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旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

EUが50歳 其の参

2007-03-26 17:46:41 | 歴史
■EUは屋上に屋を乗せた新たな官僚組織を持っていますから、地域全体に納税者と官僚組織との対立が二重になっているという事実が有ります。こうして議長の大演説みたいな寄稿を読むと、各国の官僚群の上に立つ超官僚群の影を見る思いもします。従来の国家官僚組織をどこまで削減し、主権をどこまでEU議会に譲渡できるのか?既に豊かな国からの供出金が貧しい地域に分配される仕組みに苛立つ声が高まっているようですから、議長が「支持と参加」を文末で強く求める気持ちも分かりますなあ。最初に企図された経済の統合は比較的容易でしたし、軍事的な同盟も冷戦時代から進んでいました。しかし、文化や習慣を直接扱う政治的な統合となると大変です。

■EU委員会の「公用語」は11カ国語で、一応、中心的な言語は英語とフランス語になっているので、それ以外の9カ国の言葉は、一言も漏らさずに英仏両国語に一旦は翻訳され、それが残り9ヶ国語に再度翻訳されて伝えられるのだそうです。議場での同時通訳ならば兎も角、お役所仕事の本分である「書類仕事」を想像すれば、書類作成の事務処理量が単純に計算しても11倍!、英仏両語の文書を必ず添付していたらその処理に要する作業量と紙の量は膨大な物になります。果たして、そんなお役所仕事に必要なコストを地域内住民がいつまでも認めて居られるのでしょうか?更に続くと思われるEU拡大は、更なる言語を取り込んで、もっと多くの役人が必要になりますぞ!ドイツ語が、いつまでも「主要言語」の外で大人しくしているかどうかも分かりませんなあ。


欧州連合(EU)は2004年以来、東欧など12カ国にも「統合の翼」を広げたことで、その性格を変えつつある。「(15カ国時代に比べて文化、宗教、経済面で)『異質』な者同士の集まりとなり、アイデンティティーの危機にすら直面している」(ドイツのシンクタンクCAPのベティーナ・タールマイヤー研究員)のが実情だ。EUが冷戦終結後、ソ連のくびきから解き放たれた東欧諸国を組み入れたことは、欧州の政治的安定や経済発展といった観点から意味があった。だが、ポーランドが04年に欧州憲法条約に「キリスト教の伝統」をうたうよう唱えて政教分離の国々と対立したことでも明らかなように、価値観をめぐる“温度差”が徐々に表面化しつつある。

■EUを「キリスト教徒」による神聖同盟にしたいなら、トルコの加盟は不可能ですし、域内に暮らす異教徒や無宗教の者は不快でしょう。更に同じ根を持つキリスト教同士で1000年間も殺し合いを続けた場所ですからなあ。胸の前で切る十字の作法が違うだの、儀式の内容が違うだの、あれこれと争いの種が多い宗教文化が取り沙汰されると、頭に血が上ってエイライことになってしまいますぞ。


経済面でも、新・旧加盟国の違いは歴然としている。EUの経済成長率に占める新規加盟国の貢献度はわずか5%に過ぎず、巨額の補助金がこれらの国に流れることへの不満もくすぶっている。1月に加盟したルーマニアとブルガリアは国内の機構改革に追われ、EUに今後の戦略を提示できる状況にはない。外から見れば強力な組織に見えるEUもこうした国々を抱え、「内部は弱体化しつつある」(政治専門家)との見方もある。加盟当時、約40年ぶりの「欧州回帰」に沸いた東欧諸国の側にも不満は募る。域内での自由労働が認められないなど、加盟の恩恵を十分、感じることができないためだ。

■日本国内でもチャイナでも、地域間格差が出身地や血縁関係にまで広がると、夢と希望を失って不満ばかりが膨らんでしまう人々が増えます。犯罪に走る者、社会保障を悪用する者、中には組織を作って暴動やらテロやら、物騒な事を始める者も出て来ます。かと言って、無制限に安い労働力を自由に移動させれば、銭ゲバ経営者は大喜びしますが、地元の労働者は路頭に迷い、新参者を憎むようになりますなあ。


冷戦後、やっとソ連の下から独り立ちした東欧諸国は、内政への「ブリュッセル」からの横やりに困惑気味だという。独ブランデンブルク応用科学大のウルリヒ・ブラッシェ政治学教授は、「東欧では『モスクワからブリュッセルの独裁主義に変わっただけだ』との声も出ている」と話す。「これ以上の拡大は、『EUの顔』の問題にかかわる」(ミヒャエル・クライレ独フンボルト大教授)との指摘もあるように、EUは「拡大」よりも「深化」に重きを置いていく可能性が高い。
3月24日 産経新聞

■「拡大」か「深化」か、これは難しい選択です。成長政策か緊縮財政か、大きな政府か小さな政府か、福祉の充実か自立強化か、こうした何処の国も悩む問題に、歴史と民族の怨念やら逆恨みやら、ややこしい要素も混じりますから、どこかで線引きするにしても容易ではありません。ソ連に対抗する時代が終わって東欧を奪還したのは嬉しかったのでしょうが、まさか、これほど衰退していたとは知らなかった!と天を仰いだのはドイツ人達だったはずです。東ドイツとの統一の苦労を遠くから見ていた大韓民国が「明日は我が身だ!」とせっせと北朝鮮に自立支援を始めたのだとも言われていますからなあ。それに、もしもトルコがEUに加盟すれば、旧フランス植民地だったアルジェリアを筆頭にアフリカ諸国の中にも加盟を希望するような国も現れる可能性が有ります。「アフリカは別だ」と主張するには、改めて「欧州とは何か」を定義しなければ済まなくなっているわけです。


欧州経済共同体(EEC)設立を決めたローマ条約調印50年を記念して、25日にベルリンで式典が開催されるが、ここで採択される「ベルリン宣言」には、2009年までに欧州連合(EU)の組織構造を抜本的に見直すとの内容が盛り込まれる。ロイターが入手した宣言の最終草案には「ローマ条約調印から50年を経て、われわれは2009年の欧州議会選挙までにEUの新たな共同基盤を構築するとの目標で合意する」と明記している。……
3月23日 ロイター

■EUも、いよいよ「行政改革」を断行しないと、拡大どころか統一の維持も難しくなっているという事でしょう。日本でも、やっと公務員の削減が始まりましたが、EU組織の役人という身分が、貧しい国の秀才達にとっては垂涎の的だとも聞きますから、機構改革に「公務員の削減」などが盛り込まれると、貧しい国からは「特別採用枠」の要求が出るのは間違いないでしょう。何処のお役人も既得権益を守るためなら、何でもしますからなあ。あと2年で行政改革なんか出来るのでしょうか?


欧州憲法起草委員長のジスカールデスタン元仏大統領(81)が、欧州連合設立への第一歩となったローマ条約調印50周年(25日)を前に毎日新聞との単独会見に応じた。元大統領は凍結中の欧州憲法について「すでに過半数の加盟国が批准した」と指摘し、反対国のEU脱退を考慮してでも年内に発効させるべきだと語った。
3月25日 毎日新聞

■市民革命を起こしては憲法を書き上げて来た本場ですから、欧州が組織を作ったら憲法が必要になります。しかし、文書をまとめると政治家と官僚は重箱の隅をつつき合って、ああでもないこうでもないと会議を重ねるのが仕事みたいなものですからなあ。EU結成は血生臭い暴力革命のような熱狂は有りませんでしたから、勢いで革命委員会が憲法を起草してしまうことも有りませんでした。

■欧州憲法条約の発効には、全加盟国の批准を必要とするそうで、今のところはEUの総人口の過半数に当たる2億5,100万人が憲法条約を批准していて、加盟国で言うと15カ国(ベルギー、ドイツ、エストニア、ギリシャ、スペイン、イタリア、キプロス、ラトヴィア、リトアニア、ルクセンブルグ、ハンガリー、マルタ、 オーストリア、スロヴェニア、スロヴァキア)が批准済みなのだそうです。記事に出ているジスカールデスタンさんの祖国であるフランスが含まれていませんぞ!それでも「批准しない国は除名だ」と大鉈を振るって見せれば、しぶしぶとフランスは同調すると読んでいるのかも知れません。

■オランダや北欧諸国なども名前が見えませんなあ。はっきり言って批准している国々の多くは貧しい国ばかりのようです。そして、通貨統合問題でも独自の主張を続けるイギリスの名前も有りません。ジスカールデスタンさんの念頭には、イギリスの首根っこを抑えてドイツと仲良くさせる計画が有るのかも知れません。1992年に起こったデンマークによる「マーストリヒト条約批准拒否」の椿事も有りますから、加盟国は何度でも国民投票を実施して批准を急ぐことになるのでしょう。現在のところ、「EU崩壊」を予言する人は居ないようですが、加盟国の負っている民主主義の歴史が違うように、EUの存在意義に関する考え方も一様では無いはずです。世界最大の民主主義国家と呼ばれるインドの、人口で3分の1でしかないEUですが、これからも民主主義の可能性に挑戦する人類の歴史の最先端を進んでいると思われます。但し、50年後まで存続しているかどうかは、誰にも分かりません。

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EUが50歳 其の弐

2007-03-26 17:46:12 | 歴史
■ネオ・ナチの台頭に神経を尖らせているはずのEU議長国ドイツのシュタインマイヤー外相が、「EUが50歳に」と題する評論を毎日新聞に寄稿したそうです。

EU50の誕生日は比類なき成功物語である「欧州統合」を振り返る機会となる。この50年に欧州の人々が達成した成果は私たち皆が誇りにできるものだ。平和、豊かさ、安定は最大の成果であり、人々に具体的な恩恵をもたらした。欧州の東西分裂が克服されたことは極めて重要だ。新規加盟国が加わり、民主主義と「法の支配」の定着が大きく進んだからだ。自由を希求する中・東欧の人々の意思がなければ分裂の克服は実現しなかった。

■目出度い気分に水を差す気はさらさら無いのですが、「中欧」という概念はEUを考えると非常に重要であることを確認して置きましょう。欧州の東西分裂は、ドイツが繰り返した「中・東欧の統一」という歴史的な執念を根絶やしにする保険としての機能を果たしていたとも言われます。ベルリンの壁が崩壊する様子を世界中の人々が感動を持って見守ったものですが、その後に発表された「東西ドイツ統合案」には、英国が即座に懸念を表明しフランスと共に反対しようと動きました。うっかりするとEU自体がドイツ帝国の再生を促す役割を果たしたら大変だあ!というわけです。そういう歴史的不安を良く知っているドイツは、「EU内で大人しくしています」という約束を大きな声で発表して、多数決原理に従ってEU全体の同意を得たのでした。


もう一つの成果は世界に類例のない「協力のあり方」が発展したことだ。EUは民主主義と「法の支配」を基盤とし、域内協力は加盟国間における権利と義務の平等、透明性と補完性という原理を旨とする。他地域での協力のあり方の範となり得る。欧州の土台を成すのは共通の価値観だ。すなわち人間の尊厳、自由と責任、連帯、多様性と寛容、他者への敬意である。EUは共通経済圏にとどまらず、価値観を共有する価値共同体だ。共通の価値観によって立つからこそ欧州は政治単位として機能し得る。

