知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

不競法2条1項1号の他人の商品等表示

2010-09-30 22:01:52 | 不正競争防止法
事件番号 平成20(ワ)25956
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成22年09月17日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

 ところで,不競法2条1項1号は,不正競争行為として,「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供して,他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を規定している。

 同号は,他人の商品表示(商品を表示するもの)又は他人の営業表示(営業を表示するもの)であって,「需要者の間に広く認識されている」もの,すなわち,他人の周知の商品表示及び営業表示(他人の周知の商品等表示)を保護するため,商品主体の混同を生じさせる行為及び営業主体の混同を生じさせる行為を不正競争行為として禁止する趣旨の規定であり,同号の商品表示は,商品の出所を他の商品の出所と識別させる出所識別機能を有するものであることを要すると解される。

 商品の形態は,本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり,商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,特定の商品の形態が,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,その形態が長期間継続的・独占的に使用され,又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果,出所識別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く認識されるに至ることがあり得るというべきである。

 このような商品の形態は,不競法2条1項1号の他人の商品表示として需要者の間に広く認識されているものといえるから,同号によって保護される他人の周知の商品等表示に該当するものと解される。

特許権に基づく差止請求と国内管轄に関する民訴法5条との関係

2010-09-30 21:42:52 | Weblog
事件番号 平成22(ネ)10001
事件名 特許侵害予防等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年09月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2) ところで,日本国裁判所たる当裁判所が審理判断するに当たり,本件のような渉外的要素を含む事件に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかどうかは,これに関する我が国の成文の法律や国際的慣習法が認められない現時点(口頭弁論終結時たる平成22年7月7日)においては,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により,条理に従って決定するのが相当と解される(・・・)。
 そして,上記条理の内容としては,我が国の民訴法の規定する国内裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきものと解される(最高裁昭和56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁,同平成9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁等参照)。

(3) 一方,本件訴えは,前記のとおり,①特許権に基づく差止請求及び②不法行為に基づく損害賠償請求であり,これらは特許権又は金銭債権という財産権上の訴えであるが,これらについて,国内管轄に関する民訴法5条(財産権上の訴え等についての管轄)との関係を検討すると,次のとおりである。

 すなわち,上記②の不法行為に基づく損害賠償請求は,その文言解釈として民訴法5条9号にいう「不法行為に関する訴え」に該当することは明らかであり,また,①の特許権に基づく差止請求は,被控訴人(一審被告)の違法な侵害行為により控訴人(一審原告)の特許権という権利利益が侵害され又はそのおそれがあることを理由とするものであって,その紛争の実態は不法行為に基づく損害賠償請求の場合と実質的に異なるものではないことから,裁判管轄という観点からみると,民訴法5条9号にいう「不法行為に関する訴え」に含まれるものと解される(最高裁平成16年4月8日第一小法廷決定・民集58巻4号825頁参照)。

 そして,本件訴えの国際裁判管轄の有無に関して斟酌される民訴法5条9号の適用において,不法行為に関する訴えについて管轄する地は「不法行為があった地」とされているが,この「不法行為があった地」とは,加害行為が行われた地(「加害行為地」)と結果が発生した地(「結果発生地」)の双方が含まれると解されるところ,本件訴えにおいて控訴人(一審原告)が侵害されたと主張する権利は日本特許第3688015号であるから,不法行為に該当するとして控訴人が主張する,被控訴人(一審被告)による「譲渡の申出行為」について,申出の発信行為又はその受領という結果の発生が客観的事実関係として日本国内においてなされたか否かにより,日本の国際裁判管轄の有無が決せられることになると解するのが相当である。

平成22年09月15日 平成22(ネ)10002平成22(ネ)10003も同趣旨。

商標法29条の「使用」

2010-09-20 12:14:14 | 商標法
事件番号 平成22(行ケ)10093等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 取消事由1-2(商標法29条についての判断の誤り)について
(1) 原告は,引用商標と原告が取得した著作権とが抵触することを前提として,商標法29条により被告が引用商標に基づき本件商標の無効審判を請求することができない旨を主張する。

(2) しかしながら,商標法29条にいう「使用」は,同法2条3項に列挙されているものに限定されると解されるところ,ここには,無効審判の請求は挙げられていない

 したがって,原告の前記主張は,それ自体失当といわざるを得ない。

登録商標に係る図柄等が第三者の有する著作物に係る支分権の範囲内に含まれる場合

2010-09-20 11:39:46 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10300
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


