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旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

聖なる日の2日後

2008-01-05 17:07:01 | 歴史
■とても小さなニュースですが、年末に報道されて気になって仕方が無い出来事がありました。世界中でキリスト教徒もそうでない人も、2000年余り前に生まれた大工さんの息子の誕生日をお祝いするクリスマス。本当は野蛮?だった欧州に布教していく中でケルト民族の土着宗教を取り込んで「冬至」の翌日に太陽の復活を祝う行事をパクったという説が有力なようですが、とにかく神様が世界を祝福しているんだ!という気分を味わう「メリー・クリスマス」であります。
 
■少なくとも農業を営む長い歴史を持っている所なら、エジプトだろうがメソポタミアだろうが、徐々に弱まる太陽の光が「復活」するのは来年の豊作を予感させてくれるのですから、何らかの宗教儀式を考案して祝ったもののようです。味も素っ気もない新暦の「ア・ハッピー・ニュー・イヤー」の御挨拶よりも、太陽の復活の方が人類の平和には相応しい祝い事のような気もしますなあ。イエスという人がいつ何処で生まれたのかはよく分からないようで、中にはその実在時代を疑う説まであるようですが、1000年以上も続けば多少の疑義も昇華されてしまうものです。

■『聖書』の記述を信じればイエスという人は今のパレツチナ、ベツレヘムという町で恐ろしい王様の魔手を逃れて生まれたという事になりまして、戦前はヨルダン王国、最近まではイスラエル共和国の領土でしたが、世界最大のキリスト教巡礼観光地であり続けました。旅限無がお邪魔したのは四半世紀も前のことですが、住人の圧倒的多数はイスラム教徒のパレスチナ人ですが、教会関係者と巡礼観光の外国人とは概ね良好な商売関係を結んでいたような印象が強かったのを覚えています。


AP通信によると、イエス・キリスト生誕地に建てられたとされるヨルダン川西岸ベツレヘムの聖誕教会で27日、ギリシャ正教会とアルメニア教会の司祭らが清掃中に乱闘となり、4人が顔などに軽傷を負った。聖誕教会は、ギリシャ正教会、アルメニア教会、カトリック教会の3者が共同で管理。この日、清掃中にギリシャ正教会の司祭らがアルメニア教会の管理区域に立ち入ったことをきっかけに、双方の計約80人が司祭服姿で取っ組み合いをしたり、ほうきを振り回す騒ぎになった。パレスチナの警察官が盾などを持って両者の間に割って入り、騒ぎを収めたという。

■話は実に他愛もないものですが、イエス様の誕生日から2日後に、「汝の敵を愛せよ」と諭したとされる神の子に仕えている司祭様たちが、不良の魔女みたいに箒を武器に大喧嘩!それを止めに入ったのがクリスマスとは(ほとんど)何の関係もないイスラム教徒のお廻りさんと言う図が、今の中東と世界の姿を陰画にして示しているようで、非常に面白いと思います。この大喧嘩を実際に見たキリスト教徒の巡礼者達は、一体、どんな感想を持ったのでしょうなあ。

■とかく宗教には熱狂が付き物で、そこに経済的かつ政治的な縄張り意識が混入して膨れ上がると、仏教のお坊さんであろうとヨガの行者であろうと、俗人と変わらないファイティング・スピリットを発揮するものです。かつては日本の叡山には元気な荒法師が居ましたし、チベットのお坊さんも時と場合によってはワイルドな行動に出るようですからなあ。イスラム原理主義の自爆テロばかりが注目される昨今の宗教問題ですが、基本的には同じ信仰を持っているはずの別派間の摩擦と憎悪には実に根深いものがあります。妙に信心深い米国の大統領は、神にアルコール中毒を直して頂いたとかで、かつてのウルバヌス教皇を真似て十字軍を結成して中東に殴りこんだようですが、米国内のキリスト教会もいろいろで、ブッシュ大統領の信仰心には同調できない向きも多いと聞きます。

