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続・北の原爆50年史 其の弐拾参

2006-11-16 13:54:14 | 歴史
■10月12日、中国の唐家セン国務委員が胡錦濤国家主席の特使として訪米して、ブッシュ大統領と会談しました。同日の朝日新聞に掲載された韓国と中国の研究者インタヴュー記事です。

韓国西江大学副教授・金英秀
「北朝鮮の行為はいつもの瀬戸際外交ではない。積極攻勢の一手だ。再開しない6者協議やミサイル発射による非難の高まりで不利になった状況を、一気に盛り返す奇襲だ。11月に中間選挙を控えた米国を無力化し、ネオコンをかき乱す、計算ずくの戦略だといえる。……韓国内部での葛藤は深刻化すべきだ。当面、韓国ができることは何も無いと言える。金総書記は今、国際的な状況が悪くなればなるほど結構だと考えているのではないか。再びミサイル発射や核実験など強硬手段に出て、或る日突然、「核不拡散条約(NPT)に復帰する」「米と外交関係を樹立しよう」などと重大発言をして、更に掻き回す可能性も高いと見ている」

■「中間選挙」でブッシュ政権を無力化するという目標を立てていたのなら、見事に狙いは的中したと言えるでしょう。ネオコンも退潮も著しく、リーダー格のラムズフェルド国防長官が更迭されたのですから、こちらの目的も達成されたと言えるかと言うと、ネオコンの主張は中東問題の解決を中心にしたもので北朝鮮問題とはほとんど関係が有りません。新しい国防長官に就任したゲーツ氏は、ブッシュ父政権でCIA長官を務め、米国内で最も早く北朝鮮の核兵器開発に警鐘を鳴らした人物とされています。米国をイラクの泥沼に沈めておいて東アジアに手が回らない状態にして置いた方が良かったかも知れませんなあ。更に、「韓国ができることは何も無い」というのも正確な分析でした。金副教授のような優れた分析力を持っている学者が発言力を増して行くのなら、韓国の将来も明るいような気がします。もしも金副教授の予測が的中したら、近々、ミサイル実験と核実験が行われる事になるわけですが、これは当たって欲しくない予言ですなあ。


韓国政府は13日、北朝鮮に対する国連安保理の制裁決議を受け、制裁委員会に提出する決議履行計画を発表した。韓国政府は決議で言及された大量破壊兵器関連物資の輸出禁止措置などは既に実施しているとの認識の下、実質的な追加的制裁を行わず、既存の措置を補強していく方針を明らかにするにとどめた。 
(時事通信) - 11月13日

■太陽政策を捨てずに側近閣僚を次々に交代させて内閣を何とか維持している盧武鉉政権ですが、今更、米国主導の北朝鮮に対する制裁措置の一角に参画するわけには行きますますなあ。北朝鮮との関わりの深さが目立った側近を数名辞職させたところで、内閣中枢にまで及んでいると言われる金日成思想に感化されている人々を一掃する事など不可能でしょう。このまま事態が悪化の一途を辿れば政権の支持率は限りなく低下し凄まじい権力闘争が始まるかも知れません。唯一の希望は、米国政府が方針を転換して2国間協議に応じ、金正日体制を維持する援助を約束してくれるようになるのを待って、太陽政策の正しさを声高に叫んで見せる事なのでしょうが、たとえ民主党政権の誕生まで事が進んでもKEDOの大失敗を再び繰り返すほど米国は間抜けではないでしょう。

■次は何度も登場して貰っている中国復旦大学国際問題研究院副院長の沈丁立教授が発表した核実験直後の分析です。


「なぜ、北朝鮮が9日に核実験に踏み切ったのか。中ロ両国と日米韓3箇国は、核開発反対という立場では一致するが、制裁の程度については必ずしも一致していない。北朝鮮はこの不一致を巧みに利用した。……8日は日中首脳会議。北朝鮮は核実験で日中関係の修復を促したくはないし、中国を刺激したくもないため、実行しなかった。中朝関係が好ましくない今、中国を不機嫌にさせたくない。翌日なら、中国が不機嫌になる程度は8日ほどではない。……北朝鮮の核保有で中国にメリットが無いわけではない。米国は核保有国に武力行使したことはない。……北朝鮮の軍事力が米軍を朝鮮半島に引き付ければ、台湾問題を抱える中国にとっては米軍の圧力が軽減されることにもつながる。……中国は限定的な制裁しかできず、今回の核実験は北東アジアに新たな軍事的な緊張をもたらすことになるだろう。」

■日中首脳会談の「翌日なら」中国が不機嫌になる程度が低いという分析は甘かったようです。面子を丸潰れにされた胡錦濤総書記の怒りは相当に強烈らしく、国境の緊張、経済制裁の強化と手回し良く北朝鮮の締め上げを強めています。沈教授ばかりでなく多くの専門家が口を揃えて「米国は核保有国に武力行使しない」という原則を引っ張り出しますが、それが永久に変わらないという保証は無いでしょう。それに、北朝鮮の核武装が台湾問題とリンクした場合、中国に対する米国の軍事圧力が軽減されるという読みも危ういものが有りそうです。グアム島基地と沖縄の攻撃力が増したら、それは北朝鮮と台湾の両方を睨んで三角形の軍事的緊張は一段と高まるのではないでしょうか?

歴史の真相?

2006-11-15 22:15:49 | 歴史
■「先史時代」という言葉が有ります。歴史学という学問は、文字資料の存在がすべての研究の前提であり基盤でありますから、文字に書き残された資料が出て来ない長い長い時代が「先史時代」です。紙が発明され、木版から金属活字を使った活版印刷へと技術が進むに連れて、歴史学が扱う文字資料の量が膨大なものになりました。電子化されたらもう調査は不可能かも知れません。それはそうと、調査対象をテーマごとに絞るのが比較的簡単だと思われる時代でも、文字に書かれているから何でもかんでも歴史学的な価値のある資料ばかりなのか?と言うと、偽書・偽造文書・トンデモ本などなど、うっかり扱うと歴史の迷宮に迷い込み、深い落とし穴に真っ逆様!という事故が起こります。
 
■それより困るのが、一族の秘密だの国家機密だのと何処かの蔵やら金庫の中に秘蔵されてしまう貴重な資料の多さが研究者を悩ませているのだそうです。そんじょそこらの図書館を歩き回っても、どうしても調べが付かない歴史的な事実が山ほどあります。特に、戦争や革命に関係する資料となると大規模に廃棄されてしまっていたり、永久に非公開とされてしまったりと、歴史というジグソーパズルを解くのに不可欠となる事実を突き止められずに諦めなければならない事も多いと聞きます。ソ連が崩壊した時には世界中の歴史学者やジャーナリスト、政治家などがクレムリンやジェルジンスキー通りに押し寄せて手段を選ばず宝の山に集(たか)ったのだそうですなあ。浜田幸一さんの証言によりますと、自由民主党も専門チームを派遣して膨大な資料を掻き集めて帰って来たのだそうです。勿論、日本共産党と日本社会党の裏面史を暴いて国会対策の秘密兵器にするためです。


太平洋戦争末期、劣勢の旧日本軍が多用した航空機の体当たりによる米艦への特攻作戦で、米軍が至近自爆を含む特攻機の命中効果率を半年間で56%と算定し、日本側推定を大幅に上回っていたことが、米国立公文書館に保管されている米軍機密資料で分かった。日本側は特攻初期のフィリピン海域での特攻命中率を26~28%と推定していた。戦史家の原勝洋氏が入手したこの資料は、未公開分を含む米側撮影の特攻写真340枚とともに、15日発売の「写真が語る『特攻』伝説」(原勝洋著、KKベストセラーズ社)で公表される。 
時事通信 - 11月15日

■おそらくは同じ情報源と思われますが、11月14日の讀賣新聞に記事と写真が掲載されていました。沖縄沖で黒煙を上げる米空母「ハンコック」の鮮明な写真です。1945年4月7日に撮影された物で、これも米国立公文書館に秘蔵されていたのだそうです。GHQによる「正しい歴史」の宣伝工作は徹底していたのは有名な話で、その影響を全身で浴びたのが今の60代の人達という事になります。70代以上になりますと、実体験を持っていますから、「戦争体験」を聞く時には注意しないと歴史的な事実が歪んでしまいます。この特別攻撃にしても、「愚かで非人間的な暴挙」というのが定説ではないでしょうか?或る潜水艦長が書いた本の書き出しにこんなのが有ります。


