知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

独立特許要件の特許法29条1項3号が不意打ちか争われた事例

2013-09-09 10:40:27 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10348
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年08月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 大鷹一郎 ,荒井章光


もっとも,本件拒絶査定には,・・・との記載があり,上記記載の括弧書きの部分は,・・・「q」が「0」であることを前提とするものではなく,この点において「q」が「0」であることを前提とする本件拒絶理由通知とは異なるものといえる。しかしながら,上記記載の括弧書きの部分は,原告が・・・意見書(乙3の1)で「・・・引用文献5の化合物を除くためにR3の定義の中でアリールを削除し…。」(2頁)と主張したのに対応して,そのような補正によっても拒絶理由が解消されないことを述べたものにすぎず,本件拒絶査定が本件補正前の請求項1について本件拒絶理由通知記載の拒絶理由と同じ拒絶理由があることを指摘したとの上記認定と相反するものではない

ウ 一方,本件審決は,本願補正発明1は,引用発明(引用例の化合物20)と同一であり,特許法29条1項3項に該当するので,特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないと判断したものであるところ,本件補正後の請求項1記載の「アリール」,「アルキル」,「アリールアリキル」等の定義に照らすと,本願補正発明1が同号に該当するとの理由は,本件拒絶査定における拒絶理由と同一であると認められる。

エ ・・・
 したがって,本件審決で本件補正を却下した本件審判手続は,特許法159条2項で準用する同法50条本文に反するとの原告の主張は,その前提を欠くものとして理由がない。

(2) その他の手続違反の有無
ア 原告は,
 ・・・本件審尋書(甲9)が引用する「《前置報告書の内容》」には,本件補正後の請求項1に記載された発明が独立して特許を受けることができない理由として,特許法旧36条6項1号,2号に規定する要件を満たしていないことのみが記載され,特許法29条1項に関する記載がないことによれば,前置審査をした審査官と原告との間には,本件補正により,「特許法29条1項3号の拒絶理由は解消している」との判断について了解が成立し,本件審尋書による審尋をした審判官も,同様の判断をしていた
 本件審決における本願補正発明1が特許法29条1項3号に該当するとする理由は,本件拒絶査定の拒絶理由と異なるにもかかわらず,本件審決の審決書が原告に送達されるまで原告に対して指摘されておらず,本件審決は,不意打ちで本件補正を却下したものである,
 ・・・,原告は,「《前置報告書の内容》」に記載された特許法旧36条6項1号,2号の拒絶理由については意見を述べることができたが,「《前置報告書の内容》」に記載のない特許法29条1項3号の拒絶理由については意見を述べる機会すら与えられなかったから,本件審判手続は,特許出願人である原告に対して極めて不公正なものであって,適正手続違反に該当するなどと主張する。

しかしながら,本件審尋書(甲9)は,特許法134条4項に基づく審尋の方法として原告に送付されたものであり,その書面の性質上,前置審査をした審査官と原告との間に原告が主張するような合意が成立していることを示すものとはいえず,また,本件審判事件を審理する審判体の見解や判断を示すものではないから,原告の上記①の主張は理由がない。

 次に,前記(1)認定のとおり,本件審決における本願補正発明1が特許法29条1項3号に該当するとの独立特許要件違反の理由は,本願補正発明1が引用発明(引用例の化合物20)と同一であるというものであって,本件拒絶査定における同号の拒絶理由と同一であり,しかも,本件拒絶理由通知においても指摘されていたものであるから,本件審決が上記独立特許要件違反を理由に本件補正を却下したことは原告に対する不意打ちとはいえず,原告の上記②の主張も理由がない。

 さらに,原告は,本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定における引用発明(引用例の化合物20)と同一であることを理由とする特許法29条1項3号の拒絶理由について意見を述べる機会を与えられ,現に上記拒絶理由に対して平成21年6月19日付け意見書を提出して意見を述べたり,同日付け手続補正及び本件補正を行っているのであるから,原告の上記③の主張もまた理由がない。

一致点を含む相違点の認定を審決の結論に影響を与えないとした事例

2013-05-19 20:44:50 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10198
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌
特許法29条2項 相違点の認定

