知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「判断の遺脱」(民訴法338条1項9号)の意味

2009-12-30 19:20:44 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10187
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

第4 当裁判所の判断
特許法171条2項が準用する民事訴訟法338条1項9号にいう「判断の遺脱」とは,当事者が適法に提出した攻撃防御方法のうち,その判断のいかんにより審決の結論に影響する事項で,審決の理由中で判断を示さなかった場合をいう

 原告の主張は,以下のとおり,いずれも原審決の認定判断に対する誤りを主張するものであって,前記の判断の遺脱を主張するものとはいえないから,再審事由に当たるものではなく,失当である。

登録商標が使用された指定商品の認定(商標法50条)

2009-12-30 19:11:57 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10171
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 被告の反論
(1) 使用標章が使用された商品に係る認定判断の誤り(取消事由1)に対し原告は,原告商品が「形鋼」に属するから,請求に係る指定商品である「鋼」に該当すると主張する。
 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
 すなわち,原告商品は,「建築用又は構築用の金属製専用材料」である。
 ・・・原告商品は,家屋を建築するのに用いられているのみで,機械,金型,家具の材料等となる汎用鋼材として使用している例はない。
 以上によれば,原告商品は「建築用部材」に該当するから,「鋼」には当たらない。

・・・
 以上のとおり,原告商品が,「建築用又は構築用の金属製専用材料」である以上,「鋼」と「建築用又は構築用の金属製専用材料」とが互いに排他的関係にあるか否かは関係がなく,「鋼」には当たらない
・・・

第4 当裁判所の判断
1 使用標章が使用された指定商品に係る認定判断の誤り(取消事由1)
(1) 原告商品が「鋼」に当たるかについて
・・・
イ判断
(ア) 原告が登録商標を使用した原告商品が,被告において登録商標の取消しを求めた指定商品である「鋼」に含まれるか否かを判断する(なお,取消審判の争点は,原告が登録商標を使用した原告商品が,商標法施行規則6条別表所定の「鋼」に形式的に該当するか否かではなく,原告商品が,被告において取消しを求めた指定商品である「鋼」に該当するか否かである。・・・。)。

 上記のとおり,原告は,審判の請求の登録がされた平成19年11月6日の前3年以内に,原告商品の宣伝広告,見積書,契約書等に,使用標章を表記してこれを使用している。そして,原告商品は,次のとおりの特徴を有している。・・・。原告商品は,このような性質・特徴を持った典型的な鋼材であるから,被告において登録商標の取消しを求めた指定商品である「鋼」に含まれることは明らかである。

(イ) この点,被告は,原告商品が「建築用又は建築用のスチール製専用材料」に該当するから「鋼」には含まれない,したがって,審決の認定,判断に誤りはないと主張するようである。
 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。

 商標法50条は,何人も,登録商標に係る指定商品等について,その登録商標の取消しの審判を請求することができる旨,及び,被請求人(商標権者)が,その請求に係る指定商品等のいずれかについて登録商標の使用を証明しない限り,登録商標の取消しを免れない旨を規定する。不使用取消しに係る審判請求人において,広範な範囲の指定商品等を不使用取消請求の対象として選択すれば,広範な範囲で取消しの効果を得ることができるが,他方,被請求人(商標権者)は,広範な範囲の指定商品等のいずれかについて,登録商標を使用していることを証明することによって,登録商標の取消しを回避することができ,立証負担は軽減されることになる。同条は,そのような公平の観点から規定されたものであり,不使用取消に係る審判請求人は,これらの得失を考慮して,取消しを求める指定商品の範囲を選択することになる。

 ところで,本件において,被告が請求した本件不使用取消しの審判は,指定商品「鋼」についての登録商標の不使用を理由とするものであって,「建築用又は建築用のスチール製専用材料を除外した,その余の鋼」についての登録商標の不使用を理由とするものではない(このような特定方法が,取消請求の適法な特定として許されるか否かについて,ここでは言及しない。)。そして,原告(登録商標権者)は,同審判において,本件商標を「鋼」について使用したこと証明できた以上,不使用を理由とする取消しを免れるのはいうまでもない。

 なお,本件商標の指定商品は,「鋼」とともに「建築用又は構築用のスチール製専用材料」の両者が併記して登録されているが,そのような指定商品の登録があるからといって,指定商品「鋼」の意義を,下位概念である指定商品を除く趣旨に解釈しなければならない根拠とはなり得ないのみならず,被告のした不使用取消審判の対象とした指定商品について,「建築用又は建築用のスチール製専用材料を除外した『鋼』」と解する根拠にもなり得ない

要旨変更の判断事例(直接表現されていなくとも自明である技術的事項の判断事例)

2009-12-30 13:16:39 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10131
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