開戦当初からすべての日本製兵器は特攻用だった。

■初めて読んだ時には眩暈がしたものです。海軍ばかりでなく、司馬遼太郎さんの戦争観を作り上げた陸軍の豆タンクも実戦に投入されたらただの標的でしたから、これも特攻兵器と言えますし、防御をまったく考えずに設計された陸海軍の飛行機も似たような物でしょう。航空母艦を中心にして編成される機動部隊を相手に戦艦を並べて待ち受けていた海軍は、もしも対米戦争となったら始めから集団特攻するしか無かったからこそ、対米戦争に反対していたのでした。でも、予算を分捕るためには「これでは米国と戦えない」という殺し文句が有効だったので、負けると分かっている戦いを始めねばならなかったのでした。まあ、自業自得というところでしょう。真珠湾を燃え上がらせた瞬間から、戦艦大和の特攻は決まっていたとも言えそうです。

■今年、話題になった人間魚雷「回天」にしても、海軍首脳部がまったく通商破壊を考えないまま開発に踏み切った兵器でした。ハワイが無理でも南のソロモン諸島、ニューギニア、フィリピンなどで陸軍の兵士を餓死させる前に、最初から米軍の輸送船を沈め続けていれば戦況は随分と違ったものになったと言われています。嫌な噂ですが、旧日本外軍の幹部がGHQと手を結んで陸軍を悪役に仕立て上げたという話も有りますし、何よりも戦後も生き延びた官僚機構自体が、率先して米国の注文通りに動いて見せたのですから、教育現場だろうが職場だろうが、真相を語らない空気と習慣が根付くのは仕方の無い事だったのでしょう。

■一番の責任は一夜にして主張を転換した大手新聞社だというのも有名な話で、憲法改正よりも新聞社の豹変を元に戻す方が難しいかも知れませんぞ。南京大虐殺・従軍慰安婦を筆頭に、あの戦争は何だったのか?と考えるのに邪魔になる雑音が多過ぎます。文科省が選択科目の日本史だろうと、必修科目の世界史だろうと「現代史」特に戦中戦後を高校生に教えたがらない本当の理由は、米国(連合国)の言いなりの授業は出来ない、と思っているからなのかも知れませんなあ。

■兎に角、まだまだ「真相」を組み立てるには客観的な事実を記録した資料が圧倒的に不足しているという事実だけは抑えておかねばなりますまいなあ。「憲法9条」も「核武装論」も、まったく議論として成立しない宗教論争みたいになってしまうのも、同じ根を持つ問題でしょう。

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続・北の原爆50年史 其の弐拾弐

2006-11-15 09:07:22 | 歴史


「全国の人民が社会主義強盛大国の建設において一大飛躍を創造している躍動の時期に、我々の科学研究部門では10月9日、地下核実験を安全に成功裏に行なった。……放射能漏れのような危険は全くなかった……核実験は100%、我々の知恵と技術に依拠して行なわれ、強力な自衛的国防力を渇望してきた、我々の軍隊と人民に大きな鼓舞と喜びを抱かせた歴史的な出来事だ。核実験は朝鮮半島と周辺地域の平和と安定を守るのに貢献するだろう。」

■2日遅れで発表された北朝鮮の公式発表です。「一大飛躍を創造している躍動の時期」なのだそうです。パキスタンの協力や闇市場の協力も無く「100%」オリジナルの原爆だと言うのですから、開いた口が塞がりませんなあ。「周辺地域」には日本も含まれるのでしょうから、せいぜい「平和と安定」を享受したいものです。冗談を兎も角として、この馬鹿馬鹿しい声明を受けて、イラン国営ラジオは「敵の攻撃に対抗するための兵器の追及だ」と賛同の意を表明し、「米ブッシュ政権の拡張主義政策で多くの国が軍事危機にさらされるなか、この種の兵器に向うことは有り得る」と核兵器の拡散に追い風を吹かせるような事も言っております。

■ライス米国務長官は「北朝鮮は一線を越えた」「北朝鮮がどこまで孤立に耐えられるか見てみよう」「北朝鮮の主要な資金提供者の中国が援助を停止すれば体制を困難に追いやるだろう」「外交の道は開かれおり、制裁と圧力により6者協議に復帰させるチャンスは有る」と、些(いささ)か支離滅裂な事を言っておりまして、残念ながら自らの対応には手詰まり感が強まっていました。北朝鮮の核兵器よりも、「日本の核武装による地域の核バランスの変化が安全保障状況の改善につながるとは、誰も考えていない。我々は日本を信用している」と、核ドミノの方が焦眉の急だと思っていることを正直に述べて、間も無く御本人が直々に来日して念を押して行ったのが印象的でした。


2006年10月11日、日本政府は独自の制裁を検討開始。①北朝鮮産品の全面輸入禁止。②すべての北朝鮮船舶の入港禁止。③日本への入国禁止範囲拡大。

■日本はこれ幸いに核武装に直進することはせず、懸案の拉致問題が完全に解決するまで制裁を強化して北朝鮮を締め上げることにしました。しかし、①の「全面輸入」と言っても、05年度の輸入額は145億3600万円。41%が農水産物、マツタケ、ウニ、アサリ、ベニズワイガニ。というのが実態で、既に、中国や韓国を経由して生産地が特定できない貿易ルートが確立しているとも言われますし、その中国と韓国から流れ込む膨大な輸入品に紛れている北朝鮮産の品物を選り分けるのは不可能とも言われているようです。②の「入港禁止」は、05年に境港や舞鶴など22港に実数90隻の北朝鮮船は延べ769回入港しているものの、廃棄処分された家電製品や盗難品も含めた中古自転車などを積み出しているだけのようですから、原爆実験に漕ぎ付けた後なら日本から急いで持ち出したい品物は無いようです。

■③の「入国禁止」になりますと、石炭・コークス類は06年6月から輸入はゼロだし、紳士服はAOKIホールディングスが02年から北朝鮮との取引を止め、大手紳士服メーカーとの取引は無いとのことです。05年の自動車類の輸出額は約30億円だが、06年7月のミサイル発射以降、日産自動車は小型バスや商用車の輸出を中止してしまっています。どれも時既に遅し、というのが実態なのでしょう。拉致事件を30年近くも放置して、謀略や密輸の天国だった過去が悔やまれるばかりであります。国際的にも北朝鮮に対する圧力の強化に関して消極的な声が多いのも困ったもので、ロシアのチュルキン国連大使は「政治的、外交的な解決という我々の目的に適っているか、内容が適切かどうか議論して行く」と不熱心なことを行っておりますし、中国の王光亜国連大使も「武力行使につながる可能性のある第7章42条を含まず、経済措置や運輸・通信分野などでの制裁を盛り込んだ同41条に限定すべきだ」と頑張っておりました。

続・北の原爆50年史 其の弐拾壱

2006-11-15 09:06:53 | 歴史


2006年10月10日、韓国の盧武鉉大統領が大統領経験者を大統領府に招く。ノーベル賞の金大中「この間、南北関係は発展し、成果もあった。問題は米朝対話がうまく行かなかったことだ」
金泳三「いや、あなたの政策を盧武鉉大統領が引き継いだから、この事態を招いたんだ。対北事業を全面的に中断して国民に謝罪すべきだ」
全斗煥「北の核保有を前提に今は米韓同盟の強化が必要だ」
※98年の金大中大統領就任演説で発表された「太陽政策」には①一切の武力挑発を許さない。②北の吸収統一を排除する。③和解協力を推進する。の3大原則が有った。

■金泳三には、金大中を責める資格が有るとは思えないのですが、少しでも弱みを見せた相手は徹底的に追い詰めて潰してしまう半島の流儀が、核実験という極限状況の中で噴き出したのでしょうなあ。これまでも「ノーベル平和賞」という奇怪な表彰制度には疑問や批判が加えられていますが、米国から「悪の枢軸」と名指しされた国に莫大な援助を約束して実行した金大中さんに、本当に「平和賞」を受ける資格が有ったのでしょうか?米国のブッシュ息子に受賞資格が無い事は誰にでも分かりますが、だからと言ってブッシュ王朝の邪魔をする者が「平和の使徒」だと短絡させるのも変です。片方はテロリストを肥育して、もう片方はそのテロリストを攻撃することで新しいテロリストを無数に生み出しているのですからなあ。金大中政権以来の8年間で、KEDOも含めて官民合計9000億円を支出したとも言われていますが、ブッシュ政権が新たに支出した軍事費はそれとは比べ物にならないくらいに莫大な額になっています。


同日、韓国の中央日報が実施した世論調査「太陽政策を変更すべきだ」=78%、「韓国も核を保有すべきだ」=65%

同日付けの韓国各紙の見出し。中央日報「太陽政策、事実上破産」
朝鮮日報「太陽政策が北の核の災難を招いた」

ハンナラ党「盧大統領が謝罪し、対北政策を全面的に修正するべきだ」

■「核兵器についての議論をするべきだ」と中川政調会長が発言したと大騒ぎをしている日本の隣では、65%の国民が「核兵器が欲しい」と言っています。日本国内で中川発言を叩いている人達は、米国を相手にする前の準備体操として、韓国の核武装世論を沈静化させてみてはいかがでしょう?そんな事も出来ないのなら、北朝鮮の核開発も米国の核武装も変更させる事など絶対に出来ません。


