心と神経の哲学/あるいは/脳と精神の哲学

心の哲学と美学、その他なんでもあり

The Mystery of Consciousnessの概要(1)

2012-10-27 09:06:25 | 書評

The Mystery of Consciousnessの概要の前半です。

『意識の神秘』の概要

 本書は現代アメリカ哲学の第一人者ジョン・サールが、1995年から1997年にかけてThe New York Review of Booksという雑誌に載せた書評を編集してできたものである。
 周知のようにサールは言語哲学と心の哲学を専攻するアメリカ哲学界の重鎮で、その著書は我が国でも数冊翻訳出版されている。彼の思想は英米系の哲学では最も日本人に親しみやすい部類のものと言える。
 サールが得意とするのは心身問題、特に最近の脳科学の成果を踏まえた心脳問題である。彼は自分の立場を「生物学的自然主義」と称し、この立場から還元的唯物論と心身二元論の双方を徹底的に批判している。また、人間の社会的言語行為から生じる心の意味論的次元を重視し、その観点から強い人工知能(strong AI)の可能性を完全否定していることでも有名である。
 『意識の神秘』は八つの章からなるが、第1章と最終章で自分の思想を述べている以外は、すべて書評にあてられている。この本の狙いは、近年興隆してきた意識の科学の基礎を心脳問題の観点から吟味することにある。そこで、数人の学者の思想が生物学的自然主義の立場から糾弾されることになる。
まず、第2章ではフランシス・クリックの『驚異の仮説 ― 魂の科学的探究』が取上げられ、その神経還元主義の立場が批判される。これによって、脳の高次の創発特性としての質的意識が、神経科学的研究によっては十分解明できないことが示される。
 第3章では生物学者ジェラルド・エーデルマンの『明るき気、輝ける火 ― 心の問題について』と『想起された現在』が取上げられ、その神経ダーウィニズムと再入力地図の思想が吟味される。エーデルマンによると、人間の脳は環境からの情報入力をカテゴリー化能力によって神経回路網にマッピングするのだが、これでもやはり意識の主観的特質(クオリア)と意味論的心の本質は理解できない、と糾弾される。

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