goo blog サービス終了のお知らせ 

知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

新規事項の追加ではないとした事例-用語の一般的意味、技術常識、審判請求書における主張も考慮

2012-10-23 22:43:33 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10383
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年10月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 池下朗、古谷健二郎
特許法17条の2第3項

1 本件補正における「反転」の技術的意義について,当初明細書の記載及び出願経過に照らして検討する。
(1) 本件補正における「反転」は,「前記閉鎖または開放を行う」に際しての「前記膜部」の動きに関わるものであるから,ダイアフラム弁の膜部22(22a,22b,22c)の挙動に関わるものと理解するのが自然である。
当初明細書等(甲2)には,・・・,以下の記載がある。
 ・・・
 上記記載には,一貫して高圧流体の供給制御を行う場合に,弁体部と膜部との境界に応力集中が発生し劣化が急速に進むという問題への対処方法が述べられており,そのような問題が薄膜の反転動作を伴うローリングダイアフラム弁においても発生すると理解しうる記載はない。
 そして,当初明細書には,本願発明の実施例として図1及び図2が,背景技術として図3が記載されており,いずれもローリングダイアフラム弁ではない通常のダイアフラム弁である。

(2) 本件審判請求書(甲3)には,以下の記載がある。
・・・
 以上の記載からすると,審判請求書において原告は,①「反転」とは,周知のように,膜部の一部が天地を逆転すること,との意味であること,②ロールダイアフラム式ポペット弁は,薄膜の反転動作(ロール・非ロール動作)により開閉を行うのに対して,通常のダイアフラム式ポペット弁は,そのような反転をさせることなく開閉を行うものであること,③本願発明は,薄膜の反転動作(ロール・非ロール動作)により開閉を行うロールダイアフラム式ポペット弁とは異なるものであることを述べていることが理解できる。

2 ところで,一般に,「反転」とは,「・・・。」という意味である(株式会社岩波書店,広辞苑第六版)。
 ・・・
 ダイヤフラム弁の技術領域において,通常のダイヤフラム弁と,それとは異なり「ロール及び非ロール動作」を伴うローリングダイヤフラム弁とが存在することは,引用例が公開された平成13年6月29日時点において,特段の説明を要しない技術常識であったことが理解できる。

上記の「反転」の一般的意味及び技術常識に照らし,また,審判請求書における原告の主張を合わせると,本件補正によって追加された「前記膜部を反転させることなく,前記閉鎖または開放を行うこと」の構成は,「膜部の一部が天地を逆転することがなく,具体的には,ロールダイアフラム式ポペット弁のような開閉時に薄膜のロール・非ロール動作を伴うことなく」との意味であることが明らかである。

4 以上によれば,「前記膜部を反転させることなく,前記閉鎖または開放を行うこと」とは,ロールダイアフラム式ポペット弁のような開閉時に薄膜のロール・非ロール動作を伴うものではないものである,という程度の意味で膜部の一部で天地が逆転しないものであることと理解すべきであり,係る事項を加えることは,当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものといえる。

新規事項の追加であるとした事例

2012-10-14 21:35:31 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10351
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平、裁判官 真辺朋子、田邉実

 本件補正は,請求項1の特許請求の範囲に,一対の冷蔵室扉のうちのいずれか一方の後面(背面)に製氷室を取り付けるとの限定を加えるものであるが,願書に添付された当初明細書(甲1)の発明の詳細な説明には,冷蔵室扉よりも後方(内側)に位置する冷蔵室の内部に製氷室を設けることが記載されているのみで,扉自体に製氷室を内蔵させることは記載も示唆もない。また,当初明細書に添付の図面を見ても,扉自体に製氷室を内蔵させる構成を見て取ることができない

