知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

審判官退職後に確定した審決によって被った損害に対する元審判官への損害賠償請求

2010-08-29 21:35:07 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)15487
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年08月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

2 請求原因について
(1)ア 原告は,前記1のとおり,特許庁審判官であった被告が,その合議体の審判長として本件特許に係る特許異議申立事件の審理を担当した際に,特許異議申立人である住石の利益を図って,「前に確定した判決」と抵触する違法な本件決定をしたことが,被告及び住石の共同不法行為に該当し,被告は,共同不法行為に基づく損害賠償としての慰謝料の支払義務を負う旨主張する。

 ところで,公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国が,国家賠償法1条1項により,その被害者に対して賠償の責に任ずるものであり,公務員個人はその責を負わないものと解するのが相当である(最高裁昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁等参照)。

 これを本件についてみるに,被告は,国家公務員である特許庁審判官としての職務として本件特許に係る特許異議申立事件の審理をし,本件決定をしたものであるから,仮に被告が本件決定をしたことが違法な行為に当たり,これによって原告が損害を被ったとしても,国がその賠償の責に任ずるものであって,被告個人がその賠償責任を負うものではないというべきである。

イ これに対し原告は,被告は,本件決定が確定した平成15年10月9日に先立つ同年4月1日に特許庁を退職しているから,被告が本件決定をしたことは,国の公務員がその職務の執行として行った行為に当たらない旨主張する。

 しかし,公務員の行為がその職務の執行として行われたものであるか否かは,その行為時点において判断すべきものと解されるから,本件決定をした時点で特許庁審判官であった被告が本件決定が確定する前に特許庁を退職したという事情は,本件決定が被告の職務の執行として行われたことに影響を及ぼすものではなく,原告の上記主張は採用することができない。

(2) 以上によれば,原告は,被告が本件決定をしたことが違法な行為であることを理由に,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を請求することはできないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。

引用例が特許法29条1項3号の「刊行物」に該当する要件

2010-08-29 21:09:55 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10180
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

(1) 本件発明6及び7における本件3水和物が新規の化学物質であること,甲7文献には,本件3水和物と同等の有機化合物の化学式が記載されているものの,その製造方法について記載も示唆もされていないこと,以上の点については当事者間に争いがなく,かつ審決も認めるところである。
 そこで,このような場合,甲7文献が,特許法29条2項適用の前提となる29条1項3号記載の「刊行物」に該当するかどうかがまず問題となる。

 ところで,特許法29条1項は,同項3号の「特許出願前に‥‥頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定するものであるところ,上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには,同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが,発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に,当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。

 特に,当該物が,新規の化学物質である場合には,新規の化学物質は製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから,刊行物にその技術的思想が開示されているというためには,一般に,当該物質の構成が開示されていることに止まらず,その製造方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして,刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には,当該刊行物に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである。

(2) 本件については,・・・,甲7文献が特許法29条1項3号の「刊行物」に該当するというためには,甲7文献に接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,特許出願時の技術常識に基づいて本件3水和物の製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるということになる。

(3) そうすると,本件においては,本件出願当時,甲7文献の記載を前提として,これに接した当業者が,思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく,本件3水和物の製造方法その他の入手方法を見いだすことができるような技術常識が存在したか否かが問題となるが,次のとおり,本件においては,本件出願当時,そのような技術常識が存在したと認めることはできないというべきである。

商標法4条1項7号該当性(公序良俗に反する)を認めた事例

2010-08-29 13:24:19 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10297
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

(3) 以上の事実を前提に,本件商標の商標法4条1項7号該当性を検討する。

ア 本件商標の出願における被告の悪意について
 前記認定のとおり,・・・,以上の点を総合考慮すれば,・・・,被告は,・・・,ASUSTeK社あるいはASRock社に先んじて「ASRock」という商標を自ら取得するために,本件商標の原基礎登録商標を出願したと推認するのが相当であり,少なくとも,本件商標の出願日(平成15年9月18日)においては,ASRock社が同社の製造販売する製品に引用商標を使用していることを知りつつ,本件商標の国際出願をしたと認めるのが相当である。

