超進化アンチテーゼ

悲しい夜の向こう側へ

どこまでも行けるさ/tobaccojuice

2011-05-28 21:43:50 | 音楽(旧譜レビュー)






相当遅れましたが、去年の3月に出たtobaccojuiceの「どこまでも行けるさ」の感想でも。




このアルバムは、明るいです。
多分タバコジュースのアルバムの中でも最も陽性のアルバムになっていて
それ故にブルースならではの湿った感じが好きだった私にとっては驚きの作品だったんですが
1年以上経った今だと
これもアリかな、っていうか
普通に元気が出るアルバムだよな、とか。そういう風にも思うのです。


「ヒーローは命を懸けて戦っていて
 言い訳する卑怯者の悲しみを救っちゃくれないから」 (僕のヒーロー)

でもこれもある種のブルースなのは間違いなくて、ちゃんと弱者の視点からなのが素晴らしいなあ、とか
そういう事も感じるんですが
明るいパンクというか
明るい反骨精神というか。湿った方向性で嘆くのではなく
笑いながら泣いて、泣きながら笑って。今までよりも生活感に根差した方向性になっているとも云えるんですけど。

それに加えてメロディも素直で跳ねてて、スッと入ってくるのが殆ど。
難しさも頭抱えた感じも捨て去って
お日様の下で口ずさみたくなるくらい開かれたメロディのオンパレードで
そこもまた新境地だなって思うのと同時に
単純に勇気付けられるフレーズも多く。
 日常生活で心が折れても、何もかも嫌になっても、音楽を聴く時だけは
聴いている時だけは救われて欲しい、心が豊かになってて欲しい。そういう一つの原始的な表現欲求。
むしろそれだけで作られてるんじゃないか?ってくらい
圧倒的に聴き手を掴みに掛かって来るこのアルバムは
最初こそ驚きつつも、聴き込んでみるといつのまにか言葉とメロディが自分の中に入り込んでいるような
そんなパワーのあるアルバムだと思います。
今ではとても好きな作品。

「天使のスピード」「エルドラード」等、神秘的でみずみずしい曲も入ってたりと
陽性一辺倒じゃないのもまたバランス的に良いですね。
その辺も抜かりなし。全9曲っていうのもまた聴きやすい部分です。




ファンの視点から書きましたけど、ある意味初心者的には入り込みやすいかもしれない。
純粋な音楽への愛、純粋な表現欲求。
素直で素敵なメロディ。
それがいっぱい詰まっているワンダフルなアルバムです。毛色は違うけど、これもこれで彼ららしい。
若返った、とも云えるか。最初が渋すぎたのかも。


過去作のレビュー

喜びがやってくる
http://blog.goo.ne.jp/nijigen-complex/e/249e0fa25e97d50c29f9835c3f230178

少しずつ歳を取って
タバコジュースの音楽もより体に、心に沁み込むようになって来た。
これからも彼らの作品はコンスタントに取り上げていく予定です。
もっと知られてもいいはず、って気持ちもありつつ。



Sweet Spot/ゆらゆら帝国

2011-05-24 23:03:14 | 音楽(旧譜レビュー)





「いいたいこともない
 つたえたいこともない
 やみもない
 ひかりもない
 ましていたみもない

 いっけんやわらかい
 すごくなまあたたかい
 おわらない
 にげられない
 わすれたふりは もう

 やめよう」


「まるがくるってしまった
 円心がずれてしまった
 まったくまるがかけなくなってしまった」  (ソフトに死んでいる)




改めてこの曲は名曲ですねえ・・・
このフレーズだけで自分の理想に近いというか
何を言いたいわけでもなく
でも全く言いたくない訳でもなくその中間
明るくも暗くもないその中間
何かの狭間で
何も出来ないまま生きている人間。それもまた人間。ここまで秀逸な詞はなかなかないと思う。
しかも「ソフトに死んでいる」って、何気によく分かるわ。よく分かるのもどうかと思うけれど。