 この点,原告は,当初明細書の段落【0019】,【0020】中で,かかる技術的事項(限定事項)が開示されていると主張するが,段落【0019】には,「前記製氷室は,前記冷蔵室の内部に着脱可能に設けられる。」と記載されているのみで,冷蔵室扉自体に製氷室を内蔵させる構成が含意されていると見るのは困難である。
 段落【0020】にも,「前記扉の一側には,前記製氷室が備えられる。」との記載があるが,この1文に引き続いて,「前記冷蔵室を開閉する扉は,それぞれ異なる幅を有する。前記冷蔵室を開閉する複数の扉の先端には,それぞれガスケットが備えられ,扉が閉まった時,相互密着される。」との記載があることにかんがみると,上記「前記扉の一側」との文言も,冷蔵室の一対(複数)の扉相互間で構造に違いがあることに着目した表現であるとみるのが合理的であって,単に一対の扉のうちの片方の側(より正確にはこの片方の扉の後方(内側))に製氷室が位置することを意味するものにすぎないというべきである。したがって,上記「前記扉の一側」が冷蔵室の扉の後面(内側の面)を指すとか,上記段落が冷蔵室扉自体に製氷室を内蔵させる構成を意味するということはできない

 さらに,当初明細書の発明の詳細な説明に係る段落【0026】,【0031】,【0056】,【0060】,【0074】には,・・・。これら発明の詳細な説明の記載に照らしても,扉自体に製氷室を内蔵させる構成が新たな技術的事項の導入でないと認めることはできない。
 結局,本件補正は当初明細書及び図面に記載された事項の範囲を超えた新たな技術的事項を追加するもので,当初明細書及び図面に記載された事項の範囲内でされたものではない・・・。

「明りょうでない記載の釈明」に当たらないとされた事例

2012-09-30 23:02:47 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10365
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年09月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香、知野明
特許法159条1項で準用する特許法53条1項
(特許法17条の2第5項4号-明りょうでない記載の釈明)

1 取消事由1(本件補正は特許請求の範囲の減縮,明瞭でない記載の釈明を目的とするものではないとした判断の誤り)について
(1) 本件補正は,本件補正前の請求項1における「形状保持パッド」を「パッド」に変更し,本件補正前の請求項1における「…前記補剛体が,…液体を透過させる格子構造を有し」を含む,本願発明の発明特定事項を削除する補正を含むものである。そうすると,本件補正後の請求項1における「パッド」は,形状保持機能を有していないものや,補剛体が格子構造を有していないものを含むことになる。
 したがって,本件補正は,特許請求の範囲を拡張するものといえる。

(2) 原告は,本件補正は請求項の明瞭化のためにする補正であり,本件補正前の請求項1におけるに「…前記補剛体が,…液体を透過させる格子構造を有し」を削除しても,壁構造について,格子構造を有していないものにまで拡張するものではない旨主張する。
・・・
 以上によれば,本件補正後の請求項1の補剛体が格子構造を有していないものを含むものであることは明らかである。他方,本件補正前の請求項1の補剛体は,格子構造を有するものに限定されているであるから,本件補正が,壁構造について,格子構造を有していないものにまで拡張するものであることは明らかである。

(3) 原告は,本件補正により補正前の「形状保持パッド」を「パッド」に変更したのは,剛性を確保することが本願発明の主な目的ではないことを強調するためであり,「形状保持パッド」を「パッド」としても,本願の請求項1に係る発明の範囲は拡張されない旨主張する。
 しかし,「形状保持パッド」は,これを文言どおりに解釈すれば,形状保持機能を有するパッドであって,パッド全体に曲げに対する剛性を与えるものと解されるから,「形状保持パッド」から「形状保持」の文言を削除すれば,形状保持機能を有しないパッドを含むことになることは明らかである。
・・・

新たな課題を解決しようとするもので法17条の2第4項2号の要件に該当しないとした事例

2012-07-12 23:20:56 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10305
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣
特許法17条の2第4項2号

 本件補正事項2は,「*C*」との事項を付加するものであるが,前記1(5)及び(6)で示した本件補正明細書の記載(【0006】【0013】)に照らすと,本件補正事項2によって付加された事項は,フープ材の切断時に動刃を安定化するという利点を有するものであるから,動刃を安定化するという課題を解決するものであるということができる。

