知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

出願当時の技術水準を示す周知例と反論の機会

2007-03-16 07:07:55 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10348
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『5 取消事由4(手続違背)について
 原告は,審決は,本願補正発明が容易想到であるとした周知技術の内容及び周知例の引用文献が,拒絶査定と異なっており,この点は,新たな拒絶理由に該当すると解され,本件審判において,出願人である原告に対し,上記の新たな拒絶理由を通知し,反論及び補正の機会を与えるべきであったにもかかわらず,その手続を行っていない点で,本件審判手続には,特許法159条2項において準用する同法50条に違反する手続違背があると主張する。
 しかし,審決の上記認定部分は,周知技術として本願の出願当時の技術水準を示したものであり,特段の事情のない限り,特許法159条2項において準用する同法50条の適用はないというべきところ,本件においては特段の事情は認められない。したがって,原告の上記主張は採用することができず,取消事由4も理由がない。』

追試による引用例の認定

2007-03-16 07:06:07 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(ワ)19162
事件名 特許権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成19年03月13日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高部眞規子

『(エ) 結局,原告側の追試のうち,少なくとも原告追試bは,引用実施例16の実験工程を忠実に再現したものと評価することができる。そして,原告追試bにおいては,前記(イ)のとおり,セフジニルの無晶形のみが得られ,A型結晶が得られなかったものである。そうすると,引用実施例16の実験工程を追試したときに,セフジニルのA型結晶が得られるということはできない。
オ 小括
前記エのとおり,被告側の追試によっては引用実施例16の実験工程を忠実に再現してもセフジニルのA型結晶を得ることはできず,かえって原告側の追試によれば,セフジニルの無晶形のみが得られることが示されたものである。
よって,本件特許権の優先権主張日当時の技術常識を参酌すると,当業者において上記実施例の記載を追試してもセフジニルのA型結晶を製造することはできず,したがって,上記実施例においては,当業者において容易に実施し得る程度にセフジニルのA型結晶の製造方法が開示されているとはいえない。
そうすると,本件特許発明は,その優先権主張日前に頒布された刊行物中の引用実施例16の記載内容から容易に実施することができるとはいえず,そのことを理由とする新規性欠如の主張は,理由がない。

(4) まとめ
以上のとおり,引用実施例14及び16のセフジニルがA型結晶のものであるとはいえないし,引用実施例16の記載内容を当業者において追試すると同A型結晶を得ることができるともいえないから,被告の新規性欠如を理由とする本件特許の無効主張はいずれも理由がない。』

クレームの用語の解釈時における発明の詳細な説明の参酌の限度

2007-03-11 10:46:41 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10277
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『(2)  特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最二小判平3年3月8日・民集45巻3号123頁参照)。
 請求項2の「当接」との用語は,被告も指摘するとおり,一般的に用いられる言葉ではなく,広辞苑や大辞林にも登載されていないが,この言葉を構成する「当」と「接」の意味に照らすと,「当たり接すること」を意味すると解することができる。そうすると,請求項2の「前記カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接する」とは,「カバー体(3)の内面と保持部(5)とが当たり接すること」を意味し,「前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており」とは,「カバー体(3)のヒンジ結合側端縁部と保持板(2)のヒンジ結合側端縁部とが,当たり接することが可能な状態となっていること」を意味するものと一応理解できる。 

(3)  これに対し,審決は,本件訂正明細書の【発明の実施の形態】に係る段落【0028】【0033】に基づき,「請求項2に記載される『・・180°開いた状態において前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており,・・』なる構成について,その回動過程の180°開いた時点において,『カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部』と『前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部』とは,当接をし更なる回動を完全に阻止するものではなく,その後の回動を可能とすることを前提にその位置において当接が可能になることを特定すると定めるものである」と認定した
 要するに,審決は,「当接」の意義を,カバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が,さらなる相対回動を可能にする位置において当接する場合に限定し,さらなる回動が阻止されるような位置において当接する場合は,カバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が当たり接していても,「当接」とはいえないものと解釈したものということができる。

(4)  しかしながら,請求項2には,カバー体3が保持板2に対して収納状態(つまり0°)から180°開いた状態に相対回動可能になることと,180°開いた状態においてカバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が当接可能になることは記載されているが,カバー体3と保持板2とが180°開いた状態で当接した後,さらにカバー体3と保持板2とが相対回動するための構成についての記載はない。
 したがって,請求項2の「当接」が,カバー体3と保持板2が180°を超えて相対回動することを前提としているということはできない


 また,特許請求の範囲において同一の用語が複数用いられている場合には,特に異なる技術的意義を含むと認められない以上,同一の意味を有すると解すべきところ,請求項2には「カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接する」との記載がある。ここにいう「当接」は,単に「当たり接すること」を意味すると理解するほかなく,「その後の回動を可能とすることを前提にその位置において当接」することを意味するとは理解できない。

(5)  審決は,「当接」の解釈に当たり,本件訂正明細書の段落【0028】【0033】の記載を参酌しているところ,これらの段落には,以下の記載がある。
「【0028】「・・・。」
【0033】「・・・。」
上記記載によれば,なるほど,カバー体3と保持板2とが「当接」した後,その「当接状態」を乗り越えて,カバー体3と保持板2との相対回動を許容する構成が記載されていると認められる。
 しかしながら,上記各段落の記載を参照するとしても,「当接」という用語自体はいずれも「当たり接すること」を意味するものとして用いられているというべきであり,しかも,上記各段落の記載は,本件発明2の実施例についての説明であり,請求項2自体には,カバー体3と保持板2とが180°開いた状態で「当接」した後,その「当接状態」を乗り越えて,カバー体3と保持板2との相対回動を許容するとの構成についての記載はないことは前記判示のとおりである


