今回は「3 水とH₂O、あるいは心と脳」について説明する。
中学の理科で習ったように水の分子はH₂O、つまり二個の水素原子と一個の酸素原子の結合体である。
中高の理科ではこれ以上のことを教えない。
つまり簡単な分子化学しか教えず、高度の量子化学を教えない。
そこで、大学の哲学の授業で水はその構成要素たる水素原子と酸素原子が単独では決してもちえない性質をもつ、という創発の現象が理解できない。
よくある意見として、それは質量保存則に反するから、まやかしだ、というものである。
これは自分が量子化学について全く知らないことに由来する臆見なのに、その自覚がない。
ドヤ顔で、そうした意見をのたまう。
本節で量子化学によるH₂Oの複雑な構造の説明が披露されている。
化学的次元ですら、H₂Oは水素原子と酸素原子の足し算として理解できない。
ましてや人間の感覚が関与する「水」の豊かなクオリア(感覚質)について質量保存則をもち出して反論するのは、愚の骨頂である。
前にも書いたが、高校で教える理科は19世紀までの自然科学であり、前世紀以降の量子物理やニューサイエンスにおける創発の概念は全く教えない。
それゆえ、大学に入ったら、自分の無知の無自覚を深く反省して、高度の自然科学的見方と哲学における存在論の融合に視野を広げなければならない。
そして、これは脳と心の関係についても言える。
とにかく、「水とH₂O」という対置図式は、脳と心の関係を考える際、初歩ないし基盤としての重要な役割を果たす。
ここで「創発」の現象を素直に理解しようとしないと、一歩も先に進めない。
とにかく、この節の中で引用されているアーウィン・スコットの量子化学的説明をよく読んでほしい。
君たちはおそらく中高で理科や数学が苦手だったと思うが、スコットの言いたいことはだいたいわかると思う。
スコットのこの文章は、脳と心の創発関係の説明の中で使われたものである。
にゃるほど