知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲の減縮についての判断事例

2008-02-24 21:06:09 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10439
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『第5 当裁判所の判断
 当裁判所は,以下のとおり,
本件訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記,誤訳の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものではなく,特許法134条の2第1項各号のいずれにも該当しない不適法なものであるから,本件特許の請求項1及び6に係る発明は,本件訂正前のもの(本件発明1及び6)として特定されるべきであり,
②本件発明1及び6は,引用発明及び引用例2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由は理由がないと判断する。

1 取消事由1(本件訂正の訂正要件充足性の判断の誤り)について
 本件訂正中の訂正事項hは,インクタンクのラッチレバーについて,「・・・」との構成を付加した訂正である

 確かに,上記文言を付加したことによって,形式的には,特許請求の範囲を限定することになる。しかし,訂正事項hは,その内容を実質的に検討すると,訂正事項の記載が明確でないのみならず,訂正明細書の「発明の詳細な説明」欄における実施例に関する記載及び図面を参酌してみてもなお,後記「ポップアップ機能」を実現するための構成を明確に示していない
 結局,本件訂正は,訂正事項hが付加され,インクタンクの発明であるにもかかわらず,ホルダとの相互関係ないし協働関係を不明確なまま構成要素として含んだことによって,特許請求の範囲(請求項1)を全体として不明確とするものであるから,特許請求の範囲の減縮に当たるか否か判断することすらできないものであって,結局,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正ということはできず,また,誤記,誤訳の訂正又は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正ということもできない。
その理由は,以下のとおりである。

・・・

(2) 本件訂正の許否についての判断
(ア) 以上認定した事実を前提として,本件訂正の許否について判断する。
 すなわち,まず,訂正事項hにより,インクタンクのラッチレバーについて,
「第2係合部と第2係止部とが係合状態にあるときは内側に弾性変位した状態となる一方,操作部がインクタンク本体側に押されて第2係合部と第2係止部との係合が解除されると,ラッチレバーの復元力で第2係合部と下端部との間の部分がホルダの内壁に当接して装着する際とは逆の方向にインクタンクを回転させ,インクタンクの他側面側が持ち上がった状態となるよう前記下端部から外側上方に向かって傾斜している」
と構成を付加したことが,特許請求の範囲の記載の減縮を目的としたものといえるか否かについて判断する。

 確かに,訂正明細書に記載された実施例には,ラッチレバー32aを内側に押し込み,ラッチ爪32eとラッチ爪係合穴60jとの係合を解除することによって,インクタンクが持ち上がることが記載されている(原告の主張に合わせ「ポップアップ機能」との語を用いる場合がある。)。
 しかし,同記載に係る「ポップアップ機能」は,あくまでも,ホルダの内壁が,その下端部から外側上方に向かって傾斜した側断面形状を有し,ラッチレバー32aの傾斜はホルダの壁よりも大きくなっていること等,ラッチ爪を含むラッチレバーの具体的形状やホルダの内壁の具体的形状等の相互関係に依存するものであって,インクタンクとして規定された構成のみによって,常に実現するというものではなく,インクタンクとホルダとの間に一定の条件が成立することによってはじめて実現するものにすぎない

 以上のとおり,訂正事項hは,記載自体が明確でないのみならず,発明の詳細な説明欄における実施例に関する記載及び図面を参照してみてもなお,ポップアップ機能を実現する事項に係る構成を明確に示したものと解することはできない
 したがって,訂正事項hにおいて,ホルダとの相互関係ないし協働関係を不明確なまま要素として含んだことによって,本件訂正は全体として,インクタンクの発明であるにもかかわらず,特許請求の範囲の記載(請求項1)を不明確にするものとなったから,特許請求の範囲の減縮に当たるか否かを判断することすらできないものであって,結局,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正ということはできない。
 また,本件訂正は,誤記,誤訳の訂正を目的とする訂正,又は明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正ということもできない。

(イ) 本件訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものにも当たらないから,特許法134条の2第1項の要件を満たさないものであり,不適法として許されない。本件訂正を許されないとした審決の判断に誤りはなく,本件特許の請求項1,6に係る発明は,本件訂正前の本件発明1,6として特定されることとなる。』

(所感)
 ポップアップ機能のためのインクタンクの構成要素を訂正によって追加したようである。しかし、インクタンクのポップアップ機能はインクタンクの構成のみによって,常に実現するというものではなく,インクタンクとホルダとの間に一定の条件が成立することによってはじめて実現するものにすぎないものであった。
 その結果、特許請求の範囲は、インクタンクのポップアップ機能に関する構成を、ホルダとの相互関係ないし協働関係を不明確なまま含んだものとなったようだ。

 この訂正のように、協働のため必要な相手方の構成要素に明確に言及することなく自らの協働のための構成を記載すること、はよく見かける請求項における特定方法である。ところが、その部分が問題となった場合には、この事件が示唆するように「不明確」とされる可能性が高いと言えそうだ。

 特許請求の範囲を作成する実務の上で配慮を要すべき点であると感じる。

数値限定の技術的意義の検討事例

2008-02-24 21:05:07 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10506
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官飯村敏明

『3 取消事由2〔特定OH基割合の数値の意義との関係〕について
 原告は,本件特許の特許請求の範囲に記載されている特定OH基割合の数値(0.36以下)には,技術的観点からみて意味がなく,同数値は,キセノンエキシマ光の照射量と共に時間的に変化する特定OH基割合の数値に着目して,単にこれらの数値のうちから,適宜1つの数値を選択しただけにすぎないものであるから,本件発明に困難性はないと主張する

(1) 本件明細書(甲2)の記載
 ・・・

(2) 判断
 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2においては,放出される光の波長について何ら記載がない
 また,発明の詳細な説明欄には,本件発明において,特定OH基の割合を特定するに当たり,透過率をみる波長として図4に示される160 nm に着目することに何らかの意義があることを示した記載を見いだすことはできないし,160 nm 以外の波長について,特定OH基の割合を低下させれば,図4記載のように透過率が大きくなるとする根拠を見いだすこともできない

 そうすると,特定OH基の割合を低下させれば波長160 nm の真空紫外光の透過率が大きくなる関係が理解されるにしても,本件明細書の記載上放出される光の波長について何ら特定されない本件発明において,波長160nm の真空紫外光の透過率が大きくなることによって,格別の技術的意義が生じるものと認めることはできない

イ 仮にXe を放電ガスとして中心波長172nm のエキシマ光を得るエキシマランプについて,本件明細書の図4に示されるような,特定OH基の割合の相違に基づく透過率の相違が生ずるとしても,次のとおり,特定OH基の割合を0.36以下とする点に格別の技術的意義があるとは認められない

 ・・・
 上記表の数値は,甲4の図3及び図7から読み取ったデータに基づくものであるので,数値自体厳密に正確なものとはいえず,また,ガラスの厚みにより要する時間の多少はあるにせよ,上記表によれば,特定OH基を含む石英ガラスにXe 誘電体バリア放電ランプを照射すれば,使用当初の特定OH基の割合が0.36以上であっても,相応の時間(数十時間程度)が経過すると,0.36以下になることは推測に難くないものと認められる。

(ウ) 本件発明1は,放電容器が石英ガラスからなる誘電体バリア放電ランプ,本件発明2は,誘電体バリア放電ランプからの紫外線を取り出す窓部材石英ガラスよりなる照射装置であるから,Xe を放電ガスとしてこれらを使用すれば,いずれにおいても,石英ガラスがXe 誘電体バリア放電ランプからの紫外線を照射されることになる。

