡数量は,① 被告商品の価格,② 販売ルートの違い,③ 競合品の存在,④ 本件意匠の寄与度など,被告商品固有の事情により販売された部分があるとし,これが意匠法39条1項ただし書の,原告が「販売することができないとする事情」に該当する旨主張するので,以下,そのような事情の存否について個別に検討する。

(ア) 被告商品の価格について
 被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差では約400円安い関係にある。・・・,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。
 そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。

(イ) 販売ルートについて
被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。
 もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は,もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。
したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。

(ウ) 競合品について
 資生堂の商品(乙4)は,・・・,本件意匠の要部と構成を共通にしている。
 したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1~3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。

(エ) 本件意匠の寄与度について
 原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。
 ところが,被告商品は,・・・,結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はない
・・・。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。
 さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。
 ・・・
 したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべきである。

(オ) 結論
 これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。