知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

当初明細書等に明示的に表現されていない数値への限定

2011-04-10 21:44:14 | 特許法126条
事件番号 平成22(行ケ)10234
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年03月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(エ) 次に「330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」と訂正する点について検討する。
訂正事項a(ii)の「・・・該石膏廃材を,・・・粉粒体温度が330℃以上500℃以下になるように加熱しながら」という事項は,本体内部での石膏廃材の加熱に関し,粉粒体温度を330℃以上500℃以下になるように数値範囲を限定するものであるから,訂正前の数値限定の範囲の上限値を「840℃以下」から「500℃以下」に変更するものである。
ところで,上記「500℃」という値は当初明細書等に明示的に表現されているものではない。そこで,上記「500℃」という値が,当初明細書等に記載された事項から自明であるといえるかどうかが問題となる

しかし,
 「500℃」という特定温度は,もともと訂正前の「330℃以上840℃以下」の温度の範囲内にある温度であるから,上記「500℃」という温度が当初明細書等に明示的に表現されていないとしても,・・・,実質的には記載されているに等しいと認められること,当初明細書等に記載された実施例においては,炉出口粉粒体温度が460℃になることを目標とした旨が記載され(・・・),当初明細書等の【表2】には,実施例における「炉出口粉粒体温度(℃)」が,「460℃」(実施例1),「470℃」(実施例2),「450℃」(実施例3),「470℃」(実施例4)であったことが記載されていることからすれば,具体例の温度自体にも開示に幅があるといえること,したがって,具体的に開示された数値に対して30℃ないし50℃高い数値である近接した500℃という温度を上限値として設定することも十分に考えられること,また,訂正後の上限値である「500℃」に臨界的意義が存しないことは当事者間に争いがないのであるから,訂正前の上限値である「840℃」よりも低い「500℃」に訂正することは,それによって,新たな臨界的意義を持たせるものでないことはもちろん,500℃付近に設定することで新たな技術的意義を持たせるものでもないといえるから,「500℃」という上限値は当初明細書等に記載された事項から自明な事項であって,新たな技術的事項を導入するものではないというべきである。

法126条3項の趣旨

2010-10-30 21:23:43 | 特許法126条
事件番号 平成22(行ケ)10024
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年10月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 特許法134条の2第5項により準用する同法126条3項は,訂正が許されるためには,いわゆる訂正の目的要件を充足するだけでは足りず,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であることを要するものと定めている。法が,いわゆる目的要件以外に,そのような要件を定めた理由は,訂正により特許権者の利益を確保することは,発明を保護する上で重要ではあるが,他方,新たな技術的事項が付加されることによって,第三者に不測の不利益が生じることを避けるべきであるという要請を考慮したものであって,特許権者と第三者との衡平を確保するためのものといえる

 このように,訂正が許されるためには,いわゆる目的要件を充足することの外に,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であることを要するとした趣旨が,第三者に対する不測の損害の発生を防止し,特許権者と第三者との衡平を確保する点にあることに照らすならば,「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であるか否かは,訂正に係る事項が,願書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面の特定の箇所に直接的又は明示的な記載があるか否かを基準に判断するのではなく,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項(すなわち,当業者において,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項)との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準に判断するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日判決,同平成22年(行ケ)第10019号平成22年7月15日判決参照。)。

無効審判請求の対象でない請求項を含む訂正請求がされた場合

2010-09-06 06:42:36 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10389
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 再訂正は認められないとした判断の誤り(取消事由1)について
(1) 判断の誤りの有無と審決の結論への影響
 実用新案登録無効審判請求について,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,実用新案登録無効審判手続における実用新案登録の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。

 そうすると,2以上の請求項を対象とする無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない
 そして,この理は,無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立登録要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない

 本件においては,・・・,審決には,上記説示した点に反する判断の誤りがある。

 しかし,・・・,審決は,請求項1,2及び5についての再訂正が認められたとしても,再訂正考案1,2及び5は,引用例考案,引用例に記載された技術及び周知技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるとし,再訂正考案1,2及び5についての実用新案登録を無効とする旨判断しており,その点の審決の判断に誤りはないから,上記の判断の誤りは,審決の結論に影響を及ぼすことはない。

