■EUは屋上に屋を乗せた新たな官僚組織を持っていますから、地域全体に納税者と官僚組織との対立が二重になっているという事実が有ります。こうして議長の大演説みたいな寄稿を読むと、各国の官僚群の上に立つ超官僚群の影を見る思いもします。従来の国家官僚組織をどこまで削減し、主権をどこまでEU議会に譲渡できるのか?既に豊かな国からの供出金が貧しい地域に分配される仕組みに苛立つ声が高まっているようですから、議長が「支持と参加」を文末で強く求める気持ちも分かりますなあ。最初に企図された経済の統合は比較的容易でしたし、軍事的な同盟も冷戦時代から進んでいました。しかし、文化や習慣を直接扱う政治的な統合となると大変です。
■EU委員会の「公用語」は11カ国語で、一応、中心的な言語は英語とフランス語になっているので、それ以外の9カ国の言葉は、一言も漏らさずに英仏両国語に一旦は翻訳され、それが残り9ヶ国語に再度翻訳されて伝えられるのだそうです。議場での同時通訳ならば兎も角、お役所仕事の本分である「書類仕事」を想像すれば、書類作成の事務処理量が単純に計算しても11倍!、英仏両語の文書を必ず添付していたらその処理に要する作業量と紙の量は膨大な物になります。果たして、そんなお役所仕事に必要なコストを地域内住民がいつまでも認めて居られるのでしょうか?更に続くと思われるEU拡大は、更なる言語を取り込んで、もっと多くの役人が必要になりますぞ!ドイツ語が、いつまでも「主要言語」の外で大人しくしているかどうかも分かりませんなあ。
欧州連合(EU)は2004年以来、東欧など12カ国にも「統合の翼」を広げたことで、その性格を変えつつある。「(15カ国時代に比べて文化、宗教、経済面で)『異質』な者同士の集まりとなり、アイデンティティーの危機にすら直面している」(ドイツのシンクタンクCAPのベティーナ・タールマイヤー研究員)のが実情だ。EUが冷戦終結後、ソ連のくびきから解き放たれた東欧諸国を組み入れたことは、欧州の政治的安定や経済発展といった観点から意味があった。だが、ポーランドが04年に欧州憲法条約に「キリスト教の伝統」をうたうよう唱えて政教分離の国々と対立したことでも明らかなように、価値観をめぐる“温度差”が徐々に表面化しつつある。
■EUを「キリスト教徒」による神聖同盟にしたいなら、トルコの加盟は不可能ですし、域内に暮らす異教徒や無宗教の者は不快でしょう。更に同じ根を持つキリスト教同士で1000年間も殺し合いを続けた場所ですからなあ。胸の前で切る十字の作法が違うだの、儀式の内容が違うだの、あれこれと争いの種が多い宗教文化が取り沙汰されると、頭に血が上ってエイライことになってしまいますぞ。
経済面でも、新・旧加盟国の違いは歴然としている。EUの経済成長率に占める新規加盟国の貢献度はわずか5%に過ぎず、巨額の補助金がこれらの国に流れることへの不満もくすぶっている。1月に加盟したルーマニアとブルガリアは国内の機構改革に追われ、EUに今後の戦略を提示できる状況にはない。外から見れば強力な組織に見えるEUもこうした国々を抱え、「内部は弱体化しつつある」(政治専門家)との見方もある。加盟当時、約40年ぶりの「欧州回帰」に沸いた東欧諸国の側にも不満は募る。域内での自由労働が認められないなど、加盟の恩恵を十分、感じることができないためだ。
■日本国内でもチャイナでも、地域間格差が出身地や血縁関係にまで広がると、夢と希望を失って不満ばかりが膨らんでしまう人々が増えます。犯罪に走る者、社会保障を悪用する者、中には組織を作って暴動やらテロやら、物騒な事を始める者も出て来ます。かと言って、無制限に安い労働力を自由に移動させれば、銭ゲバ経営者は大喜びしますが、地元の労働者は路頭に迷い、新参者を憎むようになりますなあ。
冷戦後、やっとソ連の下から独り立ちした東欧諸国は、内政への「ブリュッセル」からの横やりに困惑気味だという。独ブランデンブルク応用科学大のウルリヒ・ブラッシェ政治学教授は、「東欧では『モスクワからブリュッセルの独裁主義に変わっただけだ』との声も出ている」と話す。「これ以上の拡大は、『EUの顔』の問題にかかわる」(ミヒャエル・クライレ独フンボルト大教授)との指摘もあるように、EUは「拡大」よりも「深化」に重きを置いていく可能性が高い。