 他方,前記2(2)のとおり,本願発明の課題は,従来の技術は,部品点数が多くなること,加工により鋼材に歪みが生じて各部品を均等な精度に加工することが困難となる結果,ラムの摺動が円滑でなくなること,加工歪みのない互換性のある部品を得ようとすれば多大な加工時間を要する厳しい精度管理をしなければならないことなどというものであって,本願発明は,これらの課題を,「*A*」し,「*B*」という手段によって解決するというものである。

 そうすると,本件補正事項2は,原告の意図はともかく,結果的にみて,本願発明の課題に追加して,新たな課題を解決しようとするものであるといわざるを得ず,本件補正事項2が法17条の2第4項2号の要件に該当しないとした本件審決の判断に誤りがあるということはできない

明細書の記載に係る補正に旧特許法17条の2第4項の適用はないとした事例

2012-07-01 21:40:36 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10299
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文

 審決は,本件補正は,特許請求の範囲の減縮に当たらない上,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的としたものではないから,旧特許法17条の2第4項1号ないし4号のいずれにも該当しないとして,これを却下した。
 しかし,審決の上記判断には誤りがある。すなわち,旧特許法17条の2第4項は,特許請求の範囲についてする補正に係る規定であるところ,本件補正は,前記第2の3記載のとおり,明細書の段落【0011】の「追跡する」の後に,英語で追跡を意味する語である「track」を付け加えるものであって,特許請求の範囲についてする補正に当たらない。これに対し,被告は,本件補正は,実質的に特許請求の範囲についてする補正であり,旧特許法17条の2第4項が適用される旨主張するが,明細書の記載に係る補正に同条同項の適用があると解することはできず,主張自体失当である。

(筆者メモ)
cf.
「1.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内(特§126⑤、平15特§126③)について
   ・・・
   特許請求の範囲に記載された請求項について、その内容、殊に目的、範囲、性質などを実質上拡張又は変更するものである。その具体例を以下①~⑨に示す。
   ・・・
  ⑨ 請求項の記載そのものは訂正しない場合であっても、発明の詳細な説明又は図面を訂正することによって、上記①~⑧に実質上該当するに至った場合。」(審判便覧54-10第7頁)

補正が発明特定事項を削除する補正事項を含むとされた事例

2012-06-24 15:58:19 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10319
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年06月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

 本願発明において,
「通信イベントのメディア・フォーマットが通信イベントの発信者により変更されるべきことを示す」ものであったところ,
 本件補正発明では,
「コマンド信号」は,「前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す」ものとなった
ことは,特許請求の範囲における文言から明らかであるから,本件補正により,「コマンド信号」における「通信イベントのメディア・フォーマット」の「変更」の主体は,「通信イベントの発信者」に限定されず,「サーバ」のように本願発明には記載されていないものも含まれるようになったものというほかない。そのため,本件補正により,通信イベントの受信者のサーバに対する指示であるコマンド信号において,メディア・フォーマットの選択の主体が発信者に限定されるコマンド信号のみならず,発信者に限定されないコマンド信号をも含むものとなるものである。

(2) したがって,本件補正は,本願発明における発明特定事項を削除する補正事項を含み,発明特定事項を限定するものではないから,特許請求の範囲の減縮を目的としたものとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない

(3) この点について原告らは,本件補正発明は,「通信イベントの発呼者」と明記されているとおり,通信イベントを発信するのは発呼者であるし,本件明細書【0044】の記載からしても,本件補正発明の「変更」の主体は「発呼者」というべきであるなどと主張する。

 しかしながら,本件補正発明の特許請求の範囲には,「通信イベントの発呼者」と,「前記の情報信号を受信した後のトランシーバユーザの入力に応じて,前記サーバにコマンド信号を送信する手段であって,該コマンド信号は,前記通信イベントのメディア・フォーマットが,前記複数のメディア・フォーマットの内の別のものに変更されるべきことを示す,手段」との関係を示す発明特定事項は存在しないことは,先に述べたとおりである。
 そして,「通信イベントを発信する」ことと,「通信イベントのメディア・フォーマットを変更する」こととは,機能や処理内容が異なるから,両者の主体が同一とは限らないことはむしろ当然である。

