知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明示のない課題を認定した事例

2011-12-23 22:49:03 | 特許法29条2項
事件番号  平成23(行ケ)10169
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

4.当裁判所の判断
・・・
ウ 取消事由3(進歩性判断の誤り)について
(ア) 「周知の課題についての認定の誤り」につき
 原告は,仮に巻寿司の彩りに変化をつけようとするという課題が周知であったとしても,甲1には巻寿司の見栄えや色彩の考慮についての記載がないので,審決が甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在すると認定したことは誤りであると主張する。
 しかし,審決は,巻寿司の彩りに変化をつけようとすることが本願出願前に周知の課題であることを根拠に,漬物を芯に含む巻寿司である甲1発明にも上記課題が存在したと判断するものであって,甲1自体に巻寿司の見栄えや色彩についての記載がありその記載から甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在すると認定するものではない。そして,巻寿司の彩りに変化をつけようとすることが周知の課題であれば,巻寿司についての発明である甲1発明においても,その彩りに変化をつけようとする課題はあるといえるので,たとえ,甲1に巻寿司の見栄えや色彩についての記載が存在しなくとも,周知の課題を根拠に甲1発明に巻寿司の彩りに変化をつけようとする課題が存在するとした審決の判断に誤りはない

<被告引用判決>
引用文献には課題が明記されていないものの,課題が自明であるか容易に着想しうる場合において発明の進歩性は否定されるとした裁判例として,
東京高裁平成8年5月29日判決(平成4年(行ケ)第142号
東京高裁平成9年10月16日判決(平成7年(行ケ)第152号),
知財高裁平成21年9月15日判決(平成21年(行ケ)第10003号)-第35ページ
知財高裁平成22年4月19日判決(平成21年(行ケ)第10268号)-第36ページ
知財高裁平成23年7月27日判決(平成22年(行ケ)第10352号)-第26ページ
・・・

特許法が前提とする基本構造

2011-12-19 22:29:11 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10132
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 原告は,審決が,平成22年4月19日付けの補正による請求項1~9のうち,請求項1のみを本願発明として容易推考性の存否を判断し,請求項2~9について審理・判断せずに審判請求を不成立としたことは違法である旨主張する。

 しかしながら,特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである最高裁平成19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。

 したがって,複数の請求項に係る特許出願について,その一部の請求項に出願を拒絶すべき事由がある場合には,当該特許出願の全体を拒絶すべきであって,審決が,本願発明について特許法29条2項の該当性を判断した上で,本件出願全体について請求不成立としたことに違法はない。

ある特性パラメータによる特定とそのパラメータについて言及を書く引用例

2011-12-18 21:17:48 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10139
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月08日
裁判所名知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

ウ しかしながら,本件補正発明6は,「1.4~1.6のスウェリング率」との構成を有するところ,引用例1には,スウェリング率について何ら記載がないから,引用発明1は,スウェリング率を要素としていない発明であるというほかなく,引用例1に接した当業者は,引用発明1をスウェリング率という特性パラメータによって特定するという構成について着想を得る前提ないし動機付けがない
・・・
オ 以上のとおり,引用例1には,スウェリング率について何ら記載がないから,引用例1に接した当業者は,引用発明1をスウェリング率という特性パラメータによって特定するという構成について着想を得る前提ないし動機付けがなく,また,引用発明1及び本件補正発明6が属する,紙を含む製造材料からなる容器の技術分野において,本件優先権主張日当時,スウェリング率を特定することが技術常識又は常套手段であったということもできない。
 よって,引用例1に接した当業者は,引用発明1をスウェリング率という特性パラメータによって特定し,もって本件補正発明6のスウェリング率に関する特性パラメータの構成を容易に想到することができたとはいえず,これに反する本件審決の判断は,誤りであるというべきである。

(4) 被告の主張について
 以上に対して,被告は,本件補正発明6の相違点1に係る構成のうち,スウェリング率を特定することによる効果に裏付けがない旨を主張する。
 しかしながら,前記(3)ウに認定のとおり,引用例1には,スウェリング率について何ら記載がないから,引用例1に接した当業者は,引用発明1をスウェリング率という特性パラメータによって特定するという構成について着想を得る前提ないし動機付けがなく,また,前記(3)エに認定のとおり,紙を含む製造材料からなる容器の技術分野において,スウェリング率を特定することが技術常識又は常套手段であるとする根拠も見当たらない以上,その効果について検討するまでもなく,当業者は,当該構成を容易に想到することができなかったものというほかない

