知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

送信可能化行為を行っているかどうかの判断事例

2008-12-31 20:34:39 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10059
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官  石原直樹

3 争点2(本件サービスにおいて,被控訴人は本件放送の送信可能化行為を行っているか)について
(1) 著作権法において,「送信可能化」とは,①・・・された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え,若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し,又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること,②・・・されている自動公衆送信装置について,公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行うことをいう(2条1項9号の5)。

 このように,「送信可能化」とは,自動公衆送信装置の使用を前提とするものであるところ,控訴人らは,本件サービスにおいて,ベースステーションが自動公衆送信装置に当たると主張する

 しかしながら,「自動公衆送信装置」とは,公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいうものであり(著作権法2条1項9号の5イ),「自動公衆送信」とは,「公衆送信」,すなわち,公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことのうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うものをいうのであるから(同項7号の2,9号の4),「自動公衆送信装置」は,「公衆送信」の意義に照らして,公衆(不特定又は特定多数の者。同条5項参照)によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置でなければならない

 しかるところ,上記2(・・・)のとおり,・・・ものである。すなわち,各ベースステーションが行い得る送信は,当該ベースステーションから特定単一の専用モニター又はパソコンに対するもののみであり,ベースステーションはいわば「1対1」の送信を行う機能しか有していないものである。

 そうすると,個々のベースステーションが,不特定又は特定多数の者によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置であるということはできないから,これをもって自動公衆送信装置に当たるということはできない(・・・)。

(2) ・・・

(3) 控訴人らは,ベースステーションを含めた被控訴人のデータセンター内のシステム全体が,一つの特定の構想に基づいて機器が集められ,それらが有機的に結合されて構築された一つの「装置」となっているから,本件システムは,被控訴人事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送信装置を構成しているものであり,被控訴人がこれを一体として管理・支配しているものであるところ,被控訴人が,本件システムを用いて行っている送信は,被控訴人に申込みを行い,ベースステーションを送付してくる不特定又は多数の者(利用者)に対して行われているものであるから,送信可能化行為に該当するとも主張する

 しかしながら,上記のとおり,本件サービスにおいて,利用者の専用モニター又はパソコンに対する送信は,各ベースステーションから,各利用者が発する指令により,当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみなされる(・・・)ものである。

 そうすると,本件システムにおいて,各ベースステーションへのアナログ放送波の流入に関わるテレビアンテナ,アンテナ線,分配機,ブースター等,また,各ベースステーションからのデジタル放送データをインターネット回線に接続することに関わるLANケーブル,ルーター等は,それぞれが本来は別個の機器であるとしても,その接続関係や役割に有機的な関連性があるということができ,これらを一体として一つの「装置」と考える契機がないとはいえない。
 しかしながら,本件サービスに係るデジタル放送データの送信の起点となるとともに,その送信の単一の宛先を指定し,かつ送信データを生成する機器であるベースステーションは,本件システム全体の中において,複数のベースステーション相互間に何ら有機的な関連性や結合関係はなく(・・・),かかる意味で,個々のベースステーションからの送信は独立して行われるものであるから,本来別個の機器である複数のベースステーションを一体として一つの「装置」と考える契機は全くないというべきである。

 したがって,控訴人らの上記主張は,複数のベースステーションを含めて一つの「装置」と理解する前提において失当というべきである。

・・・

特許請求の範囲の用語の解釈

2008-12-14 23:32:46 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10389
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


2 取消事由1(相違点の看過)について
 原告は,審決では本願発明と引用文献1記載発明との相違点が看過されていると主張するので,まずこの点について検討する。

(1)ア 本願発明について,本件補正後の請求項1には「…第1のコンピュータの1つまたは複数の対話型音声応答ユニットから第2のコンピュータに前記問いかけのセットを送信するステップであり,この問いかけのセットは,少なくとも一部に,他のユーザが以前に出会った問題を含むデータベースエントリから選択され,このデータベースエントリーは,ユーザが新たな問題に出会うと連続的に更新される…」と記載されている。

イ この点につき,「データベースエントリ」そのものの語義がデータベースに記憶されているひとかたまりのデータ単位を意味するものであることについては当事者間に争いがないが,上記記載中の「少なくとも一部に,」という文言が「問いかけのセット」の少なくとも一部であることを意味するのか「データベースエントリ」の少なくとも一部であることを意味するのかについては争いがある。