■グローバル・アメリカン経済の博打に翻弄されてクタクタになった人の多くが宗教に心の安らぎと救いを求めたくなる傾向が、今年はいっそう強まりそうですが、もっとも聖なる場所とされる場所でも宗教者が子供みたいな大喧嘩をするものだという事実を知っておくのも悪くはないでしょう。記事に出ているギリシア正教会とアルメニア教会との関係は、東ローマ帝国の長い歴史をちょっとばかり読み齧っただけでも、あまり仲良くは出来ないのも分かりますが、その帰属問題が中東問題の核心とも言われるエルサレムも、東半分の旧市街は、ムスリム地区・キリスト教徒地区・ユダヤ教徒地区・アルメニア人地区に見事に四分割されていて、住人同士は気を使いながらも大喧嘩もせずに暮らしています。

■アルメニアは非常に古いキリスト教の伝統を持っていて、4世紀初頭には国教化されていたほどですから、聖地エルサレムでも自分達の存在を頑固に主張し続けていますなあ。イエス様は神そのもので人間ではない!という「単性説」を守り通しているそうですから、他の教派とは一線を画しておかないと大変な事になるのでしょう。451年に開催された「カルケドン会議」という宗教会議で、正教会側から異端として否定された歴史が有りますから、いざとなったら司祭様達が戦闘モードになってしまうのも、歴史の重みというものでしょう。異文化間の交流だとか、宗教の究極の目的は同じだとか、美しい言葉も聞かれる一方で、異教徒の目からすれば大した違いはないように思えても、当事者間では決定的な違いだ!という話は多くの宗教が抱え込んでいる問題です。

■欧米仕込のヒューマニズムや民主主義礼賛ばかりを推し進めると大変な事になるという、至極当たり前の事を思い知らされて21世紀が8年目に入ってしまいました。乱暴で単純なグローバリズムの時代を反省して、互いの違いをきめ細かく認識する時代になるべきだとベツレヘムの司祭様たちが身を以って教えて下さったのだとしたら、なかなか味わい深いお話ではありますなあ。

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金丸の亡霊 其の参

2007-12-18 23:36:33 | 歴史
「会談は円満だった。こっそり会った前回は険悪な雰囲気だったが」。外相は12日夕、外務省でシーファー駐日米大使との会談後、1度目の極秘会談で交渉が難航していた経緯を周辺に明かした。日米交渉が本格化したのは9月から。駐留米軍経費の負担率(02年)は、韓国40%や独32・6%に比べ、日本は74・5%と突出。財政制度等審議会は11月の来年度予算編成に関する建議の中で「駐留経費には非効率な支出が含まれ、放置しては国民の理解が得られない。人件費などの見直し、効率化は当然」と厳しく指摘した。米側が削減に強い難色を示す中で「これ以上のあつれきは得策ではない」(政府関係者)との判断が最終的に働いた。
毎日新聞 2007年12月13日

■予算を出した時に、きっちりと「終わり」に関して取り決めていないからこそ、こういう事になるのでしょう。「おもいやり」などという英訳困難な日本語を濫用する政治家を、当時のマスコミは「ドン」などとイタリア・マフィアの呼称を使って持ち上げていました。「角福戦争」という戦後世界のハルマゲドン級の内戦の後、巨大な真空状態が生まれた中で生来の丈夫な身体と強靭な神経だけで当選回数を重ねた山梨の老人が最も得意だったのが野党対策、つまりは飲ませて握らせる懐柔作戦だったそうですから、それと同じ発想で対米・対北朝鮮の外交を弄繰り回したらどうなるのか?この馬鹿馬鹿しくも巨大な疑問に正面から答える責務は小沢一郎さんにあると思いますなあ。

■旧田中派・竹下派・橋本派の流れを汲む今の津島派などには、こんなに大きな責任は負えないでしょう。とは言え、実に歴史は皮肉なもので、「戦後も含めた賠償」などという発狂したとしか思えない政治決断をしてしまった金丸さんの温情?と世界平和を願う浅はかな浪花節を嘲笑うかのように、佐川急便からの裏献金やら北朝鮮産らしい金の延べ棒やら、怪しげな「隠し財産」がバレてしまって金丸さんが政界を引退した直後から、北朝鮮による拉致犯罪が続々と明るみに出て来ましたなあ。

