知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

動機づけがないばかりか阻害事由があるとした事例

2013-02-27 22:33:25 | 特許法29条2項
事件番号 平成24(行ケ)10166
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光

 以上のとおり,引用発明1及び2と本願発明とは,いずれも運動靴の靴底(表底)に関するものであって,技術分野を同一にするが,引用発明1は,運動靴の接地に伴う急速な安定性を解消して弾性をもたらそうとするものであるのに対し,引用発明2及び本願発明は,運動靴の接地に伴う弾性を解消して安定性をもたらそうとするものであって,その解決課題及び作用効果が相反しているから,引用例1には,本願発明の本件相違点に係る構成を採用すること又は引用発明2を組み合わせることについての示唆も動機付けもないばかりか,引用発明1は,接地による荷重が掛かった際に上部辺が前後に揺れるような構成を採用しているため,これとは相反する本願発明の本件相違点に係る構成を採用することについて阻害事由があるということができ,さらに,仮に引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても,それによって本願発明の本件相違点に係る構成が実現されるものではない。
 したがって,引用例1に接した当業者は,これに引用発明2を適用して本願発明の本件相違点に係る構成を容易に想到することができたということはできない。

明細書の要旨を変更するとした事例

2013-02-27 22:19:36 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ケ)10401
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光

ウ 本件発明における「無線電話通信システム」が備える「交換システム」は,特許請求の範囲の記載において,システムを構成する内部機器等の具体的構成を限定するものではないが,一定の形状や構造を有する実体を有することが前提となっていることは明らかである。
 また,本件発明における「送信」及び「受信」という文言も,本件特許の特許請求の範囲の記載における「伝える」「送り」「受信する」「送り出し」「送信する」「受信される」という各文言と同様に,「外へ(送信)」及び「外から(受信)」という意義を当然に含んでいるということができる。出トラヒックに関する「セルによってサービスされる無線電話に向かって出て行く音声呼トラヒックを受け取り,これに応じて個々の呼の出トラヒックを運ぶパケットを統計的に多重化された形式で前記セルに接続された少なくとも1つのリンク上に送り出」すとの記載における「受け取り」及び「送り出し」についても,「外部からの受信」及び「外部への送信」を意味するものと解されるから,本件構成についても,同様に解するのが相当である。
 したがって,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項(発明特定事項)を記載すべき特許請求の範囲の記載において,送信及び受信の主体が一定の形状や構造を有する意義を持つ「交換システム」であると記載されている以上,「交換システム」による「送信」及び「受信」は,「交換システム」の内部手段と区別された外への出口及び外からの入口において行われるというべきである。

エ 以上によると,本件構成における「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムから送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムで受信されるように入トラヒックを当該交換システムが送信する時刻を制御する手段」については,これを「入トラヒックを運ぶパケットが当該交換システムの出口から送信される時刻の前の所定のウィンドウ時間内に当該交換システムの入口で受信されるように入トラヒックを当該交換システムの出口が送信する時刻を制御する手段」を意味するものと解するのが相当である。
 そして,本件発明2は,本件発明1を引用し,第2の手段がさらに出トラヒック及び入トラヒックの「コピー」に係る所定の機能を担う第3の手段を備える構成に限定するものであるから,同様に,上記手段を有するものである。

・・・
したがって,プロセッサからボコーダに送信される時刻を制御する技術的事項を開示するにすぎない本件当初明細書には,交換システムの出口から送信する時刻を制御することは記載されておらず,また,当業者が,本件当初明細書の記載から,本件構成に係る技術内容が記載されているものと理解することはできないというべきである。

イ 以上によると,本件当初明細書の発明の詳細な説明に記載された時刻の制御は,「交換システム」の「出口」から「送信」する「時刻」を制御するものではないから,本件構成は,本件当初明細書の記載の範囲内のものということはできず,本件補正は,本件当初明細書の要旨を変更したものというほかない。

権利濫用を認定した事例

2013-02-24 21:51:36 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)3460
事件名 商標権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成25年01月17日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三、裁判官 松川康,西田昌吾

