知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

医療行為として実施される発明の成立性

2009-01-25 21:45:10 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10299
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年01月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一


2 本願に係る発明の要旨
(1) 本件補正前
 本件補正前の平成17年9月6日付けの手続補正書(甲9の2)に記載の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,次のとおりである。
「2~20ガウスの微弱磁気を有する保健衛生用品を,傷口,又は化膿部に装着使用することを特徴とする,細胞再生方法。」

・・・

第4 当裁判所の判断
・・・

2 本願発明が特許を受けることの可否について
 審決は,「本願発明が,実際に細胞を再生するものであるか否かはさておき,本願発明は,実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明といえる」ことから,「特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当しない」としたものであるところ,原告は,審決の上記認定判断について何ら取消事由を主張するものではなく,本願発明に対する原告主張の取消事由(本願発明が治療等の効果を有するというもの)は,審決の結論に影響しないものである。

 そして,本願発明につき,実質上医師が患者に対して行う医療行為として実施される発明といえるから特許法29条1項柱書でいう産業上利用することができる発明に該当せず特許を受けることができない,とする審決の認定判断は是認することができる。


損害額の現実化の時と遅延損害金発生の始期

2009-01-25 21:07:27 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10008
事件名 損害賠償請求控訴・同附帯控訴事件
裁判年月日 平成21年01月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

8 結語
 以上のとおりであるから,被控訴人の請求は,本件特許権の評価額,すなわち本件の損害額1862万5000円に弁護士費用300万円を加えた2162万5000円及びこれに対する不法行為の日である平成9年11月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり,その余は理由がないこととなる(なお,本件債権は,富士千が銀行取引停止処分を受けて期限の利益を喪失した平成10年3月23日の時点で履行遅滞に陥ったものであり,そのころ,本件質権を実行することによって回収できたはずの本件債権の債権額が本件質権を取得することができず回収ができなかったことによって,損害が現実化したことになるが,それは損害額の認定手法の問題であり,本件の不法行為に基づく損害賠償債権の遅延損害金発生の始期は不法行為日である平成9年11月17日であることに変りはない。)。

特許権に対する質権を行使できなかったことに伴う損害額の算定事例

2009-01-25 20:58:08 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10008
事件名 損害賠償請求控訴・同附帯控訴事件
裁判年月日 平成21年01月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

3 損害の額の検討の手法
(1) 当裁判所の判断
 被控訴人が本件質権を取得することができなかった損害の額を算定するためには,本件特許権の適正な価額を,質権実行によって回収することになる平成10年3月ころの時点において,本件特許権を活用した事業収益の見込みに基づいて算定することが必要である。
 しかるに,本件特許権を活用した事業収益の見込みとは,FS床版事業の収益の見込みを算定することにほかならないところ,FS床版事業が事業収益を生み出す見込みを有するとすれば,それは,本件特許権の活用のみによるものではなく,様々な技術,技能,広範な営業活動,さらにはその前提になる当該事業主体の組織,信用,資本等によるものというべきである。

 そうすると,その中から本件特許権の活用による部分を正しく算定するためには,本件発明自体の技術的位置付け,本件特許権の経済性及び市場性の観点からの位置付けについての検討が不可欠というべきである。そして,かかる検討を踏まえて,本件特許権を含むFS床版事業について評価した額を算定した上で,同評価額に対する技術の寄与度を考慮して本件特許権を含む特許網の評価額を算出し,さらに同評価額に対する本件特許権の割合を考慮して本件特許権の有する技術内容に応じた相応の評価額を得て,これをもって上記損害の額と認定するという手法によるのが相当である。

・・・・

ウ 本件特許権を含むFS床版事業の価値評価
(ア) 本件特許権の評価を行うため,まず,本件特許権を含むFS床版事業の価値評価を行う方法を採用する。知的財産における評価アプローチは,一般的に,インカム・アプローチ,マーケット・アプローチ,コスト・アプローチに大別される。
 インカム・アプローチとは,当該知的財産から期待される収益力に基づいて価値を評価する方法で,当該知的財産によって将来獲得されるキャッシュ・フローを割引現在価値で求める。
 マーケット・アプローチとは,同様の知的財産や,実際に行われた取引事例あるいは市場取引価額等と比較することによって相対的な価値を評価するアプローチである。
 コスト・アプローチとは,研究開発や知的財産を取得するのに要したコストを当該知的財産の価値と考えるアプローチである。

 そこで,単一の評価法に基づいて評価する単独評価ではなく,複数の評価法で算定した結果を併用して総合評価することとする。

・・・

5 本件特許権を含む特許網(理想特許権)の評価額
(1) 当裁判所の判断
 鑑定の結果によれば,事業からの利益の4分の1(25%)を技術の寄与度と想定して技術の価値を測定する方法であるいわゆる25%ルールに基づいて,本件特許権を含む特許網について,3億3000万円の25%である8250万円という評価額が得られることが認められる。鑑定書の記載の概要は,次の(2)に示すとおりのものであって,その推論過程は,その内容自体に照らし合理的であり,その結果は,鑑定書記載の実施料率の実態調査結果をもとにした評価結果の幅に入り,妥当な評価額ということができるから,この鑑定の結果については,高い信用性が認められる。

