知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

記載されているものから自明な構成とは

2006-03-26 22:04:12 | 要旨変更・新規事項の追加
◆H15. 7. 1 東京高裁 平成14(行ケ)3 特許権 行政訴訟事件
特許法53条1項

(注目点)
 願書に最初に添付した明細書又は図面から自明である事項とは

(判示)
 原告は,本件補正書において補正した事項は,当初明細書の請求項1,2中の「等」及び「など」の語によって,すべて記載されていると解すべきである,と主張する。

 しかしながら,補正が認められるか否かの判断において問題とされる「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」とは,願書に最初に添付した明細書又は図面に現実に記載されているか,記載されていなくとも,現実に記載されているものから自明であるかいずれかの事項に限られるというべきである。

 そして,そこで現実に記載されたものから自明な事項であるというためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもが,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項であるといえなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かる,という程度のものでは,自明ということはできないというべきである。

拒絶査定時に引用されていない拒絶理由の引例で審決するのは適法か

2006-03-26 21:49:54 | 特許法29条2項
◆H15. 3.31 東京高裁 平成14(行ケ)41 特許権 行政訴訟事件
特許法29条2項

(注目点)
 拒絶査定時には甲9,10を引用例としたが、拒絶理由には、甲6も示されていた。審決時に、甲6で審決できるか。

(判示)
  (1) 審査においてした手続は,拒絶査定に対する審判においても効力を有し(特許法158条),審査官のした拒絶理由の通知(同法50条)も,審査における他の手続と異なるところはない。審査官は,本願発明について,引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする拒絶理由通知書(甲8)を発しているから,審判において,上記拒絶理由に基づいて審判請求が成り立たない旨の審決をする限り,改めて拒絶理由の通知をすることを要しない。
  (2) 原告は,拒絶理由を事前に通知しなかったことにより原告に意見を述べる機会が与えられなかったと主張するが,原告には,審査官の発した上記拒絶理由通知に対し意見を述べる機会を与えられているから,同一の拒絶理由について改めて審判において通知を受けなくとも,意見を述べる利益を害されたということはできない。したがって,拒絶理由通知に係る手続違背をいう原告の主張は理由がない。

一つの請求項で拒絶査定するのは適法か

2006-03-26 21:41:41 | Weblog
◆H14. 3.28 東京高裁 平成12(行ケ)180 特許権 行政訴訟事件
特許法49条

<注目点>
 複数の請求項の内、一つの請求項に係る発明で拒絶するのは適法か。

<判示>
 原告は,本願発明2ないし14の中には,審決が引用した刊行物に全く開示されていない構成が含まれているものがあり,これらの発明については,特許を受けることができるはずである,・・・審決は,本願発明1について審理しているのみで,本願発明2ないし14については,全く審理をしていないから,審決には,判断遺脱の違法がある,と主張する。

 平成5年法律第26号による改正前の特許法49条(以下,単に「特許法49条」という。)は,次のとおり規定している。
「・・・。」
上記規定によれば,特許出願に係る発明が,特許法29条等の,出願人が特許を受けることのできない事由を定めた規定に該当し,特許をすることができないものであるときは,審査官は,その特許出願について拒絶査定をしなければならない。
 このことは,昭和62年の特許法改正前の一発明一出願の制度においては,当然のことであった。同改正により同制度が廃止され,関連する複数の請求項に係る発明を一つの願書で特許出願をすることが認められた後においても,同条は,次に述べる理由により,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが,上記特許法29条等の規定に該当し,特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているものと解すべきである。

 特許法49条は,前記のとおり,「その特許出願に係る発明が・・・第29条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき」は,「その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定して,平成5年法律第26号による改正前の特許法51条(以下,単に「特許法51条」という。)の「特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,出願公告をすべき旨の決定をしなければならない。」との規定とともに,一つの特許出願について,拒絶査定か出願公告をすべき旨の決定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定している。
 この点は,昭和62年改正により,一つの特許出願において複数の発明を複数の請求項に記載することができるとの改正がなされたときにも,何ら変更されていない。

 また,このことは,特許法が,特許無効の審判について,「2以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」(123条1項柱書き)と明文で規定し,特許査定という行政処分をなした後には,各請求項ごとに,無効審判の申立てをすることができることを明記しているのに対し(現行特許法では,特許査定後の特許異議の申立てについても,「2以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」(113条本文)と明文で規定し,特許査定という行政処分をなした後には,各請求項ごとに,異議申立てをすることができることを明記している。),前記49条及び51条においては,これと対照的に「特許出願について」拒絶査定ないし出願公告をすべき旨の決定をすることを明記していることからも明らかというべきである。

 特許法が上記のようなものとして49条の規定を設けた制度的な理由は,大量の特許出願について迅速な処理をすべき要請があることにあるであろう。もっとも,他方では,このような制度によると,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明の一つについて,特許法29条等が規定する,出願人が特許を受けることができない事由がある場合には,その他の請求項に係る発明について,特許付与を受ける機会が奪われることになり,出願人にとって不利益な結果となることが懸念されるところである。

 しかし,特許法は,審査官に拒絶査定の前に拒絶の理由を通知すべき義務を負わせ(50条),出願人は,拒絶理由通知を受ける前はいつでも,同通知を受けた後は所定の期間内に,明細書又は図面について補正をする機会を与えられているのであり(17条の2第1項,4項),審判段階においても,同様に拒絶理由の通知の制度(159条2項)と明細書又は図面の補正の機会が与えられているのであるから,出願人は,これにより拒絶理由通知により拒絶されることが予想される請求項に係る発明を補正したり,削除したりすることができ,柔軟な対応が可能となるのである。また,特許法は,出願人に分割出願の制度も認めており,出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限っては,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができるのである(44条1項)。したがって,出願人は,拒絶理由通知の制度,並びに,同通知の前及び同通知の後の所定の期間内における補正又は分割出願の制度により,適切な対応をすることが可能なのであるから,特許法49条についての上記解釈により出願人が不当に不利益を被る結果となることについては,そうならないようにするための十分な手続的な手当てがなされているとみることができる。

請求項を統合したときの引用例の組合わせ(反論の機会)

2006-03-26 21:35:22 | 特許法29条2項
◆H14. 3.28 東京高裁 平成12(行ケ)180 特許権 行政訴訟事件
特許法29条2項

(注目点)
 請求項1に係る発明に引用文献1が通知され、請求項5に係る発明に引用文献2が通知されて拒絶査定された際に、審判請求時の補正により、請求項1に請求項5の記載をとりいれて新請求項1とした。
 そのときに、審判官は、請求項1に対して引用文献1及び2を組み合わせて、特許法29条2項の規定で審決したが、これは、違法か。


