知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

技術分野と課題の共通性から組み合わせの動機付けを認めた事例

2011-06-25 15:17:13 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10305
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年06月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 一般的な油圧ショベルとバックホウ付きトラクタとの間には,原告が主張するように,上部旋回体が旋回動作をするか否か等の違いがある
 しかしながら,油圧ショベルとバックホウ付きトラクタは,一般的に油圧式の建設機械であるという点で共通し,切削及び積込みを行うという機能の点でも同種に分類されること(甲7-1~7-3),両方の機械を開発する企業もあること(乙7の1~7の3),市場において,上部旋回体のないバックホウローダーから上部旋回体を備えた油圧ショベルへの機種の変遷があった経緯があること(乙8)などからすると,これらの機械はいずれも同一の技術分野に属するものと認められる。
 また,上記2のとおり,刊行物1記載の発明は,撓んだ油圧ホースがスイングポストやブーム等(作業機)に接触し,耐久性が低下するという課題の解決を目的とするものである。同様に,刊行物2記載のバックホウ付きトラクタも,・・・との記載によれば,油圧ホースの余剰分が作業機の運動を遮り,あるいは,石などと接触して耐久性が低下するという課題を前提とした上で,油圧配管を下方に設置し,油圧配管のガードを用いたものであって,解決すべき課題も刊行物1記載の発明と共通している。

 このような技術分野や解決課題の共通性からすると,油圧ショベルの技術分野に属する当業者が,バックホウ付きトラクタの技術手段の適用を試みることは,通常の創作能力の発揮にすぎず,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用する動機付けを一般的に否定することはできない

 以上のとおりであるから,複数の油圧配管がピンの側方近傍を通過する油圧ショベルに関する刊行物1記載の発明に,複数の油圧配管がシリンダの下方の中心近傍を通過する刊行物2記載の発明を適用して,複数の油圧配管が「ピンの下方の中心近傍」を通過させるようにすることについての容易想到性を否定することはできず,むしろ,そうすることにより,複数の油圧配管が「下部走行体と車体突出部との間」を通過することは自明であるといえる。したがって,刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは容易に想到し得たとする審決の判断に誤りはない。

審査・審判過程において請求項毎に特許査定又は拒絶査定すべきか

2011-06-19 11:09:47 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10158
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年06月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 平成14年法律第24号改正前の特許法17条1項,4項,17条の2第1項,53条1項,17条の2第4項,159条1項(以下において「改正前」というときはこの平成14年の改正前を指す。),手続をした者が補正をすることができることや補正が可能な時期等を定めるとともに,一定の要件がある場合は,補正を却下しなければならないとしているが,この規定に加え,補正は,特許請求の範囲のほか,明細書,図面についてもされるものであり,補正事項が請求項ごとに明確に区分されるものではない場合があって,このような場合も含めてどのような内容の補正とするかは出願人の意向次第であるから,補正内容によっては,請求項ごとに補正要件の有無を判断することができないことがあることにも鑑みれば,一つの手続補正書によりされた補正は,補正事項ごと,又は請求項ごとの補正としてその可否が審理され判断されるものではなく,特許請求の範囲の減縮が複数の請求項にわたっていても,補正は一体として扱われ,一部に補正要件違反がある場合は,その補正は全体として却下されるべきことを予定していると解するのが相当である。

 本件補正のうち,請求項7に係る部分は,改正前17条の2第4項に掲げる事項のいずれをも目的とするものではないことは審決の判断するところであり,原告はこの判断の誤りを主張しない。審決において補正を却下すべきものとした理由は,本件補正後の請求項7についての補正が,改正前特許法17条の2第4項1~4号のいずれにも該当しないとの点にあるが,その理由の実質をみると,補正後の請求項7で規定する事項が,補正前の各請求項に記載した事項の範囲内におけるものではないから,減縮にも当たらないとの判断をしたものと理解することができる。このような理解を前提としてみれば,請求項7についての補正を含む本件補正を却下すべきものとした審決の判断はこれを支持することができる