 そうすると,原告らが指摘するとおり,本件明細書に「発呼者に,…通信イベントをオーディオまたはビジュアル・フォーマットで選択させる」との記載があるとしても,本件補正発明の特許請求の範囲の記載からすると,「通信イベントのメディア・フォーマット」の「変更」の主体が,本願発明と同様に,通信イベントを発信する者である「通信イベントの発呼者」に限定されているということはできない

(4) 以上からすると,本件補正が特許請求の範囲の減縮に該当しないとして,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りはない。

法17条の2第3項中の「第1項の規定」の解釈

2012-06-03 23:18:30 | 特許法17条の2
事件番号 平成24(行ケ)10021
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

第3 当事者の主張
1 取消事由1(新規事項の追加に係る判断の誤り)について
原告の主張
(1) 本件審決は,本件補正が当初明細書等に記載されていない事項(新規事項)を追加する手続補正を含むことが明らかである旨を説示する。
(2) しかしながら,法17条の2第3項は,
「第1項の規定により明細書又は図面について補正をするときは,…願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」
と定めている(新規事項追加の禁止)ところ,ここにいう「規定」に該当するのは,同条第1項の
「特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる。ただし,第50条の規定による通知を受けた後は,次に掲げる場合に限り,補正をすることができる。」
との文言のうち,ただし書の「第50条の規定」しかない。したがって,同条第3項の新規事項の追加の禁止は,「第50条の規定による通知」(拒絶査定通知)を受けた後にのみ妥当するものと解される。

 そして,拒絶査定通知は,平成22年3月23日付けである一方,本件補正の最後のもの(手続補正書13)は,それに先立つ同年1月15日に提出されているから,原告は,拒絶査定通知前の本件補正において任意の補正が可能であると解される。

・・・

第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(新規事項の追加に係る判断の誤り)について
・・・
(2) 新規事項の追加の有無について
ア 法17条の2第1項は,「特許出願人は,特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし,第50条の規定による通知を受けた後は,次に掲げる場合に限り,補正をすることができる。」と規定して,拒絶理由通知を受けた後の補正ができる時期について,指定された期間又は拒絶査定不服審判の請求と同時に限定している。また,同条第3項は,「第1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した範囲内においてしなければならない。」と規定しているが,同条第1項ただし書は,上記のとおり,拒絶理由通知を受けた後の補正ができる時期を限定しているにとどまるから,ここで「第1項の規定」とは,同条第1項の本文及びただし書の全てを包含していることが文言上明らかであり,同条第3項の規律が同条第1項ただし書に限定して適用されると解すべき理由はない
 したがって,特許出願人は,拒絶理由通知を受ける前後を通じて,常に補正に当たって法17条の2第3項の規律を受け,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内においてしなければならないというべきである(新規事項追加の禁止)。

機能クレームを実施例に沿って解釈して新規事項の追加ではないとした事例

2012-05-20 23:02:48 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10272
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年05月09日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 取消事由1(本件補正の補正要件に係る判断の誤り)について
(1) 原告は,当初明細書には,マッサージ機の座面部,フットレスト及び足裏支持ステップの寸法を使用者の太ももから足裏の寸法に合うように設計するという本件構成により特定される技術的事項の記載がないから,本件補正は,新規事項の追加に該当し,補正要件を満たさないものであるなどと主張する

 しかし,本件構成は,本件発明1に係る椅子型マッサージ機について
「フットレストを垂下させて足裏支持ステップが水平となっている状態で,座面部に座っている使用者が,お尻から太ももの範囲を座面部に接触させたまま,膝を曲げて足裏支持ステップに足裏を載せたときに,フットレストの座面部よりの端部において対向内側面と分離丘との間に脚が位置して,ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行える」
という機能によってその構成を特定したものであるところ,本件明細書(甲10)では,このような構成については,・・・などと記載されているほかは,図8において,フットレストを垂下させて足裏支持ステップが水平となっている状態で,・・・,足裏支持ステップに足裏を載せたときに,・・・,ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行えるように構成されていることが示されているだけであって,椅子型マッサージ機の各部分の寸法等の具体的な構成は記載されていない
 本件明細書のかかる記載内容からすると,本件構成は,あらかじめ設定されているフットレスト等の寸法に適合する体形の使用者に限って上記機能が発揮されるものであって,あらゆる体形の使用者に対して上記機能が発揮されることがその技術的事項に含まれるということはできない