イ 本件商標の出願の目的について
 そして,
 被告の韓国における事業の実体は明らかではなく,・・・こと,証拠上,製品の販売形態はインターネットオークションへの出品という特異な形態に限られていること,
 被告は,・・・,我が国で事業を行っている証拠は存在しないことから(なお,「Yahoo!オークション」というインターネットオークションへの商品の出品をもって我が国における事業の実施と認めるのは相当ではない。),
 今後近い将来,我が国において本件商標の指定商品に関する事業を行う意思があるとは思われず,少なくとも,その可能性は限りなく低いと思われること,事業の実体がほとんどないにもかかわらず,電子機器関連の多数の商標を出願し,その中には,前述のとおり,他社が海外で使用する商標と同一類似の商標を故意に出願したとしか考えられない商標も複数含まれていること,
 被告は我が国で事業を行っていないにもかかわらず,本件商標登録後,原告を含め,引用商標を付したASRock社の製品を取り扱う複数の業者に対して,輸入販売中止を要求し,要求に応じなければ刑事告発・損害賠償請求を行う旨の多数の警告書を送付していること,
 韓国においては,ASRock社の製品の販売代理店に対して,過度な譲渡代金を要求していたこと,
以上の事実を総合考慮すると,本件商標は,商標権の譲渡による不正な利益を得る目的あるいはASRock社及びその取扱業者に損害を与える目的で出願されたものといわざるを得ない。

・・・

ウ 以上のとおり,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,商標登録出願について先願主義を採用し,また,現に使用していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても,そのような出願は,健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり,また,商標法の目的(商標法1条)にも反し,公正な商標秩序を乱すものというべきであるから,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。

称呼が同一の商標の類否の判断事例-類似を肯定した事例

2010-08-29 11:59:45 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10150
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

 これらのコマーシャル等の音声情報自体は,証拠として提出されていないものの,これらのテレビ,ラジオ等によるコマーシャルにおいて店名等が告知されているものがあることが推認できる上,本願商標と引用商標の共通の指定役務である「飲食物の提供」の分野において,称呼が極めて重要であることは自明であるから,本願商標と引用商標の類否を判断する上で,外観及び観念の果たす役割を軽視するものではないが,称呼の果たす役割が非常に大きいことは否定できない

オ 以上のとおり,本願商標と引用商標の外観は大きく異なり,両商標からは特段の観念が生じないか,又は互いに異なった観念が生じ得るものであるが,他方で,両商標からはいずれも「きょうや」との称呼のみが生じるものであって,両商標から生じる称呼は完全に一致している。
 また,引用商標の指定役務は,本願の指定役務と同一又は類似する役務を含むものである。

 以上の事情を総合的に考慮すると,たとえ外観が大きく異なるとしても,称呼が完全に一致することからすれば,本願商標と引用商標は類似するというべきであり,これを「飲食物の提供」に用いた場合に誤認混同が生じるおそれは否定できず,本願商標につき商標法4条1項11号を適用した審決に誤りはないから,原告の請求は棄却を免れない。

称呼が同一の商標の類否の判断事例-類似を否定した事例

2010-08-29 11:53:55 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10101
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

ア 外観上,本件商標は,バラ色系の色彩が施され,右肩上がりに傾いたサクラ様の5弁の花びらの図形中に「きっと,」と「サクラサクよ。」の句読点を含む文字を二段に配置した構成からなる,図柄を含む華やかな商標であるのに対し,引用商標は,単に片仮名の「サクラサク」だけからなる商標であり,両商標は,その外観が大きく異なる

イ 他方で,本件商標からは「キットサクラサクヨ」又は「サクラサク」の称呼が生じ,引用商標からは「サクラサク」の称呼が生じるものであって,その称呼は同一になる場合もあり,少なくともかなり類似するものといえる

ウ また,本件商標からは,「きっと桜の花が咲くよ。」又は「きっと試験に合格するよ。」といった観念が生じ,引用商標からは「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」との観念が生じるものといえる。
 このように,両商標から生じる観念は,一定程度類似するが,引用商標からは,淡々と「桜の花が咲く」又は「試験に合格した」という事実についての観念が生じるのに対し,本件商標からは,受験生等に対するメッセージ的な観念が生じるものといえ,生じる観念はある程度異なるものといえる。

エ このほか,証拠(・・・)及び弁論の全趣旨から,本件商標は,受験シーズンに専らキットカット商品に用いられ,このことはよく知られており,本件商標の付されたキットカット商品はかなりの売上げを示しており,他方で,引用商標は,受験シーズンに関係なく,袋菓子や焼菓子などに用いられていることが認められる。
 このように,本件商標が用いられたキットカット商品が,受験生応援製品として持つ意味合いは大きいものと認められ,このような本件商標の用いられたキットカット商品と,そのような意味合いの薄い引用商標が用いられた袋菓子等との間で誤認混同が生じるおそれは非常に低いものと認められる。