(1) 本件各商標について商標権者となるべき者
 ・・・本来,被告が出願し,その商標権者となるべきであるといえる(商標法3条1項柱書)。
 このように,・・・,原告が本件各商標権を有し続けることは,私企業たる原告の一存によって,公益法人として設立された被告の事業継続を不安定にさせ得る潜在的な危険があることを意味している。

 原告が本件各商標について登録出願し,商標権者であることを直ちに違法と評価するかはともかく,被告による独占的な使用を許諾する限りにおいて,かろうじて許容されてきたものといえる。すなわち,・・・,原告は,「日本漢字能力検定」などの事業を被告に引き継いだ以上,本件各商標の登録出願をした原告が,その商標権者であり続けるということは,これらの使用許諾が当然の前提となっているというべきである。
 原告は,・・・,最も重要な「日本漢字能力検定」の事業を被告に引き継いだ以上,原告のみが本件各商標を使用することは全く想定されていないというべきである。
 ・・・
(2) 被告による使用状況
 本件各商標は,その商標登録から現在に至るまで,被告の事業の中心である「日本漢字能力検定」の事業を表すもの(本件商標1,2),あるいはこれに付随する事業を表すもの(本件商標3)として使用されてきた商標であり,前記1(2)のとおり,受検者の増加に伴い,その旨一般にも広く認識されてきたといえる。

(3) 危険性の顕在化
 ところが,前記1(4)のとおり,原告は,平成21年11月以降,本件各商標権を,被告とは関係のない第三者に移転したり,被告に対して本件各商標の使用を中止するよう通告したりした上,ついには被告による本件各商標の使用差止めを求める本件訴えの提起にまで至った。このことは,まさに原告が本件各商標権を有することに伴う前記潜在的危険性を顕在化させたものであり,原告は,その権利保有及び行使が許容される根拠を自ら喪失させたといえる。しかも,前記1に認定の事実経過からすれば,原告が本件訴えを提起したのは,本件各商標権が自己に帰属していることを奇貨とし,被告からの損害賠償請求等への対抗策として利用するためといえるが,商標制度が保護すべき権利,利益とは,およそかけ離れた目的といわざるを得ない。

(4)まとめ
 以上のとおり,本件訴えにおける原告の請求は,本件各商標権が本来帰属すべき主体である被告の事業継続を危うくさせるものでしかなく,しかも,商標本来の機能とは関わりなく,被告からの損害賠償請求等への対抗策として本件各商標権を利用しているというのであるから,そこにもはや何らの正当性はなく,権利濫用に当たるというほかない
 したがって,原告が,本件各商標権に基づき,被告による本件各商標の使用差止めを求めることは許されない。

独占的販売店等を通じて輸入された外国法人が商標を付した商品(商標法50条の趣旨)

2013-02-24 20:58:08 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10250
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌
商標法50条

イ 商標法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする(商標法1条)。したがって,商標法上の保護は,商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であり,一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないか,又は発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなるものと解される。商標法50条は,そのような不使用の登録商標に対して排他独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し,かつその存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることになるところから,請求によりこのような商標登録を取り消す趣旨の制度である

 商標権は,国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであり,属地主義の原則に支配され,その効力は当該国の領域内においてのみ認められるのが原則である。もっとも,商標権者等が商品に付した商標は,その商品が転々流通した後においても,当該商標に手が加えられない限り,社会通念上は,当初,商品に商標を付した者による商標の使用であると解される。そして,外国法人が商標を付した商品が,日本において独占的販売店等を通じて輸入され,国内において取引される場合の取引書類に掲載された商品写真によって,当該外国法人が独占的販売店等を通じて日本における商標の使用をしているものと解しても,商標法50条の趣旨に反することはないというべきである。

ウ よって,本件においては,商標権者である原告が,原告の時計に本件使用商標を付し,日本国内において,独占的販売店であるドウシシャを通じて上記時計に関する取引書類に本件使用商標を付した商品写真を掲載してこれを展示したものであるから,本件商標と社会通念上同一の商標を使用(商標法2条3項8号)していたということができる。

引用文献の組み合わせに動機づけを認めた事例

2013-02-24 20:46:03 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10414
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人、荒井章光