特許無効審判事件の係属中の複数の請求項に係る訂正請求

2010-08-24 22:03:42 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10304
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 【請求項1】(旧)の訂正(削除)を認めなかった判断の適否(取消事由1)について
 上記第3,1(2)記載のとおり,訂正事項(1)は【請求項1】(旧)を削除するものであるのに対し,訂正事項(2)は,【請求項2】(旧)を【請求項1】(新)に繰り上げて,その内容を変更するものである。
 これにつき,審決は,訂正事項(1)及び(2)を一体として訂正事項aと整理し,訂正事項aについて,特許請求の範囲の減縮や明りょうでない記載の釈明を目的とするものではなく,また,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでもないので,そのような訂正事項aを含む本件訂正を全体として認めない旨の判断をした(審決6頁16行~7頁6行,8頁5行~17頁22行)。

 しかしながら,特許無効審判事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がなされている場合,その許否は訂正の対象となっている請求項ごとに個別に判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に合致しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないと解するのが相当である(特許異議に関する最高裁平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。

 そうすると,【請求項1】(旧)に関する訂正事項(1)と【請求項2】(旧)に関する訂正事項(2)とは各別に判断されるべきであるところ,訂正事項(1)は上記のとおり【請求項1】(旧)を削除するだけのものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当し,明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

 したがって,上記のような理由付けで訂正事項(1)の訂正を認めなかった審決には誤りがあることになり,取消事由1は理由がある。

「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲」の意義

2010-08-08 09:56:05 | 特許法126条
事件番号 平成22(行ケ)10019
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 はじめに
 本件特許は,平成4年7月13日に出願されたものであるから,その訂正審判請求の可否は,平成6年改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)126条1項に基づいて判断されるところ,同項には,
「特許権者は,第百二十三条第一項の審判が特許庁に係属している場合を除き,願書に添付した明細書又は図面の訂正をすることについて審判を請求することができる。ただし,その訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず,かつ,次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 特許請求の範囲の減縮
・・・」

と規定されている。
 審決は,本件訂正審判請求について,「訂正事項aは,特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である『歯部』について『内周側が連結された』とあったのを『内周側が絶縁性樹脂を介して連結された』と限定するものであって,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当」(審決書4頁15行~18行)すると認定し,本件訂正が,いわゆる訂正の目的要件に適合することを認めている(この点は,当事者間に争いはない。)。
 その上で,審決は,内周側が絶縁性樹脂を介して連結されたとする本件訂正が,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」のものであるか否かを判断している。

 そうすると,本件訂正前の請求項1記載の発明における「内周側が連結された歯部」は,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」と「内周側が絶縁性樹脂を介さないで連結された歯部」との両方を含んでいたことについて,本件訴訟において,当事者間に争いはないことになる。

2 「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲」の意義について
 旧特許法126条1項は,訂正が許されるためには,いわゆる訂正の目的要件(本件では特許請求の範囲の減縮)を充足するだけでは足りず,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であることを要するものと定めている。法が,いわゆる目的要件以外に,そのような要件を定めた理由は,訂正により特許権者の利益を確保することは,発明を保護する上で重要ではあるが,他方,新たな技術的事項が付加されることによって,第三者に対する不測の不利益が生じることを避けるべきであるという要請を考慮したものであって,特許権者と第三者との衡平を確保するためのものといえる。
 このように,訂正が許されるためには,いわゆる目的要件を充足することの外に,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であることを要するとした趣旨が,第三者に対する不測の損害の発生を防止し,特許権者と第三者との衡平を確保する点にあることに照らすならば,「願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内」であるか否かは,訂正に係る事項が,願書に添付された明細書又は図面の特定の箇所に直接的又は明示的な記載があるか否かを基準に判断するのではなく,当業者において,明細書又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項(すなわち,当業者において,明細書又は図面のすべてを総合することによって,認識できる技術的事項)との関係で,新たな技術的事項を導入するものであるか否かを基準に判断するのが相当である(知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10563号平成20年5月30日判決参照)。