 原告主張のように前者(「問いかけのセット」の少なくとも一部)と解すると,他のユーザが以前に出会った問題を含む「データベースエントリ」から選択されるデータが「問いかけのセット」の少なくとも一部を成すということになり被告主張のように後者(「データベースエントリ」の少なくとも一部)と解すると,「データベースエントリ」の少なくとも一部に他のユーザが以前に出会った問題を含むということになる

ウ そこでまず本件補正後の請求項1をみると,その規定振りからは被告主張のように解するのが自然であるといえるかもしれないが,原告主張のように解することも文理上不可能であるとはいえず,結局,特許請求の範囲の記載のみからその技術的意義を一義的に明確に理解することはできないものというべきである

 そして,本願に適用のある平成14年法律第24号による改正前の特許法36条の下においては,一個の特許願に明細書及び図面等が添付され(2項),明細書の中に「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」が記載されている(3項)のであるから,「特許請求の範囲」の文言を正確に理解するために「発明の詳細な説明」の記載を参酌することは,当然に許されると解される

エ そこで,発明の詳細な説明の記載を参酌すると,本願明細書には,次の記載がある。

・・・

キ したがって,本件補正後の請求項1の解釈については,原告主張のように,他のユーザが以前に出会った問題から成る「データベースエントリ」から選択されるデータが「問いかけのセット」の少なくとも一部を成すものと解される。
 そして,上記「データベースエントリ」が「ユーザが新たな問題に出会うと連続的に更新され」ることにより,更新されたデータベースエントリから「問いかけのセット」の一部を成すデータを選択し,データベースエントリの更新内容が「問いかけのセット」に反映されることが可能となる。

そうすると,本件補正後の請求項1の「…少なくとも一部に」は「データベースエントリ」に係るものとする被告の主張は誤りであるから,以下,原告主張のように「問いかけのセット」の「少なくとも一部」は他のユーザが以前に出会った問題から成るデータベースエントリから選択されることを前提にして,取消事由1(相違点の看過)の有無についての検討を進めることとする。

実質的に記載されていると言える場合

2008-12-14 23:03:52 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10099
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

ウ ところで,大きさの異なる角型基板の偏向保持は,甲1に明示的に記載されていないところ,それにもかかわらず,この保持形態が甲1に実質的に記載されていると認定することができるのは,これが,甲1の記載を総合してみることによって認められる場合又は当業者にとって周知技術又は技術常識といえる事項を補って認められる場合である

 しかしながら,審決は,「引用発明1の前記構成によれば」とし,甲1の記載の内容のみから,大きさの異なる角型基板の偏向保持とそれに対するクリーニングヘッドの変位が可能であると結論付けており,このような角型基板の保持形態が,当業者にとって周知技術又は技術常識といえる事項を補って認められるものであることは何ら示していない。そして,甲1の記載を総合してみても,大きさの異なる角型基板の偏向保持について記載されているとは認められない。

 なお,審判手続ないし当審において証拠として提出された書証によっても,偏向保持が当該技術分野の周知技術又は技術常識であると認めることはできず,大きさの異なる角型基板の偏向保持が甲1に実質的に記載されているとの審決の認定を首肯することはできない。

特許請求の範囲の用語の認定と、特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)

2008-12-14 22:48:08 | 特許法17条の2
事件番号 平成19(行ケ)10350
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2) 補正却下の当否
ア 審決は,「前記雄型ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して該隔膜の内部に挿入できる」とあるのを「前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」と補正したことに関し,「雄型ルア先端」を「雄型ルアカニューレの少なくとも一部」とすることは,特許請求の範囲を一部拡張し,また不明確にするものである(4頁下15行~下6行)として,本件補正を却下したものである

 上記補正部分は,雄型ルアないし雄型ルアカニューレを本願発明に係るルア受け具に挿入する場合の当該雄型ルアないし雄型ルアカニューレ・スリット・隔膜の各構成を特定するものであるが,審決の上記判断は,基本的には,「雄型ルアカニューレ」と「雄型ルア」とが同じものであるとの理解を前提とするものと理解することができるのに対し原告及び参加人は,「雄型ルアカニューレ」と「雄型ルア」とは同じものではなく,むしろ「雄型ルアカニューレ」と「雄型ルア先端」とが同じである旨主張するので,以下,両者の関係について検討する。

