知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許出願に係る発明の要旨の認定

2011-02-20 22:35:41 | 特許法70条
事件番号 平成22(行ケ)10172
事件名 審決取消当事者参加事件
裁判年月日 平成23年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

当事者参加人は,・・・,特許請求の範囲に記載した発明は,発明の詳細な説明に記載したものと同一でなければならないので,本願発明2における
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」は
「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻
と同義であって,そのように解すべきと主張する
ので,以下検討する。

イ 特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照 。)
以上を前提とした場合,まず,本願発明2の「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」との記載は,その技術的意義は明確である。

 そして 「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」と「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所に存する蟻」とでは,前者が単に蟻の一般的性質を述べたにすぎないのに対し,後者は蟻の所在場所を限定していることになり,その意味が大きく異なるものであって,本願発明2の請求項における前者の記載が明らかな誤記であり,これを後者のように解すべきとする十分な根拠もない
・・・
 このように,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明1に対応する部分も,本願発明2に対応する部分も,共に存在することから,本願発明2における「同種の個体群と共に生活する共同の巣または生息場所を有する蟻」との記載が一見して誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるとはいえず,発明の詳細な説明の本願発明1に対応する部分の記載をもって,本願発明2において防除の対象とする蟻を本願発明1と同様に解すべき旨の当事者参加人の主張は採用できない

超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法

2011-02-20 20:56:42 | Weblog
事件番号 平成20(ワ)22178
事件名 特許権承継対価請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎


(1) 原告らは,被告は,・・・,本件各発明について,他社に実施許諾をせずに,自社で独占実施(自己実施)してきたところ,被告の本件エアコンの売上高のうち,本件熱交換器に係る部分には,被告が法定通常実施権(特許法35条1項)に基づく実施を超えて本件各特許権に基づいて独占的に売り上げることができた超過売上高が含まれており,その超過売上高に係る実施料相当分(想定実施料)が,「独占の利益」すなわち特許法旧35条4項所定の「発明により使用者等が受けるべき利益」に当たるといえるから,特許法旧35条3項,4項の規定に従って定められる本件各発明に係る相当の対価は,(本件エアコンの売上総額)×(本件エアコンにおける本件各発明の寄与度)×(超過売上高の合)×(想定実施料率)×(1-被告の貢献度)の算定式(原告算定式)によって算定すべきである旨主張する
 ・・・
 この「超過利益」の額は,従業者等が第三者に当該発明の実施許諾をしていたと想定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではないと考えられるので,超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法にも合理性があるものと解される。
 したがって,本件においては,原告らが主張するように,超過売上高を認定し,その部分に係る利益(独占の利益)をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」とし,これと被告の貢献の程度(「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度)を考慮して相当の対価の額を認定することは許されるものと解される。
 ・・・
(2) 本件各発明の技術的優位性の有無
エ ・・・,競合他社は,熱交換器のフィンパターンに関し,本件各発明の代替技術を有していたものと認められるところ,本件においては,本件各発明がこれらの代替技術よりも熱交換効率の向上その他の効果等の点において技術的に優位であったことを認めるに足りる証拠はない

(3) 本件各発明を実施したエアコン製品の市場における優位性の有無
 ・・・
(ア) 被告のエアコン製品の市場シェアについて
 ・・・
c 以上によれば,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,被告のエアコン製品の市場シェアの増加をもたらしたものと認めることはできない。また,被告のエアコン製品の市場シェアの各数値に照らしても,本件各発明を実施した被告のエアコン製品が市場を独占しているような状況や競合他社を凌ぐような状況にあったものとは認めがたい。
 したがって,被告のエアコン製品の市場シェアから,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,エアコン製品の市場における優位性を獲得したものということはできない
 ・・・
(イ) 被告のエアコン製品の売上げ及び利益の増加について
 原告らは,本件各発明を実施したことにより,熱交換器,ひいてはエアコン全体が従来の製品より大きく性能が向上し,被告が本件各発明を実施したエアコン製品(本件エアコン)を市場に投入してから,被告の売上高及び利益が増加し,エアコン製品の市場における優位性を獲得した旨主張する。
 しかしながら,超過売上高の有無を判断するに当たっては,自社の従来製品との性能との比較ではなく,あくまで競合他社と比較した場合の優位性が問題となるというべきであり,また,売上高及び利益の増減には,市場規模全体の増減も影響することに鑑みると,競合他社との優位性の比較は,結局のところ市場シェアの割合に反映されるものと解される。
 そして,被告のエアコン製品が市場シェアにおいて優位性が認められないことは前記(ア)のとおりであるから,原告らの主張は,その主張自体採用することができない。