2 商標法4条1項7号に係る判断の誤りについて
(1) 原告は,本件商標を構成する図柄が,第三者(故H)の有する著作権の範囲に含まれることを理由に,本件商標は,商標法4条1項7号に該当する商標である旨主張する。

 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。

 すなわち,登録商標に係る図柄等について,第三者の有する著作物に係る支分権(複製権,翻案権等)の範囲内に含まれることがあったとしても,商標法及び著作権法の趣旨に照らすならば,そのことのみを理由として当然に当該商標が商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものということはできない
 そうすると,仮に,本件において,原告が主張するとおり,1963年に故Hが引用図形(別紙「商標目録」記載(2)引用図形参照)を著作,創作したものであり,本件商標がその著作権の範囲内に含まれるとしても,そのことのみをもって本件商標が,商標法4条1項7号に該当するとはいえない。

平成21(行ケ)10263 平成22年09月14日 知的財産高等裁判所も同趣旨。

二次的著作物の利用についての著作権法65条3項の類推適用の可否

2010-09-20 11:01:53 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)24208
事件名 出版妨害禁止等請求事件
裁判年月日 平成22年09月10日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳


ウ なお,原告らは,本件脚本(二次的著作物)の利用については,共同著作物に関する著作権法65条3項の規定と同様の規律がされるべきであり,原作者が二次的著作物の利用を拒絶するには「正当な理由」がなければならないなどとも主張する
 同主張は,本件ただし書規定の解釈に関してなされたものであるが,二次的著作物の利用の場合に上記条項が類推適用されるとすれば,二次的著作物である本件脚本の著作者である原告Xは被告に対し同条項に基づき本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて同意を求めることができると解する余地があるので,念のため付言する。

 著作権法は,共同著作物(同法2条1項12号)と二次的著作物(同項11号)とを明確に区別した上,共同著作物については,著作者間に「共同して創作した」という相互に緊密な関係があることに着目し,各共有著作権者の権利行使がいたずらに妨げられることがないようにするという配慮から,同法65条3項のような制約を課したものと解される。これに対し,二次的著作物については,その著作者と原作者との間に上記のような緊密な関係(互いに相補って創作をしたという関係)はなく,原作者に対して同法65条3項のような制約を課すことを正当化する根拠を見いだすことができないから,同項の規定を二次的著作物の原作者に安易に類推適用することは許されないというべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

(2) 争点(3)(不法行為の成否及び原告らの損害額)について
 前記(1)に説示したとおり,被告に原告ら主張の許諾義務があるということはできず,また,本件脚本の利用について共同著作物に関する著作権法65条3項の規定が類推適用されるということもできない。
 そうすると,二次的著作物である本件脚本の利用に関し,原著作物の著作者である被告は本件脚本の著作者である原告Xが有するものと同一の種類の権利を専有し,原告Xの権利と被告の権利とが併存することになるのであるから,原告Xの権利は同原告と被告の合意によらなければ行使することができないと解される(最高裁平成13年10月25日第一小法廷判決・判例時報1767号115頁参照)。したがって,被告は,本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて,原著作物の著作者として諾否の自由を有しているというべきであり,その許諾をしなかったとしても,原著作物の著作者として有する正当な権利の行使にすぎない

二次的著作物の利用についての著作権法65条3項の類推適用の可否

2010-09-20 10:55:34 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)24208
事件名 出版妨害禁止等請求事件
裁判年月日 平成22年09月10日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳


ウ なお,原告らは,本件脚本(二次的著作物)の利用については,共同著作物に関する著作権法65条3項の規定と同様の規律がされるべきであり,原作者が二次的著作物の利用を拒絶するには「正当な理由」がなければならないなどとも主張する
 同主張は,本件ただし書規定の解釈に関してなされたものであるが,二次的著作物の利用の場合に上記条項が類推適用されるとすれば,二次的著作物である本件脚本の著作者である原告Xは被告に対し同条項に基づき本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて同意を求めることができると解する余地があるので,念のため付言する。