ア 本件審決の認定した相違点1のうち,「合成樹脂製フィルムによって形成された対向する一対の平面部及び谷折り線を備える2つの側面部を有する」,「側面シール部は,平面部と側面部の側縁部同士がシールされ」,「柱構造をとり,内容物である液体の充填時には前記袋体は直方体又は立方体に近い形状になり」の部分は,本件審決の認定した一致点と文言上重複している

イ しかし,一致点と重複する上記記載は,それぞれ「4方シール」,「柱構造」及び「袋体」の各構成を修飾する字句の一部に含まれるものであって,それぞれ,本件発明の課題との関係において,「4方シール」,「柱構造」及び「袋体」の構成を特定する技術的にまとまりのある一体不可分の事項である。
このように,技術的にまとまりのある一体不可分の事項である以上,対比すべき構成に,結果として,一致点が含まれること自体,誤りとはいえない。そして,認定された相違点1について,引き続いて行われる相違点の判断が適切に行われている限り,審決の結論に影響を与えるものとはいえない

公然実施について、知り得る状況で実施されていれば足りるとした事例

2013-05-19 20:33:23 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)10693
裁判年月日 平成25年02月07日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 谷有恒、裁判官 松川充康,網田圭亮
特許法29条1項2号

ウ 原告は,一般人が「ナイトロテック処理」との表示を見たとしても,同処理の内容を具体的に認識することはできないと主張するが,公然実施について,当該発明の内容を現実に認識したことまでは必要ではなく,知り得る状況で実施されていれば足りると解すべきであり,また,その判断の基準は一般人ではなく当業者と解すべきである。そして,これを前提とした場合にその要件を満たすことは上記のとおりであるから,原告の主張には理由がない。

特許権者が特許発明を実施していなくても,同法102条2項を適用することができるとした事例

2013-05-07 23:20:09 | 特許法その他
事件番号 平成24(ネ)10015
事件名 特許権侵害差止等本訴,損害賠償反訴請求控訴事件
裁判年月日 平成25年02月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 塩月秀平,芝田俊文,土肥章大,知野明

(ア) 特許法102条2項を適用するための要件について
 特許法102条2項は,「特許権者・・・が故意又は過失により自己の特許権・・・を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,特許権者・・・が受けた損害の額と推定する。」と規定する。
 特許法102条2項は,民法の原則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,・・・,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の塡補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益額を特許権者の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。このように,特許法102条2項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって,その効果も推定にすぎないことからすれば,同項を適用するための要件を,殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。

 したがって,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり,特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は,推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である。そして,後に述べるとおり,特許法102条2項の適用に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とするものではないというべきである
 ・・・
 上記認定事実によれば,・・・,原告は,コンビ社を通じて原告製カセットを日本国内において販売しているといえること,被告は,イ号物件を日本国内に輸入し,販売することにより,コンビ社のみならず原告ともごみ貯蔵カセットに係る日本国内の市場において競業関係にあること,被告の侵害行為(イ号物件の販売)により,原告製カセットの日本国内での売上げが減少していることが認められる。
 以上の事実経緯に照らすならば,原告には,被告の侵害行為がなかったならば,利益が得られたであろうという事情が認められるから,原告の損害額の算定につき,特許法102条2項の適用が排除される理由はないというべきである。

 これに対し,被告は,特許法102条2項が損害の発生自体を推定する規定ではないことや属地主義の原則の見地から,同項が適用されるためには,特許権者が当該特許発明について,日本国内において,同法2条3項所定の「実施」を行っていることを要する,原告は,日本国内では,本件発明1に係る原告製カセットの販売等を行っておらず,原告の損害額の算定につき,同法102条2項の適用は否定されるべきである,と主張する。

 しかし,被告の上記主張は,採用することができない。すなわち,特許法102条2項には,特許権者が当該特許発明の実施をしていることを要する旨の文言は存在しないこと,上記(ア)で述べたとおり,同項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられたものであり,また,推定規定であることに照らすならば,同項を適用するに当たって,殊更厳格な要件を課すことは妥当を欠くというべきであることなどを総合すれば,特許権者が当該特許発明を実施していることは,同項を適用するための要件とはいえない。上記(ア)のとおり,特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。

 したがって,本件においては,原告の上記行為が特許法2条3項所定の「実施」に当たるか否かにかかわらず,同法102条2項を適用することができる。また,このように解したとしても,本件特許権の効力を日本国外に及ぼすものではなく,いわゆる属地主義の原則に反するとはいえない。

