知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

公用物件の出願前の特性の立証

2012-04-15 10:44:09 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10186
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年04月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

2 審決は,本件発明と甲4発明との間の相違点3は容易想到でないと判断した(60頁)。しかしながら,この判断は誤りであり,その理由は次のとおりである。
 なお,以下の判断の前提事実として,無効理由5,6で主張された公用物件についても触れるが,無効理由2を裏付ける補強事実として認定するものである。

(1) 証拠(甲9の4-1~13)によれば,平成22年1月15日~3月11日の間,公用物件1を,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の構成Bにおける式(1)から算出される周方向応力σの最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下であったことが認められる。
 この点,審決は,「・・・公用物件1は『本件に係る出願の実際の出願日前に製造された』ものといえるが,『2010年1月15日~2010年3月11日の間において大気暴露試験を行』ったものであることは明らかであり,その大気暴露試験の結果が本件に係る出願の出願前に公然実施された発明における『Δσ』の値であるといえるためには,『Δσ』の値が変化するものではないことを請求人は証明することが必要であるといえるが,請求人が提出した第1回口頭審理陳述要領書ないし第3回口頭審理陳述要領書には『Δσ』の値が変化するものではないとの説明もないし,一般的に残留応力は時間の変化に応じて変わるものであることは技術常識といえるものである。」として,公用物件1に係る硬質塩化ビニルパイプが本件に係る出願日前に式(1)で規定される特性を有していたとは認定できないとした(62頁4行~23行)。

 しかし,硬質塩化ビニル系樹脂管は比較的安定で劣化が起こりにくいが,・・・,塩化ビニル樹脂に大きな影響を及ぼす日射のほか,熱,紫外線,化学薬品による影響を受けた形跡はない上(甲9の1,9の3-1・2),暴露試験時において公用物件1-1・4・8~12がJIS規格に定められた性能(引張降伏強さ,耐圧性,偏平性,ビカット軟化温度)を満たす状態であったということができるし(甲38),かつ,時間の経過や推奨された方法ではない保管方法により応力緩和が進みΔσ の値が大きくなることはあっても小さくなるとは考えがたい。
 そうすると,平成22年1月15日~同年3月11日の間,公用物件1を,3500kcal/m2・日以上の日射量が存在する環境下に20日間静置された後の式(1)から算出される周方向応力σ の最大値と最小値の差Δσ は2.94MPa以下であったことからは,本件出願前において,公用物件1は相違点である構成BのΔσ の値を満たすものであったと推認するのが相当である

原画の著作権者の許諾を得ることなく増刷された絵本

2012-04-15 10:04:50 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)36852
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年03月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(エ) Bは,・・・,絵本の印刷数を1万冊とし,・・・,画家に支払う画料は絵本1タイトルにつき50万円程度とするのが適当ではないかと考え,その旨を原告A2ら画家たちに伝えた。また,Bは,画家たちに対し,この絵本のシリーズが成功するようであれば,将来被告において新たに絵本を制作する機会もあるだろうから,その際には新たな挿絵の制作を依頼したいと考えている旨を伝えた。
・・・
本件会合では,・・・,被告側と原告側との間で,絵本原画制作の基本的な方針(原画の大きさ(サイズ),1書籍当たりの原画の枚数,絵本の中の文章部分の位置等)が確認されるなどした。なお,本件会合では,絵本の原画の著作権がどのように取り扱われるのか(著作権は画家が保持するのか,それとも画家から被告に譲渡されるのか)という問題や,被告において本件書籍を将来(数年後に)増刷する予定があるのか,増刷する際に本件原画の著作者(画家)に対して被告から別途画料が支払われるのかという問題については,特段話題に上らなかった
・・・
(ク) 被告は,平成20年4月から平成22年12月までの間に,別紙書籍増刷表記載のとおり本件第1書籍を増刷し(本件増刷),これらを幼稚園等向けに販売した。被告は,本件増刷に当たって,原告らから増刷について改めて許諾を受けることも,追加の画料を支払うこともしなかった。そのため,原告らは,本件増刷がされた当時は増刷の事実を認識していなかった。
・・・
(3) 以上のとおり,被告は,本件第1原画の著作権者である原告らの許諾を得ることなく本件第1書籍を増刷し,これを販売したものであるから,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したものと認められる。

サポート要件違反を認定した事例

2012-04-07 23:51:52 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(ワ)30777
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年03月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

 しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,・・・,プロテイナーゼKと共に,コラーゲン分解酵素である「コラゲナーゼ」及びDNA分解酵素である「DNアーゼ」が用いられており,これらのコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなく,プロテイナーゼKのみを用いて分解処理を行った実施例の記載はない
 また,本件明細書には,・・・との記載がある。これらの記載は,「プロテアーゼを含む分解酵素」を用いることにより,目的物である病原性プリオン蛋白質を十分に取り出すことができること,「プロテアーゼを含む分解酵素」におけるプロテアーゼ以外の分解酵素の組合せとしてコラゲナーゼ及びDNアーゼを用いることが望ましいことを開示するものといえる。

 一方で,本件明細書の発明の詳細な説明には,プロテイナーゼKを用いる場合に,コラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることを省略することができることについての記載も示唆もない。かえって,本件明細書には,・・・との記載がある。上記記載は,プロテアーゼとして,・・・,「プロテイナーゼK」を用いて所望の検出感度を得るには,「プロテイナーゼK」,「コラゲナーゼ」及び「DNアナーゼ」の3種類の酵素を用いることが必要であることを示唆するものといえる。

 さらに,本件原々出願当時,可溶化された非特異的物質の分解処理工程において,「プロテイナーゼK」のみを用いることによって,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させる効果を奏することが技術常識であったことを認めるに足りる証拠はない。

 以上を総合すると,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件原々出願当時の技術常識に照らし,第2次訂正発明の構成要件C'' の「前記可溶化された非特異的物質をコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素を用いることなくプロテイナーゼKを用いて分解処理する」構成を採用した場合に,中枢神経組織に蓄積される病原性プリオン蛋白質の蓄積濃度が比較的小さくても,病原性プリオン蛋白質由来蛋白質を十分に濃縮させる効果を奏し,高感度で組織特異的に病原性プリオン蛋白質を検出できるとする本件発明の課題を解決できることを認識できるものと認めることはできない

 したがって,第2次訂正発明は,サポート要件に適合しないというべきであるから,第2次訂正発明には,サポート要件違反の無効理由があるものと認められる。

「・・・inside」という商標の構成

2012-04-07 23:30:40 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10323
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした判断の誤り)について
・・・
 原告は,引用各商標における自他商品の識別性を有する商標の要部の一つは,「・・・inside」及び「・・・INSIDE」との表示形式であり,本件商標の「KDDI」「Module」「Inside」の文字を順に上から下へ積み重ねた態様は,「・・・INSIDE」との表示形式と共通しているから,「・・・インサイド」という共通の称呼が生じ,商品の出所に混同を生じるものであると主張する。

 確かに,引用各商標を構成する「intel inside」との文字が原告又は原告製造に係る製品の表示として広く認識されていることや,テレビ媒体等で使用された「インテル,入っている」というサウンドロゴに接した者は,「intel」の語と「inside」の語との結び付きを強く印象に残すものであることなどからすると,「intel」以外の文字と「inside」の文字を結合した「・・・inside」との表示形式を有する商標に接した者は,当該商標と引用各商標との構成それ自体の共通性を想起し得ることは否定することができない

 しかし,原告は,本件商標の登録出願前では,平成12年3月15日にコンピュータとコンピュータソフトウエアの使用等を指定役務とする「THE JORNEY INSIDE」との商標を出願しているものの(甲50),他に「intel」の文字に代えて,他の文字と「inside」の文字を結合した表示を使用した事実は認められないこと,また,「inside」の文字は,「内側の,内部の」等の意味合いを持つ,一般的な語であり,「intel」以外の文字と結合させることも含め,多様な用法が想定できることからすると,「intel」以外の文字と「inside」の文字を結合した「・・・inside」という商標の構成が,当該商標が使用された商品又は役務が直ちに原告の製造に係る商品又は役務であると誤信するおそれを生じさせるほどの強い出所識別機能を有しているとまでは認められない
・・・

法29条2項による拒絶査定中で「なお書き」で指摘した不明瞭な記載に対する釈明

2012-04-07 10:16:15 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成13年12月7日,・・・特許を出願したが(・・・),平成20年12月10日付けで拒絶査定を受けたので(甲5),平成21年3月16日,これに対する不服の審判を請求し,同年4月15日,手続補正をした(甲3。以下「本件補正」という。)。
(2) 特許庁は,前記請求を不服2009-5748号事件として審理し,平成23年3月7日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
 ・・・

