知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

組み合わせの3要件

2010-03-28 21:41:06 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10185
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

ア 引用発明1と引用発明2の組合せ
 引用発明1と引用発明2は,ともに,無線受信機という同一の技術分野に属し,新たな着信時の報知音として使用されるメロディのデータを取得することを目的としている点で,発明の課題が共通し,着信時の報知音として使用するメロディのデータを取得して記憶部に格納する点で,機能・作用も共通しているから,引用発明1と引用発明2を組み合わせることができるというべきである。

 原告は,引用発明2の目的は,無線受信機の外部からメロディのデータを供給して再プログラムして置き換える点にあり,ユーザーが選択呼出受信機で自ら好みのメロディを作曲するという引用発明1の目的とは反すると主張するが,引用発明1と引用発明2には,原告が主張するような違いがあるとしても,そのことをもって,引用発明1に引用発明2を結びつけることに阻害要因があるということはできず,引用発明1と引用発明2には,上記のとおり共通点があるから,それらを組み合わせることができるというべきである。

阻害要因を認めた事例(主引例の目的に反するとした事例)

2010-03-28 19:22:25 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10179
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について
(1) 引用発明1の目的
 原告は,引用発明1において本件構成を採用することに阻害要因があると主張するので,まず,引用例1の記載から引用発明1の目的についてみてみることとする。
ア 引用例1には,次の内容の記載がある。
・・・

(2) 本件構成中の「該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され」との構成の技術的意義
 これに対し,本件構成についてみると,被告は,本件構成中の「該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され」との構成につき,これが充填容積のセル容積に対する割合が0.7から1.0の範囲内に収まることを意味すると主張する

 しかしながら,請求項1には,「充填容積とセル容積の割合が0.7から1.0であり,該割合はセル壁への特異な圧力の使用なしで維持され」と記載されているところ,ここでいう「該割合」が「充填容積とセル容積の割合」を指すものであることは文言上明らかであるし,「該割合」が「セル壁への特異な圧力なしで」維持される,すなわち,セルの変形等によるセル容積の変更がない状態で維持されるというのであるから,被告主張に係る現実の使用時等における基材の変形等の可能性や本件構成が奏すべき作用効果について考慮してもなお,上記構成にいう「維持」とは,当該割合に係る一定値がおおむね維持されることを指すものと解釈するのが相当であって,これを被告が主張するように解釈することはできない

・・・

(3) 引用発明1において本件構成を採用することについての阻害要因の有無
 前記(1)の引用発明1の目的に照らすと,同発明に前記(2)のような技術的意義を有する本件構成(・・・)を採用することは,偏平状袋内に低圧状態が生じることに従って偏平状袋に作用する大気圧を積極的に利用するという引用発明1の目的に正面から反するものであり,そのような構成を採用すると,引用発明1の目的を実現することができなくなるものであるから,引用発明1において本件構成を採用することには,積極的な阻害要因があるというべきである。

特許請求の範囲の用語の解釈事例(発明の詳細な説明を読み込んだ事例)

2010-03-28 19:01:46 | 特許法70条
事件番号 平成21(行ケ)10179
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 本件補正発明の「ポケット」の技術的意義
 本件補正発明の「ポケット」の技術的意義について,
 原告は,2つの基材の表面を向かい合わせて結合して形成された統一構造の内表面側から外表面側に向かって熱成形等の成形手段によって形成された粒状発熱組成物の粒子を充填することのできるくぼみをいうと主張するのに対し,
 被告は,広辞苑(乙1)に記載された日常用語としての意味を主張する
のみであり,本件補正発明が属する技術分野における技術常識に即して「ポケット」の技術的意義が一義的に明確であると主張するものではなく,その他,請求項1の記載から,本件補正発明の「ポケット」の技術的意義を一義的に明確に理解することはできないから,これを明確にするため,以下,本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,その技術的意義を検討することとする。

ア 本件補正発明の「ポケット」に関し,本件補正明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。 
・・・
ウ ・・・上記発明の詳細な説明の記載によると,「統一構造」とは,2つの基材によって構成される構造体を指し,そのような構造体に「形成された」ものが「ポケット」であると解釈されるから,被告の主張は,その前提を誤るものであって,採用することができない。