 そうすると,請求項2の「当接」という用語の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとして,本件訂正明細書及び図面を参酌するとしても,同請求項の「当接」は「当たり接すること」を意味するにとどまるというべきであって,審決のように「当接」の意義を限定的に理解することは相当ではない。』

(感想)
 29条2項等の審査時における発明の要旨の認定の際には、発明の詳細な説明の記載を、クレームの記載を超えて参酌しても許される、と考える立場もあった。例えば、意見書において、クレームに記載のない発明の詳細な説明を引用して、相違点を主張する方法は多く用いられるところである。

 この判決は、そのような扱いを否定し、請求項に記載のない範囲まで、参酌によって読み込むことを否定するものであると解される。

外国法人が国内販売代理店を通じて販売する場合の確認の利益

2007-03-11 10:12:18 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10060
事件名 商標権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件
裁判年月日 平成19年03月06日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

確認の利益は,判決をもって法律関係の存否を確定することが,その法律関係に関する法律上の紛争を解決し,当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められると解すべきである
 本件においては,被控訴人の指摘するとおり,控訴人製品を日本国内で販売しているのは控訴人モンスター・ケーブルの販売代理店である控訴人イースであり,控訴人モンスター・ケーブルが日本国内で控訴人製品を直接販売しているわけではない。
 しかしながら,控訴人イースは,控訴人モンスター・ケーブルの販売代理店として,控訴人標章が付された控訴人モンスター・ケーブルの製品を輸入,販売しているのであるから,控訴人標章が本件登録商標に類似しているとして,同標章を付した控訴人製品の販売が差し止められた場合には,控訴人イースが控訴人製品を販売することができなくなるのみならず,控訴人モンスター・ケーブルにとっても,自らが製造し,控訴人標章を付した控訴人製品の日本国内における販売が差し止められることになる。また,控訴人イースの販売する控訴人製品の販売が,本件登録商標を侵害するとして差し止められた場合,販売代理店契約の解除などの形で製造業者である控訴人モンスター・ケーブルの法律上の地位又は利益が影響を受ける可能性も高い。
 そもそも,本件のように外国法人がその標章を付した製品を日本国内で販売する場合,自らの営業所やインターネットを通じて販売するか,販売代理店を通じて販売するかは,販売方法や経路の違いにすぎず,当該外国法人と第三者との間に商標権をめぐる紛争が生じたときに,当該外国企業がその製品を日本国内で直接販売している場合には商標権に基づく差止請求権不存在確認の利益を有するが,販売代理店を通じて販売する場合には同確認の利益がないと解することは,とりわけ,販売代理店が当該外国企業の意向に従って商標権に基づく差止請求権不存在確認訴訟の提起に踏み切るとは限らないことを考慮すれば,合理的な理由はないというべきである

 本件においては,控訴人モンスター・ケーブルが自らの標章を付して製造した控訴人製品の販売が本件登録商標と類似しているかどうかが主たる争点であり,この点について最も適切に争い得るのは,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人であることは明らかである。したがって,控訴人イースが本件訴訟の当事者であることを考慮してもなお,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人との間で,本件登録商標と控訴人標章が類似しているかどうかについて主張立証を尽くし,本件登録商標の侵害の存否を確定することが,本件紛争を解決する上で,必要かつ適切であるということができる。
 以上によれば,本件では,控訴人モンスター・ケーブルと被控訴人との間において,判決をもって本件商標権の侵害の有無を確定することが,本件紛争を解決し,控訴人モンスター・ケーブルの法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切であり,控訴人モンスター・ケーブルは,本件訴えにつき,訴えの利益を有するというべきである。』

ア 外観
 (ア) 本件登録商標1及び3は,カタカナ部分を「モンスターゲート」として把握すべきことはもちろん,その欧文字部分も「Monster Gate」及び「MONSTER GATE」として一連一体に把握されるべきであり,本件登録商標2及び4についても,そのカタカナ部分を「モンスターゲート」として把握するとともに(本件登録商標4),その欧文字部分を「MONSTERGATE」として一連一体に把握されるべきであることは,当事者間に争いがない。

 ・・・
 控訴人標章の欧文字は,「MONSTER」を上段に配し,「GAME」を下段に配した上で,下段の「GAME」の文字に左横に,「>>>」という図形と,2つの円を同心円状に配し2本のクロス線と重ね合わせたターゲットをイメージさせる図形を配している。これに対し,本件登録商標1及び3は,「Monster Gate」ないし「MONSTERGATE」との欧文字(標準文字)を横一列に配したものであり,また,本件登録商標2及び4の欧文字は,縁取りがされ,立体感を強調して図案化されたものであり,横一列に配された「MONSTERGATE」との欧文字の中央下部には,盾と剣の図柄が配されている。この図柄は,控訴人標章の下段に配された図形とは異なる。