 そうであれば,本件特許権を含む特許網の評価額は8250万円であると認定するのが相当である。

(2) 鑑定書の記載の概要
ア 本件特許権は,その技術的保護範囲が狭いうえ,その代替技術が出現したためライフサイクルが短く,過去事業において実質的に活用された形跡がない。この点を配慮すると,本件特許権の評価については,いったん,理想特許権すなわち特許網の評価を行って,その後に本件特許権の価値評価を行うのが相当である。

イ 本件においては,本件特許権を含むFS床版事業の評価額を基礎に,特許技術の商業化が成功した場合,事業からの収益の4分の1(25%)を技術の寄与度と想定して,技術の価値を測定する方法である「25%ルール」を採用することとし,その妥当性を別の観点から確認するために,実施料の観点から検証する。

ウ まず,上記「25%ルール」により,本件特許権を含むFS床版事業の価値評価額と推定される3億3000万円に25%を乗じると,本件特許権を含む特許網の評価額は,8250万円となる。

エ これを,実施料率の観点から検証する。まず,鑑定基準日頃の類似上場会社14社の売上総利益率の平均は,平均で13.1%であり,建設業における実施料率は,概ね3%から4%の幅と推定することができる。そこで,これらを前提に,売上高に対する実施料率を売上総利益に対する実施料率に換算して,実施料率から求められる本件特許権を含む特許網の評価額を計算すると,7557万円~1億0065万円という評価幅が得られる。上記ウの8250万円は,実施料率の実態調査結果をもとに実施した上記の評価結果の幅に入るものである

特許原簿への登録が受付順にされなかったことによる損害に対する国家賠償請求

2009-01-25 20:57:12 | 最高裁判決
事件番号 平成17(受)541
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成18年01月24日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
(裁判長裁判官 上田豊三 裁判官 濱田邦夫 裁判官 藤田宙靖 裁判官 堀籠幸男)

原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成15(ネ)3895
原審裁判年月日 平成16年12月08日

判示事項
裁判要旨 1 特許庁職員の過失により特許権を目的とする質権を取得することができなかったことによる損害の額
2 特許庁職員の過失により特許権を目的とする質権を取得することができなかったことを理由とする国家賠償請求事件において損害額の立証が困難であったとしても民訴法248条により相当な損害額が認定されなければならないとされた事例

『3 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人の請求を棄却すべきものとした
 本件質権設定登録がされていた場合,C社が本件特許権を譲り受けたか,また,B社が本件特許権の譲渡を図ったかについて,いずれも疑問が残る。また,本件質権設定登録がされた状態で本件特許権の譲渡契約の締結が具体的に検討された場合,C社,B社及び上告人の間で,譲渡代金のうち相当額を上告人に支払う旨の合意が成立するに至ったと断定するだけの根拠もない

そうすると,本件質権設定登録がされていた場合,本件特許権等についての譲渡契約が前記1(5)の譲渡契約と同様に成立し,本件質権設定登録を抹消するために上告人に相当額が交付されるに至ったものとは認定し難いといわざるを得ないから,本件質権設定登録が本件特許権移転登録に先立ち正しくされていたとしても,上告人が本件質権に基づき本件債権の弁済を受けることが可能であったともいい難い。

したがって,本件においては,特許庁の担当職員の過失により上告人に現実に損害が発生したものとは認めることができない。


 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1) 特許権の移転及び特許権を目的とする質権の設定は,特許庁に備える特許原簿に登録するものとされ(特許法27条1項1号,3号),かつ,相続その他の一般承継による特許権の移転を除き,登録しなければその効力を生じないものとされ(同法98条1項1号,3号),これらの登録は,原則として,登録権利者及び登録義務者の共同申請,登録義務者の単独申請承諾書を添付した登録権利者の申請等に基づいて行われることとされている(特許登録令15条,18条,19条)。
したがって,特許権者甲が,その債権者乙に対して甲の有する特許権を目的とする質権を設定する旨の契約を締結し,これと相前後して第三者丙に対して当該特許権を移転する旨の契約を締結した場合において,乙に対する質権設定登録の申請が先に受け付けられ,その後丙に対する特許権移転登録の申請が受け付けられたときでも,丙に対する特許権移転登録が先にされれば,質権の効力が生ずる前に当該特許権が丙に移転されていたことになるから,もはや乙に対する質権設定登録をすることはできず,結局,当該質権の効力は生じないこととなる。

このため,申請による登録は,受付の順序に従ってしなければならないものとされており(同令37条1項),特許庁の担当職員がこの定めに反して受付の順序に従わず,後に受付のされた丙に対する特許権移転登録手続を先にしたために,先に受付のされた乙に対する質権設定登録をすることができなくなった場合には,乙は,特許庁の担当職員の過失により,本来有効に取得することのできた質権を取得することができなかったものであるから,これによって被った損害について,国家賠償を求めることができる。』