(判示)
 請求項1に係る発明が,形式上,請求項5に係る発明と別発明であるとしても,拒絶査定で引用刊行物2に記載された発明に基づいて進歩性がないとされている技術事項を,請求項1に係る発明に加えたことで,当該技術事項が進歩性を帯びるなどといったことは,あり得ないことである。
 当該技術事項の加わった請求項1に係る発明は,当然に,引用刊行物1,2に記載された発明に基づいて進歩性がないとされていたことになるというべきである。

 原告は,審査段階において,引用刊行物2は,請求項5の発明の「海綿状のセラミックフォーム」という構成について引用されておらず,鋳型の「突起」に関して引用されていたにすぎなかった,と主張する。

 拒絶理由通知において,引用刊行物2が引用されたのが,「海綿状のセラミックフォーム」という構成との関連においてでないことは,原告主張のとおりである。(拒絶理由通知時の請求項5は「海綿状のセラミックフォーム」の構成を有していなかったから,いかなる刊行物であれ,これとの関連で引用されることはあり得ない。)。

 しかしながら,前認定のとおり,拒絶査定においては,引用刊行物2は,上記構成の進歩性を否定するためにも引用されていることが明らかであり,原告は,この拒絶査定を不服として審判の請求をしたのである。

 仮に,同刊行物を上記構成との関連でも引用することをあらかじめ明らかにしないままで,拒絶査定をなした点を,手続上の瑕疵と呼ぶとしても,これをもって,審決を違法にするほどのものとすることはできない,というべきである。

引用例の別の実施例の参照(反論の機会)

2006-03-26 20:23:07 | 特許法29条2項
平成14年(行ケ)第109号 特許取消決定取消請求事件
特許法29条2項

<注目点>
 取り消し理由通知で、引例1の図7に示される実施例から、引用発明1を認定した場合に、異議決定において、引用発明1を評価する際に、他の図面に示される他の実施例を参照することは許されるか。

<判示>
 取消理由通知の内容と比べると,(異議決定は)引用発明2を周知技術の一つとして例示するにとどめたこと,及び,引用発明1の解釈に当たって,刊行物1の第8図に記載された実施例を参酌したこと,の2点において変更されている,ということができる。

 第2の点については,引用発明1に引用発明2に例示される周知技術を適用することについて,これを困難にする事情があるかどうか,すなわち,引用発明1が,拘束部材が埋設された中空円筒形のゴム体を弾性支持体の孔の内周に加硫接着することとは相いれない内容の発明であるかどうかとの問題である。

 したがって,この点は,引用発明1の技術内容に関するものであるから,刊行物1に記載された発明である引用発明1の技術内容の判断に当たって,刊行物1の記載全体を参酌することができることは当然であり,刊行物1に記載された他の実施例である,第1図ないし第6図の各実施例及び第8図の実施例とその余の記載を参酌した上で,この点を判断することは,何ら問題はないところである。

 取消理由通知において,刊行物1を引用し,その第7図に記載された発明を引用発明1として明示している以上,決定が,刊行物1のその余の実施例についての記載も参酌して,引用発明1の内容を認定することは,特許権者に意見陳述の機会を保障した特許法の前記規定の趣旨に何ら反するものではないというべきである。

周知技術付加する補正の際の反論の機会

2006-03-22 06:15:55 | 特許法29条2項
◆H13. 1.15 東京高裁 平成12(行ケ)2 特許権 行政訴訟事件
特許法29条2項

<概要>
 特許出願に基づく国内優先権を主張して、同年11月20日、特許出願をした(特願平2-314805号)が、平成10年7月31日に拒絶査定を受けたので、同年9月24日、これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は、同請求を平成10年審判第15083号として審理した上、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は原告に送達された。
 手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨は、補正されていた。

<注目点>
 原告は、拒絶査定に対する不服の審判段階において本件補正が行われたにもかかわらず、拒絶理由通知をすることなく審判請求不成立の審決を行ったのは、特許法159条2項において準用する同法50条の規定又は同法1条の趣旨に違反したものである旨主張するので、まず、同法159条2項に規定する「審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当するかどうか判断する。
 審決の理由は、本願発明と引用例記載の発明とを対比し、両者の相違点として「ヘッドガイド部の溝幅」のみを挙げ、当該相違点は設計的事項である旨判断して、本願発明は、引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。
 他方、本件出願に対する拒絶査定の理由は、引用例には「本願請求項1に係る発明と同様に、カセットハーフの小開口部に挿入されてテープの走行を規制するテープガイド部が、ヘッド取付け台に一体形成されている」との拒絶理由通知書の記載を引用するとともに、「テープガイドの溝幅を磁気テープの幅とほぼ同じ値に設定する点」については周知技術である旨付記して、結論として、本願発明は同法29条2項の規定により特許をすることができないとしたものである。
   そうすると、本件において、審決における審判請求不成立の理由及び拒絶査定の理由は、結局、ともに、本願発明が引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの同一の理由に基づいて特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものであるから、同法159条2項に規定する「審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当しないことは明らかであって、同項において準用する同法50条の規定に基づく拒絶理由通知が必要となるものではないから、上記規定を根拠として手続上の違法をいう原告の主張は理由がない。

キルビー特許の玄孫 発明の同一性と39条の導入

2006-03-16 21:37:37 | 特許法44条(分割)
◆H13. 3.28 東京高裁 平成10(行ケ)82 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法44条

<経緯>
本件特許は、
1. 昭和35年2月6日(優先権主張・1959年(昭和34年)2月6日及び同月12日、アメリカ合衆国)の、特許法(大正10年法律第96号、以下「旧特許法」という。)に基づく出願に係る特願昭35-3745号出願から、昭和39年1月30日に分割出願された特願昭39-4689号出願(以下「本件原出願」という。)から、
2. 更に昭和46年12月21日に分割出願された特願昭46-103280号出願(以下「本件出願」といい、本件出願である分割出願を「本件分割出願」という。)につき、昭和61年11月27日に出願公告がされ、平成元年10月30日に設定登録されたもの
である。
   特許庁は、同請求を平成6年審判第9675号事件として審理した上、「特許第320275号発明の特許を無効とする。」との審決をした。

<原発明と本願発明>
(原発明)
 1主面を有する単一の半導体薄板より成る半導体装置に於いて、
  該薄板に形成され、上記1主面で終るP-n接合に依り画成された少く共1つの領域を含む少く共1つの受動回路素子、
  該受動回路素子との間に必要な絶縁を与えるように、該受動回路素子から離間されて上記薄板に形成され、上記1主面で終るP-n接合に依り画成された少く共1つの領域を含む少く共1つの能動回路素子、
  上記1主面を実質的上全部被覆し接触部のみを露出するように上記領域の少く共2つに対応して設けられた孔を有するシリコンの酸化物より成る絶縁物質、
  該絶縁物質に密接し上記少く共2つの領域間に延び上記孔を通して上記領域を電気的に接続する電気導体とを具備する事を特徴とする半導体装置。

