知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

審決が部分的に確定するのを看過した事例

2008-05-26 07:07:28 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10241
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『(3) ところで,一次審決は,原告の無効審判の請求に対し,「訂正を認める。特許第3681379号の請求項1,3に係る発明についての特許を無効とする。特許第3681379号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(甲第12号証の11)をしたものである(なお,請求項2に係る発明は,上記訂正の対象となっていない。)。
 そして,原告は,一次審決のうちの「特許第3681379号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」とした部分に対し,出訴期間内に審決取消しの訴えを提起しなかったのであるから,一次審決のうちの本件発明2についての無効審判請求を不成立とした部分が,独立して既に確定したことは,特許法123条1項柱書き後段に照らして明らかであり,もとより,一次審決に対し被告が提起した審決取消しの訴えや,一次審決に対する取消決定の対象となっているものではない


 しかるに,本件審決の説示には,本件発明2について,無効事由の有無を審理した上,無効事由がないと判断した部分があるが,上記のとおり,一次審決のうち,本件発明2についての無効審判請求を不成立とした部分は,独立して既に確定しているのであるから,本件審決において,本件発明2についての無効判断をすることはもはやできないものというべきであり,そうすると,本件審決の説示中,本件発明2についての無効事由の有無を審理判断した部分は,全く意味のないものと考えざるを得ない

 したがって,本判決は,本件審決の上記部分を対象とするものではないことを,念のため付言しておく。』

形式ではなく技術思想を検討する事例

2008-05-26 07:01:08 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10241
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『オ(ア) これに対し本件審決は,「ロック機構の操作部材が蓋体から両端部が突出しているものは,甲第2号証には記載されていなく,参考資料1~4にも記載されていない。」,「参考資料1~4は,ポットの栓体に設けられた弁体を操作部材で開閉操作するものであり,そもそも弁体のロック機構ではなく,参考資料4の操作手段は蓋体から操作部材の両端部が突出しているものの,収納袋の排気弁とは技術分野,技術的課題が全く異なるものであり,甲第1号証に記載された発明にこれら参考資料1~4に記載された技術を適用することを動機付ける技術的関連性を何ら見出せない。」と判断した(審決書6-3-3 (b))。

 本件審決のこの説示は,要するに,
①参考資料1~4に記載されたものは,いずれもポットの栓体に設けられた弁体を操作部材で開閉操作するものであって,弁体のロック機構ではなく,したがって,参考資料4には蓋体から操作部材の両端部が突出している操作手段が記載されているものの,ロック機構の操作部材が蓋体から両端部が突出している場合には当たらず,甲第2号証及びその他の参考資料にも蓋体から両端部が突出しているロック機構の操作部材は記載されていない,
参考資料1~4に記載された技術は,収納袋の排気弁とは技術分野,技術的課題が全く異なるものであり,甲第1号証に記載された発明に参考資料1~4に記載された技術を適用することを動機付ける技術的関連性を何ら見出せないというものであると解され,被告の上記第4の2の2の(2)のウの主張も上記②の説示と同旨である。

 しかしながら,参考資料1~4に記載されているのは,ポット又は魔法瓶ないし液体容器の栓の開閉機構に関する技術ではあるものの,いずれも操作部材を操作することにより,栓体に設けられた弁体を押圧し,弁体を最下点で固定して液体流路の開放又は閉止の状態を保持するものであり,少なくとも閉止状態を保持するものについては,本件審決のいう「弁体のロック機構」にそのまま当たるものというべきであるし,
 また,閉止状態を保持するものも,開放状態を保持するものも,ともに周知であることにかんがみれば,開放状態を保持するものの機構を閉止状態を保持するもの(すなわち,本件審決のいう「弁体のロック機構」)に転用することは当業者にとって容易なことであるから,結局,本件審決の上記①の説示は失当である


さらに,流体の動きを制御する弁の開閉機構に関する技術は,流体を取り扱う種々の技術分野に共通して用いられるいわば汎用的な技術であることは明らかであるから,甲1発明の弁体を操作する構造を設計するに当たって,弁体を操作する各種の技術を参照することには,当業者にとって十分な動機付けがあるというべきである。
 のみならず,参考資料1~4に開示された技術に係るポット又は魔法瓶は,日常的に身の回りにおいて用いられるものであり,かつ,これらの製品において,栓の開閉に弁体を用いた機構が使用されていることは,当業者ならずとも容易に了知し得るものであるから,上記のとおり,弁体を操作する各種の技術を参照することについて十分な動機付けを有する当業者が,参考資料1~4に開示された事項から抽出される周知技術を甲1発明に適用することに格別の困難があるとはいうことはできない。したがって,本件審決の上記②の説示及びこれと同旨の被告の主張も失当である。』