 原告は,改善多項制の下においては,複数の請求項に係る特許出願については,各請求項に記載された発明ごとに特許要件を審査すべきであることを前提に,出願過程において複数の請求項に係る補正があった場合には,請求項ごとに補正の許否を判断すべきであると主張する
 この主張は,補正を一体として却下すべきものとの上記判断に必ずしも結び付くものではないが,平成14年改正の前後を通じての特許法49条,51条の文言などからすれば,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つのまとまった特許が付与されるという基本構造を前提としているものと理解される。このような構造の理解に基づけば,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をすることが予定され,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いをしないとの特許庁における一貫した実務の扱いも支持することができる。
 改善多項制は,一出願の下において複数の発明が出願された場合には,一体として特許登録がされるものの特許権は請求項ごとに成立することにしたものであるが,このことは,各請求項に記載された発明ごとに特許要件を審査することに必ずしも結び付くものではない。したがって,原告の上記主張は,当裁判所の採用するところではない。

副引用例と本願発明との技術分野の相違

2011-06-12 20:27:11 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10144
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年06月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
 
 原告は,・・・審決の示す引用例4及び5は,顕微鏡とは無関係の分野における技術であり,当業者がこれを顕微鏡分野に持ち込んで適用することは容易ではないと述べる
 ・・・
 引用例4は,・・・。また,引用例5は,・・・。そうすると,両引用例は,光ファイバを介してレーザパルスを供給する際に生じる群速度分散を,レーザパルスの光路長を各波長毎に変更する光学配列を設けることにより補償するという技術事項が,本件優先日当時に周知の技術であったことを示している。なお,2光子顕微鏡に関する引用例3においても,群速度分散を光学配列を設けることにより補正するという技術事項が開示されている。

 他方,引用発明は,パルス光源からのパルス状のプローブ光が,光ファイバである光ガイド等を経て近接場走査光学顕微鏡に入射されるものであるから,引用例4及び5に接した当業者であれば,引用発明においても,光ファイバを伝搬するパルス状のプローブ光が群速度分散によって波形が変形するという課題を有するものと認識し,この課題解決のため,引用例3~5に開示された解決手段である,レーザパルスの光路長が各波長毎に変更される光学配列という周知技術を,容易に採用し得るものといわなければならない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

機能ブロックの抽出、共通機能のサブルーチン化にプログラム作成者の個性が表れているとした事例

2011-06-12 19:23:04 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)24698
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年05月26日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) プログラムとは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,これが著作物として保護されるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であることが必要である。
 一般に,ある表現物について,著作物としての創作性が認められるためには,当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し,かつそれで足りるものと解される。この点は,プログラム著作物の場合であっても同様である。

(3) これを原告プログラムについてみるに,原告プログラムは,測量業務を行うためのソフトウェアに係るプログラムであり,上記(1)で認定したとおり,プログラムの作成者において,測量業務に必要かつ便宜であると判断した機能を抽出・分類し,これらを40個近くのファイル形式で区分して集約し,相互に組み合わせたもので,膨大な量のソースコードから成り,そこに含まれる関数も多数に上るものであって,これにより,測量のための多様な機能を実現している。
 また,原告プログラムは,個別のファイルに含まれる機能の中から,共通化できる部分を抽出・分類し,これをサブルーチン化して,共通処理のためのソースコード(原告ファイル33)を作成しており,この共通処理のファイルの中だけでも,60個以上のブロックが設けられ,1000行を超えるプログラムのソースコードが含まれている(甲28の37,甲55の33)。

 このように,原告プログラムは,これを全体としてみれば,そこに含まれる指令の組合せには多様な選択の幅があり得るはずであるにもかかわらず,上記のようなファイル形式に区分し,これらを相互に関連付けることによって作成されたものであり,プログラム作成者の個性が表れているといえる。

 また,測量用のプログラムという機能を達成するためには,単純に,機能ごとに処理式を表現すれば足りるにもかかわらず,原告プログラムは,上記のとおり,共通化できる部分を選択し,これらを抽出して1つのファイルにまとめている。これらのサブルーチンを各ファイル中のどの処理ステップ部分から切り出してサブルーチン化するのか,その際に,引数として,どのような型の変数をいくつ用いるか,あるいは,いずれかのシステム変数で値を引き渡すのか,などの選択には,多様な選択肢があり得るはずであるから,この点にも,プログラム作成者の個性が表れているといえる。さらに,各ファイル内のブロック群で受け渡しされるどのデータをデータベースに構造化して格納するか,システム変数を用いて受け渡すのかという点にも,プログラム作成者の個性が表れているといえる。
 これらの事実に鑑みると,原告プログラムは,全体として創作性を有するものということができ,プログラム著作物であると認められる。

