知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用例が動機づけを包含するとした事例

2012-12-28 22:58:38 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10413
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実
特許法29条2項

 すなわち,有価証券情報の印字部外周に施された抜き型による加工はプリペイドカードを抜き取り可能とするためのものであるところ,これは,プリペイドカードが単に有価証券情報をカード購入者に通知するのみならず,利用者による携帯を予定しているため,有価証券情報が記載されているとともに有価証券情報を隠蔽してもいる折畳み対向紙片から分離させる必要があるために設けられたものと解される。
 すなわち,購入者に交付されるシートからプリペイドカードを分離して使用できるようにすることも,請求項1~8にその構成が包含されているのみならず,考案の詳細な説明の段落・・・にその構成が独立して説明されている事項であり,甲1発明において技術的課題の一つとされていたというべきである。
 そうすると,甲1発明は,折畳み対向紙片の内側面に印字された部分が有価証券情報のように隠蔽される必要のないものであっても,折畳み対向紙片の内側面の一部分を独立して抜き取る(折畳み対向紙片から分離させる)必要性があれば,プリペイドカードに代えてかかる分離させる必要があるものを採用するについての動機付けを包含するものというべきである。

 かかる見地から見るに,広告の一部に返信用葉書を切取り可能に設けることは,本件出願前に既に周知の技術であったと認められる(・・・)。そして,広告の一部に返信用葉書を設ける場合,返信のために葉書部分を分離させる必要があることは明らかである。したがって,消費者等が受領したシートや紙面から分離して使用するものとして,甲1発明の「プリぺイドカード」に代えて「葉書」を採用することは当業者にとって容易想到であるというべきである。
・・・
(5) なお,審決は,「プリペイドカード」を筆記性が要求され,さらに大きさや厚さの基準が定められている「葉書」に代える動機が甲1発明には見出せないとした。しかし,筆記性や大きさや厚さといった基準の差異については,「分離して使用されるもの」の単なる物品特性上の相違にすぎない。また,甲1発明が,プリペイドカード付きシートが購入者によって受領された後はプリペイドカードを分離させることに意義があり,そこに技術的課題を見出したことからしても,「葉書」に筆記性が要求され,大きさや,厚さといった基準があるからといって,「プリペイドカード」を「葉書」に代える動機がないということはできないというべきである。

<関連事件>
事件番号  平成24(行ケ)10414
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  

複数の文献から周知技術を認定した事例

2012-12-25 23:13:52 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10038
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
特許法29条2項 周知技術の認定事例

(イ) 上記記載によれば,甲第21号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
・・・
(イ) 上記記載によれば,甲第22号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
・・・
(イ) 上記記載によれば,甲第28号証には,自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。
・・・
(イ) 上記記載によれば,甲第29号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けることが記載されていると認められる。

カ 甲第21号証等に記載されている周知技術の内容
 上記イないしオによれば,甲第21号証,同第22号証,同第28号証及び同第29号証には,自動倉庫の分野で幅が異なる棚領域を設けること,又は,自動倉庫の分野で幅及び高さがそれぞれ異なる棚領域を設けることが記載されており,これらのことが従来周知の技術的事項であるといえる。
 また,甲第22号証及び同第29号証に記載されているように,自動倉庫に格納される収容物がコンテナ又は容器に収納した状態で格納されることは,周知の事項であり,例えば甲第29号証に記載されているように,収容物の寸法に応じて大きさの異なる容器を使い分けることも,従来から一般的に行われていることである。

 以上によれば,甲第21号証,同第22号証,同第28号証及び同第29号証の記載から,次の事項が周知技術であることが認められる。
「収容物の寸法別に分類された幅及び高さがそれぞれ異なる複数の棚領域を有する倉庫とそれぞれが収容された棚領域に対応した寸法を有する複数の収容物を収容する複数のコンテナを備えた自動倉庫。」

引用発明への組み合わせの検討事例-組み合わせ可否、動機づけ

2012-12-25 22:49:16 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10443
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子
特許法29条2項 引用発明への組み合わせ、動機づけ