 著作権法は,共同著作物(同法2条1項12号)と二次的著作物(同項11号)とを明確に区別した上,共同著作物については,著作者間に「共同して創作した」という相互に緊密な関係があることに着目し,各共有著作権者の権利行使がいたずらに妨げられることがないようにするという配慮から,同法65条3項のような制約を課したものと解される。これに対し,二次的著作物については,その著作者と原作者との間に上記のような緊密な関係(互いに相補って創作をしたという関係)はなく,原作者に対して同法65条3項のような制約を課すことを正当化する根拠を見いだすことができないから,同項の規定を二次的著作物の原作者に安易に類推適用することは許されないというべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

提出期間経過後に提出された優先権証明書の却下処分

2010-09-20 09:44:43 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)183
事件名 特許庁による手続却下の処分に対する処分取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月09日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

2 原告の主位的主張について
 これに対し,原告は,原告が本件補正書を特許庁長官に提出したのは法43条2項に規定する優先権証明書の提出期間の経過後であるものの,パリ条約上の優先権制度の趣旨に鑑みれば,同項の規定に反したという手続的瑕疵については,特に不都合が発生しない限り広く補正を認め,私有財産たる「優先権の恩恵を受ける権利」を保護するのが相当であり,同項の規定を必要以上に厳格に解して補正を認めず,私有財産を公権力で剥奪するかのような本件処分は,憲法29条1項に違反し違法である旨を主張する。

 しかしながら,パリ条約は,優先権を主張する場合の手続について規定した上で(4条D(1),(3),(4) ),かかる手続がされなかった場合の効果については,優先権の喪失を限度として各同盟国において定めることを認めており,・・・,我が国は,同条約に基づき,法43条4項で,優先権証明書の提出期間を徒過した場合に,優先権の主張の効力を失わせることとする措置を講じたものである。
 パリ条約による優先権は,・・・特別な利益であり,先願主義の例外事由となり,新規性等の判断の基準日を遡らせるなど,その効果が第三者に与える影響は大きいものである。上記のような我が国の制度の下で,提出期間内に優先権証明書を提出しなかったことにより失効した優先権主張の手続を,その後に優先権証明書が提出されたことにより,事後的に有効な手続と取り扱うことを認めた場合,当該優先権による基準時より後の日で,当該出願より前の日までに同一発明の出願を完了した第三者は,優先順位が覆ることになる不利益を被ることになるのであり,明文の規定のないまま,解釈により,いったん失効した優先権主張の手続を復活させる取扱いをすることは,手続の安定を害し,許されないというべきである。

・・・

3 原告の予備的主張について
 原告は,原告が法43条2項に規定された期間内に優先権証明書提出書を提出しなかったのは,錯誤によるものであるから無効であり,錯誤の規定が意図する救済の精神及び優先権制度の精神を加味すれば,本件補正書による優先権証明書提出書の補充は認められるべきであり,本件処分は,実質的に民法95条に違反し,憲法29条で保証された私有財産を実質的に剥奪するものであるから違法であると主張する。

 しかしながら,仮に,原告が法43条2項に規定された期間内に優先権証明書提出書を提出しなかった行為が原告(ないし原告の特許管理人)の何らかの思い違いに基づくものであったとしても,上記行為は,単なる事実行為であって,意思表示と認めることはできないから,同行為について民法95条の適用はない。

 仮に,民法95条の適用があり得るとしても,・・・,上記行為が錯誤に基づくものであったからといって,これにより,同条2項に規定する期間内に原告が優先権証明書を提出したことになるわけではない。

外部撮影会社の新聞社に対する二次使用許諾の有無

2010-09-20 08:24:29 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)2813
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年09月09日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

(1) 当事者
 原告P1は,昭和55年ころから,フリーのカメラマンとして活動していたが,昭和60年12月に,撮影した写真やフィルムの管理を行う原告会社を設立した。
 原告P2は,平成5年1月に,カメラマンとして原告会社に入社した。
 被告は新聞社であり,自社カメラマンが所属する写真部を有していたが,自社カメラマンが多忙で人手不足の時など,外部のカメラマンに撮影を依頼することがあった。
 ・・・

イ2次使用許諾
(ア) 再掲載の場合
 前記ア(エ)のとおり,被告新聞は,日刊新聞であって,日々の出来事を報道することを主たる目的としており,同一の写真を,複数回にわたって掲載したり,一定期間継続して掲載することは,通常は予定していない。したがって,被告新聞への掲載にあたっての著作権者の使用許諾も,合理的な期間内における1回的なものと見るべきである。
 これは,再掲載にあたりカメラマンの許諾を得るという,被告写真部における一般的な取扱い(証人P4)とも整合する。
そして,被告が,再掲載にあたり,原告P1らの個別の許諾を得て
いなかったことには争いがないし,著作権の譲渡の間接事実とされた前記アの各事実が,2次使用に係る包括的な許諾を裏付けるものとも認めがたい。
 したがって,本件において2次使用許諾があったとの事実は認められない。