 したがって,原告の主張は,その前提において誤りであり,これを採用することはできない。

法29条2項による拒絶査定中で「なお書き」で指摘した不明瞭な記載に対する釈明

2012-04-07 10:16:15 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10226
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年03月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 特許庁における手続の経緯
(1) 原告は,平成13年12月7日,・・・特許を出願したが(・・・),平成20年12月10日付けで拒絶査定を受けたので(甲5),平成21年3月16日,これに対する不服の審判を請求し,同年4月15日,手続補正をした(甲3。以下「本件補正」という。)。
(2) 特許庁は,前記請求を不服2009-5748号事件として審理し,平成23年3月7日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
 ・・・

第4 当裁判所の判断
 ・・・
イ 本件補正のうち,本願発明の特許請求の範囲の記載にある「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点についてみると,原告は,被告が平成20年12月10日付け拒絶理由通知(甲5)において
「なお,本願発明は,店頭等での商品の「配列」(「物」か「方法」か必ずしも明確ではない。)そのものを発明としている。これは,顧客への商品の訴求効果の増大を目的とする商業上の取り決めにすぎないともいえ,本願発明は,特許法が対象とする発明,即ち自然法則を利用した技術的思想の創作であるのかに疑義が残る。」
と指摘したことから,これを受けて,出願に係る発明を物の発明として特定する趣旨で,「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めたものと認められる(乙1)。
 ところで,「配列」とは,一般に,「ならべつらねること。順序よくならべること。また,そのならび。」(乙2。広辞苑第4版)を意味するものの,本願発明においては,上記拒絶理由通知も指摘するとおり,その技術的意義が必ずしも明らかであるとはいい難い。

ウ そこで,本件明細書の記載を参酌すると,・・・。
 このように,本願発明における「配列」との文言は,依然としてそれ自体が特許法2条3項にいう「物」であるのか「方法」であるのかが必ずしも一義的に明らかではないという点が残り,・・・。

 このことを前提として,本件補正後の請求項1ないし56をみると,これらの発明は,いずれも「販売ディスプレーシステム」を発明の対象としている・・・。

 以上によれば,本件補正のうち,「配列」との文言を「販売ディスプレーシステム」と改めた点は,前記イの平成20年12月10日付け拒絶理由通知(甲5)が「配列」との文言について示した事項について原告による釈明を目的としたものであり(法17条の2第4項4号),併せて,店舗におけるディスプレー(製品の配列)及び選択装置(しるしの配列)の双方を包含していた本願発明の特許請求の範囲を減縮するため,店舗におけるディスプレー(製品の配列)に限定することを目的としたもの(同項2号)とみることができる
 したがって,本件補正が結果として明瞭でない記載について釈明の目的を達したか否かはしばらく措くとしても,本件補正のうち上記の点は,法17条の2第4項2号及び4号に該当するものというべきであって,少なくとも,上記の点が同条に違反するとの本件審決の判断は,誤りであるというほかない。

<筆者メモ追記>
・ 不明りょうな記載の釈明が結果責任であることについて、
  平成18(行ケ)10547 平成19年10月31日 知財高裁 三村良一裁判長 過去ブログはここ
  平成22(行ケ)10325 平成23年05月23日 知財高裁 中野哲弘裁判長 過去ブログはここ

・ 進歩性を理由とする拒絶査定等に拒絶理由を構成しないと記載した後に記載不備を指摘した場合
  平成18(行ケ)10055 平成19年09月12日 知財高裁 飯村敏明裁判長 過去ブログはここ

・ 独立特許要件違背による補正却下の際に記載不備を指摘した場合
  平成22(行ケ)10188 平成22年12月15日 知財高裁 滝澤孝臣裁判長 過去ブログはここ

  

法17条の2第4項2号所定の限定的減縮にあたるかどうかの判断事例

2012-03-07 21:12:51 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10178
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 本件補正の許否
ア 法17条の2第4項に基づく補正は,法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限られる(法17条の2第4項2号)。すなわち,補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであることが必要である。