法159条2項による50条ただし書きの適用の是非

2011-12-18 20:48:22 | 特許法50条
事件番号 平成23(行ケ)10034
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 確かに,本件特許出願に係る本件審判手続において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合は,出願人に拒絶理由を通知し,意見書の提出機会を与えるのが原則である(法159条2項,50条)。
 しかし,法159条2項は,出願人に対する拒絶理由の通知を要しない場合を規定する法50条ただし書について,平成20年法律第16号による改正前の特許法17条の2第1項4号(拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求の日から30日以内にするとき)の場合において法53条1項により当該補正について却下決定する場合を含むものと読み替える旨規定している。また,法159条1項は,拒絶不服審判においては,決定をもって補正を却下すべき事由を規定する法53条1項について,平成20年法律第16号による改正前の特許法17条の2第1項4号の場合を含むものと読み替える旨規定しているのであって,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内にされた補正による発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない場合にも当該補正は却下されることとなる(法17条の2第5項,特許法126条4項参照)。その結果,法文上,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内にされた補正による発明について,独立して特許を受けることができないものとして当該補正を却下するときには,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合であっても,出願人に対して拒絶理由を通知することは求められていないこととなる。
 また,法163条1項,2項は,拒絶査定不服審判の請求の日から30日以内補正があったときに行われる審査官による前置審査において,拒絶査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも,法50条ただし書や53条1項について,それぞれ上記同様の読替えをする旨規定している


(3) しかるところ,本件特許出願の経緯をみると,・・・。
 以上のとおり,前置報告書や本件審判において周知例2が引用されたののは,本補正により,請求項1について,「突出部の少なくとも一つは,支持部材の底面に形成されたトラックに摺動的に取り付けられるともに,トラックに沿ってどこにでも選択的に位置決めされてトラックに締結される」との構成に減縮された結果であるところ,原告らは,平成18年2月28日付け補正による「突出部の少なくとも一つは,支持部材に摺動的に取り付けられている」との構成(請求項9)について,平成20年4月9日付けで拒絶理由通知がされた後も,実質的に同様の構成(請求項1)で特許を受けようとし続け,拒絶査定を受けた結果,初めて本件補正によりその構成を減縮したものである。

(4) 以上の経緯に鑑みると,本件審判手続において,周知例2について新たに拒絶理由通知をしないまま本件審決に至ったことが,原告らに対して不当なものであったということもできない

<今年(平成23年)の関連・類似の事例>
拒絶査定の理由とは異なる理由の審決
拒絶査定不服審判請求時の補正を独立特許要件を欠くとして却下した手続きが適正手続違反とされた事例
審尋への回答書の当否を示さず、補正案による補正の機会を与えないことは裁量権の逸脱か

再許諾権を有していない者からの再許諾に過失を認めた事例

2011-12-18 19:47:20 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)17393
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年11月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

 しかしながら,アートステーションが本件両作品の複製及び頒布に係る再許諾権を有していないことを被告が知っていたことを認めるに足りる証拠はない。もっとも,前記認定の事実に証拠(甲9,乙3)を総合すれば,
○1 DVDの製造・販売業界では,再許諾を認めると,ライセンス対象物の管理や広告宣伝,パッケージの表示内容,品質管理が困難となるため,再許諾を禁じるのが通常であること,
○2 アートステーションは,被告との間で前記ライセンス契約を締結した当時,資金繰りに窮しており,被告への製造費も支払えなかったことが認められる。
 以上の事実を前提とすれば,被告は,DVDの製造販売業者として,原告に対してアートステーションへの再許諾権付与の有無を問い合わせたり,アートステーションに対してライセンス契約書を提示させたりして,アートステーションが上記再許諾権を有しているか確認すべき注意義務を負っていたものといえる。

 そうであるにもかかわらず,証拠(乙3,弁論の全趣旨)によれば,被告は,原告に対してアートステーションへの再許諾権付与の有無を問い合わせたり,アートステーションに対してライセンス契約書を提示させたりしていないことが認められる。
したがって,被告には,原告が本件両作品について有する著作権(複製権及び頒布権)を侵害したことにつき,過失があるというべきである。