3月24日 産経新聞
■「拡大」か「深化」か、これは難しい選択です。成長政策か緊縮財政か、大きな政府か小さな政府か、福祉の充実か自立強化か、こうした何処の国も悩む問題に、歴史と民族の怨念やら逆恨みやら、ややこしい要素も混じりますから、どこかで線引きするにしても容易ではありません。ソ連に対抗する時代が終わって東欧を奪還したのは嬉しかったのでしょうが、まさか、これほど衰退していたとは知らなかった!と天を仰いだのはドイツ人達だったはずです。東ドイツとの統一の苦労を遠くから見ていた大韓民国が「明日は我が身だ!」とせっせと北朝鮮に自立支援を始めたのだとも言われていますからなあ。それに、もしもトルコがEUに加盟すれば、旧フランス植民地だったアルジェリアを筆頭にアフリカ諸国の中にも加盟を希望するような国も現れる可能性が有ります。「アフリカは別だ」と主張するには、改めて「欧州とは何か」を定義しなければ済まなくなっているわけです。
欧州経済共同体(EEC)設立を決めたローマ条約調印50年を記念して、25日にベルリンで式典が開催されるが、ここで採択される「ベルリン宣言」には、2009年までに欧州連合(EU)の組織構造を抜本的に見直すとの内容が盛り込まれる。ロイターが入手した宣言の最終草案には「ローマ条約調印から50年を経て、われわれは2009年の欧州議会選挙までにEUの新たな共同基盤を構築するとの目標で合意する」と明記している。……
3月23日 ロイター
■EUも、いよいよ「行政改革」を断行しないと、拡大どころか統一の維持も難しくなっているという事でしょう。日本でも、やっと公務員の削減が始まりましたが、EU組織の役人という身分が、貧しい国の秀才達にとっては垂涎の的だとも聞きますから、機構改革に「公務員の削減」などが盛り込まれると、貧しい国からは「特別採用枠」の要求が出るのは間違いないでしょう。何処のお役人も既得権益を守るためなら、何でもしますからなあ。あと2年で行政改革なんか出来るのでしょうか?
欧州憲法起草委員長のジスカールデスタン元仏大統領(81)が、欧州連合設立への第一歩となったローマ条約調印50周年(25日)を前に毎日新聞との単独会見に応じた。元大統領は凍結中の欧州憲法について「すでに過半数の加盟国が批准した」と指摘し、反対国のEU脱退を考慮してでも年内に発効させるべきだと語った。
3月25日 毎日新聞
■市民革命を起こしては憲法を書き上げて来た本場ですから、欧州が組織を作ったら憲法が必要になります。しかし、文書をまとめると政治家と官僚は重箱の隅をつつき合って、ああでもないこうでもないと会議を重ねるのが仕事みたいなものですからなあ。EU結成は血生臭い暴力革命のような熱狂は有りませんでしたから、勢いで革命委員会が憲法を起草してしまうことも有りませんでした。
■欧州憲法条約の発効には、全加盟国の批准を必要とするそうで、今のところはEUの総人口の過半数に当たる2億5,100万人が憲法条約を批准していて、加盟国で言うと15カ国(ベルギー、ドイツ、エストニア、ギリシャ、スペイン、イタリア、キプロス、ラトヴィア、リトアニア、ルクセンブルグ、ハンガリー、マルタ、 オーストリア、スロヴェニア、スロヴァキア)が批准済みなのだそうです。記事に出ているジスカールデスタンさんの祖国であるフランスが含まれていませんぞ!それでも「批准しない国は除名だ」と大鉈を振るって見せれば、しぶしぶとフランスは同調すると読んでいるのかも知れません。