オ 以上を前提とした場合,確かに,本件商標及び引用商標から生じる称呼はかなり類似しており,観念においても,一定程度類似することは否定し得ないが,他方で,もともと「サクラサク」は1つのまとまった表現として常用されており造語性が低く識別力が限られている上,両商標の外観は大きく異なり,取引の実態をも考慮すると,両商標につき混同のおそれはないといえる。
 以上のように,本件での諸事情を総合的に考慮した結果,本件商標と引用商標とは,類似しないというべきである。

特許法184条の2の解釈

2010-08-29 11:31:25 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)92
事件名 異議申立棄却決定取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月06日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

1 本件棄却決定の違法事由に係る原告の主張について
(1) 行政事件訴訟法10条2項は,「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定する(なお,同法3条3項参照)。同規定は,行政処分(原処分)とこれを維持した裁決とがある場合に,原処分と裁決のいずれに対しても取消訴訟を提起することは可能であるが,原処分の違法事由は処分取消しの訴えにおいてのみ主張することが許され,裁決取消しの訴えにおいてこれを主張することはできないとする,いわゆる原処分主義を裁決取消しの訴えにおける違法事由の主張制限の面から規定したものである

 そして,意匠法60条の2が準用する特許法184条の2は,いわゆる審査請求前置主義を規定したものであり,原処分の取消しの訴えの提起を許さず裁決取消しの訴えのみの提起を認めた,いわゆる裁決主義を採用するものではない

(2) この点,原告は,意匠法60条の2が準用する特許法184条の2は,裁決主義を表明したものであると主張する
 しかしながら,特許法184条の2は,「…処分…の取消しの訴えは,当該処分についての異議申立て…に対する決定…を経た後でなければ,提起することができない。」と規定し,原処分の取消しの訴えの提起自体を許さないとはしていない。また,特許法184条の2の規定振りは,いわゆる裁決主義を採用した意匠法59条2項が準用する特許法178条6項が「審判を請求することができる事項に関する訴えは,審決に対するものでなければ,提起することができない。」と規定し,裁決である審決に対する訴えのみの提起を認めているのと明らかに異なるものとなっている。

 このように,意匠法60条の2が準用する特許法184条の2が裁決主義件棄却決定の取消しの訴えのいずれも提起することができる場合に当たるから,行政事件訴訟法10条2項の規定により,本件棄却決定の取消しを求める本件訴えにおいては,原処分である本件却下処分の違法を理由として,本件棄却決定の取消しを求めることはできず,本件棄却決定の違法事由として原告が主張し得るのは,本件棄却決定の固有の違法事由(瑕疵)に限られることになる。

 ところが,本件についてみるに,前記第2の2の(原告の主張)のとおり,原告は,本件却下処分の違法を理由として,本件棄却決定の取消しを求めており,本件棄却決定の固有の違法事由(瑕疵)を主張するものではないから,前記第2の2の(原告の主張)は,主張自体失当である。

複数の周知例から主引例を観念した事例

2010-08-26 22:22:33 | 特許法29条2項
事件番号 平成22(行ケ)10028
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 ・・・
(ウ) 上記相違点bについて
 前記(3)のとおり,>気泡入りクリームを包む点は,従前知られていたものである。

 しかし,周知例1には,今までにない変わった食感のアイスクリームを作ろうとしたこと,その結果,だいふくの餡に代えアイスクリームを入れる点に至ったことが記載されているにとどまり,そこから読み取れるのは,あくまでも新しい種類のアイスクリームに係る技術であって,それ以外の内容物の示唆,特に,気泡入りクリームを採用することの示唆はない

 そして,前記(3)のとおり,周知例2ないし6は,餅生地により気泡入りクリームを包むことを直接的に開示しているものではなく,更に具材を配置する点,ケーキスポンジと組み合わせる点は記載されていないから,上記周知例を参酌したとしても,周知例1に記載された「雪見だいふく」に基づいて,具材を配置した気泡入りクリームとケーキスポンジを組み合わせたものをほぼ均一な薄厚の餅生地シートにて包むことが,容易に想到できるとはいえない