イ 本件補正事項に係る「ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフイルムを製造するためのセルロースアシレート」とは,セルロースアシレートがフイルムという物品を製造するための原料であり,そのフイルムの製造方法がソルベントキャスト法であることを特定するものであるが,補正前の請求項1には,セルロースアシレートが何らかの物品を製造するための原料であることや,その物品の製造方法に関して何ら特定する事項がない。よって,本件補正事項は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものには該当しない

 そうすると,本件補正事項を含む本件補正は,法17条の2第4項の規定に違反するものであるとして,これを却下すべきものであるとした本件審決の判断に誤りはない。

新規事項の追加を指摘した最後の拒絶理由、法17条の2第4項4号の規定の趣旨

2012-02-05 22:55:50 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10133
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 しかし,法17条の2第4項2号の文言によれば,最後の拒絶理由通知に対する手続補正により特許請求の範囲が補正された場合に,上記手続補正が法17条の2第4項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するか否かは,上記手続補正による補正前の請求項に係る発明と上記手続補正による補正後の請求項の記載とを対比して判断されることは明らかであるし,最後の拒絶理由通知に対する手続補正の直前にされた手続補正(以下「直前の手続補正」という。)が法17条の2第3項の規定に違反し,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内にない事項が記載されている場合に,この直前の手続補正により補正された請求項に係る発明を,最後の拒絶理由通知に対する手続補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするか否かの判断の基礎にしてはならないとの規定は存在しない
 ・・・
 ・・・そして,法49条1号の規定により,最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲の補正が法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないときは,出願の拒絶理由となる。 そうすると,甲6補正のように,最初の拒絶理由通知に対してされた特許請求の範囲の補正が法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないときは,法159条1項で準用する法53条1項に規定する「決定をもつてその補正を却下しなければならない」場合には該当せず,法159条2項で準用する法50条に規定する「拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない」場合に該当することになる。
 以上によれば,甲6補正は却下されないから,甲6補正により補正された請求項1に係る発明を補正前の請求項1に係る発明とし,これを基礎(基準)として,本件補正による補正後の請求項1に係る発明を対比して本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするか否かを判断した審決の判断手法に誤りはなく,原告の上記主張は採用することができない。

ウ 原告は,本件補正は法17条の2第4項4号に規定する「明りようでない記載の釈明」とは異なるが,最後の拒絶理由で指摘された「拒絶理由で示す事項についてする」補正でもあるので,これを認めることとしなければ出願人は拒絶理由に対応することが困難であり,かつ,これを認めないとすると発明の保護の観点からも適切でないから,例え「最後の拒絶理由に基づく補正」であっても,上記「明りようでない記載の釈明」と同様に,その補正が認められるべきである旨主張する。

 しかし,法17条の2第4項4号の規定は,最後の拒絶理由通知に対する手続補正で,明りょうでない記載の釈明を目的とする補正を認めることとしたものであるが,これを無制限に認めると迅速な審査の妨げとなることから,「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項」についてするものに制限しており,この規定における「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項」とは,軽微な補正により是正できる程度の明細書又は特許請求の範囲の記載不備と解される
 これに対し,本件の場合,平成22年11月25日付けの最後の拒絶理由通知(甲8)に係る拒絶の理由に示す事項は,甲6補正が法17条の2第3項の規定する新規事項の追加の禁止に違反するというものであるから,本件補正が明りょうでない記載の釈明を目的としたものに該当するものと認められないことは当然であり,法17条の2第3項の規定に違反するという重大な瑕疵に当たる場合に,法17条の2第4項4号の規定と同様に運用しなければならない必要性も認められない