盧武鉉大統領は「核実験で包容政策を再検討せざるを得なくなったのは事実だが、包容政策が核実験を招いたかどうかは検証が必要だ」と発言。
李鍾ソク統一相は「憂慮すべき事態が起き、国民の皆さんに申し訳なく思う」と陳謝。
韓明淑首相は「政府の能力を信じ、いつも通り仕事に臨み不安がらずに過ごして欲しい」とコメント。

■これも10月10日の段階での動きです。この後、李統一相を筆頭に政府要人が枕を並べて続々と辞任して行くことになります。今回だけは苦し紛れの「反日」発言で切り抜ける事も出来ず、盧武鉉さんは実に苦しそうです。親分の金大中元大統領の権威が失墜してしまえば、本当の裸の王様になってしまいますからなあ。既に多くの支持者が離反して、当選した頃の勢いは無く、根拠の無い期待を抱いたことを後悔する人も続出しているとの報道も有ります。それは韓国の本音が噴き出して来ただけのことで、ただでさえ窮屈な国際面しか持たない日本の新聞にしても、海外ニュースをしっかりと扱わないテレビにしても、一面的で画一的なイメージ先行の報道は謹んで頂きたいものです。日本国内と米国だけは、政権与党ばかりでなく野党側の意見も取り上げる場合が多いのですが、その他の国を取り上げるとまるで一枚岩の国論が確立しているような印象が強まる傾向が有るようです。


中朝国境の北朝鮮側では「成功を誇りに思う」「実験した日も知らない」との反応が聞かれる。中国側では吉林省の部隊が兵士の休暇を急遽取り止めた。国境に配備される解放軍部隊は4万人だが、実験後に2000人増員。
朝鮮中央通信

■こうした小さなニュースからも、中国と北朝鮮との間に横たわっている情報ギャップが明らかになります。本当に何も知らないまま、指導者を神格化した洗脳教育を受け続け、常に飢えに苦しんでいる北朝鮮の人々と国境を接している今の中国の人々との間には、大変な不信感と違和感が積みあがっていると思われます。そこには同情心や仲間意識の欠片も無く、迷惑顔で封じ込めようとする中国と苦し紛れに越境して強盗や窃盗をして露命をつないでいる哀しい北朝鮮の姿が見えるようですなあ。

続・北の原爆50年史 其の弐拾

2006-11-14 09:42:56 | 歴史
■11月10日の中間選挙で大敗してしまったブッシュ大統領が、イラク侵攻の失敗を渋々認めると同時に、北朝鮮問題でも考えを変えざるを得なくなり、国防長官を交代させて根底から世界戦略を組み直すことになりました。そんなブッシュ大統領がすがり付いたのが、ブッシュ父政権時代の国務長官を務めたベーカーさんで、10月9日段階で「敵と交渉することは譲歩ではない」と上手な言いまわして「2国間交渉」を決意するべきだ、と助言していたのです。また、核不拡散の理想を追い掛けているエルバラダイIAEA事務局長は「核実験を禁止するための拘束力のある普遍的な体制を確立する必要性がこれまで以上に差し迫っている」とのコメントを発表していました。これは北朝鮮を責めるよりも、米国がCTBTを積極的に推し進める決意をしなさい!というメッセージでしょう。

■勿論、中間選挙で上下両院で議席の過半数を失うとは考えたくもなかったブッシュ大統領は、ベーカーさんの助言もエルバラダイさんからの要求も、さらりと無視して済ましていました。しかし、米国メディアは数年前とは様変わりしてイラク占領の失敗を書き立てる新聞も増えていましたし、共和党候補の苦戦も報道されていました。世界の主要メディアを凝視していると言われる金正日将軍様は、イラクの失敗というブッシュ政権の傷口に塩と山葵(わさび)を塗り込むタイミングで核実験を行ったようなものです。結局、狙い澄まして実施された核実験はブッシュ政権に対してはボディ・ブローのような効果を上げたのでした。先回りして、現時点の動きを抑えておきましょう。


北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議の再開を前に米国と北朝鮮が近くニューヨークで実務レベルの会合を開くことで合意したことが10日分かった。米朝関係筋が明かした。会合では両国間の懸案となっている金融制裁問題などが話し合われ、年内にも見込まれる6カ国協議の再開に向けての調整が図られる模様だ。米朝は先月末、北京で接触したが、ニューヨークでの米朝会合は今年3月以来8カ月ぶり。……会合では北朝鮮が求めているマカオの銀行バンコ・デルタ・アジア(BDA)の口座凍結解除の問題や6カ国協議の再開時期などが論議される予定という。米朝両国は先月31日、北京での米中朝非公式会合で金融制裁問題を扱う作業部会を6カ国協議の枠組みの下で設置することで合意した。ニューヨークの実務者会合では作業部会設置に向けた具体的な話し合いが持たれる可能性もある。

■日本の安倍総理が唯一の売り物にしていたのが拉致問題に対する厳しい姿勢だったのに、頭越しに米朝間で怪しげな手打ち話が進んでいるようです。日本からは欲しい物はほとんど好き放題に吸い取ってしまったようなものですから、露骨に言ってしまえば日本に根付かせた謀略装置は御用済みの「使い捨て」扱いになっているような気もします。今更、金と人の出入りを絞ったところで、痛くも痒くもないのだろう、と考えれば先日の「6箇国協議に日本は来るな」という嫌味にも信憑性が加わりますなあ。それを知った安倍総理が、拉致事件の四半世紀ぶりの掘り起こしを慌てて始めたり、既にイジメ自殺事件の続発と全国的に蔓延している未履修問題には何の効力も持たなくなっている『教育基本法』の改正に意地になっているのではないでしょうか?北朝鮮が本当に困っているのは米国政府が全力を上げて調べ上げ、元栓を閉めてしまった金融制裁なのです。


北朝鮮は米国がマネーロンダリング(金融洗浄)を理由にBDAに科した金融措置の解除を求め、昨年11月以来、6カ国協議をボイコットしてきた。作業部会設置の合意により協議への復帰を約束したものの、「金融制裁解除問題を論議、解決するという前提で会談(6カ国協議)に出る」(北朝鮮外務省声明)と主張しており、金融制裁の解除が優先されるとの立場だ。米朝両国は今年3月、ニューヨークで金融制裁をめぐる初の会合を開いたが決裂した。北朝鮮のミサイル発射(7月)や核実験(10月)による緊張で、北朝鮮国連代表部を通じた米朝間の唯一の公式な連絡ルート「ニューヨーク・チャンネル」も双方が一方的な通告を行うだけとなり、事実上機能を停止していた。
毎日新聞 11月11日

■4年に一回催される南北戦争の再現のような大統領選の熱狂と、その間に置かれている中間選挙の熱冷まし、そんな米国の国内事情が世界のテロ問題と核問題の扱い方を大きく変えます。就任早々に米国中間選挙にぶつかった安倍新総理には災難ですが、米国の尻馬に乗って「独自制裁」に打って出たことを後悔する日も近いかも知れませんなあ。情報機関も常識的に動ける軍隊も持っていない日本が、50年以上も臨戦態勢で身構えている北朝鮮と四つに組んで喧嘩しようとする事自体が無理なのです。相手はこちらの懐の億深くまで手を突っ込んで掻き回し続けていたというのに、こちらはまったく何をされているのか分からぬまま、人道援助だ経済支援だとアホ踊りをさせられていたのですからなあ。話は再び一箇月前に戻ります。


2006年10月9日、米国政府は国連安保理に対して「国連憲章7章」に基づく北朝鮮制裁決議草案を提出。テレビ・インタヴューに答えてヒル国務次官補は「体制に打撃を与える分野を狙っている」と発言。

同日、中国外務省報道局長・劉建超が記者会見で「あなたは中国が北朝鮮の同盟国と言ったが、私は賛成しない。中国はいかなる国家とも同盟を結んでいない」

同日、中国外務省声明「北朝鮮は国際社会の反対を無視した」

■この10月9日は、安倍新首相が羨むような米中両国の蜜月関係が露骨に披露されたような1日となりました。拉致問題で名を上げた勢いで首相になってしまった安倍新首相ですから、これ幸いに制裁措置を強化するのに迷いは有りませんでした。

続・北の原爆50年史 其の壱拾九

2006-11-14 09:42:20 | 歴史
■引き続き北朝鮮の声明文を検討します。

1.……我々は現米国政府が朝米基本合意文を覆して我々の自主権と生存権をひどく脅かしていることに対抗して、やむを得ず核不拡散条約(NPT)から脱退した。……核兵器保有宣言は核実験を前提にしたものだ。……