■目も眩むような「賠償金」を金丸さんが約束した頃、北朝鮮では拉致犯罪はきっちりと隠しておいて核爆弾と長距離ミサイルの開発は着々と進めていたのでした。防衛利権のドンなどと持ち上げられていた金丸さんは、極東の軍事バランスが大きく変化している事など、まったくご存じなかったのでした。下手をしたら原爆製造資金をたっぷりと日本政府が「献金」してしまったかも知れないのですから、危ない、危ない。今年の大河ドラマは武田信玄の軍師(実在は疑問)を主人公として『武田信玄』だったのも、何か皮肉なものを感じます。信玄と金丸さんはまったく似ていない!伝説の山本勘助ほどの策士でもない!でも、リニア新幹線をぐにゃりと北に曲げて山梨県を通すという暴論を通してしまったのですから、スプーン曲げのユリ・ゲラー(単なる手品師)みたいな超能力?はあったかも知れませんなあ。

■日中国交正常化を果たした田中角栄さんの後に続きたいと、猫も杓子も身の程も知らない政治家があれこれと危ない火遊びを続けていますが、最も北朝鮮の奥深くに「取り込まれた」のが金丸さんです。テポドンが日本列島を越えて太平洋に着水する頃には鬼籍に入っていたのは政治家としては幸運だったかも知れません。時代は「しらね」を主力艦の座から降ろしてイージス艦へと戦術が変わりました。その仮想敵国は、何と金丸さんが涙まで流して「愛した」あの国なのですから、実に皮肉な話です。


米ハワイ・カウアイ島の米軍施設から、発射された標的用の中距離弾道ミサイルの模擬弾を……海上自衛隊のイージス艦「こんごう」に搭載された海上配備型迎撃ミサイル(SM3)の発射実験が17日午後(日本時間18日午前)、米ハワイ・カウアイ島沖で行われ、模擬ミサイルの迎撃に成功した。米国防総省ミサイル防衛局と防衛省が同日、発表した。これまで標的ミサイルの追跡はあるが、撃ち落としたのは初めて。米国以外による初の実験成功となった。……カウアイ島にある米軍施設から中距離弾道ミサイルの模擬弾1発が発射された。海上で待機していた「こんごう」の高性能レーダーがこれを探知し、SM3を1発発射。高度100キロ以上の大気圏外で、模擬弾を撃ち落とすことに成功した。……昨年7月に北朝鮮が弾道ミサイル実験を行ったことを受けて、日本政府はSM3とPAC3の配備前倒しを決めた。海上自衛隊は2010年度末までに、「こんごう」のほかイージス艦3隻にSMQ3を搭載する計画を進めている。……米国としては今回の成功を機に、他の同盟国ともミサイル防衛を推進していきたい考えだ。
2007年12月18日 産経ニュース

■草場の陰で金丸さんはこの大ニュースをどう聞くのでしょうか?既に「しらね」は主力艦ではありませんし、現役バリバリの頃であっても金丸さんに弾頭ミサイル迎撃システムの構造を理解させる事は不可能だったかも?妙に武器に詳しい石破防衛大臣なら大丈夫か?と考えると、まったく別の意味で心配にもなります。でも、一番心配なのは福田首相のピンボケぶりでしょうなあ。早めに群馬県知事にでも勇退なさってくれると国民としては有り難いのですが……。金丸さんも当時の山梨県知事にでもなっていたら、歴史に刻まれるようなトンデモ話の張本人にはならずに済んだのですから。

■思いの外、次の総選挙が近いという噂が流れているので、こんな妄想めいた因縁話を考えたのでした。

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金丸の亡霊 其の弐

2007-12-18 23:09:16 | 歴史
■金丸さんが日本の防衛政策の歴史に残した業績は「しらね」建造よりも、駐留米軍に対する「思いやり予算」の方が大きな意味を持っています。