 ところで,甲2の解決課題は,電線が挿通される電線挿通孔dと,テーパー面e及び嵌合壁bの間のシール部位とが,径方向の内外において対向していることから生じるものであって,両者が径方向に対向していない場合には,・・・,同様の問題が生じないものである。そうすると,甲2から,「A」が周知の事項と認められるとしても,・・・,両者が径方向に対向していない構造においては当てはまらないものである。

エ そこで,引用発明におけるパッキン及び電線の密着部位とパッキン及びハウジングの密着部位についてみると,審決が引用発明認定の根拠とした甲1の実施例の構造(甲1の図面参照)では,両者が径方向において対向しておらず,軸方向にずれていることが分かる。したがって,引用発明においては,電線の挿通による防水栓本体の外径変化の影響がシール部位に及ばない構造となっており,審決が認定した「A」との周知の事項が当てはまらないものである。

 また,引用発明において,第2のシール部の配設位置を後側に変更すると,・・・。そうすると,・・・,径方向の歪み(変形)の伝達を抑制するという点で,実質的に甲2と同様の構成を備えることとなる。この場合,第1のシール部の外径に変化が生じても,環状のコネクタハウジングによってその変形が第2のシール部には伝達されず,リブ部の防水シール効果の低下が生じないことは明らかである。すなわち,仮想構成1を採用した段階で,甲2の解決手段のみならず,甲2の作用効果も同時に達成されることになる。そうすると,更にそこから仮想構成2のように変更すること,すなわち,リブ部の突出方向を前方から後方に敢えて変更することについては,もはや動機づけが存在しないというべきである。

図面に従った製品の製造と、「複製」や「翻案」への当否

2012-12-24 22:35:12 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)2283
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成24年12月06日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾

(2) 原告製品図面の著作物性
 本件で原告製品図面であるとして提出された設計図面(甲13)は,通常の作図法に従って記載されているところ(甲13,弁論の全趣旨),原告は,上記設計図面のうちどの部分が著作物性を有するのか,また,その理由について,具体的な主張をしていない(・・・。)。したがって,原告製品図面は,著作権法上の著作物といえない。 

(3) 原告製品図面の複製,翻案
 また,原告は,被告製品又はその構成部品の製造が,原告製品図面の複製又は翻案であると主張しているが,著作物たる「学術的な性質を有する図面」(著作権法10条1項6号)であっても,これに従って製品を製造することは,建築物の場合(著作権法2条1項15号ロ)を除き,複製や翻案には当たらないと解される。
 したがって,被告が被告製品又はその構成部品の製造,販売をすることが,図面に係る原告の著作権(複製権,翻案権)を侵害すると見る余地はない。

研究成果と指導者の取得する権利

2012-12-24 22:33:47 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)15588
事件名 著作権侵害差止等請求事件,共著名削除等請求事件
裁判年月日 平成24年12月06日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川充康,西田昌吾

 これら,論文及び論文の基礎となった研究成果や,引用された論文が,原告が被告大学を退職する以前,原告研究室に在籍する学生や研究者によって,形成されたり,作成されたりしたことから(弁論の全趣旨),原告が,これらの研究成果の形成や,論文の作成について,主導的な役割を果たしたことは十分に窺える。そして,原告が被告大学を退職したのは平成21年3月であるところ,論文の発表は平成18年に,論文の発表は平成21年に行われており,これらが原告の指導の下,作成された可能性は否定できない。

 しかし,研究成果自体について著作権は成立しない。論文の引用は,著作権法32条の範囲で許されており,同条の範囲内の引用である限り,引用を理由に何らかの権利を取得するわけではない

自然法則を利用していないとした事例

2012-12-22 22:58:09 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10134
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 高部眞規子,齋藤巌
特許法2条1項

(1) 自然法則の利用について
 特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいうと規定するところ,人は,自由に行動し,自己決定することができる存在である以上,人の特定の精神活動,意思決定,行動態様等に有益かつ有用な効果が認められる場合があったとしても,人の特定の精神活動,意思決定や行動態様等自体は,直ちには自然法則の利用とはいえない。
 したがって,ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,専ら,人間の精神的活動を介在させた原理や法則,社会科学上の原理や法則,人為的な取り決めや,数学上の公式等を利用したものであり,自然法則を利用した部分が全く含まれない場合には,そのような技術的思想の創作は,同項所定の「発明」には該当しない