2.北朝鮮は絶対に核兵器を最初に使用しないし、核兵器を通じた脅しと核の移転を徹底的に許さない。我々の核兵器は徹頭徹尾、米国の侵略の脅しに対抗して我が国家の最高利益と我が民族の安全を守り、朝鮮半島で新たな戦争を防ぎ、平和と安定を守る頼もしい戦争抑止力になるだろう。

■「最初に使用しない」というのは、すべての核武装国が言う事ですから珍しくもないのですが、「核の移転」を許さないと北朝鮮が言い出すのは奇妙です。ソ連と中国が援助したからこそ基礎的な核開発技術を得られたのですし、その後はパキスタンからの技術「移転」、或いは核兵器そのものを手に入れたとの噂が立っているのですから、北朝鮮こそが核兵器の「移転先」という事になります。


3.北朝鮮は朝鮮半島の非核化を実現し、世界的な核軍縮と終局的な核兵器撤廃を推進するためにあらゆる努力をする。我々は半世紀以上の間、米国の核の脅しと恐喝を直接受けてきた。だから朝鮮半島非核化を真っ先に提起し、その実現のため最大の努力を傾けてきた。……我々の最終目標は朝鮮半島で我々の一方的な武装解除につながる「非核化」ではなく、朝米敵対関係を清算して朝鮮半島とその周辺であらゆる核の脅威を根源的に取り除く非核化だ。対話と交渉を通じて朝鮮半島の非核化を実現しようとする我々の原則的な立場に変化はない。……

■いみじくも、ここに本音が表れています。「半世紀以上」というのは朝鮮戦争の時期から数えた月日を意味しますから、米国を中心とした国連軍が核兵器の使用を本気で検討していた事実を知って、金日成は心の底から震え上がったに違い有りません。裏切りと対立を繰り返していた社会主義陣営の中では、ソ連も中国も北朝鮮のために「核の傘」を差し掛けてはくれませんし、どちらも本気で対米戦争などする心算はまったく有りませんでした。そうなれば、自分達だけが核兵器の標的にされる可能性が高いと判断せざるを得なくなりました。簡単に言ってしまえば、第二次朝鮮戦争は間違いなく核戦争になると腹を括ったという事です。「一方的な武装解除」ではなく「根源的」な非核化と言うのなら、大陸間弾道弾も潜水艦発射ミサイルも廃棄しなければならなくなります。それこそ、CTBT体制の完成を意味します。しかし、それを妨害しているのが北朝鮮なのですから、この発言はめちゃくちゃですなあ。


2006年10月4日、日本の国連代表が国連安保理に非難決議案を提出。

2006年10月7日、国連安保理は北朝鮮の核実験声明に「深刻な懸念」を表明し、非難する議長声明を全会一致で採択。

2006年10月8日、安倍新総理訪中。胡錦濤国家主席「北朝鮮が核実験を抑制するよう、中国としても働きかけていきたい」

■今から振り返れば、地下核実験直前の動きとしては緩慢な印象が有ります。「懸念」などと言っている場合ではなかったのでした。胡錦濤国家主席も「働きかけ」ぐらいで抑制可能と思っていたのなら、大きな間違いを犯した事になります。北京政府の考え方に関して朝日新聞が興味深いインタビュー記事を掲載しています。


北朝鮮の核実験声明前の9月初め、「中国は核実験を理由に北朝鮮に強い制裁を行なうことはない」とする論文を中国紙に発表し、話題となった上海の復旦大学国際問題研究院副院長の沈丁立教授(45)に聞いた。

北朝鮮の核開発は外交交渉のカードではない。中国政府は単なるカードだと考えていたから放棄させる事も可能だと思ってきた。だが、それは誤りだった。北朝鮮の狙いは核抑止力で現政権の生き残りを図ることだ。中国は北朝鮮に核放棄を説得することはできない。それは自分を傷つけることになる。北朝鮮が核実験を実施しても中国は見捨てないし、全面的な制裁には踏み切らないだろう。中朝は特殊な関係だ。制裁の結果、北朝鮮が中国に憎しみを抱くようになれば、中国の影響力が下降する。

北朝鮮は、核実験を実施しても米軍が武力攻撃しないと判断している。経済制裁も国際社会の限度付きの制裁と認識している。核実験は北朝鮮にとって不利益が最も小さい時期を選んで実行する。日中首脳会談など日中関係が修復途上の時期にはやらないだろう。仮に修復が終わり、希望がなくなったときに実行するのではないか。
2006年10月8日 朝日新聞より

■結果的には順番が逆になりましたが、沈丁立教授の予想は2回連続して外れたことになります。北朝鮮の核開発が外交交渉のカードを手に入れるためではない事に気が付くのが遅かったのは、休戦状態の朝鮮半島情勢を前提とした北京政府の外交方針を建前通りに受け取らねばならない立場上、仕方がありませんでした。しかし、「日中関係が修復途上の時期」には核実験は無い!と2度目の予測が新聞に掲載された翌日に実験が行われてしまったので、予言者としては致命的な失態を演じてしまったようです。


2006年10月9日、北朝鮮が「核実験」を実施。


実験後、米国の主要テレビは3年前の小泉首相が訪米した時の映像を放送していたそうです。ブッシュ大統領と仲良く並んで「我々は北朝鮮に核兵器の保有は許さない」と演説するシーンです。しかし、いくら「許さない」と力んでみても実際に実験を行ってしまったのですから、過去の映像は面子が丸潰れになったことを再確認しているようなものですなあ。同日、ヒル国務次官補は「今回の実験が成功だったとしても核保有国とは認めない」と、これまた空しい空元気を出していました。金正日将軍様が「それなら認めるまで実験を続けるぞ!」と腹を決めたらどうするのでしょう?

続・北の原爆50年史 其の壱拾八

2006-11-14 09:41:51 | 歴史


2006年9月20日、ニューヨーク国連本部で包括的核実験禁止条約(CTBT)を支持する諸国の閣僚級会合開催。「条約発効が今ほど急を要したことはない」との共同声明。
※条約発効には「核保有国・原子力利用国など44カ国」の批准が必要で、核保有国の英仏ロや日本など「34カ国」が批准済み。署名して未批准は核保有国の米中、イスラエルとイランを含めた7カ国。

■この段階で、ちゃんとした情報機関を持っている国々は北朝鮮の核実験に関して重大な情報を得ていた可能性が有ります。妙に仲の良い米国と中国が決断すれば、事態は急転直下で好転するのですから、日本政府はこの問題に限っては米国と袂を別って批准している英仏ロ3国とじっくりと相談するべきでしたなあ。この時に腰を据えた対応をしておかないから、これまた最悪のタイミングで「核武装論議」が湧き起こったりするのですぞ!東アジアの地政学的な分析とは別に、外交政策の継続性の重要性を考えれば、核問題だけは日米同盟の中でも特殊な事項だと日本政府が明言しておかないと、北朝鮮が核武装する理由として「日本の脅威」が紛れ込む危険性さえ有ります。


2006年10月3日、北朝鮮は「核実験」の実施を予告。北朝鮮外務省が発表した声明文。
「朝鮮半島では米国の日々増大する核戦争の脅威と極悪な制裁圧の策動により我が国の最高利益と安全が甚だしく侵害され、わが民族の生死存亡を左右する情勢が作り出されている。米国は最近、強盗さながらの国連安全保障理事会での「決議」採択によって、我々に対しては事実上の「宣戦布告」を行なったのに続き、朝鮮半島とその周辺で第2の朝鮮戦争の挑発のための軍事演習と武力増強の策動をますます、狂乱したように繰り広げている。」

■口喧嘩をするならば、世界に3000以上もの言語が存在すると言えども、韓国朝鮮語ほど豊富な罵り言葉を取り揃えている便利な言語は無いそうです。韓国製の映画でも北朝鮮から発せられる声明文でも、そのニュアンスをしっかりと写し取るには日本語が持っているその種の語彙は甚(はなは)だしく貧弱なのだと、翻訳家の皆さんは困っているようですから、この話は本当らしい。従いまして、ここに引用している「声明文」も日本語で読んでしまうと、原語の凄さはすっかり薄まっている可能性があります。それでも、米国が朝鮮半島で「核戦争」を起こそうとしている、経済制裁は「強盗」と同じ事だという言い回しから、少しはニュアンスを汲み取れそうです。


