(1)濱口竜介監督作品の「ドライブ・マイ・カー」が今年の第94回米アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門にノミネートされた。それぞれに主要部門賞に名を連ねており、映画作品自体の評価の高さがうかがえる。
(2)「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹さんの原作(短編小説)を映画化したもので、濱口竜介監督は「村上春樹さんの原作小説の物語の普遍性を映画でより強く表現したい」(報道)と独自の映像美学に意欲と手ごたえを示している。
(3)おおまかなあらすじを読むと米映画「ペーパームーン」のような日常生活に潜む人間関係の機微、哀楽、夫婦愛、人間愛の深さを感じさせるもので、シチューエーションが日本的におさまらずに「ウエスト・サイド・ストーリー」のような米国社会の根底に渦巻く「生きる力」、底力を想起させる感性が感じられる作品だ。
(4)村上春樹小説は人間が壁をすり抜けて時間、空間を移動するシュールリアリズム(surrealism)が外国で評価が高く、外国語翻訳出版も日本の作家では数多く支持されてノーベル文学賞の候補として毎年のように注目されている。
こうした傾向がもちろん映画作品の良さはあるのだろうが、村上春樹さんの原作の映画化として外国でも注目を集めているとも理解できる。
(5)「ドライブ・マイ・カー」はビートルズの楽曲名であり、ポール・マッカートニー作品の軽快な音階が流れるように揺れて動くメロディが特徴で、村上春樹さんが好んでビートルズ楽曲名をモチーフあるいは象徴的に小説タイトルに取り入れてきたものだ。
村上春樹小説、ビートルズ楽曲、ポール・マッカートニーメロディ、ドライブ・マイ・カーのつながりが大きく夢をふくらませる文学性、芸術性、映像性として感じられて、これまでの日本映画にない国際性、独自性、作品性だ。
(6)世界に誇る米国映画産業も情報化時代、社会の進化の中で大作主義からの転換に迫られて、さらに米映画界の人種問題、ジェンダーギャップの試練の中で社会批判にさらされて低迷が続き、近年は外国作品が注目される傾向にあり、今回も濱口作品が主要部門で軒並みのノミネートになった。結果は3月末に迎える。