3 本件補正が要旨変更に当たるとの判断の誤りについて
(1) 要旨変更に関する判断基準
 明細書の要旨の変更については,平成5年法律第26号による改正前の特許法41条に「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と規定されていた。

 上記規定中,「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,「明細書又は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべきところ,

 上記明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の記載から自明である技術的事項であれば,特段の事情がない限り,「新たな技術的事項を導入しないものである」と認めるのが相当である。
 そして,そのような「自明である技術的事項」には,
  その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,
  当業者であれば,その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができ,
その技術的事項が明細書に記載されているのと同視できるものである場合も含む
と解するのが相当である。

 したがって,本件において,仮に,当初明細書等には,・・・とすることが直接表現されていなかったとしても,それが,出願時に当業者にとって自明である技術的事項であったならば,より具体的には,その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,当業者であれば,その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができるものであったならば,本件発明3を追加した本件補正は,要旨変更には該当しないというべきである。そこで,以下,本件補正が上記要件に該当するか否かを検討する。

サポート要件の判断事例(否定)

2009-12-27 21:34:38 | 特許法36条6項
事件番号 平成20(ワ)10854
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成21年12月24日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

イ そこで,以上を前提に,本件明細書がサポート要件を具備するか否かについて検討する。
 平衡重りの重量の下限を,センサが空気によって囲まれている時そのセンサの全重量の30%と限定した(構成要件E)ことにより,動作環境下で強い水流や液面上の浮遊物から受ける大きな外力を受けても,概ね主水平位置を安定的に維持し,もってスイッチが確実に作動するという本件特許発明の効果を奏することになるとの技術的意義に関して本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているのは,上記のとおり,・・・。

・・・同部分には,マイクロスイッチを確実に停止させるためには平衡重りがセンサ全体の重量との関係で「相対的」に重いことが必要であるが,製造上の理由から重すぎてはならず,平衡重りの重量のセンサ全体の重量に対する割合は,最小値で30%,好ましくは50~80%の範囲で設定される旨が記載されている。
 レベルセンサが液中で概ね主水平位置を安定的に維持し,もってマイクロスイッチを確実に停止させるために,平衡重りに一定の重量が要求されることは技術常識として肯認する余地があるが,それがなにゆえ平衡重りそれ自体の絶対的な重量ではなく,センサ全体の重量との関係での相対的な重量比で定められるのかについて,上記発明の詳細な説明にその技術的意義は何ら開示されていない

ウ また,以下のとおり,そもそも平衡重りの重量のセンサ全体の重量に対する比率を数値限定することが,マイクロスイッチを確実に停止させる効果を奏するという技術的意義を有する旨の技術常識の存在を認めることはできない
・・・
エ 以上によれば,本件特許に係る出願時の技術常識に照らして,本件明細書の上記記載から,「動作環境下で強い水流や液面上の浮遊物から受ける外力を受けてもスイッチが確実に作動する」との効果を得るために,平衡重りの重量をセンサ全重量の30%以上にすることの技術的意義ばかりでなく,平衡重りの重量をセンサ全重量の一定割合を超えるように設定することの技術的な意味を当業者が理解することができないというべきである。

 他に,平衡重りの重量をセンサ全重量の一定割合を超えるように設定することの技術的な意味を示唆するような記載も見当たらない。したがって,本件特許の特許請求の範囲の記載は,明細書のサポート要件に違反するというべきである。

周知例を形状は共通するが意義が異なるとした事例

2009-12-23 18:25:29 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10080
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

エ 上記イ,ウのとおり,参考例2のサポータが全体形状としてX状であることと,本件補正発明の全体形状としては長方形に近い身体温熱ラップにおいて,ヒートセルがX字型に隔離して配設されることは,X状ないしX字型といっても,その意義ないし機能は本質的に異なるものであり,またそれにより身体の適用可能な部位も異なることになる。

 このように,X状ないしX字型に関する両者の意義ないし機能が異なるのであるから,参考例2における,内部に電熱線が均一に布設されたサポータが全体形状としてX状にされている構成のうち,「X状」という技術事項のみを取り出し,本件補正発明の身体温熱ラップ内に存在するヒートセルの配設の形態に適用する動機付けは存在せず,引用発明1に参考例2を適用して,相違点2に係る構成とすることはできないといわざるを得ない。

オ 本件審決は,「使用者が装着している時,使用者の身体または各部位のさまざまな領域の運動に順応することは,当然に要求される事項」とした上,「そのような目的の配置として,X字型の配設は,従来周知」として,参考例2を挙げるが,参考例2をもって,上記周知技術ということはできない。そして,他に,上記事項が周知であることを認めるに足りる証拠はない。