 ・・・

(オ) 容易想到和風洋菓子の容易想到性
 以上のとおり,周知例1に記載された「雪見だいふく」に基づいて,原告主張の「容易想到和風洋菓子」,すなわち,外皮をほぼ均一な薄厚の餅生地シートとし,内部に生クリーム及びいちごなどの詰め具材を備えるとともに底面内部にはケーキスポンジを配するようにし,これを前記外皮で包み,底面をほぼ円形とするほぼ半球状の形状とし,底面で前記餅シートを折りたたんでなる和風洋菓子に想到することは,当業者にとって容易とはいえない

イ「容易想到和風洋菓子」を引用発明に適用することについて
(ア) 以上のように,当業者は,周知例1ないし6に記載された事項に基づいて,直ちに「容易想到和風洋菓子」を想定することはできないから,これを製造することを念頭に,引用発明を「容易想到和風洋菓子」の製造に適用することはできない

(イ) なお,仮に,「容易想到和風洋菓子」が容易に想到できるものであるとしても,引用例には饅頭やおにぎり,アンパンを製造する点,被覆材としてもご飯やパン生地が例示されているのみである。両者は,外皮材で餡を包む点で類するものの,例示された饅頭やおにぎり,アンパンと,「容易想到和風洋菓子」とは,その外観や質感,特に外皮の厚さが異なり,例示された饅頭やアンパンが包餡工程後に加熱工程が予定されていることからしても,同様の菓子とはいえない。引用例に接した当業者は,原告主張の「容易想到和風洋菓子」を,引用発明により完成する成果物と同様のものとして,直ちに想起することはできない。
 引用発明において,例示された饅頭やアンパン以外の菓子の製造について具体的な開示はなく,「容易想到和風洋菓子」を選択する契機はないから,これを引用発明に適用することは,当業者が容易に行い得ることとはいえない

動機付けを否定した事例

2010-08-26 21:55:31 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10376
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・
 しかも,当業者にとって「被検者の撮影部位」を選択することが容易想到であり,さらに,レーザー光照射部をX線装置の適宜の位置に設けることについても当業者にとって容易想到であるとしても,照射野ランプとレーザー光照射部とがX線撮影装置に併設されるというにとどまり,それ以上に,X線照射野を照準し確認するための照射野ランプに撮影準備完了状態を知らせる機能を併せ持たせることによって,撮影準備完了状態を知らせるレーザー光を照射するためのレーザー光照射部を不要とすることについては,引用例は,そもそも照射野ランプの構成自体を有さない以上,何らの示唆を有するものではない

 さらに,既に指摘したとおり,照射野ランプについても,これに撮影準備完了状態を知らせる機能を併せ持たせる構成は,本願発明の出願前においては,周知ではなかったのであるから,引用発明において,撮影準備完了状態を知らせるレーザー光に代えて,照射野ランプに撮影準備完了状態を知らせる光の光源としての機能を付加する動機付けを見いだすこともできない

ウ被告の主張について
(ア) 被告は,「被検者の撮影部位」も,操作者からよく見える場所であるから,当業者が,X線装置から離れている操作者からよく見える照射場所として,「被検者の撮影部位」を選択し,さらに,「被検者の撮影部位」を照射するランプとして多くのX線撮影装置で採用されている周知慣用の照射野ランプを用いることは,当業者が当然に考えることにすぎないなどと主張する。
 しかしながら,本願発明の出願時において,照射野ランプにX線撮影装置が作動状態にあること,すなわち,X線が照射されている状態であることを視認させるための機能を付加することは周知技術であったが,撮影準備完了状態を視認させるための機能を付加させることは周知技術ではなかったのであるから,被告の主張は,「作動状態」と「撮影準備完了状態」との相違を看過するものであって,採用することができない。

審判官による審理判断が違法と評価される場合

2010-08-24 22:15:25 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)5728
裁判年月日 平成22年07月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(2)上記②の点について
 特許庁審判官による特許異議申立てに係る審理判断が(国家賠償法上)違法と評価されるのは,当該審判官が付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得るような特別の事情があることを要すると解すべきである。
 本件において,上記特別の事情があることを認めるに足りる事実の主張立証はない。

・・・

2 また,被告の上記行為は公権力の行使に当たる国の公務員がその職務の執行として行った行為である。公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについて,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国がその被害者に対して賠償の責に任ずるのであって,公務員個人はその責を負わないものと解すべきである(最三小判昭和30年4月19日民集9巻5号534頁,最二小判昭和53年10月20日民集32巻7号1367頁等)。この点においても,原告の被告に対する損害賠償請求は理由がない。