(本願発明)
 複数の回路素子を含み主要な表面及び裏面を有する単一の半導体薄板と;
   上記回路素子のうち上記薄板の外部に接続が必要とされる回路素子に対し電気的に接続された複数の引出線と;
  を有する電子回路用の半導体装置において、
 (a)上記の複数の回路素子は、上記薄板の種々の区域に互に距離的に離間して形成されており、
 (b)上記の複数の回路素子は、上記薄板の上記主要な表面に終る接合により画定されている薄い領域をそれぞれ少くともひとつ含み;
 (c)不活性絶縁物質とその上に被着された複数の回路接続用導電物質とが、上記薄い領域の形成されている上記主要な表面の上に形成されており;
 (d)上記互に距離的に離間した複数の回路素子中の選ばれた薄い領域が、上記不活性絶縁物質上の複数の上記回路接続用導電物質によって電気的に接続され、上記電子回路を達成する為に上記複数の回路素子の間に必要なる電気回路接続がなされており;
 (e)上記電子回路が、上記複数の回路素子及び上記不活性絶縁物質上の上記回路接続用導電物質によって本質的に平面状に配置されている;
  ことを特徴とする半導体装置。


<注目点>
(クレーム解釈1)
 原発明が、本件発明と同様「半導体装置」である以上、何らかの所定の用途を有するものというべきところ、この「半導体装置」につき当該所定の用途を達成するためには、各受動回路素子を構成する領域と各能動回路素子を構成する領域の全部ではなく、そのうちの接続する必要のある領域のみを選択して電気的に接続しなければならないことは技術常識というべきである。

(クレーム解釈2)
 上記所定の機能を有する受動回路素子と能動回路素子の電気的接続によって所定の動作が行われるに至ることが明らかであるから、原発明の「半導体装置」が「電子回路用の半導体装置」であることも技術常識というべきである。そして、所定の用途、すなわち、電子回路を達成するために、接続する必要のある回路素子の領域を選択して電気的に接続されることは上記のとおりであるから、原発明は「電子回路を達成するために複数の回路素子の間に必要な電気回路接続がなされている」ということができるものである。

(クレーム解釈3)
 本件明細書上、「電子回路の能動及び受動成分或いは回路素子は半導体の薄板の一面或いはその近くに形成される」等の本件発明の特徴的な構成の「結果」として、「得られる回路は本質的に平面状に配置される」とされているのであるから、「回路が本質的に平面状に配置される」ことは、他の特定の構成のもたらす結果であって、それ自体が他の技術的事項から独立した本件発明の特徴でないことは明らかである。いい換えれば、本件発明の要件eは、その余の要件についての実質的な重複記載にすぎず、他の要件から区別される別個の技術的事項ではない。したがって、本件発明と原発明との対比に当たって、要件eは、本来、独立に顧慮する必要がないものである。このことは、「平面状配置」を、「平坦な配置」と解しても、原告が主張するように「二次元的な広がりを持った配置」と解しても変わりがない。

(上位概念と下位概念の発明の対比)
 発明は「技術的思想」であるが、これを言語的に表現しようとする場合、その具体的表現形態や用いる概念の上下位のレベルが様々であり得るから、例えば、発明のある要素を上位概念で表現したときと、下位概念で表現したときとでは、それぞれの包含する範囲は完全に同じではないが、下位概念で規定したことに格別の技術的意義がなければ、それぞれの表現するものは1個の同じ発明(技術的思想)である。そして、発明(技術的思想)は、実際には、明細書の特許請求の範囲の記載と、発明の一般的説明及び実施態様ないし実施例とを手掛りとし、発明の目的及び作用効果も考慮して把握されるものであり、特許請求の範囲において異なる表現がされていても、発明の目的、構成、効果の説明及び実施例を通じて把握される技術的思想が同じであれば、作用効果に格段の差異があるような場合は別として、発明としては一つのものしか存在しない。

(審査基準から見た同一性)
    特許庁の審査基準は、発明の同一性の基準に関し、技術的思想が同一である場合を「発明が実質的に同一」としており、これは、上記のように、特許請求の範囲において異なる表現がされていても、把握される発明が一個、かつ、同一である場合に相当する。そして、審査基準は「実質的に同一」に当たる例として、①両発明の構成を表す表現に差異があってもその差異が同一内容を表す単なる表現上の差異にすぎない場合、②両発明の構成の差異が、発明の目的効果に格別の差異を生じさせず、当業者が普通に採用する程度の「単なる構成の変更」である場合、③両発明の構成の差異が自明又は無意味な条件の付加や限定の有無にしかない場合、④両発明の構成の差異が下位概念で記載された構成と、その上位概念で記載された構成の差異に相当し、しかも下位概念で記載された発明が出願時の技術水準で判断して上位概念発明として把握でき、下位概念で記載された点に発明がない場合等を挙げているところ、その②ないし④は、発明の構成要件に、概念の上下位の関係、付加要件の存否等の違いがあって、発明の範囲は完全には重ならないが、それでも発明(技術的思想)が同一であるとされるのである。
    以上のように、技術的思想としての発明が複数(別個)であるかどうかの判断に当たって、発明の範囲が完全に重なるかどうかは決め手とならないのである。特許法の下において、発明の同一性に関し従来から定着してきた判断基準は、発明の「同一」の外に発明の「単一」というような概念を必要としないし、もとより、発明の範囲が完全に重なり合うかどうかによって、発明の同一性を判断するというような考え方は採っていない。そして、旧特許法の規定は、特許請求の範囲に単項で記載された発明が多数の実施態様を含む包括的思想であることを前提とするものであり、その一発明の概念は、少なくとも特許法における一発明の概念より狭いものではない。
    なお、本件発明と原発明とは、それぞれの特許請求の範囲が包含する範囲が大部分重複し、しかも唯一ともいえる実施態様が共通する関係にあり、さらに、発明の目的及び効果の点でも異なるとはいい難いから、両者が技術的思想として区別すべき内容をもった別の発明であるとは到底認められない。