発明の技術的課題と動機付け、相違点の構成の特徴の検討を要するとした事例

2011-02-14 20:52:04 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10056
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

(3) しかし,この審決の判断の流れは,②,④,⑥の周知技術を前提とし,①,⑤の自明課題,設計事項を踏まえ,bの甲第1号証から読み取れる事項も認定したうえ,③,⑦,⑧の判断を経て,⑨,⑩,⑪のとおり相違点1ないし3の容易想性を導いているものであって,甲第3,10,21,22号証は周知技術の裏付けとして援用したものである。

 このうち,④の周知技術の認定で審決が説示する「液体インク収納容器からの色情報」が単に液体インク収納容器のインク色に関する情報でありさえすればよいとすると,前記周知技術は,液体インク収納容器と記録装置側とが発光部と受光部との間の光による情報のやり取りを通じて当該液体インク収納容器のインク色に関する情報を記録装置側が取得することを意味するものにすぎない。このような一般的抽象的な周知技術を根拠の一つとして,相違点に関する容易想到性判断に至ったのは,本件発明3の技術的課題と動機付け,そして引用発明との間の相違点1ないし3で表される本件発明3の構成の特徴について触れることなく,甲第3号証等に記載された事項を過度に抽象化した事項を引用発明に適用して具体的な本件発明3の構成に想到しようとするものであって相当でない

 その余の自明課題,設計事項及び周知技術にしても,甲第3号証等における抽象的技術事項に基づくものであり,同様の理由で引用発明との相違点における本件発明3の構成に至ることを理由付ける根拠とするには不足というほかない。

阻害事由を認めた事例

2011-02-14 20:09:45 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10184
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 しかしながら,引用例1及び2には,前記フランジ部に金属板をインサート成形したとしても,この部分に雄ねじを,筒状止め金具の内側に雌ねじを,それぞれ形成して,両部材の固定に当たって前記周知技術である螺着という方法を採用することについては,いずれも何らこれを動機付け又は示唆する記載がない

 むしろ,引用発明は,本件先行発明の制御機構が,取付筒に形成された雄ねじと弁本体の内側に形成された雌ねじにより螺着されているが,雄ねじの形成にコストがかかり,かつ,取付けに当たり接着剤を使用する必要があり,取付作業が面倒になる(【0012】)という課題を解決するために,かしめ固定という方法を採用し(【0047】),本件先行発明が採用するねじ結合による螺着という方法を積極的に排斥したものである
 したがって,引用例1及び2に接した当業者は,あくまでも制御機構(パワーエレメント部)と樹脂製の弁本体をかしめ固定により連結することを前提とした技術の採用について想到することは自然であるといえるものの,本件先行発明が採用していながら,引用例1が積極的に排斥したねじ結合による螺着という方法を想到することについては,阻害事由があるといわざるを得ない

面接の性質

2011-02-14 20:09:21 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10263
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

・・・本件訴訟においても,本件補正が不適法であること自体について原告は争っておらず,これが適法であることを裏付けるべき主張立証もないので,本件補正を前提としての本願発明の分割出願が適法になるものということはできない。そうである以上,審判官が上記内容についての面接要請に応じなかったことをもって,審判手続に違法があるとすることはできない
・・・
 原告は,特許庁が発行しているガイドライン(乙1)中には,面接等の要請に応じることができない12の事例が挙げられているところ,原告の面接要請は,いずれの事例にも該当しないから,面接をする機会を与えなかった審判合議体の判断は,ガイドライン違反であると主張する