名誉を毀損するテレビ番組への情報提供行為

2009-01-20 07:02:43 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)4156
事件名 著作権侵害不存在確認等請求事件
裁判年月日 平成20年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節


『2 争点・ア・(本件被告録画発言について,被告は,情報提供者にすぎないとして,不法行為責任を負わないか)について

 事案に鑑み,まず,争点・ア・について検討する。
・ テレビ番組を放送する放送事業者(以下「テレビ局」という。)は,その放送内容についての編集権を独占しており,いかなる内容の番組を製作,放送するかは,専らテレビ局が決定し,第三者は,テレビ局自体の許諾がない限りこれに関与することはできないのが通常であると認められる。
 したがって,テレビ局から取材を受けて,テレビ局に対して情報を提供した者は,自己の提供した情報がテレビ局によって編集される過程に,関与することはできず,特段の事情のない限り,自己の提供した情報が,実際に放送されるのか,また,放送されるとしても,どのような内容に編集されて放送されるのかについては,予想ができないものと認められる。このことは,取材の状況をテレビカメラによって撮影し,それを録画するという方法による取材の場合も同様である。

 そして,テレビ局は,その放送内容を中立,公正なものとし,その放送によって不当に第三者の名誉を毀損しないよう努めるべき高度の注意義務を課されており,このことは,放送法3条の2第1項が,「・・・」とし,同項4号が「・・・」と規定していること,民放連の放送倫理基本綱領も,「・・・」と規定していること(乙150),民放連の「放送基準」も,「・・・」と規定していること(乙152),民放連の「報道指針」も,「報道姿勢」として,「・・・」と規定していること(乙153)からも明らかである。したがって,テレビ局に対して情報を提供する者としても,通常,テレビ局が当該情報を利用した番組を放送するに当たっては,公正,中立性を保持するため,裏付け取材等を十分にするなどして,当該情報の正確性について慎重に吟味した上で,当該情報の利用の可否を決し,さらに,当該情報を利用するとしても,第三者の名誉を不当に毀損しないよう,番組内容を編集,製作していくものと考え,また,このようなテレビ局の行為を前提として,情報を提供するものと解される。

 したがって,仮に,情報提供者の提供した情報を利用したテレビ番組がテレビ局によって放送され,同放送が第三者の名誉を毀損するものであったとしても,上記情報提供者が,テレビ局から,事前に,当該テレビ番組の具体的な構成等について説明を受けていたことなどにより,当該テレビ番組の内容が,第三者の名誉を不当に毀損するものとなることについて,取材時に予め具体的に認識していた場合や,上記の認識を取材後に有するように至った場合でも,その内容の修正を求めることができる状況にあった等の特段の事情のない限り,上記情報提供者の情報提供行為と上記名誉毀損の結果との間には,相当因果関係は認められず,情報提供者は,名誉毀損の不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。』


客観的真実に反する比較広告

2009-01-18 15:08:03 | 不正競争防止法
事件番号 平成19(ワ)11899
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成20年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

不正競争防止法上2条1項14号にいう「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」とは,他人の社会的評価,すなわち,一般需要者の視点から見た評価を低下させ,又は低下させるおそれがあるような事実であり,かつ,それを告知又は流布する者の主観的認識とは関係なく,客観的真実に反する事実をいうものと解すべきである。

そして,本件各比較広告を一般需要者の視点から検討すると,・・・,被告ら商品Bに含まれるウーロン茶重合ポリフェノールの量や効能等について原告商品と比較しながら宣伝するものであり,
本件比較広告1では,被告ら商品Bのティーバッグ1包で350ミリリットル入りペットボトル5本半分の原告商品が含有する量よりも多くのウーロン茶重合ポリフェノールを含むウーロン茶を作れることを,
本件比較広告2では,被告ら商品Bの単位量当たりのウーロン茶重合ポリフェノール含有量が原告商品のそれの約70倍であり,原告商品のウーロン茶重合ポリフェノールの濃度が被告ら商品Bのそれに比して相当薄いことを,それぞれ示しているものと解釈することができる。

ところが,上記ア(カ),(キ)のとおり,一般需要者が,本件各比較広告が掲載されたウェブサイト又は被告ら商品Bの包装パッケージの各記載に基づき,通常認識するはずの方法によって作られた被告ら商品Bのウーロン茶重合ポリフェノールの含有量は,350ミリリットル当たり47.6ミリグラムであり,他方,原告商品のそれは,350ミリリットル当たり70ミリグラムであるから,両者の単位量当たりのウーロン茶重合ポリフェノール含有量を比較すると,原告商品の方が多く,よって,その濃度は原告商品の方が濃いといえる。

そうすると,上記のように解釈される本件比較広告1及び本件比較広告2は,いずれも,客観的真実に反する虚偽の事実であり,かつ,一般需要者に対して原告商品の品質が被告ら商品Bに劣るとの印象を与え,原告の社会的評価を低下させるおそれのある事実であると認められる。

