知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

物の発明としての同一性の判断

2011-11-27 23:06:50 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10047
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

審決は,本件発明1と甲1発明との技術的思想の相違や,甲1に具体的な鉄損値の記載がないことを指摘するが,本件発明1の解決課題と甲1に記載された課題が異なることや,甲1に発明の効果に関する具体的な数値の記載がないことは,物の発明としての同一性の判断に影響を及ぼすものとはいえない

課題を解決するための手段が一切記載されていないとされた事例

2011-11-20 10:40:11 | 特許法36条6項
事件番号 平成23(行ケ)10097
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 請求項1は,
「歯科治療を行う時上下顎の石膏模型や義歯等を咬合器にマウントしなければいけませんが,其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」
というもの
であるが,その文言や内容に照らすと,「歯科治療を行う時上下顎の石膏模型や義歯等を咬合器にマウントしなければいけませんが,」の部分は,「手早く調整すること」がいかなる場面で行われるかという前提事項を説明したものと解される。また,「其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」の部分も,上記1で認定した,「時間と精密度を大きく改善出来る」や「下顎位を変えたいときなど手短に行なうことが出来る」などの記載と同趣旨であって,本願明細書に記載された発明の効果に対応する記載であると解される。
 そうすると,請求項1には,前提事項と発明の効果に対応する記載がされるのみで,いかなる装置又は方法によって「手早く調整すること」を実現するか,すなわち課題を解決するための手段が一切記載されていないことになるから,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない
 また、,請求項1の「…手早く調整すること。」という記載からは,請求項1に記載された発明が方法の発明であるのか物の発明であるのかも明らかではない。
 ・・・請求項1の記載は,特許を受けようとする発明が明確でなく,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない・・・。

原告は,本願明細書及び図面の記載を考慮すれば,請求項1の「其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」の部分は,本願図面の【図2】にあるような装置を用いて歯牙模型をマウンティングプレートに付着させる構成を指すことが理解できる旨主張する。
 しかしながら,請求項1の「其のとき上下,左右,前後の位置,又咬合平面の角度を手早く調整すること。」の部分は,上記2で説示したように,発明の効果に対応する記載と解されるのであって,本願明細書及び図面の記載を参酌したとしても,上記部分が原告主張の具体的な構成を指すものとは認め難い

各成分の組合せや含有量を「一体として」技術的意義を問題とすべき場合

2011-11-18 22:25:41 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10100
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 八木貴美子

 ・・・被告は,引用例の記載を総合すれば,審決の認定した引用発明が記載されているといえる,引用例記載の高張力合金化亜鉛めっき鋼板は,Mn等の元素を一定の数値範囲で含有する高張力鋼板に適用されるものであって,実施例に番号1ないし6の鋼が記載されているが,それが適用範囲の全てではないとして,審決の引用発明の認定に誤りはない旨主張する。
しかし,被告の主張は失当である。
 被告の上記主張は,引用例において鋼を組成する成分(元素)の含有量の数値が記載されていれば,当該記載された数値範囲の含有量の成分を有する発明が総合的に開示されているとの理解を前提とするものである。

 しかし,上記(1) のとおり,引用例記載の発明の課題は,鋼の特性を利用して解決されるものであるところ,引用例には,1つの鋼を組成する成分の組合せ及び含有量が,一体として,鋼の特性を決定する上で重要な技術的意義を有することが示されているから,各成分の組合せや含有量を「一体として」の技術的意義を問題とすることなく,記載された含有量の個々の数値範囲の記載を組み合わせて発明の内容を理解することは,適切を欠く

 ・・・
 ・・・本願発明と引用発明は,いずれも鋼板等を組成する成分(元素)の組合せ,含有量(含有する質量割合)が「一体として」重要な技術的意義を有する発明であるといえる。上記のとおり,本件においては,本願発明と引用発明とは,組成成分の含有量(含有する質量割合)の組合せが,鋼の特性に影響を与える重要な構成であることに鑑みると,組成成分の含有量に異なる部分があることを考慮することなく,一部が重複していることのみを理由として,相違点の認定から除外することは許されないというべきである。