 したがって,荷役用のグラブバケットに係る技術を浚渫用のグラブバケットに適用する際には,浚渫用のグラブバケットにおいて特に考慮すべき強度上の余裕を確保することに支障を生ずるか否かについて,十分配慮する必要があるとしても,浚渫用グラブバケットの上記特性とは直接関連しない,対象物を掬い取って移動させるという両目的に共通する用途に係る技術について,一律に適用を否定することは相当ではない
・・・
 したがって,引用発明1に,引用例3が開示する本件構成1及び2を適用することについて,動機付けが存在する一方,阻害事由を認めることはできない。

引用文献の組み合わせに動機づけを認めた事例

2013-02-24 20:46:03 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10414
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成25年01月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人、荒井章光

 したがって,荷役用のグラブバケットに係る技術を浚渫用のグラブバケットに適用する際には,浚渫用のグラブバケットにおいて特に考慮すべき強度上の余裕を確保することに支障を生ずるか否かについて,十分配慮する必要があるとしても,浚渫用グラブバケットの上記特性とは直接関連しない,対象物を掬い取って移動させるという両目的に共通する用途に係る技術について,一律に適用を否定することは相当ではない
・・・
 したがって,引用発明1に,引用例3が開示する本件構成1及び2を適用することについて,動機付けが存在する一方,阻害事由を認めることはできない。

ホームページの著作物性を否定した事例

2013-02-17 22:34:38 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)47569
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年12月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎,裁判官 高橋彩,石神有吾

b 原告は,本件画面1の画面構成は,画面上中央に「大道芸研究会」と黒い太文字のタイトルを,タイトルの下に更新内容の掲載欄を,画面中央やや上,赤色の四角い枠内に大道芸研究会・事務局への連絡先を掲載した点,タイトルの背景は桃色で電話とFAX欄の背景は黄色である点,画面下中央部に大きく写真を貼っている点,背景に花柄模様の画像を使用している点において,原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり,画面全体として創作性がある旨主張する。

そこで検討するに,著作権法が保護の対象とする「著作物」は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)をいい,アイデアなど表現それ自体でないもの又はありふれた表現など表現上の創作性がないものには,同法による保護は及ばない

 ところで,団体に関する各種の情報を掲載し,広報等の目的で開設された団体のウェブサイトのホームページ(ウェブページ)の画面構成においては,
① 団体名を画面の上に太文字で配置すること,
② 各ページの掲載内容を示すタイトル欄をページごとに設けること,
③ 各記載内容にタイトルを設けること,
④ タイトルを枠や図形の中に配置すること,
⑤ 画面上に,各種の大きさの枠を設けてその中に,あるいは枠を設けずに,更新内容,団体の連絡先,団体の説明,団体の活動内容及び入会に関する情報等の団体のホームページとして必要な内容を掲載すること,
⑥ 写真を中央に大きく掲載したり,小さめの写真複数枚を並べて掲載すること,
⑦ 写真に近接して写真の説明等を配置すること,
⑧ 画面内に他のページへのリンクの案内ボタンを複数並べて配列し,あるいは,単独で配置すること,
⑨ 図柄の背景や単色の背景を使用すること,
⑩ 文字・枠・背景に各種の色や柄を用いること
は,いずれも一般的に行われていることであり(乙11ないし15,弁論の全趣旨),ありふれた表現であるといえる。

 しかるところ,原告が本件画面1に表現上の創作性があることの根拠として挙げる上記諸点は,上記①,⑤,⑥,⑨及び⑩のとおり,団体のウェブサイトのウェブページの画面構成としては,一般的なものであって,ありふれたものであり,表現上の創作性があるものと認めることはできない。また,原告が挙げる本件画面1の色合いの点については,これを認めるに足りる証拠はない(本件においては,モノクロの書証しか提出されていない。)。

 したがって,原告の上記主張は,理由がない。

著作物に該当しないものの利用行為と不法行為の構成

2013-02-17 22:27:49 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)47569
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年12月27日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎,裁判官 高橋彩,石神有吾