(4) これに対し,被告らは,原告プログラムは多くの制約がある中で記述され,作成者である被告Bの個性が表現される余地はなかったものであって,創作性を有するものではない,原告が原告プログラムにおいてプログラムの作成者の個性が表現されていると主張する部分は,「解法」(著作権法10条3項3号)に当たり,著作権法上保護されるものではない,と主張する
 しかしながら,原告プログラムにおいて作成者の個性が表現される余地がなかったとの主張については,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また,原告プログラムにおけるファイル形式の区分の仕方や,各ファイルを相互に関連付ける方法,サブルーチン群の取りまとめ方などは,「解法」に当たるものではない
したがって,被告らの上記主張は理由がないというべきである。

共有者の一部によってなされた拒絶査定不服審判請求

2011-06-05 19:34:28 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10363
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(1) 特許を受ける権利が共有に係るときは,各共有者は他の共有者と共同でなければ特許出願をすることができず(特許法38条),その共有に係る権利について審判を請求するときは,共有者の全員が共同して請求しなければならない(同法132条3項)
 また,特許を受けようとする者は,特許出願人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した願書を特許庁長官に提出しなければならず(同法36条1項),拒絶査定に対して不服審判を請求する者は,当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならないとされている(同法131条1項)。したがって,共有者の全員が一人の代理人に対して拒絶査定不服審判の請求を委任し,その代理人が,共有者のために拒絶査定不服審判を請求する際には,審判請求書に請求人として共有者全員の氏名を記載することが求められる

(2) 上記規定によれば,審判請求書には審判請求人全員の氏名を記載しなければならないのであるが,他方,共有に係る権利の共有者全員の代理人から審判請求書が提出された場合において,共有者全員が「共同して請求した」といえるかどうかについては,単に審判請求書の請求人欄の記載のみによって判断すべきものではなく,その請求書の全趣旨や当該出願について特許庁が知り得た事情等を勘案して,総合的に判断すべきである。

 ところで,・・・,代理人が,共有者全員から拒絶査定不服審判請求について委任を受けているにもかかわらず,共有者の一部の者のみを代理して拒絶査定不服審判を請求することは,あえて不適法な審判請求をすることとなり,そのような行為は,不自然かつ不合理である・・・。そうだとすると,その代理人から審判請求書を受理する特許庁としては,代理人がこのような不合理な行為を行うやむを得ない特段の事情が推認される場合はさておき,そのような事情がない限り,審判請求書の記載上,共有者の一部の者のためにのみする旨の表示となっている場合があったとしても,そのような審判請求書は,誤記に基づくものであると判断するのが合理的である。

(3) 上記の観点から,本件について検討する。前記のとおり,
○1 原告らは,いずれも日本国内に営業所又は住所若しくは居所を有しない者であり,特特許管理人によらなければ特許法に基づく諸手続を行うことができず,しかも,特許管理人は原則として一切の手続について本人を代理するという包括的な代理権を有していること(特許法8条1項,2項),
○2 原告らは,本願発明に係る特許法に基づく諸手続をX弁理士に委任しており,同弁理士は原告らの特許管理人であったこと,
○3 特許庁は,特許出願過程において,・・・,原告A及び原告Bが発明者であると共に出願人でもあると理解した上,国内書面の特許出願人の欄を補正するよう手続補正を指令し,これに応じて,X弁理士は,・・・,錯誤により出願人を間違えた旨付記した上,原告A及び原告Bを国内書面の特許出願人に追加する旨の手続補正を行ったこと,
○4 特許庁は,・・・本件拒絶査定書には,特許出願人として「サン・ケミカル・コーポレーション(外2名)」と記載し,代理人にX弁理士の氏名を記載したこと等の事実が認められる。