<原告引用判決>
事件番号  平成14(行ケ)119
裁判年月日 平成15年05月30日
裁判所名 東京高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美  
「数値限定発明である本件発明の新規性の判断に当たっては,数値限定の技術的意義を考慮し,数値限定に臨界的意義が存することにより当該発明が先行発明に比して格別の優れた作用効果を奏するものであるときは,新規性が肯定されるから,このような観点から,本件発明の数値範囲が臨界的意義を有するものであるか否かを検討する必要があるというべきところ,本件決定は,本件発明の数値範囲の臨界的意義を何ら検討していないことが,その記載自体から明らかである。」

著作権侵害の意図と損害賠償

2011-11-18 22:03:42 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10020
事件名 損害賠償等・同反訴請求控訴事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 「著作権侵害及び損害賠償の対象ではない」との主張について
(1) 控訴人は,被控訴人が本件写真の著作権を有することを知らないか,又は本件写真の芸術的若しくは商業的価値を認めていないから,無許可で使用しても著作権侵害の意図がなく,損害賠償責任を負わないと主張する。

 しかし,著作権侵害につき不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するためには,行為者に自己の行為が他人の著作権を侵害するものであることにつき故意又は過失があれば足り,また,故意又は過失が認められるためには対象となる著作物が他人の著作物であることを認識し又は認識し得れば十分であって,著作権の帰属に関する行為者の認識の有無,行為者が著作権侵害の意図を有していたか否か,さらには対象となる著作物に対して行為者が芸術的若しくは商業的価値を認めていたか否かは不法行為が成立するための要件ではない。

特許法29条1項3号所定の刊行物

2011-11-17 23:09:28 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10189
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

ウ 取消事由3(引用例には引用文献適格性がないこと)について
原告は,
① 刑事事件において裁判所が引用例(乙1)の内容をでたらめと判断し,これを刊行物として認めなかったこと,
② A教授が,引用例の内容をでたらめと判断したこと,
③ 引用例が絶版となったことの3点を根拠に,引用例は引用刊行物として妥当でない
と主張
する。

 しかし,仮に刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断し,あるいはA教授が引用例の内容をでたらめと判断し,さらには引用例とされた刊行物が絶版になった事実が認められたとしても,当該刊行物が出版されたという事実自体が消滅するものではなく,引用例は特許法29条1項3号所定の「特許出願前に日本国内・・・において,頒布された刊行物」に該当する

 したがって,引用例が引用刊行物としての適格性を欠く旨の原告の主張は採用することができない。

請求項の用語が誤記であると認められなかった事例

2011-11-17 23:04:29 | 特許法70条
事件番号 平成23(行ケ)10189
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ 上記記載によれば,本願発明は,塩化マグネシウムを利用することで,牛,鶏,豚等の生物の細胞を活性化する方法に関する発明であると認められる。なお,原告は,本願発明における「食品」は「飼料」の誤りである旨主張するが,特許請求の範囲に「食品」と記載されていることから,明白な誤記であるとまでいうことはできないので,上記主張は認めることはできず,いずれにしても,この点が本件訴訟の結論に影響を及ぼすものではない。

固定カメラで撮影したライブ映像の著作物性

2011-11-17 22:55:12 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)31190
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大須賀滋

(1) 著作物3の著作物性(創作性)について
ア 前提となる事実に加え,証拠(甲10,15)及び弁論の全趣旨によると,著作物3は,「THE MACKSHOW」の活動初期のライブの映像を収録したDVDであり,
 Yの発意・方針に基づき,関係者への配布を目的として製作されたこと,
 映像は,ライブハウスに設置された固定カメラにより撮影されているが,同カメラは,ステージ全体を捉えることのきる位置及び角度に設置されており,ステージ全体を正面から撮影したり,ステージ上の人物の移動に合わせて左右に角度を変えて撮影したり,望遠によりステージ上の人物を中心に撮影することができるものであること,
 著作物3は,上記バンドがライブにおいて楽曲を演奏する様子を撮影したライブ全体の映像で構成され,ライブの進行に応じて,ステージ全体を正面から撮影したり,特定のメンバーを中心に撮影したり,メンバーのステージ上の移動に伴いカメラの角度を変えて撮影するなどした映像から成っていること,
 著作物3の映像には,ライブの臨場感を損なわないため,特段の編集作業を施していないこと
がそれぞれ認められる。

