知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

技術分野の異なる周知例の組み合わせに阻害要因がない場合

2007-02-03 09:19:37 | 特許法29条2項
事件番号 平成17(行ケ)10523
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 三村量一

原告らは,①引用発明と周知例の技術とは技術分野が異なり,また,「出没」の技術的意義が全く異なるから,引用発明に周知例の技術を組み合わせることはできない,②周知の技術手段は,穀粒より重い引用例の硬貨を高速駆動ではじく場合は,板バネ自体の弾性及び慣性により板バネとプランジャとに相反した動きを招く恐れがあり,かつ,この相反した動きを抑制するために板バネのバネ定数を大きくすると高速駆動ができなくなる恐れがあるから,引用例に周知例を適用することには阻害事由がある,と主張する
 しかし,特許請求の範囲において,本願発明の識別対象がメダルであることを限定する記載はなく,識別対象が重いものであることを示唆する記載もなく,さらに,識別対象が重いものであるために偏向板等に関して何らかの限定条件を付しているものでもないから,識別対象の重量に関する原告らの主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
 引用発明は「硬貨選別装置」であり,周知例として例示したものは「穀粒選別機」であるが,乙第3ないし第5号証によれば,識別対象を直接押圧することにより偏向路に移動させることは,種々の分野において行われていることが認められる。また,「識別対象を押圧する」という技術手段が識別対象の重量に関係なく実施されていることを勘案すれば,引用例と周知例の技術分野が異なること,識別対象の重量に差があることは,周知例における「識別対象をはじく」という技術手段を引用例に適用する際の阻害事由にならない。また,識別対象の重量が異なるときに,はじく力(板バネの強さ)等を重量に応じたものにすることは,当業者の設計事項であって,格別な困難性があるとは認められない。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。』