(2) 本願発明の構成について
 前記1(1)の①ないし⑤の構成は,「省エネ行動シート」という図表のレイアウトについて,軸(・・・)と,これらの軸によって特定される領域(・・・)のそれぞれに名称を付し,意味付けすることによって特定するものであるから,各「軸」及び各「領域」の名称及び意味,という提示される情報の内容に特徴を有するものである。
 そして,図表の各「軸」,及び軸によって特定される「領域」に,それぞれ・・・という名称及び意味を付して提示すること自体は,直接的には自然法則を利用するものではなく,本願発明の「省エネ行動シート」を提示された人間が,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することを可能とするものである。
 また,本願発明の「省エネ行動シート」は,人間に提示するものであり,何らかの装置に読み取らせることなどを予定しているものではない。そして,人間に提示するための手段として,紙などの媒体に記録したり,ディスプレイ画面に表示したりする態様などについて,何らかの技術的な特定をするものではないから,一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存するとはいえない

(3) 本願発明の課題と作用効果について
 ・・・
 本願発明の上記作用効果は,一方の軸と,他方の軸の両方向への広がり(面積)を有する「領域」を見た人間が,その領域の面積の大小に応じた大きさを認識し,把握することができること,さらに「軸」や「領域」に名称や意味が付与されていれば,その「領域」の意味を理解することができる,という心理学的な法則(認知のメカニズム)を利用するものである。このような心理学的な法則により,領域の大きさを認識・把握し,その大きさの意味を理解することは,専ら人間の精神活動に基づくものであって,自然法則を利用したものとはいえない

<筆者メモ>
(判決の要点)
○ 法2条1項の解釈へのあてはめにおいて、認知のメカニズムを利用したレイアウト(を有するシート)は技術的思想であるが、自然法則を利用していないとしている。
○ 自然法則を利用していないとする理由は、人間への提示であること、提示手段に一般的な図表を記録・表示することを超えた技術的特徴が存しないということである。こういうからには情報の人間への提示、または、情報の提示手段に技術的特徴がない場合、は自然法則を利用していないとの前提があるはず。
○ 作用効果が心理学的な法則を利用した専ら人間の精神活動に基づくもので自然法則を利用していないことを理由の一つとしている。
(疑問点)
・ 作用効果は発明の特定事項ではない。作用効果の自然法則利用性を検討した点は不自然ではないか。この結論なら、発明特定事項が(読取装置の技術的特性に対応する等していないので)自然法則を利用しておらず、専ら心理学的な法則を利用したレイアウトに過ぎない、とした方がよかったのではないか。
・ 心理学的な法則(認知メカニズム)は人間の脳の化学反応等により引き起こされており、化学反応等の自然法則を利用しているとも言える。判決は法2条1項の「自然法則」をどう解釈し、どこで線引きしたのか。精神活動でも人によってまちまちな好き・嫌いなどと、ほとんどそうなるという認知メカニズムとでは異なり、前者は「専ら心理学的な法則を利用した」と言えるが後者は違うのではないか。
・ 情報の人間への提示、情報の提示手段に技術的特徴がない場合、は自然法則を利用していないとの前提は正しいか。

実施可能要件を充足しないとした事例

2012-12-22 18:28:46 | 特許法36条4項
事件番号 平成23(行ケ)10445
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月05日
裁判所名 的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光
特許法36条4項

(2) 本件審決は,本件明細書の方法2の実施可能性についてのみ検討した上で,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を充足するものとする。
 そこで検討するに,方法2は,前記1(3)ア(イ)のとおり,補助溶剤を含む水中にアトルバスタチンを懸濁するというごく一般的な結晶化方法であるものの,補助溶剤としてメタノール等を例示し,その含有率が特に好ましくは約5ないし15v/v%であることを特定するのみであり,結晶化に対して一般的に影響を及ぼすpH,スラリー濃度,温度,その他の添加物などの諸因子について具体的な特定を欠くものであるから,これらの諸因子の設定状況によっては,本件明細書において概括的に記載されている方法2に含まれる方法であっても,結晶性形態Iが得られない場合があるものと解される。