発明の要旨の認定における実施例の斟酌

2008-05-26 06:50:26 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10241
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『しかしながら,上記のとおり,上記図7~9に記載された実施例は,蓋体2を緩める方向に回転させた際に,蓋体2が基体1から外れないものであり,そのような効果を奏することを目的として,規制部7,段部29等を設け,蓋体2を緩める方向に回転させた際に,1回転未満で段部29が規制部7に当たり,それ以上の回転を阻止するよう構成したものである。
 他方,本件発明1の要旨のとおり,本件発明1の蓋体は,「弁本体に着脱自在に取付け」られるものであるから,本件発明1を,甲第1号証記載の発明と対比するに当たって,上記図7~9記載の実施例を斟酌することはできないといわざるを得ない。』

一部の請求項のみでした拒絶審決の適法性

2008-05-26 06:32:28 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10328
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『4 取消事由4(判断の遺脱)について
(1) 原告は,請求項2に記載された発明(本願発明)についてのみ判断し,審判請求が成り立たないとした審決は,請求項1,3~5記載の各発明に対する判断を遺脱したもので,特許法157条2項4号に違背する理由不備の違法があると主張する

(2) しかしながら,拒絶査定に関する特許法49条柱書きが「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定し,特許査定に関する同法51条が「審査官は,特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定していることにかんがみれば,特許法は,1個の「特許出願」中に複数の請求項が含まれる場合であっても,請求項ではなく特許出願を対象として,拒絶査定又は特許査定をなすべきものとしていることは明らかである

 同法が,請求項ごとに拒絶査定又は特許査定がなされることを全く予定していないことは,例えば,同法185条が「請求項ごとに特許がなされ,又は特許権があるもの」とみなして適用すべき規定を列挙して掲げており,特許無効審判に関する同法123条柱書きが「特許が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合おいて,二以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」と規定しており,特許異議の申立てに関する,平成15年法律第47号による廃止前の特許法113条柱書きも「何人も,特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り,特許庁長官に,特許が次の各号のいずれかに該当することを理由として特許異議の申立てをすることができる。この場合おいて,二以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」と規定していたのに対し,
同法185条が掲げる規定中に同法49条,51条は含まれておらず,同法49条又は同法51条につき,同法123条柱書き後段又は廃止前の同法113条柱書き後段に相当する規定が存在しないこと,その他,1個の特許出願中の複数の請求項ごとに拒絶査定又は特許査定がなされるべきことを窺わせる法令の規定は見当たらないことに照らしても明らかなところである。

 そして,上記のとおり,柱書きが「審査官は,特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定されている同法49条において,2号が「その特許出願に係る発明が・・・第二十九条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき。」と規定していることによれば,複数の請求項が含まれる特許出願中に,同法29条によって特許をすることができない発明に係る請求項が1個でも存在するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならないものと解さざるを得ない
なお,拒絶査定不服審判における審理の対象は,拒絶査定がされた当該特許出願を特許すべきか否かという点にあり,拒絶査定不服審判においても審査においてした手続が効力を有すること(特許法158条)にかんがみると,以上の説示は,拒絶査定不服審判についても妥当するものである

そうすると,本件においては,上記1~3のとおり,本願発明(請求項2記載の発明)は同法29条2項によって特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願に対し拒絶すべき旨の査定をしなければならないことになるので,審決が,他の請求項に係る発明ついて判断することなく,審判請求は成り立たないとしたことに判断遺脱の違法はない。

 (3) 原告は,同一特許出願による他の発明についての瑕疵により,本来特許されるべき発明が,審決で判断を受けることなく拒絶されるとすれば,審決取消訴訟における判断を受けることもできないから,法律によって保障された裁判を受ける権利を一方的に剥奪するもので,憲法32条に違反するものであると主張するが,上記のとおり,特許法の規定は,特許出願中に同法29条によって特許をすることができない発明に係る請求項があれば,特許出願に対し拒絶査定をすべきもの(又は当該拒絶査定を維持する審決をすべきもの)と解されるのであるから,当該特許出願中の他の請求項に係る発明は「本来特許されるべき発明」に当たるものではなく,上記主張は前提において誤りである

