知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用商標の著名性が高い場合の「混同を生ずるおそれ」の判断

2007-02-04 10:53:29 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10299
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判官 三村量一

『ア商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度,取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
そこで,上記の観点から,本願商標が商標法4条1項15号に該当するかどうかを,検討する。』

『原告は,本願商標と引用商標との間には,具体的な構成においてはいくつかの相違点があり,全体的な印象を異にすると主張する。確かに,本願商標と引用商標とを対比すると,前記1イ(2)に記載したとおり,具体的な構成においていくつかの相違点が認められるものであるが,既に判示したとおり,商標法4条1項15号該当性の判断は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが存するかどうかを問題とするものであって,当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは,上記判断における考慮要素のひとつにすぎない。そして,本件においては,ファッション関連の商品分野における引用商標の著名性の程度が高く,高い顧客吸引力を有していることに照らせば,上記認定のような具体的構成における相違点が存在するとしても,引用商標と基本的な構成を同じくする本願商標をファッション関連の商品に付した場合には,取引者,需要者において上記誤信をするおそれが存在するといわざるを得ない
 原告は,引用商標は当該具体的態様において著名となったものであり,商標が著名であるほど当該商標についての認識が高まるので商品の出所につき混同を生ずる範囲は狭くなるなどと主張して,混同のおそれを否定するが,一般に,商標の著名性が高い場合には商品の出所につき混同を生ずる範囲は広くなるというべきであり,本件において,これと異なる判断をすべき特段の事情は認められない。また,本願商標と引用商標との間の具体的構成の相違点の存在は,両者を時と所を異にして隔離的に観察した場合における混同のおそれを否定するに足りるものではない。』

原明細書に多数開示された要素のうち一部のものを選択した分割出願は認められるか

2007-02-04 09:48:29 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成18(行ケ)10124
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 飯村敏明

4  取消事由2(本件出願の分割出願の要件の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件発明は,3次元フレーム枠形状測定装置の「出力結果」の構成要素として「フレームカーブ」,「ヤゲン溝の周長」,「瞳孔間距離」及び「傾斜角」を選択し,この組合せで構成要素が特定されているのに対して,原明細書には,出力結果として多数の構成要素が挙げられ,本件発明の上記組合せで選択する旨の記載はないので,本件出願は,原出願に実質的に開示されていない事項を付加したものであり,分割出願の要件を満たさず,したがって,本件出願の出願日は,原出願の出願日に遡及せず,現実の出願日(平成11年7月27日)であり,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物である刊行物1(原明細書)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたと主張する

ア しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。
  (ア)  原明細書(甲1)には...(中略)...との記載がある。
 上記記載及び図1(甲1)によれば,原明細書には,フレーム形状測定器102において算出された眼鏡フレームの「フレームカーブCV,ヤゲン溝の周長L,フレームPD(瞳孔間距離)FPD,フレーム鼻幅DBL,フレーム枠左右および上下の最大幅であるAサイズおよびBサイズ,有効径ED,左右フレーム枠のなす角度である傾斜角TILT」の各データが,フレーム形状測定器102から端末コンピュタ101に送られ,その画面表示装置に表示されることが記載されているものと認められる。
  (イ)  そして,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)によれば,本件発明においては,「...(中略)...」構成を有するものであるところ,その3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として表示装置の画面に表示される「フレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」の各データは,いずれも原明細書において端末コンピュタ101の画面表示装置に表示されるデータに含まれているから,本件発明の上記構成は原明細書に記載された事項の範囲内のものであると認められる。
 また,本件明細書(甲8)には,前記ア(ア)の原明細書の記載部分と同一の記載(段落【0035】)のほかに...(中略)...との記載があるが,表示装置の画面に表示されるデータを「少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」と特定したことによって原明細書に開示されていない格別の作用効果を奏することについての記載はない

  (ウ)  加えて,原明細書の段落...(中略)...等には,本件発明(請求項1)の各構成要件が開示されているものと認められる
  (エ)  そうすると,本件出願は原出願との関係で特許法44条1項の分割出願の要件を満たすというべきであり,同条2項の規定により,本件出願の出願日は原出願の出願日である平成4年6月24日に遡るものと認められる。

イ これに対し原告は,原明細書には,画面表示装置に表示されるデータとして,「フレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」(本件発明のもの)のほかに,多数の構成要素が挙げられ,本件発明のデータの組合せを選択する旨の記載はないから,本件出願は分割出願の要件を満たさないと主張する
 しかし,前記ア(イ)のとおり,本件明細書には,本件発明で特定されたデータによって原明細書に開示されていない格別の作用効果を奏することの記載はなく,このような作用効果を奏するものとは認められないので,原明細書に,本件発明で特定されたデータの組合せを選択する旨の記載はないからといって,本件出願は分割出願の要件を満たさないということはできず,原告の上記主張は採用することができない