・・・

6 争点(6) (被告オールライフサービスが,本件各登録商標を商標として使用しているか)について
(1) 商標としての使用の有無
 上記4で認定したところによれば,被告オールライフサービスは,本件各比較広告において,被告ら商品Bの含有成分の量と原告商品のそれとを比較し,前者の方が優れていることを示すことで,被告ら商品Bの宣伝を行うために,原告商品に付された本件各登録商標を使用したものと認められ,これに接した一般需要者も,そのように認識するのが通常であるといえる。

 したがって,被告オールライフサービスによる本件各登録商標の使用は,比較の対象である原告商品を示し,その宣伝内容を説明するための記述的表示であって,自他商品の識別機能を果たす態様で使用されたものではないというべきであり,商標として使用されたものとは認められない。

不正競争防止法2条1項2号における類似性

2009-01-18 14:43:10 | 不正競争防止法
事件番号 平成19(ワ)11899
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成20年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(2) 不正競争防止法2条1項2号における類似性について
上記1のとおり,原告商品表示については,著名性を認めることができないが,本件事案の性質に鑑み,仮に,原告商品表示が著名であるとした場合,原告商品と被告ら商品Bとの間に不正競争防止法2条1項2号における類似性を認めることができるのか否かについて検討を加える。

ア 類似性の判断基準について
不正競争防止法2条1項2号における類似性の判断基準も,同項1号におけるそれと基本的には同様であるが,両規定の趣旨に鑑み,同項1号においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものと解するのが相当である。

この点,原告は,同項2号の類似性判断においては,同項1号の場合よりも,広く類似性が認められる旨主張するが,上記のとおり,両者の類否判断は,その趣旨に対応した基準で行われるにすぎず,同項2号の場合において,常に広く類似性が肯定されるわけではないから,原告の上記主張を採用することはできない

イ 原告商品表示と被告ら商品表示Bの類似性について
上記(1)ウで検討した諸事情,すなわち,原告商品表示と被告ら商品表示Bとの間に,外観及び称呼の点で,大きな相違があると認められることに照らせば,需要者又は取引者において,被告ら商品表示Bを認識したとしても,(仮定的に)著名な原告商品表示自体を容易に想起するとまではいえない。

したがって,原告商品表示と被告ら商品表示Bとの間においては,不正競争防止法2条1項1号の場合と同様に,同項2号の類似性を認めることはできないというべきである。

商品表示の周知性と著名性(2条1項1号,2号)

2009-01-13 07:15:53 | 不正競争防止法
事件番号 平成19(ワ)11899
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成20年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(2) 原告商品表示の周知性について
 上記(1)の認定事実によれば,原告は,平成18年5月から同年7月までの間において,原告商品表示を付した原告商品を,多くの一般の顧客が容易に購入することができ,かつ,容易に目にすることができると考えられる,コンビニエンスストア,ドラッグストア,スーパーマーケット等において,大量に販売していた。それと併せて,新聞,雑誌及びインターネットといった各種のマスメディア並びに利用者が多いと考えられる路線の電車内及び駅構内において,原告商品表示を付した広告を頻繁に行っており,また,テレビ広告においても,そのような他のマスメディアの状況からすれば,それらと同様に,原告商品表示の写真が放送されていたものと推認される。その他,原告商品は,テレビ,新聞及び雑誌において紹介され,その多くで原告商品表示の写真が付されており(テレビにおいても原告商品表示の写真が紹介されていたと推認されることは,上記広告の場合と同様である。),さらに,平成18年度の人気商品として各種の賞も受け,その報道においても,一部,原告商品表示が紹介されていたものである。
 このような状況に照らせば,原告商品表示は,現時点においてはもちろん,被告ら商品Aの販売が開始された平成18年7月下旬ころ(上記前提となる事実(4)ア)の時点においても,原告商品を表すものとして全国の消費者に広く認識され,相当程度強い識別力を獲得していたといえ,周知性を有していたものと認めることができる。

 この点,被告らは,原告商品の販売や宣伝広告が行われた期間の短さを根拠として,平成18年7月下旬ころの時点では,原告商品表示の周知性及び著名性が認められない旨主張するが,上記(1)の認定事実のとおり,原告が,原告商品発売時である同年5月から同年7月までの間に,相当集中的な販売及び宣伝活動を行っていることに照らせば,その期間が2か月間であっても,周知性を獲得したと認めるのが相当であり,被告らの主張するところは,抽象的な推測の域を出るものではないから,これを採用することができない。

(3) 原告商品表示の著名性について
 原告は,上記(1)で認定された原告商品の販売及び宣伝活動の状況を根拠として,原告商品表示が,平成18年7月下旬ころの時点において,周知性を超えて著名性まで獲得していた旨主張する。