 また,原告は,審判請求に要する手数料は,請求項の数に応じて増額されることとされているところ,一つの発明に瑕疵を発見した場合には,他の発明について審理・判断せずに手数料だけを取るのであれば,審判請求人に対し一方的に賦役を課しているものといわざるを得ないと主張する
 しかるところ,特許法195条2項,同法別表11の項は,審判を請求する者が納付すべき手数料の額は定額部分と請求項の数に比例して増額される部分とから成ることを規定しているのであり,後者の部分の定め方は,審判請求人が,当該審判で主張する利益(審判請求が全部認められることにより,審判請求人に与えられる利益)を手数料の額に反映させたものと認められるが,算定を容易にするために,審判で主張する利益を,請求項の数に換算して規定したものと解することができる
 そうであれば,特許出願に対し特許査定がなされるべきことを主張する拒絶査定不服の審判において,手数料額の一部が,当該特許出願に含まれる請求項の数に応じた額とされるのは,審判請求人が当該審判で主張する利益(当該特許出願に対し特許査定がされることにより,審判請求人に与えられる利益)が特許出願の全体に及び,計算の便宜上,その利益を当該特許出願に含まれる請求項の数に換算したことによるものであって,審判において全部の請求項について審理・判断をすることの対価として,請求項の数に応じた額とされているものではないというべきであり,原告の上記主張も失当である。
 原告は,上記(1)の主張に関し,他にも縷々主張するところであるが,畢竟,独自の見解であって採用することはできない。』


判決の拘束力

2008-05-18 11:54:06 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10347
事件名 審決取消請求
裁判年月日 平成20年05月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
裁判長裁判官 塚原朋一

『(4) 以上の(1)~(3)に照らせば,第2次判決は,刊行物2(甲2)から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消したものであること,かかる第2次判決が確定したことが認められる。
 しかるに,このような場合は,前記(1)に説示したように,再度の審判手続(本件審決の審判手続)に第2次判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例(刊行物2〔甲2〕)から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないこととなる。

・・・

(5) 原告は,第2次判決は,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであるから,第2次判決の拘束力は進歩性判断について及ぶことになるが,取消事由1は,そもそも,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるから,第2次判決の拘束力は及ばないと主張する

 しかし,たとえ第2次判決が,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであり,また取消事由1が,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるとしても,確定した第2次判決の判断が,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消した場合に当たることに変わりはない

 そうすると,このような場合は,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例たる刊行物2から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないというべきである。

 そして,再度の審決取消訴訟たる本件訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決(本件審決)の認定判断を誤りである(同一の引用例〔刊行物2〕から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として,これを裏付けるための新たな立証として甲3,4を提出し,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決を違法とすることも許されないところである。』

測定方法の特定を欠く数値

2008-05-18 11:47:59 | 特許法36条6項
事件番号 平成19(行ケ)10144
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『4 審決におけるヘンリー則定数及びヘンリー則選択率の明確性の判断の誤りについて
(1) 原告は,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率は一義的に求められると主張する
 しかし,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率に関する本件訂正明細書の記載は,前記1で認定したとおりであり,ヘンリー則定数及びヘンリー則選択率の具体的な数値の測定方法ないし決定方法について記載がなく,その場合にヘンリー則定数が一義的な値として決定できないことは後記5,6のとおりである。原告の主張は採用できない。

(2) 原告は,本件特定事項中の「0.49」自体の意味が明確であることを根拠にして特許請求の範囲は明りょうであると主張する
 しかし,本件特定事項は,本件訂正発明1を構成する「第3の吸着剤」の特定に当たって,「二酸化炭素に対する一酸化二窒素のヘンリー則選択率」が「0.49以上である」という具体的な数値を下限値として記載したものであるから,この数値を測定し決定する手段が明確に理解し把握できるものでなければ,本件訂正発明1の内容を明確に記載したものとはいえない。原告の主張は採用できない。』

特許請求の範囲の技術的範囲の解釈(構成要件の限定解釈事例)