 したがって,著作物3の映像は,上記バンドのライブにおける演奏の様子が記録され,カメラワークや編集方針により,ライブ全体の流れやその臨場感が忠実に表現されたものとなっており,著作者であるYの個性が現れているということができるから,著作物性(創作性)を認めるのが相当である。

イ 被告は,著作物3のカメラワーク等から,その著作物性(創作性)を争うが,上記のとおり,著作物3は,ライブの進行に応じた撮影を行っていることからすると,著作者の個性が表現されているということができる。
 したがって,被告の上記主張を採用することはできない。

特許を受ける権利の確認を求める利益の有無

2011-11-16 23:35:32 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)2863
事件名 特許を受ける権利の確認等請求事件
裁判年月日 平成23年10月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 岡本岳

1 争点(1)(確認の利益の有無)について
(1) 本件訴え1
ア 発明者は,発明をすることによって,特許を受ける権利を取得し(特許法29条1項),特許権を取得すれば,業として特許発明の実施をする権利を専有することができ(同法68条),また,特許を受ける権利は,移転することができ(同法33条1項),独立した権利として譲渡性も認められている。したがって,特許を受ける権利は,発明の完成と同時に発生する,それ自体が一つの独立した財産的価値を有する権利ということがきるから,その帰属について争いがある場合には,当該権利の帰属を主張する当事者の一方は,これを争う他方当事者を相手方として,裁判所に対し,自己に特許を受ける権利が存することの確認を求めることができると解するのが相当である。

 これを本件についてみるに,原告は,被告IHIらが出願した本件各発明について,自己に特許を受ける権利が帰属すると主張し,被告IHIらはこれを争っているから,原告と被告IHIらとの間には,本件各発明に関する特許を受ける権利の帰属について争いがあり,原告が自己に帰属すると主張する本件各発明の特許を受ける権利について,不安や危険が現存すると認めることができる。そして,本件訴え1によって,原告が本件各発明の特許を受ける権利を有することを確認できれば,原告と被告IHIらとの間の本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる
 また,冒認出願は,特許法39条1項から4項までの規定の適用については特許出願でないものとみなされ(同条6項),後願排除力(同条1項)を有しないものとされており,真の権利者は,その意に反して発明が新規性を失った日,すなわち冒認出願につき出願公開がされた日から6か月以内に特許出願をすれば,例外的にその発明が新規性を喪失しないものと扱われ(同法30条2項),特許権を取得することができる。現に,原告は同項の適用を前提として本件各原告出願を行っており,本件訴訟で原告が勝訴すれば,原告はその審査の過程で当該勝訴判決を一資料として特許庁に提出することができる
 他方,本件のような事案において,特許を受ける権利それ自体について移転請求を認める規定は現行法上存在しないから,原告は,被告IHIらに対し,上記権利の移転を求める給付の訴えを提起することはできないと解される。
 
 以上に検討したところによれば,本件訴え1によって,本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる一方,特許を受ける権利それ自体について給付の訴えを提起することはできないのであるから,本件訴え1には確認の利益が認められるというべきである。
・・・
(イ) また,被告IHIらは,本件各発明の発明者が原告であるか否かは,本件各原告出願の審査において,第一次的には特許庁が新規性,進歩性等の要件を備えているか否かと併せて判断すべき問題であるから,かかる意味においても訴えの利益が認められないとも主張する。
 しかしながら,・・・特許庁の審査官又は審判官が第一次的に判断するものとしていることは,被告IHIらが指摘するとおりであるとしても,最高裁平成13年6月12日判決判示するように,権利の帰属自体は必ずしも技術に関する専門的知識経験を有していなくても判断し得る事項であって,本件訴え1は,正に権利の帰属の争いであるから,被告IHIらの指摘は本件には当たらないというべきである。したがって,被告IHIらの上記主張も採用することができない。

特許を受ける権利の確認を求める利益の有無

2011-11-16 23:25:26 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)2863
事件名 特許を受ける権利の確認等請求事件
裁判年月日 平成23年10月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 岡本岳