(2) 引用発明1の「偏平状袋」の技術的意義
・・・

(3) 本件審決の認定の当否
 上記(1)及び(2)によると,引用発明1の「偏平状袋」は,本件補正発明の「少なくとも2つの向かい合った表面を有する統一構造」には相当するものの,「ポケット」を備えるものではないから,両発明につき,粒状発熱組成物の粒子が「ポケット」中に組み入れられているとの点で一致するとした本件審決の認定は誤りであるといわなければならない。

明細書の要旨変更の判断事例

2010-03-14 11:24:05 | Weblog
事件番号 平成20(ワ)8086
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(1) 明細書の要旨変更について
ア 旧特許法40条は,「願書に添附した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものと特許権の設定の登録があつた後に認められたときは,その特許出願は,その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。」と規定するところ,同条にいう「明細書又は図面」の「要旨」(以下,単に「明細書の要旨」という。)とは,特許請求の範囲に記載された技術的事項をいうものと解される。

 そして,
 発明とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であること(特許法2条1項参照)及び
 平成5年法律第26号による改正前の特許法41条が「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と定めていること
に照らして,その技術的事項の解釈に当たっては,明細書における発明の詳細な説明欄の記載や図面を総合的に考慮すべきである

 また,明細書の要旨が変更されているかどうかを判断するに当たっては,特許請求の範囲の記載の文言上の形式的な対比のみに限定されず,実質的に見て,補正後の特許請求の範囲に記載された技術的事項が,当初明細書に記載された技術的事項の範囲内といえるか否かによって判断すべきものと解される。

・・・

2 争点(2)-イ(要旨変更による出願日繰下げを前提とする新規性及び進歩性の欠如)について
(1) 本件発明の要旨
 発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することかできないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかである等の特段の事情がない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。
 そして,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に照らして,本件発明につき,このような特段の事情があるとは認められないから,本件発明の要旨は,前記第2,1(2)アの特許請求の範囲(下記に再掲する。)に記載されたとおりであると認められる
・・・

(2) 本件公開公報に基づく本件発明の新規性又は進歩性の欠如についてア1で認定したとおり,本件特許出願は,第2回補正の手続補正書が提出された平成9年8月11日にしたものとみなされることから,平成2年5月18日に特許出願公開がされた本件公開公報(乙2の2)は,平成11年法律第41号附則第2条12項により本件発明に適用される同法による改正前の特許法29条1項3号(以下「旧特許法29条1項3号」という。)の「刊行物」に該当することとなる。

侵害品のうち特許権の侵害となる部分

2010-03-13 20:54:59 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)5610
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

そして,本件発明は,プレートを載置することができる,流し台のシンクに関するものであって( ・・・),本件侵害品のうち,本件特許権の侵害となるのは,シンク部分のみであるから,被告が本件侵害品の製造,販売をして,本件特許権を侵害したことにより受けた利益の額は,本件侵害品の製造,販売により被告が得た利益のうちシンクに係る部分であると解すべきである。

 また,被告は,前記粗利の額である1万8000円が,本件侵害品の製造,販売により被告が得た利益のうちシンクに係る部分であることを認めていることから,これが,特許法102条2項に規定する,被告が特許権の侵害行為により受けた利益の額と認めるのが相当である。

設計的事項に類する周知の構成の1つへの限定は新規事項の追加に当たるか

2010-03-06 10:15:57 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10133
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


そうすると,本件訂正のうち,特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項2】について
「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との限定を加える部分は,
本件特許出願時において既に存在した「台板の上部に振動装置を設けるとともに,下面中央部に嵌合部を設ける」という基本的な構成を前提として,「振動装置の油圧モーターが油圧式ショベル系掘削機側にある」という当業者に周知の構成のうちの1つを特定するとともに,「台板」と「振動装置」の関係について,同様に当業者に周知の構成のうちの1つである「四角形の台板の上に油圧モーターが隠れるように振動装置を配置するという構成」に限定するものである。

 そして,上記イ(ア)ないし(ク)で認定した技術状況に照らすと,上記周知の各構成はいずれも設計的事項に類するものであるということができる。

 したがって,本件明細書及び図面に接した当業者は,当該図面の記載が必ずしも明確でないとしても,そのような周知の構成を備えた台板が記載されていると認識することができたものというべきであるから,本件訂正は,特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について,設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定するにすぎないものであり,この程度の限定を加えることについて,新たな技術的事項を導入するものとまで評価することはできないから,本件訂正は本件明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものとした本件審決の判断に誤りはない。