カ したがって,引用発明1に周知技術を適用して相違点2に係る構成を想到することが,当業者にとって容易であるとした本件審決の判断は,誤りといわなければならない。

商標の構成それ自体でなく商標を使用することが公序良俗に反する場合(商標法4条1項)

2009-12-23 14:56:46 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10055
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


第5 当裁判所の判断
1 はじめに
 商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」については,当該商標の構成に,非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形等を含む商標が,これに該当することは明らかである。
 また,当該商標の構成に,そのような文字,図形等を含まない場合であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが
① 法律によって禁止されていたり,
② 社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反していたり,
③ 特定の国若しくはその国民を侮辱したり,国際信義に反することになるなど特段の事情が存在するときには,当該商標は同法4条1項7号に該当すると解すべき余地がある
 ただし,
① 商標法は,同法4条1項7号の外に,同項各号の規定によって,公益との調整,既存の商標権者や既に同一又は類似の商標を使用している者との利益調整など,さまざまな政策的な観点から,登録されるべきでない商標を具体的かつ網羅的に列挙していること,
② 公の秩序又は善良の風俗を害するか否かの判断は,社会通念によって変化し,客観的に確定することが困難であること
等に照らすならば,当該商標の構成それ自体ではなく,当該商標を使用することが,いわゆる公序良俗に反するとして同法4条1項7号に該当するとされる場合は,自ずから限定して解釈されるべきものといえよう。

 特に,商標法4条1項15号,19号等の各規定が置かれている趣旨に照らすと,単に,他人の業務に係る商品や役務と混同を生ずるおそれがある場合,他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするもののような場合は,それぞれ同法4条1項15号,19号等に規定された各要件を充足するか否かによって,同法4条1項所定の不登録事由の成否を検討すべきであって,そのような事実関係が存在することをもって当然に同法4条1項7号の不登録事由に該当すると解するのは妥当とはいえない

 なお,同法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するか否かの判断は,登録査定時(拒絶査定不服審判の審決時)を基準とすべきである。
 上記の観点を前提として,本件商標の同法4条1項7号該当性について,検討する。


2 「テディベア」の語の意味及び逸話を理由とする本件商標の商標法4条1項7号該当性について
 原告は,「テディベア」の語及びセオドア・ルーズベルトに関連する逸話は,本件商標の登録査定時(昭和61年11月28日)において,我が国で周知であったから,本件商標登は,商標法4条1項7号に該当すると主張する。
 しかし,以下の証拠(当審において提出された証拠を含む。)によっても,本件商標の登録査定時に,我が国において,「テディベア」の語及びセオドア・ルーズベルトに関連する逸話が一般に広く知られていたと認めることはできないから,原告の本件商標登録が,商標法4条1項7号に該当するとの原告の主張は,主張の前提を欠き,採用できない。


平成21年12月21日 平成21(行ケ)10057 飯村敏明裁判長 も同趣旨

商品についても使用される小売等役務の商標(商標法50条)

2009-12-23 11:25:34 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10177
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


(4) 次に,本件使用標章の使用が本件商標の指定商品についての使用といえるかについて判断する。
ア 上記(1)認定のとおり,本件広告には,「カーナビゲーション装置」,「DVDプレーヤー」及び「スピーカー」といった商品の写真とともに各商品の品番,価格等が表示されているから,本件商標の指定商品の一つである「電気通信機械器具」についての広告であるということができ,上記(1)認定のとおり,その広告の右上角に本件使用標章が付されているのであるから,本件使用標章の使用は,本件商標の指定商品についての使用ということができる。

イ この点について
原告は
① 本件広告の上記各商品の写真には,固有の書体からなる「SANYO」,「JVC」,「carrozeria」,「macAudio」等の製造業者の商標が併記されているところ,これらは明らかに当該商品の出所を表す製造者の商品商標と認識されるものである,
② 一方,本件広告の右上角に表示された商標は,当該新聞折り込み広告主であり,かつ,掲載商品を取り扱う小売等役務の商標として認識されるものである,と主張する


 しかし,一つの商標が小売等役務の商標として使用されるとともに,商品についても使用されているということはあり得るのであって,本件使用標章が,小売等役務の商標として使用されているからといって,商品について使用されていないということはできないというべきである。

 また,上記(1)認定のとおり,本件広告の商品の写真には,「SANYO」,「JVC」,「carrozeria」,「macAudio」等の製造業者の商標が付されているが,一つの商品に複数の商標が使用されるということも妨げないのであるから,本件広告の商品の写真にこれらの製造業者の商標が付されているからといって,本件使用標章がこれらの商品について使用されていないということはできないというべきである。