「米国はこれと同時に我々を経済的に孤立・窒息させ、我が人民が選んだ社会主義制度を崩壊させようとする妄想と、あらゆる卑劣な手段と方法を総動員して我々に対する制裁封鎖を国際化しようとあがいている。現在、ブッシュ政権は自らが決めた時限内に、我々が屈服しなければ懲罰するという最後通牒を突きつける境地に至った。米国による孤立・圧殺の策動が、極限を超えて最悪の状況をもたらしている諸般の情勢のもとで、我々はこれ以上、事態が進むことを手をこまねいて傍観することはできなくなった。……」

■51段階に振り分けられる北朝鮮公民の中核層と呼ばれる200万人を除いて、「(自分が)選んだ社会主義制度」と言い切れる人がどれほど残っているのか、甚だ心細いところです。米国が無理やり崩壊させなくとも、既に北朝鮮の金日成体制はぼろぼろになっているのは誰の目にも明らかでしょう。もともと、ソ連・東欧からの援助によって支えられていた仕組みが吹き飛んでしまったのですから、その代替手段として「主体思想」を掲げてみても石油一滴、穀物一粒さえも出て来ません。ソ連がダメなら中国へ、中国がダメなら韓国から恵んで貰う、勿論、日本は数十年に亘って現金から核開発材料まで好き放題に貢いでくれていた国でした。しかし、拉致問題で日本が覚醒し、核開発で韓国が正気に戻り、米国を本気にさせた事で北京政府が激怒しているのですから、いよいよ破れかぶれの土壇場に追い詰められてしまいましたなあ。

■経済制裁が「極限を越えて最悪の状況」になっていると正直に認めているのですから、これはただ事ではないのは分かります。

続・北の原爆50年史 其の壱拾七

2006-11-13 15:21:35 | 歴史
■クリントン政権の大失敗を露骨に非難して就任したブッシュ息子政権でしたが、イラクで足を掬われてしまってからは、クリントンの過ちを責められない窮地に追い込まれてしまいました。

2006年6月、小泉首相が訪米し「北朝鮮は米国と話したがっている。北朝鮮のような国は首脳間で直接対話しないと物事が進まない」と訴えたが無視される。

この時の小泉プレスリー首相の思惑がさっぱり分かりません。『平壌宣言』の無効か破棄を宣言しなければならないはずの立場にありながら、米朝国交正常化を勧めるような言動に対して日本国民が怒りの声を上げなかったのですから、日本中がどうかしていましたなあ。当時は既に任期の9月いっぱいで退任すると公言していた小泉さんでしたから、後は野となれ山となれ、最後の花道には奇麗事の花を咲かせて格好を付けているだけだと軽く見られていたのでしょうが、こんな姿を北朝鮮に見せてしまうと、次の政権に困った遺産を残す事になるのは明らかでした。


2006年7月5日、長距離弾道ミサイルのテポドン2と、短中距離弾道ミサイルのスカッドとノドンを7発連続発射。
北朝鮮側から金正日総書記の訪中を打診するが、中国側は「核実験せず」との確約を求め、北朝鮮は返答せず。

■こうして時系列の上に並べてみれば、北朝鮮がKEDOに大いなる期待を持っていた事が浮き彫りになって来ます。そこに莫大な「補償金」を約束した『平壌宣言』が加わっていたのですから、電力を得られる原発と主要なエネルギー源となる石油ばかりか、1兆円とも言われる日本からの無償資金、韓国からは続々と食糧と肥料が貢がれていたのですから、金正日将軍様は有頂天だったに違いありません。日本国内から闇献金を流し込んでいた民族系金融機関に開いた1兆円余りの大穴も、マヌケな日本政府が埋めてくれたのも嬉しい知らせだったでしょう。こうした「輝かしい業績」が次々と崩れては消えて行ったのですから、もう一度自体を93年当時に戻してしまうしか打開策は有りません。

■もともと最低限度の援助を続けていた北京政府は、クリントン政権や韓国政府との連携は取らず、勝手に援助をするならすれば良い、自分は一銭も上積みする心算は無い、という立場でしたから、次々と獲物に逃げられた金正日将軍様は中国政府に胸を張ってすがり付こうとしたのでしょう。しかし、93年当時と胡錦濤政権の中国とはまったく違う外交戦略を採っていたのでした。


2006年7月15日、国連安保理は北朝鮮のミサイル発射を非難する「決議1695」を全会一致で採択。

2006年7月16日、北朝鮮外務省は国連安保理の採択を拒否。

■KEDOの焼き直しのような援助組織が出て来るかと思ってミサイルを乱射して見せて、その中にさり気なく米国本土を狙えると噂されていたテポドン2号を混ぜておいたのは、明らかに北朝鮮が事を急いでいる証拠だったと思われます。本格的な大陸間弾道弾の存在を誇示したのですから、次は核弾頭の保持を示さねばなりません。常時、高空から監視している米国によく見えるように地下核実験の準備をし始めるのは予定通りの行動だったのでしょう。


2006年8月初、日本政府に米国から「北朝鮮東北部で核実験の可能性あり」との偵察衛星情報が届く。

■実に間の悪い事に、この頃の日本は小泉プレスリー首相は贅沢で無意味な「卒業旅行」も終わって自民党恒例の後継者選びのお祭り騒ぎが起こっておりまして、具にも付かない下馬評記事で新聞各紙の政治面は埋め尽くされ、国民の目は馬鹿馬鹿しい出来レースに集められておりました。


2006年9月14日、ワシントンで米韓首脳会談。共同声明後1年経過し、韓国は6者協議に北朝鮮を呼び戻すための「共同包括アプローチ」を検討中だが、米国は北朝鮮の核開発計画の廃棄を要求して平行線。

小泉外交の負の遺産は沢山有りますが、太陽政策を続ける韓国との関係が悪化したのは、その時期が最悪でした。韓国内にも真っ当な国際感覚を持っている人が多く暮らしている事実が、地下核実験が行われた直後に明らかになったのですから、今の変な大統領が聞く耳を持たなくても日韓関係の重要性をしっかりと主張し続けておくべきでしたなあ。「相手が悪い」一辺倒では外交は成り立ちません。米国が軍事的にどんなポーズを取ろうと、北京政府が北朝鮮にどんなアメを用意しようと、必要経費の請求書は巡り巡って日本政府に送り届けられるのは分かり切っているのですから、それを前提にして外交戦略を立てないと、いざ、何事かが動き始めた時に日本はまたしても見っともない右往左往を演じることになります。

続・北の原爆50年史 其の壱拾六

2006-11-12 19:18:37 | 歴史
2006年4月27日~28日、胡錦濤国家主席は唐家セン国務委員と武大偉外務次官を北朝鮮に派遣。同月に訪米した胡錦濤に対してブッシュ大統領が北朝鮮との「平和条約」締結の可能性を示唆した事を受けての派遣だったが、中国を介在させる交渉方法に不信感を強める。

■北朝鮮との交渉となれば、中国が切り札だと素朴に主張されるものですが、過大な期待は禁物でしょう。ソ連が崩壊して以降、北朝鮮を養っているのは中国なのですから、北朝鮮に引導を渡すような役目を引き受けるはずは絶対に無いと考えなければなりますまい。本気で金正日体制を崩壊させようとしたら、北京政府とセットで制裁しなければ効果は有りません。しかし、米国は膨大な借金を埋めるために発行した国債の多くを買って貰っている立場上、そんな事は冗談にも考えられません。責任を押し付けあっている内に、米国は朝鮮戦争の後始末を先延ばししていたツケを払わされる圧力を受けるようになってしまいました。

■日本との国交正常化を目指して締結された『平壌宣言』を自分から破って平気な顔をしている北朝鮮に対して、米国大統領が『平和条約』締結の可能性を臭わせるなど、国際的な立場を台無しにしてしまう危険があまりにも大きいと言わねばなりません。国内向けには「勝利宣言」を続けている北朝鮮ですから、米国が膝を屈して条約締結を乞うて来るのは嬉しい知らせでしょうが、中国が仲介役となると、奇跡的に米国との国交正常化が実現しても、何かと口や手を突っ込んで来るのは目に見えていますから、北朝鮮はそれを警戒しているのでしょう。単純に言ってしまえば、ソ連と中国とを両天秤に掛けて巧みに漁夫の利を得て生き延びて来た状況が変化したので、それに米国を加えて三つ巴の思惑を操って漁夫の利を大きくしようとしているわけですなあ。

■あわよくば日本もオマケに付けて4つの選択肢を手に入れられる可能性も有ったのですが、拉致事件の扱いを間違えてしまったので、その目はなくなってしまいました。忘れてならないのは、6箇国協議の進展とは無関係に太陽政策を進めていた韓国の存在です。長年の謀略工作が功を奏して北朝鮮に甘い政権が誕生してから、北朝鮮の物言いがずっかり変わったのは明らかで、金大中から盧武鉉へと引き継がれた謀略の成果が消えない内に、米国という切り札を手に入れようと切羽詰っているのが現状でしょうなあ。


