知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

意匠の要部の認定事例-複数の意匠が既登録の配設態様を要部としない事例

2012-07-22 23:15:44 | 意匠法
事件番号 平成24(行ケ)10042
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平
意匠法3条1項3号

 本願意匠において,全体としてみて,いずれも略同方向に傾斜した長,中,短の三つの溝を1単位とし,これを,赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設した点については,本願意匠の出願前に日米において複数登録されていることを斟酌すると,それだけでは取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な形態であるとはいえず,本願意匠においては,繰返しの単位を構成する三つの溝の,具体的な形状,配列,位置関係等が,取引者・需要者の注意を引きやすい特徴的な部分(要部)であると認めることができる。
 ・・・
 上記のとおり,本願意匠の三つの溝は,溝縁が直線であり,端部に向けて溝幅が細くなることから,看者に対し,一方の先端がとがった細い直線により構成され,無機的であり,かつ,非常にすっきりとして,サイドウォールから赤道に向けて流れる印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。これに対し,引用意匠の三つの溝は,全体として,基本的に溝幅に変化がないことも相まって,看者に対し,同じ幅の溝が曲線的にねじ曲がった印象,例えていえば,先端の丸まった筒状の細菌あるいは細胞をまとまりなく配した印象を与えるような美感を生じさせるものといえる。

 なお,両意匠は,略同方向に傾斜した三つの溝を1単位とする形状(模様)が,タイヤの赤道を中心として,左右の斜めに向けて,千鳥配置状に配設されている点が共通するが,この点は,既に説示したとおり,公知意匠との関係で,本願意匠の要部には当たるとはいえない。
 ・・・
 以上を総合すると,本願意匠は,共通点を考慮したとしても,全体として取引者・需要者に引用意匠と異なる美感を生じさせるものと認めるのが相当であって,引用意匠とは類似しない。

「販売することができないとする事情」を認めた事例

2012-07-12 23:08:35 | 意匠法
事件番号 平成23(ワ)247
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年06月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎
意匠法39条1項(特許法102条1項)

エ 「販売することができないとする事情」の存否等
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c 前記a及びbの認定事実を総合すると,仮に被告による被告製品の販売がされなかった場合には,被告製品の購入者の多くは,Docomo,SoftBank等の携帯電話用の被告製品と同種の接続ケーブルが一体となった代替品を選択した可能性が高いものと認められる。
 また,本件登録意匠と類似する被告意匠は,被告製品の購入動機の形成に寄与していることが認められるものの,その購入動機の形成には,被告意匠のほか,被告製品がDocomo,SoftBank等の携帯電話用の専用品であることが大きく寄与し,被告製品の色彩等(本体と接続ケーブルが同一色である点を含む。)も相当程度寄与しているものとうかがわれるから,被告意匠の購入動機の形成に対する寄与は,一定の割合にとどまるものと認められる。

 以上によれば,原告製品と被告製品の形態の違い,被告製品と同種の代替品の存在,被告製品の購入動機の形成に対する被告意匠の寄与が一定の割合にとどまることは,被告製品の譲渡数量の一部に相当する原告製品を原告において「販売することができないとする事情」(意匠法39条1項ただし書)に該当するものと認められる。

 そして,上記認定の諸点を総合考慮すると,意匠法39条1項ただし書の規定により控除すべき上記「販売することができないとする事情」に相当する数量は,被告製品の販売数量(前記ア)の9割と認めるのが相当である。

売上げに対する意匠の寄与と実施料率の認定事例

2012-01-12 22:23:03 | 意匠法
事件番号 平成22(ワ)13746
事件名 意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年12月15日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 意匠権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

b 意匠法39条3項に基づく請求について
 前記aのとおり,CVQ-2000の販売により被告大倉が得た利益額は不明であるが,その売上額は,仕入価格である税込み28万5600円に販売台数である593台を乗じた1億6936万0800円を下回らないと認められる。
 そして,既に述べたとおり,一般の取引を念頭に置いた場合,本件意匠は売上げにほとんど寄与しないと考えられるから,その実施料率も低いと考えられ,2%を相当と認める
したがって,意匠法39条3項により算定される原告の損害は,338万7216円となる。