(新審査基準との整合性、39条導入の妥当性)
○ 新審査基準の内容
 特許法44条及び39条は、それぞれ旧特許法9条及び8条に対応する規定であるところ、旧審査基準は、分割出願に係る発明と原出願に係る発明とが同一でないことを特許法44条の分割出願の実体的要件の一つとした上で、その場合の発明の同一性に関する判断を同法39条における発明の同一性の審査基準に従って行うこととしていたが、新審査基準は、「①分割直前の原出願の明細書又は図面に二以上の発明が記載されていること」、「②分割直前の原出願の明細書又は図面に記載された発明の一部を分割出願に係る発明としていること」(要件②は「②-1分割出願に係る発明が分割直前の原出願の明細書又は図面に記載された発明であること」及び「②-2分割直前の原出願の明細書又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと」に分けられる。)並びに「③分割出願の明細書又は図面が、原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含まないこと」を特許法44条の分割出願の実体的要件とし(公告決定謄本送達後の分割出願に固有の要件を除く。)、「原出願の明細書又は図面に発明が一つしか記載されていない場合に分割出願をしようとすれば、必ず原出願の明細書又は図面に記載された発明の全部を出願することになる。したがって、原出願の明細書又は図面に記載された発明の一部を分割出願としたものであれば、原出願の明細書又は図面には二以上の発明が記載されていたことになる」ので、要件②が満たされれば要件①が満たされ、また要件③が満たされれば要件②-1も満たされるから、結局、要件②-2と要件③が満たされれば、実体的要件が満たされるとし、さらに、「分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明とが同一である場合の取扱い」につき、「分割出願が適法であり、分割出願に係る発明と分割後の原出願に係る発明とが同一である場合には、特許法第39条第2項の規定が適用される」としたこと、新審査基準は、上記取扱いの適用対象を平成6年1月1日以降の特許出願に限ることとしていることは、当裁判所に顕著である。
○ 改善多項制導入まで
上記のように、新審査基準が、分割出願に係る発明と原出願に係る発明とが同一でないことを特許法44条の分割出願自体の実体的要件としないこととしたのは、被告主張のとおり、昭和62年法律第27号による特許法の一部改正によって導入された改善多項制に対応する同条の解釈の変更に基づくものと解すべきである。
    すなわち、分割出願の制度は、明細書に記載されている二つ以上の発明のそれぞれを権利とする途を開く目的とともに、二つ以上の発明が同一出願に包含されているときに、そのことに起因して本来拒絶の理由を含まない発明が拒絶の対象となることを防ぐ目的をも併せ有するものであり、特に、旧特許法の下においては、同法の厳格な一発明一出願の原則(7条)の適用による出願人の不利益の救済を図る機能を有していたことは明らかである。そして、前示のとおり、分割出願においては、原出願に係る発明(原出願に係る明細書の特許請求の範囲に記載された発明)と分割出願に係る発明(分割出願に係る明細書の特許請求の範囲に記載された発明)とが同一の発明ではないことが前提となるのであるから、分割出願に係る発明が、原出願に係る発明と同一であることにより、二重特許を防ぐための規定(8条)によって、結局は拒絶されるに至る場合においても、いったんは出願日遡及の利益を付与するものとすることは、上記制度の趣旨及び機能からしても意味のないことであるとともに、出願手続に係る権利関係を複雑化する要因ともなりかねない。単項制の下においては、同一の発明でないかどうかを判断することも通常は容易であって迅速に行い得ることであるから、適法な分割出願として出願日遡及の利益を付与するための要件として、原出願に係る発明と同一でないことが必要であり、旧特許法9条1項の「二以上ノ発明ヲ包含スル特許出願」を「二以上ノ出願ト為」すこととの規定は、このような趣旨をも含むものであって、以上のことは、特許法44条1項の下においても改善多項制の採用に至るまでは同様であったものと解するのが相当である。
○ 改善多項制導入後
 しかしながら、改善多項制の採用により、一発明につき複数の請求項を独立形式で記載することが可能となる(昭和62年法律第27号による改正に係る特許法36条5項)とともに、一個の出願とすることのできる二以上の発明の範囲が拡大された(同改正に係る同法37条)後は、原出願に係る発明と分割出願に係る発明とが同一の発明でないかどうかを判断することが必ずしも容易ないし迅速に行い得なくなったことは明らかである。
    そうすると、上記のとおり、旧特許法9条1項及び特許法44条1項により適法な分割出願であるために分割出願に係る発明と原出願に係る発明とが同一でないことを要件とすべきことの根拠は、同一の発明でないかどうかを判断することが通常は容易であって迅速に行い得ることにあったと解される。ところが、改善多項制が採用されたことにより、分割出願に係る発明と原出願に係る発明とが同一でないことを適法な分割出願の要件とするとその審査に時間と労力とを要しかねないことになったのであるから、出願日遡及の利益を付与することによる権利関係の複雑化を避けるために、改善多項制の下においては、特許法44条1項は分割出願に係る発明と原出願に係る発明とが同一でないことは不要とし、両発明が同一でないかどうかは同法39条において判断されるべき制度になったものと解することができる。すなわち、同法44条1項の「二以上の発明を包含する特許出願の一部」との要件の意義が、上記「①分割直前の原出願の明細書又は図面に二以上の発明が記載されていること」及び「②分割直前の原出願の明細書又は図面に記載された発明の一部を分割出願に係る発明としていること」をその内容とする(具体的には「②-2分割直前の原出願の明細書又は図面に記載された発明の全部を分割出願に係る発明としたものでないこと」及び「③分割出願の明細書又は図面が、原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものを含まないこと」を確認すれば足りる。)ように変容したものと解することが相当である。この場合、同項自体に改正があったわけではないが、全体としての法体系の一部が変わったことにより、それ自体としては改正のない条項の解釈に変化が生ずることもあり得ることである。したがって、新審査基準における分割出願の取扱いが、旧特許法9条1項についての上記解釈に消長を来すものとはいえない。


<感想>
 原出願のクレームに言語的に上位概念で記載された発明と分割出願の言語的に下位概念で記載された発明との同一性の判断を行った判決。上位概念と下位概念の発明の対比のリーディングケースと思われる。
 また、新審査基準における分割出願への39条の判断の導入について、旧特許法9条1項についての上記解釈に消長を来すものとはいえないと判示した点も注目される。
 また、改善多項性下において、特許法44条の同一の要件を判断することが容易である場合は、判断してよいと解釈できるが、そのようにして遡及が否定された場合に裁判所がどのような判断を示すのか注目される。

相違点の容易想到性

2006-03-13 23:17:10 | 特許法29条2項
◆H18. 3. 9 知財高裁 平成17(行ケ)10043 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条2項

<概要>
 原告は、平成4年6月3日に特許出願(特願平5-500902号,優先権主張,1991年〔平成3年〕6月11日,米国)をし、平成13年11月8日、その一部について、発明の名称を「背景ノイズエネルギーレベルを見積もる方法と装置」とする新たな特許出願(特願2001-343016号)をしたが、拒絶査定を受けたので、拒絶査定に対する不服審判を請求した。
 特許庁は、これを不服2003-21309号事件として審理し、平成16年9月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。
 