 そうすると,誘電体バリア放電ランプの寿命が約1000時間とされる(甲8,29頁右欄「3.3 寿命」の欄)ところ,使用当初の特定OH基の割合が0.36以上か否かにかかわらず,数10時間程度の照射で0.36以下という本件発明1の要件を満たすことになるので,
 本件発明を特定するに当たり,特定OH基の割合を0.36以下と規定したことは,使用につれて変化する特定OH基の割合について,単に,使用中のある時点(寿命と対比して,使用開始から相当短い時点)の数値を特定したにすぎないことになり,真空紫外光の石英ガラス自身による吸収を良好に抑えるとともに紫外線照射によるダメージを軽減することができるといった,本件明細書記載の格別の技術的意義を生ずるような特定とはいえず,単なる設計的事項以上のものということはできない。』

訂正の適否、一部訂正の意志の推認の否定の事例

2008-02-24 21:04:12 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10242
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(理由(1)に係る認定判断の誤り)について
(1) 誤記訂正目的の有無
原告は,訂正事項gは誤記の訂正を目的とするものであり,理由(1)に係る審決の認定判断は誤りであると主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。

ア 訂正前明細書(甲9)の記載
・・・
イ 訂正前明細書における「通気撥水性」の意義
(ア) ・・・
(イ) ・・・
(ウ) 以上のとおりであるから,本件発明における「透液性」のフラップ部材シートは,「通気撥水性」のシートより高度の「透液性」があり,「通気撥水性」のシートを用いた場合よりも蒸れ防止効果が大きいものと解するのが合理的であり,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」との記載は,これを裏付けるものであって,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」との記載のままでは,本件発明の作用効果の説明として不合理であるということはない

ウ 出願の経緯,出願前の技術等
(ア) 本件当初明細書では,「通気撥水性」という語は用いられていなかったが,本件拒絶理由通知書(甲14)を受けて,原告は,次のように補正した。

 すなわち,本件手続補正書により,発明の詳細な説明(段落【0016】)の「・・・。」との記載を,「・・・。」と補正したことが認められる(弁論の全趣旨)。
 また,上記補正の契機となった本件拒絶理由通知書(甲14)の引用に係る引用例3(甲5)には,「股下シート4としては撥水性および通気性を有するものであれば何でも良い」(明細書5頁3行~4行)との記載がある。

(イ) そうすると,上記補正は,本件発明1における「フラップ部」が,先行例1における「不透液性」シートのみでなく,より透液性が高いと解される「通気撥水性」のシートと比較して,更に高い「透液性」を示す「通気透液性」のシートであることを表現したものであって,本件発明1が,撥水性及び通気性を有するシートと比較して,蒸れの防止効果が優れていることを強調する目的でされたものと理解される。
 すなわち,上記補正では,引用例3における「撥水性および通気性を有する」シートを比較対象として意識したために,「通気撥水性」のシートという語を選択したのであって,「通気防水性」と記載すべきところを「通気撥水性」と誤記したものと解することはできない。

(ウ) 引用例3(甲5)に「股下シート4としては撥水性および通気性を有するものであれば何でも良い」(明細書5頁3行~4行)と記載されているように,本件特許の出願前から「通気性と撥水性を有するシート」として種々のものが知られていたことが認められる。
 したがって,訂正前明細書に接した当業者は,同明細書の段落【0015】における「通気撥水性のシート」について,「通気性と撥水性を有するシート」を意味するものと理解するというべきであり,これを「通気透水性のシート」の誤記と当然に認識するということはできない

エ 小括
 以上を総合すれば,訂正前明細書【0015】における「通気撥水性」との記載は,「通気防水性」の誤記ということはできない。また,その他,訂正事項gは特許法126条1項に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められない。これと同旨の理由(1)に係る審決の認定判断に誤りはない。』


『2 結論
(1) 訂正事項gと本件訂正全体の許否との関係について
ア 前記1(2)ウのとおり,訂正前明細書の段落【0015】における「通気撥水性」のシートを「通気防水性」のシートと訂正した場合,本件発明におけるフラップ部は,「通気撥水性」シートよりも「透液性」の程度が高いものに限られず,「通気防水性」のシートよりも「透液性」の程度が高ければよいと解釈する余地を生じることになる。
 したがって,本件訂正は,訂正事項gを含むことによって,訂正発明1及び2のいずれの関係においても,本件発明の技術的範囲を拡張又は変更するとの解釈の成立する余地の生じる訂正というべきであるから,訂正事項gは,単なる誤記の訂正にとどまる形式的なものではなく,特許請求の範囲に実質的影響を及ぼすものというべきである。

イ ところで,審判請求書(甲10の1)には,請求の趣旨として,「特許第3009482号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求める,との審決を求める。」と記載され,複数の訂正箇所のうちの一部の訂正事項が認められなかった場合,二次的に残余の訂正のみを請求するとの格別の意思を認める合理的な理由もうかがえない。また,訂正事項gが,一部の請求項についてのみに関係を有する事項であると解することもできず,むしろすべての請求項に関係する事項と解するのが合理的である。

 そして,特許庁が,審判手続において発した平成19年3月16日付け訂正拒絶理由通知書(甲12)には,訂正事項gは,特許法126条1項に掲げるいずれの事項を目的とするものとも認められないから,本件訂正は同号の規定に適合しておらず,訂正は許されない旨が記載されていたにもかかわらず,原告が提出した平成19年4月23日付け意見書(甲13)には,訂正事項gが許されないとしても,二次的に,その余の訂正事項に係る訂正については許されるべきであるとの審決を求めることをうかがわせるに足りる記載は存在せず,また,審判請求書が補正されたことも認められない(弁論の全趣旨)。

 本件における上記の経緯に照らすならば,本件では,訂正事項gに係る訂正が許されないものと判断された場合において,その余の訂正事項について,一部のみの訂正に係る審判を求めているとの合理的な意思を推認することはできない

ウ そうすると,本件において,審決が,訂正事項gについての訂正が許されない以上,本件訂正に係る審判請求が全体として成り立たないと判断した点に違法はない。』


(参考)
http://ip-hanrei.sblo.jp/article/9176988.html

口述による自伝の子供向け書籍の発行の事例

2008-02-24 21:02:44 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)15359
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成20年02月15日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

『・・・
(2) 上記認定事実によれば,原告は,本件書籍の文章表現について,単に被告Bの口述表現を書き起こすだけといった,被告Bの補助者としての地位にとどまるものではなく,自らの創意を発揮して創作を行ったものと認められる
 また,被告Bは,自らの体験,思想及び心情等を詳細に原告に対して口述し,被告Bの口述を基に原告が執筆した各原稿について,これを確認し,加筆や削除を含め表現の変更を指摘することを繰り返したのであるから,被告Bも,本件書籍の文章表現の創作に従事したものと認められる。
 そうすると,本件書籍の文章表現は,原告及び被告Bが共同で行ったものであり,原告と被告Bとの寄与を分離して個別的に利用することができないものと認めるのが相当であるから,本件書籍は,原告と被告Bとの共同著作物(著作権法2条1項12号)に当たるというべきである。』

『2 争点2(本件書籍に関する原告の著作権の持分割合)について
 共同著作物の持分割合については,共有者の意思表示によって定まり,共有者の意思が不明な場合には,各共有者の持分は相等しいものと推定される(民法264条,250条参照)。