「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的としないとされた事例

2012-02-05 22:39:07 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10133
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 そこで,甲6補正発明と本願補正発明とを対比すると,甲6補正発明では,通信機能の停止を維持しながら「時計機能」,「電話帳機能」,「マイクによる音声を電気信号に変換する機能」及び「スピーカによる電気信号を音声に変換する機能」を含む複数の機能それぞれを選択可能としているのに対し,本願補正発明では,通信機能の停止を維持しながら,上記「複数の機能」のうち「時計機能」及び「電話帳機能」のみをそれぞれ選択可能としたものであるから,本件補正により,通信機能の停止を維持しながら選択可能な機能の一部が削除されていると認められる。そして,その結果,本願補正発明では,「時計機能」及び「電話帳機能」以外の機能について,どの機能を通信機能の停止を維持しながら選択可能とするかは任意の事項とされることに補正されたといえる。
 そうすると,本件補正により,直列的に記載された発明特定事項の一部が削除され,特許請求の範囲の請求項1の記載が拡張されていることは明らかであるから,本件補正は特許請求の範囲を減縮するものとはいえず,「特許請求の範囲の限定的減縮」を目的とするものに該当するとは認められない
 また,本件補正は,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものにも該当しないことは明らかである。

 以上によれば,本件補正について,「平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」とした審決の判断に誤りはない。

新規事項の追加を認定した事例

2012-01-29 20:26:52 | 特許法17条の2
事件番号 平成23(行ケ)10030
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 被告の反論
(1) 取消事由1(本件訂正の適否に関する判断の誤り)に対し
ア 原告は,請求項1に「区別データ」を新たに加入する本件訂正は,本件明細書の「共通フラグ」を,これ以外のデータを含むようにしようとするものであり,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものではない旨主張する。しかし,原告の主張は失当である。
・・・
第4 当裁判所の判断
 そこで,本件訂正における「区別データ」が,本件訂正前の本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるかを検討する。

 ・・・すなわち,これらの記載から,「共通フラグ」は,全ての許容段階の種類に共通して判定値データを記憶するか,そうでない(判定値データを許容段階の種類に応じて個別に記憶する)かという2つの記憶形態を表すものであることがわかる。
そして,「フラグ」という語の技術的意味を検討すると,「・・・」(甲28),「・・・」(甲29),「・・・」(乙1)などの説明がされている。
 そうすると,「フラグ」は,ある条件が成立しているか否かという,2者のうちのいずれの状態であるかを知らせるために用いられる標識であるから,当業者にとって,「フラグ」は,1ビットのデータであると理解される。そして,本件明細書において,「共通フラグ」の「フラグ」の語が,上記と異なる意味を指すものとして用いられている事情はないから,当業者は,「共通フラグ」は1ビットのデータと認識すると考えられる
 また,本件明細書の上記各記載及びその他の記載によっても,・・・,「共通フラグ」のビット数を,2進法に基づく1ビットのデータだけでなく,多ビットのデータとしたり,8進法,16進法等のデータとするような例は開示されていない。・・・,「共通フラグ」を1ビットのデータ以外のものとすることは,本件明細書において示唆もされていないと解すべきである。
 さらに,段落【0006】ないし【0008】,【0012】に,判定値データのデータ量を抑えると共に量産機種までの開発が容易なスロットマシンを提供することが発明の解決課題とされている旨記載されていることに照らすならば,「共通フラグ」は,判定値データを共通化して,開発用の機種における判定値データの記憶態様を量産用の機種にそのまま転用できるようにし,かつ,判定値データ記憶手段の記憶容量の低減を図る目的で採用されたことが理解される。・・・,スロットマシン開発における確率調整の前の段階で,より多くの種類の記憶態様を許容することは,上記の発明の解決課題に沿わないというべきである。

 以上によれば,当業者は,本件明細書の全ての記載を総合することにより,「共通フラグ」について,設定値についての1ビット(賭け数についての1ビットのフラグを設定する場合は併せて2ビット)のデータであるとの技術的事項を導くことが認められる。

イ 他方,本件訂正に基づく「区別データ」は,「複数種類の許容段階に共通して判定値データが記憶されているか該許容段階の種類に応じて個別に判定値データが記憶されているかを区別する」ためのデータであって,「フラグ」であるとの限定や1ビットであるとの限定もないから,1ビットを超えるデータを含むと理解される。
 また,1ビットを超えてビット数を増大させることができるならば,判定値データの分類を限りなく細かく設定することができるので,上記解決課題に沿わないような記憶態様を作出することが可能となる。すなわち,本件訂正に基づき請求項1に「区別データ」を加入することは,単に,1ビットを超えるデータを含むことになるのみならず,願書に添付された本件明細書に開示された発明の技術思想,解決課題とは異質の技術的事項を導入するものというべきである。

