知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

原明細書に多数開示された要素のうち一部のものを選択した分割出願は認められるか

2007-02-04 09:48:29 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成18(行ケ)10124
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 飯村敏明

4  取消事由2(本件出願の分割出願の要件の判断の誤り)について
(1) 原告は,本件発明は,3次元フレーム枠形状測定装置の「出力結果」の構成要素として「フレームカーブ」,「ヤゲン溝の周長」,「瞳孔間距離」及び「傾斜角」を選択し,この組合せで構成要素が特定されているのに対して,原明細書には,出力結果として多数の構成要素が挙げられ,本件発明の上記組合せで選択する旨の記載はないので,本件出願は,原出願に実質的に開示されていない事項を付加したものであり,分割出願の要件を満たさず,したがって,本件出願の出願日は,原出願の出願日に遡及せず,現実の出願日(平成11年7月27日)であり,本件発明は,本件出願前に頒布された刊行物である刊行物1(原明細書)に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたと主張する

ア しかし,原告の主張は,以下のとおり採用できない。
  (ア)  原明細書(甲1)には...(中略)...との記載がある。
 上記記載及び図1(甲1)によれば,原明細書には,フレーム形状測定器102において算出された眼鏡フレームの「フレームカーブCV,ヤゲン溝の周長L,フレームPD(瞳孔間距離)FPD,フレーム鼻幅DBL,フレーム枠左右および上下の最大幅であるAサイズおよびBサイズ,有効径ED,左右フレーム枠のなす角度である傾斜角TILT」の各データが,フレーム形状測定器102から端末コンピュタ101に送られ,その画面表示装置に表示されることが記載されているものと認められる。
  (イ)  そして,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)によれば,本件発明においては,「...(中略)...」構成を有するものであるところ,その3次元フレーム枠形状測定装置の出力結果として表示装置の画面に表示される「フレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」の各データは,いずれも原明細書において端末コンピュタ101の画面表示装置に表示されるデータに含まれているから,本件発明の上記構成は原明細書に記載された事項の範囲内のものであると認められる。
 また,本件明細書(甲8)には,前記ア(ア)の原明細書の記載部分と同一の記載(段落【0035】)のほかに...(中略)...との記載があるが,表示装置の画面に表示されるデータを「少なくともフレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」と特定したことによって原明細書に開示されていない格別の作用効果を奏することについての記載はない

  (ウ)  加えて,原明細書の段落...(中略)...等には,本件発明(請求項1)の各構成要件が開示されているものと認められる
  (エ)  そうすると,本件出願は原出願との関係で特許法44条1項の分割出願の要件を満たすというべきであり,同条2項の規定により,本件出願の出願日は原出願の出願日である平成4年6月24日に遡るものと認められる。

イ これに対し原告は,原明細書には,画面表示装置に表示されるデータとして,「フレームカーブ,ヤゲン溝の周長,フレームPD(瞳孔間距離),左右フレーム枠のなす角度である傾斜角」(本件発明のもの)のほかに,多数の構成要素が挙げられ,本件発明のデータの組合せを選択する旨の記載はないから,本件出願は分割出願の要件を満たさないと主張する
 しかし,前記ア(イ)のとおり,本件明細書には,本件発明で特定されたデータによって原明細書に開示されていない格別の作用効果を奏することの記載はなく,このような作用効果を奏するものとは認められないので,原明細書に,本件発明で特定されたデータの組合せを選択する旨の記載はないからといって,本件出願は分割出願の要件を満たさないということはできず,原告の上記主張は採用することができない

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