 本件書籍については,前記1(1)認定のとおり,印税の配分率について,本件書籍が刊行される直前に,出版社である草思社のDから,原告と被告Bに対して,本件書籍の制作過程における作業量を考慮して,本件書籍の印税(10パーセント)を,原告に6パーセント,被告Bに4パーセント配分してはどうかという提案があり,これを受け,原告と被告Bとの間で,最終的に,原告を6.5パーセントとし,被告Bを3.5パーセントとする旨の合意が成立している

 上記事実に照らせば,本件書籍の著作権の持分割合については,共有者である原告と被告Bとの間で,原告を65パーセントとし,被告Bを35パーセントとする合意があったものと認めるのが相当である。

 なお,本件全証拠によっても,被告Bと原告と6.5パーセントとし,被告Bを3.5パーセントとする旨の合意が成立している。
 上記事実に照らせば,本件書籍の著作権の持分割合については,共有者である原告と被告Bとの間で,原告を65パーセントとし,被告Bを35パーセントとする合意があったものと認めるのが相当である。』

『3 争点3(被告らによる著作権侵害の有無)について
(1) 各本件文章と各被告文章とを対比した結果は,別紙「本件書籍と被告書籍との文章対比表」記載のとおりであり,これらの部分についての被告書籍における表現は,本件書籍における表現をほぼそのままに引き写したか,本件書籍における表現を平易な言葉を用いて修正したり,一部を削って簡略化したり,並べ替えたりしたものにすぎないといえる

 したがって,各被告文章は,各本件文章の内容及び形式を覚知させるに足りるものか,少なくとも,各本件文章の表現形式上の本質的な特徴を直接感得することができるものであるということができる。

 そして,被告書籍も本件書籍も共に,被告Bの体験や心情等をつづった自叙伝であることに加え,証拠(甲2,3,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,被告書籍の本文(94頁)や末尾に掲載された被告Bのプロフィールの中で,被告Bの著書として本件書籍が紹介されていること,被告書籍の執筆に関与したCのブログ中で,被告書籍が本件書籍の子ども向け書籍である旨言及されていることなどを総合すれば,各被告文章は各本件文章に依拠して作成されたものであると認められる。
 そうすると,各被告文章は,各本件文章を複製ないし翻案したものであるというべきである(なお,各被告文章が各本件文章の翻案に当たることについて,被告らは争っていない。)。

(2) (1)で述べたところによれば,原告の同意なく,各本件文章を複製ないし翻案した各被告文章を含む被告書籍を制作,発行することは,本件書籍に関する原告の複製権(著作権法21条),翻案権(著作権法27条)又は譲渡権(著作権法26条の2)を侵害するものといえる。
なお,このことは,本件書籍の共同著作者である被告Bによってされた行為であっても同様である(著作権法65条2項)。

(3) 被告Bは,前記1(1)で認定した本件書籍の創作の経緯を認識していたものと認められるから,原告の同意なく被告書籍を制作したことにつき,少なくとも過失が認められる。
 また,前記1(1)認定のとおり,本件書籍の末尾奥付には,「著者」として被告Bの氏名が,「構成」として原告の氏名が,それぞれ記載されており,本件書籍の末尾には,「2003 c B,A」と記載されていたことに照らすと,被告汐文社には,原告の同意なく被告書籍を発行したことにつき,少なくとも過失が認められる
 そして,弁論の全趣旨によれば,被告汐文社から被告Bの自叙伝を発行するとの企画の下,被告Bにおいて被告書籍を制作し,被告汐文社においてこれを発行したものと認められるから,被告らは,被告書籍の制作,発行による本件書籍に関する原告の著作権の侵害につき,共同不法行為責任を負うというべきである。』

『4 争点4(被告らによる著作者人格権の侵害の有無)について
 被告らは,原告が著作権持分を有する本件書籍について,前記3で述べたとおり,原告に無断で改変を加えて二次的に利用した被告書籍を制作し,これを発行したものであり,しかも,被告書籍に,原告の氏名を表示しなかったのであるから(甲2,乙5),本件書籍に関する原告の同一性保持権(著作権法20条)及び氏名表示権(著作権法19条)を侵害したものといえる。
 また,前記3(3)で述べたところによれば,被告らには,上記侵害行為につき,少なくとも過失が認められるから,被告らは,被告書籍の制作,発行による本件書籍に関する原告の著作者人格権の侵害につき,共同不法行為責任を負う。』

『7 争点7(謝罪広告の必要性)について
(1) 原告は,本件書籍に関する著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害されたとして,被告らに対し,謝罪広告の掲載を請求する
 著作者は,故意又は過失によりその著作者人格権を侵害した者に対し,著作者の名誉若しくは声望を回復するために,適当な措置を請求することができ(著作権法115条),「適当な措置」には謝罪広告の掲載も含まれる
 同条にいう「名誉若しくは声望」とは,著作者がその品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価,すなわち社会的名誉声望を指すものであって,人が自分自身の人格的価値について有する主観的な評価,すなわち名誉感情を含むものではないと解される

(2) 本件についてみると,前記1(1)認定のとおり,そもそも,本件書籍は,被告Bの体験や心情等をつづった自叙伝であり,本件書籍の表紙には,被告Bの写真,本件書籍の書名「運命の顔」との表記と共に,被告Bの氏名のみが記載され,本件書籍の背表紙にも,被告Bの氏名のみが記載されており,原告の氏名は,本件書籍の末尾奥付に,「著者」として被告Bの氏名が記載されるとともに,「構成」として記載されているにとどまること,被告書籍も,本件書籍と同様に,被告Bの体験や心情等をつづった自叙伝であること,被告書籍の内容,被告書籍の販売部数が7500部とそう多くはないこと等に照らし,被告書籍が発行されたことによって,原告に対する社会的な名誉が毀損されたとまで認めることはできないから,謝罪広告の掲載を求める請求は理由がない。』

認められた訂正の確定時点について

2008-02-16 21:12:41 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10455
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『4 本件訂正発明46について
(1) 前記第2,1記載の当事者間に争いのない事実及び証拠(甲21の1,28,乙5)を総合すると,原告は,無効2003-35518号事件において,平成16年7月21日,請求項46に係る発明について・・・と訂正する内容の訂正請求をしたところ,特許庁は,平成17年6月24日,請求項46に係る発明についての訂正については,誤記の訂正を目的としていることを理由にこれを認めるとともに,訂正後の請求項40及び43に記載された発明についての特許を無効にするとの本件無効審決をし,その後原告は本件無効審決について審決取消訴訟を提起したが,本件訴訟係属中に本件無効審決が確定したことが認められる。

 他方,本件訂正審判請求において,原告は,本件特許の請求項38,40及び46に関して訂正審判を請求しているところ・・・,審判合議体は,本件特許の請求項46に係る訂正について,「誤記の訂正を目的とするものであって,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり,かつ実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。」と判断し,さらに本件訂正発明46の独立特許要件の有無を検討し,・・・として独立特許要件を肯定しながら,本件訂正発明38,40が独立特許要件を欠くことを理由に,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたことが認められる。

(2)ア ところで,特許法は,昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制を導入したものであるところ,同改正後の特許法の下においては,2以上の請求項に係る特許については請求項ごとに無効審判請求をすることができるものとされていること(特許法123条1項柱書)に照らせば,2以上の請求項に係る特許無効審判の請求に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに取消訴訟の対象となり,各請求項に係る審決部分ごとに確定するというべきである。