・・・

エ 以上によれば,本願明細書においては,・・・雄型ルアないし雄型ルアカニューレを特定する用語としては,「ルアカニューレ(カニューレ)32」と「ルア先端32(832,932)」とが混在して用いられていることが認められる。

 そうすると,本願明細書においては,上記機能ないし性質を有するものとして指称する場合,「雄型ルアカニューレ32」と「雄型ルア先端32」とは同一のものを意味すると認められる。・・・

 そして,本件補正における,「前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」との表現は,雄型ルアカニューレ32における上記機能が実現する場面を表現したものであることは明らかであるから,ここでの「雄型ルアカニューレ」というのは,ルア受け具に挿入されるルアコネクタの構成全体を指称するものではなく,「雄型ルア先端32」に相当する雄型ルアカニューレの先端部分である「ルアカニューレ32」を意味するものと理解することができるし,「雄型ルアカニューレの少なくとも一部」というのも,「ルアカニューレ32」に相当する部分がスリットを介して隔膜内に挿入される場合に,これが隔膜と接触している範囲を指すものであることは容易に理解できるところである。

 そうすると,本件補正において,「前記雄型ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して該隔膜の内部に挿入できる」とあるのを「前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」と変更することは,実質的に同じ構成を言い換えたにすぎないものであるから,これにより何ら特許請求の範囲を一部拡張するものではないし,不明瞭とするものでもない

したがって,この点に関する審決の前記判断は誤りといわざるを得ない。

オ この点,被告は,仮に「雄型ルア先端」と「雄型ルアカニューレ」が同じものであったとしても,本件補正前には「雄型ルア先端」なる用語で表される部分全体が隔膜内部に挿入されていたものが,本件補正により「雄型ルア先端」なる用語で表される部分の一部で足りることになるから,本件補正による変更は特許請求の範囲を拡張するものである旨主張する。

 しかし,本件補正前の本願発明においては,「ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介し該隔膜の内部に挿入できる」として,挿入されるのはルア先端とするだけで,「ルア先端の部分全体」が隔膜の内部に挿入されるとは記載されていない。そして,上記(1)のとおり,補正発明の意義は,雄型ルアとルア受け具が係合されることにより,ルアロックコネクタの先端が隔膜内に貫入することを利用して医療流体を移送するというものであり,ここで雄型ルアの先端部分が隔膜内に貫入される態様は,医療流体を移送できる程度であることは必要とされるものの,それを超えてその全部が貫入されることは必須の要素でないことは明らかである。

 そうすると,本件補正前の本願発明においても,挿入される部分はルア先端の一部又は全部と解さざるを得ないのであって,これを本件補正により「ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」として,挿入される部分がルア先端の一部の場合だけでなく全部が挿入される場合があることを明示することは,実質的にみて何らの変更を加えるものではないから,特許請求の範囲を拡張するものではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。

カ なお被告は,特許法旧17条の2第4項2号「特許請求の範囲の減縮」にいう「減縮」とは,発明を特定するために必要な事項を「限定する」ことであり,これに該当するといえるためには,補正後の一つ以上の発明を特定するための事項が補正前の発明を特定するための事項に対して,概念的に下位になっていることを要するものであると主張するところ,同主張は,補正が「特許請求の範囲の減縮」(特許法旧17条の2第4項2号)に該当するためには,これに該当する個々の補正事項のすべてにおいて下位概念に変更されることを要するとの趣旨を含むものと解される
しかし,特許請求の範囲の減縮は当該請求項の解釈において減縮の有無を判断すべきものであって,当該請求項の範囲内における各補正事項のみを個別にみて決すべきものではないのであるから,被告の上記主張が減縮の場合を後者の場合に限定する趣旨であれば,その主張は前提において誤りであるといわざるを得ない。
また,特許請求の範囲の一部を減縮する場合に,当該部分とそれ以外の部分との整合性を担保するため,当該減縮部分以外の事項について字句の変更を行う必要性が生じる場合のあることは明らかであって,このような趣旨に基づく変更は,これにより特許請求の範囲を拡大ないし不明瞭にする等,補正の他の要件に抵触するものでない限り排除されるべきものではなく,この場合に当該補正部分の文言自体には減縮が存しなかったとしても,これが特許法旧17条の2第4項2号と矛盾するものではない

新規事項を追加する訂正が請求された事例

2008-12-07 22:33:22 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)20790
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年11月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