1 争点(1)(確認の利益の有無)について
(1) 本件訴え1
ア 発明者は,発明をすることによって,特許を受ける権利を取得し(特許法29条1項),特許権を取得すれば,業として特許発明の実施をする権利を専有することができ(同法68条),また,特許を受ける権利は,移転することができ(同法33条1項),独立した権利として譲渡性も認められている。したがって,特許を受ける権利は,発明の完成と同時に発生する,それ自体が一つの独立した財産的価値を有する権利ということがきるから,その帰属について争いがある場合には,当該権利の帰属を主張する当事者の一方は,これを争う他方当事者を相手方として,裁判所に対し,自己に特許を受ける権利が存することの確認を求めることができると解するのが相当である。

 これを本件についてみるに,原告は,被告IHIらが出願した本件各発明について,自己に特許を受ける権利が帰属すると主張し,被告IHIらはこれを争っているから,原告と被告IHIらとの間には,本件各発明に関する特許を受ける権利の帰属について争いがあり,原告が自己に帰属すると主張する本件各発明の特許を受ける権利について,不安や危険が現存すると認めることができる。そして,本件訴え1によって,原告が本件各発明の特許を受ける権利を有することを確認できれば,原告と被告IHIらとの間の本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる
 また,冒認出願は,特許法39条1項から4項までの規定の適用については特許出願でないものとみなされ(同条6項),後願排除力(同条1項)を有しないものとされており,真の権利者は,その意に反して発明が新規性を失った日,すなわち冒認出願につき出願公開がされた日から6か月以内に特許出願をすれば,例外的にその発明が新規性を喪失しないものと扱われ(同法30条2項),特許権を取得することができる。現に,原告は同項の適用を前提として本件各原告出願を行っており,本件訴訟で原告が勝訴すれば,原告はその審査の過程で当該勝訴判決を一資料として特許庁に提出することができる
 他方,本件のような事案において,特許を受ける権利それ自体について移転請求を認める規定は現行法上存在しないから,原告は,被告IHIらに対し,上記権利の移転を求める給付の訴えを提起することはできないと解される。
 
 以上に検討したところによれば,本件訴え1によって,本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる一方,特許を受ける権利それ自体について給付の訴えを提起することはできないのであるから,本件訴え1には確認の利益が認められるというべきである。

均等論における本質部分の判断

2011-11-16 23:09:55 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)3846
事件名 不当利得金返還請求事件
裁判年月日 平成23年10月27日
裁判所名 大阪地方裁判所
裁判長裁判官 山田陽三

ア 特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。

 そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。

イ 本件特許発明の構成要件A及びB,すなわち「10BASE-T に準拠するツイストペア線においてリンクテストパルスが伝送されること」が周知技術であることは,当事者間で争いがない。
そうすると,本件特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで本件特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分は,本件特許発明の構成要件Cであると解するよりほかない。
・・・
 そして,これに基づく課題解決手段の原理は,本件特許発明が検査結果に基づいて信号線を自動的に切り替えるというものであるのに対し,被告製品は検査結果に基づいて信号線の切替えをやめるというものであって,原理として表裏の関係にある又は論理的に相反するものであり,異なる原理に属するものというほかない。

判決の拘束力

2011-11-14 22:28:02 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10150
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 商標登録無効審判についての審決の取消訴訟において審決を取り消す旨の判決が確定したときは,審判官は,商標法63条2項において準用する特許法181条5項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審決には,同法33条1項の規定により,同取消判決の拘束力が及び,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決民集46巻4号24頁参照)から,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されず,したがって,再度の審判手続において,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできないというべきである。

そこでこれを本件についてみるに,前述した前判決の認定判断に照らすと,前判決の拘束力は,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものであり,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するとの認定判断について生ずるものというべきである・・・

引用発明が一部の構成要件のみを充足し,その他の構成要件に言及がない場合

2011-11-14 22:18:24 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10245
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 特許法29条1項は,特許出願前に,公知の発明,公然実施された発明,刊行物に記載された発明を除いて,特許を受けることができる旨を規定する。出願に係る発明(当該発明)は,出願前に,公知,公然実施,刊行物に記載された発明であることが認められない限り(立証されない限り),特許されるべきであるとするのが同項の趣旨である。