禁反言の法理を適用した事例

2009-12-23 10:53:43 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)18950
事件名 特許権侵害差止請求反訴
裁判年月日 平成21年12月16日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(3) 構成要件Fについて
ア 本件発明の構成要件Fは,「送信後3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ,同時にかつ同じ画面で見るところを特徴とする」であるところ,「3つのチャンネルの信号を再構成しモニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合させ(る)」の技術的意義は,本件特許請求の範囲の記載からは必ずしも一義的に明らかではない。

イ (ア) そこで,本件明細書を見ると,「発明の詳細な説明」には次の記載がある。(甲2)
・・・
(イ) 上記のとおり,・・・,上記のような3色方式以外の構成(・・・)は,本件明細書の詳細な説明及び図面には示されていない。
・・・
 したがって,本件明細書の詳細な説明及び図面に記載されているのは,白黒CCDの前に濾過フィルターを置き,青,赤,緑の3色の照明光を照射して得られる信号を,・・・1対1対応の関係でモニターに入力することによって,3色の照明光により得られる3つの信号のすべてをモニター表示に用いる発明であると認められる。
・・・

ウ(ア) さらに,原告は,平成15年7月10日付け「特許異議申立に対する意見書」(甲9)において,本件発明について,次のとおり主張している
・・・
(イ) このように,原告は,上記引用箇所において,本件発明の映像は青,緑,赤の3つのチャンネルの信号(3色)から構成されているので,赤と緑の2色しかない甲6(特表平10-500588)発明に比べて優れている旨を繰り返し主張していたことが認められる

エ 上記イ,ウのとおり,本件明細書の記載及び特許異議手続における原告の主張内容からすれば,本件発明の構成要件F「送信後3つのチャンネルの信号を再構成し」とは,CCDの3つのチャンネルの信号をすべて用いてモニター上に映像として再構成することをいい,また,そのような構成に限定されるものと認めるのが相当である。

 この点,原告は,本件発明の構成要件Fについて,CCDの3つのチャンネルの信号をすべて用いて再構成することに限定されない旨の主張をするが,同主張は,特許異議手続における前示の経緯に照らし,いわゆる禁反言の法理に反するものとして許されないというべきである

均等法理の第5要件の「特段の事情」の存在

2009-12-23 10:19:54 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)18950
事件名 特許権侵害差止請求反訴
裁判年月日 平成21年12月16日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(4) 均等侵害について
ア 前示のとおり,被告製品は,少なくとも本件発明の構成要件Fを充足しないから,本件特許権に対する文言侵害は認められないが,原告は,被告製品について,本件発明の構成と均等である旨主張するので,以下,検討する。

イ 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,①当該部分が特許発明の本質的部分ではなく,②当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,③そのように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,④対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,⑤対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,上記対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁)。

ウ これを本件についてみるに,原告は,前記認定のとおり,特許異議(異議2003-70284)の手続において,本件発明が甲6発明から容易に想到できたものでないことを主張するに当たって,甲6発明のような従来技術(モニター上に蛍光の映像と背景の映像を融合するに際し,2色で構成する技術)との根本的な差異として,本件発明における映像は青,緑,赤の3色から構成されている点を強調していたのであるから,被告製品のように3つの撮像タイミングで得られる3つの信号の内の2つだけをモニター上の画像構成に用いる技術については,これを特許請求の範囲から意識的に除外したものと認めるのが相当である。

 したがって,被告製品については,少なくとも均等法理の第5要件にいう「特段の事情」の存在が認められるから,本件発明の構成と均等であるとはいうことはできず,原告の主張する均等侵害も認めることはできない。

地震ロック分割出願事件-明確性要件の判断事例-

2009-12-20 15:24:37 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10272
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

4 取消事由3(明確性要件違反の判断の誤り)について
(1) 原告は,審決が,本件特許発明1の「わずかに開かれる」,「わずかに開かれた」,「開き戸の自由端でない位置」との記載はいずれも不明確であるとして,・・・とした判断は誤りである旨主張する

ア 本件特許発明1の特許請求の範囲の記載は前記第3,1(2)記載のとおりであるところ,そこには,「…係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する…」,「…係止後使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた前記ロック位置となる…」との記載があり,それぞれ係止手段が係止具に係止してロック位置になると,開き戸をわずかに開いた位置で係止することが記載されている。

イ また,本件明細書(甲18)の発明の詳細な説明の記載内容は・・・。
 これらによれば,このときの図3における係止手段(4)の係止部(4a)と係止具(5)の係止部(5b)が係止している状況での開き戸(2)と本体(1)との間隔が,本件特許発明1における「わずかに」であると一応理解できる。