2  次に,争点(4)(本件特許に無効理由が存在するとしても,訂正により,本件特許権に基づく権利行使が可能となるか)について判断する。

(1 ) 前記1のとおり,本件発明は,いずれも進歩性が欠如するから,特許法104条の3第1項により,原告は,本件特許権に基づく権利行使をすることはできない。

 しかしながら,被告に特許権侵害の事実があるにもかかわらず,当該特許に無効理由があるため,上記条項により,同特許権に基づく権利行使ができない場合であっても,当該特許権者が,①特許庁に対し,適法な訂正審判の請求又は訂正の請求を行っており,②当該訂正によって,上記の無効理由が解消され,さらに,③被告の製造販売する製品ないし被告が実施している方法が訂正後の特許請求の範囲に含まれる場合には,上記の無効理由があるにもかかわらず,上記特許権者は,上記特許権に基づく権利行使ができるものと解するのが相当である

 そして,前記争いのない事実等で判示したとおり,原告は,本件明細書の記載について,訂正審判請求をし,後日,特許法134条の3第5項により,訂正請求(本件訂正請求)がされたものとみなされたところ,原告は,本件特許権に前記1の無効理由が存在するとしても,本件訂正請求により,本件特許権に基づく権利行使は許される旨主張する
 そこで,上記の要件に照らして,本件訂正により,本件特許権に基づく権利行使が許されるか否かについて,以下検討する。

(2) 本件訂正が,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(ただし,平成14年法律第24号附則3条1項の規定により,同法2条の定による改正後の特許法の規定は,同法附則1条2号に定める日(平成15年7月1日)以後の特許出願について適用され,同日前にした特許出願については,なお従前の例によるものとされているため,本件訂正請求については,同法による改正前の特許法126条2項(以下「旧特許法126条2項」という。)が適用されることになる。)に違反しないかについて

ア 旧特許法126条2項の「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,したがって,同項の「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正とは,当該訂正が,当業者にとって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである場合を意味すると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号事件・平成20年5月30日判決参照)。

イ 本件訂正後発明1は,前記争いのない事実等(8)イ(ア)のとおりであり,本件訂正は,ゲートの位置を,本件訂正前は,リブ部に対応する部分としていたのを,リブ部のうちブレード本体の側面側の近傍の部分に対応する部分,又は,リブ部を複数設ける場合は,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分(・・・。)に限定したものであることが認められる。

 これに対し,本件明細書には,実施例としては,リブ部がブレード本体の一方の側面部から他の側面部にわたって形成されているものしか記載されておらず,同リブ部を前提として,ゲートをリブ部の両側面部に設けたもの(・・・)及びリブ部の後方の面の両端部に対応する部分に設けたもの(・・・)が記載されていることが認められる(甲4)。
 したがって,本件訂正後発明1のうち,リブ部の長手方向の長さが短く,そのリブ部をブレード本体の長手方向端部のみに配置した構成は,本件明細書及び本件図面には記載されておらず,また,本件明細書及び本件図面の記載から当業者にとって自明であるということもできない

 そして,そもそも,本件発明1は,前記のとおり,ゲートをブレード本体に対応する部分ではなく,ブレード本体から突出したリブ部に対応する部分に設けることによって,ウェルド,バリ,ヒケのない現像ブレードを製造するというものであるところ,本件明細書において,リブ部のいかなる部分に対応した部分にゲートを設けるべきか,又は,リブ部を複数設ける場合に,ブレード本体のどの部分にリブ部を設けるべきかについての記載はなく(・・・。),むしろ,前記1(1)ア(ア)d⒟で認定したとおり,本件明細書の段落【0012】には,「・・・。」と記載されている。

 このように,本件発明1は,リブ部のうちのいかなる部分に対応する分にゲートを設けても,また,ゲートを設けたリブ部を複数設けても,技術的には異ならないということを前提としており,換言すれば,特定の部位にゲートの位置を設けることについての技術的意義を見い出していないものと解される。これに対して,本件訂正は,ゲートの位置を上記のとおり限定したものであるところ,本件発明のように,ゲートをリブ部に設ける現像ブレードの製造方法において,ブレード本体の長手方向におけるゲートの設置位置を限定することには,一定の技術的な有意性が認められるものと解される