■こうして情熱的に並べられる言葉の一つ一つが、ナチズムを完全に否定している事をしつこくアピールしているのが分かります。ヒトラーが構想した第三帝国は、この段落に述べられている内容を全て否定して、架空のアーリア民族による絶対的支配を目論んだのでしたなあ。それに感動したのが大日本帝国の軍人と一部の官僚でした。


多大な成果にもかかわらず、ここ数年、EUに対する市民の信頼が低下した。「欧州統合に対する支持の拡大」は、ドイツがEU議長国を務める今年前半の目標の中心にすえられた。EUは21世紀の課題に対処できることを実証していかなければならない。どの加盟国ももはや一国だけでは豊かさと安全を維持できない。ましてや、グローバリズムのあり方に積極的に働きかけていくのは到底無理だ。今月8、9の両日開かれた首脳会議でEUは市民にとって重要度の高い分野で政治的意思を形作る力を発揮できることを証明した。温暖化防止とエネルギー政策は人々の将来にかかわる極めて重要な分野であり、温暖化の危機は私たちが一致協力することなしには解決できない問題の一つだ。

■世界地図を見れば欧州が案外と小さな地域だという事はすぐに分かります。従って、生活に欠かせない水・土・空気の量は限定的です。農業国もたくさん含まれているので、気性変動による食料不足は歴史を巻き戻して掠奪と虐殺の再現となる原因になりますし、温暖化によって環境が激変すれば、EU内での大規模な人口移動も簡単に発生してしまいます。貧しい加盟国からの「出稼ぎ」だけでも大問題になっているのですから、本格的な人口移動ともなればエライことになりますからなあ。


欧州共通外交・安全保障政策の拡大にも期待が集まっている。欧州外交は平和と正義、自然環境の保護を一貫して追求するものでなければならない。内務・司法分野ではテロ・犯罪の防止に向けた共同の取り組みと、人権・公民権の尊重との均衡を図る。不法移民問題も共通の解決策が必要だ。欧州を一つにまとめているものは何か。25日にはこの観点を中心にすえ、欧州の結束と一体感を発信する。直面する課題に力を合わせて対処し解決していこうという明確なメッセージだ。

■EUも国境を前提とした政治組織ですから、内側に向かっては平等やら寛容やら、対立を避けて統一を促進する言葉が発せられますが、外に向かっては「不法移民」「テロ」が排除の対象となります。ドイツには第1次大戦からのトルコとの関係で、非常に多くの移民が入って定着していますが、現実的には深刻な差別や格差が大問題となっています。そのトルコがEUに加盟したら、ドイツが抱える問題を他の国も考えねばならなくなります。ロシアとトルコ、どちらも歴史的にドイツとの因縁が深い場所ですから、その加盟問題に関してもドイツの発言力はますます強くなるでしょうなあ。


欧州は自信を持ってしかるべきだ。力を合わせれば自らの将来を自律的に方向付け、積極的につくり上げていくことができる。そのために市民の支持と参加が必要だ。力を合わせて欧州の成功を可能にしたい。
3月24日 毎日新聞

EUが50歳 其の壱

2007-03-26 17:45:45 | 歴史
■世の中は、予言や運命学が流行しているやに聞きますが、第二次大戦後の世界を正確に予想し得た者は皆無だったとか……。中でも冷戦による東西両陣営の対立は国際連合を構想した人々にとっては予想もしなかった事でしたし、国際連盟の最大の欠点だった国際紛争を抑止・調停する武力行使の能力を、国連軍の創設によって補ったものの、その初陣が米ソ代理戦争が勃発した朝鮮半島となるとは、これまた誰も予想しなかったそうです。ソ連が考案した「民族解放闘争」という新しい軍事思想が、旧植民地の独立戦争を後押しすれば、米国は「自由を守る正義」の旗を振りかざしてソ連との対決色を強め続けて40年。ソ連の崩壊が20世紀中に起こると60年代に想像した者は無く、全面核戦争が起こる可能性が高いと心配した人は多かったようです。

■第一次大戦中に、世界の海軍は大英帝国海軍を先頭に、石炭を放棄して石油に切り替えたのに合わせて、米国発の自動車社会が急速に世界中に広まりました。そして、石油化学製品が万能の文明として20世紀を支配しましたなあ。1958年に発足した欧州経済共同体(EEC)が、今のEUの母体ですが、これに先行して結成されていたのは欧州石炭鉄鋼共同体という20世紀を象徴する戦略的工業集団だったのも、時代を繁栄していたのでした。石油の次に世界のエネルギーとして注目されたのが、原子爆弾を開発した技術から導き出された原子力発電でした。これまた、欧州の未来には欠かせない技術と認められて、欧州原子力共同体が結成されます。石油と鉄と原子力を基幹とする経済共同体という発想が生まれるのに時間は掛からず、1967年には欧州共同体(EC)に発展統合されたのでしたなあ。

■時は冷戦の真っ只中!欧州はチャーチルが名付けた「鉄のカーテン」でぴっちりと東西に分断され、国家自体が分割されたドイツの首都ベルリンはイデオロギーの海の孤島となって浮かんでいました。ソ連の衛星国にされたチャコスロバキアやハンガリーでは大規模な暴動が起こりましたし、80年代には小型核兵器が実用化されて欧州を戦場とした中距離核ミサイルの限定的核戦争が準備される騒動が起きましたなあ。ソ連でも米国でもない「欧州」という歴史的な意識が勃興して来た契機は、米ソの代理戦争が最終的には欧州を滅ぼそうとしていると多くの人々が知った事に有ったようです。それなら、欧州分割の主体となっているソ連を崩壊させるのが早道と分かって、ポーランド出身のローマ法王まで利用してのソ連包囲網が強化され、レーガン米国大統領の強硬路線と米中接近の大戦略でソ連は国力をすり減らして自滅したのでした。

■90年前後は「ポスト冷戦」時代を占う言論が大流行でしたが、その中には日本を過大評価する物も多く、それを真に受けてバブルに踊って国富を蕩尽して世界に恥を晒したのが日本でしたなあ。日本を異質で特殊な経済大国だ!と米国が目の敵にして数々の謀略を仕掛けて来たのはその頃の事で、大企業は莫大な分けの分からないカネを支払わされ、日本政府は後先考えずに「内需拡大」を安請け合いしたのでした。その切り札が「800兆円を越える公共事業」で、その残骸が夕張市に転がっています。米国の言いなりにてきぱきと妥協案を丸呑みしていた頃の自民党幹事長が、今は最大野党の代表になっているのですから、政界の先を占うのは至難の業であります。

■米国が日本に無理難題を押し付けて八つ当たりしていた頃、1993年にマーストリヒト条約が発効してEUが誕生します。世界で唯一の軍事超大国になろうと無茶を続けた米国は、武器と映画しか売れる物が無い国になってしまいましたが、EUはNATOをフィルターに使って米国による欧州への介入を最低限度に抑えて軍事も経済も、米国からの影響力を極力小さくしてしまう事に、一応は成功しました。加盟国はEEC時代の6カ国から、新生EUの15カ国に拡大して、全身のベネルクス3国の協同組合を完全に脱して立派な国際組織に成長しておりましたなあ。中世以来の独・仏・英の対立を抱え込んでいるとは言え、米国や日本と渡り合える数と富を集約するという大目標では一致しているようです。


欧州主要国市民の3分の1以上が、50年後には、ロシアが欧州連合(EU)に加盟していると予想していることが、23日付のインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に掲載された世論調査結果で明らかになった。……イタリア人の50%、スペイン人の49%が、2057年までにEU圏がロシアまで広がると回答。英仏独3カ国でも3分の1以上が50年以内のロシア加盟を予想している。加盟交渉が難航しているトルコについても、イタリア人の58%が50年以内のEU加盟を予測。他の4カ国でも3分の1以上が50年後には加盟していると答えた。 
3月24日 時事通信

■何事にも楽天的な?イタリア人とスペイン人らしいラテン系の発想のようにも思えますが、EU内ではお荷物扱いされている我が身を顧みずに、明るい未来を夢想しているようにも思えますなあ。欧州を捨てて出て行った人達の子孫が米国ですから、欧州の仲間入りをするのならキリスト教の関連も有るロシアが念頭に浮かぶのは当然かも知れません。でも、50年後にロシアにツァーリが再生していないと誰が断言できるでしょう?アンケート調査に答えた人達は、「50年後」の世界に直接的な責任を持たない世代とも言えますから、世論調査の中に隠れているネオ・ナチほどではなくても、EU自体に反対して古き良き時代の民族国家に郷愁を覚える若い世代も居る事を忘れては行けないでしょうなあ。

チャイナの5大牧畜区 其の弐

2007-02-04 11:02:14 | 歴史
■時は流れて、社会主義革命の旗を掲げて農民反乱を拡大して政権を握った中華人民共和国が出現します。毛沢東は開墾が大好きでしたなあ。その伝統が半世紀も続くと、草原が急速に畑に変えられ環境が荒廃し続けまして、その結果が恐るべき砂漠化です。モンゴル帝国の大汗フビライは、チャイナの北半分を牧畜用の草地にしてしまう大計画を立てますが、単位面積当たりで養える人口が非常に少ない遊牧文化を強引に広げると、膨大な流民と餓死者が出るとの諫言(かんげん)を聞き入れて断念した経緯が有りますが、毛沢東はその逆を断行してしまったようなものです。北方民族に対する積年の恨みを晴らした結果が砂漠化だったとも言えるわけです。

最近、防止策として放牧の休止や禁止などの措置をとるとともに、牧草の栽培や放牧をやめて畜舎での飼育を奨励するなどしている。しかしまだ、はかばかしい効果はあがっていない。
2月4日 レコード・チャイナ

■草原を畑に変えても、思ったほどの収穫量が得られないばかりか、牧畜収入も激減するので何も得られない愚かな政策だったと今頃になって判明したのですが、草原の表土を剥ぎ取って砂漠にするのを止めても、草原を畑のように管理する制度が続く限りは、絶対に砂漠化は止まらないでしょうなあ。畑や田圃は、豊臣秀吉が実施した「太閤検地」のように、耕地を正確に測量して持ち主(納税者)を特定してきっちりと区画登録して管理するものです。これを遊牧地帯に適応したらどうなるか?気候変動によって変わる水場や草場の変化に適応して生き延びる遊牧民は、通常は相互に了解し合った一定の遊牧地域を並べて共存していますが、環境が大きく変わると武力に訴えても草と水を求めて移動して衝突を起こします。

■その壮絶な衝突を仲裁して調整する者が王となり、大汗になるという次第ですが、彼らは草原の生活に精通していたのでした。ところが、定住農業しか知らない支配者が現れると大変な間違いを犯してしまいます。国家の名において全ての草原を召し上げ、それを登録した牧畜民に割り当てて「借地料」を取るという、草原を畑や田圃と同じように扱うのです。そうなると、伝統的に「遊牧」していた周遊コースが分断されて狭苦しい区画の中に家畜を押し込めることになります。自然に任せていた草原の管理を、登録した牧畜民の責任にしたらどうなるか?国家に収める借地料と税金の他に、現金収入が無ければ生きられない社会に変わっているのに対応する生活費を稼がねばなりません。その結果が「過放牧」という恐ろしい事態で、それは砂漠化への一本道なのですなあ。