 このように,本件登録商標と控訴人標章には外観上の相違点が存在するものの,両者は,それぞれ11文字ある欧文字のうち,控訴人標章の「M」と本件登録商標の「T」(又は「t」)が異なるにすぎず,その他の「MONSTER」(又はMonster」),「G」,「A」(「a」),「E」(「e」)は同一である。これらの欧文字は,本件登録商標ないし控訴人標章の主たる部分を構成し,最も看者の目を惹くものである。その構成文字が1文字を除いて同一である以上,その他の図形,カタカナ,文字のデザイン等において相違する点があるとしても,本件登録商標と控訴人標章の外観は,これを離隔的に観察すると類似しているというべきである

イ 称呼
 控訴人標章からは「モンスターゲーム」との称呼が生じ,本件登録商標からはいずれも「モンスターゲート」との称呼が生じるところ,その差異は語尾が「ム」であるか「ト」であるかが異なるにすぎない。「ム」と「ト」は,いずれも語尾に位置することもあって,日常生活上の発声においては,必ずしも強い音として明確に発音されるとは限らないことを考慮すると,本件登録商標と控訴人標章とは,称呼において類似するということができる

ウ 観念
 「MONSTER」は「怪物,化け物」又は「怪物のように巨大な」を意味する語として,「GAME」は「ゲーム」又は「試合」を意味する語として,いずれも一般に広く認知された英単語である。控訴人標章の「MONSTER GAME」なる語は,「MONSTER」と「GAME」とが結合した造語であり,それ自体として一般に認知された意味を有するものではないが,「怪物の登場するゲーム」,「怪物により行われる試合」などといった観念を生じ得るものと認められる。
 他方,「GATE」は「門」ないし「出入口」を意味する語として一般に広く認知された英単語である。本件登録商標の「MONSTER GATE」(又は「MONSTERGATE」)は「MONSTER」と「GATE」を結合した造語であり,それ自体として一般に認知された意味を有するものではないが,「怪物のように巨大な門」,「怪物の住む世界への出入口」,「怪物の使用する出入口」などといった観念を生じ得るものと認められる。
 そうすると,控訴人標章と本件登録商標は,いずれも明確な観念が生じるものではないが,そこから生じ得る観念は必ずしも類似するものではないということができる

エ 取引の実情
(ア) 控訴人製品や本件登録商標を付したゲームの取引の実情に関し,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
  ・・・

(イ)  以上の事実によれば,控訴人モンスター・ケーブルは,オーディオ,ビデオなどに用いられる高性能ケーブルの製造業者であり,テレビゲームの音声や映像を特に重視するゲーム愛好家を主要な購買層とするものと認められる。しかしながら,控訴人製品は,家庭用テレビゲーム機「プレイステーション2」及び「Xbox」に対応する製品であることからすると,控訴人製品がこれらの家庭用テレビゲーム機とともに販売されることも多いと考えられ,その需要者が高品質の音声や映像を求めて控訴人製品を購入することも十分に考えられる。そうすると,控訴人製品の需要者としては,テレビゲームの音声や映像を特に重視するゲーム愛好家に限らず,家庭用ゲーム機の需要者一般を想定するのが相当である
前記認定のとおり,控訴人製品はゲーム用ケーブルであり,外からケーブルが見えるような包装であるため,その購買者が控訴人製品をゲーム機であると誤認することは少なく,また,本件登録商標に係る「モンスターゲート」ゲームは,「対戦型メダルゲーム」であり,控訴人製品が対応している家庭用テレビゲーム機とは異なる。

 しかしながら,ゲーム機とその周辺機器であるゲーム用ケーブルは,被控訴人あるいは他のゲーム機メーカーの製造したゲーム機と同一の店舗や近接する売場で販売される可能性が高く,控訴人製品はゲーム用ケーブルであるが,「MONSTER GAME」との標章が付されていることに照らすと,モンスターゲートその他の被控訴人のゲームのケーブルであると誤認されるおそれがないとはいえない。また,前記のとおり,本件登録商標と控訴人標章とは外観上類似していることや,控訴人モンスター・ケーブルは,我が国においてゲーム機用ケーブルのメーカーとしては必ずしも一般に広く認知され高い知名度を獲得するにはいまだ至っていないことなども併せ考えると,控訴人標章を控訴人製品に付すことにより,本件登録商標との関係で,出所の誤認混同を引き起こすおそれがあるというべきである

オ 以上のとおり,本件登録商標と控訴人標章とは,その観念を異にするものの,その外観及び称呼上の類似性,取引の実情などを総合的に考慮すると,類似しているということができる

4 結論
 以上のとおりであるから,控訴人イースの請求は理由がないので,棄却されるべきものであり,同控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,同控訴人の控訴は棄却することとする。
 また,控訴人モンスター・ケーブルの訴えは適法であるが,その請求は理由がなく棄却されるべきものであるところ,原判決は同控訴人の訴えを不適法として却下しているのに対し,被控訴人は控訴も付帯控訴もしていないことから,控訴人モンスター・ケーブルの請求を棄却することは同控訴人の不利益に原判決を変更することになる。このため,控訴人モンスター・ケーブルの訴えを却下した原判決を維持するため,同控訴人の控訴を棄却することとする。』

サポート要件(医薬分野の一例)及び出願後の文献による補足の可否

2007-03-11 08:17:24 | 特許法36条6項
事件番号 平成17(行ケ)10818
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