来年3月末で期限切れを迎える在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)に関する特別協定改定問題で、高村正彦外相とシーファー駐日米国大使は12日、基地で使う電気、水道などの光熱水費(253億円)を、08年度から今後3年間で約8億円削減することで実質合意した。08年度以降の新協定の延長幅は3年とする。特別協定交渉での経費削減は01年度の光熱水費33億円削減以来。日本側は基地内外で米軍が使う光熱水費について「他国ではほとんど負担する例はない」として大幅削減を要請。合わせて基地に勤める日本人従業員の労務費の削減を求めた。しかし、米側は「アフガニスタンなどへの部隊派遣で米軍の負担が増えている」と削減に反対した。

■駐留米軍のアメニティ分野は世界随一だというのは有名な話で、安月給でこき使われる下っ端は別として、士官以上の軍人は光熱費使い放題の豪華な宿舎を与えられているのは衆知の事実で、それ以外にも毎年ドンブリ勘定で計上されている「おもいやり予算」の使途に関して日本側があれこれと調査する権利は無いのですから、この30年間、守屋スキャンダルで少しばかり光が当てられた防衛省予算の無駄遣いが、在日米軍側に渡されたら最後、日本の役所と同じ様に「絶対に余らせない」遣い方をし続けたのは誰にでも分かる話です。

■「番犬理論」という解釈もあるのですが、費用対効果を真剣に検証した政治家は一人もいないのも事実です。「怖くて手が出せない」というのが正直なところでしょう。景気好く支払い続けた時期に、日本国の借金が1000兆円を目指して膨らみ続けていたのです。


協議の結果、08年度は今年度水準(全体で1409億円)を維持。09、10両年度については労務費と訓練移転費は現状維持する一方で、光熱水費の1.5%の約4億円を削ることで決着した。駐留経費の効果的運用に向けて「包括的な見直し」を進めることでも一致した。合意後、高村外相は「(削減額が小幅でも)全体的にはそれなりに満足いく結果だ」と記者団に語った。

■「1400億円」に比べて「4億円」がどれほど小額なのかは誰にでも分かることです。バブル時代ならともかく、「失われた10年」を挟んでも減額されずに支払われ続けた「おもいやり予算」は、日本の防衛予算の一部だった事を忘れたはいけません。今のブッシュ政権が発足した頃には、極東地域の防衛仕事は日本に任せようとする政策が選択されていました。その一方で、既得権益となっている「おもいやり予算」は絶対に削らせない!パパ・ブッシュ大統領が仕掛けた中途半端な湾岸戦争の時に、莫大な「軍事費」を日本政府が遅蒔きなが提供した時でも、この予算には誰も手を付けませんでした。


【ことば】思いやり予算
在日米軍駐留経費の日本側負担。日米地位協定で義務づけられる土地の借地料などとは別に、78年度から従業員労務費の一部や米軍家族住宅建設費の負担を開始。さらに87年度からは特別協定を結び、光熱費や訓練移転費も負担するようになった。78年、当時の金丸信防衛庁長官が「在日米軍に思いやりの気持ちを持とう」と支出したのが始まり。
12月12日 毎日新聞

■何でもかんでも「浪花節」にして丸く収める男・金丸は田中角栄の手下になり、後に竹下派の旗揚げでも大活躍、何よりも社会党に騙されて北朝鮮に拉致?ではなく「招かれて」平壌に引っ張り出されて歴史に残るトンデモ決断・発言をしたのは有名な話です。対北朝鮮の姿勢から類推すれば、対米「おもいやり予算」も相当なピンボケ決断だった可能性は高いわけです。何かと偉そうな事を「遠吠え」している小沢一郎さんに、金丸さんの業績について語らせる力量を持つ政治記者が居ないのが残念ですなあ。


在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)を巡る日米交渉は労務費削減が見送られ、財政難を背景に大幅圧縮を目指した日本が米国に譲歩した形で決着した。テロ対策特別措置法の期限切れで、インド洋での海上自衛隊の給油活動が中断する中、米側がアフガニスタンなどの戦費負担を理由に現状維持を要求。高村正彦外相が「懸案を片付けないと、蟻(あり)の穴から崩れてしまう」と語るなど、対米配慮を優先した。