■勿論、牧畜民に貸し与えられる草原の広さは、畑作農民が割り当てられる土地よりも遥かに大きなものです。現地では、史上初めて草原に「有刺鉄線」を使った境界を作る命令が出されていますから、広大な草原全部を囲むのに要する鉄線を購入する莫大な現金が必要になっているのです。有史以前から、対立や衝突は有ったものの、自由に草原の海を渡って(時にはユーラシア大陸を横断)いた遊牧民が、有刺鉄線で囲まれた「金魚鉢」の中に押し込められているようなものです。家畜の群が草を食い尽くさないように常に移動していたのを、狭い区画に押し込んで現金で借地料と税金を支払うように強制する制度が続く限り、それに加えて急激な経済成長によって増大する現金収入の必要性が高まり続ける限り、草原の消滅と砂漠化は止められないというお話であります。

■「5大牧畜地」に美しい草原が残っている間に見物に行こう!と世界中から客が集まれば、観光産業が一時は盛り上がるでしょうが、その後に「砂漠ツアー」で儲けられるかどうかは分かりません。草原で育まれる精神文化と砂漠の文化はまったく違いますし、灌漑農業の生活文化もまったく違うものです。それを一律に統治しようとしたら、大混乱が起こるのは避けられません。北から西に広まっているイスラム教と、西に発して遠巻きに北に入っているチベット仏教の文化が、時々不穏な空気を生み出すのは、環境問題と経済問題が複雑に絡み合ったところに、心理的な要素が反発するエネルギーを注入しているからだと思われます。さてさて、草原の消滅を食い止める唯一の方法は既に明らかなのですが、それを実行する勇断を下せる権力者が現れるかどうか、それ問題でしょうなあ。

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チャイナの5大牧畜区 其の壱

2007-02-04 11:01:45 | 歴史
■草原のお話です。
中国西部の甘粛省、四川省、青海省が境を接する場所に、面積60万平方キロメートルの高原がある。平均標高は3000mで、農作物を育てることはできないが、牧畜には最適の土地だ。実際この高原に位置する甘南(かんなん)草原は、中国でも有名な5大牧畜区のひとつである。恵まれた天然の牧場で、牧畜業の発展にとっての優れた自然条件を備え、観光地としても開発されつつある。

■「5大牧畜区」というのは、チベット自治区・内モンゴル自治区・寧夏回族自治区・新疆ウイグル自治区の4つに、記事に出ている青海・甘粛・四川の3省に跨(またが)る大草原を加えたものです。ネット上にも写真が1枚掲載されていますが、こればかりは現地を訪れてみないと「60万平方キロメートル」の広さは到底、実感することは出来ません。甘南草原を南北にほぼ一直線に縦断する「舗装道路」が貫通しているのですが、ひたすら草原を通過するためにバスを乗り継いでも、3日を要するという恐るべき広さです。

■しかも、この「舗装道路」というのがメンテナンス不足も甚(はなは)だしく、亀裂・大穴・欠損が到る所に点在しているので、両距離路線バスは回数を数え切れないほどジャンプ!します。油断していると尾テイ骨から脊椎を通って脳天まで電撃が走るような衝撃に襲われます。出来るだけ前方の座席を確保して、進行方向の道路表面を凝視していて路面の異常を逸早く察知して身構えておけば、バスがジャンプする直前に足を踏ん張って一瞬体を宙に浮かせ、強烈な衝撃を往(い)なせます。しかし、いくら美しいとは言っても寝ても覚めても車窓に続く草原に飽きて、うとうとしてしまいますから、何度も何度も鞭打ち症になりそうな衝撃に堪えねばならない地獄のようなバス旅行が楽しめ?る名所であります。

■この草原を見るためだけに訪れる観光客さえ居るくらいに有名な場所なのですが、周辺部からの砂漠化は確実に広がっていますし、草原のど真ん中にも地面が露出している所が散見されます。おそらく高高度から全体を見下ろせば、緑の草原に点々と茶褐色の模様が見えるに違いありません。


しかし1980年代以降、甘南草原では牧草地の砂漠化が急速に進んでいるという。最新データによると、この砂漠は毎年4%の速度で拡大しているそうだ。専門家は「自然と人」が問題であると分析する。気候の温暖化により水分の蒸発量が増え、地表の乾燥化が進んでいること。その一方で人口は大幅に増え、過度の放牧と乱伐(らんばつ)が砂漠化に拍車をかけている。これら2つが、草原の急速な砂漠化の原因と考えられている。

■「自然と人」というのは不正確な表現ですなあ。これに「土地政策」を加えないと、実態は理解出来ませんぞ。先述の「5大牧畜区」の地名を再確認してみれば、北方の長城と西の高地で区切られるチャイナの歴史を貫く、遊牧騎馬民族と定住農業民族との対立が見えて来るでしょう。匈奴から始まり鮮卑・突厥・ウイグル・モンゴルと覇権が移った北方の草原、そして西は古代チベット王国に関わる諸民族の生活圏です。

■南方のジャングルまで繋げて考えますと、チャイナの中心部を北・西・南からぐるりと取り囲むグリーン・ベルトの存在に気が付きます。2千年以上の攻防と興廃の歴史は、このベルト地帯から襲来する騎馬軍団が勝つか、定住農業民が逆に草原地帯を畑に変えながら侵入するかの戦いだったようなものです。始皇帝が建てた秦は騎馬民族の武力を自軍の中核に組み込んで農業国家を併呑して出現しましたが、秦を継承した漢王朝は初代劉邦の時から匈奴に惨敗してから北方民族に毎年貢物をすることで存続する状態でした。漢の武帝が有名ですが、彼の対外政策は北ではなく西へ西へと境界線に沿って進むものでした。

■漢王朝の崩壊後、有名な『三国志』の時代になりますが、あれも最初の勝者となった董卓(とうたく)にしても最終的に覇権を握った曹操にしても、北方の騎馬民族を自軍に引き込むのに成功した者ばかりでした。ですから、三国鼎立が崩れて晋が建国されても、それは短い休息でしかなく、すぐに「五胡十六国」の大動乱になりましたなあ。それを収拾したのが鮮卑系の北魏で、この時の北からの圧力は頂点に達したらしく、自称漢民族は史上初めて、雪崩を打って長江を渡ります。南北朝時代の始まりです。この分断を統一した隋も、その内紛に乗じて覇権を継いだ唐も、血筋は同じ鮮卑系です。その後も、モンゴルや女真族の支配が長く続き、宗教秘密結社出身の皇帝が立った明以外は、北方から侵攻した民族が皇帝になりましたから、牧畜を基盤としながら、通商貿易の利権を掌握しつつ農業民族を徹底的に収奪する統治方法が続いたのです。

続・北の原爆50年史 其の四拾八(最終回)

2006-12-01 11:29:40 | 歴史

米誌ニューズウィークが11日発表した世論調査結果によると、ブッシュ大統領の支持率は31%で、中間選挙前の今月初旬の調査より4ポイント低下した。また、大統領は残り任期の2年間で「大した仕事はできない」とする回答は66%に上った。調査は9、10の両日、約1000人を対象に行われた。中間選挙で民主党が上下両院を制覇したことについて、過半数の51%が「良いことだ」と評価。また、2008年の次期大統領選で民主党勝利を望むとの回答は48%に上り、共和党勝利を望むとする28%を上回った。 
時事通信 - 11月12日


■民主主義国家の米国ですから、世論調査の動向は絶大な影響力を発揮します。専門的に調査方法の研究をしている学者や業者がたくさん居るそうで、質問の仕方を徹底的に分析して聞き手の性別や年齢、質問の順番、選択肢の並べ方などなど、幾らでも調査結果をがらりと変える方法は有るそうですなあ。一種の洗脳、誘導尋問みたいなものです。それでも、米国には特殊な国民性が土台となっていて、それは、皆が大統領が大好き!という強烈な感情です。初代大統領のワシントン以来、軍の最高司令官として絶大な権力を占有している人物ですから、その人が命令したら必ず戦争に参加しなければなりません。常に正義は自国に有り、邪悪な敵は必ず打ち倒さねばならない!という困ったコンセンサスが脈々と続いていますなあ。

■世論調査の結果を左右したイラク戦争にしても、それが正しい戦争だった事にはほとんどの国民は疑問を持っていないでしょう。但し、下手くそな戦争、無駄な戦争、儲からない戦争などの不満が噴出し始めると支持率がどんどん下がってしまいます。それでも、大統領に対する悪口雑言はタブーで、マイケル・ムーアさんのような人は異常な存在と見なされてしまいます。歴代の米国大統領の中には、恥ずかしくて外国の人には知られたくないような人物も居るのですが、短い歴史しか持たない米国では、基本的に大統領の列伝は『偉人伝』になるようです。それが米国の民主主義の特異性と言えるでしょうなあ。正直なところ、そんな感情には付き合い切れません!米国はイラク戦争を否定し始めたのでも反省しているのでもありません。ただ、飽きて来たのです。付き合わされた国々は早々に引き上げを予告しておりますが、ちょっと遅れて参加してさっさと引き上げて来た日本は、賢かったのか、単に運が良かっただけなのか?

■もしも、ブッシュ大統領の「完全勝利宣言」を信用せず、必ず泥沼の内戦になるぞ!と見通していた人物が政府内に居たのなら、ちょっと自慢しても良いかも知れませんが、対北朝鮮外交での影の薄さを考えますと、一寸先は闇の複雑な中東情勢を見通していたとは思えませんなあ。「非戦闘地域」などという架空の場所が実在していたいという当たり前の事実を誤魔化し切れなくなっただけなのでしょう。


北朝鮮外務省の姜錫柱(カン・ソクジュ)第1次官は22日、6カ国協議は間もなく再開されるとした上で、北朝鮮が米国に対しまず金融制裁を解除するよう要求するのは当然のことだとの考えを示した。モスクワに滞在していた姜次官は同日、15日ぶりに北京国際空港に姿を見せた。核開発プログラム廃棄の要求に対する北朝鮮側の姿勢について問われると、「核をどうして放棄できようか。放棄しようと作ったものだと思うか」と反問し、不快感を示した。

■金融制裁の解除という獲物を手に入れるために、どれだけの餌(妥協)で足りるのか?北朝鮮はそればかりを必死に探っています。もしも、米軍が目算通りにイラクのフセイン体制を電撃的に壊滅させ、それに呼応して「イスラム民主主義」などという不思議なイデオロギーを共有する集団が湧き出して、米軍に感謝を述べつつ米国の注文通りに「中東民主化」運動の先陣を切って愛すべき米軍を涙で見送ってくれる。そんな、まるで御伽噺のような結末になっていたら、その勢いで北朝鮮を次の標的に設定も出来たかも知れませんが、核兵器も大量破壊兵器も持っていなかった旧イラク軍を、まったく別次元の高性能兵器で簡単に葬り去ったと言うのに、その後は原始的な爆弾テロとライフル銃による狙撃などで犠牲者が増え続けるなどという醜態を演じてしまっては、全土をかつての硫黄島以上の地下要塞化していると言われている北朝鮮に攻め込む事など、さすがのブッシュ大統領も考えられないでしょうなあ。