(2) 検討
ア 前記(1)の認定事実によれば,被告は,本件ウェブサイトのウェブページから,本件各画面の画像データ及び本件ソースコードをそのままダウンロードして自己のパソコンに取り込んで,これらをアップロードして,被告ウェブサイトを開設し,その後,本件各画面及び本件ソースコードを利用して被告各画面を作成し,被告ウェブサイトに掲載したことが認められる。

 そこで検討するに,著作権法は,著作物の利用について,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに,その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしていることに照らすならば,同法所定の著作物に該当しないものの利用行為は,同法が規律の対象とする著作物の独占的な利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成23年12月8日第一小法廷判決民集65巻9号3275頁参照)。

 これを本件についてみるに,本件各画面及び本件ソースコードが原告を著作者とする著作物に該当しないことは前記1(1)及び(2)において判示したとおりであるところ,原告が主張する本件各画面及び本件ソースコードの利用についての利益は,著作権法が規律の対象とする独占的な利用の利益をいうものにほかならないから,原告が多大な時間と労力を費やして本件各画面及び本件ソースコードを作成したとしても,被告の上記一連の行為は,原告に対する不法行為を構成するものとみることはできないというべきである。

商標法51条1項の解釈

2013-02-17 22:13:28 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10187
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 部眞規子,齋藤巌

第4 当裁判所の判断
1 商標法51条1項について
 商標法51条1項は,「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用…であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは,何人も,その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定している。同項の規定は,商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり,需要者一般を保護するという公益的性格を有するものである(最高裁昭和58年(行ツ)第31号同61年4月22日第三小法廷判決裁判集民事147号587頁参照)。

 商標法51条1項の上記のような趣旨に照らせば,同項にいう「商標の使用・・・であって・・・他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る商標の具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との間で具体的に混同を生ずるおそれを有するものであることが必要であるというべきであり,そして,その混同を生ずるおそれの有無については,商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似性の程度,当該他人の商標の周知著名性及び独創性の有無,程度,商標権者が使用する商品等と当該他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである。  

 そこで,まず,本件商標と使用商標との類似性を検討した上で,上記のような観点から,
① 使用商標と引用商標との類似性の程度,
② 引用商標の周知著名性及び独創性の程度,
③ 使用商標が付された商品と被告の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,
④ 商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
を総合して,使用商標の具体的表示態様が被告の業務に係る商品等との間に具体的に混同を生ずるおそれの有無について検討することとする。
・・・

明確性要件を満たしていないとした事例

2013-02-17 21:54:12 | 特許法36条6項
事件番号 平成24(行ケ)10158
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 土肥章大、裁判官 井上泰人,荒井章光

 そして,本願発明1に係る特許請求の範囲の記載は,主界面について,「・・・」ものとしており,本願発明が備える「主界面」について,他の構成である「素子」との位置関係及びそれ自体の形状について明確に特定しているものといえる。したがって,本願発明における「主界面」の構成は,本願発明1の特許請求の範囲の記載において明確にされているということができる。
 また,本願発明9に係る特許請求の範囲の記載は,2次界面について,「・・・」ものとしており,本願発明9ないし11が備える「2次界面」について,それ自体の形状について明確に特定しているものといえる。

イ しかしながら,本願発明の特許請求の範囲の記載によれば,「主界面」と「2次界面」とは,同一の形状で特定されているばかりか,本願発明9ないし11に係る特許請求の範囲の記載には,「主界面」と「2次界面」との位置関係が記載されていないため,両者を区別することができず,また,本願発明の属する技術分野における技術常識を参酌しても,「主界面」と「2次界面」との相違及び位置関係は,一義的に明らかであるとはいえない

 そこで,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,そこには,本願発明における「界面」について,・・・とする旨の記載がある(【0018】前記(1)オ)が,当該記載は,「主界面」と「2次界面」との相違及び位置関係を説明するものではない。また,本願明細書の発明の詳細な説明には,素子の面取りされた側部や素子の端部エッジにもテクスチャ形成を施すことが望ましいとの記載がある(【0034】。前記1キ)が,これらのテクスチャ形成が施される箇所が,本願発明における「主界面」と「2次界面」のいずれに相当するかを特定する記載はない
 さらに,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明9ないし11について記載した箇所もある(【0051】~【0053】。前記1(1)ケないしサ)が,ここには,本願発明9ないし11の特許請求の範囲の記載と同じ内容が記載されているにすぎず,本願発明の「主界面」と「2次界面」との相違及び位置関係を明らかにするものとはいえない

