読書な日々

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『変動する大学入試』

2023年06月06日 | 人文科学系
伊藤実歩子編『変動する大学入試』(大修館書店、2020年)

フランスの大学入試のバカロレアを含むヨーロッパと日本における大学入試の変化している様子をそれぞれの専門家が分析した著作である。

ヨーロッパ諸国の大学入試の問題点がまとめられているが、昨日の本と同じ坂本尚志という人がフランスのバカロレアの現在を分析している。

フランスでは大学入試を資格試験として、中等教育で一定の学力を獲得しているかどうかを測る物差しとして機能している。したがって競争試験ではないので、基準をクリアした人が合格となり、ほぼ国立だけの大学を自分で選んで入学することができる。

しかし大学の大衆化によって、いろんな問題点が生じた。例えば、定員というものがないフランスの大学では、人気の大学に多数の学生が集中し、教室にもあふれるような状態になった。きめ細かい教育などできるはずもなく、結果的に、大学の授業についていけないで、半分くらいしか進級できないという。

実際、1968年のフランスの大学生の5月革命と呼ばれる事件はまさに急激に進んだ大学の大衆化(つまり合格率の急上昇)によって大学生の数が増えすぎて、大学側のキャパがそれに対応できないことが原因の一つであったのだから、半世紀以上も放置されてきたわけだ。

その改革がやっと動き出して、2019年から、予め(まだバカロレアも済んでいない段階で)高校生が希望をだして、人数を大学側が調整するというシステムが導入された。そうすることで、大学入学希望者を60校くらいある全国の大学にまんべんなく振り分けようというのだが、それでもいろんな問題が起きているという。

普通に考えれば、資格試験としてのバカロレアは残して、その上で、さらに大学が適正な定員程度の学生を選抜する方式を作ればいいのではないのか、と素人考えで思うのだが、どうなんだろうか。バカロレアという制度、フランスの高等教育にせよ、就職活動にせよ、あらゆることの出発点になっている制度を維持する方向で改革が進めばいいのだが。

この論文集には、フランスにおけるエリート養成機関であるグランド・ゼコールについての現状報告も同じく坂本尚志が書いている。こちらも制度の歴史、現状、問題点などがまとめてあって興味深い。

このグランド・ゼコールについてはこちらも興味深い

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