■イラクが駄目なら北朝鮮だ!それは余りにも残酷な代償を必要とする「恥の上塗り」ですからなあ。


中国外務省の姜瑜(きょうゆ)副報道局長は23日の定例会見で、北朝鮮の核問題を巡る6か国協議の調整でヒル米国務次官補が26日にも訪中することに関連し、「中国は米国を含む協議関係国とさらに意見交換する」と語り、6か国協議で北朝鮮代表を務める金桂寛(キム・ケグァン)外務次官がこれに合わせて訪中し、米朝協議が行われる可能性を示唆した。一方、22日訪中した金正日総書記側近の姜錫柱(カン・ソクチュ)北朝鮮第一外務次官は23日、北京空港から帰国した。(中国総局)
読売新聞 - 11月23日

■モスクワから北京に降り立った北朝鮮の外務次官が、ただの乗り継ぎだけで帰国したというのが本当なら、既にロシアと中国との間で次なる展開のシナリオが合意されていると考えざるを得ません。もう、ブッシュ大統領は、これ以上の失点を重ねたくない!という一念だけで引きつった笑顔を維持しているのですから、北朝鮮問題に関しては米国の方が「俎板の上の鯉」にされつつあるようです。下手をすれば、クリントン政権よりも大きな譲歩をしなければならなく可能性さえ出て来そうな気配です。誰か外務省のエライ人が、ブッシュ大統領に「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」という諺を教えて上げねばなりませんぞ!今にして思えば、イラク攻撃に参加する時、交換条件として北朝鮮に対する共同外交戦略をしっかりと練ってブッシュ大統領と「約束」をしておくべきでしたなあ。

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続・北の原爆50年史 其の四拾七

2006-12-01 07:50:34 | 歴史

ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は9日、北朝鮮の核実験実施を受けた国連安保理の制裁決議に基づき、同国に対する自動車販売を中止したことを明らかにした。同社によると、北朝鮮に対しては2004~06年に、約500台の自動車を販売した。取引は北朝鮮の企業との間で行われ、すべて現金決済だったという。 
時事通信 - 11月10日

■金正日将軍様の御用達はベンツではないのか?と思った人も多いでしょうなあ。我らがワーゲンが禁輸してもそれほど困らないのではないでしょうか?それに3年間に「500台」などという規模なら、会社側も国際社会に同調している姿をタダで宣伝出来るのですから、こんな発表は幾らでもしたいところでしょうなあ。本当に北朝鮮を締め上げるには、中国と韓国の協力が欠かせないのですが……。


北朝鮮の朝鮮中央テレビは10日、米国の中間選挙結果で共和党が惨敗したとして、議席数などを挙げながら比較的詳しく報じた。また、ブッシュ米大統領がラムズフェルド国防長官を更迭した事実も伝えている。米上下両院で選挙結果が確定した日のうちに報道されたことは、選挙結果に対する北朝鮮の関心を表す。2002年の中間選挙で共和党が勝利した際には、選挙結果に直接には触れていない。
YONHAP NEWS - 11月11日

■一応、儒教の伝統が色濃く残る「礼儀の国」との自負があるようですから、敗北したブッシュ大統領を悪しざまに罵るのは慎んでいるようですが、将軍様が側近グループと祝杯を挙げている様子が目に浮かぶようですなあ。


米国議会を掌握した民主党が対北朝鮮政策を展開し北朝鮮と核交渉を行えば、実際に北朝鮮が核を放棄するのだろうか。民主党政権を率いたクリントン前大統領は8日、ブッシュ政権の対北政策を批判し、「北朝鮮との直接対話の窓口さえ開いておけば、北朝鮮の核問題は1年以内に解決可能だ」と主張した。同氏は北朝鮮が経済的保障さえ受けられれば核を放棄し、それでも北朝鮮がウソをつき通すのなら「それで終わり」と語った。これは民主党の考え方をそのまま反映したもので、金大中(キム・デジュン)前大統領の主張とも通じるものだ。

■これは韓国の新聞からの引用です。クリントン元大統領がこんな発言をしていたと日本のマスコミは報道しなかったのではないでしょうか?北朝鮮にウソをつかれた御本人が言っているのですから、最後の対話を仕掛けるべきだという提案は本気でしょう。しかし、やはり騙された張本人ですから、直接対話を始めれば「1年で」問題が解決するというのはウソでしょうなあ。間も無く、奥さんが本気で次期大統領を狙うようになったら、ダメ亭主の口を塞いでしまうでしょう。別に殺害するという意味ではありませんので、念のため。


韓半島(朝鮮半島)での第1次核危機は、クリントン氏が大統領在任中の1993年3月、北朝鮮による核拡散禁止条約(NPT)脱退にさかのぼる。米国と北朝鮮は直接の交渉を行い、翌年10月にジュネーブ合意を引き出した。ところが北朝鮮は実際には核開発を続けていた。99年にはペリー元国防長官が北朝鮮を訪問し、「ペリー報告書」を議会に提出。2000年には北朝鮮の趙明祿(チョ・ミョンロク)特使とオルブライト国務長官の相互訪問も行われた。ジュネーブ合意当時、米国側代表だったジョージタウン大学のガルーチ学長は、10月の北朝鮮による核実験直後に行われた朝鮮日報とのインタビューで、「北朝鮮は米国をあざむいた。パキスタンの援助でウラン濃縮まで行った」と語った。つまり北朝鮮と対話をすれば核問題は1年以内に解決可能というクリントン氏の発言は現実的ではないということだ。

■こうして元側近だった人にもバカにされているくらいですから、ブッシュ大統領でも選挙に勝てた理由が良く分かります。米国は貴重な時間を無駄にしたのですなあ。クリントン時代は、もっぱら日米間の経済問題ばかりに熱心でした。ユーゴ問題もアフリカの地域紛争も、クリントン時代にぐしゃぐしゃになってしまいましたが、ブッシュ大統領はもっと大きく米国の世界戦略を傷付けてしまいました。そんな米国に必死で付いて行った日本はどうなるのでしょう?


……北朝鮮がクリントン前大統領の考え通りに、経済の活性化やエネルギー・食料の支援を受けられれば核兵器を放棄するのだろうか。これについては北朝鮮が核兵器を体制維持の道具として開発した点から、絶対に放棄しないだろうとの見方がある。京畿大の南柱洪(ナム・ジュホン)教授は「北朝鮮にとって改革開放は直ちに脆弱な首領体制の崩壊を意味することから核を選択した。まして現在の国際社会はジュネーブ合意のような核の凍結ではなく、解決を望んでいるため合意はより困難だ」と主張した。世宗研究所の宋大晟(ソン・デソン)首席研究員も「北朝鮮の大量破壊兵器開発は、金正日(キム・ジョンイル)体制の維持、韓国赤化、交渉力強化が目標だ。北朝鮮が核を放棄するのは理論的にはともかく、現実的にも不可能だ」と指摘した。

■当たり前の話ではありますが、韓国にも優れた研究者はちゃんと居るというわけです。しかし、今の大統領には充分すぎる任期が残っているのが頭の痛いところでしょうなあ。


一方、北朝鮮の核を交渉用と見て、核兵器を放棄しても北朝鮮の体制維持が可能との見方もある。慶南大のキム・グンシク教授は、「北朝鮮は米日との関係改善の過程で、外部からの莫大な資金が手に入れば、改革開放や(韓国での)朴大統領式経済開発が可能と判断している」との見方を示した。また東国大の高有煥(コ・ユファン)教授は、「このままでは北朝鮮は経済危機で内部崩壊するので、核放棄の条件として対米関係改善を要求してくる可能性がある」との分析を提示した。しかしながら高麗大の南成旭(ナム・ソンウク)教授は「米国が多くの譲歩をすれば可能だろうが、現実とは距離がある話だ」と主張した。
朝鮮日報 11月12日

■誰も「もう一度だけ騙される覚悟」で外交交渉をする事など有り得ません。少なくとも報道の自由が保証されているマスコミと、言論の自由が有る世論が存在している国では、そんな気紛れな王様みたいな事は不可能です。その道理が北朝鮮には分からないのでしょうなあ。

続・北の原爆50年史 其の四拾六

2006-12-01 07:50:04 | 歴史
■今のところ、主導権が中国に執られているとは言っても、イラクで手一杯だったブッシュ政権がそれを望んでいたのですから、特に失点とカウントされる謂われは有りません。そうなると、このままだらだらと残りの任期2年間はイラクの後始末に集中したいブッシュ大統領は、北朝鮮問題を塩漬けにしてしまう公算が高くなってしまいます。せっかく拉致問題で名を揚げた安倍さんが総理大臣になったのに、肝腎の米国が日和見になったら身動きが取れませんぞ。

……外交通商部のある関係者は「1990年代、北朝鮮の核施設に対する先制攻撃論を主張したのは民主党政権だ。民主党であれ共和党であれ、対北朝鮮政策の基本姿勢は変わらない」と指摘した。また別の関係者は「北朝鮮が6カ国協議に前向きな態度を見せない場合、民主党が共和党よりもさらに強硬姿勢に出てくる可能性もある」と分析した。
朝鮮日報 11月9日

■確かに、民主党の大統領が就任するような事になったら、「自分はクリントンとは違うぞ」とばかりに、勇み足のような強硬路線を打ち出すかも知れません。そんな事くらいは百も承知の北朝鮮は、ブッシュ大統領が自国を無視してしまわないように、しっかりと手を打っているようです。


北朝鮮・最高人民会議の崔泰福(チェ・テボク)議長が9日、平壌からイランに向け出発した。崔議長はイランで開催されるアジア国会平和連合の第7回総会に出席した後、イラン公式訪問日程に入る予定だ。北朝鮮とイランはともに、核開発問題をめぐり米国と対立しているため、崔議長の訪問中に両国で協調策が話し合われるかが注目される。イランのアフマディネジャド大統領は先月16日、北朝鮮制裁に関する国連安全保障理事会決議を拒否する意思を示し、米国を非難すると同時に北朝鮮支持を表明している。
YONHAP NEWS - 11月10日

■米国が6箇国協議で北朝鮮を包囲しようとして失敗しているのですから、それを更に遠巻きにして逆包囲してしまおうと言うのが北朝鮮の大戦略なのでしょうか?そう言えばマレーシアだのミャンマーだの、チャイナの南側に位置する国々との関係を大急ぎで強化しているような動きも見せている北朝鮮ですから、インド洋を通り越して直接中東諸国と結び、米国を翻弄する一手なのかも知れませんなあ。イランと中国はとても仲が良いことで有名ですから、6箇国協議は中東と言う裏口から異分子を呼び込んで、地球を一周して米国を挟み撃ちするような異様な会議になってしまう可能性さえ有りますなあ。


7日夜にロシアを急きょ訪問した北朝鮮外務省の姜錫柱(カン・ソクジュ)第1次官が、中国・北京に向かわず、体の治療のため現在もモスクワに滞在していることが分かった。現地消息筋が9日に明らかにした。姜次官は、ロシアの大統領や閣僚らが治療を受ける、行政室の下で運営される病院で眼科疾患の手術を受けたとみられる。同病院にはエリツィン前大統領も心臓手術のため入院していた。

■経済制裁が強化されて医薬品さえも密輸しなければならない北朝鮮ですから、政府高官がロシアの病院に行くのは不思議ではありませんが、緊急性の無い病気の治療に行くには最も疑心暗鬼を呼び起こすタイミングを見計らったものです。たった一人の役人を飛行機に乗せて移動させるだけで世界のマスコミの目を奪ってしまうのですから、感心するばかりです。


別の消息筋も、モスクワ入りから2日間完全に消息を絶っている点を考え合わせると、姜次官は入院している可能性が高く、6カ国協議再開を控えた切迫した状況で留守にするほどならば健康状態が深刻なことを表すと話している。一方、ロシア当局は8日、姜次官のモスクワ訪問はプライベートなことで、ロシア側との会合などとは関係がないと説明している。
YONHAP NEWS - 11月10日

■北朝鮮と旧ソ連との関係も、決して常に公に進められたわけではなく、ロシアになってからもその流儀は変わっていないようです。海外渡航ばかりか、海外からの電波の受信さえも「プライベート」に許可されていないような国から、役人が「プライベート」な旅行をするはずが無いでしょうに!ロシアの誰かさんと直接会わねばならない用事が有ったに違い有りません!