医薬についての用途発明においては,物質名や化学構造からその有用性を予測することは困難であって,発明の詳細な説明に有効量,投与方法,製剤化のための事項がある程度記載されていても,それだけでは,当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることはできず,発明の課題が解決できることを認識することはできないから,さらに薬理データ又はこれと同視することのできる程度の事項を記載してその用途の有用性を裏付ける必要があるというべきである。そして,その裏返しとして,特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付けを超えているときには,特許請求の範囲の記載は,特許法36条5項1号が規定するいわゆるサポート要件に違反するということになる。』

『 原告は,本件明細書は,タキソールの175mg/m 及び135mg/m の用量で3時間注入という特定の用法,用量で所望の効果が得られることを開示した具体的記載(段落【0026】,【0028】及び【0030】)を踏まえて,「更に,より高投与量のタキソールで治療し得る患者には,約275mg/m までのタキソールが投与でき,・・・」(段落【0041】)と開示しているのであって,これが,同用法,すなわち3時間注入で135mg/m や175mg/m よりも高用量のタキソールを投与することを意図しているのは,当業者であれば,極めて容易に理解することができるし,仮に段落【0041】の記載が3時間投与に限定されたものでないとしても,特許請求の範囲で限定している好ましい3時間注入を専ら意図しているのは,明細書全体の記載からみて自明のことであると主張する。

 しかしながら,本件特許発明が3時間注入で135mg/m や175mg/m よりも高用量のタキソールを投与することを意図し,又は専ら意図しているものであるとしても,上記(3)のとおり,発明の詳細な説明には,3時間のタキソール投与量が175mg/m を超えるものについては,その有効性や安全性を裏付ける記載がないのであるから,本件特許発明1ないし3に係る特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明の裏付けを欠いていることに変わりはない。』

『 原告は,高投与量の3時間注入という条件で予備投薬中の固形癌,白血病又は卵巣癌の患者に適用したときに望ましい効果が現に得られることは,高用量のタキソールを用いた日本での試験結果である甲9ないし11に示されているとおりであると主張する。
 しかしながら,上記(3)のとおり,発明の詳細な説明には,3時間のタキソール投与量が175mg/m を超えるものについては,その有効性や安全性を裏付ける記載がないのであるから,当業者は,タキソールが実際にその用法,用量で有用性があるか否かを知ることができない。そして,甲9ないし11は,甲9が1995年(平成7年)12月,甲10が1996年(平成8年)2月,甲11が1995年(平成7年)6月といずれも本件特許発明の特許出願後に刊行された文献であるところ,これらにおいて,高投与量の3時間注入という条件で予備投薬中の固形癌,白血病又は卵巣癌の患者に適用したときに望ましい効果が現に得られることが開示されているとしても,これをもって,発明の詳細な説明の記載内容を補足することは許されないというべきである。』

商標を構成する漢字の読み方に、簡易迅速性を重んじる取引の実情を考慮した例

2007-03-11 08:03:47 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10512
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟 裁判長裁判官 塚原朋一


『(2) 本件商標の指定商品は,「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であり,引用商標のそれは,「ビール」及び「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であって,取引者及び需要者を共通にし,かつ,需要者は,漢字に対し特別な知識を有していない一般大衆であって,これを購入するに際して払われる注意は高度なものではないということができる。そして,上記(1)のとおり,当用漢字改定音訓表(昭和47年6月28日)や常用漢字表(昭和56年10月1日内閣告示)は,一般の社会生活における漢字使用の目安を示したものであるが,漢字「寛」について「カン」と記載し,また,近時の国語辞書においては,「くつろぎ」の見出しに「寛ぎ」と記載されていることを併せ考えると,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者は,引用商標を構成する「寛」の文字について,通常,「カン」と読むほか,人名の「ヒロシ」と読み,送り仮名に「ぎ」が付されているのであれば格別,送り仮名に「ぎ」が付されていないにもかかわらず,ことさらに「クツロギ」と読むことがあるとは認め難い
 そうであれば,引用商標からは,「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生じるものであって,「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。

(3) 原告は,「くつろぎ」の見出しに「寛」の表示をしている国語辞典は現在でも存在するし,「当用漢字改訂音訓表」や「常用漢字表」は,漢字使用の目安を示したもので,表示した音訓以外は使用しないという精神によって定められたのではなく,また,「送り仮名について」(昭和48年6月18日内閣告示)が改正された昭和56年以前に社会人であった者は多数存在しているのであって,「寛」の表示を「くつろぎ」と称呼する需要者も少なくないから,引用商標から「クツロギ」の称呼が生ずると主張する。
 しかしながら,「寛」の文字から「クツロギ」と読むことができるとしても,上記(2)のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者が,「寛」の文字について,ことさらに「クツロギ」と読むとは認め難いのであって,引用商標から「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。』


損害の額の推定規定(114条3項)の適用、著作者人格権侵害の損害額の算定例

2007-03-11 07:50:56 | Weblog
事件番号 平成18(ネ)10090
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟

『(イ)  前提事実(3)イのとおり,本件侵害部分は本件テキストの本文50頁中10頁であるから,本件業務委託上の上記テキスト作成料の規定を形式的に適用して対価の額を算定すると,その額は多くとも6万円(6000円×10頁=6万円)となる。
しかし,被控訴人東京LMと被控訴人研究所との間で締結された本件業務委託契約は,被控訴人研究所が被控訴人東京LMから中小企業診断士試験用講座に関して,テキスト作成,答案添削等を含めた講義について,個々的に分離して実施するのではなく,あくまでも包括的に業務委託を受けることを前提としたものであるから,同契約書(乙1の1)に記載された各報酬費目は,被控訴人東京LMから被控訴人研究所に対して支払われる委託報酬総額について,各報酬費目ごとに便宜的に割り付けて決められた性質を有する面があることも否定できない。そして,本件テキストは合計350部印刷されているが(前提事実(3)イ(イ)),この印刷部数は概ね5年間の講義において使用することを念頭に置いたものである。また,本件テキストは,その性質上,被控訴人東京LMの委託により実施される上記講座の講習生のみに配布されるものであるから,これを入手しようとする者は,受講料全額を支払って受講生となるほかない。
 上記のような事情を勘案するときは,原告著作物の著作権侵害行為について著作権法114条3項に基づき損害額を算定するに当たって,本件業務委託契約上のテキスト作成料の規定を形式的に適用することは相当ではなく,上記講座の委託につき支払われる報酬総額や本件テキストの利用方法の特殊性等の各事情を総合考慮して,上記損害額については30万円と認めるのが相当である。』

『 このように,被控訴人らの行為により,原告著作物の内容について,これを交付するに際して被控訴人Y1から受けていた説明の趣旨に反して,控訴人の意図に反する形態で,これを掲載した刊行物に先立って公表がされた点は十分考慮すべきものであるが,本件テキスト350部のうち受講生等に配布された数は70部余であること,本件テキストの内容は,中小企業診断士の試験用講座の教材であるという性格上,他の参考文献に記載された文章や図表を引用し又は要約した部分が多いものであること等の事情をも勘案し,加えてその他本件にあらわれた諸般の事情を総合考慮すれば,本件における著作者人格権(公表権,氏名表示権,同一性保持権)侵害による損害額については,20万円と認めるのが相当である。』



再審請求を却下する審決までに、再審請求の瑕疵が治癒した場合

2007-03-11 07:38:01 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10514
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『1 特許庁における手続の経緯
 原告は,発明の名称を「家ダニ駆除沸湯容器」とする発明につき,平成12年4月14日,特許を出願(特願2000-152126。以下「本願」という。)したが,平成14年8月16日付けの拒絶査定を受けた。原告は,同月30日,審判請求を行うとともに,同日付け手続補正書を提出した。

 特許庁は,この審判請求を不服2002-19586号事件として審理し,その結果,平成18年1月24日,平成14年8月30日付け手続補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)をし,平成18年2月12日,前審決の謄本が原告に送達された。

 原告は,平成18年2月20日,前審決に対する再審の請求(以下「本件審判請求」という。)をした。特許庁は,本件審判請求を再審2006-95003号事件として審理し,その結果,平成18年10月16日,「本件審判の請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同年11月8日,本件審決の謄本が原告に送達された

2 審決の理由
 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件審判の請求は,前審決が確定していないにもかかわらず,前審決の再審を求めるものであり,「確定審決」に対して請求されたものではないから,不適法であって,その補正をすることができない,仮に再審の請求が「確定審決」に対して請求されたものであるとしても,原告の主張内容は,本来,特許法178条1項の規定に基づいて,前審決に対する取消しの訴えを提起して主張すべきものであって,再審の請求に基づいて主張することは許されない,とするものである。』

『第5 当裁判所の判断
1 原告の主張する取消事由について
原告の主張する取消事由は,前審決がした認定判断を非難するものであり,前審決に対する取消しの訴えを提起して主張すべき事由であって,本件審決の取消事由とはならないものである。

2 本件再審請求の適法性について
 前記第2の1のとおり,本件審判請求がされたのは平成18年2月20日であるところ,前審決の謄本が原告に送達されたのは同月12日であり,本件審判請求の時点では,前審決は確定していない。しかし,本件審決がされた同年10月16日の時点では,前審決は確定していたものである。

 特許法171条1項によれば,再審の請求が「確定審決に対して」されたものでなければ,不適法であるが,同法135条は,「不適法な審判の請求であって,その補正をすることができないものについては,…(中略)…審決をもってこれを却下することができる」と定めているところ,本件再審請求の時点で前審決が確定していなくても,本件審決の時点で前審決が確定していれば,本件再審請求の瑕疵は治癒されたものというべきであるから,上記瑕疵を理由として本件再審請求を却下することはできないと解するのが相当である

 しかしながら,本件再審請求書(乙第3号証)の記載をみるに,同請求書において,特許法171条2項が準用する民事訴訟法338条1項及び2項並びに339条所定の事由を,原告が主張しているとは認められない。したがって,上記の瑕疵が治癒されたとしても,再審事由の主張のない本件再審請求は,いずれにしても不適法というべきであるから,本件審決の判断には,結論において誤りはない。』


特許法29条2項のクレームの用語解釈の例

2007-03-11 07:22:45 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10202
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

『本願発明の構成中の「(所定の波長の光に対する)反射率が高い薄膜層」の意義については,①特許請求の範囲の記載において,「反射率が高い」と記載され,格別の限定はないこと,②本願明細書の発明の詳細な説明には,薄膜層は,本願発明に係る光ディスクを使用する際に,ディスク駆動装置の光ヘッドが各データ面から同量の光を受け取ることができるように,データ面における所望の量の光の反射をもたらすためのものであることが説明されていることが認められ,上記記載に照らすならば,「反射率が高い薄膜層」とは,「該データ面のデータを読み取れる程度に再生波長(所定の波長が再生波長を指すことについて争いはない。)の光を反射する薄膜層」であると理解すべきであって,これをもって足りる。