特許法102条1項と同条3項の関係

2013-04-14 23:27:19 | 特許法その他
事件番号 平成21(ワ)23445
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史,石神有吾

 そして,特許法102条1項は,侵害者の侵害行為がなければ権利者が自己の物を販売することができたことによる得べかりし利益(逸失利益)の損害額の算定方式を定めた規定であって,侵害者の侵害行為(特許権の実施行為)がなかったという仮定を前提とした損害額の算定方式を定めた規定であるのに対し,同条3項は,侵害者の特許権の実施行為があったことを前提として権利者が受けるべき実施料相当額の損害額の算定方式を定めた規定であって,両者は前提を異にする損害額の算定方式であり,一つの侵害行為について同条1項に基づく損害賠償請求権と同条3項に基づく損害賠償請求権とが単純に並立すると解すると,権利者側に逸失利益を超える額についてまで損害賠償を認めることとなり,妥当でないというべきであるから,原告日環エンジニアリングの上記損害賠償請求権(同条1項の類推適用に基づく損害額の損害賠償請求)と原告キシエンジニアリングの上記損害賠償請求権(同条3項に基づく損害額の損害賠償請求)とは,その重複する限度で,いわゆる不真正連帯債権の関係に立つものと解するのが相当である。

特許権者が第三者に通常実施権を設定した場合の独占的通常実施権者の地位

2013-04-14 22:54:52 | 特許法その他
事件番号 平成21(ワ)23445
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成25年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史,石神有吾

c これに対し被告は,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日付けでその旨の登録がされていることからすると,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の独占的通常実施権者であるとはいえないし,また,晃伸製機が同年9月5日に本件発明1を改良した発明の特許出願をしていることからすると(乙58),晃伸製機は本件発明1を利用していることは明らかであるから,原告日環エンジニアリングが本件特許権1の実施について事実上独占しているということもできない旨主張する。
 確かに,証拠(甲1,10,55)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許権1については,被告キシエンジニアリングが晃伸製機に通常実施権を設定し,平成17年3月25日に,晃伸製機を通常実施権者として,「範囲」を「地域日本国内,期間本契約の締結の日から本件特許権の存続期間満了まで 内容 全部」とし,「対価の額」を「無償」とする通常実施権の設定登録が経由されたことが認められる。

 一方で,前掲証拠によれば,原告キシエンジニアリングと原告日環エンジニアリングが平成15年7月18付け独占的通常実施権許諾契約書(甲8の1)を作成した当時の両原告の代表取締役社長であったBは,平成17年3月25日に晃伸製機に上記通常実施権の設定がされた当時も,引き続き原告日環エンジニアリングの代表取締役に在職し,上記通常実施権の設定及びその設定登録を了承していたことが認められる。
 そして,特許法77条4項は,専用実施権者は,特許権者の承諾を得た場合には,他人に通常実施権を許諾することができる旨規定しており,同規定は,専用実施権者が第三者に通常実施権を許諾した場合であっても専用実施権を有することに影響を及ぼすものではないことを前提としているものと解されるものであり,かかる規定の趣旨に鑑みれば,特許権者が独占的通常実施権を許諾した後に,その独占的通常実施権者の了承を得て,第三者に通常実施権を設定した場合には,通常実施権が設定されたからといって直ちに当該独占的通常実施権者の地位に影響を及ぼすものではないというべきである。

 また,本件においては,原告キシエンジニアリングが原告日環エンジニアリング及び晃伸製機以外の第三者に本件特許権1の実施権を許諾していることをうかがわせる証拠はなく,また,晃伸製機が本件特許権1の特許発明の実施品を現実に販売していることを認めるに足りる証拠もないことに照らすならば,晃伸製機に対する上記通常実施権の設定によって,原告日環エンジニアリングによる本件独占的通常実施権1に基づく本件特許権1の実施についての事実上の独占が損なわれたものということはできない

 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

時機に後れた攻撃防御方法であるとした事例

2013-04-10 22:47:52 | 特許法その他
事件番号 平成24(ネ)10030
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成25年01月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文 、裁判官 岡本岳,武宮英子