李明博(イ・ミョンバク)前ソウル市長が10日、日本の安倍晋三首相と会談し、北朝鮮核問題や韓日交流・交流案などについて意見を交わした。同行したハンナラ党議員が伝えたところによると、李前市長は安倍首相に対し「北朝鮮の核放棄は韓国民の望み。6カ国協議がうまく運ぶよう国際協力に向け努力してほしい」と求めた。日本の核武装論議についても言及し「非核3原則に共感する」と述べたほか、韓国民が関心を持っている歴史、独島、靖国神社参拝という3つの問題について、未来志向的名解決に積極的に努めてほしいと呼びかけた。これに対し安倍首相は、日本は非核3原則を堅く守り核兵器拡散防止条約(NPT)にも加入していると強調し、決して核武装をせず、核保有論議が起きても結論を出すことは難しく実質的にはまったく問題がないと伝えた。

■何処の世界に隣国の核武装を要請したり喜んだりする政治家が居るのでしょう?第一、自国民の「65%」が核武装を望んでいる国が非核三原則に「共感」などするはずは有りますまい。それは「日本の」という前置きが有る話であって、自国が北朝鮮との統一によって自動的に核武装するのか、それが不可能となったらさっさと核開発に乗り出すのか、それこそ秘中の秘の「内政問題」なのですから、そんな時になって日本がじたばたしても、相手は聞く耳を持ってはくれません。本当に非核三原則に「共感」するのなら、日韓共同で非核運動を世界に広めましょう、と言うべきです。安倍総理の発言は真っ正直と言うべきか、思慮が欠けていると言うべきか、たとえ核武装する気が無くても、少しは言葉を濁したら如何でしょう?


また、韓国と日本は自由民主主義、市場経済、法治主義の基本概念を共有しており、協力強化の余地は多いと述べ、韓日間の経済関係が活発なように文化、政治交流の拡大も必要だとの見解を示した。安倍首相はまた、日本の韓流ブームについても触れ、映画やドラマなどの韓国文化はレベル・質ともに高く、今やブームを超え定着したと述べた。昭江夫人が間もなく映画観覧のため訪韓することや、読売ジャイアンツで活躍するイ・スンヨプ選手についても言及した。……YONHAP NEWS - 11月10日

■「ヨン様」ブームはとうの昔に去っておりますし、韓流ブームも間も無く跡形も無く消え去ると言われていますなあ。巨人軍で活躍しているイ選手にしても、来日する時に涙を流して国民に謝罪してから来たのでしたなあ。或るスポーツ関連メディアの話では、本当は米国の大リーグに行きたかったのに、韓国球界での成績はまったく評価されず、日本で実績を積まねばならなくなったから来日を決意したのだそうです。お陰さまでチームは最悪の成績でも、イ選手だけは評価をどんどん上げているので、米国に行かせたくない巨人軍としても弱みが有りますから莫大な年棒を約束してくれているそうです。イ選手は大喜びで日本に残留してくれたのを巨人ファンが余り感激していないのは、そんな裏事情を知っているからだそうですなあ。

■それにしましても、総理夫人が個人的に特定の国に好意を持っているなどと公言しても宜しいのでしょうか?映画『ローマの休日』でも観て、それなりの地位に有る人の受け答えを勉強した方が良いのではないでしょうか?小泉プレスリー首相の米国好きも異常でしたが、イタリアのオペラでバランスが取れていましたぞ。どうも心配な安倍総理夫妻の軽さであります。

続・北の原爆50年史 其の四拾伍

2006-11-29 19:49:15 | 歴史

反米主義者として知られるベネズエラのチャベス大統領は8日、ラムズフェルド米国防長官の更迭について「ブッシュ米大統領も辞任すべきだ」と述べた。AP通信などが伝えた。外国人記者団との会見でチャベス大統領は、米中間選挙での共和党の敗北について「イラク戦争などに反発した米国民の懲罰的な投票の結果だ」と評価したうえで、ラムズフェルド国防長官の更迭で「ブッシュ政権の崩壊が始まった」と指摘。「ブッシュ大統領も道徳的見地から辞任し、大統領選を前倒しすることが、米国だけでなく世界のためにもいい解決策だ」と語った。さらに「パパ(父親)ブッシュが息子の置かれた状況を見て苦しまないためにも(大統領辞任は)価値ある解決策になろう」と述べた。
毎日新聞 - 11月9日

■北朝鮮には石油は有りませんし、ロシア生まれの金正日将軍様は朝鮮語が得意でないので、ブッシュ大統領や米国に対する悪意に満ちた雑言を吐いたりもしませんから、減らず口を叩き続ける産油国のチャベス大統領を先に攻撃したい!というのが米国大統領の本音なのではないでしょうか?やること為すことが、悉(ことごと)く裏目に出ているブッシュ大統領に、今でも支持者が残っている事の方がニュースになりそうな風向きです。本当に良い時期に日本の総理大臣は任期を全うして身を引いたものです。英国の首相も間も無く任期が切れるので、いよいよブッシュ大統領には友達が居なくなってしまいます。寂しさに耐え切れずにヤケを起こさないことを祈るばかりです。


ブッシュ米大統領は8日午後、ホワイトハウスで記者会見し、ラムズフェルド国防長官(74)の辞任を発表した。イラク政策が争点となった中間選挙での共和党が敗北し、民主党からの批判が強まることを踏まえた事実上の更迭だ。後任にはブッシュ元大統領の政権で中央情報局(CIA)長官を務めたロバート・ゲーツ氏(63)が指名された。ブッシュ大統領は、選挙戦の争点だったイラク政策について「素早く、うまくいってはいない」と認めた。イラクを含むテロとの戦いで、米軍最高指揮官としての職責を果たすため、国防総省の首脳人事を決断したと語った。

■米軍の最高指揮官が10歳若返ったというわけですが、それでもパパ・ブッシュ政権でCIA長官を務めたと言うのですから、息子はなかなか自立できないようですなあ。ちょっと調べてみましたら、ジョージ・H・W・ブッシュが長官を務めていたのは 1976年1月30日から翌年の1977年1月20日です。これはニクソン政権が電撃的な米中国交正常化を行った後の大切な外交的な土台作りをしていた時期に当たります。今でも中国利権にはブッシュ一族が深く食い込んでいるという話は有名ですからなあ。勿論、キッシンジャーさんなども……。それから、次に長官をやったのが退役海軍大将のスタンズフィールド・ターナーさんで1977年3月9日から1981年1月20日のカーター政権末期で、イラン革命が起こってテヘランの米国大使館で人質事件が起こりました。

■次がレーガン大統領時代、つまりパパ・ブッシュが副大統領になっていた時期で、ウィリアム・J・ケーシーさんが長官になって1981年1月28日から1987年1月29日まで務めました。その次のウィリアム・H・ウェブスター長官を挟んで、パパ・ブッシュ大統領が当選してロバート・M・ゲイツがCIA長官になったという順番です。任期は1991年11月6日から1993年1月20日で、彼は米国で最も早く北朝鮮の核開発に警鐘を鳴らした人物としても有名だそうですなあ。


イラク政策で批判の高まるラムズフェルド氏について、大統領は今月1日、ロイター通信などに対し、政権2期目が終わる2009年1月まで留任させると語っていた。この報道を受け、民主党からは同氏への更迭要求がさらに強まっていた。……大統領は選挙戦終盤の5日にテキサス州でゲーツ氏と会談。さらに7日にラムズフェルド氏と会い、今回の人事で合意していた。大統領執務室での指名会見で、ゲーツ氏はテロとの戦いで米国の安全を確保する使命を強調し、「公務復帰に関する大統領の要請受諾をためらわなかった」と語った。ラムズフェルド氏はフォード政権で国防長官を経験し、現政権の発足で再び同じポストに就いていた。ゲーツ氏はCIA要員として情報畑を歩み、現大統領の父の政権で1991年から93年までCIA長官を務めた。
産経新聞 - 11月9日

■クリントン政権は諜報活動に不熱心で、CIAの予算を大幅に削減したために組織はがたがたになってしまったと言われているので、ゲイツさんが再帰することで組織が復活するかも知れません。しかし、一度途切れてしまったら、なかなか復元させられないのが諜報組織の仕事ですから、ブッシュ政権の置き土産としてCIA予算の大幅な増額を続けてあげる心算なのかも知れませんが、それが北朝鮮に対する情報収集能力の向上に繋がるかどうか、時間切れになる可能性の方が高いような気がしますが……。


北朝鮮も米国の中間選挙の結果に注目しているというのが、大方の専門家らの見方だ。北朝鮮の核実験の時期も、中間選挙に合わせたという見方すら出ている。米国の野党民主党内で、米朝対話を求める声が少なくないことから、北朝鮮は民主党の勝利を内心喜んでいるのではないかといわれている。2008年の米国大統領選で民主党の大統領が誕生することが期待できるとみて、6カ国協議に形式的な参加をしながら2年間我慢する戦略に出てくる可能性もある。しかし、韓国の外交通商部関係者は「民主党も一部の人が北朝鮮との直接対話を強調しているにすぎず、民主党が北朝鮮に対して融和的な政策を展開するだろうと考えるのは錯覚だ」と指摘した。