 上記のとおり本件明細書の発明の詳細な説明の記載と図面とを参酌した上で,本件特許発明1は,地震時において本体側に設けられた係止手段の係止部が,開き戸の係止具の係止部に当たり,それ以上開き戸が開かないようにするとの構成を理解したとしても,その開き戸が開く程度については,特許請求の範囲の記載に「わずかに」と極めて抽象的に表現されているのみで,特許請求の範囲の他の記載を参酌しても,その内容が到底明らかになるものとはいえない。そして,本件明細書の発明の詳細な説明にも,その「わずかに」で表わされる程度を説明したり,これを示唆するような具体的な記載はない。

 そうすると,当業者にとって,その技術常識を参酌したとしても,本件特許発明1の「わずかに」と記載される程度を理解することは困難であって,特許請求の範囲の記載が不明確であるといわざるを得ない。

(所感)
 特許請求の範囲の用語の解釈について、発明の詳細な説明を参酌することの役割が明確にされ(「・・参酌した上で,本件特許発明1は,・・・係止部が,・・・に当たり,・・・にするとの構成を理解した」)、しかしその理解でクレームを書き換えず、クレームの記載に基づいて判断すること(「特許請求の範囲の記載に「わずかに」と極めて抽象的に表現されているのみで,特許請求の範囲の他の記載を参酌しても,その内容が到底明らかになるものとはいえない」)が示されている用に感じる。


<同一特許の侵害訴訟>
平成21年04月27日 大阪地方裁判所 平成20(ワ)4394 裁判長裁判官 山田陽三
具体的記載も示唆もない特許請求の範囲の機能的表現を字義どおりに解釈した事例
機能的表現が用いられた特許発明の解釈

地震ロック分割出願事件-分割の適法性の判断事例-

2009-12-20 14:13:21 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成21(行ケ)10272
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 取消事由2(分割要件違反の判断の誤り)について
(1) 原告は,審決が,「…原出願当初明細書における,図1乃至図4に示された地震時ロック装置,図20に例示された『ロック装置』の位置,及び,図25に例示された『T位置』を組合わせて一つの発明とし,これを原出願から分割して,新たな特許出願(本件特許出願)とすることは,少なくとも,地震時ロック装置の取り付け位置の点で,原出願当初明細書に記載されていない事項を本件特許発明の構成要件として含むものと思量されるから,分割要件に違反するものといわざるをえない。」(19頁25行~31行)等として,本件特許発明に係る出願は分割要件違反であると判断したのは誤りである旨主張する

ア 本件特許出願の原出願の当初明細書(甲2の8。公開特許公報〔特開平10-30372,甲1〕も同じ。以下「原出願の当初明細書」という。)には,以下の記載がある。
 ・・・

(エ) 上記(ア)ないし(ウ)によれば,原出願の当初明細書(甲2の8)には,「比較のためのロック装置(従って本発明ではない)」として本件明細書(甲18)の図1~図4と同内容である図1~4が示され,そのため図面の説明としても「比較のための地震時ロック装置の断面側面図」,「同上作動状態図」とされている。
 しかし,上記によれば,原出願の当初明細書においては,図18ないし図24の地震時ロック装置においては,取り付け位置として,T,B,S1,S2及びS3位置が選択可能であるとされている(段落【0009】)が,図1~4で示される比較のための地震時ロック装置については,これをT位置に取り付けることについては記載がされていないということができる。

イ (ア) 一方,本件特許の出願時(原出願からの分割出願時,平成16年6月7日)の明細書(以下「本件当初明細書」という。甲2の15)の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
・・・
(イ) また,本件当初明細書(甲2の15)の図面には,・・・。
・・・

ウ 上記イのとおり,本件特許出願にかかる本件当初明細書(甲2の15)においては,図1~図4で示されるロック装置をT位置に取り付けるものとされているところ,上記ア(エ)において検討したとおり,原出願の当初明細書(甲2の8)には,本件当初明細書と同一の図1~図4で示される「比較のための地震時ロック装置」については,これをT位置に取り付けることについて,記載がされていなかったものである。

 そうすると,本件特許出願は,原出願の当初明細書には記載されていない本件特許発明1に係るロック装置をT位置に取り付ける事項を含むものであるから,特許法44条1項に規定する適法な分割出願とすることはできない。そうすると,本件特許出願について,本件分割前の原出願の出願日(平成8年5月27日)への遡及を認めることは出来ず,その基準時は本件特許の出願日(分割出願の日)である平成16年6月7日となる。



地震ロック分割出願事件-サポート要件の判断事例-

2009-12-20 13:52:19 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10272
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

2 取消事由1(サポート要件違反の判断の誤り)について
( 1) 原告は,審決が本件特許発明(本件特許発明1,3及び4)の「…本件特許発明は,構成要件Dにおける『自由端でない位置』との事項が,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるものであり,特許法第36条第6項第1号に定める要件を充たすとは認められないから,本件特許は,同法第123条第1項第4号に該当し,無効にすべきものである。」(16頁12行~16行)と判断したことは誤りである旨主張するので,以下検討する。
・・・