(イ) 以上のように,原審の受命裁判官は,第1回弁論準備手続期日において控訴人らに対し無効論の準備をするように指示し,控訴人らは,本件訴訟の提起(・・・)から2か月以上後の平成21年2月6日付け第1準備書面により,本件特許1及び本件特許2の請求項1,3,5について最初の無効主張を行い,同年6月12日付け準備書面(4)により請求原因に追加された本件特許2の請求項7,8については,追加から約3か月後である同年9月18日付け第8準備書面により最初の無効主張を行っている。そして,平成22年2月5日の第8回弁論準備手続期日において,受命裁判官は,本件各特許について無効理由の追加は原則として認めないとし,同年6月14日(本件主張期限)の第11回弁論準備手続期日におい当事者双方により技術説明が実施され,原審裁判所は,以後,侵害論についての主張立証の追加は認めないとしたものである。
 上記原審の審理経過によれば,原審裁判所が侵害論についての主張立証の追加は認めないとした平成22年6月14日(本件主張期限)は,本件訴訟の提起から1年6か月以上後で,本件特許2の請求項7,8が請求原因に追加されてから約1年を経過し,しかも,受命裁判官が無効理由の追加は原則として認めないとした第8回弁論準備手続期日からも4か月以上を経過しているのであるから,侵害論の主張を制限する期間として短すぎるとは認められない
 ・・・
 また,控訴人らは,505号明細書は米国特許明細書であるから,提出が後れたことはやむを得ないものであった旨主張する。しかしながら,本件主張期限(平成22年6月14日)は本件訴訟の提起から1年6か月以上後である上,505号明細書を主引用例とする無効主張が記載された第25準備書面の提出及び505号明細書の証拠申出がされたのは,更にその10か月以上後の平成23年5月9日であって,米国特許明細書であることを考慮しても,その提出がこの時期に至ったことにやむを得ない事情があったと認めることはできず,控訴人らの主張は理由がない。
 ・・・
 原審追加無効主張(・・・)及びこれらに係る上記各証拠は,いずれも本件主張期限から6か月以上も経過した後に提出されたもので,提出が当該時期となったことにやむを得ない事情は認められないから,控訴人らは,少なくとも重大な過失によりこれらの主張立証を時機に後れて提出したものというべきであり,かつ,これにより訴訟の完結を遅延させるものと認められる。したがって,原審追加無効主張を時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下した原審裁判所の判断に,誤りはない。

民法416条の類推適用を受ける「通常生ずべき損害」

2013-03-10 21:01:04 | 特許法その他
事件番号 平成22(ワ)44473
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成25年01月24日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久、裁判官 志賀勝,小川卓逸

 本件JVは,被告方法を使用するに当たり,少なくとも,本件特許権があることを認識することができたにもかかわらず,これを認識することなく,被告方法を使用して本件特許権を侵害したことを推認することができるから,本件JVには,本件特許権の侵害について,過失があったものと認められる。そして,被告は,建築,土木工事等を業とする株式会社であるとともに(弁論の全趣旨),本件JVの構成員であるから,商法511条1項により,被告JVが本件特許権の侵害によって負う不法行為に基づく損害賠償債務につき,連帯債務を負うというべきである(最高裁平成6年(オ)第2137号同10年4月14日第三小法廷判決民集52巻3号813頁参照)。
 ・・・
 これらの事実を総合すれば,本件JVが本件特許権を侵害せずに本件各工事を工期内に完成させるには,技研施工に対して鋼管杭の打込みに係る下請工事を発注するしかなかったものと認められるから,原告技研は,本件JVの不法行為がなければ,技研施工が本件JVから鋼管杭の打込みに係る下請工事を受注し,粗利から変動経費を控除した限界利益の額に相当する技研施工の株式価値の上昇益のうち,本件特許権の共有持分の割合に相当する利益を得ることができたが,本件JVの不法行為により,上記利益を得ることができなかったものである。