■ブッシュ大統領にしてみれば、共和党候補から応援演説を拒否されていたくらいですから、自分の評判が地に落ちている事くらいは重々承知しているでしょう。もう次の大統領は民主党と決まっているようなマスコミの論調に辟易しながらも、「泣いて馬謖」を切る気分であるにもかかわらず、精一杯の強がりを見せて微笑みながら国防長官を交代させたのでしょうなあ。実に情けくも見苦しい悪あがきとも思えますが、北朝鮮問題に限って言えば、KEDOで大恥を掻いたクリントン前大統領を見返すチャンスはまだ残っていますぞ。従って、新聞記事に有る通り、仮に次期政権が民主党に移ったとしても、急に対北朝鮮政策が「太陽政策」に転換するはずは有りますまい。

続・北の原爆50年史 其の四拾四

2006-11-28 14:02:52 | 歴史

米保守系ワシントン・タイムズ紙は3日、米国防総省が北朝鮮の核施設に対する具体的な攻撃計画の立案を加速させていると報じた。ブッシュ米政権は北朝鮮核問題の「平和的、外交的解決」を強調しているが、同省は「大統領から攻撃命令が下った場合に対応するための準備」としている。複数の国防当局者の話として伝えた。……計画策定は数カ月前から始まり、10月の核実験実施を受けて加速された。計画は複数あり、攻撃対象の一つは寧辺(ニョンビョン)の使用済み核燃料再処理施設。海軍の特殊部隊による破壊計画や巡航ミサイル「トマホーク」6基による爆撃などが想定されている。攻撃による放射性粒子の拡散を最小限に抑える観点から多面的に検討されているという。
毎日新聞 - 11月4日

■こういう報道が繰り返されるのは感心しません。予防的な先制攻撃を本気で考えているのなら、てきぱきと準備態勢に入ってイラクで実行したように、自分勝手なスケジュールを相手に押し付けて実行しなければ事態はどんどん悪化してしまいます。それ以上に拙いのは日本の煮え切らない外交姿勢です。金正日体制を崩壊に追い込む気が有るのか無いのか、国民にもマスコミにもさっぱり伝わって来ません。秋に枯葉が落ちるように、一種の自然現象として北朝鮮が崩壊するとでも考えているのでしょうか?アフガニスタンとイラクは遠い国でしたから、遅ればせながら「復興支援」でぎりぎりの調整をして参加できましたが、庭先で始まったら無様な足手まといになるか、下手をしたら米国の「抵抗勢力」になってしまう可能性さえ有ります。攻撃が始まるまでは消極的に賛成している振りをしておいて、いざ始まったら止め役になるなどと言う馬鹿げた役回りは最悪です。


朝鮮中央放送によると、北朝鮮の外務省スポークスマンは4日、6カ国協議の再開について「日本に6カ国協議に参加してくれと要請したことはない」とし、日本の協議参加は必要ないとする立場を表明した。ラヂオプレス(RP)が伝えた。同外務省スポークスマンは、「『核保有国という前提の下では、北朝鮮を6カ国協議に受け入れる考えはない』との立場で日本が身分不相応に行動している」と非難した。

■この報道を初めて耳にした時には、随分と唐突に身勝手な事を言う物だと感じたものですが、米国がたとえ苦し紛れであろうとも専制攻撃を臭わせた瞬間に見事に反応しているのが分かりますなあ。下駄の雪になって米国に最後まで付き随うのか?と日本政府に迫る意味と、その決意が固められない自らの苦しい立場を自覚させて政府を萎縮させてしまう策略だったとしたら、日本は完全に北朝鮮の制御下に押さえ込まれたことになります。


さらに、スポークスマンは「これまで、日本が参加することは気に入らなかったが、他の参加国との関係を考慮して適当に扱ってきた」とし、「日本では(新)政府が構成されたばかりで国内的にも忙しいことが多いのに、6カ国協議で様子をうかがったりせず、自らの家のことにでも神経を使う方がよかろう」と述べた。また、「日本が6カ国協議に参加しないならこの上なくよいことであり、参加人員が少なくなるのは協議の効率性を高める上でも決して悪くない」と強調した。
産経新聞 - 11月4日

■今から振り返って考えてみれば、悔しいけれど言われている通りでしたなあ。小泉政権時代の内政と外交の両方に残された後始末に追いまくられ、安倍新政権の売り物だった「教育再生」も馬鹿馬鹿しいヤラセ・スキャンダルと自殺騒動、そして高校生の未履修問題で身動きが取れず、郵政民営化選挙の後始末も地方自治体の談合スキャンダルまで噴き出して、若い新総理はおろおろしているだけです。とても拉致問題の全面解決などに取り組んでいる余裕は無く、北朝鮮の核武装に対抗する「当然の対応」を臭わせることさえ出来ません。これでは米国は日本国内の基地を拠点とする攻撃モードには入れませんなあ。


米国の朝鮮半島専門家4人が、北朝鮮の核実験後初めて訪朝し、北朝鮮高官らと顔を合わせていたことが分かった。北朝鮮を訪れたのは、韓米経済研究所(KEI)のプリチャード所長、スタンフォード大学のケイライン教授、ルイス教授、米国立核研究所のヘッカー元所長の4人で、先月31日から今月4日まで訪問していた。一行は、北朝鮮外務省や寧辺の核施設、主要経済機関の関係者らと会い、懸案について協議した。今回の訪朝は、これまで北朝鮮を14回訪れているルイス教授のあっせんで実現したもので、核実験前から予定されていたという。訪朝結果は15日にワシントンで開かれる記者会見で発表される予定だ。
YONHAP NEWS - 11月8日

■専制攻撃を予告するような動きをリークさせつつ、ちゃんと裏のパイプは通じているのが米朝関係です。イラクと北朝鮮とを一度に相手にしたら、イラン問題も連動して最悪の展開を見せるのは誰にでも予想できる事ですから、北朝鮮問題は中国に丸投げして自分の面子さえ保てるのなら、時間稼ぎをして政権が受けるダメージを少しでも減らそうと思っているのは明らかです。


米国の上下両院議員や州知事らを選ぶ中間選挙の投開票が7日、全米各地で行われた。議会少数派の民主党がイラク戦争への国民の不満などを追い風に着実に議席を伸ばし、米主要メディアは民主党が下院で12年ぶりに過半数を獲得する見通しだと伝えた。……上院(定数100)の33議席、下院の全435議席が改選され、36州で知事選が実施された。CNNテレビによると、午後11時すぎ……獲得議席数は、上院(非改選も含む)が共和党46、民主党(民主党系無所属2を含む)48。下院が共和党137、民主党165。……知事選でも、民主党候補は共和党が維持していたマサチューセッツ州やニューヨーク州など4州での勝利が確実となった。カリフォルニア州のシュワルツェネッガー知事(共和)も再選を確実にした。選挙結果は、イラク問題をはじめブッシュ政権の今後2年間の外交や国内政策にも大きな影響を与えることになりそうだ。米メディアは、投票率は高いと予想している。
産経新聞 - 11月8日

■随分と昔の話のような印象が有りますが、今月の話なのですなあ。内戦と選挙は同じガス抜き効果が有るというお国柄ですから、選挙結果が分かると別の国にでもなったのか?と思えるような大きな変化が起こります。北朝鮮問題よりも、「イラク撤退」へとブッシュ政権は大きく傾いて行くことに世界中が驚きつつ注目しています。その視線を嫌と言うほど全身で感じているブッシュ大統領は、残りの2年間で北朝鮮などに関わってはいられない!と思っているのではないでしょうか?

続・北の原爆50年史 其の四拾参

2006-11-28 00:44:22 | 歴史

韓国政府は、北朝鮮が自国核問題をめぐる6カ国協議への復帰を表明したことを受け、中断している北朝鮮向け食料・肥料支援の再開を検討している。李鍾ソク(イ・ジョンソク)・統一相が1日、KBSラジオに語った。韓国は、北朝鮮への主要な食糧提供国だが、7月の北朝鮮によるミサイル発射を受けて定期的な出荷を停止。北朝鮮が6カ国協議に復帰すれば支援を再開する可能性があるとしていた。李統一相は「北朝鮮へのコメ・肥料支援は純粋に人道的な問題であり、平和への深刻な脅威があるとはいえ、率直に言えば、われわれにとっては中断することは難しい選択だった」と述べた。……
ロイター - 11月1日

■先行きにはまったく責任が持てなくても、協議再開というだけで援助を直ぐに再開したい韓国の立場も分かりますが、これでは米国を怒らせるだけの効果しか生みますまいなあ。まだ開催日程も決まらない内から、食糧支援などという具体的な話を持ち出せば、他の国にも「何をくれるの?」と北朝鮮が聞いて回るでしょうに!


中国は、北朝鮮への不正資金をめぐる問題で、不正の疑いのある資金の流れを取り締り、中国系金融機関への統制を強めていることを明らかにした。中国人民銀行(中央銀行)の監督当局者は1日、北京で記者会見し、北朝鮮が10月9日に核実験を実施したことに対する国連制裁の内容に基づき、中国は北朝鮮との不正な銀行取引を阻止するため他国と協力していると指摘。米国がマカオの銀行に対して金融制裁を行っていることについて触れ「中国は、マカオと同様の事態に陥ることがないよう、すべての中国系金融機関に対し、国際慣行、特に国連安全保障理事会の反資金洗浄に関する規定を順守するよう求めていく」と語った。 
ロイター - 11月2日

■飴を見せておいて、しっかり鞭も振るってみせる中国は恐るべき外交の巧手です。何処まで裏口座に手を突っ込むのかは不明ですが、公式にこういう発表をされれば北朝鮮側は震え上がるに違いない事を北京政府は知っているでしょう。「将軍様が見棄てられる」という噂が静かに広がれば、国内は不穏な空気に包まれるでしょうし、それを察知した将軍様周辺は外敵の影を強調して国内のを緊張させ、体制の引き締めに走るしか対処法は無い、となれば得意の「戦争準備!」の大号令が響き渡る、という段取りでしょう。


北朝鮮による6カ国協議への復帰表明を受け、米朝交渉の拒否で内外から批判を浴びてきた米政府は「(対北朝鮮)戦略の正しさが証明された」(スノー米大統領報道官)と攻勢に転じている。一方、米国では早くも中国が北朝鮮への圧力を弱めることへの懸念が出ており、ブッシュ大統領は1日、政府高官を東アジアに派遣すると表明、北朝鮮包囲網の維持に全力を挙げる構えだ。

■イラクでの失点を北朝鮮問題で挽回できるかも知れない、とブッシュ大統領は希望を持ったのでしょうが、毎日のように犠牲者が増え続けているイラクと、まったく先が見えない腹の探り合いが続いている北朝鮮問題とは似ても似つかない、何の関連も無い別件ですから、中間選挙前に民主党から失政!と罵られていたイラク戦争の失点を取り返すことなど最初から無理なのです。


ブッシュ大統領はロイター通信などと会見し、国務省(副長官不在)ナンバー2のバーンズ次官(政治担当)とジョゼフ次官(軍備管理担当)を近く関係国に派遣すると明かした。再開される6カ国協議への対応と国連制裁決議の履行で協議参加国(日韓中露)との連携強化を目指す。ブッシュ大統領は会見で「(北朝鮮は協議参加)5カ国の真剣さを理解しただろう。我々は制裁が効果的であるように協議していく」と語った。北朝鮮の周辺国を取り込んで03年にスタートさせた6カ国協議の枠組みが北朝鮮に圧力をかける上で効果を発揮したとの主張だ。