 当該発明と出願前に公知の発明等(以下「公知発明」という場合がある。)を対比して,・・・,公知発明が,「一部の構成要件」のみを充足し,「その他の構成要件」について何らの言及もされていないときは,広範な技術的範囲を包含することになるため,論理的には,当該発明を排除していないことになる。したがって,例えば,公知発明の内容を説明する刊行物の記載について,推測ないし類推することによって,「その他の構成要件についても限定された範囲の発明が記載されているとした上で,当該発明の構成要件のすべてを充足する」との結論を導く余地がないわけではない。

 しかし,刊行物の記載ないし説明部分に,当該発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,そのような推測,類推をすることによってはじめて,構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条1項所定の文献に記載された発明ということはできない。仮に,そのような場合について,同法29条1項に該当するとするならば,発明を適切に保護することが著しく困難となり,特許法が設けられた趣旨に反する結果を招くことになるからである。上記の場合は,進歩性その他の特許要件の充足性の有無により特許されるべきか否かが検討されるべきである。
 ・・・
・・・甲1及びその引用文献には,防菌・防黴剤の組成物として用いられるMITについて,「CMITを含まない」ことについては言及がなく,CMITが含まれたことによって生じる欠点に関する指摘もない。したがって,甲1において,CMITが含まれることによる欠点を回避するという技術思想は示されていない
 甲1に接した当業者は,「CMITを含まない」との構成要件によって限定された範囲の発明が記載されていると認識することはなく,甲1には,「CMITを含む発明」との包括的な概念を有する発明が記載されていると認識するものと解される。

商標法51条1項の「故意」

2011-11-13 22:43:10 | 商標法
事件番号  平成23(行ケ)10005
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 「故意」の有無の判断の誤り(取消事由2)について
(1) 商標法51条1項の「故意」とは,商標権者が指定商品について登録商標に類似する商標を使用するに当たり,これを使用した結果,他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していることと解するのが相当である。
・・・
以上によると,被告が被告使用商標の使用を開始した時点では,原告が日本国内で原告製造製品を販売するに当たりどのような商標を使用するかは,必ずしも明確ではなかったのであるから,被告が,被告商標の使用により,原告の業務に係る原告製造製品と混同を生じさせることを認識していたとは認められない

(3) なお,原告は,原告製造製品と同様に被告製造製品にHIH社の頭文字でる「HIH」の文字や原告の有する米国特許の番号を付していることをもって,被告は,原告製造製品との混同が生じることを認容していたと主張する。
 しかし,商標法51条1項における「故意」は,登録商標又はこれに類似する商標を使用した結果,他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していることに限られ,上記商標の使用以外の事由により混同を生じさせることを認識していたとしても,同項の「故意」には該当しない

無効審決された商標の指定商品を異ならせた再出願

2011-11-13 21:51:31 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10188
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 被告は,先願商標について商標登録を受けたが,・・・,その商標登録を無効にすべき旨の審決を受け,・・・,これに対し,・・・被告が本件商標について登録出願をしたのは,この審決を受けてから確定するまでの間・・・である。

(2) 原告は,以上の経緯を前提に,先願商標に対する無効審決の効力が本件商標には及ばないとした本件審決の判断は,商標法56条1項において準用する特許法167条に違反する旨主張するが,そもそも,特許法167条は,・・・,特許無効審判等について無効審判の確定の登録があったときは,同一の事実等に基づいて審判の請求をすることを禁止したものにとどまるものであって,無効と判断された登録商標と構成を同じくする商標について,指定商品を異なるものとした上で再度出願することそれ自体を禁止するものではない

 もっとも,原告が本件において特許法167条違反をいうのは,併せて,信義則違反と権利の濫用とに言及していることに鑑みると,本件商標の登録出願は,先願商標を無効にすべき旨の審決を受けた後であることから,本件商標の出願は無効と判断された先願商標の再生と無効審決を潜脱する不正な目的でされたものであって,そのような商標の登録は認められるべきでないという趣旨に解されなくもない