 原告技研は,本件各工事全体の限界利益の額に相当する技研施工の株式価値の上昇益の全部が原告技研の逸失利益であると主張する。
・・・
 これらによると,本件発明の作用効果を発揮するのは,構成要件A,D及びEの部分であり,本件特許権の価値も当該部分にあるといえるから,当該部分に対応する鋼管杭の打込工事の限界利益の額に相当する技研施工の株式価値の上昇益のみが民法416条の類推適用を受ける「通常生ずべき損害」に当たるというべきである。また,本件特許権は,原告らの共有に係るから,原告技研は,自己の持分に応じてのみ損害賠償請求権を行使することができるものである(最高裁昭和39年(オ)第1179号同41年3月3日第一小法廷判決・裁判集民事82号639頁参照)。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

損害の発生があり得ないことを抗弁して、損害賠償を免れた事例

2013-03-10 21:00:21 | 特許法その他
事件番号 平成24(ワ)6892
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成25年01月24日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 谷有恒、裁判官 松川充康,網田圭亮

(2) 損害の発生
ア 商標権は,商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとともに,商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり,特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものではない。したがって,登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても,当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず,登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは,得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである(最高裁平成9年3月11日民集51巻3号1055頁参照)。

イ 本件で,原告又は原告子会社は,平成13年以降,大阪市内で「Cache」の名称の美容室を2店舗営んでおり,これらの店舗は,関西のヘアサロンを紹介した雑誌等を中心に広告宣伝されていたことが認められるが,これらの雑誌では同時に多数の美容室が紹介されており,原告又は原告子会社の店舗はそのうちの一つにすぎないことからすれば,本件商標が,関西圏においても他の美容室と差別化を図るほどの強い顧客吸引力を有していたとまでは認められないし,原告が,被告が営業する岐阜県岐阜市で店舗展開や営業活動をしていたとは認められず,美容室の商圏がそれほど広域には及ばないことも考え合わせれば,本件商標は,被告の営業する地域においては,一般需要者の間に知名度はなく,原告の営業としての顧客吸引力を有しないものであったといえる。
 また,被告は,その営業に被告標章2を使用していたものの,ことさら同標章を強調して広告宣伝していたような事情も見当たらず,被告の顧客は店舗周辺の住民が中心であったことからすれば,被告の売上げは被告自身の営業活動等によるものというべきであって,被告標章2の使用がこれに特に寄与したということはできない

ウ 以上認定した原告の営業の態様,被告の営業の態様,岐阜市と大阪市の距離関係等を総合すると,被告が,本件商標登録後に上記認定の限度で被告標章2を使用したことによって,原告には何らの損害も生じていないというべきであって,本件において,商標法38条3項に基づく損害賠償請求は認められない

別訴の不法行為による損害賠償は認容

損害の発生があり得ないことを抗弁して、損害賠償を免れた事例

2013-03-10 20:32:03 | 特許法その他
事件番号 平成24(ワ)6892
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成25年01月24日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 谷有恒、裁判官 松川充康,網田圭亮

(2) 損害の発生
ア 商標権は,商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとともに,商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり,特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものではない。したがって,登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても,当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず,登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは,得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきである(最高裁平成9年3月11日民集51巻3号1055頁参照)。

イ 本件で,原告又は原告子会社は,平成13年以降,大阪市内で「Cache」の名称の美容室を2店舗営んでおり,これらの店舗は,関西のヘアサロンを紹介した雑誌等を中心に広告宣伝されていたことが認められるが,これらの雑誌では同時に多数の美容室が紹介されており,原告又は原告子会社の店舗はそのうちの一つにすぎないことからすれば,本件商標が,関西圏においても他の美容室と差別化を図るほどの強い顧客吸引力を有していたとまでは認められないし,原告が,被告が営業する岐阜県岐阜市で店舗展開や営業活動をしていたとは認められず,美容室の商圏がそれほど広域には及ばないことも考え合わせれば,本件商標は,被告の営業する地域においては,一般需要者の間に知名度はなく,原告の営業としての顧客吸引力を有しないものであったといえる。
 また,被告は,その営業に被告標章2を使用していたものの,ことさら同標章を強調して広告宣伝していたような事情も見当たらず,被告の顧客は店舗周辺の住民が中心であったことからすれば,被告の売上げは被告自身の営業活動等によるものというべきであって,被告標章2の使用がこれに特に寄与したということはできない

ウ 以上認定した原告の営業の態様,被告の営業の態様,岐阜市と大阪市の距離関係等を総合すると,被告が,本件商標登録後に上記認定の限度で被告標章2を使用したことによって,原告には何らの損害も生じていないというべきであって,本件において,商標法38条3項に基づく損害賠償請求は認められない