(イ) 別カット写真掲載の場合
 別カット写真の使用は,2次使用とは異なる使用形態であるが,被告は,別カット写真の使用についても,2次使用の場合と同様に,使用許諾の抗弁を主張していると考えられる。
 しかしながら,前記(ア)のような被告新聞の性格や,複数枚の候補写真(フィルム)の中から適切なものが選択されるという掲載の形態からして,被告が受けた使用許諾は,「フィルムに感光された写真を,全て1回ずつ使用することができる」というものではなく,「撮影に係る出来事を記事にする際に,フィルムに感光されたどの写真を使用してもよい」というものと考えられる
 したがって,記事に使用しなかった写真を,後に別の記事に転用することは,許諾の範囲を超えるものといえるのであって,被告の使用許諾の抗弁は認められない

書面によらない商標の使用の許諾を認めた事例

2010-09-18 17:23:37 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10392
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 判断
 以上のとおり,エレクター社は,平成19年6月及び平成20年5月に,インターメトロ社製の組立式棚の写真を掲載した製品カタログに,本件商標等を付して頒布し,また,そのころ,本件商標等が付されたインターメトロ社製の組立式棚を販売した。そして,上記認定した事実によれば,エレクター社は,本件商標について,原告による通常使用権の許諾を受けて使用したものと認定するのが自然である。
 すなわち,
① エレクター社は,昭和41年に設立され,インターメトロ社の製品である組立式棚を,同社から輸入し,販売する事業を継続してきたこと,
② エレクター社は,昭和40年代前半には,インターメトロ社が製造した組立式棚「エレクターシェルフ」を日本で独占的に販売する権限を取得し,昭和63年ころには,エレクター社のC 及び同夫人Dが,インターメトロ社のAと,技術援助契約を締結し,エレクター社は,インターメトロ社の製造に係る組立式棚を日本で独占的に販売する権限を取得していること,
③ エレクター社は,インターメトロ社の製造に係る組立式棚の写真を掲載した製品カタログに本件商標等を付して頒布するなどしてきたこと,
④ インターメトロ社及び原告のいずれも,エレクター社の本件商標等の使用に関して,何らの異議を述べたことはないこと
等の一連の経緯に照らすならば,エレクター社の本件商標等の使用は,原告の通常使用権の許諾の下でされたものと解するのが合理的である。

 もっとも,技術援助契約書(甲18)は,A,C 及び同夫人D を当事者として,作成されたものであること,本件商標は,同契約の対象に含まれていないこと等の事実に照らすならば,同技術援助契約を直接の根拠として,原告がエレクター社に対し本件商標の通常使用権を許諾したものではない
 しかし,
① エレクター社とインターメトロ社とは,上記技術援助契約書に沿って,円滑な取引を継続してきたものであり,インターメトロ社は,所定のロイヤリティの支払を受けていたこと,
② 平成21年8月に,上記技術援助契約のロイヤリティに関する合意が改訂されているが,エレクター社とインターメトロ社とは,上記技術援助契約が,両社に対して効力を及ぼすものであったことを当然の前提として,改訂交渉を行っていること
等の事情を総合参酌するならば,インターメトロ社(知的財産権の管理のために運営されていた同社の完全子会社である原告を含む。)が,エレクター社に対して,本件商標に係る通常使用権の許諾を与えたと認定するのが合理的である。
 すなわち,エレクター社とインターメトロ社(子会社である原告を含む。)とは,本件商標の使用許諾に関して書面を作成してないが,少なくとも書面によることなく,本件商標の使用を許諾していると認めることができる。この点に関する被告の主張は,採用の限りでない。
その他,被告は,縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。

3 結論
 以上のとおり,エレクター社は,本件商標の通常使用権者と認めることができ,同社は,取消審判請求の登録前3年以内である平成19年6月及び平成20年5月に,インターメトロ社製の組立式棚の写真を掲載した製品カタログに,本件商標等を付して頒布し,また,そのころ,本件商標等が付されたインターメトロ社製の組立式棚を販売したことを認めることができるから,商標法50条1項の規定に基づいてその登録を取り消すべきものであるとする審決の判断は誤りである。よって,主文のとおり判決する。

