知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

実施可能な特許請求の範囲の記載の限界

2007-02-18 22:11:32 | 特許法36条4項
事件番号 平成18(行ケ)10166
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年02月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

『原告は,本願明細書(甲8)の発明の詳細な説明の記載から,①システム内のすべての加入者局の周波数,シンボル・タイミング及びフレーム・タイミングが基地局マスタ・タイミング・ベースに同期させていること,②基地局内の複数の周波数チャンネルはすべて同一の時間基準を用いていること,③基地局内の受信タイミングと基地局の送信タイミングが同一であること,④加入者局は自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること,⑤加入者局・基地局間距離変動追跡のための「精密調整」がなされていることが理解できるとし,これらの記載内容を参酌すれば,請求項1の前記記載の意味は明確である旨主張する
 しかし,請求項1における他の構成をみても,加入者局が,自局の位置に起因する伝送往復遅延を相殺するための最小時間だけ自局から基地局への送信タイミングを進め,これによって,複数の加入者局からの基地局受信信号が基地局時間基準に正しく合致するようになされていること等を示唆する記載はなく,そのような理解の手掛かりとなる記載もない。
ウ 要するに,原告は,特許請求の範囲に記載も示唆もない事項について,本願明細書の発明の詳細な説明における記載内容を,発明の構成として読み込むことを主張するものであり,採用することができない。』

『付言するに,請求項1の「一つの無線通信システム内で全部が互いに同期しているフレームの各々を同様に全部が互いに同期していて互いに相続く一つの群でそれぞれ画定する一連の繰返し時間スロットにそれぞれ分割された順方向チャンネルおよび逆方向チャンネル」との記載が,①順方向チャンネル及び逆方向チャンネルの各々が両者間で互いに同期している複数のフレームをそれぞれ含むこと,②それら複数のフレームの各々は,互いに相続く一群の繰り返しスロットにそれぞれ分割されており,順方向チャンネルと逆方向チャンネルとの間でそれら繰り返しスロットは互いに同期していること,を意味しているというのであれば,特許請求の範囲に直截に記載すべきである。特許請求の範囲の記載内容が,明細書の多岐にわたる記載箇所を参酌・総合して初めて理解できるようなものは,特許法36条3項,4項の要件を満たすものとはいえない。原告の上記主張によれば,請求項1の記載は,本来,簡明直截に記載できる内容をことさら不自然に表現したものであって,第三者の理解を妨げるものといわざるを得ない。』

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