■悪名高い「赤字国債」でも、「道路特定財源」でも、はたまたグリーンピア建設用の年金積立金でも、一度新しい使い道を決めたら絶対に停止は出来ません。戦前の軍拡を民主的に選挙された政治家達が止められなかったのですから、軍隊をスクラップした戦後も予算の暴走は変わりません。金丸さんが「おもいやり」などという小学生向きの政治用語で国民を懐柔した時に、終わらせ方を御本人も圧倒多数の自民党議員も、誰一人として考えていなかったはずです。「時限立法」などという便利な役人用語がありますが、一度付いた予算は「時限」が来たら名目を変えて存続するのです。それを止めるのが政治家の仕事なのですが……。

金丸の亡霊 其の壱

2007-12-18 23:08:40 | 歴史
■長崎県の佐世保では散弾銃の乱射事件が起きました。その翌日、横須賀では火災が起きていました。燃えたのは一隻の護衛艦なのですが、佐世保の事件があまりにも凄惨だったので、耳目がすっかりそちらに集まっています。そして、年金問題に関する失言が重なって福田内閣の支持率が急落!というので、政局が大好きなマスコミ各社はそちらの方を取り上げてもいますなあ。防衛省スキャンダルも欲深な馬鹿夫婦の話に押し込められようとしているのも非常に気になる所です。
 
■まともな議論もないまま、何となく「消費税」へとだらだらと世論を誘導しようとしている大勢の人達の策謀も気になるところです。幸い大きな火災にはならなかった横須賀の火事から、今の日本が抱えている(隠している)問題を考える「因果」話を考えます。


14日午後10時20分ごろ、神奈川県横須賀市西逸見町1の横須賀基地吉倉岸壁に停泊中の海上自衛隊第1護衛隊群(神奈川県横須賀市)の護衛艦「しらね」(5200トン)から出火した。県警横須賀署によると、2人がけがを負い、市内の病院に搬送された。……出火場所は指揮所や操舵室のある艦の中枢部。2人のうち1人は一酸化炭素中毒という。

■火災対策と浸水対策には万全を期しているはずの「軍艦」が、突如として火の手を上げましたのですから、実に不思議な話です。戦時中、戦艦長門の姉妹艦として建造された戦艦陸奥が、進水式の真っ最中に爆沈!するという奇怪な事件が起こったことがあります。新兵イジメが酷過ぎて、耐え切れなくなった一部の水兵が主砲を暴発させて沈めてしまった可能性があるとか……。まさか、防衛省の背広組に対する鬱憤晴らしに、いろいろと噂のあった「しらね」に放火した者がいても、それほど不思議ではない時期でもあります。


15日午前1時現在、船体からは高さ20メートルほどの白い煙が出ており、基地外にまで焦げ臭いにおいが漂った。基地には呼び出された隊員が次々と集まった。しらねは1980年に竣工したヘリコプター搭載護衛艦。全長約150メートル。横須賀の護衛艦隊第1護衛隊群の旗艦で、観艦式の際、首相が乗り込む観閲艦として使用されたこともある。
毎日新聞 2007年12月15日

■「しらね」が最新鋭艦として進水した時の防衛庁長官は細田吉蔵さんか大村襄治さんのどちらかですが、進水式には1977年11月28日から1978年12月6日まで長官を務めた金丸信さんが参列していた事の方が大きく報じられたはずです。「しらね」の産みの親、何よりも名付け親なのですから、晴れの日に何を措いても出席するのは当然のことです。「しらね」は山の名前だろう、と誰でも推測できますが、日本に白根山は幾つもあるのです。有名なのは群馬県の草津近くの白根山、そして日光の奥白根山でしょうか?でも、この「しらね」の由来は金丸さんの選挙区にある、地元の人以外は誰も知らない?ような地味な山の名前だそうです。合併で誕生した「南アルプス市」にある山です。その名の通り南アルプスに含まれる標高3000メートルを越える山ではありますが、長い山脈を構成するパーツです。

■金丸氏の地元では、「さすがは金丸先生!」と支援者の中から感動の声が上がったとか……。対米太平洋戦争の歴史に詳しい方も、「しらね」という艦名を聞いて首をかしげた向きもあったはずです。進水当時は海上自衛隊の最強最新鋭の艦でしたからなあ。巡洋艦どころか駆逐艦の名前にもなった歴史のない名前が飛び出して来たのは実に不自然なことだったようです。それが、防衛庁が省に昇格して大スキャンダルが噴き出している最中に火災!勿論、金丸さんが溺愛して育てたのが小沢一郎さんです。