以上の点を総合すると,本件訂正が,リブ部を複数設ける場合に,ゲートの設置位置を,ブレード本体の側面側の近傍にあるリブ部に対応する部分に限定することは,本件明細書及び本件図面から導かれる技術的事項とは異なる新たな技術的事項を導入することになり,本件訂正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」における訂正ということはできないというべきである

ウ したがって,本件訂正は,特許法134条の2第5項で準用する特許法126条3項(なお,前記のとおり,本件訂正請求については,旧特許法126条2項が適用される。)に違反するというべきである。

共通点が抽象的なアイデアや創作性のないありふれた表現にある事例

2008-12-07 21:29:06 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10058
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 判断
 前記(1)のとおり,原告書籍の第1ないし第9の各部分と被告書籍1の第1ないし第7,第9の各部分,原告書籍の第1,第5,第8の各部分と被告書籍2の第1,第5,第8の各部分は,表現上の共通点はなく,また,共通点があったとしても,それらは抽象的なアイデアにおける共通点や創作性のないありふれた表現の共通点にとどまり,被告書籍各部分は,原告書籍各部分の複製又は翻案に該当しない

 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告Yが被告書籍1及び2を著作したこと,被告Yの許諾により被告講談社が被告書籍1を発行したこと,被告Yの許諾により被告テレビ朝日が被告書籍2を発行したことは,原告が原告書籍について有する複製権又は翻案権を侵害するものではないというべきである

特許無効審判の審理

2008-12-07 19:45:27 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10380
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

6 本件審決の違法性について
(1) 特許無効審判の審理について
ア 特許無効審判について,特許庁が請求を不成立とする審決をするには,審判体は,審判手続において請求人が適法に主張したすべての無効理由について審理し,審決においてその成否についての判断を示す必要があることはいうまでもない。審判体が,審判手続において,特許法153条2項の規定により当事者に通知した無効理由についても,同様である。

イ 特許法134条1項の答弁書の提出があった後は,被請求人にも審決における判断を得る利益があるから,請求人が,審判請求の対象である特定の請求項について,請求書で主張した複数の無効理由についてその一部の主張を撤回するには,審判の請求の取下げの場合(特許法155条)に準じて,被請求人の承諾を得る必要があるというべきであり,少なくとも審判において明確な意思確認のための手続を採ることが必要である。審判体が,審判手続において,いったん特許法153条2項の規定により当事者に通知した無効理由について,これを審理の対象としないこととする場合も同様である。

ウ 請求書の副本の送達がされた後,審判手続において請求人が主張した無効理由が請求書の要旨を変更するものである場合に,審決において当該無効理由について判断するためには,あらかじめ審判手続において,特許法131条の2第2項の規定により補正の許可をした上で,被請求人に同法134条2項の答弁書を提出する機会を与えるか,又は,同法153条2項の規定による通知をして,当事者に意見を申し立てる機会を与える手続を採らなければならない

 上記の各規定が設けられた趣旨は,当事者に対して,適正公平な審判手続を保障するという理由のみならず,第三者に対して,審決の効力の及ぶ範囲を明確にするという理由があることに由来する。とりわけ,後者の理由に関しては,特許法167条に「何人も,特許無効審判・・・の確定審決の登録があったときは,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」と規定されていることを併せ考慮すると,審決の判断の基礎とした無効理由を構成する事実及び証拠がどのようなものであるかを,審判手続において明確にさせることが必須となるが,前記各規定は,その手続を担保するものとして極めて重要な規定であるといえる

 したがって,請求書の要旨変更に該当する無効理由について,上記のような手続を採ることなく,審決において判断することは,手続上の違法を来すというべきである

エ ところで,特許無効審判の手続において,請求人が無効理由を主張した後に,被請求人が訂正請求をするような場合に,訂正前の特定の請求項との関係で主張された無効理由は,当該請求項に対応する訂正後の請求項との関係においても,無効理由の主張がされているものとして,手続が進められるべきであることは当然である(・・・)。
・・・


(2) 事実認定
・・・
無効理由4は,本件発明1ないし4は,いずれも刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというものであり,具体的には,
① 刊行物1記載の発明,刊行物2記載の事項及び周知慣用手段の組合せ,
② 刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せ
を主張するものである。

