読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

『暗幕のゲルニカ』

2018年11月03日 | 作家ハ行
原田マハ『暗幕のゲルニカ』(新潮社、2016年)

一方には、ピカソのゲルニカ製作現場とそれがパリ万博展示以降にアメリカに渡ってMoMa美術館に保管されるに至った時系列。こちらは史実にかなり忠実なようだ。

他方には、フィクションとして、2003年にMoMa美術館で「9.11」後のテロとの戦いというきな臭い戦争が勃発した状況での「ピカソと戦争」という大回顧展を企画した日本人キュレーターの八神瑤子が「ゲルニカ」をソフィア王妃芸術センターからMoMa美術館に借り出すために奮闘する姿を同時並行して描いている。

この作者は生きてもいなかったような時代の、場所の、人物の日常生活を、目の前で見てきたように書くのが本当に上手だ。1937年ピカソとドラ・マールが付き合い始めた頃のパリでの生活、パリ万博の展示用に依頼された「ゲルニカ」の製作現場、それがパルド・イグナチオの協力によってアメリカに移送されることになった現場がじつにリアルに描かれている。

もちろんフィクションなので、ドラ・マールが1945年にピカソと分かれるときに身ごもっていた子が、小説の最後に瑤子を拉致したバスク独立戦線の一味のマイテで、二人をつなぐ線がピカソの描いた鳩の絵であった、そしてマイテが最後には瑤子を助けることになる、という作りになっている。

これだけのものを書くのにどれだけの下調べが必要だったことか。眼の前で登場人物たちが動き出すようになるまでの準備の膨大さに気が遠くなるような気がする。

原田マハ渾身の一作だと思う。

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