 特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の要旨は、次のとおり。
  スピーチ信号を表す信号フレームの背景ノイズを推定する方法において、前の信号フレームの背景ノイズ推定値を表すデータを記憶し、
  現在の信号フレームの信号エネルギー(Ef)を測定し、
  現在の信号フレームの測定されたエネルギーと前の信号フレームの背景ノイズ推定値(B)を表すデータとに基づいて現在の信号フレームの背景ノイズ推定値(B’)を計算することを含む方法。


<注目点>
(原告主張1)
 原告は、審決では、「N個のフレームにおけるエネルギーの平均値」の代わりに「測定された現在のフレームのエネルギーそのもの」を用いることを適宜になし得ると判断しているのに、被告がこれと異なる主張をすることは不当であり、許されない。
(判示1)
 本件訴訟において問題となるのは、相違点2に係る本願発明の構成が引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得るとした審決の判断の当否であって、この当否を判断するに当たって、審決の記載に拘束されるものでないことは当然であり、被告も、その範囲で、審決の記載とは異なる主張をすることも許されるものである。したがって、原告の上記主張は、採用の限りでない。
 
(原告主張2)
 現在のフレームのエネルギーを雑音エネルギーの推定値の計算に用いると、引用発明が想定しているような10~20m秒の遅延では時間が足りず、大幅に遅延を招くこともあるところ、当業者において、このような大幅な遅延を招いてまで、現在のフレームのエネルギーをあえて雑音エネルギーの推定値の計算に用いようとは考えない。
(判事2)
 引用発明は、本願発明の構成に対応させて、引用例から抽出され抽象化された技術的思想であって、引用例に記載された具体的な技術ではない。引用例に、「遅延手段200にはBBD(バケット・ブリゲード・デバイス)を用いて10~20msecの遅延時間を得」との記載があるとしても、本件の引用発明として着目されているのは、現在フレームを含むとは限らないM個のフレームを観測し,このM個のフレームの中からエネルギーが最も小さいものから順にN個のフレームのエネルギーデータを得るとともに、「すでに得られている雑音エネルギーの推定値Ni’(編注;Nとiの間に「Λあり)」を記憶し、これらを基礎として、「新しい雑音エネルギーの推定値Ni(編注;Nとiの間に「Λ」あり)」を得るという技術であって、少なくともこの技術に関する限り、引用発明は遅延時間の多寡とは直接関係がない。

<感想>
 判事2のように明確に言い切った判事は珍しい。一見すると、今までにない新しい判事のようにも見えるが、しかし、同じ引用例を用いることを前提とした判事であり、相違点を誤らず、同じ引用文献を用いる限りは、異なる理由で説明しても差し支えないという、従来の裁判所の判例の延長上にある判事であると思う。

カラオケ用のビデオ記録媒体(城ヶ島事件?)

2006-03-11 09:13:18 | 特許法29条柱書
◆H11. 5.26 東京高裁 平成09(行ケ)206 特許権 行政訴訟事件

<概略>
 特許出願(特願昭57-40901号)を原出願とする分割出願として、平成2年11月30日、名称を「ビデオ記録媒体」とする発明につき、特許出願をした(特願平2-330750号)が、平成8年5月21日に拒絶査定を受けた。
 審判請求をしたが、平成8年審判第15456号事件として審理され、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされた。

(請求項の記載)
 歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲の歌詞となる文字情報および映像情報とが記録されたビデオ記録媒体において、前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴なった歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録したことを特徴とするビデオ記録媒体。


<争点>
 本願発明のビデオ記録媒体による情報の提示が、情報の単なる提示に当たるかどうかが争われた。

 特許庁における「特許・実用新案」に関する審査基準である本件基準(平成5年7月20日発行、審判甲第2号証、本訴甲第7号証)において、「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型として、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」は、「技術的思想」でないことから当該「発明」に該当しないが、「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など〉に技術的特徴があるもの」は、当該「発明に該当する旨が開示されており、本願発明が産業上利用することができる発明に該当するか否かを検討する際にも、この基準に開示された考え方が基本的に適用されるべきことに、当事者間に争いがなかった。
 審査基準によると、情報の単なる提示(単なる情報の提示ではない!)は、発明ではないとされる。


<「当裁判所の判断」より>
(審査基準の妥当性)<
 特許法2条に定義される発明とは、その定義からも明らかなように、「技術的思想であること」をその要件の1つとするものであるが、この要件に示された「技術」については、「技術は一定の目的を達成するための具体的手段であって実際に利用できるもので、技能とは異なって他人に伝達できる客観性を持つものである」(最高裁判所昭和52年10月13日第1小法廷判決・判例タイムス335号265頁)ことが必要とされるものと認められるところ、この観点からみて、本件基準が、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」を、「技術的思想」でないことから「産業上利用することができる発明」に該当しないものとし、「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるもの」を、当該「発明」に該当する旨を開示したことは、いずれも相当と認められる。

(基準適用時の留意点)
○ 特許請求の範囲に記載された構成から把握できるものから判断
 この発明における技術的特徴は、特許法36条5項「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」(昭和60年法律第41号による改正前のもの)の規定の趣旨から見て、特許請求の範囲に記載された構成から把握できるものでなければならない。また、この本件基準に開示された考え方は、従前からの発明の成立性に関する客観的理解を具体的に明記したものと解されるから、当事者間に争いがないとおり、上記基準の発行前に出願された本願発明が産業上利用することができる発明に該当するか否かを検討する際にも、当然適用されるべきものと認められる。
○ 「提示」とは
 一般的に「提示」とは、文理上、「提出して示すこと」、あるいは「差し出して見せること」と解釈されるから、情報記録媒体における情報の「提示」とは、記録媒体に、当該情報を特定の手段や方法を用いて記録し、記録された態様の性質に応じて、人の五感に対して情報に起因する結果を提供することと解される。そうすると、記録媒体における「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるもの」とは、情報の記録の仕方それ自体や、記録手段及び記録方法等に技術的特徴があることから、その結果として、提供された情報にその特徴が反映されたものといわなければならない。

(本件の提示について)
要旨の後段では、「前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴なった歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録したことを特徴とする」ものとされており、これによれば、歌うべき曲の歌詞である文字情報に基づく文字について、一定の色を付すことを前提として、伴奏となる音声情報の進行、すなわち時間の経過に伴い、色調変化器によって、この文字の色を、順次、異なる色に着色せしめて記録したことを特徴とするものと認められ、この記録媒体を表示装置において再生した場合には、歌唱者に対して、伴奏となる音声情報の進行に伴って、歌うべき文字の色が、順次、異なって表示されていくという結果を提供するものである。このように歌うべき歌詞を文字として記録するようにし、しかも、その文字のうち現に歌うべき文字を他の文字と区別できるように色を変化させて記録するという構成を採用し、これに相当する結果を提供する以上、本願発明は、文字に関する「情報の提示」に技術的特徴を有するものといわなければならない。