 そうだとすると,結晶化に対して特に強く影響を及ぼすpHやスラリー濃度を含め,温度,その他の添加物などの諸因子が一切特定されていない方法2の記載をもってしては,本件明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識を併せ考慮しても,当業者が過度な負担なしに具体的な条件を決定し,結晶性形態Ⅰを得ることができるものということはできない
・・・
(4) 以上のとおり,本件明細書における方法2に係る記載は,結晶性形態Iを得るための諸因子の設定について当業者に過度の負担を強いるものというべきであって,実施可能要件を満たすものということはできない
 もっとも,本件明細書には,本件審決が判断した方法2のほかにも,方法1及び3として,結晶性形態Iの具体的製造方法が開示されているところ,本件審決は,本件明細書の方法2について検討するのみで,本件明細書のその余の記載により実施可能要件を充足するか否かについて審理を尽くしていないものというほかない。
よって,実施可能要件について更に審理を尽くさせるために,本件審決を取り消すのが相当である。


(筆者メモ) 他の方法で実施できる場合はサポート要件違反か。

動機付けを認めた事例

2012-12-22 18:13:57 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10445
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月05日
裁判所名 的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光
特許法29条2項

(オ) 以上によると,本件優先日当時,一般に,医薬化合物については,安定性,純度,扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから,非結晶性の物質を結晶化することについては強い動機付けがあり,結晶化条件を検討したり,結晶多形を調べることは,当業者がごく普通に行うことであるものと認められる。そして,前記(1)のとおり,引用例には,アトルバスタチンを結晶化したことが記載されているから,引用例に開示されたアトルバスタチンの結晶について,当業者が結晶化条件を検討したり,得られた結晶について分析することには,十分な動機付けを認めることができる

 この点について,被告は,結晶を取得しようとする一般的な意味での動機付けは,具体的な結晶多形に係る発明に想到するための動機付けとは異なるのであって,およそ医薬において結晶の使用が好ましいことに基づいて動機付けを判断すると,結晶多形に係る特許は成立する余地はないと主張する

 しかしながら,結晶を取得しようとする動機付けに基づいて結晶化条件を検討し,結晶多形を調査することにより,具体的な結晶多形に想到し得るものであるから,具体的な結晶多形を想定した動機付けまでもが常に必要となるものではない

相違点と作用効果の違い

2012-12-22 17:41:59 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10057
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子,田邉実

(2) 審決は,本件発明につき,請求項の記載に基づいて,「クエン酸,酒石酸及び酢酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸味剤を含有し,経口摂取又は口内利用時に酸味を呈する製品に,スクラロースを,該製品の重量に対して0.012~0.015重量%で用いることを特徴とする酸味のマスキング方法」と認し,かかる本件発明と甲3発明を対比して,一致点・相違点を認定しており,そこに誤りはない。原告の主張は,本件発明と引用発明の相違点を抽出する場合における本件発明の認定について,本件発明の効果も含めて認定することを前提とするものであるが,本件発明の要旨は,その特許請求の範囲の記載に基づいて認定すべきものであるから,原告の上記主張は採用することができない。すなわち,原告の主張は,顕著な効果の看過を相違点の認定誤りというものであり,この主張をもって相違点認定の誤りとすることはできない。作用効果に関しては,後記2(6)で判断するとおりである
・・・
(6) 原告は・・・顕著な作用効果を看過していると主張する。
 しかし,前記のとおり,・・・程度の効果は,これを予測できない顕著な作用効果ということはできない。
 ・・・このように,・・・長期安定性及び熱安定性という効果は,スクラロース自体の公知の特性であり,この特性は,酸味を有する製品の酸味マスキングにスクラロースを用いた場合にのみ生ずる特有の作用効果ではないことからすれば,この効果を酸味のマスキング方法についての発明における顕著な効果とすることはできない