平成21(行ケ)10393 平成22年08月31日 知的財産高等裁判所 飯村敏明裁判長も同趣旨

特許請求の範囲の用語の解釈事例ー正常に動作しない範囲を含む記載を実施例に限定解釈した事例

2010-09-14 22:32:21 | 特許法70条
事件番号 平成21(ワ)1986
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(4) 構成要件1-D-1,1-E-1,1-G(奇数番グローバルワードライン)及び構成要件1-D-2,1-E-2,1-G(偶数番グローバルワードライン)について
ア ・・・
 本件発明の特許請求の範囲に記載された「奇数番グローバルワードライン」,「偶数番グローバルワードライン」の各用語は,一般的な技術用語ではなく,その意義は,本件発明の特許請求の範囲の記載から一義的に明らかであるとはいえないから,これらの用語は,本件明細書の記載及び図面を考慮して解釈されなければならない(特許法70条2項)
 そこで,以下,本件明細書の記載及び図面を参酌し,上記各用語の意義について検討することとする。

イ 本件明細書中には,「奇数番グローバルワードライン」,「偶数番グローバルワードライン」のいずれの用語についても,その意義を直接的に定義付ける記載はなく,また,各用語の意義について直接説明する記載もない。

ウ 本件明細書には,本件発明の唯一の実施例として,図3(「本発明の好適な実施の形態による行デコーダ回路を示す回路図」)と共に次の各記載がある。
・・・

エ ・・・
そうすると,上記実施例においては,「偶数番グローバルワードライン」とは,順に並んだローカルワードライン(順にWL0,WL1,WL2,WL3,WL4,WL5,WL6,WL7と番号が付されている。)のうち偶数番が付されたローカルワードライン(WL0,WL2,WL4,WL6)に対応するグローバルワードラインであり,「奇数番グローバルワードライン」とは,上記順に並んだローカルワードラインのうち奇数番が付されたローカルワードライン(WL1,WL3,WL5,WL7)に対応するグローバルワードラインであるということができる。

オ 原告は,本件発明は上記実施例に記載された構成に限定されるものではなく,偶数番グローバルワードライン及び奇数番グローバルワードラインに対応するローカルワードラインの並び順は問わないのであって,本件発明におけるグローバルワードラインの「奇数番」,「偶数番」とは,複数のグローバルワードラインの並び順をいう旨主張する。

 本件発明の特許請求の範囲の記載中には,偶数番グローバルワードラインに対応する複数のローカルワードラインと奇数番グローバルワードラインに対応する複数のローカルワードラインとを交互に配置する旨の文言はなく,また,一般論として,特許発明の技術的範囲は,実施例に記載された構成に必ずしも限定されるものではない。

 しかしながら,原告が主張するようにグローバルワードラインに対応するローカルワードラインの並び順は問わないと解すると,本件発明には,例えば,・・・,メモリ装置として正常に動作しない状態になってしまうことは明らかである。このような場合に生じるカップリングの問題を解決するための具体的な手段は,本件明細書中には一切開示されておらず,その解決手段が自明であると認めるに足りる証拠もない

 原告は,本件発明においてはローカルワードラインがフローティング状態になるという問題は前提にしておらず,段落【0032】のフローティング状態のローカルワードラインに生じるカップリングの問題とその解決についての記載は,請求項12,13の発明に係る記載であり,本件発明の解釈に参酌されるべき記載ではないと主張する。
 しかしながら「奇数番グローバルワードライン」及び「偶数番グローバルワードライン」についての原告の前記解釈を前提とするならば,本件発明にはカップリングの問題があるにもかかわらず,その解決手段を講じないままの正常に動作しない状態のメモリ装置を含むことになってしまうことになる。このような原告の解釈は不合理であるといわざるを得ない。