別訴の不法行為による損害賠償は認容

明細書の要旨を変更するとした事例

2013-02-27 22:19:36 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10401
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光

ウ 本件発明における「無線電話通信システム」が備える「交換システム」は,特許請求の範囲の記載において,システムを構成する内部機器等の具体的構成を限定するものではないが,一定の形状や構造を有する実体を有することが前提となっていることは明らかである。
 また,本件発明における「送信」及び「受信」という文言も,本件特許の特許請求の範囲の記載における「伝える」「送り」「受信する」「送り出し」「送信する」「受信される」という各文言と同様に,「外へ(送信)」及び「外から(受信)」という意義を当然に含んでいるということができる。出トラヒックに関する「セルによってサービスされる無線電話に向かって出て行く音声呼トラヒックを受け取り,これに応じて個々の呼の出トラヒックを運ぶパケットを統計的に多重化された形式で前記セルに接続された少なくとも1つのリンク上に送り出」すとの記載における「受け取り」及び「送り出し」についても,「外部からの受信」及び「外部への送信」を意味するものと解されるから,本件構成についても,同様に解するのが相当である。
 したがって,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項(発明特定事項)を記載すべき特許請求の範囲の記載において,送信及び受信の主体が一定の形状や構造を有する意義を持つ「交換システム」であると記載されている以上,「交換システム」による「送信」及び「受信」は,「交換システム」の内部手段と区別された外への出口及び外からの入口において行われるというべきである。

エ 以上によると,本件構成における「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムから送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムで受信されるように入トラヒックを当該交換システムが送信する時刻を制御する手段」については,これを「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する手段」を意味するものと解するのが相当である。
 そして,本件発明2は,本件発明1を引用し,第2の手段がさらに出トラヒック及び入トラヒックの「コピー」に係る所定の機能を担う第3の手段を備える構成に限定するものであるから,同様に,上記手段を有するものである。

・・・
したがって,プロセッサからボコーダに送信される時刻を制御する技術的事項を開示するにすぎない本件当初明細書には,交換システムの出口から送信する時刻を制御することは記載されておらず,また,当業者が,本件当初明細書の記載から,本件構成に係る技術内容が記載されているものと理解することはできないというべきである。

イ 以上によると,本件当初明細書の発明の詳細な説明に記載された時刻の制御は,「交換システム」の「出口」から「送信」する「時刻」を制御するものではないから,本件構成は,本件当初明細書の記載の範囲内のものということはできず,本件補正は,本件当初明細書の要旨を変更したものというほかない。

権利濫用を認定した事例

2013-02-24 21:51:36 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)3460
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成25年01月17日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川康,西田昌吾

(1) 本件各商標について商標権者となるべき者
 ・・・本来,被告が出願し,その商標権者となるべきであるといえる(商標法3条1項柱書)。
 このように,・・・,原告が本件各商標権を有し続けることは,私企業たる原告の一存によって,公益法人として設立された被告の事業継続を不安定にさせ得る潜在的な危険があることを意味している。

 原告が本件各商標について登録出願し,商標権者であることを直ちに違法と評価するかはともかく,被告による独占的な使用を許諾する限りにおいて,かろうじて許容されてきたものといえる。すなわち,・・・,原告は,「日本漢字能力検定」などの事業を被告に引き継いだ以上,本件各商標の登録出願をした原告が,その商標権者であり続けるということは,これらの使用許諾が当然の前提となっているというべきである。
 原告は,・・・,最も重要な「日本漢字能力検定」の事業を被告に引き継いだ以上,原告のみが本件各商標を使用することは全く想定されていないというべきである。
 ・・・
(2) 被告による使用状況
 本件各商標は,その商標登録から現在に至るまで,被告の事業の中心である「日本漢字能力検定」の事業を表すもの(本件商標1,2),あるいはこれに付随する事業を表すもの(本件商標3)として使用されてきた商標であり,前記1(2)のとおり,受検者の増加に伴い,その旨一般にも広く認識されてきたといえる。