プログラムの著作物の「複製」とプログラム実行画面のスクリーンショットの印刷

2012-12-19 23:39:08 | 著作権法
事件番号 平成24(ワ)15034
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年11月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大 須 賀 滋,裁判官 西村康夫,森川さつき

(2) 原告は,本件プログラムは原告が創作した「プログラムの著作物」(法10条1項9号)であると主張する。
 プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(法2条1項10号の2)であり,所定のプログラム言語,規約及び解法(法10条3項)に制約されつつ,コンピュータに対する指令をどのように表現するか,その指令の表現をどのように組み合わせ,どのような表現順序とするかなどについて,法により保護されるべき作成者の個性(創作性)が表れることになる。
 したがって,プログラムに著作物性(法2条1項1号)があるというためには,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,かつ,それがありふれた表現ではなく,プログラム制作者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要する知財高裁平成21年(ネ)第10024号平成24年1月25日判決・裁判所ウェブサイト)。

 原告は,本件プログラムのソースコード(甲6の1。A4用紙7枚(1枚当たり36行。全部で232行)のもの。)を提出するものの,本件プログラムのうちどの部分が既存のソースコードを利用したもので,どの部分が原告の制作したものか,原告制作部分につき他に選択可能な表現が存在したか等は明らかでなく,原告制作部分が,選択の幅がある中から原告が選択したものであり,かつ,それがありふれた表現ではなく,原告の個性,すなわち表現上の創作性が発揮されているものといえるかも明らかでない

(3) 仮に本件プログラムに原告の創作性が認められるとしても,以下に述べるとおり,原告の主張には理由がない。
 原告は,被告がブラウザを用いて本件プログラムにアクセスし,その情報を被告のパソコンのモニタに表示させ,表示された情報のスクリーンショットを撮り,当該スクリーンショットの画像ファイルを紙である別件乙3(甲1の1,乙2)に印刷したことが,プログラムの著作物である本件プログラムの複製に当たると主張する。

 法にいう「複製」とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうが(法2条1項15号),著作物を有形的に再製したというためには,既存の著作物の創作性のある部分が再製物に再現されていることが必要である
 これを本件についてみると,紙である別件乙3(甲1の1,乙2)に記載されているのは画像であって,その画像からは本件プログラムの創作性のある部分(指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなる部分)を読み取ることはできず,本件プログラムの創作性のある部分が画像に再現されているということはできないから,別件乙3の印刷が本件プログラムの複製に当たるということはできない。

(4) したがって,別件乙3の印刷による複製権侵害は認められない。

阻害要因を認めた事例

2012-12-17 23:28:51 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10425
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子
特許法29条2項

 上記のとおり,引用発明の「円筒」は仮想的なものであって,本願補正発明の「仮想的な環」に相当すると認められるが,本願補正発明においては,「前記仮想的な環を,前記スクリーンを含む平面内で回転させるように構成され」ているから,スクリーンに表示されるアイコンがスクリーンを含む平面内で回転移動する様子から,環の大きさの直感的な把握が可能となる(効果2)。これに対し,引用発明においては,スクリーンに表示されるメニューアイテムは,平面内で回転移動するものではなく,円筒形に配置されて,円周方向に回転移動するものであるから,円筒の大きさの直感的な把握が可能(効果2)となるものではない。

 そして,仮に,「複数の図形の一部を表示するために,複数の図形を含む仮想的な環の一部をスクリーンを含む平面内で回転させるように表示する」との先行技術が存在するとしても(ただし,本件においては認定できない。),引用発明は,「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」という認識に基づき,「複数のメニューを3次元的に表示」するものであるから,引用発明に上記先行技術を適用する動機づけはなく,引用刊行物の「2次元的なユーザインタフェースには,表現力に限界がある」との記載は,引用発明に「2次元的なユーザインタフェース」に係る上記先行技術を適用するに当たって,阻害要因になるものと認められる。

特許法法36条5項2号の要件を満たすとした事例

2012-12-16 22:54:57 | 特許法36条6項
事件番号 平成24(行ケ)10007
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治
特許法法36条5項2号