3 本件訂正について
 ・・・
(1) 事実認定
 ・・・
(2)判断
ア 本件訂正前の本件特許明細書の上記記載中の本件発明の作用・効果等の記載に照らすならば,
① 本件発明を特徴づけている技術的構成は,特許請求の範囲の記載(請求項1)中の「・・・とを有するモールドモータにおいて」までの部分にあるのではなく,むしろ,これに続いて記載されている「前記コイルの巻装形状を,・・・台形状とし,かつ,・・・たことを特徴とするモールドモータ。」との部分にあると解されるところ,本件特許明細書の「内周側が連結された歯部」との構成は,前段部分に記載されていること,
② そして,「歯部」は,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」のみに限定された範囲のものであったとしても,「内周側が絶縁性樹脂を介さないで連結された歯部」を含む範囲のものであったとしても,本件発明の上記作用効果,すなわち,歯部間におけるコイルのスペースファクタを高くし,コイルの冷却を良好にすることにより,モータ特性を向上させ,モータの全長を短くするとの作用効果との関係においては,何らかの影響を及ぼすものとはいえないことが,それぞれ認められる。

イ ・・・
 また,審決では,本件訂正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当すると判断しており,「内周側が絶縁性樹脂を介して連結された歯部」も本件訂正前の請求項1記載の発明に含まれることを認めているのであって,本件においては,本件訂正がされたからといって,第三者に不測の損害を与える可能性のある新たな技術的事項が付加されたことを,想定することは困難である。

訂正により使われない機能が生じる場合、特許請求の範囲の減縮に当たるか

2010-05-01 13:35:11 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10326
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 ところで,特許請求の範囲の記載において「構成」が付加された場合,付加された後の発明の技術的範囲は,付加される前の発明の技術的範囲と比較して縮小するか又は明りょうになることは,説明を要するまでもない。
 本件において,本件訂正後発明2記載の特許請求の範囲に属するマッサージ機は,構成アないし構成オのすべてを具備するものに限定される。

 本件訂正前発明2では,何らの限定がされていなかったものに対して,本件訂正後発明2では,「施療子(14)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定の操作を施すと,その所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位置を基準位置として検出する,マッサージ機において,」との構成を有するものに限定されたのであるから,これに伴って,その技術的範囲が縮小するか又は明りょうになることは,当然である。

(2) この点,被告は,本件訂正後発明2は,「所定操作による基準位置検出に基づく制御」を行うと,もはや「一定時間経過による基準位置検出に基づく制御」を行わないから,本件訂正前発明2と比較して択一的記載であり,特許請求の範囲の減縮に当たらないと主張する
 被告の主張は,発明の技術範囲の解釈についての誤りに由来するものであって,到底採用できるものではない。

 確かに,マッサージ機の使用者(ユーザ)は,本件訂正後発明2の構成ウに係る操作方法を選択することによって,構成エ〔前記施療子(14)を移動させて位置決めを行うために予め設定された一定の時間が経過すると,前記施療子(14)の位置を検出する構成〕に係る機能を選択することなく,位置決めをすることができる
 しかし,ユーザが,そのような位置決め方法を選択することが可能であることは,本件訂正後発明2において,はじめて可能となるものではなく,本件訂正前発明2においても同様であり,本件訂正後発明2と本件訂正前発明2とは,その点に関する相違はない(任意の位置に基準位置を決定することのできる位置操作部が存在することは,本件訂正前発明2においても同様である。)。

 使用者(ユーザ)にとって,本件訂正後発明2の構成ウを選択することによって,構成エで示す機能を選択しないことがあり得ることは,本件訂正後発明2において,構成エを具備しないマッサージ機が,発明の技術的範囲に含まれること,すなわち,技術範囲が拡大することを意味するものではない

分割出願の適否の訂正時の判断基準(訂正前か訂正後か)

2010-05-01 09:44:47 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(分割要件の有無)について
(1) 分割出願の適否の判断基準
 本件審決は,本件訂正の適否について判断するに当たり,本件訂正は本件訂正前発明を本件訂正後発明に訂正するものであるが,本件訂正前発明が原出願発明の分割出願に係る発明であるため,本件訂正後発明における技術的事項,すなわち,本件訂正後事項と原出願事項とを比較検討して,本件訂正後事項が原出願事項の範囲内のものではないとし,その結果,本件出願は分割出願として適法なものではないから,本件出願の出願日が原出願日に遡ることはなく,本件出願の現実の出願日を基準にすると,本件訂正後発明は進歩性がなく,本件訂正は独立特許要件を欠くとしたが,
本件審決のその判断を前提に,原告は,本件訂正後事項は原出願事項の範囲内であるとし,他方,被告は,その範囲外であるとして,本件審決の判断の当否を争っている