 しかしながら,先願商標の商標登録を無効と判断した審決の理由(甲1)は,普通名称であるという「堤人形」の文字を含む先願商標をその指定商品中,「堤人形」以外の「土人形」及び「陶器製の人形」について使用するときは,これに接する需要者は,該商品があたかも堤人形であるかのように,商品の品質について誤認を生ずるおそれがあるとして,商標法4条1項16号に該当するというのである。
 その出願人である原告において,先願商標の指定商品を「堤人形」に限定した上で,先願商標と同じ構成に係る本件商標の登録出願をすることそれ自体は,止むを得ない措置であったというべきであって,それが当該商標登録の無効理由に当たる場合は格別,そうでない以上,本件商標の登録出願を直ちに不正な行為であるということはできないし,原告に対する関係でみても,これを信義則違反や権利の濫用に当たるものということもできない

請求項の用語の意義を、請求項中の他の構成の意義を踏まえ確定した事例

2011-11-13 18:49:06 | 特許法70条
事件番号 平成22(ワ)23188
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年10月19日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大須賀滋

 しかし,本件発明における課題解決手段からみて,「直接隣接する」とは,カラー部分の障害による吸引孔とカフ上端部との離間を回避する手段を講じることによって達成されるものであるから,カラー部分の存在による障害をいかなる構成によって回避したかという点の考察と無関係に,「直接隣接する」の具体的な意義を決定することは相当ではない

 したがって,構成要件Cの「直接隣接する」の意義は,カフとカラーとの関係を具体的に示した構成要件Eの内容と切り離してこれを理解することはできないものというべきである。

(オ) そこで,構成要件Eをみると,「カフ(12)の近位端を裏側に折り重ね,カフの膨張しうる部分(25)の少なくとも1部分を近位カラー部分(24)に重ね,近位カラー部分(24)をカフの膨張しうる部分(25)を越えて延ばさないように構成した」ものである。すなわち,カフとカラーとの関係に関する構成としては,
○1 カフの近位端が裏側に折り重ねられていること,
○2 近位カラー部分がカフの膨張しうる部分を越えて延ばさないように構成されていること,
に特徴がある。
 言い換えると,本件発明は,カフのカラー部分との関係でのカフの膨張態様に特色のある発明であり,カフの近位カラー部分がカフの膨張しうる部分を越えて延ばさないようにされていること,カフの膨張しうる部分が近位カラー部分の先端まで到達している構成とされた発明である。

 以上の明細書の記載及びその課題解決のためのカフとカラー部分との関係について示した構成要件Eの記載に照らして,「直接隣接する」の技術的意義を検討すると,本件発明は,従来技術において,カフ上端部の分泌物を吸引するについて,カラーの延在部よりも上部に吸引孔を設けざるを得ず,その結果,吸引孔とカフ上端部の位置が遠ざけられ,そのためカフ上端部の分泌物を十分吸引できなかったのを,カラーに被せるようにカフを膨らませ,気管をシールすることによって,カラー部分の存在によるカフ上端部からの吸引孔の離間を回避し,カフ上端部と吸引孔の近接を可能にしたことにあると認めるのが相当である。

 したがって,「直接隣接する」の意義は,カラー部分の存在による吸引孔とカフ上端部との離間が防止されていること,すなわち,カラー部分の存在によりカラー部分を隔てて吸引孔とカフ上端部が隣接することが回避されていることを意味するものと介される。したがって,カフの近位端と吸引孔の間の空隙の有無が直ちに「直接隣接する」か否かの評価に結び付くのではなく,カラー部分に重なるようにカフが膨らむ構成によって,カラー部分の距離がそのまま吸引孔を設けることの障害となっていた従来技術と比較して,カフの上端部(近位端)と吸引孔の間の空隙を短縮することができているのであれば,「直接隣接する」と評価することができるものというべきである。

(所感)用語の意義の認定にあたり、明細書の該当用語に対応する構成の課題を読み込み検討に用いているが、当該明細書の対応する(実施例の)構成を直接参酌して用語の指し示す範囲を確定していない。そしていわば原因と結果の関係にある請求項の他の構成を参酌して、用語の意義を確定している。
 こうすれば、明細書が過度に参酌されて用語の意義が(用語の文言解釈から不自然に変更され)予測可能性を失なうことはない。これは良い解釈法だと感じる。