第4 当裁判所の判断
 ・・・
イ 本件補正のうち,本願発明の特許請求の範囲の記載にある「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点についてみると,原告は,被告が平成20年12月10日付け拒絶理由通知(甲5)において
「なお,本願発明は,店頭等での商品の「配列」(「物」か「方法」か必ずしも明確ではない。)そのものを発明としている。これは,顧客への商品の訴求効果の増大を目的とする商業上の取り決めにすぎないともいえ,本願発明は,特許法が対象とする発明,即ち自然法則を利用した技術的思想の創作であるのかに疑義が残る。」
と指摘したことから,これを受けて,出願に係る発明を物の発明として特定する趣旨で,「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めたものと認められる(乙1)。
 ところで,「配列」とは,一般に,「ならべつらねること。順序よくならべること。また,そのならび。」(乙2。広辞苑第4版)を意味するものの,本願発明においては,上記拒絶理由通知も指摘するとおり,その技術的意義が必ずしも明らかであるとはいい難い。

ウ そこで,本件明細書の記載を参酌すると,・・・。
 このように,本願発明における「配列」との文言は,依然としてそれ自体が特許法2条3項にいう「物」であるのか「方法」であるのかが必ずしも一義的に明らかではないという点が残り,・・・。

 このことを前提として,本件補正後の請求項1ないし56をみると,これらの発明は,いずれも「販売ディスプレーシステム」を発明の対象としている・・・。

 以上によれば,本件補正のうち,「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点は,前記イの平成20年12月10日付け拒絶理由通知(甲5)が「配列」との文言について示した事項について原告による釈明を目的としたものであり(法17条の2第4項4号),併せて,店舗におけるディスプレー(製品の配列)及び選択装置(しるしの配列)の双方を包含していた本願発明の特許請求の範囲を減縮するため,店舗におけるディスプレー(製品の配列)に限定することを目的としたもの(同項2号)とみることができる
 したがって,本件補正が結果として明瞭でない記載について釈明の目的を達したか否かはしばらく措くとしても,本件補正のうち上記の点は,法17条の2第4項2号及び4号に該当するものというべきであって,少なくとも,上記の点が同条に違反するとの本件審決の判断は,誤りであるというほかない。

<筆者メモ追記>
・ 不明りょうな記載の釈明が結果責任であることについて、
  平成18(行ケ)10547 平成19年10月31日 知財高裁 三村良一裁判長 過去ブログはここ
  平成22(行ケ)10325 平成23年05月23日 知財高裁 中野哲弘裁判長 過去ブログはここ

・ 進歩性を理由とする拒絶査定等に拒絶理由を構成しないと記載した後に記載不備を指摘した場合
  平成18(行ケ)10055 平成19年09月12日 知財高裁 飯村敏明裁判長 過去ブログはここ

・ 独立特許要件違背による補正却下の際に記載不備を指摘した場合
  平成22(行ケ)10188 平成22年12月15日 知財高裁 滝澤孝臣裁判長 過去ブログはここ

  

不競法2条1項3号の請求主体の要件

2012-04-07 09:48:36 | 不正競争防止法
事件番号 平成21(ワ)43952
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成24年03月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

イ 競法2条1項3号は,商品化のために資金や労力を投下した者の開発利益を,当該商品の形態を模倣するという行為を競争上不正な行為とすることにより保護することを目的とするものであり,このような目的からすれば,本号の不正競争につき損害賠償を請求することができる者は,当該商品を自ら開発,商品化した者又はこれと同様の固有かつ正当な利益を有する者と解すべきである。

 これを本件についてみるに,・・・。

 以上によれば,本件ジュースについては,その内容物,商品名,容器デザインのいずれについても,原告が独自の費用,労力を掛けてこれを開発,商品化したということはできない(原告は,本件ジュースが原告の開発,商品化した商品であることの根拠として,原告によるJANコード等の取得や,食品衛生法に基づく輸入届出,関税の納付をも主張するが,これらはいずれも本件ジュースの開発,商品化に関するものとはいえず,採用することができない。)。

 したがって,本件ジュースについて,原告は,自ら開発,商品化した者と認めることはできず,また,これと同様の固有かつ正当な利益を有する者と認めることもできないから,不競法2条1項3号の不正競争につき損害賠償を請求することができる者ということはできない。

特定少数の者に対する譲渡

2012-04-01 22:55:00 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)30222
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成24年03月23日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点(1)(譲渡権侵害の成否)について
(1) 原告は,被告NTTコムが被告GPネットに対し,本件プログラムがインストールされた本件サーバ2台を譲渡したことが,本件プログラムに係る原告又はKDEの譲渡権(著作権法26条の2第1項)を侵害する旨主張する。
 しかしながら,譲渡権は,著作物(映画の著作物を除く。)をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利をいい,「公衆」には「特定かつ多数の者」も含まれるが(同法2条5項),特定少数の者に対する譲渡について譲渡権は及ばない