 しかしながら,ある商品の表示が取引者又は需要者の間に浸透し,混同の要件(不正競争防止法2条1項1号)を充足することなくして法的保護を受け得る,著名の程度に到達するためには,特段の事情が存する場合を除き,一定程度の時間の経過を要すると解すべきである。そして,原告商品については,上記の平成18年7月下旬の時点において,いまだ発売後2か月半程度しか経過しておらず,かつ,原告商品表示がそのような短期間で著名性を獲得し得る特段の事情を認めるに足りる証拠もないのであるから,原告商品表示は,同時点において,著名性を有していたものと認めることはできない。
 したがって,原告の上記主張は理由がない。

技術的意義が不明な周知の構成を導入する訂正

2009-01-03 10:45:54 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10254
事件名     審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官  塚原朋一

2 取消事由2(新規事項追加に関する判断の誤り)について
 本件事案にかんがみ,まず,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(訂正事項2)が新規事項の追加に当たるかについて判断する。

(1) まず,特許法126条3項にいう「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」との文言について,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項」とは,当業者によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,訂正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものということができる

 もっとも,明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項は,通常,当該明細書,特許請求の範囲又は図面によって開示された技術的思想に関するものであるから,例えば,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書,特許請求の範囲又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであるということができる。

(2) そこで本件訂正(訂正事項2)について見ると,そもそも訂正事項2は,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「特定図柄の半透明に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との構成を採用しようとするものである。

 しかるに,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)を精査しても,「種類ごとに異なる色に着色」することが,半透明部分を形成することと関連して,どのような技術的意義を有するかについて当業者が読み取ることができる記載部分が存在するとは認められず,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)の記載を総合しても,「種類ごとに異なる色に着色」することが,半透明部分を形成することと関連して,どのような技術的意義を有するかについて当業者が導くことができるとは認められない。この点,訂正前明細書(甲13)の段落【0025】には,「各シンボルは上記実施形態と同様にリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれているが,各半透明部分32aおよび33aにはこの有色インキが印刷されていない。その後の光透過性白色インキによる背景印刷は全面に対して行われ,最後の遮光性銀色インキによるマスク処理は各半透明部分32aおよび33aを除く領域に対して行われている。」との記載があるが,これも,各シンボルがリール帯31を形成する透明フィルム材の裏面に光透過性有色インキが印刷されて描かれていることを示すものにすぎない。

 したがって,訂正前明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13)の記載を総合しても,当業者が,本件訂正発明のように,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「種類ごとに異なる色に着色」するという構成を採用することの技術的意義について導くことができるとはいえず,本件訂正発明のように,異なる種類の複数の特定図柄の一部分に半透明部分を形成するという構成において,「種類ごとに異なる色に着色」するという構成を採用することの技術的意義は不明というほかない。
 そうすると,たとえ属性ごとに各図柄を色で塗り分けること自体は周知の事項であるとしても,そのような技術的意義が不明である構成を新たに導入することについてまで,同様に周知の事項であるということはできない

 以上によれば「特定図柄の半透明, に形成された部分以外の部分は,種類ごとに異なる色に着色されると共に,遮光性が付された」との訂正事項(訂正事項2)は,「明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものということはできず,新規事項の追加に当たるといわなければならない。

組み合わせの動機付けを否定した事例

2009-01-03 09:00:35 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10130
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3  審決の相違点2に係る容易想到性判断の当否について
(1) ・・・

 上記のとおり,オフセンタ機能は,探知画像の描画中心位置を後方へ変化させることにより,前方の表示画面限界位置までの表示範囲を広げて,変化させる前に見えていない探知物標が見えるようにし,他方,後方の表示画面限界位置までの表示範囲を狭め,変化させる前には見えていた探知物標を見えなくする技術である

(2) そこで,引用発明において,周知技術であるオフセンタ機能を採用する解決課題ないし動機等が存在するか否かについて検討する

 前記のとおり,引用発明は,表示器DISPLAY上の全体の表示画面について,自航空機の速度等に応じて,前方の表示範囲を伸縮させるのではなく,むしろ,一定の範囲内に位置する他航空機等のすべてを表示させることを前提ないし想定した発明である。
 このように,引用発明は,全体の表示画面内に,数多く表示されることがあり得る他航空機等の中で,操縦者をして,真に衝突を警戒すべき他航空機を識別させ,そのような航空機に対する注意を喚起させるために,「警戒空域」を円で表示し,かつ,自航空機の速度に応じて,その半径の長さを伸縮させる技術に係る発明である。上記のとおり,「警戒空域」の表示画面は,全体の表示画面に既に表示されている他航空機等の中で,衝突を回避させる必要のない航空機等と,真に衝突を回避させる必要のある他航空機等を,操縦者にとって識別することを容易にするための手段として用いられている。