ウ 以上によれば,本願発明にいう「主界面」と「2次界面」との相違及び位置関係は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても明らかではなく,両者を区別することはできないというほかない。
・・・
(3) 小括
 以上によれば,本願発明における「主界面」と「2次界面」との相違及び位置関係は,不明であり,両者を区別することはできないから,本願発明9ないし11に係る特許請求の範囲の記載には,本願発明9ないし11の構成が明確に記載されていないというほかない。
 よって,本件出願は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。

我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合

2013-02-11 18:48:17 | Weblog
事件番号 平成23(行コ)10004
事件名 手続却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治


 一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である(最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決民集第65巻9号3275頁)。

 上記の観点から検討するに,
① 我が国のPCT加入の効力発生日は昭和53年10月1日であるのに対し,北朝鮮のPCT加入の効力発生日は昭和55年7月8日であり,我が国について既に効力が生じている多数国間条約において,後に未承認国である北朝鮮が加入していること,
② PCTは,多数の国において特許出願を行うことの煩雑さ,非効率さや,特許庁が同一の発明について重複業務を行うことの非効率さを解決するために,国際出願制度を創設し,同盟国の間で特許出願,その出願に係る調査及び審査における協力を図ること,並びに同盟国において特別の技術的業務の提供を行うことを主な目的とした条約であり,パリ条約19条における「特別の取極」に該当し(乙8,13),したがって,PCTは,締約国における工業所有権の保護を図るものであり,これを超えて,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではないと解されること,
③ 我が国の政府は,北朝鮮を国家承認しておらず,我が国と北朝鮮との間には,国際法上の主体である国家の間の関係は存在しないとの見解を有していること(乙6の1,6の2及び弁論の全趣旨)が認められる。

未承認国の国籍を有する者のPCTに基づく国際出願の特許を受ける権利の承継

2013-02-11 17:34:58 | 特許法その他
事件番号 平成23(行コ)10004
事件名 手続却下処分取消請求控訴事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、裁判官 八木貴美子,小田真治

1 事案の概要
 北朝鮮に居住する北朝鮮国籍を有するAらがPCTに基づいて行った本件国際出願について,Aらから本件発明に係る日本における一切の権利を譲り受けた原告が,日本の特許庁長官に対して国内書面等を提出したところ,特許庁長官から,本件国際出願は日本がPCTの締約国と認めていない北朝鮮の国籍及び住所を有する者によりされたものであることを理由に,本件手続却下処分を受けたため,原告は,原審において,被告に対し,同処分の取消しを求めて訴えを提起した。
 原審は,本件手続却下処分に取消事由はないと判断し,原告の請求をいずれも棄却した。
 参加人は,原告から本件発明に係る特許出願に関する権利と共に本件訴訟を追行する地位を譲り受けたと主張して,被告を相手方として本件訴訟手続に承継参加するとともに,控訴を提起した。当審における手続中に,原告は訴訟手続から脱退したため,原告,被告間の訴訟は終了し,原告,被告間の訴訟につき言い渡された原審の判決は当然に失効した。
 ・・・
第3 当裁判所の判断
 ・・・
(2) 特許を受ける権利の特定承継は,特許出願前においては,当事者間の合意のみでその効力が生じ,承継人による特許出願が第三者に対する対抗要件とされているのに対し,特許出願後においては,特許庁長官への届出を要する旨規定されている(特許法34条1項,4項)。
 本件において,本件発明に係る特許を受ける権利の承継について,特許庁長官への届出がされた事実はない(弁論の全趣旨)。しかし,本件は,
① 本件国際出願により,我が国においてその国際出願日に特許出願がされたとみなすことができるか否かが主要な争点であり,
② 特許庁長官の主張を前提とするならば,仮に,本件発明に係る特許を受ける権利の承継に係る届出がされたとしても,本件書面と同様の理由によって,手続却下がされることが明らかな場合
である