防衛省海上幕僚監部によると、海自の艦艇は航海中の火災に備え、乗員が自力で消火する訓練を受けており、海水を使った消火栓が艦内に多数設置されている。また今回、しらねは停泊中で、近くの艦艇が消火銃で放水するなど消火活動を援護、体制は整っていた。しかし、火元となったとみられるCICは、第1護衛隊群の旗艦であるしらねの運用システムの中枢部。CICは、全面禁煙で、火災時にも、放水による消火は避け、電子機器用の特殊な消火器が配置されているほか、初期消火で火勢が収まらない場合、区画を区切って、室内を酸欠状態にして鎮火する手法も取られるという。このため、消火活動が思うようにはかどらなかった可能性がある。
毎日新聞 2007年12月15日

■水をかけずに猛毒のハロゲン・ガスを放出する仕掛けになっていると思われますから、戦場でもないのに「殺人ガス」を使うわけには行かなかったのでしょう。それほど軍事関係には有事と平時との違いがはっきりしているという事です。でも、日本の護衛艦が「火災に弱い」などという不埒な噂が世界に広がるのは感心しませんぞ!旧日本海軍が開発した零式戦闘機や一式陸攻など、防弾・防火設備を投げ捨てたのは有名な話ですから、戦後の兵器も同じ人命軽視の思想で作られていると思われるのは困ります。

五輪前の大誤報?

2007-12-17 18:36:55 | 歴史
■北京五輪の開催が近づくと日本の石原東京都都知事が第2回東京五輪を開催するぞ!と言い出して、とうとう地方交付金の分担拠出金を上乗せする代わりに、政府も大会招致に本腰を入れて協力することを確約させたようです。開催準備にてんてこ舞いの北京では「21世紀のアジアの盟主」になるつもりですから、周辺諸国は大昔の朝貢時代と同じく足元に平伏すのが「礼儀」だと思っているのかも知りません。「歴史的に」小国と見下している相手に咬みつかれたりすると逆上するのも当然かも?前に取り上げた「漢字の本家争い」は新たな展開を見せてまだまだ尾を引きそうな気配です。

2007年12月12日、韓国の連合ニュース社は「韓国が漢字韓国起源説を主張、世界遺産に申請」との中国メディアの報道を誤報だと発表した。中国新聞社が伝えた。12日、新快報は連載「文化をめぐる中韓の戦い」を開始、韓国の歴史学者が漢字の朝鮮半島起源説を唱え、世界遺産に申請する動きがあると報じた。このニュースは各メディア・ニュース掲示板で大きな反響を呼び、韓国による“文化略奪”だとして感情的な反応が目立った。……

■「誤報」と聞きますと、教科書問題の火種となった「侵略・進出」問題を思い出しますなあ。産経新聞論説委員の石川水穂さんが教科書問題の発端「世紀の大誤報」の真実 と題して詳細な検証作業を行っているので抜粋しましょう。

■事件が起こったのは昭和57(1982)年の6月26日でしたが、この事件は何故か「26日」を節目にして展開したのでした。6月26日にマスコミ各社が「大誤報」を流し、7月26日に北京政府が抗議して、宮沢喜一官房長官が悪名高い『談話』を発表したのが8月26日だったそうで、9月26日に鈴木善幸首相が訪中に出発するという流れでした。鈴木首相・宮澤官房長官時代というのは、日本の外交史の中でも屈指の問題が多い時期として有名です。

■「大誤報」の10日前の6月16日に、記者クラブに加盟する全国紙・テレビ・通信社など16社が検定が終わった教科書、その数593点の訂正変更箇所を調べたのだそうです。数が多いですから皆で仲良く分担しての作業だったのですが……


六日後の六月二十二日、各社が取材結果を持ち寄った。そこで、実教出版の「世界史」を担当した日本テレビの記者は「『日本軍が華北に侵略すると…』という記述が、検定で『日本軍が華北に進出すると…』に変わった」と報告した。これをもとに、各社が「侵略→進出」と一斉に報道……