特許無効審判事件の係属中の複数の請求項に係る訂正請求

2010-08-24 22:03:42 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10304
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 【請求項1】(旧)の訂正(削除)を認めなかった判断の適否(取消事由1)について
 上記第3,1(2)記載のとおり,訂正事項(1)は【請求項1】(旧)を削除するものであるのに対し,訂正事項(2)は,【請求項2】(旧)を【請求項1】(新)に繰り上げて,その内容を変更するものである。
 これにつき,審決は,訂正事項(1)及び(2)を一体として訂正事項aと整理し,訂正事項aについて,特許請求の範囲の減縮や明りょうでない記載の釈明を目的とするものではなく,また,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでもないので,そのような訂正事項aを含む本件訂正を全体として認めない旨の判断をした(審決6頁16行~7頁6行,8頁5行~17頁22行)。

 しかしながら,特許無効審判事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がなされている場合,その許否は訂正の対象となっている請求項ごとに個別に判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に合致しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないと解するのが相当である(特許異議に関する最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。

 そうすると,【請求項1】(旧)に関する訂正事項(1)と【請求項2】(旧)に関する訂正事項(2)とは各別に判断されるべきであるところ,訂正事項(1)は上記のとおり【請求項1】(旧)を削除するだけのものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

 したがって,上記のような理由付けで訂正事項(1)の訂正を認めなかった審決には誤りがあることになり,取消事由1は理由がある。

課題の周知性により動機付けを肯定した事例

2010-08-24 06:34:20 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10329
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

ア 原告は,審決が,引用発明1では,「運転の条件は,被混煉材の種類や温度上昇の制限に合わせて予め設定」されているため,「溶剤等の温度上昇」は運転の条件の設定により制限されて問題とされるものではなく,引用発明1において,他の手法により,「溶剤等の温度上昇」をさらに制御しようとする動機付けは見い出せないと認定した(23頁19行~36行)ことについて,このような動機付けが存在しないという審決の認定は,当業者による通常の創作能力を誤解したものであって誤りであると主張する。

 そこで,検討するに,
 引用発明1は,前記3(2)認定のとおり,真空状態にある混煉容器を自転・公転させて被混煉材を混煉脱泡する際に,当該容器の温度上昇を制限する必要があるという技術課題を明示しており,これを解決するために,容器の自転数,公転数を含む運転条件を予め設定したものと認められる。また,
 引用発明2も,前記4(2)認定のとおり,同様に,攪拌混合する対象物の温度上昇を押さえるという技術課題を有しており,これを解決するために,ホッパーの上面に設けた温度センサーにより対象物の温度を検知し,温度が一定の温度まで上昇すると,攪拌する部材の回転数を減少させて温度を低下させ,以後,検知した温度に応じて回転数を制御し,攪拌する部材の回転数の減少,増加を順次繰返すものであると認められる。
 さらに,本件周知例にも,攪拌により一定以上に温度が上昇するのを防ぐという技術課題と,これを解決するために,検出された温度に応じて攪拌翼の回転数を制御するという技術事項が開示されている。

 そうすると,引用発明1及び2と本件周知例は,いずれも攪拌により生じる温度上昇を一定温度に止めるという共通の技術課題を有し,それぞれその課題を解決する手段を提供するものであると認められる。

 したがって,引用発明1において,上記技術課題を解決するために採用した,混煉のための自転数,公転数を含む運転条件を温度上昇の制限などの条件に合わせて予め設定しておくという構成に代えて,共通する技術課題を有する引用発明2に開示された,温度センサーにより対象物の温度を検知して温度が一定の温度まで上昇すると,攪拌する部材の回転数を制御するという技術思想を採用し,対象物の温度を検知して検知した温度に応じて容器の自転数,公転数を含む運転条件を制御するという構成(審決認定の[特定事項B]の構成)に至ることは,攪拌により一定以上に温度が上昇するのを防ぐという技術課題自体が本件周知例にも示される周知の技術課題であることも考慮すると,当業者にとって,容易に想到することができたものといわなければならない。

 審決認定のとおり引用例1に「温度の検知」の記載がないとしても,攪拌により生じる温度上昇を一定温度に止めるという技術課題が引用例1自体に開示されており,これが周知の技術課題でもある以上,当該課題解決の観点から,温度を検知してそれに応じて運転条件を制御するという構成を採用することに,格別の困難性はないものということができる。