 しかし,ガイドラインは特許庁が定めている基準であって,面接の機会を与えられなかったことが違法となるか否かは本件訴訟で独自に判断すべきである。そして,本件審判手続において面接を行わなかったことをもって違法とすべき事実関係を認めることができないことは,冒頭に説示したとおりである。
 拒絶査定不服審判は,書面審理により行われるものである(特許法145条2項)ところ,審判手続において,審判合議体と請求人側との密な意思疎通を図り,それにより審理の促進に役立てるために面接が実務上行われているとしても(ガイドライン1.1(乙1)参照。),それは,特許法上規定された手続ではなく,請求人に対するいわゆる行政サービスの性質を持つものである

 そうすると,拒絶査定不服審判の審理に際して面接を行うか否かは,個々の事案において審判合議体の裁量に属する事項であり,特段の事情のない限り,面接を行わなかったことが審判手続上の違法となるものではない。そして,上記説示したところによれば,本件においてこの特段の事情はない。

控訴審において出願経過が参酌されなかった事例

2011-02-14 19:00:00 | Weblog
事件番号 平成22(ネ)10031
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

イ 判断
 上記記載によれば,構成要件C1の「・・・後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」は,従来技術においては,前後の壁面の上部に上側段部が,深さ方向の中程に中側段部が形成されている流し台のシンクでは,上側段部と中側段部のそれぞれに,上側あるいは中側専用の調理プレートを各別に用意しなければならないという課題があったのに対して,同課題を解決するため,後方側の壁面について,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とをほぼ同一の長さに形成して,それら上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すことができることを図ったものである。
 ところで,上記記載における「発明の実施形態」では,後方側の壁面は,上側段部から中側段部に至るすべてが,奧方に向かって延びる傾斜面であり,垂直部は存在するわけではない。
 しかし,本件明細書中には
「本発明は,上述した実施の形態に限定されるわけではなく,その他種々の変更が可能である。・・・また,シンク8gの後方側の壁面8iは,・・・上部傾斜面8pとなっていなくとも,上側段部8fと中側段部8nとに同一のプレートが掛け渡すことができるよう,奥方に延びるように形成されているものであればよく,その形状は任意である。」
と記載されていることを考慮するならば,後方側の壁面の形状は,上側段部と中側段部との間において,下方に向かうにつれて奥方に向かってのびる傾斜面を用いることによって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易に同一にすることができるものであれば足りるというべきである。

 そうすると,構成要件C1の「前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」とは,後方側の壁面の形状について,上側段部と中側段部との間のすべての面が例外なく,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面で構成されている必要はなく,上側段部と中側段部との間の壁面の一部について,下方に向かうにつれて奥行き方向に傾斜する斜面とすることによって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易に同一にするものを含むと解するのが相当である。

<原審>
事件番号 平成21(ワ)5610
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 清水節

原告は,本件特許の出願当初の【特許請求の範囲】において,
【請求項1】を「・・・」として,上側段部と下側段部に同一のプレートを載置することが可能となるように,上側段部同士と中側段部同士との幅がほぼ同一に形成された流し台のシンクとして特許請求の範囲に記載していたところ,特許庁審査官から,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶理由通知を受け,
【請求項1】を,「・・・」と補正し,出願当初の【請求項1】の構成のうち,構成要件C1の構成を有するものに限定することにより,特許庁審査官の指摘した特許法29条2項の規定に該当するという拒絶理由を回避して,特許査定を受けたものであることが認められる。

エ 以上のような本件明細書の記載,図面及び出願経過に照らせば,「前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」(構成要件C1)という構成は,後方側の壁面の傾斜面が,中側段部によりその上部と下部とが分断されるように後方側の壁面の全面にわたるような,本件明細書に記載された実施形態のような形状のものに限られないと解されるものの,その傾斜面は,少なくとも,下方に向かうにつれて奥方に向かって延びることにより,シンク内に奥方に向けて一定の広がりを有する「内部空間」を形成するような,ある程度の面積(奥行き方向の長さと左右方向の幅)と垂直方向に対する傾斜角度を有するものでなければならないと解するのが相当である。