商標法50条1項の判断おける画像処理技術名とファクシミリ製品名

2011-12-11 21:37:14 | 商標法
事件番号 平成23(行ケ)10096
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 上記認定した事実,すなわち,
「GENESIS」の表示は,原告の製造,販売に係る「ファクシミリ」に関する説明用のカタログやウエブサイト等に記載されていること,
「GENESIS」の表示の態様は,文章の各文字よりも,大きく,太く,まとまりのある,特徴的な字体により,独立して,目立つように記載されていること,すべて同一の字体が使用されていること,
ウエブサイトの「GENESIS」の項目には,「対応機種:キヤノフアクスL380S,L230,JX6000,L2800」と表記されて,ファクシミリとの関連性が明確に示されていること等
に照らすならば,カタログやウエブサイト等の「GENESIS」の表記に接した需要者,取引者は,「GENESIS」の表記を,原告の製造,販売に係る「ファクシミリ」に関する標章であると認識,理解する
ものといえる。

確かに,前記商品カタログ等の説明文には,「GENESIS」について,原告の独自に開発した画像処理技術を指す旨の記載がある
 しかし,原告の製造,販売に係るファクシミリに用いられている「原告の独自に開発した画像処理技術」が,どのような技術を指すかについての詳細の説明は格別されていないこと,前記商品カタログ等は,画像処理技術の販売等に係る配布物等ではなく,ファクシミリの販売等に係る配布物等であることに照らすならば,そのような説明は,原告の製造,販売に係る「ファクシミリ」が,いかに性能が高く,品質等が優位性を有しているかを強調するために用いられた,ごく一般的な広告手法であるといえる。したがって,そのような説明がされているからといって,取引者,需要者が,「GENESIS」の標章について,原告の開発した画像処理技術について使用されていると理解,認識すると解することは困難であり,むしろ,原告の製造,販売する「ファクシミリ」の広告などに,同商品の出所を示す趣旨で使用されているものと理解,認識すると解するのが自然であり,合理的である

プロバイダ責任制限法4条1項に基づき発信者情報の開示を認めた事例

2011-12-07 22:56:54 | Weblog
事件番号 平成23(ワ)22642
事件名 発信者情報開示請求事件
裁判年月日 平成23年11月29日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

第3 当裁判所の判断
1 被告の利用者による原告らの送信可能化権の侵害の有無について
 ・・・
イ 「P2P FINDER」について
 「P2P FINDER」とは,・・・インターネット上の著作権侵害検出システムであり,・・・各種P2Pネットワークに接続し,同ネットワークにおいて流通するファイル(ダウンロードされたファイル)及びダウンロード時の情報(送信元となったノードのIPアドレス,ポート番号,ファイルハッシュ値,ダウンロード完了時刻等)を収集,分析等するものである。
 ・・・

ウ クロスワープ社による調査
 クロスワープ社は,原告らから依頼を受け,「P2P FINDER」を使用して,キーワード名を,原告各レコードの実演家である「RADWIMPS」,「西野カナ」,「aiko」,「perfume」,「いきものがかり」,「コブクロ」,「ヒルクライム」及び「浜崎あゆみ」として検索した。
 その結果,前記第2の3[原告らの主張](1)アないしト記載のIPアドレスから本件ファイル1ないし20(以下「本件各ファイル」という。)が送信され,同項記載の時刻に本件各ファイルのダウンロードが完了したことが確認された(以下「本件調査結果」という。)

エ 本件調査結果の信用性
 ・・・
(3) 本件確認試験の結果等によれば,「P2P FINDER」による検索結果,すなわち本件調査結果については,その信用性を疑わせるような事情は見当たらず,信頼を置くことができるものと認められる。
 したがって,本件調査結果に基づき,前記第2の3[原告らの主張](1)アないしトの事実,すなわち,
○1 本件各利用者は,原告各レコードを複製し,この複製に係るファイル(本件各ファイル)をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上,当該コンピュータを,被告のインターネット接続サービスを利用して,被告からIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続したこと,
○2 そして,本件各利用者は,Gnutella互換ソフトウェアにより,本件各ファイルを,インターネットに接続している,本件各利用者からみて不特定の他の同ソフトウェア利用者(公衆)からの求めに応じて,インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にしたこと(すなわち,原告らの原告各レコードに係る送信可能化権を侵害したこと),が認められる。