(イ) 本件無効審判請求書との関係
 無効理由4は,刊行物1に基づく公知事実,刊行物2に基づく公知事実及び刊行物3に基づく公知事実によって構成されるものであるということができる(なお,周知慣用手段は,通常,特許法29条2項所定の「その発明の属する分野における通常の知識」と位置付けられるものであり,無効理由を構成する公知事実そのものではないと解される。)が,このうち刊行物2に基づく公知事実は本件無効審判請求書で主張された特許法29条2項の無効理由(当初無効理由4)を構成する公知事実であるが,刊行物1及び3に基づく各公知事実は,本件無効審判請求書で主張された当初無効理由4を構成する公知事実ではない
 したがって,無効理由4は,刊行物1及び3に基づく各公知事実によって構成されているという点において,本件無効審判請求書の要旨を変更するものというべきである

 ところで,平成18年5月18日発送の補正許否の決定(甲71)では,第2回弁駁書に関し,「新たに追加された甲第4~31号証により立証しようとする事実に基づいた請求の理由の補正は,審判請求時の要旨を変更するものと認められる」と説示されているが,原告が甲4ないし31により立証しようとした事実には,周知慣用手段に係るものが含まれており(・・・),周知慣用手段は,通常,特許法29条2項所定の「その発明の属する分野における通常の知識」と位置付けられ,無効理由を構成する公知事実そのものではないことに照らせば,上記説示に係る審判体の判断は,周知慣用手段に基づく請求の理由の補正についてまで不許可とした点において,これを是認することができない

(ウ) 職権通知無効理由との関係
 ・・・

(エ) 無効理由4のうち適法に審理の対象とされた部分とそうでない部分
 そうすると,無効理由4のうち
① ・・・に係る理由は,本件無効審判の手続において,適法に審理の対象とされたものということができるが,
② 刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,本件無効審判請求書の要旨を変更するものであって,かつ,特許法131条の2第2項の規定による補正の許可及び被告(被請求人)に対する同法134条2項の答弁書の提出の機会の付与も,同法153条2項の規定による通知及び当事者に対する意見申立ての機会の付与もされていないものといえる。

 したがって,無効理由4のうち,刊行物1記載の発明,刊行物3記載の事項及び周知慣用手段の組合せに係る理由は,刊行物3に基づく公知事実によって構成されているという点に関し,本件無効審判の手続において,適法に主張されたものということはできない。

(オ) 本件審決が刊行物3に基づく公知事実によって構成される無効理由について示した判断

 本件審決は,刊行物3の記載を摘記して刊行物3記載の事項を認定するとともに(審決書25頁15行~26頁17行),具体的な判断としては,刊行物1記載の発明1の・・・との説示のみをして,・・・という抽象的な判断を示したものである。

(カ) まとめ
 上記検討したところによれば,本件審決は,特許法が規定する適正な手続を経ることなく,無効理由4のうち刊行物3に基づく公知事実によって構成される理由について,前記(オ)のとおり,部分的かつ断片的な説示をして,当該無効理由が成立しない旨の判断を示した点において,適切さを欠くものであったというべきである。
 なお,本件審決の同判断部分は,本件審決の結論を導く根拠とは無関係の,不要な判断である点は,前記3のとおりである。

 今後,再開されるべき本件無効審判の手続においては,審判体は,紛争の一回的解決を図るべく,原告の主張に係る特許法29条2項違反の無効理由を構成する公知事実として,刊行物3に基づく公知事実を付加する補正を許可するか否か,あるいは,これに代えて同法153条2項の規定による通知をするか否かについて,審理を進めるべきである

 なお,
① 訂正がされた場合に,訂正前の発明について対比された公知事実のみならず,その他の公知事実との対比を行って,その点の判断をしない限り,訂正後の発明が特許を受けることができる発明であるかに関する判断結果の安定性を実現することはできないこと(最高裁判所平成7年(行ツ)第204号平成11年3月9日最高裁判所第3小法廷判決(民集53巻3号303頁),最高裁判所平成10年(行ツ)第81号平成11年4月22日第1小法廷判決(裁判集民事193号231頁)参照),
② 本件無効審判の過程でされた訂正請求が確定する前に,別の無効審判が請求されたような場合には,審理判断の対象となる発明の要旨が本件無効審判におけるそれとは異なるものとなって,判断結果の安定性を損なうおそれがあること
等の事情に照らすならば,審判体としては,本件第4訂正により特許請求の範囲に付加された構成との関係で,刊行物3に基づく公知事実を主張する必要が生じたものとして,特許法131条の2第2項1号の規定による補正の許可をすべきものといえる。