(エ) 上記(ア)~(ウ)によれば・・・。
 本件特許発明においては,その目的を達成するため,内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置に取り付ける等とし(段落【0004】,【課題を解決するための手段】),これにより開き戸の動きが最も大きい自由端でないためロックが確実になるとする(段落【0005】,【発明の効果】)。
 そして,本件特許発明1の特許請求の範囲(請求項1)には「内付け地震時ロック装置を開き戸の自由端でない位置の家具…に取り付け…」と記載されているところ,この「自由端でない位置」に関する記載として,発明の詳細な説明には,・・・と記載され,図5には「ロック装置」の,図6には「T位置」の記載がそれぞれある。

 しかし,図5の「ロック位置」について,上記のとおり「…本発明の方法を示し,…自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける」,「本発明の方法は,…T位置にロック装置を取り付ける…(開き戸(2)の自由端でない位置にロック装置を取り付ける…)。」(段落【0009】)とするが,ロック装置,T位置が自由端からどの程度離れた位置であるかについて,発明の詳細な説明には何らの記載がない。また,本件明細書中には,「自由端」自体についても【発明の詳細な説明】,【図面の簡単な説明】,【符号の説明】等にも一切説明がない

 上記によれば,本件特許発明1の目的は,作動が確実な開き戸の地震時ロック方法を提供するものであり,そのためロック装置を「自由端でない位置」に取り付けるとするものであるところ,自由端は開き戸の動きが最も大きいためこの自由端でない位置にこれを取り付けるとするが,自由端でない位置がいかなる位置であるのかにつき,発明の詳細な説明には何ら具体的な記載がないものである。

 上記のとおり,本件特許発明1では,地震時に自由端に比較して開き戸の動きが小さくなる「開き戸の自由端から蝶番側へ離れた位置」に取り付けを行うとするものであるところ,地震時には自由端において開き戸の動きが最も大きいからロックが確実ではなく,自由端近傍では開き戸の動きが自由端と同様に大きいため,ロックを確実にするためには,一定距離自由端から蝶番側へ離れた位置にロック装置を取り付ける必要があるものと解される。
 しかし,本件特許発明1の特許請求の範囲の「自由端でない位置」につき,どの程度の距離自由端から離れた位置であるのかにつき,発明の詳細な説明には一切記載がないことから,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明とはいえず,特許法36条6項1号に定める要件(いわゆるサポート要件)を充たさないというほかない

複数引用例から主引用例を選択した審決の手続違背の有無

2009-12-20 10:14:00 | 特許法50条
事件番号 平成20(行ケ)10492
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年12月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 審査段階における実質的な拒絶理由通知の有無
 上記(1)のとおり,本件拒絶理由通知は,本件補正前の請求項1に係る発明が,審決引用例を含む6つの刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを拒絶の理由とするものであった。

 これに対し,原告は
  本件拒絶理由通知書発送の日の約半年後に,主として「テンプレート・マッチング」に係る本件補正を行った上,同補正の日に提出した本件意見書において,これらの刊行物のそれぞれにつきその開示内容を摘示した上,いずれの刊行物にも本願発明の構成(テンプレート・マッチング)についての記載又は示唆がないから,本願発明は,これらの刊行物のいずれか1つに記載された事項に基づいた場合であっても,また,これらの刊行物に記載された事項を組み合わせた場合であっても,当業者が容易に発明をすることができたものではないなどの意見を述べ

  さらに,本件拒絶理由通知書の発送の日の約1年4か月後に提出した本件審判請求理由書においても,審決周知例に係る主張を付加するほかは,本件意見書に記載した意見と同旨の主張を繰り返すなどしたというのであるから,
 当業者である原告は,本件拒絶理由通知に対する意見書の提出期間内に,審決引用例に記載された発明の内容並びに本願発明と審決引用例に記載された発明との一致点及び相違点について十分検討し,また,当該相違点に係る構成の容易想到性に関しても,周知事項等に係る上記(1)アの記載をも参考にしながら,この点について十分検討した上,これらの各点についての反論を行うための十分な機会を与えられたものと認めるのが相当である。

 そうすると,本件拒絶理由通知は,本件補正前の請求項1に係る発明が審決引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることを理由とするものとして,適法な拒絶理由の通知であったというべきであるから,審査段階において拒絶理由の通知が実質的にされていないとの原告の主張を採用することはできない。


<最近の事例>
平成21年11月18日 平成20(行ケ)10469 塚原朋一裁判長
拒絶理由に摘示されていない周知技術等を用いることが許容された事例


平成21年09月16日 平成20(行ケ)10433 塚原朋一裁判長
本願発明の重要部分に対応する引用例の解釈を変更した審決を違法とした事例
周知技術の引用が特許法50条に反するとした事例