2 発信者情報開示請求の要件について
(1) 被告が本件各利用者による原告各レコードの送信可能化権侵害との関係においてプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当することについては,当事者間に争いがない。
(2) また,前記第2の1(争いのない事実等)の(2)(原告らの送信可能化権)及び上記1で認定した事実によれば,本件各利用者は,被告のインターネット接続サービスを利用して,被告からIPアドレスの割当を受けてインターネットに接続し,Gnutella互換ソフトウェアにより,本件各ファイルを公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことによって,原告らが原告各レコードについて有する送信可能化権を侵害したことが,明らかであると認められる。
(3) さらに,証拠(甲1の1~8,甲1の12・13,甲1の17~26)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,原告ら各自が原告各レコードについて有する送信可能化権に基づき,本件各利用者に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ,本件各利用者の氏名・住所等は原告らに不明であるため,上記請求を行うことが実際上できない状態にあることが認められる。
(4) したがって,原告らには,被告から本件各利用者に係る発信者情報(氏名,住所及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由がある

訂正審判請求前又は訂正請求前であっても,訴訟において対抗主張の提出は許されるとした事例

2011-12-05 22:54:41 | 特許法104条の3
事件番号 平成22(ワ)40331
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年11月30日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

(6) 時機に後れた攻撃防御方法であるとの原告の主張について
 原告は,無効理由4に係る被告の無効主張は時機に後れた攻撃防御方法であるから却下すべきと主張する。
 しかしながら,当該無効主張は,平成23年7月13日の第4回弁論準備手続において,同月12日付け被告準備書面(4)をもってなされたものであるところ,同時点では,いわゆる二段階審理における侵害論についての審理中であったから,当該無効主張についての審理がなければ直ちに弁論を終結できる段階になく,上記無効主張により訴訟の完結を遅延させることになるものとは認められない。 ・・・

3 訂正を理由とする対抗主張について
 原告は,平成23年9月22日付け原告第6準備書面をもって,本件訂正発明には無効理由がなく,かつ,被告製品は本件訂正発明の技術的範囲に属すると主張し,これに対し,被告は,原告の上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから却下されるべきであると主張する。

 そこで検討するに,原告の上記対抗主張は,前記平成23年7月12日付け被告準備書面(4)をもってなされた無効理由2~4に対するものであるところ,受命裁判官は第5回弁論準備手続期日(同年8月5日)において,原告に対し,上記無効理由についても審理するので,これに対する反論があれば次回までに提出するよう促し,反論の機会を与えたにもかかわらず,原告は,第6回弁論準備手続期日(同年9月9日)までに上記対抗主張をすることなく,同期日で弁論準備手続を終結することについても何ら異議を述べなかったものである。

 無効理由2及び3は,いずれも既出の証拠(乙2及び乙3)を主引用例とする無効主張であり,無効理由4も,平成14年5月20日付け特許異議申立てにおいて既に刊行物として引用されていた乙6に基づくものであるから,原告は,上記無効理由の主張があった第4回弁論準備手続期日から弁論準備手続を終結した第6回弁論準備手続期日までの間に対抗主張を提出することが可能であったと認められる
原告は,乙6に基づく無効理由4を回避するために訂正請求を行うことができるのは第2次無効審判請求の無効審判請求書副本の送達日である平成23年8月19日から答弁書提出期限である同年10月18日までの期間のみであると主張するが,本件訴訟において対抗主張を提出することはできたものというべきである原告は,対抗主張が認められる要件として現に訂正審判の請求あるいは訂正請求を行ったことが必要とする見解が多数であるとも主張するが,訂正審判請求前又は訂正請求前であっても,訴訟において対抗主張の提出自体が許されないわけではなく,理由がない。)
にもかかわらず,これを提出せず,弁論準備手続の終結後,最終の口頭弁論期日になって上記対抗主張に及ぶことは,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出したものというほかなく,また,これにより訴訟の完結を遅延させるものであることも明らかである。
よって,原告の上記対抗主張は,民事訴訟法157条1項によりこれを却下する。