明細書の要旨の変更の判断基準

2011-02-13 22:26:27 | Weblog
事件番号 平成22(ネ)10009
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

「ところで,補正により,特許請求の範囲に記載された技術的事項が,原明細書等に記載された事項,又は,少なくとも出願時において当業者が原明細書等に記載された技術内容に照らし現実に記載があると認識し得る程度に自明な事項を超える場合,当該補正は明細書の要旨を変更したものとなる。

 また,当初明細書に現実記載があると認識し得る程度に自明な事項であるというためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもがその事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項でなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かるという程度のものでは,自明ということはできない

 さらに,当業者が,ある周知技術を前提として,当初明細書の記載から当該事項を容易に理解認識することができるというだけでは足りず,周知技術であっても,明細書又は図面の記載を,当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要である。」
・・・
「補正が要旨変更にあたるか否かは,明細書を補正した結果,特許請求の範囲に記載した技術的事項が,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるか否かを基準に判断される。」

一部の要件の意義を検討してサポート要件を判断するのを誤りとした事例

2011-02-12 21:10:27 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(ネ)10009
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 なお,本件発明では,平衡重りのセンサ全体に対する重量比は,レベル・センサの安定性に寄与しているものの,それはセンサ全体の重心がセンサの中心からずれているという構成,すなわち,センサが外力に対する安定性(復原モーメント)を有することを前提として,その復原力の大きさ,すなわち安定性の程度を調整するための1つの要素として機能しているのであり,30%という具体的な数値そのものが技術課題を直接達成する関係にある必要はない。したがって,課題解決のために組み合わせた構成から,センサ全体に対する平衡重りの重量比を少なくとも30%とするとの要件のみを切り離して,これが課題解決のために不可欠な構成であるか否かを判断するのは誤りである

 以上によれば,当業者からすれば,平衡重りとセンサ全体の重量比を一定比率以上とすることが,レベル・センサを液体中においておおむね主水平位置に安定的に維持するという効果に寄与することは,明細書の記載と技術常識に基づいて容易に理解することができ,サポート要件に違反しない

原審

国際予備審査に対する無効確認と義務づけの訴え

2011-02-12 15:02:30 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)304
事件名 審査結果無効確認及びその損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

3 争点3(無効等確認の訴えの適法性)について
 無効等確認の訴えは,「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟」である(行政事件訴訟法3条4項)ところ,「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される。

 これを本件についてみると,前記1のとおり,国際予備審査は,・・・,出願人の請求により,国際予備審査機関が「予備的なかつ拘束力のない見解」を示すにすぎないものであるから,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできない。
 したがって,国際予備審査の結果である国際予備審査報告書及びこれに記載された見解,国際予備審査機関の見解書及びこれに記載された見解は,無効等確認の訴え(行政事件訴訟法36条,3条4項)の対象である「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(同法3条2項)にも,「審査請求,異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の行為」(同法3条3項)にも該当しないから,本件見解書及び本件報告書ないしこれらに記載された見解が無効であることの確認を求める原告の無効等確認の訴えは不適法なものである。


4 争点4(義務付けの訴えの適法性)について
行政事件訴訟法3条6項2号により行政庁に義務付けを求め得る「処分又は裁決」とは,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される。
 原告は,特許庁長官に対し,本件見解書及び本件報告書が無効である事実を認め,無効な審査結果によって原告が被った損害を賠償し,特許庁審査官の特許法29条に基づく実体審査の在り方,審査業務の取組姿勢を見直し,再発を防止することの義務付けを求めるが,原告が求めるものは,いずれも直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできないから,行政事件訴訟法3条6項2号により行政庁に義務付けを求め得る「処分又は裁決」に該当しない


関連事件

国際予備審査機関の見解書、予備審査報告書に対する国家賠償請求

2011-02-12 14:38:08 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)304
事件名 審査結果無効確認及びその損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点1(国家賠償法1条1項の違法の有無)について
(1) 原告は,特許庁審査官が,本件見解書において本件国際予備審査請求の請求の範囲21及び22につき,本件報告書において本件国際予備審査請求の請求の範囲9ないし13につき,それぞれ特許性(進歩性)がない旨の審査をしたことが特許法29条に則さない論理付けであって無効であるから,これらの書面を作成・送付した行為が違法であると主張する。