当裁判所は,本件特許の本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,法36条5項2号の要件を満たすと判断する。その理由は以下のとおりである。

ア 「せき止め空間」について
(ア) 「せき止め空間」あるいは「せき止め空間のない」は,本件発明1の技術分野である流体力学の分野における学術用語ではない(・・・)。一般に,「せきとめる」には,「さえぎりとめる。さえぎる。」の意味があり,流体力学の分野では「せき」とは,「水路を板又は壁でせき止め,これを越えて水が流れる場合」を意味するが・・・,これらを前提としても,特許請求範囲の記載のみから「せき止め空間」あるいは「せき止め空間のない」の意義を一義的に確定することは困難である。

(イ) そこで,本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載事項を参照することとする。発明の詳細な説明には,「せき止め空間」あるいは「せき止め空間のない」に関し,①・・・,②・・・,③・・・,④・・・との記載がある。
 上記①ないし④のとおりの発明の詳細な説明の記載を参照すると,「せき止め空間」(液体せき止め空間)とは,同空間において液体が静止するために,透過するレーザービームにより温度が上昇し,これによって発生した熱レンズによってレーザービームの焦点がずれ,ノズル壁の損傷を引き起こす空間を意味すると解すべきであり,「せき止め空間のない」とは,上記の意味での空間がないとの意味に解するのが相当である。もっとも,流体空間が一つの連通空間である場合,空間内で流速は連続的に変化し,流速が完全に零になることはないと認められるから,ここでの「静止」とは,流速が完全に零であることを意味するものではなく,ほぼ零を含むと解すべきである。
 原告は,液体供給空間の高さが特定されない限り「せき止め空間」の有無を判断できないとも主張するが,「せき止め空間」は前記のとおりと理解されるものであって,液体供給空間の高さが特定されない限り「せき止め空間」の有無を判断できないものではない。

イ 「流体の速度が,十分に高く」について
 特許請求の範囲には「十分に高」いとされる液体の速度については特段の数値限定等はされておらず,その意義を特許請求の範囲の記載から,一義的に確定することは困難である。そこで,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すると,液体の流速については,・・・との記載がある。
 これらの記載からすると,「液体の流速が,十分に高く」することは,液体がレーザービームによって加熱される時間を短くすることで熱レンズの発生を防止しようとするものであるから,「液体の流速が,十分に高く」とは,「フォーカス円錐先端範囲(56)において,レーザービームの一部がノズル壁を損傷しないところまで,熱レンズの形成が抑圧される」程度に流速が高いことを意味するものと解される

ウ 小括
 以上のとおり,「せき止め空間」及び「液体の速度が,十分に高く」のいずれについても,その意義は明確であり,本件特許に係る特許請求の範囲の記載には,法36条5項2号の規定に反する不備はない。

商標法53条1項の商品の品質の誤認を生ずる使用

2012-12-16 22:35:04 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10113
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 岡本岳,武宮英子
商標法53条1項

 使用商標3とほぼ同一と認められる「Goodwear」の文字のみからなる商標は米国で商標登録されているものの(甲26の3),使用商標3が我が国において商標登録されていないことは,当事者間に争いがない。また,「R」の記号は,登録商標の表示として,主として米国で用いられている記号であるが,我が国においても,登録商標の表示として使用されることも多く,一般の取引者,需要者においても「R」の記号を登録商標の表示として認識することも多いものと認められる(甲25の34~42,弁論の全趣旨)。

 商標法53条1項の商品の品質の誤認を生ずる使用とは,商標が指定商品の種類を表示又は暗示する標章を含むものであるときに,指定商品と商標が実際に使用されている商品との間に相違がある場合,商標が表示する商品の品質が虚偽の事実を含む場合等をいうものと解される

 しかしながら,「○R(筆者注:○の中にR。以下同じ)」の記号を商標に付する行為は,これに接する取引者,需要者に当該商標が登録商標であるとの認識を与えるものの,登録商標であるか否かは,当該商標が付された商品の品質を示すものではないから,未登録商標に「○R」の記号を付しても,品質の誤認を生ずると認めることはできない