 しかしながら,本件訂正の適否について本件訂正後発明が独立特許要件を具備するか否かを判断する必要がある場合には,その進歩性の判断の基準時として,本件出願の出願日を確定する必要があるところ,本件出願は分割出願であるから,本件出願が適法な分割出願であれば,原出願の出願日である昭和55年3月14日に遡って出願したとみなされる(改正前44条2項)ので,原出願日が基準時となるのに対し,適法な分割出願でなければ,本件出願の現実の出願日が基準時となるのであって,その基準時を確定するためには,まずもって本件出願が分割出願として適法なものであったか否かを検討する必要がある。

 しかるところ,本件出願が適法な分割出願であったというためには,分割出願の発明の構成に欠くことができない技術的事項,すなわち,本件訂正前の請求項1に係る発明(以下「本件訂正前発明」という。。)の構成に欠くことができない技術的事項(以下「本件訂正前事項」という。)が原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項であること,すなわち,原出願事項の範囲内であることが必要であって,原出願事項の範囲内であるか否かを検討する対象となるのは,本件訂正後事項ではなく,本件訂正前事項でなくてはならない

けだし,本件訂正後発明の進歩性について判断するのは,本件訂正の適否を検討するためであるところ,原出願日を基準にその判断をすることが可能であるのは,本件出願が適法な分割出願であった場合であることを前提とするが,本件においては,その分割出願の適否もまた問題となっているからである。

<侵害訴訟>
事件番号 平成20(ネ)10083
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成22年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 滝澤孝臣

設計的事項に類する周知の構成の1つへの限定は新規事項の追加に当たるか

2010-03-06 10:15:57 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10133
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年03月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


そうすると,本件訂正のうち,特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項2】について
「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との限定を加える部分は,
本件特許出願時において既に存在した「台板の上部に振動装置を設けるとともに,下面中央部に嵌合部を設ける」という基本的な構成を前提として,「振動装置の油圧モーターが油圧式ショベル系掘削機側にある」という当業者に周知の構成のうちの1つを特定するとともに,「台板」と「振動装置」の関係について,同様に当業者に周知の構成のうちの1つである「四角形の台板の上に油圧モーターが隠れるように振動装置を配置するという構成」に限定するものである。

 そして,上記イ(ア)ないし(ク)で認定した技術状況に照らすと,上記周知の各構成はいずれも設計的事項に類するものであるということができる。

 したがって,本件明細書及び図面に接した当業者は,当該図面の記載が必ずしも明確でないとしても,そのような周知の構成を備えた台板が記載されていると認識することができたものというべきであるから,本件訂正は,特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について,設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定するにすぎないものであり,この程度の限定を加えることについて,新たな技術的事項を導入するものとまで評価することはできないから,本件訂正は本件明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものとした本件審決の判断に誤りはない。

個別の請求項ごとの訂正許否の判断の要否

2009-09-06 17:13:40 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10004
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(個別の請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった誤り)につい

(1) 無効審判における複数の請求項に係る訂正の請求
 昭和62年法律第27号による特許法の改正によりいわゆる改善多項制が,そして,平成5年法律第26号による特許法の改正により無効審判における訂正請求の制度がそれぞれ導入され,特許無効審判の請求については,2以上の請求項に係るものについては請求項ごとにその請求をすることができ(特許法123条1項柱書き後段),請求項ごとに可分的な取扱いが認められているところ,特許無効審判の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,この請求項ごとに請求をすることができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることに照らすと,特許無効審判請求がされている請求項についての特許無効の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに個別に行うことが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されることになる(前掲最高裁平成20年7月10日判決参照)。

 そして,特許無効審判の請求がされている請求項についての訂正請求は,請求書に請求人が記載する訂正の目的が,特許請求の範囲の減縮ではなく,明りょうでない記載の釈明であったとしても,その実質が,特許無効審判請求に対する防御手段としてのものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることからして,請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものである。