(「記録」や「ビデオ記録媒体」へ技術的な影響を与えていないとの被告主張に対し)
 被告は、本願明細書における、・・・この最終的な混合情報が記録再生装置7のビデオ記録媒体に記録されているとの記載を参照すれば、・・・情報を提示する「記録」や「ビデオ記録媒体」へ技術的な影響を与えるものではなく、記録する情報の内容を、音声情報と文字情報の色との関係で更に特定したものであって、「情報」についての内容を具体的に記載したものとみるべきであると主張する。
 本願発明は、従来のカラオケ装置において、歌い始めのタイミングがずれたり、伴奏に対する歌詞の箇所が判らないという状況が生じたことから、歌詞を見ずとも歌うことができ、伴奏とのタイミングがずれたとしても歌うべき個所がすぐに判るビデオ記録媒体を提供することを技術課題としており、その解決のための実施例として、映像情報と文字情報及び歌の進行に伴い着色された文字情報とが混合され、これに対し音声情報が更に混合されて記録される旨が記載されているものと認められる。
 しかし、これらの混合されて記録されたものが、情報の1態様である旨は記載されておらず、しかも、上記の記載はいずれも本願発明の要旨に基づく1実施例の説明にすぎないところ、本願発明の要旨においては、前示のとおり、「文字情報のうち前記音声情報の進行に伴った歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録した」とされており、特許請求の範囲において文字情報に関する記録の仕方、すなわち、情報の提示の仕方を明確に規定し、これを発明の特徴と明記しているのであって、単なる情報の内容を記載したものではないから、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」を行うものではないことは明らかであり、被告の上記主張を採用する余地はない。

(記録自体に何ら特徴はないという被告主張に対し)
 被告は、・・・ビデオ記録媒体に記録するときには、既に順次置き換えられた文字情報を単に記録しているだけであるから、この記録状態は、通常の文字入りビデオ映像を通常どおり記録することと変わりないものであり、これらによって、情報を提示する「記録」や「ビデオ記録媒体」を技術的・具体的に記載しているとはいえないから、本願発明の情報の提示に技術的特徴があるといえないと主張する。
 たしかに、・・・、順次異なる色に置き換えられた文字情報を記録する状態は、通常の文字入りビデオ映像を記録する場合と異なるものではないと推測されるが、本願発明の技術的特徴は、前示のとおり、音声情報の進行に伴い歌うべき文字の色を異なる色に着色して記録する点にあり、その記録の状態に特徴を有するものではなく、また、異なる色に着色して記録することが具体的でないともいえないから、被告の上記主張は失当というほかない。


<感想>
 請求項には、ビデオ記録媒体の再生時の動作については何ら記載されておらず、記載のある限度で技術常識を働かせても、再生時の動作については不明瞭であるというしかない。審決は、まず、特許法36条の記載要件を問題とすべきところ、それを問題とせず、請求項の記載を超えた、発明の詳細な説明を参照することを許した点で問題である。
 請求項の記載を超えた発明の詳細な説明の参照を指摘して許さなければ、成立性はむしろ否定された可能性が高いと思う。


 




数学的課題の解析方法

2006-03-05 20:36:08 | 特許法29条柱書
◆H16.12.21 東京高裁 平成16(行ケ)188 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条1項柱書

<概要>
(1) 発明の名称を「連立方程式解法」とする発明について、特許出願をしたが、平成12年12月19日付けで拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は審理した上、本願発明が、特許法上の「発明」に該当せず、特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしていないとしたものであるとの審決をした
(2) 平成10年11月24日付け手続補正後の本願の請求項1記載の発明の要旨は、以下のとおりである。
  【請求項1】回路の特性を表す非線形連立方程式を、BDF法を用いて該非線形連立方程式をもとに構成されたホモトピー方程式が描く非線形な解曲線を追跡することにより数値解析する回路のシミュレーション方法において、BDF法を用いた前記解曲線の追跡における解曲線上のj+1(jは整数)番目の数値解を求めるステップは、予測子と修正子とのなす角度φj+1を算出し、この角度φj+1が所定値より大きいか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて、前記角度φj+1が所定値より大きいと判断された場合には、前記解曲線の追跡の数値解析ステップのj+1番目の数値解を求めるステップをより小さな数値解析ステップ幅によって再実行し、j+1番目の数値解を新たに求め直すステップと、を含むことを特徴とする回路のシミュレーション方法。」

<判示事項>
○ 前提
 特許法2条1項には、「この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定され、同法29条1項柱書には、「産業上利用することができる発明をしたものは、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。」と規定されている。したがって、特許出願に係る発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」でないときは、その発明は特許法29条1項柱書に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができない。 そして、数学的課題の解析方法自体や数学的な計算手順を示したにすぎないものは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するものでないことが明らかである。
○ 判示1
 本願発明の処理対象とされる「回路の数学モデル」について、特許請求の範囲には、「回路の特性を表す非線形連立方程式」と記載されるのみであって、回路の特性を物理法則に基づいて非線形連立方程式として定式化するという以上に、当該非線形連立方程式が現実の回路を構成する各素子の電気特性をどのように反映するものであるかは全く示されておらず、しかも、定式化されたモデルは数学上の非線形連立方程式そのものであるから、このような「回路の特性を表す非線形連立方程式」を解析の対象としたことにより、本願発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」となるものでないことは明らかである。
○ 判示2
 本願発明において、現実の回路の物理的特性は非線形連立方程式に反映されるだけであって、その解析には何ら利用されないものであり、創作自体はあくまで、ホモトピー方程式を構成し、BDF法を用いて追跡することに向けられており、一旦非線形連立方程式の形になってしまえば、その解法は数学の領域に移行し、数学的な処理により解析が行われるにすぎないものといえる。そして、原告主張のように、ホモトピー方程式の解曲線を追跡することやBDF法自体が、非線形な特性曲線を呈する回路の動作特性を解析する有効な方法の一つとして、当業者に知られているからといって、そのプロセスが数学的な解析処理にすぎないことが否定されるものでもない。
○ 判示3
 本願発明の目的は、BDF法を用いてホモトピー方程式が描く非線形な解曲線を数値解析する際に疑似解収束現象や非収束現象が生ずるという問題を解決することにあるというべきところ、それは、数学的手法を用いて解曲線を解析する際に適切な解が得られないという問題を解決しようとすることにほかならないから、本願発明に技術的な課題があるとはいえない。
○ 判示4
 本願発明を回路のシュミレーションとして用いることにより原告の主張の効果を達成できるとしても、この効果は、非線形連立方程式の解曲線をBDF法を用いて数学的に解析した結果に基づくものであって、数学的な解が得られたことにより達成されるものであるが、本願発明は、前示のとおり、このような数学的な解析手段を提供しようとするに止まるものであるから、上記の効果は、本願発明自体が有する効果ということはできず、原告の上記主張には理由がない。