ウ そうすると,本件訂正に基づき請求項1に「区別データ」を加入することは,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入することになる。

明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができない訂正を新規事項の追加とした事例

2012-01-22 20:47:56 | 特許法17条の2
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120104101453.pdf
事件番号 平成22(行ケ)10402
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

ア 取消事由1(新規事項の有無についての判断の誤り)について
(ア) 本件補正(第2次補正)は,本願発明(第1次補正)における「・・・キノンからなる群から選択される酸化能力を有する試薬」との記載を「・・・酸化能力を有する試剤は,アズレンキノン,1,2-ジヒドロキノン,および1,4-ジヒドロキノンからなる群から選択され」との記載に訂正する内容を含んでいる。

 しかし,特許法にいう補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),乙1文献によれば,「ジヒドロキノン」とは「ヒドロキノン」の2量体を意味するから,原告が本件補正において追加しようとした「1,2-ジヒドロキノン」及び「1,4-ジヒドロキノン」なる名称の化学物質が何を指すのか不明といわざるを得ないし,少なくともそのような名称を正しい名称とする化学物質が実在することを認めるに足りる的確な証拠はなく,このことは,原告が指摘する甲17文献及び甲18文献の前記記載によっても左右されない。そうすると,当業者(発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,このような名称を有する化学物質がいかなる化学構造を有する物質であるかを理解することができず,そもそも上記補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内か否かを判断することができないので,上記補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものということはできない

 したがって,「本件補正は,当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものとはいえないので,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない」との審決の判断に誤りはない。

新規事項の追加を認定した事例

2011-08-10 06:10:03 | 特許法17条の2
平成23(行ケ)10057 審決取消請求事件 特許権
行政訴訟 平成23年07月27日 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 飯村敏明


1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)につい
 ・・・
 すなわち,請求項1に係る本件補正は,
「ネジ嵌合する容器の蓋であって,前記する蓋の上面に適度な幅と深さの溝穴を,前記した蓋の一方側端部から中心部を経て対向側端部に至るように溝穴を設けた構成を特徴とする溝穴付き蓋。」を
「ネジ嵌合する容器の蓋であって,前記する蓋の上面を厚くし,この上面の一方の側端部から中心部を経て対向側端部に至るように直線状に略板状体等が嵌め込める溝穴を設け,この溝穴の底部に更に幅の狭い溝穴を設け,段差状溝穴として設けたことを特徴とする溝穴付き蓋。」とするものである。
 ところで,
 別紙実施例図面のとおり,願書に最初に添付した本願明細書・・・には,所定の幅と深さの溝穴6を直線状に設ける実施例が記載されるほか,幅が異なる二つの溝穴6,6aを十字状に交差させる実施例が図示されているが,同図面からは,直線状の溝穴の底部に更に幅の狭い溝穴を設け,段差状の溝穴とする技術は,開示又は示唆はされておらず,また,
 本願明細書の段落【0016】における「上面4に設ける溝孔6,6aの幅や深さはもとより,さらに異なる幅のものを2本以上設けても構わない」と記載されているが,
同記載からは,上記段差状の溝穴を設ける技術は,開示又は示唆はされていない。したがって,本件補正により付加された事項である「直線状の溝穴の底部に更に幅の狭い溝穴を設け,段差状の溝穴とすること」は,願書に最初に添付した本願明細書に記載されておらず,当業者にとって自明の事項ともいえないというべきである。

 以上のとおりであり,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではなく,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないと判断した審決に誤りはない。
 この点について,原告は,「幅の異なる溝穴においてわずかに高低があること」を「段差状」と表記したのであるから,このような構成を付加して,補正をすることは許されるべきである旨主張する。しかし,補正後の特許請求の範囲(請求項1)には,「この溝穴の底部に更に幅の狭い溝穴を設け,段差状溝穴として」と明確に記載されている以上,付加した技術事項は明白であって,原告の主張は前提を欠き,採用の限りでない。