平成21年04月27日 平成20(行ケ)10206 飯村敏明裁判長
通知されていない予備的な拒絶理由
(拒絶査定中の指摘も拒絶理由としている。)

オークションの出品カタログへの美術品の画像掲載の判断事例

2009-12-13 18:21:57 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)31480
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年11月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸


第2 事案の概要
 本件は,絵画等の美術品の著作権者である原告らが,被告においてオークションの出品カタログ等に原告らが著作権を有する美術品の画像を掲載し,また,その一部をインターネットで公開したことにより,原告らの複製権及び原告Aの公衆送信権を侵害したとして,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償の一部として・・・の支払を求めた事案である。

第3 当裁判所の判断
・・・
3 争点1(引用(著作権法32条1項)として適法か)について
 被告は,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログに本件著作物の画像を掲載したことは,いずれも著作権法32条1項の「引用」として適法な行為であると主張する。

 著作権法32条1項は「公表, された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。」と定める。ここにいう引用とは,報道,批評,研究その他の目的で,自己の著作物の中に他人の著作物の全部又は一部を採録することをいうと解され,この引用に当たるというためには,引用を含む著作物の表現形式上,引用して利用する側の著作物と,引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ,かつ,両著作物の間に前者が主,後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきである(最高裁判所第三小法廷昭和55年3月28日判決参照)。

 前記認定事実のとおり,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログの作品紹介部分は,作者名,作品名,画材及び原寸等の箇条書きがされた文字記載とともに,本件著作物を含む本件オークション出品作品を複製した画像が掲載されたものであったことが認められるものの,この文字記載部分は,資料的事項を箇条書きしたものであるから,著作物と評価できるものとはいえない。
 また,このような上記カタログ等の体裁からすれば,これらのカタログ等が出品作品の絵柄がどのようなものであるかを画像により見る者に伝えるためのものであり,作品の画像のほかに記載されている文字記載部分は作品の資料的な事項にすぎず,その表現も単に事実のみを箇条書きにしたものであることからすれば,これらカタログ等の主たる部分は作品の画像であることは明らかである。本件冊子カタログの作者紹介部分についても,文字記載部分は,単に作者の略歴を記載したものであるから,著作物とはいえず,また,作品の画像が主たる部分であると認められる。

 したがって,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ,本件パンフレット及び本件冊子カタログのいずれについても,本件著作物の掲載が「引用」に該当すると認めることができず,被告の主張は採用することができない。


4 争点2(展示に伴う複製(著作権法47条)として適法か(本件フリーペーパー及び本件パンフレットへの掲載に関して))について
 被告は,本件フリーペーパーの綴じ込みカタログ及び本件パンフレットは,本件オークション又はその下見会で本件著作物を展示するに当たって観覧者に本件著作物を紹介するために作成されたものであって著作権法47条の「小冊子」に該当するので,これに本件著作物の画像を掲載したことは適法な行為であると主張する。

 著作権法47条は,「美術の著作物又は写真の著作物の原作品により,第25条に規定する権利を害することなく,これらの著作物を公に展示する者は,観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする小冊子にこれらの著作物を掲載することができる。」と定める。このように「小冊子」は「観覧者のためにこれらの著作物の解説又は紹介をすることを目的とする」ものであるとされていることからすれば,観覧する者であるか否かにかかわらず多数人に配布するものは,「小冊子」に当たらないと解するのが相当である。

差止請求と損害賠償請求の国際裁判管轄-ウェブサイトによる譲渡の申出についての判断事例-

2009-12-13 11:35:35 | Weblog
事件番号 平成20(ワ)9732
事件名 特許侵害予防等請求事件
裁判年月日 平成21年11月26日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

第4 本案前の争点に関する当裁判所の判断
1 国際裁判管轄の判断基準
 我が国の裁判所に提起された訴訟の被告が,外国に本店を有する外国法人である場合には,当該法人が進んで服する場合のほか日本の裁判権は及ばないのが原則であるが,例外として,被告が我が国と法的関連を有する事件について,我が国の国際裁判管轄を肯定すべき場合のあることは,否定し得ないところである。
 ただし,どのような場合に我が国の国際裁判管轄を肯定すべきかについては,国際的に承認された一般的な準則が存在せず,国際的慣習法の成熟も十分でないため,当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当である(最高裁判所昭和55年(オ)第130号同56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁)。

 そして,我が国の民訴法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときには,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判籍に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁判所平成5年(オ)第1660号同9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁)。

 本件訴えは,特許権侵害の差止請求(特許法100条1項)と特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)が併合して提起されたものであるから,以下,それぞれの請求について,上記判断基準に従って我が国に国際裁判管轄があるかどうかについて検討することとする。