顕著な作用効果により進歩性を認め、クレームに記載のない事項による効果を考慮できるとした事例

2011-12-04 20:36:39 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10018
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 顕著な作用効果を看過した誤り(取消事由4)について
 当該発明が引用発明から容易想到であったか否かを判断するに当たっては,・・・,当業者において,引用発明及び他の公知発明とを組み合わせることによって,当該発明の引用発明との相違点に係る構成に到達することが容易であったか否かによって判断する。相違点に係る構成に到達することが容易であったと判断するに当たっては,当該発明と引用発明それぞれにおいて,解決しようとした課題内容,課題解決方法など技術的特徴における共通性等の観点から検討されることが一般であり,共通性等が認められるような場合には,当該発明の容易想到性が肯定される場合が多いといえる。
 他方,引用発明と対比して,当該発明の作用・効果が,顕著である(同性質の効果が著しい)場合とか,特異である(異なる性質の効果が認められる)場合には,そのような作用・効果が顕著又は特異である点は,当該発明が容易想到ではなかったとの結論を導く重要な判断要素となり得ると解するのが相当である。
・・・
上記のとおり,本願優先日前,β遮断薬による虚血性心不全患者の死亡率の低下については,統計上有意の差は認められていなかったと解される。また,本願優先日前に報告されていたACE阻害薬の投与による虚血性及び非虚血性を含めた心不全患者の死亡率の減少は16ないし27%にすぎず,また,虚血性心不全患者の死亡率の低下は19%にすぎなかった。したがって,訂正発明1の前記効果,すなわち,カルベジロールを虚血性心不全患者に投与することにより死亡率の危険性を67%減少させる効果は,ACE阻害薬を投与した場合と対比しても,顕著な優位性を示している
・・・
エ 以上のとおり,訂正発明1の構成を採用したことによる効果(死亡率を減少させるとの効果)は,訂正発明1の顕著な効果であると解することができる。訂正発明1は,カルベジロールを虚血性心不全患者に投与することにより,死亡率の危険性を67%減少させる効果を得ることができる発明であり,訂正発明1における死亡率の危険性を67%減少させるとの上記効果は,「カルベジロールを『非虚血性心不全患者』に少なくとも3か月間投与し,左心室収縮機能等を改善するという効果を奏する」との刊行物A発明からは,容易に想到することはできないと解すべきである。

オ 被告の主張に対して
 この点,被告は,訂正発明1に係る特許請求の範囲において,「死亡率の減少」という効果に係る臨界的意義と関連する構成が記載されておらず,訂正発明1は,薬剤の使用態様としては,この分野で従来行われてきた治療のための使用態様と差異がなく,カルベジロールをうっ血性心不全患者に対して「治療」のために投与することと明確には区別できないことから,死亡率の減少は単なる発見にすぎないことを理由に,訂正発明1が容易想到であるとした審決の判断に,違法はない旨主張する。
 しかし,被告の主張は,以下のとおり採用の限りでない。

 すなわち,特許法29条2項の容易想到性の有無の判断に当たって,特許請求の範囲に記載されていない限り,発明の作用,効果の顕著性等を考慮要素とすることが許されないものではない(この点は,例えば,遺伝子配列に係る発明の容易想到性の有無を判断するに当たって,特許請求の範囲には記載されず,発明の詳細な説明欄にのみ記載されている効果等を総合考慮することは,一般的に合理的な判断手法として許容されているところである。)

動機付けを否定した事例

2011-12-04 20:14:18 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10032
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 そうすると,本件発明と甲1発明とは,誤接続の問題の解消という点で共通するとしても,機器に使用されるケーブルが10BASE-T準拠のツイストペア線か(本件発明),RS-232Cケーブル(甲1発明)かも異なる上(相違点1),解決すべき技術的課題も,ストレートケーブルとクロスケーブルの取り違えによる誤接続の問題の解消か(本件発明),接続すべき機器の電気的接続条件の違いに起因する誤った設定等に基づくDIUのドライバ(送信器)の破損の防止か(甲1発明)という点で大きく異なる
 また,甲1発明では,DIUに接続される機器の電気的接続条件の違いに着目した正しい接続の実現が目指されているだけで,RS-232Cケーブルにストレートケーブルとクロスケーブルの区別があることや,その取り違えのおそれがあることは甲第1号証中には記載も示唆もされていない。他方で,本件明細書中には,10BASE-T準拠のストレートケーブルとクロスケーブルを取り違えて接続することで,DIUのドライバ等が破損することは記載も示唆もされていない。