 以上の事実を総合すれば,弁理士が本件審判請求書を提出することによってした審判請求は,審判請求書の記載上,原告サン ケミカルの名称のみ表記され,原告A及び原告Bの氏名は表記されていないがX弁理士に原告ら全員のためにする意思があることは明らかであり,しかも,特許庁においても,その意思は,十分に知り得たものというべきである。
 したがって,本件審判請求は請求人が原告ら3名であるにもかかわらず,本件審判請求書には請求人として原告サン ケミカルのみが記載されている場合であるから,同法131条1項の定める方式について不備があることとなる。このような場合,審判長は,同法133条1項に基づき,原告らの代理人たるX弁理士に対して,相当の期間を定めてその補正をすべきことを命じなければならなかったといえる。
・・・
 なお,・・・特許法や特許法施行規則において,代理人による特許出願の場合に委任状の提出は義務付けられておらず,委任状の提出を要しない実務慣行の存在も推認・・・,特許庁も・・・委任状の提出を求めることはなく,X弁理士が同原告らの代理人であるとして出願手続を進めてきていること等の経緯に照らすならば,原告A及び原告Bから同弁理士に対する包括委任状が提出されていない事実をもって,本件審判請求が,原告らの共同意思に基づく請求であることを否定する根拠とはならない。なお,日本国内に住所又は居所(法人にあっては営業所)を有する者が代理人に拒絶査定不服審判の請求を委任する場合は,特別の授権を要し(特許法9条),その代理権の授与は書面をもって証明しなければならないが(同法施行規則4条の3),特許管理人であるX弁理士は,包括的な代理権を有しており,拒絶査定不服審判を請求するに当たっても特別の授権は必要ないことからすると,原告A及び原告Bの包括委任状が特許庁に提出されておらず,そのため,本件審判請求書の提出物件の目録にも同原告らの包括委任状の番号は記載されていなかったとしても,そのことをもって,原告A及び原告Bには本件審判を請求する意思がないことの根拠にもならない。

<類似:平成21年11月19日 知的財産高等裁判所 平成21(行ケ)10148

業務経験に鑑みたテクニカルライターによる広告文は法律上保護される利益を有するか

2011-06-05 15:34:08 | Weblog
事件番号 平成23(ネ)10006
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 争点3(一般不法行為の成否)について
・・・
(1) 控訴人は,先行企業としての業務経験に基づき試行錯誤の上に完成させた自社のオリジナル広告文につき,同一サービスに新規参入する業務経験のない大手ライバル企業によって盗用されない利益は法的保護に値するものであるから,先行競合企業である控訴人の広告文言を盗用した被控訴人の行為は,社会的相当性を逸脱し控訴人の法的保護に値する利益を侵害した点で不法行為を構成すると主張する。
・・・
被控訴人文章作成の際,控訴人文章を全く参照しなかったのであるならば,控訴人文章と被控訴人文章とが,記載順序や構成がほぼ共通しているほか,データ復旧が必要となる状態を「非常事態」とした上で,データ復旧サービスを「有効な回復策の一つとして」「データ復旧サービスの利用を検討する」という具体的表現(控訴人文章2③)や,パソコン修理及びデータ復旧について「主眼を置く」点を明らかにした上で,「例えを用いて説明する」具体的表現(控訴人文章3②・③)のみならず,パソコンの低価格化とデータの重要性向上について説明した上で,パソコンに事故が起こった場合に,パソコンが大切なのか,データが大切なのかをよく見極めることが大切であると結論付ける具体的表現(控訴人文章3④)についてもほぼ一致していることは,それらがありふれた表現であることを考慮しても,不自然であるというほかない。
・・・
 したがって,控訴人が A の説明に疑問を抱き,著作権侵害が認められないとしても,なお被控訴人の行為を強く非難することは,それ自体無理からぬところである。