 そして,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされた請求項について訂正請求がされ,「訂正を認める」とした上で,審判請求を不成立とする審決がされた場合には,訂正請求に係る請求項は,審決のうち当該請求項について審判請求不成立とした部分が確定した時に,当該訂正された内容のものとして確定するというべきである(当庁平成19年6月20日決定(同年(行ケ)第10081号),同年7月23日決定(同年(行ケ)第10099号),同年9月12日判決(同18年(行ケ)第10421号)参照)。

 このように,改善多項制導入後の特許法の下においては,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,請求項ごとに生ずるものであり,その確定時期も請求項ごとに異なり得るものである。

 これを言い換えれば,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続においてされた審決に対する取消訴訟においては,審決の取消しを求める当事者(原告)は,当該訴訟において取消しの対象とされている請求項に係る審決部分に関しては,審決が当該請求項について訂正請求を認めたこと,あるいはこれを認めなかったことを含めて,その当否を争うことが許されるが,当該訴訟において取消しの対象とされていない請求項について審決が訂正請求を認めたこと,あるいはこれを認めなかったことを争うことは許されないということである。

 そうすると,そもそも,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,特許権者から2以上の請求項について訂正請求がされた場合には,審判合議体は,原則として,各請求項ごとに訂正請求の許否を判断すべきものであり,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことを理由として,その余の請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することは,改善多項制の下における特許法の解釈としては,特段の事情のない限り,許されないというべきである。

イ 特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされていない請求項について訂正請求がされ(特許法134条の2第5項後段参照),当該訂正請求につき「訂正を認める」との審決がされた場合は,審決のうち,当該請求項について「訂正を認める」とした部分は,無効審判請求の双方当事者の提起する取消訴訟の対象となるものではないから,審決の送達により効力を生じ,当該請求項は,審決送達時に,当該訂正された内容のものとして確定すると解するのが相当である。

 特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においては,審判合議体は,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が独立特許要件を欠く等の理由により許されないことを理由として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することは,特段の事情のない限り,特許法上許されないというべきである。また,この場合において,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求が許されないことを理由として,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求の許否に対する判断を行わずに,訂正請求を一体として許されないと判断することも,特段の事情のない限り,特許法上許されないものである。

(3) そうすると,本件特許の請求項46は,同請求項を対象とする訂正請求を認めた本件無効審決の送達時において,当該訂正された内容のものとして確定したというべきである
 そして,前記のとおり,当該訂正請求による訂正後の請求項46の内容は本件訂正発明46と同一であるから,本件訂正審判請求のうち請求項46に係る部分は,本件特許の請求項46について,本件無効審決により既に訂正されて確定した内容と同一内容に訂正を求める内容であって,無意味なものである(なお,訂正審判請求書(甲21の1)及び訂正審判請求書手続補正書(甲21の2)の記載に照らし,本件訂正審判請求において,原告が本件特許の請求項46についても訂正を求めていると解さざるを得ないことは,既に前記(1)において説示したとおりである。)。

(4) 本件審決は,本件無効審決に対して原告が審決取消訴訟を提起したことにより,本件特許に係る請求項46の訂正も確定していないとの理解に基づき,請求項46の訂正の許否について審理の対象としているが,これは上記の理解と異なるものであり,是認することができない

 すなわち,本件無効審決のうち請求項46について「訂正を認める」とした部分は本件無効審決の送達と同時に確定しているのであるから,本件訂正審判請求の審理を担当する審判合議体としては,こうした理解に基づいて,請求人(原告)に対し釈明権を行使して,訂正審判請求書の補正により請求項46の訂正部分を削除することを求め,請求人(原告)においてこれに応じない場合には,本件無効審判請求中請求項46に関する部分については,不適法なものとして却下すべきであったものである(特許法135条)。』

発明者の認定事例-着想者のみが発明者か

2008-02-16 21:12:06 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10369
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『第6 当裁判所の判断
・・・
2 取消事由1(本件特許発明が共同発明であることの看過)について
(1) 特許法2条は,「『発明』とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」と規定しており,同法36条4項1号は,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと規定していることからすると,同法2条にいう「技術的思想の創作」をしたといい得るためには,当該発明が当業者にとって実施可能なものとなっていなければならないものであり,原則として,単なる着想にとどまらず,試作,テストを重ねて課題を解決し,技術として具体化されていなければならないと解される。

 ただし,例外的に,具体化が当業者にとって自明といえる場合,例えば,公知技術を組み合わせたような場合に(それが発明として進歩性を有する場合に限られることはいうまでもない。),着想をもって「技術的思想の創作」に当たることもあり得ないことではない。

(2) 本件特許発明のような電子機器の場合,一般に,公知技術を組み合わせる段階で,既に,工夫が必要となることが多く,具体化が当業者にとって自明といえる可能性はそう多くはないと思われるが,それはともかく,本件特許発明が上記の例外的な場合に当たるか否かについて検討する。

ア 前記第2の2の本件特許発明1に係る特許請求の範囲の後半には,・・・
イ ところで,本件特許発明1に係る特許請求の範囲には「ソフトウェア」という言葉の記載はない。しかし,電子的に接続されている「距離測定機(1)」,「GPS経緯度測定機(2)」,「時計(3)」,「速度計(4)」,「番号入力装置(5)」,「コンピュータ(6)」,「プリンタ(7)」を制御するためにソフトウェアが存在することは明らかであり,・・・

ウ 以上によれば,本件特許発明1の「違反証拠作成装置(S)」が,・・・から構成されているところ,これらの構成からなる装置に対して,取締りパトロールカー(A)から,・・・という機能を果たさせているのは,ソフトウェアであって,そのために試作,テストを積み重ねる必要があるのであって,具体化が当業者にとって自明なものとはいえない

エ 念のため,本件明細書について検討すると,発明の詳細な説明には,次の記載がある。
(ア) 従来の技術と発明が解決しようとする課題
・・・
(イ) 実施例
・・・
(ウ) 発明の効果
・・・
オ 上記記載によれば,従来の技術と発明が解決しようとする課題が示され,その実施例があり,奏する効果の記載もあるのであるから,出願人が,特許請求の範囲記載の発明を,実際に製作し,テストして課題を解決し,所定の機能,効果を果たすことを確認したことが明らかである
 したがって,本件特許発明は,本件明細書の記載を検討する限り,試作,テストの積み重ねを経て見いだされた技術的思想であると理解される。

・・・


(5) 本件特許発明に係る共同開発について
ア 審決は,前記第2の3(3)イ(イ)のとおり,「本件特許発明の構成要件にソフトウェアが含まれていることは確かである。」と認定しつつ,「これらソフトウェアが,その構想の段階から請求人において開発されたという証明は,請求人側においてなされておらず」,「請求人の開発したソフトウェアが本件特許発明の必須の構成要件であるとも必ずしもいえない」と認定し,【CC】が本件特許発明に係る開発行為に「創作」的な関与をしたことを否定しているので,本件特許発明に係る車間距離測定装置の開発の経過及びその前後の事情について検討する。

イ証拠(甲1の2,甲2~4,6~9,21,25~30,33,40~42,
44,51,乙9,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
・・・