(3) 危険性の顕在化
 ところが,前記1(4)のとおり,原告は,平成21年11月以降,本件各商標権を,被告とは関係のない第三者に移転したり,被告に対して本件各商標の使用を中止するよう通告したりした上,ついには被告による本件各商標の使用差止めを求める本件訴えの提起にまで至った。このことは,まさに原告が本件各商標権を有することに伴う前記潜在的危険性を顕在化させたものであり,原告は,その権利保有及び行使が許容される根拠を自ら喪失させたといえる。しかも,前記1に認定の事実経過からすれば,原告が本件訴えを提起したのは,本件各商標権が自己に帰属していることを奇貨とし,被告からの損害賠償請求等への対抗策として利用するためといえるが,商標制度が保護すべき権利,利益とは,およそかけ離れた目的といわざるを得ない。

(4)まとめ
 以上のとおり,本件訴えにおける原告の請求は,本件各商標権が本来帰属すべき主体である被告の事業継続を危うくさせるものでしかなく,しかも,商標本来の機能とは関わりなく,被告からの損害賠償請求等への対抗策として本件各商標権を利用しているというのであるから,そこにもはや何らの正当性はなく,権利濫用に当たるというほかない
 したがって,原告が,本件各商標権に基づき,被告による本件各商標の使用差止めを求めることは許されない。

未承認国の国籍を有する者のPCTに基づく国際出願の特許を受ける権利の承継

2013-02-11 17:34:58 | 特許法その他
事件番号 平成23(行コ)10004
事件名 手続却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治

1 事案の概要
 北朝鮮に居住する北朝鮮国籍を有するAらがPCTに基づいて行った本件国際出願について,Aらから本件発明に係る日本における一切の権利を譲り受けた原告が,日本の特許庁長官に対して国内書面等を提出したところ,特許庁長官から,本件国際出願は日本がPCTの締約国と認めていない北朝鮮の国籍及び住所を有する者によりされたものであることを理由に,本件手続却下処分を受けたため,原告は,原審において,被告に対し,同処分の取消しを求めて訴えを提起した。
 原審は,本件手続却下処分に取消事由はないと判断し,原告の請求をいずれも棄却した。
 参加人は,原告から本件発明に係る特許出願に関する権利と共に本件訴訟を追行する地位を譲り受けたと主張して,被告を相手方として本件訴訟手続に承継参加するとともに,控訴を提起した。当審における手続中に,原告は訴訟手続から脱退したため,原告,被告間の訴訟は終了し,原告,被告間の訴訟につき言い渡された原審の判決は当然に失効した。
 ・・・
第3 当裁判所の判断
 ・・・
(2) 特許を受ける権利の特定承継は,特許出願前においては,当事者間の合意のみでその効力が生じ,承継人による特許出願が第三者に対する対抗要件とされているのに対し,特許出願後においては,特許庁長官への届出を要する旨規定されている(特許法34条1項,4項)。
 本件において,本件発明に係る特許を受ける権利の承継について,特許庁長官への届出がされた事実はない(弁論の全趣旨)。しかし,本件は,
① 本件国際出願により,我が国においてその国際出願日に特許出願がされたとみなすことができるか否かが主要な争点であり,
② 特許庁長官の主張を前提とするならば,仮に,本件発明に係る特許を受ける権利の承継に係る届出がされたとしても,本件書面と同様の理由によって,手続却下がされることが明らかな場合
である


 このような場合においては,承継に係る届出がされたとの事実がなくとも,本件発明に係る特許出願に関する権利及び本件訴訟を追行する地位を,原告から譲り受ける旨の合意をした参加人は,本件手続却下処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有すると解するのが相当である。

自然法則を利用していないとした事例

2012-12-22 22:58:09 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10134
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 高部眞規子,齋藤巌
特許法2条1項

(1) 自然法則の利用について
 特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定するところ,人は,自由に行動し,自己決定することができる存在である以上,人の特定の精神活動,意思決定,行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても,人の特定の精神活動,意思決定や行動態様等自体は,直ちには自然法則の利用とはいえない。
 したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,専ら,人間の精神的活動を介在させた原理や法則,社会科学上の原理や法則,人為的な取り決めや,数学上の公式等を利用したものであり,自然法則を利用した部分が全く含まれない場合には,そのような技術的思想の創作は,同項所定の「発明」には該当しない