そもそもこのアルバム自体非常に不気味というか
次の作品であり実質ラストアルバムになった「空洞です」に繋がる、かつそれ以前の作品の要素もある
ってことでこの作品って今になって考えて見るとゆら帝のディスコグラフィーの中では
本当に中間的な立ち位置というか
どこにも属さない感じがある。
詞と曲に関しても同じく。
どこにも辿り着かない、何の主張もなく、でもありのままって訳でもない
そんな形容不可能な音世界が広がっています。
広い意味で言えばオルタナってことになるんだろうけど
その中でも随一というか、不協和音とかノイズをめいいっぱい使って
一言では形容できないアルバムになってて、ほぼそれのみで鳴らされる「ソフトに死んでいる」なんかは
その極みと感じます。
もしかして一番個性的な曲かもしれないけど
非常に虚ろな声で「どこまでも行けるさ」とかのたまう「2005年 世界旅行」とか
「君は僕の急所」ってフレーズが実に素晴らしいロックンロール「急所」、
ゆら帝ならではのエッセンスと軽快さが光る「貫通前」、
そして気持ち悪さを極めた変態的な「タコ物語」など個性の強い楽曲は他にもいっぱいで。

ただ、聴きやすさに関しては確かにいかついし不穏だしポップさもほぼカットされてますが
要所要所で切れ味の良いロックも挿入されているので
その点では冷え切った曲と熱のある曲が見事に交差していて
二面性のあるアルバム、とも言えると思います。無感とか無感情を良い具合に表現した一作
主張の強すぎる作品に飽きた時は
是非このアルバムを聴いて、どこにも辿り着かない良さを面白がって欲しいですね。




今日たまたま「ソフトに死んでいる」を聴いて、すごい自分の気分にピッタリだったので
それも含めてちょい久々の旧譜レビューです。
旧譜レビューもコンスタントに続けていく予定です。



Out/小谷美紗子

2011-05-01 19:24:22 | 音楽(旧譜レビュー)




最近、旧譜について全く取り上げてないな、と思ってたらもう約4ヶ月もやってない事に気づいた。
ので、今夜、久々に。今回は小谷美紗子の「Out」です。




このミニアルバム、出たの4年前なんですけど
未だに新鮮と言うか色褪せないというか。
珠玉の曲ばかり入ってるんですけど
一曲一曲の濃度が高くてアルバムサイズと言っても差し支えないくらいの聴き応えはあります。
アンニュイな楽曲の世界観、それでいてオシャレでもあるアレンジ、小気味良い英語の発音。
どの曲を聴いてもセンスが詰まってるのと同時に
正しくブルースでもあって、
沁みる音楽が聴きたい人にはうってつけの一枚になってると思います。どの曲もドラマチックで。それでいて繊細で。


「どうせいつか必ず死ねる」 (消えろ)

まず一曲目のタイトルが「消えろ」って時点で凄いんですが・・・そこで歌われてる事もまた凄い。
いくらわめいても、嘆いても、痛がっても、いつかは死ぬんだからそれまで生きてろ、と。
しょうもない励ましがバカバカしくなる位にリアルで痛みのあるメッセージ。
ある意味Syrup16gの「リアル」にも通じる世界観で
観念的ではありますが、これが彼女なりの励まし方なのかもしれない。
ただ、「大丈夫」って無責任に言われるよりは
こっちのほうが確かに現実的で、受け取るべきメッセージな気はします。
時間には逆らえないからその分ふんばって生きてやると。
いつかは終わりの時、迎えの時が来る事を頭に置いて。何故か聴いてると安心する曲です。

また、切なさをそのままメロディに置き換えたような名曲「YOU」や
この中では王道のバラッド「Out」、男の不倫を必要に問い詰める「mad」、
都会の迷子を救済する歌「東京」など、どの曲も際立っていて、存在感があって。
その流れがキレイなのと同時に
どの曲にもある種の悲壮感が漂っていて、それに触れるのが至極気持ち良い。だけじゃなく、人に訴えかける
力だったり、優しさだったりもあって、ダイレクトに心にガツンと来る作品になってると思います。
またピアノ、ベース、ドラムっていうシンプルなアレンジも聴きやすさに貢献していて。