複数の実施例にサポートされる事例及び通常想定されないものの事例

2010-08-22 21:54:04 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 取消理由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
 原告は,請求項1において「接点具」の数が特定されていないところ,本件発明の「接点具」には,
① 単数の接点具からなる場合,
② 各々が同一の機能・動作をする複数の接点具からなる場合,
③ 各々が異なる機能・動作をする複数の接点具からなる場合,
の三つの概念が包含されるが,本件明細書には①及び②の場合が記載されていないから,サポート要件に適合しない旨主張する


 しかし,前記のとおり,本件発明において,複数の接点具を結合し接点機能を発揮するものも「接点具」といえるから,第1の実施例及び第2の実施例におけるスイッチ13及びスイッチ14の各接点具の組合せは本件発明の「接点具」に相当するということができる。また,第3の実施例の接点具26及び第4の実施例の接点具32は,それぞれ本件発明の「接点具」に相当する

 そして,第3の実施例及び第4の実施例が本件発明の実施例に相当することは前記のとおりであり,第3の実施例及び第4の実施例が上記①の単数の接点具からなる場合に相当するということができる。

 また,上記のとおり,第1の実施例及び第2の実施例は,スイッチ13及びスイッチ14の各接点具の組合せが本件発明の「接点具」に相当するところ,その動作に鑑みれば,③の各々が異なる機能・動作をする複数の接点具からなる場合に相当すると認められる。

 ②の各々が同一の機能・動作をする複数の接点具からなる場合については複数の接点具のそれぞれが同一の機能・動作をすると解されるから,全体としての機能は実質的に単数の接点具と同じといえるところ,このような接点具が通常想定されるものとは認められないから,②の例についてまで開示されていなければ発明の詳細な説明の記載に特許請求の範囲に記載された発明の全体が記載されていないということにはならないというべきである。

発明の技術的特徴ではない部分に対する記載要件の判断

2010-08-22 21:51:40 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(5) 原告の主張に対する補足的判断
 原告は,構成要件e-1及びe-2はバネの作用を要件としていないから,本件発明には,バネの関与なしに構成要件e-1及びe-2を実現し,バネの作用により構成要件e-3を実現するものも包含されるところ,発明の詳細な説明にはその具体的構成の開示がなく,実施可能要件及びサポート要件違反である旨主張する。

 しかし,構成要件e-1及びe-2は電気スイッチの一般的な機能を規定するもので,本件発明の技術的特徴ではないと考えられるところ,特許法はそうした部分についてまで,実施可能要件及びサポート要件として網羅的に実施例を開示することを要求しているとは解されない,すなわち,構成要件e-1及びe-2の機能におけるバネの関与の有無は発明を特定するための事項ではないところ,かかる発明を特定するための事項ではない技術的事項に着目し,実施可能要件及びサポート要件を問うことは適切ではないと解される。

 加えて,電気スイッチに関し,構成要件e-1及びe-2の機能にバネが関与するか否かに着目して分類することが一般的であるとは認められず,原告独自の分類であると解されることに照らすと,バネの関与なしに構成要件e-1及びe-2を実現し,バネの作用により構成要件e-3を実現する構成が発明の詳細な説明に具体的に記載されていないとしても,実施可能要件及びサポート要件違反であるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。

禁反言則に反するとした事例

2010-08-22 20:56:31 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10083
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


したがって,本件商標「ECOPAC」についても,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有すると解する余地がある。
・・・

(2) 検討
 先に指摘したとおり,現在において,本件使用商標「エコパック」は,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有するものである。
 また,本件商標「ECOPAC」は,「エコパック」の称呼を有するから,「包装容器」を意味する英単語は,「package」あるいは「pack」であることを考慮しても,取引者及び需要者は,本件商標の構成部分「ECO」からは「ecology」の省略形の「ECO」を想起し,さらに,「PAC」からは「包装容器」である「pack」を想起することにより,「経済的で,環境に配慮した包装用容器」という観念を有すると解する余地があることは先に指摘したとおりである。