(2) 本願発明の構成について
 前記1(1)の①ないし⑤の構成は,「省エネ行動シート」という図表のレイアウトについて,軸(・・・)と,これらの軸によって特定される領域(・・・)のそれぞれに名称を付し,意味付けすることによって特定するものであるから,各「軸」及び各「領域」の名称及び意味,という提示される情報の内容に特徴を有するものである。
 そして,図表の各「軸」,及び軸によって特定される「領域」に,それぞれ・・・という名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には自然法則を利用するものではなく,本願発明の「省エネ行動シート」を提示された人間が,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することを可能とするものである。
 また,本願発明の「省エネ行動シート」は,人間に提示するものであり,何らかの装置に読み取らせることなどを予定しているものではない。そして,人間に提示するための手段として,紙などの媒体に記録したり,ディスプレイ画面に表示したりする態様などについて,何らかの技術的な特定をするものではないから,一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない

(3) 本願発明の課題と作用効果について
 ・・・
 本願発明の上記作用効果は,一方の軸と,他方の軸の両方向への広がり(面積)を有する「領域」を見た人間が,その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し,把握することができること,さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば,その「領域」の意味を理解することができる,という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するものである。このような心理学的な法則により,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することは,専ら人間の精神活動に基づくものであって,自然法則を利用したものとはいえない

<筆者メモ>
(判決の要点)
○ 法2条1項の解釈へのあてはめにおいて、認知のメカニズムを利用したレイアウト(を有するシート)は技術的思想であるが、自然法則を利用していないとしている。
○ 自然法則を利用していないとする理由は、人間への提示であること、提示手段に一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存しないということである。こういうからには情報の人間への提示、または、情報の提示手段に技術的特徴がない場合、は自然法則を利用していないとの前提があるはず。
○ 作用効果が心理学的な法則を利用した専ら人間の精神活動に基づくもので自然法則を利用していないことを理由の一つとしている。
(疑問点)
・ 作用効果は発明の特定事項ではない。作用効果の自然法則利用性を検討した点は不自然ではないか。この結論なら、発明特定事項が(読取装置の技術的特性に対応する等していないので)自然法則を利用しておらず、専ら心理学的な法則を利用したレイアウトに過ぎない、とした方がよかったのではないか。
・ 心理学的な法則(認知メカニズム)は人間の脳の化学反応等により引き起こされており、化学反応等の自然法則を利用しているとも言える。判決は法2条1項の「自然法則」をどう解釈し、どこで線引きしたのか。精神活動でも人によってまちまちな好き・嫌いなどと、ほとんどそうなるという認知メカニズムとでは異なり、前者は「専ら心理学的な法則を利用した」と言えるが後者は違うのではないか。
・ 情報の人間への提示、情報の提示手段に技術的特徴がない場合、は自然法則を利用していないとの前提は正しいか。

発明者の認定事例

2012-12-16 11:06:00 | 特許法その他
事件番号 平成21(ワ)33931
事件名 発明対価等請求事件
裁判年月日 平成24年11月22日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久、裁判官 志賀勝,裁判官 小川逸
特許法35条

イ 発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうところ(特許法2条1項),特許を受ける権利を原始的に取得する発明者とは,特許請求の範囲に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担した者をいうと解するのが相当である。
・・・
(イ) そして,前記ア認定の事実によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1の「・・・A・・・」する構成,同請求項2の「・・・B・・・」との構成は,本件発明に係る特許出願がされた当時,いずれも原告やG等の研究によって公知であったものであり,また,本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1の芯材「の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設け」る構成,同請求項2の「複数の強化用繊維を混合粉末流動層に導入して,各強化用繊維間に混合粉末が包含された芯材を形成し,次いで該芯材を熱可塑性樹脂で被覆して芯材の周囲に柔軟なスリーブを設ける」との構成も,本件発明に係る特許出願がされた当時,いずれもアトケム発明の出願公開によって公知であったものである。

(ウ) 以上によれば,本件発明に係る技術的思想の特徴的部分は,前記の両公知技術を組み合わせたところにあるものと認められる。前記ア認定の事実によれば,この組合せを着想し,試作によってC/C複合材料用のプリフォームドヤーンを製作する見通しを付けたのは,被告Bだけであるから,被告Bが本件発明の発明者であり,原告が単独又は共同で本件発明をしたとは認められない