未完成発明

2006-03-05 19:55:08 | 特許法29条柱書

◆H17. 1.18 東京高裁 平成15(行ケ)166 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条1項柱書

<判事事項>
 本件明細書においては、本件臨床試験結果が記載されてはいるものの、①本件臨床試験が実際にされたこと、②本件臨床試験に使用された薬剤が、真実上記(1-3)(c)に記載された外用軟膏剤及び外用クリーム剤であったこと、並びに③本件臨床試験の結果が本件明細書に正確に記載されていることを認めるに足りる証拠はないというほかなく、また、本件臨床試験以外のものについて被告が主張する諸点を検討しても、本件薬剤に治療効果があることを認めるに足りる証拠はない。 そうすると、本件発明の技術内容(技術手段)によってその目的とする技術効果を挙げることができるものであることを推認することはできないのであるから、本件発明とされるものは、発明として未完成であり、特許法29条1項柱書きにいう「発明」に当たらず、特許を受けることができないものというべきである

(感想)
 未完成発明との結論に至るのは、大変珍しいと思う。


クレームの解釈と数値限定の進歩性判断

2006-03-04 20:40:37 | 特許法29条2項
◆H17. 2.17 東京高裁 平成16(行ケ)83 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条2項

<争点1>
 審決は、本件記録紙を「インクを用いない記録ペンすなわち尖針などで印字(尖針による引掻き記録)できる『記録紙』」と認定したが、そのように限定する根拠はないか

<判示1>
 本件記録紙において、本件隠蔽層の隠蔽性の低減は、本件隠蔽層の水性ポリマー粒子の中空孔などに起因する微細孔の光散乱を低減させることにより行われるものであるから、記録エネルギーを作用させる手段は、「インクを用いない記録ペンすなわち尖針など」に限定されるものではなく、微細孔における光散乱を所定程度に低減させることができるように調整したものであれば、他の記録エネルギーを作用させる手段、例えば、このような微細孔における光散乱に起因する隠蔽層を有する記録紙に慣用されている「タイプライター」(引用例〔甲24〕3欄第2段落)等によっても可能であることは明らかである。
そうすると、本件明細書(甲1)の特許請求の範囲【請求項1】の記載から、本件記録紙の記録方法については、上記のとおり「本件隠蔽層の隠蔽性を所定程度以下に低減させられ得るものであれば足りる」ものであることが、これに接する当業者において一義的に明確に理解できるものであるというべきところ、一見してその記載が誤記であることが本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどのリパーゼ事件最高裁判決のいう特段の事情は認められない。

<追加的判示事項>
数値限定発明の同一性の判断に当たっては、数値限定の技術的意義を考慮し、数値限定に臨界的意義が存することにより当該発明が先行発明に比して格別の優れた作用効果を奏するものであるときは、同一性が否定されるから、上記数値限定によって先願発明との同一性が否定されると判断するには、その前提として、本件発明1の数値範囲が臨界的意義を有するものであるか否かを検討する必要があるというべきである。しかしながら、審決は、本件発明1の上記①、②の数値範囲の臨界的意義を何ら検討していない。

選択発明の進歩性

2006-03-04 20:29:36 | 特許法29条2項
◆H18. 1.25 知財高裁 平成17(行ケ)10438 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条2項

<争点>
 審査基準によれば、選択発明の要件は、①刊行物に記載されていない有利な効果であって刊行物において上位概念で示された発明が有する効果とは異質なものを有し、②これが技術水準から当業者が予測できたものでないとき、又は同質であるが際だって優れたものを有し、③これが技術水準から当業者が予測できたものでないことである。
 審決は、「引用文献1(判決注;引用例1)に記載されたヒアルロン酸以外のムコ多糖類であるコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヘパリンの中からヒアルロン酸と併用して最も効果のあるものを選択することは、当業者であれば容易になし得る程度のことである」(審決4頁第1段落)と認定したが、これが誤りであるかどうか。

<判示事項>
 特許庁の審査基準によれば、選択発明とは、物の構造に基づく効果の予測が困難な技術分野に属する発明で、刊行物において上位概念で表現された発明又は事実上若しくは形式上の選択肢で表現された発明から、その上位概念に包含される下位概念で表現された発明又は当該選択肢の一部を発明を特定するための事項と仮定したときの発明を選択したものであって、前者の発明により新規性が否定されない発明をいい、刊行物において上位概念で示された発明が有する効果とは異質な効果、又は同質であるが際だって優れた効果を有し、これらが技術水準から当業者が予測できたものでないときは進歩性を有するとされる。 しかし、本願発明1は格別顕著な効果を奏するものであるということはできないことは上記のとおりであり、原告の引用する特許庁の審査基準によっても、本願発明1がいわゆる選択発明として進歩性を有するということはできない。

先願の公開前に特許査定された本願に特許法29条の2の適用はあるか

2006-03-04 19:36:32 | 特許法29条の2

◆H18. 1.25 知財高裁 平成17(行ケ)10437 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条の2

<概要> 
 事実関係が、①先願発明の特許出願、②本件発明の特許出願、③本件発明についての特許査定、④先願発明につき出願公開、⑤本件特許の設定登録という順序でされた場合、本願発明と同一の先願発明で特許法29条の2を理由として無効とすることはできるか。

<争点>
○ 審査において拒絶理由が存在しないことを判断する時期は査定時であり、設定登録日ではなく、また、審判制度において判断されるべきは、査定の是非であり、設定登録の是非でないか
○ 本件発明が、査定時において特許法29条の2の適用要件を満たすものではなく、特許査定がなされた後、後発的に特許法29条の2に該当することとなった発明に該当する場合、特許法123条1項2号は,査定時に,「その特許が…第29条の2,…の規定に違反してされたとき。」に無効審判を請求することができることを規定するのみであり、「特許がされた後において、その特許が29条の2の規定に違反することになったとき」に無効審判を請求できること(後発的無効理由)を規定するものではないから、それによっては特許を無効とすることはできないか、