 この点,原告は,「反射率が高い薄膜層」とは,「屈折率が高く,かつ吸光係数が低い材料からなる薄膜層」であると解すべきであると主張する。

 しかし,材料,屈折率及び吸光係数については,特許請求の範囲の記載において格別限定されていないし,発明の詳細な説明等を参照しても,そのように限定的に理解すべき根拠は見い出せない。原告のこの点の主張は採用できない。』

プログラムの機能を分割して独立した手段とした場合

2007-03-11 07:09:14 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10779
事件名 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官三村量一

『 原告は,刊行物1記載の「コントローラ部210」は,たとえ2分割しても本件発明1の課題を達成することができるものではないし,各接続方式との関係を示唆する何らの記載もないから,本件発明1の「前記印刷情報データを受信する印刷装置インターフェース制御部」と「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当しないと主張する。

 しかしながら,刊行物1によれば,刊行物1記載発明の「コントローラ部210」は,「転送されてきた印刷コマンドに基づき,…(中略)…印刷イメージを展開」して,後に「レーザプリンタエンジン211によって印刷」される機能を有するもの(刊行物1の6頁左下欄10行~14行)であることが認められる。したがって,「コントローラ部210」は,本件発明1における「前記ホストコンピュータインターフェース制御部から前記接続方式に対応した転送方式で転送されてきた前記印刷情報データを受信する」機能及び「前記印刷装置インターフェース制御部が受信した前記印刷情報データに基づき印刷制御を行う」機能を共に有するものである。

 上記のとおり,刊行物1記載発明の「コントローラ部210」が本件発明1の「印刷装置インターフェース制御部」と「印刷装置データ処理部」とを兼ねたものに相当するとの決定の認定に誤りはない。』

 『原告は,本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」は,各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて,2分割し,機能分けをしたものであると主張する。

 しかし,特許請求の範囲には,「各接続方式に対応する書き出しプログラム」の文言はなく,発明の詳細な説明にも,そのように限定的に解釈すべき記載はない。本件発明1の「ホストコンピュータデータ処理部」及び「ホストコンピュータインターフェース制御部」を各接続方式に対応する書き出しプログラムに代えて2分割し機能分けしたものであると限定的に解釈すべき理由がない。』


基本的な測定原理の開示を欠いて実施できないとされたもの

2007-03-11 06:48:18 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10083
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『(3) 原告は,本願発明は物質の発明に関するものであるから,その得られた物質の物性等の測定を,発明完成時に存在したその分野で知られている測定装置を使用してその測定結果を測定し,その測定結果を明細書に記載すれば足りる旨主張する。
ア 発明の構成を特定する指標の測定方法に関して,測定装置から直接得られる実測値だけで特定できる場合,あるいは測定方法自体が周知慣用である場合は,測定装置あるいは測定結果を記載する程度の開示であっても当業者は容易に理解できるといえるが,それに当たらない測定方法の場合は具体的な説明が必要である。
イ 本願発明は,溶融相の含有量を「ポリマー含量の5~50重量%」からなる点をその構成要件としているから,製造されたポリマー物質において当該含有量を特定する必要があるところ,本願明細書には,DSC装置を用いることは記載されていても,DSC装置を用いてどのような数値を測定し,どのように計算すれば当該含有量を得られるのかが明らかにされておらず,また,原告の主張する測定方法が本願の優先権主張日当時,技術常識であったと認めるに足る証拠も見当たらないことは,すでに説示したとおりである。
ウ そうすると,本願発明の内容を理解するに当たり,測定装置を構成する学術的な測定原理は必要としないまでも,基本的な測定原理そのものが本願明細書に記載されていないのであるから,上記含有量の測定方法について当業者が容易に理解できる程度に記載されていないことは明らかである。原告の主張は採用することができない。』

周知著名である商標をその主要な構成部分に含む商標

2007-03-09 01:44:03 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10375
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官篠原勝美

『 商標法53条1項は,商標権者からその商標権について通常使用権の許諾を受けた通常使用権者が,指定商品又はこれに類似する商品についての登録商標に類似する商標の使用であって他人の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたときは,何人も,当該商標登録を取り消すことについて審判の請求をすることができるとして,使用権者の不正使用による商標登録取消審判の制度を定めている
 原告(請求人)は,本件商標について商標権者である被告から通常使用権の許諾を受けた本件通常使用権者が,指定商品についての登録商標に類似する商標である本件使用商標の使用であって原告の業務に係る商品と混同を生ずるものをしたとして,上記規定に基づき,本件商標の商標登録を取り消すことについて本件審判の請求をした。
 これに対し,審決は,「本件通常使用権者の使用する『EVEPAIN』(注,本件使用商標)は,その使用によっても,請求人(注,原告)又は請求人と経済上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというを相当とする。」(審決謄本16頁第4段落)と判断し,原告は,取消事由1ないし3において,審決の判断の誤りを主張する
ので,これらを一括して検討する。』


『4 本件使用商標と引用商標の類否,出所混同のおそれについて
(1 ) 本件使用商標は,「EVEPAIN」の欧文字からなるものであるところ,被告商品における使用態様は,別紙2のとおり,「EVEPAIN」を製品パッケージ正面の上段に白抜きのややデザイン化した欧文字により大きく横書きしているものである。