 上記のとおり,引用発明では,CRT上(表示器DISPLAY上)の全体の表示画面には,衝突のおそれの有無にかかわらず,他航空機が表示されていることを前提として,既に,全体の表示画面に表示されている他航空機の中で,操縦者に対して,真に衝突を警戒すべき他航空機を操縦者に識別させて,注意をしやすくする目的で,「警戒空域」を表示させるという課題解決のための技術であるから,引用発明が,課題をそのような手段によって解決する発明である以上,「警戒空域」の表示範囲のみを,効率的に表示する目的でオフセンタ機能を採用する解決課題,優位性ないし動機等は存在しないというべきであり,仮にあるとすれば,それは,引用発明が想定する課題解決とは全く別個の課題設定と解決手段というべきである

請求項の用語の意義を確定する事例

2009-01-02 22:44:54 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10420
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官  飯村敏明

第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)について
 原告は,本願発明にいう「直流電流成分」は,「ハイパスフィルター」が除去する成分を意味するのに対し,引用発明の「オフセット処理回路38」が除去する「直流成分」や「オフセット値」は,一定の値である純粋な「直流成分」を意味するものであるから,本件審決は本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過したものであると主張する

 しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。

(1) 本願発明について
 原告は,本願発明にいう「直流電流成分」とは,「ハイパスフィルター」によって取り除かれる成分を意味し,純粋な直流成分のみを意味するものではないと主張する
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。

ア 特許請求の範囲の記載
 本願明細書(甲5,7,37)の請求項1の記載は,前記第2,2のとおりであり,これには,「直流電流成分」に関し,「・・・該電流源たる受光部からの電流信号が入力され,該電流信号中の直流電流成分を除去して出力するために,電流源たる受光部からの電流信号をアースに導く抵抗部と,電流源と抵抗部の間から分岐し増幅器との間に配置されるコンデンサ部とから形成されているハイパスフィルターと,・・・」
と記載されている。
 請求項1の上記記載によれば,本願発明では,「直流電流成分」を除去して出力するために,所定の構成を有する「ハイパスフィルター」が用いられることは特定されているものの,他方,同「ハイパスフィルター」によって除去される「直流電流成分」が,原告の主張する純粋な直流成分のみではなく,その他の成分を含むものと合理的に理解することはできない

イ発明の詳細な説明及び図面の記載
進んで,本願明細書(甲5,7,37)の発明の詳細な説明及び図面の記載を検討する
(ア) 本願明細書(甲5,7,37)の発明の詳細な説明及び図面には,「直流電流成分」について,次の記載等がある。
・・・

(イ) 発明の詳細な説明の前記(ア)aないしeの各記載によれば, 「ウエハ表面自身による散乱光に相当する直流成分」を取り除くために「ハイパスフィルター」が用いられることは理解できるものの,電流信号の「直流成分」が,所定の「ハイパスフィルター」の構成で取り除かれる成分であると認めることはできない
 また,【図13】の記載(前記(ア)f)によれば,電流の「直流成分」に相当するのは,水平な直線であるから,電流が一定値をとることは理解できるものの,「直流成分」に「純粋な直流成分」以外の何らかの信号成分が含まれていると認めることはできない
 さらに,【図4】,【図5】の各記載(前記(ア)g及びh)からも,「直流成分除去部」により「純粋な直流成分」以外の何らかの信号成分が除去されるとは認められない。
 その他本願明細書の記載を検討しても,本願発明において,「直流電流成分」が原告の主張する純粋な直流成分以外の成分を含むと認めるに足りる記載は見当たらない

(ウ) 一般に,ハイパスフィルターが,低周波数成分を除去することができるものであることを前提としたとしても,
① 本願発明にいう「直流電流成分」に「純粋な直流電流成分」以外の電流成分(例えば,被検査物であるウエハの表面のうねりや表面のムラなどに起因する低周波の電流成分など)を含むのであれば,本願明細書に低周波の電流成分や低域のカットオフ周波数等について何らかの記載や図示があるのが自然であるにもかかわらず,そのような記載はないこと,
② 「純粋な直流電流成分」をハイパスフィルターで除去すれば,電流電圧変換回路の飽和が防止され,異物検出のためのダイナミックレンジを広くとることができ,異物検出部において,測定可能な異物による散乱光の大きさの範囲が広く,広範囲のサイズの異物を検出できるという「純粋な直流電流成分」における効果が,本願明細書に記載されていること
等の諸点を総合考慮すれば,本願発明の「直流電流成分」を「純粋な直流電流成分」以外の何らかの電流成分を含むものと理解することはできない

商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情

2009-01-02 22:21:39 | 商標法
事件番号 平成19(行ケ)10425
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 原告の主張に対して
 これに対して,原告は,本願商標に係る取引の実情として,①原告が指定商品に関する特許を有すること,②引用商標の商標権者は,本願商標の指定商品を製造していないこと,③原告は,本願商標に係る指定商品について,全世界で30.8%のシエアを占めており,そのうちの80%が本願商標を付したものであること等の取引の実情が存するので,これらの実情を併せ考慮すると,本願商標と引用商標とは出所に誤認混同を生ずることなく,両者は類似するとはいえないと主張する