 このような場合においては,承継に係る届出がされたとの事実がなくとも,本件発明に係る特許出願に関する権利及び本件訴訟を追行する地位を,原告から譲り受ける旨の合意をした参加人は,本件手続却下処分の取消しを求めるにつき,法律上の利益を有すると解するのが相当である。

実施可能要件を満たさないとした事例

2013-02-11 16:43:00 | 特許法36条4項
事件番号 平成24(行ケ)10053
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香,知野明

 しかし,本願明細書の発明の詳細な説明には,移動無線機器が,伝送ネットワークの記憶手段に中間記憶されたプッシュサービスデータの量を知り,「当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないこと」を検知するための構成及び方法について何ら具体的な記載はない
 また,当該技術分野の技術常識を参酌しても,移動無線機器が,伝送ネットワークの記憶手段に中間記憶されたプッシュサービスデータの量を知り,「当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないこと」を検知するための構成及び方法が,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者に自明な事項であるとも認められない

 そうすると,本願明細書の発明の詳細な説明には,「伝送ネットワークに,当該移動無線機器においてデータに対するメモリスペースを使用できないことを指示」することについて,当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められない

明確性要件を満たさないとした事例

2013-02-10 20:11:07 | 特許法36条6項
事件番号 平成23(行ケ)10418
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、八木貴美子,小田真治

3 取消事由3(明確性要件についての判断の誤り)について
(1) 「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の測定方法について
ア 本件特許発明は,防眩フィルムを構成する「透明基材フィルム」,「透光性拡散剤」,「透光性樹脂」の構造等によって特定されるのではなく,主として,防眩フィルムの「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の数値範囲によって特定される発明である。したがって,特許請求の範囲の記載が明確であるためには,少なくとも,「表面ヘイズ値hs」及び「内部ヘイズ値hi」の数値の測定方法(求め方)が一義的に確定されることが必須である

イ 「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」における内部ヘイズ値hiの測定方法は,発明の詳細な説明の記載を参照し,かつ出願時における技術常識によっても,明らかとはいえない。その理由は,以下のとおりである。
・・・
 そうすると,「屈折率の異なる透光性拡散剤を含有する透光性樹脂からなる防眩層」の内部ヘイズ値を測定する方法は,発明の詳細な説明の記載,及び本件特許の出願当時の技術常識によって,明らかであるとはいえない。内部ヘイズ値が一義的に定まらない以上,総ヘイズ値から内部ヘイズ値を減じた値である表面ヘイズ値も一義的には定まることはない。内部ヘイズ値・表面ヘイズ値を一義的に定める方法が明確ではないから,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号の「特許を受けようとする発明が明確であること。」との要件を充足しないというべきである。

実施可能要件を満たさないとした事例

2013-02-10 20:08:33 | 特許法36条4項
事件番号 平成23(行ケ)10418
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明、八木貴美子,小田真治

2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について
上記明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明1ないし8,12ないし16について,表面ヘイズ値及び内部ヘイズ値を所定の範囲内のものとするために,どのようなP/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の組合せを選択すべきかについて,当業者が当該発明を実施することができる程度に記載されているとはいえない。その理由は,以下のとおりである。
(1) 発明の詳細な説明の記載内容についての検討
 ・・・
 そうすると,発明の詳細な説明の記載において示された実施例及び比較例に基づいて,当業者は,表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が,P/V比,P及びVの屈折率差,溶剤の種類の3つの要素により,何らかの影響を受けることまでは理解することができるが,これを超えて,三つの要素と表面ヘイズ値・内部ヘイズ値の間の定性的な関係や相関的な関係や三つの要素以外の要素(例えば,溶剤の量,光硬化開始剤の量,硬化特性,粘性,透光性拡散剤の粒径等)によって影響を受けるか否かを認識,理解することはできない

ウ 以上のとおり,発明の詳細な説明には,当業者において,これらの3つの要素をどのように設定すれば,所望の表面ヘイズ値・内部ヘイズ値が得ることができるかについての開示はないというべきである(ただし,発明の詳細な説明中の実施例に係る本件発明9ないし11を除く。)。したがって,発明の詳細な説明には,当業者が,本件発明1ないし8,12ないし16を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がされているとはいえない。