「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」する主体(カラオケ法理の主張)についての判断事例

2010-09-12 22:14:58 | 商標法
事件番号 平成21(ワ)33872
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告の行為主体性)について
(1) 原告は,
① 被告が,自ら勧誘した本件各出店者が出店するインターネットショッピングモール(楽天市場)を運営し,被告サイトを通じて,購入者(同希望者を含む。)からの要請に応じて,自らが管理運営するサーバに保管し,内容を点検可能な本件各商品に関する情報を顧客に送信し,表示させる行為,及び本件各商品について顧客から購入の申込みを受け,本件各出店者をして出荷,すなわち譲渡させる行為(・・・。)を行い,利益を上げていること,
② 被告は,出店者が楽天市場に出店し,商品を展示及び販売するに当たり,多くの支援・援助を行い,不適切な商品等についてはコンテンツを削除する権限を有していること,
③ 被告と本件各出店者の相互利用関係等にかんがみると,被告の上記行為ないし関与は,楽天市場における本件各商品の販売のための展示及び販売について,被告が主体となって本件各出店者を介し,あるいは本件各出店者と共同で,少なくとも本件各出店者を幇助して展示行為及び販売行為を行ったものとして,商標法2条3項2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当し,同様に,不正競争防止法2条1項1号及び2号の「譲渡のために展示」又は「譲渡」に該当する旨主張する。
 ・・・

(3) 判断
 ・・・
 前記前提事実によれば,
① 被告が運営する楽天市場においては,出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について,顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし,出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し,出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること,
② 被告は,上記売買契約の当事者ではなく,顧客との関係で,上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められる。
 これらの事実によれば,被告サイト上の出店ページに登録された商品の販売(売買)については,当該出店ページの出店者が当該商品の「譲渡」の主体であって,被告は,その「主体」に当たるものではないと認めるのが相当である。

 したがって,本件各出店者の出店ページに掲載された本件各商品についても,その販売に係る「譲渡」の主体は,本件各出店者であって,被告は,その主体に当たらないというべきである。

イ (ア) これに対し原告は,楽天市場における本件各商品の販売についての被告の関与によれば,被告が主体となって本件各出店者を介し,あるいは本件各出店者と共同で本件各商品の譲渡を行った旨主張する。

 しかしながら,前記前提事実によれば,・・・,実質的にみても,本件各商品の販売は,本件各出店者が,被告とは別個の独立の主体として行うものであることは明らかであり,本件各商品の販売の過程において,被告が本件各出店者を手足として利用するような支配関係は勿論のこと,これに匹敵するような強度の管理関係が存するものと認めることはできない
また,本件各商品の販売による損益はすべて本件各出店者に帰属するものといえるから,被告の計算において,本件各商品の販売が行われているものと認めることもできない

 さらに,・・・,本件各商品の販売について,被告が本件各出店者とが同等の立場で関与し,利益を上げているものと認めることもできない。もっとも,本件各出店者と被告との間には,被告は,本件各出店者からその売上げに応じたシステム利用料を得ていることから,本件各出店者における売上げが増加すれば,システム利用料等による被告の収入が増加するという関係があるが,このことから直ちに被告が本件各商品の販売の主体として直接的利益を得ているものと評価することはできない

 以上によれば,被告が本件各商品の販売(譲渡)の主体あるいは共同主体の一人であるということはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。

開放的ライセンスポリシーを採用し、複数の代替技術が存在しても超過利益はあるとした事例

2010-09-12 21:12:57 | Weblog
事件番号 平成20(ネ)10082
事件名 職務発明対価請求控訴事件
裁判年月日 平成22年08月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

2 独占の利益の有無について
(1) ア 勤務規則等により,職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に,使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が改正前特許法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払いを求めることができると解するのが相当である(最高裁平成15年4月22日第3小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。

 そして,使用者等が,職務発明について特許を受ける権利等を承継しなくとも,当該特許権について無償の通常実施権を取得する(同条1項)ことからすると,同条4項に規定する「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」とは,使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の全体をいうのではなく,その全体の額から,通常実施権の実施によって得られる利益の額を控除した残額(本判決も便宜上これを「独占の利益」,「超過利益」などということとする。)と解すべきである。
 また,改正前特許法35条4項の「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」は,特許を受ける権利が将来特許を受けることができるか否かも不確実な権利であり,その発明により使用者等が将来得ることができる独占的実施による利益の額をその承継時に算定することが極めて困難であることからすると,当該発明の独占的 実施による利益を得た後の時点において,これらの独占的実施による利益をみてその法的独占権に由来する利益の額を認定することも,同条項の文言解釈として当然に想定されているものと解される。