 しかし,前記1(2)エ(ウ)のとおり,国際予備審査は,予備的で選択国を拘束しないものであり,いずれの国内法令からも独立し,PCT33条に規定された要件によってのみ行われるものであるから,国際予備審査報告においては,当該国際出願の請求の範囲に記載されている発明がいずれかの国内法令により特許を受けることができる発明であるかどうか又は特許を受けることができる発明であると思われるかどうかの問題についてのいかなる陳述をも記載してはならないとされている(PCT35条(2))
 したがって,本件国際予備審査請求に係る国際予備審査報告を作成する特許庁審査官に対し,本件国際予備審査請求の請求の範囲に係る発明につき,我が国の特許法29条に基づく特許性(進歩性)の有無の判断を求めることを前提とする原告の主張は,PCT35条(2)に反する行為を求めるものであって,失当である

(2) また,前記1(2)エ(ウ),(オ)のとおり,
国際予備審査機関の見解書
には,特許性を有しない旨の見解及びその根拠を十分に記載するものとされており,
国際予備審査報告
には,当該国際出願の請求の範囲に記載されている発明がPCT33条(1)ないし(4)までに規定する新規性,進歩性(自明のものではないもの)及び産業上の利用可能性の基準に適合していると認められるかどうかを各請求の範囲について記述し,その記述の結論を裏付けると認めらる文献を列記し,場合により必要な説明を付するものとされている
が,
・・・
から,本件見解書及び本件報告書の記載は,PCT35条(2),PCT規則66.2の規定に則したものである。また,本件報告書の第Ⅱ欄の3における請求の範囲5-13,15-28に係る各発明の基準日に関する記載も,PCT規則70.2(c)の規定に則したものである。
 ・・・
 以上からすると,特許庁審査官が本件見解書及び本件報告書を作成し,特許庁がこれらの書面を原告・国際事務局に送付するに当たり,特許庁審査官及び特許庁長官がその職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と行為をしたと認め得るような事情は認められないから,原告主張の行為に国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。

(3) 原告は,我が国では,本件国際予備審査請求の請求の範囲9ないし13,21及び22と全く同じ構成の発明につき,特許性ありとして登録査定がされていることから,本件見解書及び本件報告書における特許性(進歩性)の審査結果が無効であることは明らかであると主張するが,
 上記(1)のとおり国際予備審査は,いずれの国内法令からも独立してPCT33条に規定された要件によってのみ行われるものであるから,我が国の特許法に基づき特許査定がされたことをもって本件見解書及び本件報告書における特許性についての審査結果が無効であるということはできず,原告の主張を採用することはできない

関連事件

自動生成コードを含むプログラムの著作物性の有無

2011-02-12 13:26:59 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)11762
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎


(1) 原告プログラムの著作物性について
・・・
イ そこで,原告プログラムにおける創作性の有無について検討するに,一般に,ある表現物について,著作物としての創作性が認められるためには,当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し,かつそれで足りるものと解されるところ,この点は,プログラム著作物の場合であっても特段異なるものではないというべきであるから,プログラムの具体的記述が,誰が作成してもほぼ同一になるもの,簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又はごくありふれたものである場合には,作成者の個性が発揮されていないものとして創作性が否定されるべきであるが,これらの場合には当たらず,作成者の何らかの個性が発揮されているものといえる場合には,創作性が認められるべきである

 しかるところ,原告プログラムは,上記アのとおり,株価チャート分析のための多様な機能を実現するものであり,膨大な量のソースコードからなり,そこに含まれる関数も多数にのぼるものであって,原告プログラムを全体としてみれば,そこに含まれる指令の組合せには多様な可能性があり得るはずであるから,特段の事情がない限りは,原告プログラムにおける具体的記述をもって,誰が作成しても同一になるものであるとか,あるいは,ごくありふれたものであるなどとして,作成者の個性が発揮されていないものと断ずることは困難ということができる。