(3) しかるところ,控訴人は
① 他人の文章に依拠して別の文章を執筆し,ウェブサイトに公表する行為が,営利目的によるものであり,文章自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照らしても,他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には,当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成するというべきである,
② 控訴人文章は,控訴人において,世間一般に知られていなかったサービスにつき,顧客から誤解に基づくクレームを受けた等の業務経験に鑑み,試行錯誤を行いながら,控訴人代表者が,テクニカルライターとしての経験を活用して書き上げたものであり,被控訴人は,このような先行企業による成果物に無断で「ただ乗り」し,他人の成果物を不正に利用してビジネス上の利益を享受していることは明らかである,
③ 保護されるべき企業の利益は,直接的なものに限られるものではない
などと主張する。

(4) しかしながら,控訴人主張の「オリジナル広告文」が法的保護に値するか否かは,正に著作権法が規定するところであって,当該広告が著作権法によって保護される表現に当たらず,その意味で,ありふれた表現にとどまる以上,これを「オリジナル広告」として,控訴人が独占的,排他的に使用し得るわけではない
 したがって,被控訴人が控訴人のそのような広告と同一ないし類似の広告をしたからといって,被控訴人の広告について著作権侵害が成立しない本件において,著作権以外に控訴人の具体的な権利ないし利益が侵害されたと認められない以上,不法行為が成立する余地はない
 そして,・・・,控訴人文章と被控訴人文章とは,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎない以上,被控訴人文章をウェブサイトに公開したことをもって,公正な競争として社会的に許容される限度を超えたものということはできない。

標章が商標として使用されているか否かの判断事例-「Quick Look」事件

2011-06-05 14:06:43 | 商標法
事件番号 平成22(ワ)18759
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年05月16日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大須賀滋

1 被告各標章が商標として使用されているか否か(争点(1)ア)について
 商標は,当該商標を使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの(商標法3条2項),すなわち自他商品識別機能及び出所表示機能を有するものとして登録されるのであるから,ある標章の使用が,商標権者の登録商標を使用する権利(同法25条)の侵害行為又は侵害とみなされる行為(同法36条1項,37条)といえるためは,当該使用される標章が自他商品識別機能及び出所表示機能を有する態様で使用されていることが必要である。
 ・・・

 このような甲47のウェブページに接したコンピュータ商品およびOS商品の需要者は,「Quick Look」が,ファイルを開かずにフ ァイルの内容をすばやくプレビュー表示するという機能を有する,被告のOSソフトウェア商品である「Mac OS X」の主なアプリケーションの一つであると認識し,被告標章1も,当該機能を有するする,被告のOSソフトウェア商品の主なアプリケーションの一つを表示するものと認識すると認められる。
 そして,被告は,・・・プログラム(プラグイン)を作成するために必要な技術仕様を公開,提供していることが認められる。

 しかしながら,前記アのとおり,被告は,ファイルを開かずにファイルの内容をすばやくプレビュー表示するという,被告OSソフトウェア商品が有する機能を「Quick Look」(クイックルック)と表示していることが認められるところ,後記エのとおり,被告は,当該機能を使えるようにするためのプログラム(プラグイン)を作成するために必要な技術仕様の公開,提供をしていることは認められるものの,当該プラグインを自ら作成したり,これを配布したりするなどの行為を行っていると認めることはできないから,結局,被告が被告のOSソフトウェア商品の主なアプリケーションの一つとして表示する「Quick Look」(クイックルック)は,被告のOSソフトウェア商品の有する当該機能を,被告のOSソフトウェア商品の「アプリケーション」と称して表示したものにすぎないというべきである。

 そうすると,・・・「Quick Look」との表示は,・・・機能の一つを表示したものであり,・・・需要者は,「Quick Look」が,・・・機能を表示するものであると認識するものと認められるが,他方で,被告のOSソフトウェア商品の出所については,甲47のウェブページの「Quick Look」の表示がその左上部に記載された,「Mac OS X」の一機能として記載されていることからすると,被告のOSソフトウェア商品の出所については,その左上部に記載された「Mac OS X」の標章から想起し,「Quick Look」の語から想起するものではないものと認められる。

 したがって,被告標章1が甲47のウェブページにおいて被告OSソフトウェア商品の自他商品識別機能・出所表示機能を果たす態様で用いられているものと認めることはできないから,甲47のウェブページにおける被告標章1の使用は,商標としての使用(商標的使用)に当たらない。