イ 本件では,被控訴人は,少なくとも競業他社の一部に対し,本件各特許の実施を許諾しているものと認められるところ,控訴人は,被控訴人が本件各特許を自ら実施しているとして,それによって得た利益を相当対価算定の根拠として主張している。このような場合,使用者等が,当該特許権を有していることに基づき,実施許諾を受けている者以外の競業他社が実施品を製造,販売等することを禁止することによって得ることができたと認められる収益分をもって,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」というべきである。

ウ 使用者が被用者から譲り受けた特許発明の実施につき,実施許諾を得ていない競業他社に対する禁止権に基づく独占の利益が生じているといえるためには,当該特許権の保有と競業他社の排除との間に因果関係が認められる必要があるところ,その存否については,
① 特許権者が当該特許につき有償実施許諾を求める者には,すべて合理的な実施料率でこれを許諾する方針(開放的ライセンスポリシー)を採用しているか,又は特定の企業にのみ実施許諾をする方針(限定的ライセンスポリシー)を採用しているか,
② 当該特許の実施許諾を得ていない競業他社が一定割合で存在する場合でも,当該競業他社が当該特許発明に代替する技術を使用して同種の製品を製造販売しているか,代替技術と当該特許発明との間に作用効果等の面で技術的に顕著な差異がないか,また,
③ 包括ライセンス契約又は包括クロスライセンス契約等を締結している相手方が,当該特許発明を実施しているか又はこれを実施せず代替技術を実施しているか,さらに, 
④ 特許権者自身が当該特許発明を実施しているのみならず,同時に又は別の時期に,他の代替技術も実施しているか等
の一切の事情を考慮して判断すべきである。

 ところで,当該特許発明の価値が非常に低く,これを使用する者が全く想定し得ない場合や,代替技術が非常に多数あるため,市場全体からみて当該特許の存在が無視できるような特段の事情がある場合を除き,単に開放的ライセンスポリシーが採られており,当該特許発明と同等の代替技術が存在するというだけでは,程度の差はともかく,依然として当該特許発明を譲り受けた使用者に「超過利益」はあるというべきである。

 また,ある市場において,当該特許発明のほか,代替技術となり得る複数の技術が存在する場合,技術の優劣等の格別の事情が認められなければ,原則として同市場に占める当該特許発明の割合に応じた「超過利益」が認められるというべきである。ちなみに,当該要証事実の性質等によっては,当該特許発明と代替技術との優劣を的確に判断することは,技術内容や市場原理等に対する理解の難しさもあって,困難を極める認定問題であり,安易に立証責任の所在を定めて,悉無律によって決することは,不公正な結果を招来しやすくし,妥当ではない

 なお,企業は,経済的に自己の利益を最大化することを目指して行動するものであって,各企業が,当該特許発明を自社実施するか,一部又は全部を他社に実施許諾するかは,利益最大化のための手段として,最良の選択か否かの問題にすぎない。

 そうであれば,自社実施の場合であっても,それによる利益の一定部分は「超過利益」に該当するものと解すべきである。

<原審>
事件番号 平成19(ワ)10469
事件名 職務発明対価請求事件
裁判年月日 平成20年09月29日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

 以上検討したところによれば,被告は,本件各特許につき,開放的ライセンスポリシーを採用していたこと,本件各発明の代替技術が存在し,両者の間に作用効果等の面で顕著な差異が存在すると認めることができないこと,クロスライセンス契約の相手方が,本件各発明を実施しているとは認められないこと,被告自身も本件各発明の代替技術を実施していたこと等を総合考慮すると,被告の競業他者が本件各発明を実施していないことが本件各特許の禁止権に基づくものであるという因果関係を認めることはできない。

無効審判請求の対象でない請求項を含む訂正請求がされた場合

2010-09-06 06:42:36 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10389
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1)について
(1) 判断の誤りの有無と審決の結論への影響
 実用新案登録無効審判請求について,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,実用新案登録無効審判手続における実用新案登録の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。

 そうすると,2以上の請求項を対象とする無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない
 そして,この理は,無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立登録要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない

 本件においては,・・・,審決には,上記説示した点に反する判断の誤りがある。

 しかし,・・・,審決は,請求項1,2及び5についての再訂正が認められたとしても,再訂正考案1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとし,再訂正考案1,2及び5についての実用新案登録を無効とする旨判断しており,その点の審決の判断に誤りはないから,上記の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことはない。

特許を受けようとする発明が明確であるか否かを判断する観点

2010-09-05 22:41:57 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10434
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 法36条6項2号の趣旨について
 法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある

 そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。

 上記のとおり,法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関して,「特許を受けようとする発明が明確であること。」を要件としているが,同号の趣旨は,それに尽きるのであって,その他,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない
 この点,発明の詳細な説明の記載については,法36条4項において,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定されていたものであり,同4項の趣旨を受けて定められた経済産業省令(平成14年8月1日経済産業省令第94号による改正前の特許法施行規則24条の2)においては,「特許法第三十六条第四項の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されていたことに照らせば,発明の解決課題やその解決手段,その他当業者において発明の技術上の意義を理解するために必要な事項は,法36条4項への適合性判断において考慮されるものとするのが特許法の趣旨であるものと解される
 また,発明の作用効果についても,発明の詳細な説明の記載要件に係る特許法36条4項について,平成6年法律第116号による改正により,発明の詳細な説明の記載の自由度を担保し,国際的調和を図る観点から,「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」とのみ定められ,発明の作用効果の記載が必ずしも必要な記載とはされなくなったが,同改正前の特許法36条4項においては,「発明の目的,構成及び効果」を記載することが必要とされていた。

 このような特許法の趣旨等を総合すると,法36条6項2号を解釈するに当たって,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係での技術的意味が示されていることを求めることは許されないというべきである。

 仮に,法36条6項2号を解釈するに当たり,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていることを要件とするように解釈するとするならば,法36条4項への適合性の要件を法36条6項2号への適合性の要件として,重複的に要求することになり,同一の事項が複数の特許要件の不適合理由とされることになり,公平を欠いた不当な結果を招来することになる。
 上記観点から,本願各補正発明の法36条6項2号適合性について検討する。

(3) 本願各補正発明の明確性について
ア 本願補正明細書(甲2)の記載
 ・・・
イ 本願補正明細書記載の意義
 ・・・
ウ 判断
 そうすると,「伸張時短縮物品長Ls」又は「収縮時短縮物品長Lc」と関連させつつ,吸収性物品の弾性特性を「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」により特定する本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,当業者において,本願補正明細書(図面を含む。)を参照して理解することにより,その技術的範囲は明確であり,第三者に対して不測の不利益を及ぼすほどに不明確な内容は含んでいない。
 ・・・

請求項の用語の明確性-一般的な意味と技術的な意義

2010-09-05 12:53:20 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10403
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 進歩性に関する判断の誤り(取消事由2)について
 原告は,請求項1における「隙間」という文言は,「物と物との間のすいた所。」(広辞苑第四版)と一義的に明確に理解することができ,これは一見して誤記であるとも認められないから,その解釈に当たって,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する余地はなく,審決が,進歩性に関する判断の前提として,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,請求項1の「隙間」という文言を「隙間における接合部が,バランスリング又はフィルタ部材の陰となって見えなくなるとともに,洗濯物が挟まれることのない大きさに形成されているもの」と認定したことは誤りであると主張する。

 しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。

 すなわち,確かに,「隙間」ということば自体の一般的な意味は,辞書に記載されているとおり明確であるといえる。しかし,本件発明1を記載した請求項1においては,「フィルタ部材が上下の全長で前記胴部の接合部を内側より覆い,その上下の全長より充分に小さな寸法の隙間を前記バランスリング又は底板との間に余す」として,「隙間」について,フィルタ部材との関係で相対的に大きさを示し,バランスリング,底板及びフィルタ部材との関係で位置を示しているから,本件発明1における「隙間」の技術的意義は,特許請求の範囲の記載のみでは一義的に理解することはできず,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければ,その技術的意義を明確に理解することはできない

 そして,明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1の課題・課題の解決手段・作用効果との関係で「隙間」の技術的意義を考慮するならば,「隙間」は,「隙間における接合部が,バランスリング又はフィルタ部材の陰となって見えなくなるとともに,洗濯物が挟まれることのない大きさに形成されているもの」と認められる

 したがって,審決が,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して,請求項1の「隙間」という文言を「隙間における接合部が,バランスリング又はフィルタ部材の陰となって見えなくなるとともに,洗濯物が挟まれることのない大きさに形成されているもの」と認定したことに誤りはない。特許請求の範囲の文言が,特許請求の範囲から一義的に明確でないとしても,明細書の発明の詳細な説明を参酌することにより,その技術的意義を明確に理解することができる場合には,第三者に不測の不利益を被らせることはない