ウ 上記認定の事実によれば,【AA】の発案に係り,これに【CC】・【BB】が協力して製作したコンクール用試作機は,既存の距離測定機,GPS,データ連結装置,モバイルパソコン,プリンタ等から構成されるものであり,開発の中心は各機器の接続関連のハード面と全体の機能を制御するソフト面の開発にあったこと,平成10年9月4日の時点で,甲3資料に記載されているとおり理論上のモデルは完成しており,コンクール用試作機はGPSの組込み部分を除いて基本的に完成しており,しかも,その部分は発注済みであり,9月27日ころに最終的に完成したことが認められる。

 そうすると,本件特許発明1に係る試作は,平成10年9月4日ころの時点で基本的に完了していたものというべきである。なお,本件特許発明2は,CCDカメラ等を組み込んでいる点で本件特許発明1と異なるが,それ以外の点では,本件特許発明1と同様であり,本件特許発明1又は2を包含する本件特許発明3~9も同様である。

 前記のとおり,本件特許発明が「技術的思想の創作」といい得るためには,単なる着想にとどまらず,試作あるいはテストを積み重ねて課題を解決し,着想を具体化していなければならないものであるところ,上記のとおり,【CC】・【BB】・【AA】が協力して,6月から9月までの約3か月間に,試作機の製作,その改良を重ね,テストを行って,本件出願日前の9月4日までに試作機を基本的に完成させているのであるから,本件特許発明1に係る創作に関与したのは,【CC】・【BB】・【AA】の3名である。』

違法複製に係る損害賠償請求の時効と損害の立証

2008-02-10 11:51:15 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)16218
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 設樂隆一

8 争点9(消滅時効の成否)について
(1) 原告Aは,本件土地宝典の著作権の譲渡を受ける以前に,Cから,法務局や役所等で勝手に土地宝典のコピーを取らせるために,土地宝典の販売がうまくいかず,改訂版の発行すらできない状況になってしまったとの趣旨のことを聞かされていた(甲22)。また,原告らは,平成12年6月30日に本件土地宝典の一部を買い取って以降,複数の不動産鑑定士に本件土地宝典の買い取りを打診したものの,それらの者がいずれも,土地宝典は法務局でコピーを取得することが可能なため,一般需要者へ販売することは極めて困難である,との理由で買い取りを拒絶したため,原告らにおいて,順次本件土地宝典を買い取ることにしたものである(甲22)。
さらに,原告らは,本件土地宝典の著作権の譲渡を受ける際,その各譲渡契約書に「甲の権利として認められる違法コピー等に対する損害賠償請求権等の求償権は本日以降乙に無償にて移転すると明記している(甲7の1ないし甲7の10)。

そうすると,原告らは,遅くともかかる譲渡契約のうち最終のものが締結された平成13年10月31日までには,各法務局において本件土地宝典が貸し出され,それが無断で複製されていたとの事実,及び,これにより既に損害が発生し,今後も損害が発生し得べきことを知っていたものと認められる

 したがって,原告らが本件土地宝典の著作権の譲渡を受けた日から本訴提起日の3年前である平成14年8月7日までの間の違法複製に係る損害賠償請求権については,原告らは損害賠償請求権の発生と同時に,加害者たる被告に対する賠償請求が可能な程度に損害の発生を知ったものというべきであり,これらについては本件訴訟提起前に消滅時効が完成したものと認められる。そして,被告がかかる消滅時効を援用したことは当裁判所に顕著な事実であるから,被告の消滅時効の抗弁は理由がある。

(2) これに対して,原告らは,被害者たる原告らが損害の発生を現実に認識したのは,本件訴訟における被告の答弁の時であり,早くてもいくつかの法務局を調査して内容証明郵便を発送した平成16年9月30日であるから,平成17年8月8日の本訴提起により消滅時効は中断した旨主張する。
 しかしながら,本件について,個々の法務局における具体的な違法複製行為の認識が必要であると考えると,本件訴訟を提起した後に消滅時効の起算点が到来することになるが,このように権利行使したにもかかわらず消滅時効の起算点が到来していないという考え方は,権利を行使することができる時から消滅時効が進行する旨を定める民法166条1項と相容れないものというほかなく,採用することができない。

 また,既に述べた本件土地宝典の著作権の各譲渡契約書の記載によれば,原告らは,本件土地宝典の著作権の譲渡時において,既に法務局における本件土地宝典の違法複製により現に損害が発生し,今後も損害が発生し得べきことを知っていたものと認められるから,いくつかの法務局を調査して内容証明郵便を発送した平成16年9月30日が消滅時効の起算点になるとの原告らの主張も採用することはできない

9 争点10(不当利得の成否)について
 原告らは,被告が,法務局内のコインコピー機における不特定多数の一般人による本件土地宝典の無断複製行為について,その侵害主体であることを前提として,法律上の原因なくして,本来支払われるべき本件土地宝典の使用料を免れてこれと同額の利益を取得した,と選択的に主張する。

本件において,本件土地宝典を違法に複製した共同侵害主体と評価し得る者が被告と民事法務協会であることは前記認定のとおりである。したがって,被告は,民事法務協会と共に,法務局内において不特定多数の一般人により行われた本件土地宝典の複製行為により本来支払われるべき使用料の支払を免れてこれと同額の利益を得たものというべきであり,原告らは,これにより損失を被ったものである。よって,原告らの不当利得の請求は理由があるので,消滅時効が成立する期間内の侵害行為について,不当利得の請求が認められる

10 争点4(損害額)及び損失額について
(1) 原告らは,被告が法務局備付けの本件土地宝典を利用者に貸し出して,法務局内に設置のコインコピー機により利用者をして無断複製行為をなさしめたことにより,本件土地宝典の販売部数が減少し,逸失販売利益の損害を被ったと主張する。

しかし,本件に顕れたすべての証拠を精査検討しても,本件土地宝典について,そもそも不特定多数の者による本件土地宝典の違法複製行為が各法務局においてどの程度の頻度でどの程度なされたかが不明であり,また,違法複製行為を放置したことにより,本件土地宝典の販売部数の減少が生じ得るとしても,複製行為をした者のうち,どの範囲の者が複製行為をすることができなければ本件土地宝典を購入したかについても全く不明である。
したがって,本件については,被告が違法複製行為を放置したことにより,原告らに本件土地宝典の逸失利益の損害が生じたとしても,その損害の額を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ない。

(2) しかし,原告らには,本件土地宝典の不特定多数の一般人による無断複製行為により,使用料相当額の損害が生じており,原告らは,民事法務協会と共にその共同侵害主体である被告に対し,同額の損害賠償を請求することができる民法709条,719条,著作権法114条3項)。
 ただし,本件においては,上記のとおり,違法複製行為がなされた回数を特定することが極めて困難であるから,原告らに損害が生じたことは認められるものの,「損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるとき」(著作権法114条の5に当たる
・・・
 また,原告らは,消滅時効が認められる期間については,使用料相当額の不当利得の主張をしており,この使用料相当額も,本件土地宝典各1冊につき1年当たり平均1万円として,120冊全体で1年当たり120万円と認めるのが相当である(著作権法114条の5の類推適用。』

損害賠償請求権を譲り受けた数年後に権利を行使したのは信義則に反し権利の濫用であるし権利の濫用であるか

2008-02-10 11:50:23 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)16218
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 設樂隆一