ウ これに対し,被告らは,原告プログラムにおいては,画面上の構成要素を貼り付け,ボタン等を配置するために必要なプログラムなど,開発ツールであるMicrosoft社の「Visual Studio.net」によって自動生成された部分が相当の分量に及んでおり,これらの部分には創作性がないとした上で,原告プログラムのうちのMainForm.csの原告ソースコードに含まれる各関数を分析すると,別紙5において☆,○又は□の印を記載したものについては,自動生成コードが相当割合を占めることから,創作性が認められない旨を主張する。

 しかしながら,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる各関数における自動生成コードの占める割合が被告ら主張のとおりであることを前提にしたとしても,少なくとも別紙5において△の印が記載された合計10の関数については,被告ら自身が汎用的でないコードからなるものであることを認めており,創作性が認められることに実質的な争いはないものといえる。
・・・
 この点,被告らは,これらの関数について,汎用的プログラムの組合せであることを理由として創作性が否定されるかのごとく主張するが,汎用的プログラムの組合せであったとしても,それらの選択と組合せが一義的に定まるものでない以上,このような選択と組合せにはプログラム作成者の個性が発揮されるのが通常というべきであるから,被告らの上記主張は採用できない

 してみると,被告らの上記主張を前提としても,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる298の関数のうちの約6割(174/298)において,自動生成コードが1割以下にとどまっており,それ以外のコードは,その選択と組合せにおいてプログラム作成者の個性が発揮されていることが推認できるというべきであるから,プログラム著作物としての創作性を優に肯定することができる

「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合

2011-02-06 22:03:45 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10075
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) 容易想到性判断と発明における解決課題
 当該発明について,当業者が特許法29条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かを判断するに当たっては,従来技術における当該発明に最も近似する発明(「主たる引用発明」)から出発して,これに,主たる引用発明以外の引用発明(「従たる引用発明」)及び技術常識等を総合的に考慮して,当業者において,当該発明における,主たる引用発明と相違する構成(当該発明の特徴的部分)に到達することが容易であったか否かによって判断するのが客観的かつ合理的な手法といえる。

 当該発明における,主たる引用例と相違する構成(当該発明の構成上の特徴)は,従来技術では解決できなかった課題を解決するために,新たな技術的構成を付加ないし変更するものであるから,容易想到性の有無の判断するに当たっては,当該発明が目的とした解決課題(作用・効果等)を的確に把握した上で,それとの関係で「解決課題の設定が容易であったか」及び「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であったか否か」を総合的に判断することが必要かつ不可欠となる。上記のとおり,当該発明が容易に想到できたか否かは総合的な判断であるから,当該発明が容易であったとするためには,「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」ことのみでは十分ではなく,「解決課題の設定が容易であった」ことも必要となる場合がある。
 すなわち,たとえ「課題解決のために特定の構成を採用することが容易であった」としても,「解決課題の設定・着眼がユニークであった場合」(例えば,一般には着想しない課題を設定した場合等)には,当然には,当該発明が容易想到であるということはできない。ところで,「解決課題の設定が容易であったこと」についての判断は,着想それ自体の容易性が対象とされるため,事後的・主観的な判断が入りやすいことから,そのような判断を防止するためにも,証拠に基づいた論理的な説明が不可欠となる。また,その前提として,当該発明が目的とした解決課題を正確に把握することは,当該発明の容易想到性の結論を導く上で,とりわけ重要であることはいうまでもない。

 上記の観点から,以下,本件各発明の容易想到性の有無に関してした審決の判断の当否を検討する。

・・・
 これに対して,前記認定のとおり,審決が文献から引用した発明Aは,・・・を解決課題として,これに対する解決課題を示した本件発明1とは異なる。甲1には,本件発明1が目的としている解決課題及び解決手段に関連した記載又は開示等はないのみならず,逆に,フィルターをフィルターカバーから剥離せずに廃棄することを前提とした発明であることが示されている。

(3) 以上のとおり,審決には,本件各発明の解決課題を正確に認定していない点で誤りがあり,また,誤った解決課題を前提とした上で本件各発明が容易想到であるとした点において誤りがあるから,取り消されるべきである。

