知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法4条1項11号及び10号該当性

2007-02-01 21:55:59 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10356
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

『 1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性判断の誤り)について
(1 ) 類否判断の誤りについて
 ア 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品又は役務に使用された商標がその外観,称呼,観念等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかも,その商品又は役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。したがって,外観,称呼,観念において類似するとはいえない商標であっても,具体的な取引の実情いかんによっては誤認混同を生ずるおそれがある場合があり,また,逆に,外観,称呼,観念において一応類似するといえる商標であっても,具体的な取引の実情いかんによっては誤認混同を生ずるおそれがない場合があることを念頭に置いて類否の検討をする必要があるものと解すべきである(原告の引用に係る前記最高裁昭和43年2月27日判決のほか,最高裁平成4年9月22日第三小法廷判決・判時1437号139頁,最高裁平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。

イ 本件商標は,「ワンショットコース」の文字を標準文字により書してなるところ,英語の「One Shot Course」を片仮名表記したものである。
 ・・・

ウ 引用商標は,「ワンショット手数料」の文字を標準文字で書してなるものであり,「ワンショット」と「手数料」の語からなる結合語である。
・・・
エ 以上のとおり,本件商標は,「ワンショット手数料」又は「ワンショット」として把握されるのに対し,引用商標は,一つのまとまった「ワンショットコース」という語句として把握されるから,外観,称呼,観念の全体的観察において非類似であると認められるので,さらに,取
引の実情により誤認混同のおそれがあるといった格別の事情のない限り,本件商標と引用商標とは,非類似であるということができる。』(ブログ注:エにおける本件商標と引用商標は逆と思われる。)

・・・
 被告のホームページの上記記載によると,「いちにち定額コース」及び「ワンショットコース」は,被告の手数料体系を説明するものとして記載されており,商標として使用しているものではない(後記2(2)参照)。このように「いちにち定額コース」の記載が商標としての使用ではないから,被告の有する登録商標「いちにち定額」を使用したわけではなく,その他,本件指定役務と同一又は類似の役務を取り扱う証券業界において,「コース」を省略して「いちにち定額」,「ワンショット」と略称する取引の実情にあることを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は,その前提において失当である。
・・・
( 3) 以上を総合すると,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念の全体的観察において非類似であり,取引の実情においては,「ワンショット手数料」の語句全体で,複数日にわたる内出来約定でも一つの注文として計算するという手数料体系を表象し,その体系が原告の業務に係る株式売買委託に関するものであるため,間接的に原告の出所を表象しているにすぎないから,「ワンショット」の文字部分が共通しているという理由で,誤認混同を生ずるおそれがあるということはできず,結局,取引の実情を考慮しても,役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれはないものというべきである。
(4) したがって,本件商標が商標法4条1項11号に違反して登録されたものではないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は,採用することができない。』

『2 取消事由2(商標法4条1項10号該当性判断の誤り)について
(1) 審決は,「『ワンショット手数料』の文字は,請求人の手数料の料金体系を端的に表現したものであろうと理解するに止まるものというべきである。請求人の提出に係る証拠には,これら以外に請求人が『ワンショット手数料』の文字を使用している事実を示すものはない。」(審決謄本17頁第3ないし第4段落)と認定した上,「請求人の提出したこれらの証拠によっては,本件商標の登録出願時あるいは登録査定時において,『ワンショット手数料』の文字からなる商標が請求人の提供に係る証券業務に関する役務を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。」(同頁第5段落)と判断したのに対して,原告は,これを誤りであるとして争っている。
(2) 商標法2条1項2号にいう「商標」は,「業として役務を提供し,又は証明する者がその役務について使用をするもの」であると規定されているが,ここに「役務」とは,商取引の目的となり得る労務又は便益であって,その労務又は便益が,標章を付されることによって,出所表示機能,品質保証機能,広告機能を果たすものである。
そして,同条3項は,「その役務について使用」する場合として,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為」(3号),「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」(4号),「役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為」(5号),「役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為」(6号),「商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(8号)を挙げている。したがって,標章は,上記態様により「役務について使用」されて,初めて商標として使用されることになるものと解すべきである。
(3)  これを本件についてみると,・・・。
 以上によると,ホームページの記載,新聞雑誌への宣伝広告等における「ワンショット手数料」の記載は,いずれも,商標法2条3項所定の商標の使用に該当するものとはいえないから,本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,引用商標が,原告の提供に係る証券業務に関する役務を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。』

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