『7 争点8(信義則違反の有無)について
 被告は,原告らが,本件土地宝典の著作権を損害賠償請求権と共に譲り受け,その数年後に権利を行使したのは,信義則に反し,権利の濫用である,と主張する。
 しかし,本件に顕れたすべての証拠を精査検討しても,原告らの損害賠償請求権の行使が信義則に反し,権利の濫用に当たると認めるに足りる証拠はなく,被告の主張は失当である。

 被告は,Cが法務局における第三者による無断複製行為を黙認していたと主張する。しかし,そのような事実を認めることができないことは既に述べたとおりである。
 また,権利者が権利を行使するかしないか,行使するとしてもそれをいつ行使するのかは権利者の自由であり,権利者が一定期間権利を行使しなかったことは消滅時効制度によって権利者に不利益となるのが原則であり,権利の濫用を基礎付ける有力な事情の一つとして評価されるのは例外的な場合に限られるというべきである。

 本件においても,原告らは,後に述べるとおり,一定期間権利を行使しなかったことにより,消滅時効制度により不利益を被っているのであり,それ以上に,これを権利の濫用を基礎付ける有力な事情の一つとして評価して,自ら不法行為を継続した被告を救済すべき事情は見当たらない。』

著作権法38条4項の趣旨は法務局窓口での貸出に及ぶか

2008-02-10 11:42:04 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)16218
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 設樂隆一

『5 争点6(著作権法38条4項の趣旨は法務局窓口での本件貸出に及ぶか)について被告は,著作権法は,38条4項に基づいて書籍等を借り受けた者が,私的使用以外の目的で複製した場合についても,著作物の貸出しが著作権を侵害することを予定していないと解するのが相当である,と主張する。

 しかし,著作権法38条4項は,昭和59年の法改正により貸与権(26条の2)が創設されたのに伴って,改正前から行われていた図書館,視聴覚ライブラリー等の社会教育施設やその他の公共施設における図書や視聴覚資料の貸出を,地域住民の生涯学習の振興等の観点から,改正後も円滑に行うことができるようにする目的で,貸与権を制限することにしたものである。

 このように,著作権法38条4項は,貸与権との関係を規定したものにすぎず,複製権との関係を何ら規定したものではないのであって,ましてや,貸出を受けた者において違法複製が予見できるような場合にまで,貸出者に違法複製行為に関して一切の責任を免れさせる旨を規定しているとは到底解することはできない。被告の主張は採用することができない。

 また,本件土地宝典については,その利用者である不動産関係業者や金融機関の関係者が業務上利用する目的で,貸出を受けた上でこれを複写することが多いことは明らかであるから,これらの行為が著作権法30条1項の私的使用目的での複製に該当しないことも自明である。この点に関する被告の主張も採用することができない。』

コピー機設置場所の提供が著作権を侵害する不法行為に該当するか

2008-02-10 11:41:23 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)16218
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 設樂隆一

『3 争点3(被告の行為(本件土地法典の貸出及び民事法務協会に対する法務局内におけるコピー機設置場所の提供)が本件土地宝典の著作権を侵害する不法行為に該当するか)について
(1) 証拠(甲30,甲33,甲34,甲35,乙20,乙21)によれば,次の事実が認められる。

ア 本件土地宝典の管理状況
 法務局にある本件土地宝典は,法務局職員により管理されており,一般人が本件土地宝典の閲覧及び複写を申し込むと,法務局職員が本件土地宝典を申込者に貸与する。ただし,貸与された本件土地宝典の閲覧は,改ざん防止のため,法務局内においてのみ許されており,これを外部に持ち出すことはできないため,その複写をする場合は,法務局内に設置されたコインコピー機によってのみ複写することになる。

イ 法務局内のコインコピー機の管理状況
・・・

ウ 民事法務協会と被告の関係
 民事法務協会は,法務省所管の財団法人であって,その事業の一つとして,法務局において公図等を閲覧する人の利便等を図るため,同所にコインコピー機を設置し,その管理運営に当たっているものである。
 すなわち,民事法務協会は,法務局の貸与する図面等の複写について独占的な事業を営んでいるものである。そのため,コインコピー機の利用料金は市中にあるコインコピー機よりやや高額に設定されている。なお,被告は,コインコピー機の設置に関し,国有財産法18条3項及び19条に基づいて,法務局の建物の一部の使用を許諾し,民事法務協会から,国有財産の使用料を徴収している。

(2) 上記認定事実によれば,本件土地宝典は,広範な地域の公図及び不動産登記簿等の情報を一覧することができるため,不動産関係業者等が郊外地や山林地などの物件調査をするにあたって重用されており,また,各種申請における添付資料とされていることなどから,遅くとも原告らが本件土地宝典の著作権を譲り受ける以前から,現在に至るまで,不動産関係業者等をはじめとする不特定多数の第三者が,上記のような業務上の利用目的をもって,各法務局に備え置かれた本件土地宝典の貸出を受けて,各法務局内に設置されたコインコピー機において複製行為をなしてきたことは容易に推認し得るところである(甲14)。

 一方,このような公的申請の添付資料や物件調査資料としても使われるという本件土地宝典の性質上,貸出を受けた第三者がこれを謄写することは十分想定されるのみならず,閲覧複写書類の改ざん防止の見地から,コインコピー機は法務局が直接管理監督している場所に設置されているものであるから,各法務局は,本件土地宝典が貸し出された後に複写されているという事情については,十分に把握していたはずである。また,民事法務協会がコインコピー機を設置しているとはいえ,同協会は法務省所管の財団法人であって,被告が同協会に対し法務局内のコインコピー機設置場所の使用許可を与えており,かつ,実際にコインコピー機設置場所の管理監督をしているのは上記のとおり,各法務局である。

 よって,被告(各法務局)は,本件土地宝典の貸出を受けた者がこれを複写しているという事情を十分に把握していたのであるから,この複製行為を禁止する措置をとるべき注意義務があったのに禁止措置をとらず,漫然と本件土地宝典の貸出行為及び不特定多数の一般人による複製行為を継続させたことにおいて,本件土地宝典の無断複製行為を惹起させ,継続せしめた責任があるといわざるを得ない。
 また,民事法務協会は,コインコピー機の直接の管理者であり,不特定多数の一般人をして本件土地宝典の無断複製行為をさせ,これにより利益を得ていたのであるから,本件土地宝典の複製行為については,その侵害主体であるとみるべきである。そして,被告(各法務局)が本件土地宝典の複製を禁止しなかった不作為についても,被告が民事法務協会に対しコインコピー機の設置許可を与え,同設置場所の使用料を取得し,同コピー機が法務局が貸し出す図面の複写にのみ使用されるものであること,法務局がコインコピー機の設置場所についても直接管理監督をしていることを考慮すると,各法務局がコインコピー機の使用に関し,民事法務協会と共に直接これを管理監督していたものと認められ,各法務局についても,不特定多数の一般人による本件土地宝典の複製行為について,単なる幇助的な立場にあるとみるよりは,民事法務協会と共に共同正犯的な立場にあるとみるのが相当である。

 以上によれば,民事法務協会と被告とは,本件土地宝典の不特定多数の一般人による上記複製行為について,共同侵害主体であると認めるのが相当である。

 なお,被告は,本件土地宝典の複製行為により直接の利益を得ているわけではない。しかし,被告は,本件土地宝典の複製行為により利益を得ている民事法務協会からコインコピー機の設置使用料を取得しているものである。また,本件土地宝典の複製行為については,民事法務協会と被告とが共同侵害主体であると評価すべきことは前記のとおりであるから,共同侵害主体と評価し得る者のいずれかが複製行為により利益を得ているだけで足りると解すべきである。