2008-05-18 10:58:14 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)12773
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年05月08日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田知司

『(1) はじめに
 被告は,本件発明が立体映像表示装置についての発明であることを前提として,構成要件Bの「前記LCDに異なる画像を順次表示する」は,「異なる映像信号源から出力される方向の異なる画像を時間的に交互に表示する」と限定して解し,構成要件Dの「表示装置」は,「立体映像表示装置」と限定して解釈すべきであると主張する
 そこで,まず,本件発明が二次元映像表示装置を含まない,立体映像表示装置についての発明であるか否か,すなわち構成要件Dについて検討する。
 ・・・
 そして,前記に認定した本件明細書の記載からすれば,本件発明は,
 従来の技術によれば,透過型映像表示板に左眼用と右眼用の各映像を表示し,左眼用と右眼用の各光源を時分割的に切り換えることにより,左右両眼にそれぞれ方向像が分離投影され,立体映像として観察されるところ,前記の透過型映像表示板にLCDを使用した場合,・・・,完全に時間的に分離することができないという問題点があったので,
 片方の眼用の方向像が書き込まれた後,次の画像の書き換えが始まる前に,いったん全画面黒表示を行わせるための全画面黒信号を入力することにより,最初に書き込まれた片方の眼用の方向像とその次に書き込まれる他方の眼用の方向像を時間的に完全に分離することを実現した発明である
と認められる。

 以上のとおり,

 本件明細書においては,技術分野,発明の課題,実施例のすべてにおいて,立体映像表示装置についての記載しかなく,立体映像の表示機能を備えない装置の記載はないこと,
 また,本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する表示装置において,表示板にLCDを使用した場合の問題点を解決しようとする発明であることからすれば,
 本件発明は,左右両眼に時分割した左右両眼用の方向像を投影することにより立体映像を表示する立体映像表示装置の発明であって,立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)を含まない発明である。したがって,本件発明の技術的範囲は立体映像表示装置に限定されるから,構成要件Dは,「立体映像表示装置」と解すべきである。』

『ウ 分割出願が行われると,新たな特許出願は,もとの特許出願の時にしたものとみなされるが,出願日の遡及が認められるためには,分割出願に係る発明がその原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることを要する。

エ 本件において,本件出願が分割出願の適法要件を満たすものであるかどうかについて検討する。
 前記認定のとおり,本件原出願明細書には,従来の技術には立体映像表示装置の記載しかなく,発明の名称,特許請求の範囲,産業上の利用分野,課題を解決するための手段,実施例,発明の効果のいずれにおいても,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみが記載されており,立体映像の表示機能を備えない装置(二次元の映像のみを表示する装置)に関する記載は一切なく,明細書又は図面に記載された事項の範囲内とすることもできない

 したがって,仮に,本件発明が左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置についての発明ではなく,二次元の映像のみを表示する装置をも含む表示装置についての発明であると解釈すると,本件明細書には,本件原出願明細書又は図面に記載した事項の範囲内ではないものが含まれることになり,本件出願は分割出願の適法要件を満たさないことになってしまう。

オ そして,本件出願が分割出願の適法要件を欠くとすれば,出願日の遡及は認められず,現実の出願日である平成15年10月2日が本件発明の出願日となる。
 証拠(甲3)によれば,同出願日の前である平成8年12月24日には既に本件原出願の発明が公開されていることが認められる。また,前記認定事実によれば,本件発明は,その公開特許公報において,・・・の記載のとおり,既に開示されていることが認められる。
 とすれば,本件発明は新規性を欠くものであり,特許法29条1項3号の規定する発明に該当し,同法123条1項2号に基づき,特許無効審判により無効にされるべきものとなってしまう。

 他方で,本件発明は,二次元映像のみを表示する装置を含まず,左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であると解すれば,同発明は,本件原出願明細書に記載されたものであるから,本件出願が分割出願の適法要件を欠くことにはならず,上記無効理由があるとはいえない

 この点からみても,本件発明は,その技術的範囲の解釈に当たっては(発明の要旨の認定は別論である。),左右各眼用に対応して透過型映像表示板の表示を時間交互又は順次に切り換える立体映像表示装置のみに限定された表示装置の発明であるとすべきである。したがって,構成要件Dは,本件発明の技術的範囲の解釈としては「立体映像表示装置」と解釈するのが相当である。』