■神の御加護を本気で信じているとしか思えない能天気なブッシュ大統領の発言です。「協議参加国」の5カ国代表の中に、毎朝『聖書』を開いてお祈りを欠かさない信仰・習慣を持っている者は一人も居ない、という単純な事実さえも眼中には無いかのようです。


北朝鮮の核実験実施(10月9日)は米国の中間選挙運動の時期とも重なり、与党・共和党を含めブッシュ政権に米朝交渉を求める批判が一気に高まった。しかし、中国の前例のない強硬姿勢などを受け、北朝鮮が実験からわずか3週間で6カ国協議復帰を約束したことで米政府は逆に勢いづいた。スノー報道官は10月31日の記者会見で「ブッシュ大統領の戦略の正しさが証明された。2国間交渉を求める批判に対して、大統領は北朝鮮に最も影響力を持つ国々を結集する必要性を主張してきた。中国が協議復帰を説得した」と米外交戦略の正しさを主張した。

■金正日将軍様は、こうした報道を集めては大笑いしていたかも知れませんぞ。絵に描いたような「ぬか喜び」です。イラクの泥沼に片足を完全に取られている状態で、朝鮮半島にも残りの片足を踏み込むような最悪の選択をしないからと言って、ブッシュ戦略の失点を挽回する事など不可能だったのです。理由がどんなものだろうと戦争が始まれば熱狂し、膠着状態が続けばたちまち厭戦気分が満ちて行き政権与党が恨まれ無能呼ばわりされるのが2大政党制を持つ米国の特徴です。長い間、民主党が大戦争を始めて共和党が終戦工作をするように役割分担がはっきりしていたのですが、ブッシュ親子政権は共和党時代に戦争を始めるという歴史を画する決断をしたのでした。


一方で米国では依然、中国の対北朝鮮姿勢に懐疑的な見方が強いのも現実だ。ワシントン・ポスト紙は1日付の社説で「6カ国協議が続けば中国は、北朝鮮不安定化につながる措置(制裁)を求める米国や日本の圧力をそらすことができる」と不信感をあらわにした。米政府の主張は米外交戦略が中国の出方次第であることを改めて浮き彫りにした格好だ。
毎日新聞 - 11月2日

■米国には最後に切る「先制攻撃」という恐ろしいカードが有りますが、日本を含めて他の関係国にはこんなカードの持ち合わせも有りませんし、そんな物騒で忌まわしい物がテーブルの上に出されるのを見たくもない!と明言している国まで有ります。東アジアに災厄をもたらす米国と、平和の使者として戦争を避けようとしている中国という構図が鮮やかに浮かび上がるばかりです。どちらも似たようなものなのですが……。

続・北の原爆50年史 其の四拾弐

2006-11-28 00:43:47 | 歴史
■日本の国内政治がが保革対決どころではなく、与党自民党内がごたごたしている上に、野党第一党の民主党もばらばらで、政策論議の焦点も定まらず「教育問題」も「年金問題」もどんどん霞んで行くばかり。拉致問題はマスコミ先行で、米国で制作されたドキュメント映画を輸入して公開するという情けなさ、かと思えば総務省から短波放送で拉致問題を取り上げるように「命令」されてからのNHKは、急に小まめに拉致被害者家族の動向や17人目の被害者認定を丁寧に扱うようになった事で、逆にこれまでの冷淡さが際立ってしまいました。それに比べて、北京に集まっている日本以外の6箇国会議の主要メンバーは、どんどん話をまとめて進めているのは対照的ですなあ。

北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の米中朝3カ国の首席代表は31日、北京の釣魚台迎賓館で非公式協議を開き、3カ国は「都合がいい近い時期」に6カ国協議を再開することで合意した。同協議は北朝鮮が米国の金融制裁に反発して昨年11月以来、休会しており、北朝鮮の初の核実験後、初めての開催になる。北朝鮮は非公式協議で「6カ国復帰」に条件をつけず、米側も再開協議で金融制裁について「作業部会をつくる用意がある」と表明した。6カ国協議再開によって北朝鮮の再核実験は遠のいたと言える。ただ、6カ国協議再開後も金融制裁問題など米朝の対立で交渉は難航することが必至だ。

■先に発表された合意声明文書も議長国の中国が手練手管を使ってまとめ上げたものでしたが、今回の協議再開の合意に関しても「作業部会」という正体不明の別室を用意する事で、本会議の開催に持ち込んだようです。始めから対立が有るのは百も承知ですから、こうなったら6カ国協議を再会する事だけに意義が有る、と中国は腹を括ったと思われます。これも米国の中間選挙でのブッシュ共和党の惨敗を逸早く予測したからなのでしょうなあ。


中国外務省や、31日夜、北京の米国大使館で記者会見した米首席代表ヒル国務次官補によると、中国の武大偉外務次官を仲介役に、ヒル次官補と北朝鮮の金桂冠(キムゲグァン)外務次官は非公式協議で「6カ国協議の推進について、率直かつ、突っ込んだ話し合いを行った」という。協議は7時間に及び、中朝、米中、3カ国の協議がそれぞれ開かれ、その後、米朝間の「接触」もあったが、ヒル次官補は「交渉ではない。すべての交渉は6カ国協議の枠内で開かれる」と従来の姿勢を示した。また、ヒル次官補は「11月か、または12月に次回6カ国協議の開催を望む」と述べ、年内再開を要求。同日の協議で、北朝鮮が核廃棄を確約した昨9月の共同声明について、金次官が「順守する」と述べたことを明らかにした。

■国益がここまで縺(もつ)れて絡まり合ってしまうと、いつの間にか「取り合えず協議を再開しましょうか」という空気が醸し出されるのも不思議では有りません。そんな流れの中では、北朝鮮側としても中国が必死でまとめ上げた9月の共同声明を蹴飛ばすわけにも行かなくなったという話です。守ると言った約束を守った例(ためし)が無いのが問題なのですが……。

 
さらにヒル次官補は金次官に対し「米国は北朝鮮を核保有国として認めない」と明言。金次官は金融制裁問題を気にしていた様子だったという。ヒル次官補によると、先週末、中国側から米国の駐中国大使を通じ、ライス国務長官に非公式協議開催の打診があった。「なぜ北朝鮮が復帰を決めたかわからない」と述べる一方、「協議が再開されても、ゴールは遠い」と慎重な姿勢を崩さなかった。一方、ロイター通信によると、ワシントンの米当局者は同日、金融制裁を今後も継続する方針を示した。北朝鮮は制裁解除を6カ国復帰への条件とし、一方の米国は「無条件の協議復帰」を北朝鮮側に突きつけてきた。米国が31日、北朝鮮との「接触」に応じ、金融制裁についても作業部会設置を約束したことを北朝鮮側は「譲歩」と位置づけ、復帰に合意したようだ。……
毎日新聞 - 11月1日

■作業部会の詳しい内容を打ち合わせる前に、米国としては協議を再会して他の参加国を巻き込んで北朝鮮を締め上げるのが上策と踏んでいる節が有りますが、イラクやイランに対する取り組みに比べて北朝鮮問題に関しては、何処かおざなりな印象が拭えません。「核保有国とは認めない」「金融制裁は継続する」そんな話を北朝鮮が飲むはずが無いのですから、協議再開がもたつけば、更に危険なカードを切って来る危険が増すばかりです。

続・北の原爆50年史 其の四拾壱

2006-11-25 10:32:17 | 歴史
■2006年10月31日の夜、北朝鮮が「無条件」で6箇国協議に復帰!との大ニュース?が速報で流れました。中国が中朝・中米との調整に成功した形なのですが、米国による経済制裁と北朝鮮の核武装とのバーター取引は考えられませんから、核実験までの時間稼ぎに成功した北朝鮮と中間選挙対策に苦しんでいるブッシュ政権との力関係は、北朝鮮側が有利だと思われます。長年、北京とクレムリンを両天秤に掛けて生き延びて来た北朝鮮が、ソ連崩壊と東欧衛星国の消滅という驚天動地の大変化に対応する切り札として、今度は北京とワシントンを両天秤に掛けようとしていたと考えた方が、ちょっと乱暴ですがこの15年ほどの流れが読み解けるかも知れませんぞ。

来日中のリッポネン・フィンランド国会議長が30日、河野洋平衆院議長と国会内で会談した際、「(日本国内に)核保有についての議論があるようだ。どういう風に認識しておけばよいか」と懸念を表明……河野議長は「日本が核保有にかじをきることは現時点では考えられない」と応じたという。……
2006年11月1日 朝日新聞


■北朝鮮の核開発に実質的に協力させられたマヌケな役を演じた河野さんに、こんな質問をするフィンランドの議長さんも人が悪いですなあ。それにしても、その河野さんが「現時点では考えられない」などと少々言葉を選び過ぎの観のある言い回しをいたのは問題でしょう。親北京派・親平壌派の絶対平和主義者の河野さんは、北京と平壌が喧嘩を始めそうな気配に困り果てているのかも知れませんが、せっせと北朝鮮支援を続ける旗振り役をしていたのですから、核実験に関してもコメントを出す責任が有るはずです。カッコを付けるだけの平和外交が破れて恥をかかされたと腹を立てた河野さんは、羊の皮を脱ぎ捨てて狼の牙を剥くのでしょうか?「堪忍袋の緒が切れた。よくも俺の面子を潰したな!核には核だ!」と言い出したら怖いやら滑稽やら……。「現時点」がいつまでの続くのか、しっかりと見ておきましょう。


民主党の政権政策委員会(赤松広隆委員長)は31日、参院選のマニフェスト(政権公約)の土台になる基本政策の素案に、核廃絶の理念を新たに明記することを決めた。北朝鮮の核実験を機に自民党の中川昭一政調会長や麻生外相が核兵器保有の議論を認める発言を続けていることを強く批判する意味を込める。松本剛明政調会長は同日、記者団に「核は廃絶どころか拡散しているかもしれない。核廃絶はもともと民主党も言ってきたが、基本政策で取り上げる必要が出てきた」……2006年11月1日 朝日新聞

■おいおい、弁護士資格の悪用で離党したとは言え、核武装論者の西村真吾議員が在籍していたのが民主党でしょうに!自民党の中に核武装論が出て来たから「核廃絶だ」というのでは、単なる反自民のオマケみたいな印象が強まって、真剣に反核運動をしている人達からも見捨てられますぞ。民主党には北朝鮮に親近感をずっと持ってきた議員もいますし、拉致実行犯が韓国で逮捕されたのに特赦を求める署名運動に参加した元代表までいるのですから、「核廃絶」は悪い冗談としか思えませんなあ。こんな風にマニフェストを玩具にするから選挙に負けるのですぞ!松本せい著会長の「核は拡散しているかもしれない」という呑気な発言も問題です。この人は新聞を読んでいないのでしょう。核はしっかりと拡散して、隣から日本全土を射程内に収めていますぞ。

■そもそも、「核廃絶」と公約に書いて、一体、それをどうやって実現するつもりなのでしょう。空念仏や祈りや希望を書き並べるのは卒業文集であって、マニフェストではありません。バカの一つ覚えの「国連を中心として」の枕詞を添えれば格好が付くとでも思っていたら大間違いですぞ!