(2) これを本件についてみるに,特許無効審判請求に係る本件審判において,請求人である被告は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確であるなどとの無効理由を主張したこと(甲20),これに対し,被請求人である原告は,被告主張の無効理由を回避するために,特許無効審判における訂正の請求として,本件特許の請求項1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25につき本件訂正請求を行ったこと(甲18,22)が認められ,本件訂正請求は,特許無効審判請求に対する防御手段としてされたものであることが明らかである。

(3) そうすると,本件訂正請求は,請求項ごとに個別に行われたものであった以上,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものといわなければならない。
 そして,本件訂正請求は,直接的には本件特許に係る請求項のうち1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25の訂正を求めるものであるが,前記第2の2のとおり,本件特許は,請求項1ないし26から成り,請求項2ないし26はいずれも請求項1を直接的又は間接的に引用する従属項であるから,請求項1について訂正を求める本件訂正は,請求項1を介してその余の請求項2ないし26についても訂正を求めるものと解さなければならない

訂正請求による訂正の効果は請求項ごとに個別に生じるか

2008-11-30 11:09:34 | 特許法126条
事件番号 平成20(行ケ)10093
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

第5 当裁判所の判断
 本件審決には,取消事由1に係る違法が存在するものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

 すなわち,昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制が導入され,平成5年法律第26号による改正により,無効審判における訂正請求の制度が導入され,平成11年法律第41号による改正により,特許無効審判において,無効審判請求されている請求項の訂正と無効審判請求されていない請求項の訂正を含む訂正請求の独立特許要件は,無効審判請求がされていない請求項の訂正についてのみ判断することとされた
 このような制度の下で,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生ずるものというべきである

 特許法は,2以上の請求項に係る特許について請求項ごとに特許無効審判請求をすることができるとしており(123条1項柱書),特許無効審判の被請求人は,訂正請求することができるとしているのであるから(134条の2),無効審判請求されている請求項についての訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる無効審判請求に対する,特許権者側の防御手段としての実質を有するものと認められる。このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないとするならば,無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになるといえる。
 このように,無効審判請求については,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,各請求項ごとに無効審判請求の当否が個別に判断されることに対応して,無効審判請求がされている請求項についての訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求することが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるべきと考えるのが合理的である

 以上のとおり,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。


 そうすると,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない
 そして,この理は,特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立特許要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない

 本件においては,請求項1に係る発明についての特許について無効審判請求がされ,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項1のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項2以下の請求項についても訂正請求がされたところ,本件審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項2についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,本件訂正は認められないとした上で,請求項1に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,本件審決には,上記説示した点に反する違法がある。したがって,原告主張に係る取消事由1は,理由がある。


同趣旨を判示するもの
事件番号 平成20(行ケ)10095
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
・・・
 本件においては,請求項6に係る発明についての特許について無効審判請求がされ,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項6のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項8,9の請求項についても訂正請求がされたところ,本件審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項8,9についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,本件訂正は認められないとした上で,請求項6に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,本件審決には,上記説示した点に反する違法がある。

訂正審判における「一体説」と「請求項基準説」

無効原因の存否に関する攻撃防禦に係る手続き

2008-11-25 07:02:21 | 特許法126条
事件番号 平成19(行ケ)10315
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

6 取消事由5(手続上の瑕疵)について
原告は,本件無効審判の手続に瑕疵があると主張するので,この点について検討する。
(1) 原告は,本件訂正により「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定し,」という構成が新たに追加されたのに,これに対する無効理由の主張,証拠の提出の機会が与えられないまま本件無効審判の審理が終結されたのは違法であると主張する

(2) ところで,特許の無効審判の係属中に当該特許の訂正審判の審決がされ,これにより無効審判の対象に変更が生じた場合には,従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるときを除き,審判官は,変更されたのちの審判の対象について当事者双方に弁論の機会を与えなければならない(最高裁第一小法廷昭和51年5月6日判決・裁判集民事117号459頁参照)。
そして,特許の無効審判の係属中に訂正請求がされた場合についても,上記と同様に解すべきである。
そこで,上記の観点から,本件無効審判の手続において従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるかどうかについて検討する。
・・・