2006年5月、北朝鮮が長距離弾道ミサイル・テポドン2の発射準備を進めていることが判明し各国が懸念と警告を表明。

この時期に、朝鮮半島エネルギー機構(KEDO)の理事会で軽水炉事業の廃止を正式に決定しています。新聞の扱いも小さく、他のメディアではまったく報道もされなかったちっぽけな「出来事」でしたが、せっかく釣り上げた大魚を逃がした事が明らかになったのですから、北朝鮮としては大きな打撃だったはずです。有りもしないプルトニウム型原爆を作らない替わりに、ウラン型原爆を密かに開発しながら石油と原発の両方がタダで手に入るのがKEDO構想でした。これは建物に立て籠もっている凶悪犯に、豪勢な酒食を贈って武器を捨てさせようというのと同じ発想です。しかし、そんな甘い作戦では凶悪犯の逮捕は不可能と、誰も考えなかったのが不思議です。マヌケな警官達が運び込んだ豪華な食事を、高笑いしながら楽しみ、手下には裏口からせっせと新たな凶器を仕入れさせていたようなものです。

続・北の原爆50年史 其の壱拾伍

2006-11-12 19:18:13 | 歴史
■それはそうとして、国家犯罪として偽札製造をしていると聞いてびっくり仰天している人が多いようですが、大日本帝国も登戸研究所などで盛んに偽札を製造して蒋介石政権を弱体化させようと頑張りました。ただ、その時には自分でも偽札を乱造してばら撒き、貨幣経済自体を崩壊させて日本の謀略を無効にしてしまうという奇策で謀略戦は終焉したそうですが……。北朝鮮は第一次朝鮮戦争の敗戦を「勝利」だと言い張ってから、ずっと臨戦態勢を維持している北朝鮮が偽札を作ったからと言っても、対して驚くべき話ではないとも言えるのです。欧州側では昔話になった東西冷戦も、手段を選ばない謀略戦争も、憲法9条を後生大事にしている日本の隣でずっと続けている国が存在しているという馬鹿馬鹿しくも単純な現実を忘れては行けません。

2006年4月、民間団体主催の会議を利用して6者協議の代表が来日。米国は「マカオの銀行に関しては『法の執行』であり、交渉課題ではない」と主張し米朝直接協議も開かれず。金桂寛外務次官は都内ホテルで開かれた記者会見で「米国は敵視政策を行動で示した。圧力を科すなら我々は超強硬対応に出る」と発言。

■米国の偽札捜査は既に世界の18都市を対象にするまでに規模を拡大しており、05年度は6100万ドル(73億円)分が押収されたそうです。偽札犯罪に対抗して96年に新紙幣と切り替えたのも効果が無くなり、03年には最新のデジタル技術を駆使して更に偽造困難な新紙幣を導入したのですが、米国の財務省印刷局が使用するデジタル印刷技術も特殊インクもそっくりに偽造されてしまう始末で、その流通量はこの6年間で5割も増加していると米国政府は発表しています。スーパーノートと呼ばれる精巧な偽ドル札は1989年から出回っていると言われていますから、これは明らかにソ連崩壊と東欧の大きな変化によって北朝鮮を支えていた社会主義陣営からの「援助」が消えてなくなってしまった事が原因でしょう。

■70年代までは食糧事情もエネルギー事情も、何の問題も無く社会生活と生産が続いていたと、脱北者達が口を揃えて証言していますから、日本の北朝鮮好きの人々が褒めそやしていた「社会主義の優位性」は、親分のソ連が支配下に置いていた国々から「上納金」を巻き上げ、自国の原油から上がる利益とも混ぜ合わせて、聞き分けの良い手下達に「下賜」していた援助ネットワークに、北朝鮮が上手にぶら下っていただけの事だったと分かります。武器と水産資源くらいしか外貨を稼ぐ方法を持たない国が、巨大な軍隊を維持しながら国民生活を豊かにする事は不可能です。冷戦構造の中で獲得した地政学的な価値によって引き出されていた援助は、冷戦構造の終結によってふっつりと途絶えてしまうのは当然で、苦し紛れに偽ドルを刷って世界経済の裏口から資金を調達したり、冷戦時代の仲間だった国々に改良したソ連製の武器を安価に売り捌いて凌ぐしか生きる術(すべ)は無かったでしょう。

■そこに起こったのがニューヨークの同時多発テロ事件でしたから、大規模破壊兵器が反米国家に流出して米国本土攻撃に使用されることを心底心配した米国が、北朝鮮を名指しで非難し「武器輸出」を禁じたのでした。そうなれば、米国憎し!の感情が米ドルの信用を失墜させるという経済戦争の正しさを強化したでしょうし、米国の同盟国の日本に対しても同様の「攻撃」を仕掛けるのも正しい選択と判定されたでしょう。偽札に続いて偽煙草が出回り、武器の密輸はますます巧妙化して防ぎようが無い状態になっていましたが、武器だろうと麻薬だろうと、換金「商品」である事には変わりが無いのですから現金の動きを止めてしまえばどんなに巧妙な犯罪も押さえ込めるというわけです。米国財務省の試算では、北朝鮮は偽札・偽商品で国内総生産の2.5%に相当する利益を得ているそうですが、武器を含めたそれ以外の違法取引も含めたらどれ程の金額のなるのか想像も出来ません。親方が号令を掛けて国際通貨や商取引を破壊する違法商売をやっているのですから、暴発や崩壊を恐れて援助を重ねて延命させるのはいかがなものでしょう?

続・北の原爆50年史 其の壱拾四

2006-11-12 19:17:11 | 歴史
■この金融制裁という新たな制裁措置は、徐々にその実態が明らかになるとともに、世界各地に広がって行くことになります。最初に凍結されたマカオには、金正日将軍様の愛人が暮らしているとの話も有りますし、長男の正男さんや側近達がカジノを利用して後ろ暗い資金を熱心に洗浄していたとも言われています。マカオ当局が北朝鮮関連口座を凍結したのは金正日将軍様にとっては衝撃だったのでしょう。商品の密輸だろうが麻薬や偽薬・偽煙草の販売でさえも多目に見てくれていた北京政府が、米国財務省の指示に従うとは考えてもみなかったでしょう。これが日本、中国本土、ベトナム、シンガポールと広がって、いざと言う時の金一族の亡命先ではないか?とさえ噂されていたスイスの銀行さえも口座を凍結することになるのですから、この時からの1年間は北朝鮮にとっては地獄の日々だったはずです。

■05年の8月には米国のニュージャージー州とロサンゼルスの港に停泊していた船舶から合計450万ドル分の偽ドル札が応酬され、87人が逮捕されるという大事件が起こっていたのです。財務省に加えてFBIとCIAも協力した捜査陣ですから、水も漏らさぬ徹底した調査が続けられていると考えるべきでしょう。米国の捜査機関は9・11で失墜した信頼を取り戻すチャンスとばかりに、大いに張り切っていたに違い有りませんが、摘発された偽札の多さに正直なところ驚愕したのでしょうなあ。


2005年12月2日、ワシントンタイムズ紙が「北朝鮮は世界唯一のスーパーノートの製造国で1989年から出回り始めた」と報道。

スーパーノートの前は、スーパーKが有名でした。偽札犯罪については、1995年に文芸春秋社から出された『北朝鮮の最高機密』という本に詳しく書かれています。この本はなかなかの優れもので、テレビなどで北朝鮮の「専門家」という人が話すネタ元みたいな本です。


……北朝鮮の偽造紙幣工場は、平壌市中区域蓮花洞にある。電気鉄条網を二重に張り巡らせたこのなかには5棟の建物がある。……勤務している人数はおよそ2000人……内部ではただ「101連絡所」と呼ばれている。……対南工作に必要ないっさいの印刷物…偽造旅券や住民登録証、運転免許証、宣伝用のビラ、主体思想関係の冊子も印刷している。北朝鮮は、70年代にも偽造紙幣を作った。だが、これはあくまでも工作用の小規模のものだった。その後、北朝鮮の偽造ドルの生産は、80年代の後半から大量生産体制に切り替えた。その有力な証拠は、外交部に設置された「黄山管理局」である。この部署の目的はただ一つ、外交網を利用して「北朝鮮産ドル」を「アメリカ産ドル」に替えることだ。87年に設立されたこの部署は、国際マネー・ロンダリング業務を担当する部署なのである。……(同書199頁)

■更に、1985年に不慣れな外交官が当時のテロ仲間だったリビアでマネーロンダリングして来るように命じられ、50万ドルもの大金?を洗おうとトリポリ市内のスーク(市場)に持ち込んだところを、リビア秘密警察(ムカラバット)に摘発されてしまったという喜劇が書かれています。外交官パスポートを所持していたので、問い合わせを受けた北朝鮮政府は返答に窮して数箇月間も外交官同志をリビアの監獄に放置したのだそうで、その後北朝鮮の総理が直々にリビアに出向いて頭を下げて身柄を引き取ったとか……。北朝鮮でもちゃんと謝罪する事が有るのです!