 被告は,本件のように,被告の行為による権利侵害の蓋然性は高いとはいえず,被告には結果発生の予見可能性すらない上,現実に権利侵害が発生している立証すらない場合については,被告の行為を著作権侵害行為と評価できない,と主張する。

 しかし,本件土地宝典の貸出とコインコピー機の設置により,不特定多数の一般人による本件土地宝典の違法複製行為が発生する蓋然性が高く,実際に複製行為がなされていたこと,及び,被告がその結果を十分に予見し,かつ,認識し得たことは前記認定のとおりである。被告の上記主張は採用し得ない。』

土地宝典の著作物性

2008-02-10 11:40:45 | Weblog
事件番号 平成17(ワ)16218
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 設樂隆一


『1 争点1(本件土地宝典の著作物性)について
(1) 地図の著作物性について
 本件土地宝典は,地図の一種であると解されるので,まず,地図の著作物性について検討する。

 一般に,地図は,地形や土地の利用状況等の地球上の現象を所定の記号によって,客観的に表現するものであるから,個性的表現の余地が少なく,文学,音楽,造形美術上の著作に比して,著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例である。
 しかし,地図において記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法に関しては,地図作成者の個性,学識,経験等が重要な役割を果たし得るものであるから,なおそこに創作性が表われ得るものということができる。そこで,地図の著作物性は,記載すべき情報の取捨選択及びその表示の方法を総合して,判断すべきものである。

(2) 本件土地宝典の著作物性について
本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資するという目的に沿って作成されるものであり,次のような特徴を備えている。
ア 本件土地宝典は,
・・・

イ本件土地宝典においては,素材とされた複数の公図が単に接合されてい
るにとどまらず,・・・

ウ 以上によれば,本件土地宝典は,民間の不動産取引の物件調査に資するという目的に従って,地域の特徴に応じて複数の公図を選択して接合し,広範囲の地図として一覧性を高め,接合の際に,公図上の誤情報について必要な補正を行って工夫を凝らし,また,記載すべき公図情報の取捨選択が行われ,現況に合わせて,公図上は単に分筆された土地として表示されている複数の土地をそれぞれ道路,水路,線路等としてわかりやすく表示し,さらに,各公共施設の所在情報や,各土地の不動産登記簿情報である地積や地目情報を追加表示をし,さらにまた,これらの情報の表現方法にも工夫が施されていると認められるから,その著作物性を肯定することができる。

エ これに対して,被告は,次のように反論する。しかし,これらの主張はいずれも理由がない。

a) 被告は,公図をまとめ,地目,地積等を表示するという形式は,明治初期に刊行された土地宝典において既に採用されており,本件土地宝典はその模倣ないし亜流にすぎないから,公図の二次的著作物といえるだけの創作性は認められないと主張する。

 しかし,被告が本件土地宝典に先立って発行された土地宝典と本件土地宝典とで同一である旨指摘する点は,抽象的な編集方法ないし編集方針(アイディア)の共通性にすぎないというべきである。特定の地域を対象とする本件土地宝典とその余の土地宝典とで,その対象とする地域が異なる限り,そもそも地図の対象となる素材が異なるのであるから,抽象的な編集方法ないし編集方針が共通していたとしても,これにより本件土地宝典の創作性が否定されるものではない。なお,本件土地宝典と同一の地域を対象とし,本件土地宝典より先立って発行されたとする土地宝典が存在するとの証拠もない。

b) 被告は,本件土地宝典は,地目,地積等の情報は付加されているものの,その資料としての価値の大部分は,法務局備付けの公図をそのまま縮小した点にあり,したがって,本件土地宝典が,公図を接合し,各種情報を付加して作成されていても,それは,公図を変形,翻案して新たな地図として創作されたというまでには至っていないというべきであり,本件土地宝典は公図の二次的著作物とは認められない,と主張する。

 しかし,本件土地宝典は,上記のとおり,複数の公図を選択し,これを接合してより広範囲の地図とし,その際に公図上の誤情報を補正したり,また,公図情報に加え,道路,水路,鉄道などの現況情報,公共施設の所在情報,地積,地目表示などの不動産登記簿情報を付加して作成されたものであり,不動産取引の前提となる物件調査に必要な民有地の情報を優先して取捨選択して表示したものである。
 そして,土地宝典といっても,その作成者により,その情報の取捨選択や表示方法に個性が存在することは前記のとおりであるから,本件土地宝典を公図の二次的著作物として保護すべきである。被告の主張は採用することができない。

c) 被告は,公図自体が,水路は青,道路は赤で彩色しているのであり(乙16),本件土地宝典は色を変えたにすぎない,とも主張する。
 しかし,公図によっては,例えば,水路を水色に表示するものもあるとしても(乙16),前提となる事実認定のとおり,このような表記方法は一部のものにすぎず,公図については各都道府県により異なった表記方法となっているのであり,本件土地宝典に対応する公図については,前記認定のとおり,現況が水路や道路等でも,単に分筆された土地として表示されている部分も多いのである。被告の上記主張は,採用することができない。』


商標法4条1項7号該当性、商標法29条との関係

2008-02-03 17:53:14 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10303
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『第4 当裁判所の判断
1 審決の取消事由の有無
別紙「原告の主張」によれば,原告は,審決には,本件商標の商標法4条1項7号該当性等の判断の誤りがあることなどを取消事由として主張しているものと解される。しかし,当裁判所は,以下のとおりの理由により,原告主張に係る取消事由はいずれも失当であると判断する。

(1) 商標法4条1項7号該当性について
原告の主張は必ずしも明らかではないが,原告は,「iモード」の標章を使用して,対応端末「デジタル・ムーバーF501i HYPER」を発売したり,同対応端末の画面操作やインターネットを介してメールの交換等をさせたりする被告の行為が原告の有する本件各特許権を侵害することになるので,本件商標は,「他の法律によって,その使用等が禁止されている商標」,「一般に国際信義に反する商標」,「構成自体に問題がなくても,指定商品について使用することが社会公共の利益や一般的道徳観念に反することとなる商標」として,商標法4条1項7号に規定する「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するから,本件商標登録には無効理由があると主張しているものと解される

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。

すなわち,商標が商標法4条1項7号に該当するかどうかは,特段の事情のない限り,当該商標の構成を基礎として判断されるべきものであり,指定商品又は指定役務についての当該商標の使用態様が他人の権利を侵害するか否かを含めて判断されるべきものではない(立体的形状の商標の使用が他人の物の発明に係る特許権や他人の意匠権に抵触する場合などにおいても,<ins>立体的形状自体が商標を構成するから,商標の構成のみによって判断されるべき場合の例外には該当しない</ins>。)。

特に,商標法29条において,商標権者による登録商標の使用が,その使用の態様により出願日前の出願に係る他人の特許権等と抵触するときには,指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができないと定められ,知的財産権相互の調整が図られていること等に照らすならば,指定商品又は指定役務についての商標の使用態様によって他人の特許権等を侵害することがあったとしても,すなわち,そのような使用がされたり,あるいはそのような使用がされる事態が想定される状況等があったとしても,そのことから直ちに当該商標が,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものと判断すべきではないといえる。

本件においてこれをみると,本件商標は,「iモード」を標準文字で表す構成からなる典型的な文字商標であって,本件商標の構成・内容から,他人の特許権等を侵害するものということはできない。そうすると,原告主張に係る本件商標の使用が原告の有する本件各特許権に抵触するという理由をもって,本件商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するということはできず,この点の原告の主張は失当である。』