 したがって,甲1発明に基づいてストレートケーブルとクロスケーブルの取り違えによる誤接続の問題を解消する構成(例えば本件発明と甲1発明の相違点4に係る構成)に至る動機付けがないし,また本件発明によって解決される技術的課題と甲1発明によって解決される技術的課題の相違のために,かかる動機付けを抱いたとしても,当業者において相違点に係る構成に想到することが容易ではないということができる。なお,10BASE-T準拠のツイストペア線において,接続障害の検出にリンクテストパルスを利用することが技術常識であるとしても,甲1発明はツイストペア線に関係する発明ではなく,これとは別種のRS-232Cケーブルに関係するものであって,甲1発明の「レシーバの入力電圧」を「リンクテストパルス」に置換するのに格別の動機付けが不要であるということはできない。

著作権法2条1項1号の「創作的に表現したもの」とは

2011-12-04 19:44:52 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)28962
裁判年月日 平成23年11月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大鷹一郎

 著作権法上の保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であり,ここでいう「創作的」に表現したものといえるためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作者の個性が表現されたもので足りるというべきである。
 ・・・
(ア) 本件画像1について
 本件画像1は,本件CTデータからコンピュータソフトウェアの機能により自動的に生成される本件三次元再構築モデルとは異なり,本件CTデータを素材としながらも,半透明にした本件マンモスの頭部の三次元画像の中に,本件マンモスの水平断面像を並べて配置する構成としている点において,美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されいるものということができる。
 加えて,本件画像1では,・・・,様々な表現の可能性があり得る中で,美術的又は学術的な観点に基づく特定の選択が行われて,その選択に従った表現が行われているのであり,これらを総合した成果物である本件画像1の中に作者の個性が表現されていることを認めることができる。
・・・
(イ) 本件画像2について
 本件画像2は,本件三次元再構築モデルを特定の切断面において切断した画像それ自体とは異なり,2枚の同じ切断画像を素材とし,一方には体表面に当たる部分に茶色の彩色を施し,他方には赤,青,黄の原色によるグラデーションの彩色を施した上で,後者の頭部断面部分のみを切り抜いて前者と合成することによって一つの画像を構成している点において,美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されているものということができる。
・・・
(ウ) 被告の主張について
 これに対し被告は,本件各画像における上記の各点について,いずれもありふれた表現方法や画像を見やすくするための技術的調整等にすぎず,本件各画像に創作性を認める根拠とはならない旨を主張する。
しかしながら,被告の主張は,要するに,本件各画像における表現の要素を個別に取り上げて,それぞれが独創性のある表現とまではいえない旨を述べているものにすぎないものであり,前述のとおり,著作物としての創作性が認められるためには,必ずしも表現の独創性が求められるものではなく,作者の個性が表現されていれば足りるのであり,本件各画像にそのような意味での創作性が認められることは,上記(ア)及び(イ)で述べたとおりであるから,被告の上記主張は採用することができない。

特許法134条の2第1項ただし書各号所定の事項を目的とするものではないとされた訂正

2011-12-04 11:00:43 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)24818
事件名 特許権差止等請求事件
裁判年月日 平成23年11月25日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

エ 特許無効審判における訂正の請求は,①特許請求の範囲の減縮,②誤記又は誤訳の訂正,③明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限って許されるものである(特許法134条の2第1項)ところ,前示1のとおり,本件特許発明は「鍵」発明であり,ロータリーディスクタンブラー錠の構成に関する上記限定を加えたからといって,「鍵」自体の構成が限定されるとは認められないのであるから,上記限定によって,本件特許発明に係る特許請求の範囲を減縮するものということはできず,また,本件特許発明の「鍵」の構成が明瞭になるとも,誤記又は誤訳が訂正されることになるということもできない
 したがって,本件訂正請求は,特許法134条の2第1項ただし書各号所定の事項を目的とするものとは認められないから,不適法なものであり,これによって,本件特許が有する前示1の無効理由を解消することはできない。

特許請求の範囲の解釈(「鍵の発明」としての解釈)

2011-12-04 10:46:50 | 特許法29条1項3号
事件番号 平成22(ワ)24818
事件名 特許権差止等請求事件
裁判年月日 平成23年11月25日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