(4) 以上によれば,本件無効審判の手続において,原告は「隣り合うガイド溝(26)(26)の隔壁の最小厚さ(T)を,同上のガイド溝(26)の溝幅(W)よりも小さい値に設定した」などの構成に対する無効理由の主張の中で,クランプロッドの外周部に形成される旋回溝の傾斜角度を15度にすることは本件特許の出願前に周知の技術である旨の主張をしていたことが認められる。

 ところで,本件訴訟において原告が訂正発明1の「第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定し,」という構成に対する主張として述べているのは,①甲13文献(特開平8-33932号公報)に上記構成が示されている,②旋回ストロークを小さくして旋回式クランプをコンパクトに造ることは,本件特許の出願前に周知の技術的課題であった,③甲21発明と同形式のクランプ装置のカタログ(甲40)や甲25(米国特許第4620695号明細書)に照らせば,旋回溝の傾斜角度を10度から30度の範囲に設定することは本件特許の出願前に周知の事項であった,などというものである。

しかるに,本件無効審判の手続において原告が主張した内容は,甲13文献,甲21文献,甲25等を引用した上で,旋回溝の傾斜角度を10度から30度の範囲に設定することが周知の事項であり,旋回ストロークを小さくすることが周知の課題であったことを述べるものであり,特に甲13文献については,図1,図2の記載を参照しつつ螺旋溝の傾斜角度について具体的に言及しているものである

 そうすると,本件無効審判の審理が終結された時点においては,旋回溝の傾斜角度の点を含め,無効理由につき十分な主張,立証が尽くされていたものと認めることができるから,本件無効審判の手続においては,従前行われた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防禦について修正,補充を必要としないことが明白な格別の事情があるというべきである。

訂正審判請求における判断対象の不可分一体性

2008-11-09 12:23:36 | 特許法126条
事件番号 平成19(行ケ)10283
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

4 訂正審判請求における判断対象の不可分一体性について
(1) 前記第2の1に記載したとおり,本件特許に係る請求項は全4項であったところ,本件訂正審判請求は上記請求項中の1及び2に係るものであり,請求項2~4については,特許取消決定が確定した結果,本件訂正審判請求のうち,請求項2に係る部分は訂正の対象を欠くものとして無効であり,結局,本件訂正審判請求は,本件特許の請求項1に係るものとなった。また,本件特許の請求項3及び4に係る部分についても特許取消決定が確定したため,本件特許は請求項1に係る発明を対象とするものとなった。

 ところで,特許庁は,前記第1の3に記載したとおり,本件特許の請求項1及び2に係る訂正審判請求である本件訂正審判請求について,訂正審判請求の対象となっていない請求項3及び4についても独立特許要件の具備の有無について審査すべきものとする立場を採っているところである。本件訂正審判請求については,上記のとおり,本件特許のうち,請求項1以外の各請求項に係る部分の特許取消決定は確定したため,請求項1に係る本件発明のみについての訂正の適否を検討すれば足りるものとなったが,以下,念のため,特許庁の上記取扱いについても検討しておくこととする

(2) 平成6年法律第116号附則6条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下「平成6年改正前」という。)の特許法126条3項は「第一項ただし書第一号の場合は,訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」と規定し,同条1項ただし書第1号は「特許請求の範囲の減縮」を掲記するところ,同条3項の上記「訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明」とは,「特許請求の範囲の減縮をした後の発明」であって,「減縮されていない発明」を含むものではないというべきである

 もっとも,上記文言は,文理上,「訂正後における特許請求の範囲に記載されている全ての事項により構成される全ての発明」と解釈する余地があるが,特許法における訂正の審判の位置付けに照らすと,このように解釈することはできないというべきである

 すなわち,平成6年改正前の特許法126条が定める訂正の審判は,主として特許の一部に瑕疵がある場合に,その瑕疵のあることを理由に全部について無効審判請求されるおそれがあるので,そうした攻撃に対して備える意味において瑕疵のある部分を自発的に事前に取り除いておくための制度である。他方,特許法153条3項は「審判においては,請求人が申し立てない請求の趣旨については,審理することができない。」と規定しており,訂正の審判においては,訂正を許すべきか否かが判断の対象となり,(その限度で同条1項及び2項に基づいて職権で広範囲に審理できるものの,)求められた訂正の可否を超えて判断することは許されないのである