<判示事項> 
 特許法(以下,単に「法」ともいう。)29条の2における「出願公開」という要件は、後願の出願後(当該特許出願後)に先願(当該特許出願の日前の他の特許出願)についての「出願公開」がされれば足りるのであり、後願の査定時に未だ先願の出願公開がされていない場合には、担当の審査官が先願の存在をたまたま知り得たとしても,その時点で査定をする限り、特許査定をしなければならないが、その後にその先願の出願公開がされたときは、法29条の2所定の「出願公開」の要件を満たし、法123条1項2号に該当するものとして特許無効審判を請求することができるものと解するのが相当。
 (その根拠)
 (a) 法29条の2は、その文言解釈上、先願の出願公開時期につき、「当該特許出願後」(後願の出願後)ということ以外に何ら限定していない。
 (b) 法29条の2で特許しない趣旨は、後願である当該特許出願は、先願について出願公開がされなかった例外的な場合を除き、社会に対して何ら新しい技術を提供するものではない
  (c) 実質的に考えても上記のように解釈するのが相当。 仮に、後願(当該特許出願)についての特許査定時までに先願の出願公開がされていない場合には、その後にその出願公開がされたとしても法29条の2の適用の余地はないと解するならば、不当な結果となる。 そもそも、特許査定の時期は、審査請求をどの時点でするか、審査手続がどのように進行するかなど、個別事案ごとに種々の要素に左右されるものであり、出願公開の時期も、出願人が出願公開の請求をどの時点でするか、法64条1項前段の出願公開についても事務手続がどのように進むかなど、これも個別事案ごとに種々の要素に左右されるものであり、両者の先後関係は、多分に偶然の要素に左右されることは、制度上自明のことである。このような偶然の要素によって特許要件の充足性を左右させることは、特許制度を不安定かつ予測困難なものとするものであって、特許法の予定するものでないと解される。また、そのような不安定かつ予測困難な制度として運用するならば、先願者の防衛的な観点からの手続を誘発することにもなり、法29条の2の企図するところとも背馳することになる。
 (d) 従前の特許法の解説書の記載には、先願の公開が既にされていることを前提に特許の拒絶査定を論じるかのように読めないではないものも存在する。しかし、それは、早期審査制度の運用が開始される前においては、後願の査定時期が先願の公開時期を追い抜く事態を想定し難かったために、先願の公開がされた後に後願の査定時期を迎えるという典型的な事例を念頭において記載されているからにすぎず、後願の査定時までに先願が公開されていなければ、もはや法29条の2の適用の余地はなくなるということを意識的に論じた趣旨であるとは解し得ない。 また、原告は、法123条なども引き合いに出して主張するが、法29条の2を前判示のように解する妨げとなるものではない(後願の特許査定がされた後に先願の出願公開がされた事例であっても、後願の特許査定時には、既に先願が存在しており、それは一部の例外を除きすべて公開されるものであるから、特許要件を欠く原因の本質的部分は存在していたものともいえるのであって、特許査定後に全く新たに発生するような後発的無効事由と同一に論じることは相当ではない。また、法39条1項の事例をも考察するならば、法123条1項2号が特許査定後の事情が付加された無効事由を一切排除するものとは解し難い。)。
  (e) ちなみに、平成10年11月「工業所有権審議会企画小委員会報告書~プロパテント政策の一層の深化に向けて~」(中山信弘委員長。特許庁ホームページにて公開されている。)の「【4】申請による早期出願公開制度の導入」という項では、早期審査に付された後願の特許査定後に、先願の出願公開がされるという本件と同じ事案について、法29条の2による特許取消事由が成り立つことを前提に、異議申立期間満了前に先願の早期公開を可能とすることの必要性が報告されており、法29条の2についての前判示の解釈と同旨のものと解される。
 (f) 本件と同様、先願発明の特許出願、後願発明の特許出願、後願発明についての特許査定、先願発明につき出願公開、後願発明の特許の設定登録という時系列的な流れをたどった事案において、異議が申し立てられ(異議2001-73432号)、特許庁は、法29条の2に違反してされたものとして上記特許を取り消す決定をし(平成15年2月6日付け決定)、その決定取消訴訟においても、先願の公開時期については特段問題とされることなく、東京高裁判決により取消決定が維持され、確定したものがある(東京高裁平成16年12月9日判決・同平成15年(行ケ)第107号事件)。

(感想)
 早期審査制度(特許庁の運用による)によって、公開前に審査が行われるようになったために、生じた疑義に裁判所の判断が示された。個人的には、公開前審査は、(1)出願順序あるいは審査請求順序をくずし、(2)出願人の個別の事情によって早く審査を行う不透明性、(3)前述のような法制度の不備から特許を得やすいこと、から早期審査制度を利用する出願人を不合理に優遇するものであると考える。むしろ、その他の出願人が審査が遅れることを了承する場合に、料金を割り引くなどの方法をとるべきではないか。


補正の基準と引用例の認定

2006-03-04 19:12:50 | 特許法29条の2
◆H18. 2.14 知財高裁 平成17(行ケ)10207 特許権 行政訴訟事件
条文:特許法29条の2

<概要>
 平成12年2月10日に設定登録された特許に対して、平成15年8月7日,本件特許の請求項1ないし3項について無効とするとの審判が請求された。特許庁は,これを無効2003-35327号事件として審理した結果,平成16年6月25日,「特許第3031856号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。特許第3031856号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をしたが、審決取消し訴訟が提起された。

<争点>
 周知技術であることが直ちに開示があることにつながるとした審決の判断は違法であり、明細書中に開示があるか否かを判断するときには、明細書の補正に関する審査基準と同様に判断すべきであるかどうか。

<判示事項>
 原告が指摘する審査基準は、明細書等の補正に関する運用上の考え方を示したものであって、第1先願発明の技術内容をどのように理解するかということとは直接関係しない。
 また、審決は、単に周知技術であることが、直ちに先願明細書1にインバータの開示があることにつながると判断したものでない。

(感想)
 原告指摘の点は確かに混同しやすいポイントである。個人的には、次のように考える。
 (1)本願または引用例の明細書の記載事項を確定する際には、明細書の記載に接した当業者がどこまでの技術的事項が記載されていると認識(A)するか、かが基準であるが、(2)補正できる範囲は、明細書に記載されているに等しい事項(B)であるかどうか、かが基準である。
 そうすると、ある記載から周知のα技術もβ技術(その他のいくつかの常套手段)も利用できるというときに違いが出る。例えば、引用例の認定であれば、α技術も、β技術も認定できるということになるが、本願明細書の補正の際には、α技術だけ、β技術だけに限定して補正することはできない(なぜなら、その技術だけ限定して使うという技術思想は記載されていないから。)。
 たぶん、こういう理解が正しいのだと思う。