 しかしながら,原告は,そもそも,本件商標の出願経過において,本件商標は,特異の構成よりなるもので,構成文字に相応して,「エコパック」の称呼のみ生じる特定の観念を生じ得ない造語よりなるものであることを繰り返し主張し,拒絶査定不服審判を経て,登録査定されているものである。
 特に,原告は,商標登録異議の審理において,本件商標である「ECOPAC」は,「ecology」と「package」との合成語を想起させ,指定商品との関係において,「環境保護に十分配慮した包装容器」を指称する普通名称あるいはそのような容器の品質表示としてのみ認識されるとの異議申立人の主張に対し,・・・,「ECOPAC」と一連と連綴した構成よりなる本件商標は,「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく,取引者及び需要者は,原告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,理解するものであるなどと主張しているのである。
 そして,特許庁において,原告の主張が容れられて,本件商標の登録査定を受け,さらに,登録を維持すべき旨の決定を受けている
のである。

 したがって,拒絶査定不服審判等における争点と,本件訴訟の取消事由とは必ずしも一致するものではないことや,本件商標と本件使用商標との社会通念上の同一性の判断において,本件商標の登録出願当時(昭和63年)及び拒絶査定不服審判の審決当時(平成9年)と比較して,現在においては環境保護に関する意識が高まっているという社会の情勢を考慮するとしても,原告自身,本件商標の出願経過において,「PAC」は「包装容器」を意味する外来語とは構成を異にするものであって,「ECO」と一連と連綴した構成よりなる本件商標「ECOPAC」は,「環境保護に十分配慮した包装容器」の意味合いを指称するものではなく,取引者及び需要者は,原告により創作された特定の観念を生じ得ない造語として把握し,理解するものであると明確に主張している以上,本件において,原告が,その前言を翻して,本件商標から「環境に優しい包装」の観念が生じるなどと主張することは,禁反言則に反し,許されないものというべきである。
 そうすると,本件商標と本件使用商標とが,称呼及び観念において同一であることを前提として,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一であるとする原告の主張を採用することはできない。

(3) 小括
 以上からすると,原告が,本件商標と本件使用商標とが社会通念上同一であると主張することは許されないから,本件使用権者による本件使用商標の使用をもって,本件商標について,商標法50条1項の「登録商標の使用」に該当するものと認めることはできない。

抽象的,機能的な表現された特許請求の範囲の解釈事例

2010-08-15 21:24:45 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)6994
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成22年07月22日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 森崎英二

(3) 構成要件Cについて
ア 特許請求の範囲の記載
(ア) 構成要件Cに係る特許請求の範囲の記載は,「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」というものである。
 ・・・
 そうすると,特許請求の範囲の記載によれば,構成要件Cの「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」とは地震時に,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれで,係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上に開く動きを許容しない状態になることを意味するものと解することができる。

(イ) しかしながら,構成要件Cに係る特許請求の範囲の「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」との記載を上記のように解釈できるとしても,この構成要件は,抽象的な文言によって係止体の機能を表現するにとどまっているのであって,地震時の前後または左右のゆれによって,いかなる仕組みで係止体の回動の動きが妨げられることになるのか,また係止体の回動の動きが妨げられることによって,いかなる仕組みで扉等の開く動きが許容されないことになるのかという,本件特許発明にいう地震時ロック装置に欠かせない具体的構造そのものは明らかにされているとはいえない

 ところで,特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合に,当該機能ないし作用効果を果たし得る構成すべてを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。

 したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきであり,具体的には,明細書及び図面の記載から当業者が実施できる構成に限り当該発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。

イ本件明細書の記載
 そこで以上のような観点から本件明細書を見ると,本件明細書の発明の【詳細な説明】の個所には次の記載がある。

ウ 検討
・・・
(イ) 以上のとおり,本件明細書には,地震時ロック装置において,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれによって係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上開く動きを許容しない状態を生じさせるための具体的構成としては,装置本体の震動エリアに収納された球により地震時に係止体の回動を妨げる構成が開示されていることが認められるが,それ以外の構成は記載されておらず,またそれを示唆する記載もない。また,本件明細書の【背景技術】にも,従来技術として地震時ロック方法が紹介されているが,それはゆれによって球が動くことにより地震を検出するものであって,他に,振動エリア内に収容した球を用いる以外の構成を示唆するような記載は一切認められない。
 したがって,本件明細書には,装置本体の振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げるという技術思想だけが開示されているというべきである

 以上によれば,本件明細書の記載から当業者が実施できる構成は,振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げる構成だけというべきであるから,かかる構成に限り本件特許発明の技術的範囲に含まれる(構成要件Cを充足する)と解するのが相当である