■日本テレビの担当者が何を勘違いしたのかは知りませんが、誰も「実物」を検証しようともせずに、一斉に「大誤報」を流すのは何とも恐ろしい話です。まるで謎の「友達の友達」から生まれる都市伝説みたいですなあ。都市伝説なら笑って済ませしますが、これが外交問題に発展したのですから驚きです。「大誤報」から約1箇月後、7月23日に文部省の予算に関する定例の文部省と日教組のトップ会談が開かれたそうで、そこで日教組の槙枝元文委員長が「教科書検定問題」を取り上げて当時は当たり前だった反体制的な発言の飾りにしたようです。相手になった小川平二文相が「内政干渉だ!」と言った言わないの水掛け論が始まって、尻馬に乗ってやっぱり教科書の「実物」を検証しないまま報道が過熱し、とうとう首相の訪中前に中国大使館が動き出すという大騒ぎになったのでした。その後の宮澤官房長官の政治判断などについては石川氏のサイトでご確認下さい。ああ、馬鹿馬鹿しい。そして恐ろしい!


新快報は去年10月10日の朝鮮日報が韓国ソウル大学の朴正秀教授の学説として漢字韓国起源説を紹介したと伝えたが、連合ニュース社によると、ソウル大学韓国史学部・東洋史学部の現職教授には朴正秀なる人物は在職しておらず、また漢字の世界遺産申請運動も行われていないという。同紙は、中国メディアが一切裏付け取材を行わないまま報道し、韓国が漢字文化を略奪しようとしていると誤報、両国国民の関係を傷つけたと非難している。

■日本の「教科書問題」は正に幽霊教科書が材料でしたが、今回は幽霊教授の出現です。この騒動の裏話も案外と面白いかも知れません。


ある韓国の歴史学者は、「韓国学界では、漢字は漢民族ではなく朝鮮半島の北、現在の中国東北部に住む民族が発明したとの学説が発表されたことがあるが、通説にはなっていない。中国メディアの誤報は両国の国民感情を傷つけるもの」とコメントしているという。12月14日 Record China

■漢字の元となったある種の文字が誕生した時期を確定するのも難しいのに、万里の長城も現われなていない記録が無い時代を議論しても仕方がないのですが……。それは神話や空想フィクションの材料でしょう。日本では産経新聞が記事を書いています。


中韓の間で文化の起源をめぐりホットな論争が起きている。「漢字」や「活字印刷技術」「中医(漢方)」の発明は「当然中国だ」「いや韓国だ」と熱が上がる。「端午の節句」「道教」「囲碁」の起源、「古代高句麗」の歴史、さらには「孔子の韓国人説」と争いのタネは尽きない。中韓両国間の“文化の闘い”は最近、韓国の歴史学者が漢字の朝鮮半島起源説を唱え、世界遺産に登録する動きをみせたことがきっかけ。これを中国メディアが報じたことなどでヒートアップした。中国のネット上で、韓国側を「文化略奪者」「恥知らず!」と非難するなど嫌韓感情丸出しの書き込みが目立った。

■北朝鮮の初代首領様は旧満州育ちで、二代目はロシア生まれという話もありますが、国境も無いような時代の話を現行の地図上に移して争っても仕方がないんですが、あくまでも「誤報」事件として考えると北京五輪前のぴりぴりした空気が感じられますなあ。


漢字論争では、「『家』の字の下半分は『豚』を意味するが、豚を家で飼うのは高麗人だ」「古代中国人も家で豚を飼った」という論争もある。そもそも2005年に韓国の「江陵端午祭」がユネスコの世界無形文化遺産に登録されたことが中国人に相当なショックを与えた。端午は中国の伝統的な祭りでもあるからだ。また、朝鮮半島北部から中国東北部を7世紀まで支配した高句麗政権についても、「中国の地方政権」としての一部見解について、韓国メディアは「歴史の歪曲」と反発してきた。論争は中国の漢方医学書「本草綱目」や「針灸の歴史」まで拡大しており、両国間の文化摩擦にまで発展することが懸念されている。
12月17日 産経新聞