 しかし,原告の主張は失当である。

 すなわち,商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は,当該商標が現に,当該指定商品に使用されている特殊的,限定的な実情に限定して理解されるべきではなく,当該指定商品についてのより一般的,恒常的な実情,例えば,取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等を総合した取引の実情を含めて理解されるべきである(最高裁判 第一小法廷昭和49年4月25日判決・昭和47年(行ツ)第33号参照)。
 原告主張に係る取引の実情は,いずれも,現在の取引の実情の一側面を今後も変化する余地のないものとして挙げているにとどまるものであって,採用の余地はない

 本願商標は,引用商標と比較して,類似性の程度が高い点をも考慮するならば,本願商標をその指定商品(類似商品を含む。)に使用した場合には引用商標との間で出所に混同混同を生ずるおそれがあることは明らかである。原告の上記主張は,採用できない。

用語の解釈を誤った事例

2009-01-02 21:57:48 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10188
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 被告の反論
審決の判断は正当であり,審決に原告主張の誤りはない。
(1)  取消事由1に対し原告は,①崩壊性と,②非襞・自立性とを同時的に実現した点に,発明の要点,つまり,発明の技術的意味があると主張するが,原告のいう非襞・自立性については,特許請求の範囲の請求項1において,「基部(13A)および側壁(13B)を備え」,「前記ライナー(13)は,前記液体タンク内にピッタリと密着するよう,非崩壊状態において襞,波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく,側壁と基部との内部接合部に溝を有しておらず,前記液体タンクの内部に対応した形状を有している」と記載されているだけであり,原告が主張している「自立性」を裏付ける記載はない
 そして,特許法29条2項に規定する要件を判断するに当たっては,特許請求の範囲の請求項の記載に基づいてなされなければならないことは,特許請求の範囲の機能からして,当然のことであるから,原告の,「自立性」に関する主張は,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づく主張ではなく,失当である。
 なお,「積極的に基部と側壁とで構成して自立性を持たせること」に関しては,「基部」の剛性について請求項7で記載したうえで,請求項10で自立性について記載している点からも,原告の自立性に関する主張は,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づく主張とはいえないことが明らかである。
・・・

第4 当裁判所の判断
・・・
2 取消事由1(相違点の看過)について
(1)  原告は,本願発明のライナーは,崩壊可能でありながら襞がない状態で自立性ないし保形性がある一方,引用発明のライナーは崩壊性については規定するものの,襞がないこと,及び自立性ないし保形性については規定していないから,審決はこの本願発明の要点に係る相違点を看過したものであり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼす旨主張するので,以下検討する。
・・・
ウ 上記ア,イによれば,本願発明(請求項1)のライナーは,噴霧装置の液体タンク内に取り外し可能に配置される液体を収容可能な内袋であり,基部と側壁とを備え,かつ崩壊可能であって,非崩壊状態では襞等を有しないものである(請求項1,図2,図6等)。
 ・・・,本願発明のライナーは,それ自身が収納容器としても使用可能であるとともに,噴霧装置の液体タンク内に配置される内袋としても使用可能で(同⑩),非使用時の保管(同⑨),使用の際の取扱い及び内容液の充填も容易で,廃棄の際には容易に崩壊できるもの(同②)を提供することを目的とするものである。

 そのため本願発明のライナーは「崩壊可能」とされているところ(請求項1),「崩壊可能」は日本語として一義的な意味を有するものではない。そして,本願明細書において崩壊可能の用語をライナーの側壁に関し使用する場合には,手の圧力など,適度な圧力を加えることにより変形でき,基部に向かって押すことができるものの側壁が破壊しない状態を意味する(上記ア(イ)摘記④)と定義されている。またライナーは,支持しなくても延在して直立した状態で立つことができる旨が記載されている(同⑧)。
 そうすると,本願発明のライナーは,手の圧力などの人為的な圧力を加えない限り,側壁は変形せずに収納容器の形状を保つ性質を有するものであり,自立構造(自立性ないし保形性)を有するものといえる


 この性質を有することにより,本願発明のライナーは,非使用時の保管・内容物の充填が容易であり,また内容物を充填したまま単なる収納容器として使用出来ると共に,使用後に廃棄する必要があるときは,側壁が割れたり裂けるなどの破壊をすることなく,手で押しつぶして崩壊させ,廃棄に要する空間を少なくできる等の意義を有するものと認められる。
 また,ライナーは上記のように自立構造(自立性ないし保形性)を有しつつ,「液体タンク内にピッタリと密着するよう,非崩壊状態において襞,波,継ぎ目,接合部またはガセットがなく」(請求項1,関連する記載として上記ア(イ)摘記⑤)との,襞のない(非襞)構造を有していることから,ライナーを別個の収納容器の内側に適合させた状態で,収納容器中の塗料を混合器具によって破損されることなく混合することが可能となる(上記ア(イ)摘記⑦)と共に,ライナー内部に材料が閉じこめられる場所がないために内容物を十分に排出できる(同⑨,⑩)という意義を有するものである。

