知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標がその一部で称呼される場合、及び、類否判断における取引の実情

2007-02-15 06:39:14 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10391
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

『2 外観,称呼,観念の類否に関する審決の認定について
 ・・・
 ・・・ 本願商標は,その構成中,極めて小さく表された「ShimadzuAdvanced Flat Imaging REceptor」の部分を除き, 「DIGITEX」及び「safire」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮し得るものであると認められる。そして,「DIGITEX」及び「safire」の文字部分のうちでも,「safire」が本願商標の中央に配置され,文字の大きさも「DIGITEX」に比べてはるかに大きいことに照らすと,本願商標に接する取引者・需要者が「safire」の文字部分のみに着目し,該文字部分から生じる称呼等をもって取引に資する場合も決して少なくないというべきである。
 そして,「簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない商標は,常に必らずしもその構成部分全体の名称によって称呼,観念されず,しばしば,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,一個の商標から二つ以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところである」ところ(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁),本願商標に接する取引者・需要者が,その構成中,視覚的に分離され,かつ,本願商標の中央に顕著に表された「safire」の欧文字部分を捉えて,この部分から生ずる「サファイア」の称呼をもって取引に当たることは,取引の経験則に照らして極めて自然なことである。
 したがって,審決が本願商標と引用商標との類否判断をするに当たり,本願商標から「サファイア」の称呼が生ずると認定し,当該称呼をもって引用商標との類否判断に供したことに誤りはない。』

『3 出所混同のおそれに関する審決の認定判断について
(1) 商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきである(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
   ・・・
(2) 原告は,本願商標を付した商品である循環器X線撮影装置の広告宣伝の態様,販売の状況,新聞雑誌等での扱い等に関する事実を指摘し,本願商標は「DIGITEX safire」という一連のものとしてして取引者・需要者に把握され,原告の製造販売に係る当該装置を指すものとして周知となっていると主張する。
 しかし,前記最高裁判決にいう具体的な取引状況とは,指定商品全般についての一般的・恒常的なそれを指すものであって,単に当該商標が現在使用されている商品についてのみの特殊的・限定的なそれを指すものではないことは明らかであるところ,原告の主張する事情は,正に,本願商標の指定商品の一部の商品についての特殊的・限定的な取引の実情にとどまるものであって,本願商標の広範な指定商品全般についての一般的・恒常的な取引の実情ではない。したがって,原告の主張は採用することができない。
(3) 原告は,指定商品の一般的な取引の実情という観点から考えても,本願商標の指定商品は取引者・需要者が慎重に検討の上で購入するものであるから,出所の混同を生じる可能性は著しく低いと主張する。しかし,本願商標及び引用商標に共通する指定商品である「医療用機械器具」について検討すると,原告の主張は採用することができない。
 すなわち,商標法施行規則6条別表によれば,第10類の「医療用機械器具」には「(一) 診断用機械器具」として「体温計」が含まれ,これは一般の消費者を対象にし,薬局やドラッグストア等でも取り扱われている日常生活に結びついた商品であるから,かかる商品に使用される商標に関する類否判断は,一般の消費者が通常有する注意力を基準としてなされるべきものである。また,需要者が医療従事者に限られる商品の中でも,「(三) 治療用機械器具」に属する「注射筒」「注射針」のように比較的安価な消耗品もあるから,必ずしもそのすべてが取引者・需要者において慎重に検討の上で購入するものであるということもできない。』

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