■オランダや北欧諸国なども名前が見えませんなあ。はっきり言って批准している国々の多くは貧しい国ばかりのようです。そして、通貨統合問題でも独自の主張を続けるイギリスの名前も有りません。ジスカールデスタンさんの念頭には、イギリスの首根っこを抑えてドイツと仲良くさせる計画が有るのかも知れません。1992年に起こったデンマークによる「マーストリヒト条約批准拒否」の椿事も有りますから、加盟国は何度でも国民投票を実施して批准を急ぐことになるのでしょう。現在のところ、「EU崩壊」を予言する人は居ないようですが、加盟国の負っている民主主義の歴史が違うように、EUの存在意義に関する考え方も一様では無いはずです。世界最大の民主主義国家と呼ばれるインドの、人口で3分の1でしかないEUですが、これからも民主主義の可能性に挑戦する人類の歴史の最先端を進んでいると思われます。但し、50年後まで存続しているかどうかは、誰にも分かりません。
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欧州連合(EU)は2004年以来、東欧など12カ国にも「統合の翼」を広げたことで、その性格を変えつつある。「(15カ国時代に比べて文化、宗教、経済面で)『異質』な者同士の集まりとなり、アイデンティティーの危機にすら直面している」(ドイツのシンクタンクCAPのベティーナ・タールマイヤー研究員)のが実情だ。EUが冷戦終結後、ソ連のくびきから解き放たれた東欧諸国を組み入れたことは、欧州の政治的安定や経済発展といった観点から意味があった。だが、ポーランドが04年に欧州憲法条約に「キリスト教の伝統」をうたうよう唱えて政教分離の国々と対立したことでも明らかなように、価値観をめぐる“温度差”が徐々に表面化しつつある。
■EUを「キリスト教徒」による神聖同盟にしたいなら、トルコの加盟は不可能ですし、域内に暮らす異教徒や無宗教の者は不快でしょう。更に同じ根を持つキリスト教同士で1000年間も殺し合いを続けた場所ですからなあ。胸の前で切る十字の作法が違うだの、儀式の内容が違うだの、あれこれと争いの種が多い宗教文化が取り沙汰されると、頭に血が上ってエイライことになってしまいますぞ。
経済面でも、新・旧加盟国の違いは歴然としている。EUの経済成長率に占める新規加盟国の貢献度はわずか5%に過ぎず、巨額の補助金がこれらの国に流れることへの不満もくすぶっている。1月に加盟したルーマニアとブルガリアは国内の機構改革に追われ、EUに今後の戦略を提示できる状況にはない。外から見れば強力な組織に見えるEUもこうした国々を抱え、「内部は弱体化しつつある」(政治専門家)との見方もある。加盟当時、約40年ぶりの「欧州回帰」に沸いた東欧諸国の側にも不満は募る。域内での自由労働が認められないなど、加盟の恩恵を十分、感じることができないためだ。
■日本国内でもチャイナでも、地域間格差が出身地や血縁関係にまで広がると、夢と希望を失って不満ばかりが膨らんでしまう人々が増えます。犯罪に走る者、社会保障を悪用する者、中には組織を作って暴動やらテロやら、物騒な事を始める者も出て来ます。かと言って、無制限に安い労働力を自由に移動させれば、銭ゲバ経営者は大喜びしますが、地元の労働者は路頭に迷い、新参者を憎むようになりますなあ。
冷戦後、やっとソ連の下から独り立ちした東欧諸国は、内政への「ブリュッセル」からの横やりに困惑気味だという。独ブランデンブルク応用科学大のウルリヒ・ブラッシェ政治学教授は、「東欧では『モスクワからブリュッセルの独裁主義に変わっただけだ』との声も出ている」と話す。「これ以上の拡大は、『EUの顔』の問題にかかわる」(ミヒャエル・クライレ独フンボルト大教授)との指摘もあるように、EUは「拡大」よりも「深化」に重きを置いていく可能性が高い。
3月24日 産経新聞
■「拡大」か「深化」か、これは難しい選択です。成長政策か緊縮財政か、大きな政府か小さな政府か、福祉の充実か自立強化か、こうした何処の国も悩む問題に、歴史と民族の怨念やら逆恨みやら、ややこしい要素も混じりますから、どこかで線引きするにしても容易ではありません。ソ連に対抗する時代が終わって東欧を奪還したのは嬉しかったのでしょうが、まさか、これほど衰退していたとは知らなかった!と天を仰いだのはドイツ人達だったはずです。東ドイツとの統一の苦労を遠くから見ていた大韓民国が「明日は我が身だ!」とせっせと北朝鮮に自立支援を始めたのだとも言われていますからなあ。それに、もしもトルコがEUに加盟すれば、旧フランス植民地だったアルジェリアを筆頭にアフリカ諸国の中にも加盟を希望するような国も現れる可能性が有ります。「アフリカは別だ」と主張するには、改めて「欧州とは何か」を定義しなければ済まなくなっているわけです。