・・・

オ 以上ア~エの検討によれば,本願発明のライナーは,自立構造(自立性ないし保形性)を有するものであるのに対し,引用発明の袋は,内容物たる塗料がない状態では,自立性ないし保形性を有しないものである。審決が認定した一致点及び相違点は上記第3,1(3)イのとおりであるところ,審決はこの相違点を看過している



職権審理と再審事由

2009-01-02 20:49:41 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10280
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義


1  本件で原告が審決取消事由として,すなわち本件確定審決の再審事由として主張するところは,要旨,以下のとおりである。

①  審判においては職権主義が採用されているから,審判官は積極的に職権審理を行わなければならない。
②  本件取消審判において,被告が本件取消審判請求の登録日前3年以内の期間(以下「本件所定期間」という。)に本件商標を使用した事実を証明するために提出した本件証拠には疑わしい点があった。
③  本件取消審判と同時期に裁判所に係属していたフィッツ訴訟では,被告は本件所定期間内に本件商標を使用していなかったことを自認していたから,商標法56条の準用する特許法168条の運用により,審判合議体がフィッツ訴訟の訴訟資料についての職権証拠調べを行っていれば,本件証拠が被告の本件商標の使用の事実を認定するのに不適切な証拠であることが容易に判明した。
④  しかるに,本件取消審判の審判合議体は,フィッツ訴訟の訴訟資料について職権証拠調べを行わなかったため,本件証拠のみに基づいて被告の本件所定期間中の本件商標の使用の事実を認定し,本件確定審決がされた
⑤  以上のとおり,本件確定審決は不十分な審理に基づいてされたものであるから,民事訴訟法338条1項9号の再審事由がある

2  しかしながら,原告の上記主張を採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
 商標法57条2項が準用する民事訴訟法338条1項9号の「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと」(本件では,準用の結果,「確定審決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと」と読み替えることになる。)とは,職権調査事項であると否とを問わず,その判断の如何により判決の結果に影響を及ぼすべき重要な事項であって,当事者が口頭弁論において主張し又は裁判所の職権調査を促してその判断を求めたにもかかわらず,その判断を脱漏した場合をいうものと解される(大審院昭和7年5月20日判決民集11巻10号1005頁参照)。そして,同条項が商標法の確定審決に準用された場合にも同様に解するのが相当であるから,前審に当たる審判において当事者が主張していなかった事項について確定審決が判断をしていないとしても,再審事由たる判断の遺脱とはならないというべきである。

以下も同趣旨を判示
事件番号 平成20(行ケ)10281, 平成20(行ケ)10282, 平成20(行ケ)10283, 平成20(行ケ)10284
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟


請求項分の審判請求手数料を受領して1項のみを判断することについて

2009-01-02 19:22:12 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10177
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ 次に原告は,本願に係る45の請求項分につき審判請求手数料を受領したにもかかわらず,請求項35に記載された発明(本願発明)についてのみ判断し,審判請求が成り立たないとした審決は,特許法1条の趣旨に悖るものであるから,取り消されるべきである旨主張する

 本件のように審査官のなした拒絶査定に対する不服の審判請求において納付すべき手数料の額については,特許法195条等が定めており,同条によれば,2項が「別表の中欄に掲げる者は,それぞれ同表の下欄に掲げる金額の範囲内において政令で定める額の手数料を納付しなければならない」とし,別表11が「審判又は再審(次号に掲げるものを除く。)を請求する者」は「1件につき4万9500円に1請求項につき5500円を加えた額」とし,特許法等関係手数料令(昭和35年政令第20号)も同内容の定めをしている。
 原告がなした本件不服審判請求の請求項の数は前記のとおり45であるから,その手数料の額は,原告主張のとおり合計29万7000円となり,原告は上記法条に従った手数料を納付したものであることが認められる

 ところで,手数料の額を法によりどのように決すべきかは,立法者たる国会の合理的裁量に委ねられていると解すべきところ,審判請求の手数料の額を,請求項の数如何にかかわらない固定金額4万9500円と請求項の数ごとに5500円ずつを加算した金額の合算額とする前記のような算出方法は,審判請求を受けた特許庁担当官の労力と請求項の数が多いほど利益を受ける請求人の立場の双方を勘案した合理的なものと認められるから,一つの発明に瑕疵を発見した場合に他の発明について審理・判断せずに手数料だけを取るのは暴利であるなどとする原告の主張は,法解釈論としては,これを採用することができない。

 なお,特許法は,一つの特許出願に対し,一つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて一つの特許が付与され,一つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない
 このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。
 このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成19年(行ヒ)第318号平成20年7月10日第一小法廷判決参照)。したがって,拒絶査定に関する特許法49条,51条からすれば,複数の請求項が含まれる特許出願中に特許をすることができない発明に係る請求項が1個でも存在するときは,その特許出願全体について拒絶をすべき旨の査定をしなければならないものと解されるから,これと同旨の判断をした審決に誤りはない。