 仮に,特許権者が,複数の請求項の一部の請求項について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を求めて訂正審判を請求した場合において,その訂正の可否を,一旦査定・登録された,訂正を求めていない他の請求項に係る発明についての独立特許要件の具備の有無にも係らしめるというのであれば,訂正審判請求がされるたびに,特許庁は,全請求項について審査を繰り返すことになってしまうほか,特許権者が権利行使の準備等のために必要と考えている訂正について,適時に判断を得ることができない結果ともなり得るし,制度についてのこのような理解は,ひいては,特許権者が訂正したいと考えている請求項のみについて,第三者をして形式的な無効審判を請求させた上,当該審判手続において訂正請求をすることによって実質的に必要な訂正の効果を確保しようとするなど,制度の不健全な利用を招来するおそれすらある。

 したがって,平成6年改正前の特許法126条3項において,独立特許要件の存在が求められる発明は,「特許請求の範囲の減縮をした後の発明」であるというべきであり,審決の判断中,本件訂正において訂正の対象とされていない請求項3,4に記載された発明について独立特許要件の有無を検討した部分は,審決の結論を導くために必要なものではなく,そもそも本訴における審理の対象となり得ないものであったというべきである

 なお,平成20年7月10日最高裁第一小法廷判決(平成19年(行ヒ)第318号)は「特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されない。」と判断したものであるが,
 その前提として,特許査定及び訂正審判請求と訂正請求の法的性質が異なることを示すために,
「訂正審判に関しては,特許法旧113条柱書き後段,特許法123条1項柱書き後段に相当するような請求項ごとに可分的な取扱いを定める明文の規定が存しない上,訂正審判請求は一種の新規出願としての実質を有すること(特許法126条5項,128条参照)にも照らすと,複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求は,複数の請求項に係る特許出願の手続と同様,その全体を一体不可分のものとして取り扱うことが予定されているといえる。」と説示するほか,
訂正請求の中でも,本件訂正のように特許異議の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とするものについては,いわゆる独立特許要件が要求されない(特許法旧120条の4第3項,旧126条4項)など,訂正審判手続とは異なる取扱いが予定されており,訂正審判請求のように新規出願に準ずる実質を有するということはできない。」
と判示している。

 しかしながら,上記判示中において「一体不可分」とされているのは,あくまでも「複数の請求項について訂正を求める訂正審判請求」であり,「新規出願に準ずる実質を有する」との判示も,訂正が求められている請求項については,訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく新たな特許出願があったのと同様に考えることができることを述べていると理解すべきものであって,訂正が求められていない請求項を含む全ての請求項について特許性の有無を再審査することまで求められるものでないことは明らかである

訂正要件の判断にあたっての請求項の分節

2008-08-10 11:30:12 | 特許法126条
事件番号 平成19(行ケ)10362
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年08月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 取消事由1(訂正の適否の審理に関する手続違背の有無)について
(1) 原告の主張は,要するに,審決は本件訂正の内容を複数の訂正事項に分説し,各分説ごとに訂正の要件を充足するかどうかの判断をしたが,本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかどうか,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものであるかどうかについての判断は請求項に記載された発明全体を対象としてなされるべきであるから,分説された訂正事項ごとに判断するという審決の判断手法は誤りである,というものである

(2) しかし,訂正が特許法134条の2第1項ただし書並びに同条5項の規定により準用する同法126条3項及び4項の規定に適合するかどうかを判断するに当たっては,訂正前の記載と訂正により変更された内容とを対比することが必要である。

 そして,訂正により変更された内容が多岐にわたる場合には,その内容につき適宜の分説を行って,訂正前の記載の該当部分との対比を行うことも,判断手法の1つとして合理性を有するものである。

(3) そして,本件訂正のうち特許請求の範囲に係る部分について審決が行った分説は,別添審決書記載のとおりであり,その分説はいずれも適切なものであり,これらの分説による対比検討を総合した結果,各請求項全体としても,本件訂正が特許法134条の2第1項ただし書並びに同条5項の規定により準用する同法126条3項及び4項の規定に適合するとしたことも適切である。