本気で音楽に励まされたい、救われたい、そんな人に是非聴いて欲しい作品。
人の力を感じる作品ですね。まさにそれを出してます。タイトル通りに。



INDIE ROCK STRIKES BACK/BBQ CHICKENS

2011-01-30 23:34:47 | 音楽(旧譜レビュー)





久々に聴いたらかなりスカッとした。
という訳で、
ちょっと間が空きましたが旧譜レビューとしてBBQ CHICKENSの「INDIE ROCK STRIKES BACK」です。
もう10年も前の作品になります。
全然そんな感覚もないけれど。
リアルタイムで聴いた時の興奮がそのまま蘇って来ましたよ。ここ数日ね。



まず、全部で19曲入ってるんですが、トータルタイムは18分です。
19曲で18分・・・これはある意味凄いですよ。
これだけである程度の記名性があります。
ほぼ1分にも満たない曲ばかりで構成されていて。一曲来たらすぐ終わって、はい次!みたいな感じ。

一応バンドの説明をさせてもらうとハイスタンダードの横山健が中心になってるバンドなんですが
いくらパンクバンドとは言えこの短さはちょっと他に例を見ない。
しかも、それできちんとアルバム一枚分聴いた気分になれるんですよね。
きちんとバランスを考えた配分になっていて。

とはいえ、流石に全曲ほぼ1分切って収めるとなると
展開の似たり寄ったりが出てきてしまう訳ですが、これを恐ろしい方法でカバーしていて。
端的に、ボーカルを下手なヤツにする、って事です。


ボーカルの名前はホンゴリアンと言い、正直歌は全然上手くないです。元々デザイナーらしいですから。
でも、それがパンクのメロディとかテイストには非常に合ってるんですよね。
汚さが芸になっていると言うかね。
同じような曲調でも、後半の頃になってくると「またこれかよ!」みたいな感じで逆に笑えるんですが
その要因の一つとして、ホンゴリアンのパンキッシュな歌声が常に痛快、っていうのがあるかと。
 下手は下手でも、ポップな下手さっていうか。
英語の発音は全然なんですけど、それも彼なら何か許せちゃう感じ。
もっと言うと絵が浮かんでくるんですよね。
ホンゴリアンが必死で歌ってる様が。
特に16曲目のラストの「ファックオフ」の部分とか。なんか切実さを感じる。切実なファックオフですよ。

そういういい意味での汚さ、乱雑さ、ガシャガシャ感が癖になるんですが
多分オリジナルアルバムはこれ一枚で終了だったと思う。
きっと一発ネタみたいなものだったと思うんだけど。
でも、逆に言えば凄く個性のある作品って表現してもいいと思う。一枚目で完全燃焼、みたいな。



で、パンクバンドらしく歌詞が攻撃的で批判的な内容が多いです。
後半の曲で示唆されてるように、これが真実ではもちろんなく、聴いて考えて欲しい、って要素強いと思うけど。
それを踏まえてその一部を紹介します。


「誰かがウチの窓を割って、オレが110番した時
 奴らはやる気なく、話を聞こうともせず、知ろうともせず

 青い服を着た使えない奴ら」 (I HATE THE COPS)


「奴らは質問し
 オレたちは答える
 でも話は何かねじまげられてる
 奴らはそれを
 ロックジャーナリズムと呼ぶ
 でもそれは音楽産業の奴隷に過ぎねえ

 買うな 買うな
 間抜けな雑誌なんか」   (STUPID MAGAZINES)


もう一つ、かなりよく分かる詞を。

「オレは部屋で一人
 電話をワキに置いてチンコをいじくるしかない
 テレビをつけても
 何もおもしろいものはやってない

 何てこった 何てこった 誰かオレの言うコトが聞こえるか?
 何てこった 何てこった 誰かいるか?