2 不法行為に基づく損害賠償請求について
(1) 民訴法の規定する裁判籍の有無
ア 原告は,被告の特許権侵害行為(我が国における譲渡の申出)によって本件訴訟の提訴を余儀なくされ,弁護士費用相当の損害を被ったと主張し,同損害は,原告の本店所在地である京都市において発生したとして,民訴法5条9号(不法行為地の裁判籍)により我が国に裁判籍があると主張する。

 ところで,民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍の規定に依拠して我が国の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたことの客観的事実が証明されることを要し,かつそれで足りると解される(最高裁判所平成12年(オ)第929号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)。
 そうすると,我が国において損害が発生したことが証明されるのみでは足りず,不法行為の基礎となる客観的事実として原告が主張する事実,すなわち,本件においては日本国特許権である本件特許権の侵害事実としての,我が国における被告物件の譲渡の申出の事実が証明される必要があるというべきである

 そこで,以下,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をした事実が認められるかどうかについて検討する。・・・

イ ウェブサイトによる譲渡の申出
 原告は,被告が被告のウェブサイトにおいて被告物件の譲渡の申出をしていると主張する。

 たしかに,本件訴え提起時点で閲覧可能な被告のウェブサイト(英語表記)において「Slim ODD Motor」・・・)を紹介するウェブページ(甲4-1-1)が存在し,・・・。
 さらに,被告の日本語表記のウェブサイトにおいても,「Slim ODDMotor」を紹介するウェブページ(甲7)が存在し,・・・。

 しかしながら,上記英語表記のウェブサイトは,被告の製造する製品の一つとして,「Slim ODD Motor」を全世界に向けて紹介するものであり,日本語で表記された「Slim ODD Motor」の販売・製造に関する問合せフォーム(甲7~9)についても,プルダウンの選択次第で様々な製品に変更ができるものであり(乙7の1),品番や具体的な仕様についても何ら示されていない。そうであるから,同フォームが表示されていることをもって,被告物件につき譲渡の申出があったとは認められない
 また,被告のウェブサイトの中には,被告物件のうち一部の品番(DMBSFC06M)が掲載されているページ(甲4-1-2)も過去には存在したが,同ページが英語で表記されていることに加え,同ページには当該品番のモータの定格電流,定格電圧,騒音及び振動が示されているにすぎず,同モータの他の具体的な仕様については何ら示されていないのであり,また問合せフォームにもリンクしていないのであるから,当該品番のモータの一般的な紹介にとどまるというべきであり,同モータについて,我が国において譲渡の申出があったとは認められない

 したがって,被告が,上記ウェブサイトにおいて被告物件の譲渡の申出をしたとは認められない。
・・・

カ 小括
 以上のとおり,本件全証拠をもってしても,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出を行った事実を認めるに足りない。
 よって,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求については,被告が我が国において特許権侵害行為をし,同行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されたものとはいえないから,民訴法5条9号の不法行為地の裁判籍を認めることはできない

2 上記のように,不法行為に基づく損害賠償請求について,我が国に民訴法に規定する裁判籍が認められないのであるから,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があるかどうかについて判断するまでもなく,同請求について我が国に国際裁判管轄を肯定することはできない。

3 特許権侵害差止請求について
(1) 原告は,特許権侵害差止請求について管轄原因を主張していないが,他方で,本件は日本国特許権の侵害に係る訴訟であり,我が国の裁判所において侵害の有無を判断することが最も適切であると主張し,譲渡の申出のおそれがあるとも主張する。
 たしかに,原告は,日本国特許権である本件特許権に基づいて,我が国における被告物件の譲渡の申出の差止めを求めているのであり,準拠法も本件特許権の登録国法である日本国特許法になると解される(最高裁判所平成12年(受)第580号同14年9月26日第一小法廷判決・民集56巻7号1551頁)。したがって,我が国における譲渡の申出の事実が証明されなかった場合であっても,そのおそれを具体的に基礎づける事実(そのおそれが抽象的なおそれでは足りず,具体的なものであることを要するのは当然である)が証明された場合には,条理により,我が国の国際裁判管轄を肯定する余地もある

 しかしながら,前記2(1)で認定・説示したとおり,本件においては,我が国において被告物件の譲渡の申出がなされたとは認められず,また,同認定事実からは,被告が我が国において被告物件の譲渡の申出をする具体的なおそれがあると推認することもできず,他にそのおそれがあることを具体的に認定し得る証拠はない。

(2) よって,特許権侵害の差止請求についても,我が国の国際裁判管轄を肯定することはできない。

<同趣旨の判示>
いずれも平成21年11月26日大阪地方裁判所
平成20(ワ)9736
平成20(ワ)9742