ア 本件特許発明
本件特許発明は,本件特許に係る特許請求の範囲の【請求項2】に記載された発明であり,
・・・
によって特定されるものである。
上記構成要件A~Nの記載から明らかなとおり,本件特許発明は,特定の構成を備えたロータリーディスクタンブラー錠に用いられる「鍵」として表現されており,これを総体としてみれば,本件特許発明は「鍵」の発明であると認められるが,「鍵」そのものの構成としては,構成要件Kにおいて,「ロータリーディスクタンブラーの係合突起の先端と整合するブレードの部位に,有底で所定の深さの摺り鉢形の窪みを形成」することが特定されるにとどまる
 また,構成要件A~Nの記載をみても,本件特許発明の鍵が使用される錠がロータリーディスクタンブラー(特に環状に成形されたロータリーディスクタンブラー)を用いた形式のものであることによって,特に鍵自体の構成が工夫されているものとは認め難く,また,本件明細書等の発明の詳細な説明をみても,錠が環状に成形されたロータリーディスクタンブラーを用いたものであることによって,本件特許発明の発明特定事項とされた構成要件Kの鍵の形状以外の構成が把握できるものではない(・・・。)。

 したがって,「鍵」の発明である本件特許発明に係る発明特定事項のうち,ロータリーディスクタンブラー錠の構成に関する記載は,特定の構成を備えたロータリーディスクタンブラー錠に用いられる「鍵」として表現されているものの,そのことから構成要件K以外の構成が把握できるものではないから,当該鍵の構成を具体的に特定する意味を有しておらず,結局のところ,本件特許発明は,「錠の鍵孔に挿入されたときタンブラーの係合突起の先端と整合するブレードの部位に,有底で所定の深さの摺り鉢状の窪みを形成した鍵」の発明であると認められる。
 ・・・
 したがって,本件特許発明と乙7の2発明において,発明特定事項に相違する点はなく,本件特許発明は,本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特許第3076370号公報(乙7の2)に記載された発明と認められるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。

出版契約の一方の当事者である共有者間の出版契約の存否についての確認訴訟

2011-12-04 10:15:55 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)20132
事件名 著作権に基づく差止権不存在確認等請求事件
裁判年月日 平成23年11月24日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 森崎英二


1 判断の基礎となる事実(当事者間で争いがないか,又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認定できる。)
(1) 当事者
ア 原告竹井機器は,実験心理学器械,職業適性検査器及び体力測定器の製作,並びに販売等を目的とする会社である。
イ 原告P1は,共同著作物である本件検査用紙1ないし4の著作者の一人である関西大学教授であったP5の妻である。
ウ 原告P2は,共同著作物である本件検査用紙1ないし3の著作者の一人である京都大学教授であったP6の子である。
エ 被告P3は,P5と先妻との間の子である
・・・

第4 当裁判所の判断
1 争点1(甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えに確認の利益があるか)について
(1) 原告竹井機器が,本件各検査用紙を出版,販売する権原の根拠となる平成12年1月1日締結された本件出版契約の契約関係は,甲事件に関する限度でみると,原告P1と被告P3がP5を相続し,原告P2がP6を相続したP10をさらに相続したことから,現在では,原告竹井機器と原告P1との間の契約関係,原告竹井機器と被告P3との間の契約関係,原告竹井機器と原告P2との間の契約関係(...)からなる

 これらの契約関係は,共有に係る著作権の利用に関する契約であることから,著作権法65条等によって,その権利行使が相互に規制される面があるものの,法律的にはそれぞれ独立した関係である。したがって,原告P1及び同P2には,被告P3と間で,原告竹井機器と被告P3間の権利関係の存否について確認を求める利益は認められない

(2) 原告P1及び同P2は,被告P3との間で不当利得の問題が生じる可能性がある旨主張するが,
 被告P3は原告P1及び同P2が本件出版契約の契約当事者であることを争っているわけではなく,また被告P3は,現在も,本件出版契約が更新されたことを前提とする印税相当額を受領しているから(甲20,乙20の1),本件出版契約が存続しているのであれば,不当利得の問題を生じる余地はないし,存続していない場合でも,不当利得の問題は,出版社である原告竹井機器と同原告から印税として著作権利用料を受領した原告P1,同P2及び被告P3とのそれぞれの間で生じるだけであって,被告P3と原告P1及び同P2間で不当利得の問題が生じることはないから,この点を理由とする原告P1及び同P2の主張は失当である。