 (中略)

 俺は通りに出てみた
 会いたい奴は一人もいなかった
 オレが愛するあのコはどこだ?
 彼女は他のクソ野郎とファックしてた」   (FUCK YOU)



更に、こういう曲に混じってくまのプーさんについての歌だったり、ポップコーンの歌だったり、
ビッグマックの歌だったり、サッカーの応援ソングがあったりと
展開こそ似通ってるものの、多種多様な曲がたっぷり詰まっています。
その展開についてもホンゴリアンの個性的なボーカルでカバー、と意外と隙が無くて。
 結構に尖ってる作品だけど
ポップな面も往々にしてあるので、是非ロック好き、パンク好きには一度聴いてみて欲しいです。
多分、考える暇も無くヤラれると思う。
一気にガガーッって攻めてきて、ササーッと引いていく感じ。これほど擬音が似合うCDもない。
本気のパンク・アルバムだと思います。


ちなみに最後にはなんと1秒の曲が入ってます。
果たして曲と呼べるかどうかは疑問ですけど(笑)。
でもそのアイディアが既にパンク的。




Spitting Kisses/COMEBACK MY DAUGHTERS

2011-01-04 19:48:36 | 音楽(旧譜レビュー)





年始は椿屋ばっか聴いてました。「CARNIVAL」続けて3週目突入とか。なんか飽きないんだよな。




今年最初のアルバムレビューはなんとなくこのバンドから。
COMEBACK MY DAUGHTERSの「Spitting kisses」です。


「ハエが飛び回るように時間が過ぎていって
 昨日と10年前の区別もできなくなってるだろ

 君には何が見えてるんだ?
 僕はどこに立ってればいい?
 あたりを見回しても目に止まる物なんかほとんど無いよ

 退屈な時間にビールを飲んで過ごすくらいの小銭なら持っているんだけど」 (GET BACK)



眩しいメロディに、楽しげなアンサンブル。思わず口ずさみたくなる雰囲気。
だっただけに
初めて詞を観た時はあまりの辛気臭さとリアル感にビックリしたんですけど
所属がピザオブデス、って事で半分納得した気はしました。
現状に対する警鐘、これはパンクなんだと。音は速いどころかほぼミディアムなんですけどね。

カムバックの魅力、としては
そのあまりの聴き心地の良さがあげられます。
このアルバムはカムバックの中でも最もポップで、一曲一曲も短く聴きやすい
かつスムーズな英語詞もまたその聴き心地の良さに尽力していて。
英語詞である理由があるように思えて。
いかにしてポップな音楽を作るか?って事に腐心されてるような気がする。

けど、歌詞を読み込んだり、聴きこんだりしていると
それは一つの宣伝に過ぎないというか
本質はやっぱり歌詞に於けるシリアスな心情描写だったり、メッセージ性にあると思っていて。
読んでるとすっごい現実的なんです。
それがすごく沁みるんです。
夢を見させてくれる様なカラフルなバンドサウンドに乗せて歌われる確かな現状確認。
こういうバランスの取り方はあんまりないな、と思うのと同時に
パンクやメロコアのレーベルに所属していながら、ほぼ速い曲なしってのも際立っています。
割と1枚目にして決定打的な作品かな。
未だに入門には相応しいと思う。

私個人としては何も信じる事が出来ないような日に、よくこのアルバムを手にします。


で、この作品のあとに更にストイックに英語詞ロックを追及したアルバムが出ます。
これが個人的にすっごく印象に残った作品だったので
出来ればまたレビューしたいです。
まずはこの傑作を味わってみて欲しい、って気持ちもありつつ。楽しさと真面目が同居しているアルバム。




「もっとマシな人生を求めて君が逝ってしまった」(CHEMICAL AGE)

このフレーズは今でも思い出したりします。