関連事件:
事件番号  平成24(行ケ)10188
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟

発明者の認定事例

2012-12-16 11:06:00 | 特許法その他
事件番号 平成21(ワ)33931
事件名 発明対価等請求事件
裁判年月日 平成24年11月22日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久、裁判官 志賀勝,裁判官 小川逸
特許法35条

イ 発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいうところ(特許法2条1項),特許を受ける権利を原始的に取得する発明者とは,特許請求の範囲に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分の創作行為に現実に加担した者をいうと解するのが相当である。
・・・
(イ) そして,前記ア認定の事実によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1の「・・・A・・・」する構成,同請求項2の「・・・B・・・」との構成は,本件発明に係る特許出願がされた当時,いずれも原告やG等の研究によって公知であったものであり,また,本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1の芯材「の周囲に熱可塑性樹脂からなる柔軟なスリーブを設け」る構成,同請求項2の「複数の強化用繊維を混合粉末流動層に導入して,各強化用繊維間に混合粉末が包含された芯材を形成し,次いで該芯材を熱可塑性樹脂で被覆して芯材の周囲に柔軟なスリーブを設ける」との構成も,本件発明に係る特許出願がされた当時,いずれもアトケム発明の出願公開によって公知であったものである。

(ウ) 以上によれば,本件発明に係る技術的思想の特徴的部分は,前記の両公知技術を組み合わせたところにあるものと認められる。前記ア認定の事実によれば,この組合せを着想し,試作によってC/C複合材料用のプリフォームドヤーンを製作する見通しを付けたのは,被告Bだけであるから,被告Bが本件発明の発明者であり,原告が単独又は共同で本件発明をしたとは認められない

同一の引用例からの進歩性を肯定した場合の平成23年改正前の特許法181条2項の判断

2012-12-09 23:34:03 | 特許法その他
事件番号 平成24(行ケ)10119
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明
平成23年改正前の特許法181条2項

第3 当裁判所の判断
上記のとおり,本件審決は,無効審判請求を成り立たないものとした審決である。その後,被告から特許請求の範囲を減縮する訂正審判請求がなされたが,当裁判所は,平成23年改正前の特許法181条2項の差戻決定をすることなく審理を継続していたところ,本件訂正審決が確定したことにより,訂正前の特許請求の範囲に基づいてなされた審決は,結果的に発明の要旨認定を誤ったこととなった

 もっとも,特許庁は,本件訂正審決において,本件審決において第1訂正発明と対比された引用例と同一の引用例との対比において独立特許要件が認められると判断している。そうすると,第2訂正発明と上記引用例記載の発明との同一性ないし容易想到性判断についての特許庁の判断は,本件訂正審決により示されており,この点につき特許庁の判断が先行しているものと解する余地がある

 しかし,本件審決と本件訂正審決においては,本件特許に係る発明と引用例との一致点及び相違点の認定,新規性ないし進歩性に係る判断の対象が実質的にも変更されている(別紙1ないし4参照)。
 すなわち,本件審決においては,第1訂正発明における「前記目標値が変化したときに」の意義について,・・・「前回の目標値」と「今回の目標値」を比較し,変化したときと理解できるとして,・・・これを相違点として挙げて,第1訂正発明は,引用発明1と同一の発明ではなく,引用発明2,及び引用例1,甲3ないし5に記載された周知技術に基づき容易に想到できたものとはいえないとして,無効請求は成り立たないとしたものである。
 他方,本件訂正審決では,第2訂正発明において,「今回の目標値」と比較される「比較対象」は,・・・「前回の出力値」であるとして,この点を引用例1,2との相違点とはせず,新たに付加された構成要件について相違点を挙げて,第2訂正発明は,引用発明1と同一の発明ではなく,引用発明1ないし2に基づき容易に想到できたものでもなく,独立特許要件を充足するとして,第2訂正を認めたものである。

 そうすると,本件訂正審決において,本件審決における引用例と同一の引用例との対比において独立特許要件が認められるとの判断がされているとしても,本件無効審判請求について,新たに付加された構成要件も含めて,再度,特許庁の審理を先行させるのが相当であるから,本件審決は取り消されるべきである