 「EVEPAIN」は,その下に付された片仮名文字からも,「イブペイン」との称呼を生ずるものであるが,それ自体,直ちに一体として特定の観念を生ずるものではない

 他方,「PAIN」ないし「pain」は,「痛み」等を意味する比較的平易な英単語であり,「ペイン」についても,「痛み。苦しみ。」(大辞林第三版)と説明され,「ペインクリニック」は,「神経痛・癌末期の痛みなど,治りにくい痛みの軽減を目的とする診療部門。」(大辞林第三版),「末梢神経・神経叢・神経節などに局所麻酔薬あるいは神経破壊薬を注射して,各種の痛みをとることを専門とする診療部門。」(広辞苑第五版)であって,古くは,自由国民社発行の1969年(昭和44年)版「現代用語の基礎知識」に「ペインクリニック」の語が掲載され,その他,集英社発行の1987年(昭和62年)版「imidas」,朝日新聞社発行の1990年(平成2年)版「知恵蔵」に「ペインクリニック」の語が掲載されている(甲39ないし41)。

 そうすると,「EVEPAIN」のうち,「ペイン」の称呼を生じる「PAIN」の部分は,これに接した取引者,需要者に,「痛み」の観念を生じさせるものと認められ,特に,原告商品の製品パッケージ正面には,前記3(2)のとおり,「痛み・熱36錠」と付記されているところ,別紙2のとおり,被告商品の製品パッケージ正面にも「痛み・熱に」と記載されているように,被告商品は,鎮痛・解熱剤であって,「痛み」に関連する商品であり,被告商品においては,「痛み」は,商標が付された商品自体の特性に係るものであるから,このことからも,より一層,「EVEPAIN」のうち,「PAIN」の部分は,「痛み」との観念が生じ得るものということができる。

 このことに,「EVE」の欧文字と「イブ」の片仮名文字からなる引用商標が,前記3(2)のとおり,鎮痛・解熱剤である原告商品を表示するものとして,周知著名な商標になっていたこと,被告商品も鎮痛・解熱剤であること,被告商品は,別紙2のとおり,製品パーケージにおいて,引用商標と同様,欧文字を大きく表示するという使用態様であること,「EVEPAIN」は欧文字の7文字で構成され,それを「EVE」」と「PAIN」とに分離することが取引上不自然なほど,不可分に結合しているとまで断定することはできず,審決の「不可分一体に構成され・・・『EVE』と『PAIN』とが軽重の差がなく結合し,分離不能なほどに,一体的な強い結合状態をなしている」(審決謄本15頁下から第2段落)との判断はにわかに首肯し難いことを併せ考慮すると,被告商品に付せられた本件使用商標である「EVEPAIN」に接した取引者,需要者は,それらを「EVE」と「PAIN」とからなるものと理解し,「EVE」の部分においては,周知著名な引用商標を想起するとともに,「PAIN」の部分は,「痛み」との観念を生じ,その商品の特性に係る部分であり,周知著名な引用商標に係る原告商品の関連商品の特性を示す部分として認識され,それ自体としては自他識別力を欠くものと認めるのが相当である。

 そうすると,本件使用商標は,原告の製造,販売する鎮痛・解熱剤を表示するものとして周知著名である引用商標をその主要な構成部分に含む商標として,当該構成部分が他の部分から分離して認識され得るものであり,引用商標と観念において類似し,外観,称呼の一応の相違をしのぐものと認められる。

 そして,本件使用商標を鎮痛・解熱剤である被告商品に使用したときは,本件使用商標と原告の引用商標とが類似することから,これに接した取引者,需要者に対し,その商品が原告又は原告と何らかの緊密な営業上の関係にある者の業務に係る商品であるかのように,その出所につき混同を生ずるおそれがあるというべきである。 』


『以上によれば,本件通常使用権者による,本件商標に類似する本件使用商標の使用は,原告又は原告と何らかの緊密な営業上の関係にある者の業務に係る商品であるかのように,その出所につき混同を生ずるおそれがあるというべきであるから,これと異なる審決の判断は誤りというべきである。そして,本件商標の商標権者である被告は,商標法53条1項ただし書所定の事由,すなわち,本件通常使用権者の上記不正使用の事実を知らず,かつ,相当の注意をしていたことについては,何ら主張・立証しないのであるから,上記判断の誤りが審決の結論に影響することは明らかである。原告の取消事由1ないし3の主張は,以上の趣旨をいうものとして理由があり,審決は取消しを免れない。』


組み合わせの動機付けの検討例

2007-03-09 01:04:43 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10350
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官中野哲弘

『 第1引用発明は,おむつを着用者へ取り付けるとき,出っ張り部50を含むウエストの伸縮性部材38又は40に取付操作中に発生する張力が伸縮性部材34,36を直接膨張させることにより着用者の回りでの脚カフのよりきつい嵌合が保証される,という本願発明と同様の効果を奏するから,おむつの縦方向の長さ調節のために,後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくするという,第2引用例に開示されている上記(2)の技術的事項を第1引用発明と組み合わせる動機付けが存在するということができるし,また,第2引用例に記載された上記(2)の技術的事項を第1引用発明と組み合わせることによって,様々な寸法の着用者に応じて脚カフの嵌合具合を調節することができるという効果を奏することができるというべきである。