主引例の実施例の具体的態様に縛られず副引用例の適用可能性を認めた事例

2011-02-06 21:41:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10131
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

2 取消事由2(無効理由1のうち甲34発明に関する認定の誤り)について
(1) 原告は,審決が,前記相違点1の判断において,甲34発明に関し,・・・と判断して,本件発明1の進歩性を肯定したことが誤りであると主張する。
 審決の上記判断は,甲34のクランプシリンダでは,ロッドカバー7に側面配管ポート15a,15b及び端面配管ポート17a,17bを設け,両配管ポートに配管に接続することを可能とし,配管接続の自由度を増大させているところ,両配管ポートのうち側面配管ポート15a,15bに流量制御弁を設けると,配管は端面配管ポート17a,17bにしか接続できず,配管接続の自由度を低下させるから,当業者が,側面配管ポート15a,15bに流量制御弁を挿入することを容易に想到するものではないとしたものと解される。

(2) ところで,本件発明1の特許請求の範囲は,「・・・」というものであり,流量調整弁の配置については,油圧ポートと油圧シリンダの油室の途中に,弁体部を挿入する弁孔が設けられ,クランプ本体に設けられた装着穴に固定された弁ケースに,弁体部と弁孔との間の隙間を調節可能な弁部材が出力ロッドの長手方向と交差する方向に螺着されることが規定されるだけであり(・・・。),それ以上に流量調整弁を設置する場所が特定されるものではない

(3) 甲34によれば,ロッドカバー7の側面配管ポート15a,15bを配管に接続する場合は,端面配管ポート17a,17bは埋栓で塞ぎ,端面配管ポート17a,17bを配管に接続する場合は,側面配管ポート15a,15bは埋栓で塞ぐことが記載されており,甲34発明は,適宜,両配管ポートに配管を接続することを可能とすることにより,配管接続の自由度を増大させていると解することができる。

 しかし,本件発明 1 の流量調整弁は,前示のとおり,油圧ポートと油圧シリンダの油室の途中に設けられ,クランプ本体に固定された弁ケースに弁部材が出力ロッドの長手方向と交差する方向に螺着されることが規定されるだけであり前記相違点 1 の検討において,甲34発明のクランプシリンダに,甲32発明に開示された流量調整弁(ユニット6)を適用しようとする場合も,その位置が側面配管ポート15a,15bに限定されるものではなく,例えば,弁部材が出力ロッドの長手方向と交差する方向に螺着できるのであれば,油圧シリンダの油室から両配管ポートの分岐箇所までの適宜の位置に流量制御弁を設けることも検討可能であるから,甲34発明が配管接続の自由度を増大させていることは,当業者による前記適用を阻害する理由となるものではない



実施例そのものではなく実施例の技術思想を引用した事例1

2011-02-06 21:16:26 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10131
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

1 取消事由1(無効理由1のうち甲32発明に関する認定の誤り)について
 原告は,審決が,本件発明1と甲32発明との相違点1の判断において,甲34発明のクランプシリンダに甲32発明の流量調整弁を適用することの検討に当たり,・・・と認定して,本件発明1の進歩性を肯定したことが誤りであると主張するので,以下検討する。

(1)・・・
 すなわち,甲32発明は,逆止弁と絞り弁とが結合されたユニット6を設け,ピストンロッド8の作動途中で通路を切り換えてクッション作用を奏する流体圧作動シリンダに関するものであり,・・・。
 したがって,甲32発明の解決課題とされるピストン3のクッション作用は,ピストンロッド8に設けられたクッション部材13の動作によって,ストロークエンドで流体が流れる通路が通路26に切り換えられ,その後,通路26を流れる流体の流量を,逆止弁と絞り弁とが結合されたユニット6が調整することによって達成されるものと認められる。
 ・・・
 そうすると,甲32発明に接した当業者は,ユニット6が,ピストンロッド8の作動の全領域に亘って作動するものでないとしても,一方向においては逆止弁が閉じた状態で絞り弁にて流量を調整する一方,他方向においては逆止弁が開いて自由流れを許容するという,周知の流量調整弁の一形態である絞り弁として技術的に把握できるものといわなければならない。

