知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許クレームの進歩性の判断の際の認定手法等

2007-02-15 07:19:19 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10210等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


『甲第3号証記載発明は「パイプ」相互の隙間の充填についてのものであるところ,ここにいう「パイプ」は本件発明3の「毛管束」と必ずしも構造等が同一ではない上,甲第3号証のパイプ同士の隙間を充填することと本件発明3において毛管束同士の隙間を充填することとの技術的意義の異同についても検討されていない。さらに,甲第1号証記載発明に甲第3号証記載の事項をどのように適用すれば本件発明3の構成に至るのかも,定かではない。
 そうすると,審決が説示するような意味で両者が同一技術分野に属するとしても,それだけでは,甲第1号証記載発明に甲第3号証記載発明を適用して本件発明3の構成を得ることが容易であるとはいえない。したがって,審決は,理由付けが不十分であるといわざると得ず,原告の上記主張は,この点をいうものとして理由がある。』

『 被告は,審判手続における平成17年9月1日付け口頭審理陳述要領書
(B事件甲11)において被告(審判請求人)が行った特許法36条5項2号違反の主張について,審決が判断しなかったのは誤りであると主張する。
しかし,審判手続における被告の当該主張は,無効審判請求書(B事件乙1)に記載のない新たな無効理由を追加するものであって,実質上,審判請求書の要旨を変更する補正に該当する。このような補正は,審判長の許可がある場合等でなければ許されないのであるから,審決が,当該主張に対する判断を示していないことが誤りであるとはいえない。
 なお,被告の当該主張は,本件訂正により請求項1の内容が変更されたことに伴うものであって,特許法131条の2第2項1号にいう「当該特許無効審判において第134条の2第1項の訂正の請求があり,その訂正の請求により請求の理由を補正する必要が生じたとき」に該当するものであるということはできる。しかし,特許法131条の2第2項各号に該当する事由があっても,補正を許可するか否かは審判長の裁量権に服する事項であるから(同項柱書き),審判長が当該補正を許可せず,審決が当該主張に対する判断を行っていないことが,誤りであるとはいえない。』

『3 付言
(1) 本件発明1を,甲第1~8号証の記載とを対比すると,本件発明1の主たる特徴は,①「チャネル(注:この『チャネル』が複数であるか単数であるかも国際出願の原文を踏まえて確定されるべきである。)」が「複数の別個の毛管束」で構成されること,②「複数の別個の毛管束」が「支持構造体により互いに相対的にしっかりと固定」されること,の2点にあることがうかがわれる。
 審決は,主たる引用発明となる「甲第1号証記載発明」を,「X線のビームを制御する装置であり,繰り返し全外反射をする多数のチャネルで作られたシステム。」(14頁第5段落)という漠然とした概念のレベルで認定した上で,①と②の点をひとまとめにして「相違点1」として検討しているが,このことが,誤りの原因であったものと考えられる。
(2)上記①の点,すなわちチャネルが「複数の別個の毛管束」で構成されることの容易想到性の検討に際しては,「複数の別個の毛管束」という用語の技術的意義を本件特許明細書の記載に基づいて確定した上,被告が指摘する甲2~8号証の各記載等が参酌されるべきである。
(3)上記②の点,すなわち支持構造体の構成については,まず「支持構造体」の具体的内容を検討する必要がある
この点につき,本件特許の請求項2以下を見ると,支持構造体の構成を直接に規定するのは主として以下の4つであると考えられる。
【請求項2】支持構造体がチャネルを支持する開口を有する,請求項1の装置。
【請求項3】複数の毛管束の間の隙間を充填する化合物で支持構造体を構成した,請求項
1の装置。
【請求項5】チャネルの壁をそれらの外面において剛にリンク連結することにより,支持
構造体を構成した,請求項1の装置。
【請求項34】支持構造体が積み重ね可能なクレードル部材で構成されている,請求項1の
装置。
そこで,これらの構成の「支持構造体」の技術的意義を本件特許明細書に基づいて確定した上,当該「支持構造体」の構成が甲号各証に記載又は示唆されているかを検討し,もし記載又は示唆されているのであれば,当該構成を,チャネルを複数の別個の毛管束で形成した上記①の特徴を有する装置に適用することが容易か否か,等の検討が行われるべきである。』





商標がその一部で称呼される場合、及び、類否判断における取引の実情

2007-02-15 06:39:14 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10391
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『2 外観,称呼,観念の類否に関する審決の認定について
 ・・・
 ・・・ 本願商標は,その構成中,極めて小さく表された「ShimadzuAdvanced Flat Imaging REceptor」の部分を除き, 「DIGITEX」及び「safire」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮し得るものであると認められる。そして,「DIGITEX」及び「safire」の文字部分のうちでも,「safire」が本願商標の中央に配置され,文字の大きさも「DIGITEX」に比べてはるかに大きいことに照らすと,本願商標に接する取引者・需要者が「safire」の文字部分のみに着目し,該文字部分から生じる称呼等をもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。
 そして,「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」ところ(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁),本願商標に接する取引者・需要者が,その構成中,視覚的に分離され,かつ,本願商標の中央に顕著に表された「safire」の欧文字部分を捉えて,この部分から生ずる「サファイア」の称呼をもって取引に当たることは,取引の経験則に照らして極めて自然なことである。
 したがって,審決が本願商標と引用商標との類否判断をするに当たり,本願商標から「サファイア」の称呼が生ずると認定し,当該称呼をもって引用商標との類否判断に供したことに誤りはない。』

『3 出所混同のおそれに関する審決の認定判断について
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
   ・・・
(2) 原告は,本願商標を付した商品である循環器X線撮影装置の広告宣伝の態様,販売の状況,新聞雑誌等での扱い等に関する事実を指摘し,本願商標は「DIGITEX safire」という一連のものとしてして取引者・需要者に把握され,原告の製造販売に係る当該装置を指すものとして周知となっていると主張する。
 しかし,前記最高裁判決にいう具体的な取引状況とは,指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって,単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的・限定的なそれを指すものではないことは明らかであるところ,原告の主張する事情は,正に,本願商標の指定商品の一部の商品についての特殊的・限定的な取引の実情にとどまるものであって,本願商標の広範な指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情ではない。したがって,原告の主張は採用することができない。
(3) 原告は,指定商品の一般的な取引の実情という観点から考えても,本願商標の指定商品は取引者・需要者が慎重に検討の上で購入するものであるから,出所の混同を生じる可能性は著しく低いと主張する。しかし,本願商標及び引用商標に共通する指定商品である「医療用機械器具」について検討すると,原告の主張は採用することができない。
 すなわち,商標法施行規則6条別表によれば,第10類の「医療用機械器具」には「(一) 診断用機械器具」として「体温計」が含まれ,これは一般の消費者を対象にし,薬局やドラッグストア等でも取り扱われている日常生活に結びついた商品であるから,かかる商品に使用される商標に関する類否判断は,一般の消費者が通常有する注意力を基準としてなされるべきものである。また,需要者が医療従事者に限られる商品の中でも,「(三) 治療用機械器具」に属する「注射筒」「注射針」のように比較的安価な消耗品もあるから,必ずしもそのすべてが取引者・需要者において慎重に検討の上で購入するものであるということもできない。』