■同書によると、外交官特権を悪用して、香港・マカオ・中東・アフリカなどが犯行の舞台となっているそうで、米ドルばかりでなく独マルクなども有価証券などの取引を繰り返して手に入れるのだそうです。闇から湧き出して表の市場にばら撒かれた偽ドルが、一体、何処の誰の手に入ったのか、とても気になりますなあ。それ以上に不思議なのは、北朝鮮の偽札工場では日本の1万円札も大量に「生産」しているという情報があるのに、偶に日本で摘発される偽札事件はパソコンとスキャナーを使った子供騙しのような事件ばかりなのはどうしてでしょう?大量の偽札をつかまされたら、誰も補償してなどくれませんから、ちょっとした企業なら経営破綻してしまうはずなのですが、今のところそんな悲劇は報道されていません。





続・北の原爆50年史 其の壱拾参

2006-11-12 04:50:45 | 歴史

2005年9月19日、米国代表の声明文案が決らず閉会式が1日伸びた朝6時半、ワシントンから草案が届くが代表団の草案は大幅に書き換えられる。「第4回6者協議」の閉幕式。「北朝鮮はすべての核兵器及び既存の核計画を放棄することを約束」「軽水炉問題はテキトウな時期に議論する」との中国案そのままの共同声明が発表され、武大偉外務次官が「声明採択」を宣言すると全員が起立して拍手。
ヒル米国代表は「軽水炉供与の議論は核廃棄後。北朝鮮の人権侵犯、生物化学兵器計画、弾道ミサイル計画と拡散、テロ活動など非合法活動、それら諸問題の解決」それに続けて「この共同声明は、北朝鮮のシステム(体制)、人権、人々の扱いのすべての面でそれを受け入れることを意味するものと解釈するべきではない」と声明。

■ここが運命の分かれ道になったかも知れない6者協議最大の見せ場となったようです。議長国としての面子を保つために北京政府が見せた粘りは驚くべきものでしたが、どうしても「先延ばし」という本音が隠し切れなかったとも言えるまとめ方でした。


6者協議共同声明骨子
①北朝鮮はすべての核兵器、既存の核計画を放棄する。
②米朝は関係正常化の措置をとる。
③日朝は平壌宣言に従って国交正常化のための措置をとる。
④6者は経済協力を2国間または多国間で推進する。
⑤6者は北東アジアの平和と安定に共同で努力する。
⑥6者は意見が一致した事項の実施に向けた措置をとる

■①は米国用、②は北朝鮮用、③は日本用という順に並んでいるのが事務的な印象を与えます。④は韓国用と部分的に日本用、⑤は中国の見得、⑥は御飾りです。本来なら「94年の枠組み合意」の後始末をしておかなければ、6者協議で問題が解決するはずなど無いのです。あの合意が破綻したのは何故か?と問われれば、「米国が悪い!」と理不尽な叫び声を上げるのは一国だけで、「ふざけるな!」と怒鳴り返す別の1国が有って、呆れ顔の2国と真っ青な顔をする1国、その様子を眺めている呑気な日本代表という歴史的な場面が現出したでしょうが、「声明」の骨子冒頭に並んだ①と②の時間的な前後関係が玉虫色に塗り込められているのですから、空文化するのは目に見えていました。


2005年9月20日、北朝鮮外務省が「軽水炉提供の前に、核抑止力を放棄するなどと夢にも思うべきではない」との声明を発表。

■声明文を持ち帰った代表がどんな目に遭わされたのかは分かりませんが、閉会式の翌日にこうした返事が出されていました。この段階で議長国の中国は面子を失っていますし、拉致問題の解決の場を他に見つけられない日本政府も絶望的な立場に追い込まれた事になります。しかし、本当に窮地に追い込まれたのは北朝鮮でした。米国財務省の国際的な脱税摘発のような徹底的な不正資金口座の凍結は、イラク問題で手詰まりとなったブッシュ大統領を狂喜させるほどの効果を生みます。


2005年9月末、マカオ政府はバンコ・デルタ・アジアを管理下に置いて北朝鮮系の資金約2400万ドル(29億円)を凍結。

2005年11月9日~11日、「第5回6者協議」で米国は金融措置は6者協議とは無関係と説明したが、北朝鮮代表の金桂寛外務次官が「米国は共同声明の後にバンコ・デルタ・アジアの手入れを行なった」と非難し、米朝2者協議でも「金融制裁で凍結された2400万ドルを返して欲しい」と繰り返す。


続・北の原爆50年史 其の壱拾弐

2006-11-11 09:54:13 | 歴史

2005年6月14日、韓国の鄭東泳統一相を団長とする韓国政府代表団40人と民間代表団295人が共同宣言5周年の「民族の祭典」に参加するために訪朝。金正日総書記を説得して6者協議復帰に前向き発言を引き出す。

■この祝典への参加は、何と韓国側が頭を下げて頼み込んで実現したものです。米朝間に緊張が高まって太陽政策に対する風当たりが強まっていました。既に核実験が表沙汰になってしまったのですから、今からあれこれと批判するのは酷なのでしょうが、北朝鮮のウラン濃縮が明らかになっていた段階で太陽政策を維持しようとするのは、やはり異様に思えます。代表団の派遣を前にして盧武鉉大統領は「6者協議が開かれれば韓国は核解決の実質的進展のために重要な提案をする」と大見得を切って見せました。しかし、野放図に支援を続ける以上の策は無かったようですなあ。

■南北首脳会談が開かれてからの5年間、『共同宣言』に書き込まれた「我が民族同士」という文言が北朝鮮側の国営メディアで多用され、ノーベル平和賞を受賞してしまった金大中前大統領の名誉も勘案されたのか、韓国側もその乱用気味の使い方に文句は言いませんでした。5年間に124回も続けた各分野での南北協議で、韓国側の助言や提案は悉(ことごと)く拒否され、一方的に「肥料と食糧と経済支援」を要求され続けた韓国は、北朝鮮に間違ったメッセージを送り続けてしまいます。韓国を取り込んだと考えた北朝鮮は、来たる「第2次朝鮮戦争」では韓国が味方になって「民族戦争」になれば万々歳、悪くしても韓国を弾除けに使えると公言する者まで出て来たそうです。

■南北首脳会談からの6年間で、韓国は金正日体制に核開発の資金と時間を与え続け、北朝鮮国内の人権問題を封じ込め、韓国内の世論を分裂させてしまいました。国際政治の中での孤立状態も深刻で、2007年末まで残っている盧武鉉大統領が面子と意地を捨てない限り、莫大なカネ・肥料・食糧の返礼に核攻撃を受けるような「民族の悲劇」に襲われない事を祈るばかりです。勿論、そのとばっちりで日本を南北共通の「民族の敵」にされたりしたら堪ったものではありません。


2005年7月19日、第4回6者協議を26日から開催すると中国外務省が発表。米国政府は「成果が無ければ今回で協議を打ち切る」と通告。日本政府は「拉致問題に関する2国間交渉」を希望。

■この協議は何度も中断しながらも、中国の必死の粘りによって初の共同声明が出されるところまで漕ぎ着けます。議長国の中国から「適当な時期に北朝鮮への軽水炉提供問題に関する議論を行なう事に合意」との共同声明案が提示され、米国のヒル国務次官補は了承に傾きましたが、本国からの指示は厳しく、ロバート・ジョセフ国務次官からは「適当な時期では不明確」との指摘が有り、ライス国務長官からは「核完全放棄後に軽水炉問題を議論と明記させよ」との訓令が届きます。そこで、議長国の中国は知恵を絞って、日米韓3箇国が閉会式で「軽水炉問題の議論は完全核廃棄が履行された後に行ない得る」という意味の声明を発表して議事録に残す案を提示します。


2005年9月15日、再開した「第4回6者協議」が大詰めだったが、米財務省がマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」に北朝鮮の資金洗浄に関与した疑惑が濃厚と発表。

■2003年に北朝鮮の紙幣偽造などの非合法活動に対して米国は政府を挙げて対応する「不法活動イニシアチブ(IAI)」を決定し、国務省・国防総省・財務省など14省庁を糾合した特別チームを発足させていました。チームをまとめる特別調整官には国務省東アジア太平洋局のデビッド・アッシャー上級顧問が就任しています。彼は、「北朝鮮の指導者に対して、現行の犯罪の枠組みは維持できないことを自覚させることで、前向きの戦略的選択をするように仕向けるための攻撃的治安活動」と自分の使命を説明しています。それまでの国務省が管轄した経済制裁でも、国防総省が動いて見せても姿勢を変えなかった北朝鮮が、財務省の調査チームが行なったマネー・ロンダリングの停止によって悲鳴を上げる結果になります。