一部研究者の氏名を表示せずした研究発表は不法行為を構成するか

2008-02-03 17:52:38 | Weblog
事件番号 平成19(ネ)10030
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官飯村敏明


『3 争点(2)(被告らによる研究発表が原告の研究成果を奪う不法行為となるか
否か)について
(1) 原告主張の不法行為の成否
 原告は,本件各マウス(本件マウス①~⑥)に係る研究成果が原告の単独の成果であるとして,被告らが本件各研究発表をしたことは,原告に帰属すべき単独の研究成果を侵奪したという意味で不法行為に該当すると主張する。
しかし,前記2認定のとおり,本件各マウスに係る研究成果は,原告が単独で行った着想,発案による原告の単独の研究成果ではなく,被告Y2が重要な部分を担当,関与した研究成果であるから,被告らが本件各研究発表をしたことが原告の単独の研究成果を侵奪した不法行為に該当するとの原告の主張は,その前提を欠き,理由がない

(2) 補足的検討
念のため,被告らの本件各研究発表において,原告の氏名を表示しなかった点が不法行為に該当するか否かについて,進んで検討する。すなわち,本件研究発表1,2は本件講座及びアトピー研究センターで構成される研究グループの発表という形式で,本件研究発表3は本件講座の研究グループの発表という形式で,被告Y2,被告Y1及び己らによって学会発表されたが,原告は発表者に含まれず,また,研究グループの構成員としてもその氏名が表示されることがなかった点について,不法行為の成否を検討する

ア事実認定
 前記争いのない事実等,前記1及び2の認定事実を総合すれば,以下の事実が認められる。
・・・

イ判断
(ア) 上記アの認定によれば,原告には,本件各マウスの共同研究者,又は共同研究に寄与ないし貢献した者の一人として,本件各マウスに係る研究成果について研究発表をする場合には,自己の氏名を挙げて,公表される利益を有しているということができる。

 他方,上記認定の諸事情,すなわち,本件各研究発表の主題及び内容,本件各研究発表の内容に関する原告の寄与及び貢献の程度,被告らが,原告の氏名を発表者又は研究グループの構成員として表示することなく,本件講座及びアトピー研究センターで構成される研究グループの発表又は本件講座の研究グループの発表という形式で,本件各研究発表を行うに至った経緯等を総合考慮すると,被告らが,原告の氏名を表示することなく,本件各研究発表をしたことは,その形式において適切ないし配慮を欠く点があったとはいえるものの,少なくとも,社会的に是認し得る限度を逸脱し,原告の上記利益を侵害するものとまではいえず,不法行為法上違法であると評価することはできない

(イ) なお,被告Y1は,病理学及び腫瘍学がその専門分野であり,同被告が本件講座の教授として着任したのは平成15年12月であること(乙34)に照らすならば,被告Y1はマウスのMHCに係る研究に関しては専門外であって,被告Y1が被告Y2の原稿を点検した行為は,おおむね形式的な点にとどまっていたことは明らかであり,被告Y1の氏名を発表者の1人として本件各研究発表において掲げることは,前記1(6)ウの研究者行動規範にいう「名誉著者として,実際に貢献をしていない人の名前を入れる」ことに当たり,同規範にいう「広義の研究ミスコンダクト」に相当するというべきである。

 そうすると,本件各研究発表において,発表者として被告Y1の氏名を挙げたことは,研究発表の在り方として,適切ではなかったといわざるを得ない。しかし,前記ア認定の諸事情に照らすならば,このような形式で被告らが本件各研究発表を行った点が,原告との関係で,不法行為法上違法であると評価することはできない

(ウ) 以上によれば,被告らが原告の氏名を表示することなく本件各研究発表をしたことは,不法行為を構成するものではない。』

周知例の追加が手続き違背でないとされた事例

2008-02-03 17:51:38 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10071
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『(2) 手続違背の有無について
 審査段階において,拒絶の理由として特定の技術事項が証拠(文献)とともに示され,出願人に対して意見を述べる機会が与えられている場合において,審決において,当該技術が周知であることを裏付ける証拠(文献)を追加して引用することは,新たな技術事項を示して拒絶理由を変更するものではないから,審判手続において,新たに追加された証拠(文献)について,審判請求人に意見を述べる機会を与える必要はなく,その機会を付与しなかったからといって,手続違背を構成する余地はないというべきである。

 前記(1)イによれば,本件拒絶査定は,引用文献1(引用例1)に,引用文献3(甲3)に記載された技術(「フルオロカーボンポリマーに非フルオロカーボンポリマーを組み合わせて被覆材とする」こと)を適用することは容易想到であることを拒絶の理由としたものと認められる。
 そして,前記(1)ウによれば,審決は,引用発明1に組み合わせるべき技術事項(・・・)については,本件拒絶査定で示したものを変更することなく,この技術事項が周知であることを裏付ける証拠として,本件拒絶査定で示した甲3とともに,甲4を付加して例示したものと認められる。

 そうすると,審決が,原告に意見を述べる機会を与えることなく,周知例として甲4を例示したことをもって,本件審判手続において特許法159条2項において準用する同法50条の規定に反する手続があったものと解することはできない。したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。』

審決書の理由記載において留意すべき事柄

2008-02-03 17:50:56 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10247
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官飯村敏明

『5 付言
 本件において,原告は,「第3 原告の取消事由」の2に記載したとおりの理由によって,審決には違法があることを強く主張している。
 確かに,本件審決書を見ると,「理由」中の「2.当審の拒絶理由」欄では,審判体における拒絶理由(すなわち審判体における論理過程)は何ら記載されず,審判の過程で発した本件拒絶理由通知の全文のみが記載されているので,この点は妥当を欠くか,少なくとも誤解を招く記載であるといえる。

 そもそも,意匠登録出願に係る拒絶査定に対する不服審判の審理の対象は,意匠法17条所定の意匠登録を拒絶すべき事由が存在するか否かであって,審査又は審判の過程で発せられた「拒絶理由の通知」の当否ではない
 そして,審決は,文書をもって,審決の結論及び理由を記載することを要するから(意匠法52条,特許法157条),仮に,審理の結果,審判体において,拒絶査定不服審判の請求が成り立たないとの結論に至った場合には,審決書の「理由」として,意匠法17条所定の条項のいずれか(本件では意匠法3条1項)に該当すると判断した論理過程,すなわち根拠となる要件及び同要件を充足すると判断した論理過程を,記載することが求められる

 他方,どのような内容の拒絶理由通知を発したかは,特段の事情のない限り,結論に至る論理に影響を与えることはなく,審決の論理とは関係のない事項であるから,審決書の理由として記載すべきではない。

 本件において,取消事由2のような事由により原告から争われた原因は,審決書において,本件拒絶理由通知の内容が,審判体が結論を導いた論理であるとの誤解を与えるような体裁で,「2.当審の拒絶理由」欄に記載されたことにあるといえる(もっとも,本件では,「理由」の「4.当審の検討」欄において,審判体における論理過程が述べられているので,審決に理由不備の瑕疵はないというべきである。)。以上の点は,一般の審決書における理由記載においても留意を要すべき事柄といえよう〔知的財産高等裁判所平成19年12月26日判決・平成19年(行ケ)第10209号,10210号審決取消請求事件参照〕。』