欧州経済共同体(EEC)設立を決めたローマ条約調印50年を記念して、25日にベルリンで式典が開催されるが、ここで採択される「ベルリン宣言」には、2009年までに欧州連合(EU)の組織構造を抜本的に見直すとの内容が盛り込まれる。ロイターが入手した宣言の最終草案には「ローマ条約調印から50年を経て、われわれは2009年の欧州議会選挙までにEUの新たな共同基盤を構築するとの目標で合意する」と明記している。……
3月23日 ロイター
■EUも、いよいよ「行政改革」を断行しないと、拡大どころか統一の維持も難しくなっているという事でしょう。日本でも、やっと公務員の削減が始まりましたが、EU組織の役人という身分が、貧しい国の秀才達にとっては垂涎の的だとも聞きますから、機構改革に「公務員の削減」などが盛り込まれると、貧しい国からは「特別採用枠」の要求が出るのは間違いないでしょう。何処のお役人も既得権益を守るためなら、何でもしますからなあ。あと2年で行政改革なんか出来るのでしょうか?
欧州憲法起草委員長のジスカールデスタン元仏大統領(81)が、欧州連合設立への第一歩となったローマ条約調印50周年(25日)を前に毎日新聞との単独会見に応じた。元大統領は凍結中の欧州憲法について「すでに過半数の加盟国が批准した」と指摘し、反対国のEU脱退を考慮してでも年内に発効させるべきだと語った。
3月25日 毎日新聞
■市民革命を起こしては憲法を書き上げて来た本場ですから、欧州が組織を作ったら憲法が必要になります。しかし、文書をまとめると政治家と官僚は重箱の隅をつつき合って、ああでもないこうでもないと会議を重ねるのが仕事みたいなものですからなあ。EU結成は血生臭い暴力革命のような熱狂は有りませんでしたから、勢いで革命委員会が憲法を起草してしまうことも有りませんでした。
■欧州憲法条約の発効には、全加盟国の批准を必要とするそうで、今のところはEUの総人口の過半数に当たる2億5,100万人が憲法条約を批准していて、加盟国で言うと15カ国(ベルギー、ドイツ、エストニア、ギリシャ、スペイン、イタリア、キプロス、ラトヴィア、リトアニア、ルクセンブルグ、ハンガリー、マルタ、 オーストリア、スロヴェニア、スロヴァキア)が批准済みなのだそうです。記事に出ているジスカールデスタンさんの祖国であるフランスが含まれていませんぞ!それでも「批准しない国は除名だ」と大鉈を振るって見せれば、しぶしぶとフランスは同調すると読んでいるのかも知れません。
■オランダや北欧諸国なども名前が見えませんなあ。はっきり言って批准している国々の多くは貧しい国ばかりのようです。そして、通貨統合問題でも独自の主張を続けるイギリスの名前も有りません。ジスカールデスタンさんの念頭には、イギリスの首根っこを抑えてドイツと仲良くさせる計画が有るのかも知れません。1992年に起こったデンマークによる「マーストリヒト条約批准拒否」の椿事も有りますから、加盟国は何度でも国民投票を実施して批准を急ぐことになるのでしょう。現在のところ、「EU崩壊」を予言する人は居ないようですが、加盟国の負っている民主主義の歴史が違うように、EUの存在意義に関する考え方も一様では無いはずです。世界最大の民主主義国家と呼ばれるインドの、人口で3分の1でしかないEUですが、これからも民主主義の可能性に挑戦する人類の歴史の最先端を進んでいると思われます。但し、50年後まで存続しているかどうかは、誰にも分かりません。
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