民主党は31日の役員会で、党所属の国会議員がテレビ番組に出演する時には事前に届け出るルールを徹底することを決めた。……鳩山由紀夫幹事長が「憲法問題などこれから出て来るが、国民から見てバラバラ感が漂っている」として、出演する場合は党の政策をよく理解して発言するよう徹底させる考えを示した。……
2006年11月1日 朝日新聞


嗚呼、これでは小学校の遠足で「持って来るお菓子は300円以内」と通知しているような幼稚さが「漂う」どころか爆発しています。党内に「核廃絶」から「核武装」まで取り込んでいる台所事情は分かりますが、「党の政策をよく理解」していない議員が存在していると幹事長自身が宣伝してどうするのでしょう?「核廃絶」に加えてますます民主党はバラバラ感を日本中に広く知らせて投票率をどんどん低下させ、妙に熱心に選挙活動をしている公明党が掻き集める票の価値を高めることになるのでしょうなあ。国民が民主党に求めているのは「政権交代」ではなくて「政界再編」なのですから、民主党はもっと鮮明にバラバラ感を打ち出して自民党内に分裂の機運を高めて欲しいものであります。

続・北の原爆50年史 其の四拾

2006-11-25 10:31:56 | 歴史
■話は現時点に跳びますが、米国は今月11月になって堪忍袋の緒が切れ始めているようです。

20日に行われた第38回韓米定例安保協議会(SCM)で、北朝鮮の核実験に関連し、米国が韓国の大量破壊兵器拡散安全保障イニシアチブ(PSI)正式参加を強く求めたことが分かった。ラムズフェルド国防長官はSCM後の記者会見で、「北朝鮮の核プログラムでPSIの重要性がさらに浮き彫りになったと述べ、「重要国としてPSIに参加することを希望する」と韓国側に要請したことを明らかにした。米国防部の高官関係者も、同日国防総省で記者らに対し「韓国は必ずPSI活動に参加するべきだと米国は繰り返し主張した」と説明した。また、韓米が採択した共同声明の第3項に「韓米国防長官は、国連安全保障理事会決議1718に対し、歓迎と支持を表明する」と明記されていることも注目される。北朝鮮の核実験に対する国連安保理決議案1718は、北朝鮮に対するPSI実行の明確な根拠となっているためだ。

■次期国連事務総長を出す韓国としては国際的な立場を考慮しなければなりませんし、貿易面の影響も計算しなければなりませんから、国連決議には従わざるを得ませんなあ。でも、対北朝鮮の融和政策は間違っていない!と言い張っている手前、露骨に北朝鮮を締め上げる動きに同調するのも面子が立たないのでしょう。でも、最後まで突っ張れるかどうか、可哀想ですが、無理でしょうなあ。


ラムズフェルド長官のPSI正式参加要求に先立ち、ライス国務長官も19日にソウルで行った韓米外相共同記者会見で、「PSIについてはアイデアがあり、韓国側と論議した内容がある」と述べ、韓国のPSI参加拡大を求めたことを示唆している。当初、PSI参加問題はSCMの公式議題には含まれていなかったが、「核問題に関する討議の過程で、米国が正式参加の希望を伝えてきた」と、国防部の権顔都(クォン・アンド)政策広報本部長が会見で明らかにしている。これに対し韓国側は、ただ「分かった」とのみ答えたという。

■和風?に表現すれば、「善処します」か「前向きに検討させていただきます」というところでしょうが、こんな返事で米国が満足するはずはありません。何せ、イエスかノーか、バッキューンという国柄ですからなあ。


(韓国)政府は昨年末、米国側が要請したPSI8項目のうち、
▼韓米軍事訓練に大量破壊兵器(WMD)遮断訓練を含む
▼PSI活動全般に対する会見聴取
▼域内遮断訓練の参観
▼域外遮断訓練の参観とオブザーバー水準の参加――を実施している。一方、北朝鮮に対する刺激を懸念し、PSIへの正式参加をはじめ、域内遮断訓練、域外遮断訓練時の物的支援には参加していない。YONHAP NEWS - 11月23日

■韓国が米国の軍事力を背にして身構えれば、北朝鮮は臨戦態勢に入ります。そうなれば、誰かさんが期待している「不測の事態」が起こって、イラクで失敗したハイテク電撃作戦をもう一度試すチャンスがやって来る?今度は徹底的な空爆で白旗を揚げさせ、後始末は「6箇国協議」に丸投げすれば良い、そんな乱暴な話も出て来る可能性は有りますぞ。勿論、後始末の先頭には「復興支援」で定評のある日本が御指名を受けるのは確実です。北朝鮮復興支援目的に限定した消費税の増税?


中国は北朝鮮に対し、先月原油をまったく輸出しなかったことが明らかになり、北朝鮮制裁措置との関連性が注目される。中国・海関総署(関税庁に相当)が30日に発表した統計によると、先月の原油輸出は前年同月比76.4%減の12万5184トンで、すべて米国に輸出された。北朝鮮への輸出がまったくなかったことが、ミサイル発射に対する報復措置の一環なのかについては不明。また、北朝鮮核実験後の中国の原油輸出統計はまだ発表されていない。北朝鮮は石油需要の約90%を、中国に依存しているとされている。9月末までの中国の対北朝鮮原油輸出量は36万9643トンで、前年同期に比べ6.8%減少した。
YONHAP NEWS - 10月30日

■04年の石油輸入に関する統計によりますと、米国が人口2億8千万人で6億4千万トンを輸入していて、これは狂気のダントツ!これで京都議定書に文句を言っているのですから困った物です。中国は人口13億人で1億6800万トンを輸入していますが、これから需要は鰻上りと見られているので、世界第2位の原油輸入国になるのは確実です。中東からアフリカへ必死の石油外交を展開しつつ、天然ガスも自国産に加えてロシアからの買い付け、そればかりか庭先の尖閣諸島周辺からも近所迷惑な採掘をしていますから、日本列島が酸性雨の名所になるのも時間の問題でしょうなあ。日本もオリンピック開催後に公害がピークになったのですから……。日本は1億3千万人で2億6千万トンというエネルギー効率では優等生です。韓国は4800万人で1億2千万トンを輸入していますから、北朝鮮の40万トン弱というのは、2千300万人という人口を考えても仰天するほど少ない量です。北朝鮮は一時は人口3千万!を突破したことが有りましたが、餓死と処刑と脱北で700万人も減っているのですなあ。これで核兵器だのミサイルだのと、物騒な事ばかりやっているのですから、ちょっと中国が意地悪したらコロリと体制は転覆するのは確実です。

続・北の原爆50年史 其の参拾九

2006-11-24 12:42:39 | 歴史
……スイス政府は今回の制裁で自国銀行に北朝鮮が保有したものと疑われてきた秘密口座部分は含めなかった。しかしアメリカ は何回もこれに対する調査を圧迫してきた。スチュアート・レビー米財務部テロ、金融犯罪担当次官は8月「北朝鮮がヨーロッパを含む全世界銀行に不法資金を隠しておいた可能性がある」と言った。「ヨーロッパ」を例に挙げたのは預金者情報を徹底的に保護してきたスイス銀行を狙ったものとみられる。

後継者とも言われる息子の留学先でもあるスイスですから、 銀行口座が無いとは誰も思わないでしょう。それに加えて、スイスのプライベート・バンクはあのヒトラーの圧力にも屈せずに預金を守り通した武勇伝も有るし、その裏側にはナチスに「処理」されたユダヤ系の人々が密かに残した遺産をちゃっかり取り込んだとも言われる強(したた)かな面も有る喰えない体質を持っていますからなあ。


クリストファー・ヒル国務省次官補も4月、ソウルのある講演で「金正日北朝鮮総書記のスイス秘密口座40億ドル保有説に対して調査するのか」という質問が出ると「ある国が核兵器を作るはずであり、ミサイルを持っていると宣言したらその国は資金の調査を受けることになるというのが筋だ」と答えた。スイス銀行に北朝鮮の秘密口座が実際にあったとすればスイス政府がアメリカの要請に協力する可能性も排除することができない。過去「ブラックマネー」の天国だったスイスは国際社会の圧力が激しくなり、最近、透明性を高めている。スイスの金融規制が強化されるとある日本メディアは「北朝鮮がスイス銀行秘密口座をルクセンブルクに移したという説がある」と報道した。
韓国中央日報 2006年10月27日

■大規模なマネー・ロンダリングが国際的な大問題になってから、どんなに有名な銀行でも怪しげな取引をしていれば白い目で見られるのが心配になります。マフィアやら麻薬王やら悪質な犯罪で稼いだ黒い預金が有るとか、限りなく黒に使い灰色の脱税した金が流れ込んでいるとか、悪い噂が囁かれ続けたスイスの銀行ですから、金正日将軍様の親族がスイスで暮らしていると大々的に報道されてしまっては、さすのスイスも身奇麗にして見せねばならないのでしょう。でも、万一の体制崩壊にでもなれば、大人しく亡命して貰うための保険と考えるのなら、何処かの怪しげな銀行に秘密口座を持っているのも大目に見なければならないかも知れません。


(韓国)政府は29日、バーレーン沖ペルシャ湾海域で30日から2日間行われる大量破壊兵器の拡散安全保障イニシアチブ(PSI)海上臨検訓練に、外交通商部、海岸警備隊などの関係者3人をオブザーバーとして派遣したと明らかにした。政府は昨年末に米国側が要請したPSI協力案8項目のうち、オブザーバー資格に該当する5項目で参加する方針を固めていた。政府当局者は、今回の派遣は5項目のうちの1つ「域外遮断訓練参観」の一環だと説明した。

■この時期にこの場所でPSIの訓練をするというのは、北朝鮮とイランとの連携を断つぞ!という意思表明でしょう。南シナ海あたりで北朝鮮船を追い回しているようですが、世界でも珍しい支援国のイランへの航路を断たれれば本当に困るでしょうなあ。


(韓国)政府は4~5月に豪州、トルコなどで行われてきたPSI訓練に3度、オブザーバーを派遣している。今回は、北朝鮮の核実験後初めて、核実験に対する国連安全保障理事会決議1718の採択後初めて行われるPSI訓練となる。米国が主管するこの訓練には、米国、豪州、バーレーン、フランス、イタリア、英国の6カ国が艦艇、航空機、特殊チームなど作戦部隊を派遣する。韓国と日本を含め25カ国が参加するが、中国は参加しない。
YONHAP NEWS - 10月30日

■韓国の政府内も、全部が全部、北朝鮮に乗っ取られているというわけではないでしょうから、外交の継続性を維持するためにも、こうした付き合いは大事なのでしょう。中国が参加しないのは、北朝鮮に対する気遣いと同時に、自国の海軍力の実力をじろじろ見られたくないからでしょうか?「なあんだ」などと言われたら、恥ずかしいですからなあ。韓国も「オブザーバー」などと言って他人事みたいな顔をして居られる立場ではありません。