 なお,第2引用例には,「前記前方ウエスト部分の取付手段の幅の前記後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する百分率比は約10%ないし約30%の間,好ましくは約25%であること」という,本願発明の数値は記載されていないが,おむつの縦方向の長さ調節のために,後方ウエスト部分の取付手段の幅を前方ウエスト部分の取付手段の幅より大きくするに際して,前方ウエスト部分の取付手段の幅の後方ウエスト部分の取付手段の幅に対する割合をどの程度にするかは,当業者が適宜選択すべき事項であって,本願の発明の詳細な説明(甲5)にも,前記2(1)ア(イ)のとおり,この数値が好ましいと記載されているのみであるから,この数値について当業者が容易に想到し得るものではないということはできない。』

相違点に副引用例を適用する理由が十分に検討されていない場合

2007-03-09 00:57:36 | 特許法29条2項
裁判年月日 平成19年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

『6 取消事由5(審決判断2における相違点1についての判断の誤り)について原告は,引用発明2における「一時的なパスワードとユーザID」をバーコードに置き換えるようなこと(正確には,上記のとおり,「『一時的なパスワードとユーザID』を『バーコードと発信者番号』に置き換えること」であり,対応関係を考慮すれば,「『一時的なパスワード』を『バーコード』に置き換えること」である。)を,当業者が行うとは考え難い旨主張する。

 しかるところ,甲第1号証には,審決が認定するとおり,「・・・」(段落【0113】)との記載があり,この記載によれば,認証用コード(ユーザーコード情報)には,様々な種類があり,かつ,その種類によって入力手段(入力装置)も異なることが認められる。そうすると,当業者がどのような認証用コードを選択するかについては,認証用コードを用いる目的や,それぞれの認証用コードを用いた場合の利害得失,認証用コードを入力する状況(入力者が,認証要求者側であるか,被認証者であるか,入力場所が認証要求者の支配領域であるか,被認証者の支配領域であるか,認証要求者と被認証者が対面しているか否か等)などを考慮して決定されるものであることは明らかであって,これらの点を度外視して,特定の認証用コードが,周知又は公知であるからといって,それを適用することが直ちに容易であるとすることはできない。』

『 甲第3号証には,・・・ との各記載があり,これらの記載によれば,引用発明2は,ネットワークサービスに関する利用者の認証システムであり,認証用コードである「一時的なパスワード」は,例えば「VWXYZ」のような文字メッセージであって,利用者(被認証者)により,利用者のパーソナルコンピュータに入力されるものであることが認められ,また,認証用コードを使用する場所は,利用者の自宅等,被認証者の支配領域内であり,被認証者と認証要求者(ネットワーク資源の提供者)とは対面しておらず,認証用コードは,利用者のパーソナルコンピュータのキーボードという,通常,パーソナルコンピュータに付属し,かつ,汎用性の高い入力機器によって入力されることが示唆されているということができる。

 そうすると,上記甲第2号証の場合において,認証用コードとしてバーコードを利用することを合理的とした事情,とりわけ,店舗内という他の来店客等の目を考えなければならない状況,認証要求者側の者と被認証者が,認証要求者の支配領域内で対面し,認証コードの入力を認証要求者側が,認証要求者の装置で行い得るという不正に対処する上での利点,バーコード読取り装置の汎用性のないという欠点を,多数の来店客について使用することによって補い得ること等は,引用発明2においては存在し得ない条件となるから,これらの点について何ら考慮することなく,甲第2号証に,携帯電話を認証に用いる際,認証用コードとしてバーコードを表示するものが示されているとの理由により,引用発明2に,認証用コードとしてバーコードを適用することが,当業者に容易になし得ることとするのは誤りである。 』

特許発明の記載要件の判断例

2007-03-08 06:42:40 | 特許法36条6項
事件番号 平成15(ワ)16924
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成19年02月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一


『10 本件明細書の発明の詳細な説明の記載が改正前特許法36条4項及び5項2号の規定する要件を満たしているか(争点9)。
 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,本件訂正後の請求項1の記載と比べ,本件各特許発明の特徴的部分である,搬送部の伸縮のための制御についての記載がないことから,「発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項」とはいえず,改正前特許法36条5項2号に違反にしているとみることも可能であるとしても,その無効理由は本件訂正により解消されているものというべきである。また,被告が主張する改正前特許法36条違反の無効理由がいずれも理由がないことは,次に述べるとおりである。

(1) 共通駆動部の左右のアームを単一部材で構成する旨の記載の欠如と改正前特許法36条4項及び5項2号違反について
 前記5(2)ウb)認定のとおり,本件各特許発明の特許請求の範囲の請求項1及び6の記載及び本件明細書から,本件各特許発明の共通駆動部は,回動中心の左右のアーム全体が一体的に回動される部材であると解される。
 そして,本件明細書の実施例において開示されている「共通駆動部」は,いずれも回動中心の左右のアームが単一の部材であり,全体が一体的に回動される部材であるから,本件明細書について改正前特許法36条4項の規定違反がないことは明らかである。
 また,本件明細書の請求項1及び6においては,「共通駆動部」について,左右のアームが一体的に回動されるとの記載はないものの,「共通駆動部」の技術的意義が一義的に明らかではないことから,その発明の詳細な説明を参酌してこれを解すべきことは前記のとおりであり,その「共通駆動部」の技術的意義として,左右のアームが一体的に回動制御される部材であると解すべきことも前記のとおりである。したがって,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1及び6における「共通駆動部」についての記載が,被告主張の理由により,改正前特許法36条5項2号に違反するものとまでいうことはできない。