 そして,甲34発明のクランプシリンダにおいて,ピストンロッドの作動速度を調整する観点から,流量調整弁を内蔵するという動機付けが存することは,審決も認める(21頁18行~33行)ところであり,これは甲1及び2の記載事項から見ても正当と認められるから,当業者が,甲34発明のクランプシリンダにおいて,甲32発明に開示された流量調整弁であるユニット6の構成を採用することは,容易に想到できるものといえる。

(2)被告は,甲32には,「ユニット6」を「クッション弁」として用いることが示されているが,この「ユニット6」をシリンダ装置の全ストロークに亘って作用させるという技術的思想や,「ユニット6」をシリンダ装置から単独で切り離してもよいとする技術的思想は,記載も示唆もなされていないと主張する。
 確かに,ユニット6は,ピストンロッド8の作動の全領域に亘って作動するものではないが,そうであるからといって,ユニット6を1つの技術的思想として当業者が把握できないわけではなく,これは,甲32発明におけるユニット6の構成及びその技術的役割を具体的に検討して判断されなければならないものと解される。
 そして,甲32発明において,ユニット6は,前示のとおり,・・・,周知の流量調整弁の一形態である絞り弁にすぎないものである。
 しかも,・・・,本件特許の出願時にそれ単独で周知の構成であったと認められるのであるから,これを1つの技術的思想として当業者が把握することに困難性はないものといわなければならない。

 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

覚え書きによる不争合意の(射程の)解釈

2011-02-02 22:50:58 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)18507
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年01月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

ウ  本件覚書の4条は,被告を「甲」,原告を「乙」として,「第4条(不争合意) 甲は,本件特許権の有効性について,乙と争わず,かつ,乙と争う第三者を援助しない。」というものであって,被告が「本件特許権の有効性」について原告と争わない旨記載されている。

 しかるに,前記イの認定事実と本件覚書の各条項(甲4)を総合すれば,
① 原告と被告間において被告が平成9年当時製造及び販売していた「らくちん おまる」に関する本件特許権の侵害の有無をめぐる紛争があったところ,被告が上記「らくちん おまる」をめぐる紛争の早期解決のために,「らくちん おまる」の設計変更をすることを自発的に申し入れ,その後の原告と被告間の交渉の結果,被告が「らくちん おまる」の支脚のうち,後部2か所(後脚)を高くする設計変更をし,原告に和解金100万円(消費税は別途)を支払う内容の和解をし,その旨の本件覚書を締結するに至ったこと,

② 被告は,上記交渉の過程において,本件特許の有効性について一貫して争っており,平成10年5月15日付け内容証明郵便(乙18)においても,「らくちん おまる」が本件特許に係る発明の技術的範囲に属さないことに疑問の余地はなく,本件特許の有効性には問題があると考えているが,「無用な紛争を1日も早く終息したいため,「らくちん おまる」を設計変更したいと自由意思により考えた」旨の記載があることが認められる。

 上記認定事実によれば,本件覚書の4条において,被告が本件特許の有効性を争わない旨の規定を置いた趣旨は,あくまで「らくちん おまる」に関する本件特許権侵害の紛争を解決することを目的とするものであって,被告が製造販売する「らくちん おまる」とは別の製品について原告が本件特許権を行使する場合について,本件特許の有効性を争う利益を放棄したものではないと解するのが,当事者の合理的意思に合致するもの解される。
 そして,被告製品と「らくちん おまる」とを対比すると,「らくちん おまる」が上記設計変更により後部2か所の支脚(後脚)を高くした点を除いても,被告製品(検甲1)と「らくちん おまる」(検乙1,乙20)とでは,座面の形状,前部2か所の支脚の位置,後縁部の形状等が異なるものといえるから,被告製品は,「らくちん おまる」とは別の製品であるものと認められる(・・・。)。

 したがって,本件覚書の4条の効力は,原告が「らくちん おまる」とは別の製品である被告製品について本件特許権を行使する本件訴訟には及ばないというべきである。