続・北の原爆50年史 其の壱拾壱

2006-11-11 09:53:45 | 歴史

2005年5月25日、朝鮮戦争で行方不明になっている米軍兵士の遺骨捜索活動を中断し、既に30人の関係者は北朝鮮を離れたと発表。翌26日、米軍太平洋司令部が「ステルス戦闘機15機を在韓米軍に派遣する」と発表。

■一説には、平壌上空や金正日将軍様が視察に訪れる地方にもステルス戦闘機が現われて、空からピン・ポイントで殺害することが出来るぞ!と威嚇しているとも言われていますが、実際のところは全国に散らばる軍事地下施設の内情も、影武者でない金正日将軍様の居場所も米国はまだ把握していないとも言われているようです。しかし、グアム基地と沖縄基地を拠点として北朝鮮を攻撃する態勢だけは徐々に整えられているのは確かでしょう。


2005年5月6日、ニューヨーク・タイムズ電子版が、「北朝鮮の実験場とされる北東部・吉州で実験用とみられるトンネルにコンクリートが注入され、数キロ離れたところに要人の観閲用スタンドも建設」と報道。

■米国務省は「大きなトンネルが掘られていたが、最近になって埋められたように上空からは見える」と報道を追認しましたが、国防省は「いつもと何ら変わらない。観閲用スタンドなんて馬鹿げている」と否定しました。衛星写真を見ていない韓国政府は「米政府当局者は、工事現場でダンプカーが行き来しているだけだ、と言っただけ。強硬派の情報操作だ」と反発。外交的な圧力を加えたい国務省と、実戦になったらイラクを放り出して次の苦難を強いられる不面目な立場になる国防省と、それぞれの立場の違いがはっきり分かる話です。勿論、韓国も太陽政策を継続する為には、絶対に核実験などされては困るわけです。


2005年5月27日、ニューヨークで開催されていた「NPT再検討会議」は一切の妥協をしない米国代表と、前回の成果が後退するのを警戒したエジプト代表が議論を邪魔して実質的に決裂して閉幕。

■最初から分かっていたようなものですが、折角の国際会議を無駄にしたのは残念でした。世界最強の軍事力を独占する米国も、実は単なる臆病者かとテロリストに侮(あなど)られる危険が有ります。一国だけで世界中を管理する警察官の役割を担え切れなくなっているのは、何かと資金援助を頼まれる日本政府にはよく分かっている事ですし、ニューヨークにテロを仕掛けた連中も、その後の米国の慌てぶりを見て改めて米国の弱点を見た思いがしているのではないでしょうか?NPT条約に替わる有効な核兵器の拡散を防ぐ手立てが無い以上、米国は他国との協調路線を採らねばならないはずなのですが、自由に戦争を仕掛けたいばかりに、駄々っ子のような態度しか採れません。


6月7日、韓国の朝鮮日報は「稼動している寧辺の核施設に限定した攻撃でも、半径50キロ居兄で2箇月以内に80~100%が死亡するなど大被害が予想される」との韓国軍当局の試算を報道。

■北朝鮮の軍事施設は8200箇所で地下埋設工事が完了していると言われていますので、米軍が韓国内の基地に地中貫通爆弾を配備していても不思議ではないですし、グアム島ではこの特殊兵器の訓練が続けられているそうです。しかし、米国自慢のGPS誘導兵器で主要な軍事拠点を壊滅させたところで、第一撃に反応するように始まる北朝鮮の反撃を食い止める方策はありません。38度線に沿って数千の射程70キロの240ミリ多連装ロケット砲、1万門以上の射程50キロの170ミリ砲が、1時間当たり50万発の砲弾とロケット弾をソウル市内に打ち込まめると言われていて、24時間の死傷者は100万人以上と韓国国防省は試算しています。


2005年6月10日、米韓首脳会談で、盧武鉉大統領はブッシュ大統領から「米国は北朝鮮に侵攻しない。核を放棄したらより正常な米朝関係が可能となる」とのメッセージを引き出す。

■良好な中韓関係が有りますから、ブッシュ大統領としては韓国から北京政府に必死の懇願と依頼をして貰って、万が一でも北朝鮮側が柔軟な姿勢でも見せてくれれば有り難い、それだけの話なのですが、北朝鮮が崩壊して欲しくないという一点では中韓両国政府は一致しても、米国に対する感覚は随分と違うようです。特に、盧武鉉政権は反日・反米の機運を利用して支持率を上げて来たのですから、米韓関係は良くないと言わざるを得ません。


続・北の原爆50年史 其の壱拾

2006-11-10 12:54:19 | 歴史
■その開発というのは、一種の廃物利用のようなものだったそうで、8インチ榴弾砲の砲身が余っていたので、それに爆弾を詰め込み、先端を尖らせて誘導装置と遅延信管を入れただけの代物で、全長約4メートル、直径37センチ、重量は2トンです。『砂漠の嵐』作戦を実施していた米空軍が、イラクの地下施設に手を焼いて、大急ぎで手持ちの材料を組み合わせて仕上げて、1991年2月28日に初めてイラク軍の地下司令部攻撃に使用されました。この安上がりの兵器が予想以上の成果を上げたので、調子に乗った空軍は戦争が終った後にも161発も注文したそうです。つまり、湾岸戦争の後、イラク攻撃が計画されていたという事でしょう。

■「GBU-28」でも厚さ6メートルのコンクリートを破り、普通の地面なら地下30メートルにまで潜り込めると言われていますが、湾岸戦争の後、コバルト系の恐ろしく硬い合金で専用の巨大な弾体を作って完成させたのが「ビッグ・ブルー」と呼ばれる重量約14トンというお化け爆弾です。余りに重いので、通常の戦闘機では運べませんから、巨大な戦略爆撃機に1発だけ抱かせて使うのだそうです。他にも重さ1トン以下の使い易い地中貫通爆弾が開発されており、米軍はこの分野では世界唯一の品揃えを誇るようになっています。こうした爆弾に1メガトン程度の核弾頭を搭載すると、何と、地下300メートルに作られた施設でも破壊出来ると言われています。

■北朝鮮に対する攻撃プラン『5027』には、開発中の地下貫通型核兵器の使用が含まれている事が明らかになっていますから、うっかりすると北朝鮮自慢の地下要塞が次々と粉砕されて全土が月面のようになってしまうかも知れません。


2005年4月28日、NPT再検討会議米国代表のラドメーカー国務次官補が米下院公聴会で「北朝鮮の言語道断の行為を非難すべきだ」「イランは核兵器開発の意図を放棄していない」と発言。

■イランと北朝鮮との間には核開発とミサイル技術の交流が有った事が明らかになり、最初は数合わせで『悪の枢軸』に北朝鮮を加えて演説の調子を整えただけだったブッシュ大統領は、本当にその「枢軸」を同時に相手にしなければならなくなりました。「イラクを占領すれば隣国シリアを筆頭に中東を民主化ドミノに巻き込み、同時にイランに圧力を加えられる」などと虫の良い事を考えていたら、イラクが泥沼化してイランを勢いづかせ、ヒズボラ戦争まで起こされてしまいましたし、アフガニスタンとイラクの両方で苦戦し始めた米国の弱点を見透かした北朝鮮に外交的に押し捲られてしまいました。


2005年5月1日朝、北朝鮮が午前8時過ぎに東部海岸から短距離ミサイルを発射。

■中国製のシルクワーム・ミサイルだったと言われていますが、この小型ミサイルは地対艦攻撃には抜群の威力を持っていると言われているので、北朝鮮沿岸で示威行為をしたら即座に戦闘状態になるぞ!というメッセージでしょう。


2005年5月2日、ニューヨークで5年ごとに開かれるNPT再検討会議始まる。会期は27日まで。中心議題は「北朝鮮に続く脱退国の出現を阻止すること」だが、エルバラダイ事務局長は核関連施設の「多国間管理体制」を提案。米国は「北朝鮮とイランに対する限定的制裁」を提案。

この段階でも、米国の標的はイランでした。エルバラダイ事務局長は、北朝鮮とイランの問題を切っ掛けにしてNPT体制を強化発展させるために、一挙に拘束力の有る国際組織を作ろうと提案したのですが、米国は自国のことしか考えず、虻蜂取らずのモグラ叩きばかりしようとしています。核拡散問題は、米国がターゲットにされる事が問題なのであって、自国の支配下に置いた国が核武装するのは構わないというのが米国の本音でしょう。そこを北朝鮮に見透かされているところに問題が有るのです。