■類似した文化が別の場所に現われるのは不思議なことではありません。そもそも、「クリスマス」は何処にでもあった冬至の祭祀で、太陽の再生を祝う大事な行事でした。それをイエス・キリストの誕生日だと言い出したのは太陽信仰のパクリだと言われていますなあ。衣食住の細かい事を問題にするようなら、この論争の種は半永久的に尽きませんから、早めに「誤報」を検証した方が良さそうです。「誤報」が原因で五輪大会ボイコットなどになったら、最初に流したうっかり者に大変な責任が負わされることになりますぞ。
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今は昔とは言うけれど 其の参

2007-12-14 09:59:31 | 歴史
■三番目は「正しい歴史認識」の本家チャイナです。

2007年12月13日、江蘇省南京市の南京大虐殺記念館は事件70周年を記念し、拡張工事を終え、再公開された。改築工事には3億3000万元(約50億円)を投じ、敷地面積は約2ヘクタールから約7ヘクタールへと大幅に拡大された。年末まで無休で公開される。参観は無料。

■大金を費やして「参観無料」というところが意味深です。これは観光施設ではなくて教育施設でしょう。「周年」が大好きな北京政府なので何かとイベントを用意するものですが、五輪大会直前にこういう施設の大拡充を行うのですから、決して自国の人民だけを意識したわけではなさそうです。一番来て欲しいのは米国人かアフリカの人達か?やっぱり若い日本人なのかも知れません。


新たに建造された新館は2つの展示スペースから構成されている。第1の展示スペースは「人類の災禍南京大虐殺史実展」と命名され、南京陥落前の中国情勢、虐殺、日本軍による強姦と略奪、都市の破壊など11の展示室が設けられた。第2の展示スペースは「勝利1945」と命名され、日本軍の暴行、苦難の抗日戦争、勝利と日本軍の投降、戦後の戦争裁判、正義を尊び未来を切り開く、という5つのテーマで構成されている。単に史資料が展示されるだけではなく、館内には1937年当時の南京の街並みが再現され、空襲警報・爆音が鳴り響くなど参観者が当時の状況を追体験できるように工夫されているという。
12月13日 Record China

■別の報道によりますと、展示写真の数が2倍だか3倍に増えているそうです。日本では「偽写真」を検証した本が出版されているのを承知の上での増加ですから、きっと間違いを認めて差し替えたりはしていないのでしょう。教科書問題といい従軍慰安婦といい、歴史的な検証作業を吹っ飛ばして政治的な理由で騒動が起こっては「歴史」にノイズが混入するのは困ったことです。弁衣隊と呼ばれた国際法違反のゲリラ部隊を英雄とする歴史に物申すのは大変ですし、「勝利」だと言われても中国共産党は国家でも政府でもなかった時代の話ですから、誰が誰に勝ったのか?という問題は最後まで残ってしまいます。

■日本軍が南京を占領したのは独断専行の命令違反だったのは明らかですが、占領の目的は蒋介石の国民党政府を屈服させるためでした。首都南京を占領すれば話は終わると考えた陸軍上層部を尻目に、蒋介石は部下に「死守」を命じて自分は更に奥地の重慶に「遷都」してしまいましたから、南京占領は首都占領にはなりませんでした。自動車による輸送力が不足していた日本軍は、兵隊をひたすら歩かせるしかありませんでしたから、兵は戦っているというより過酷な行軍を強いられたのが大陸の戦争だったそうです。海軍は広い太平洋で伸び切った補給路が断たれて苦悩したように、陸軍は大陸の奥へ奥へと引きずり込まれて苦しみました。

■海軍の敵は連合国だけでしたが、陸軍の敵の中には同盟国のドイツが含まれていたという悲喜劇も起こっていました。海軍が真珠湾を襲う前から、米国は義勇軍を大陸に送り込んでもいますし、武器弾薬もふんだんに援助していました。陸軍と海軍は非常に仲が悪くて足の引っ張り合いばかりやっていたのが日本でしたが、大陸でも国民党と共産党が米国とソ連の代理戦争を始めていました。誰が誰と戦っていたのか、そして、結果として誰が誰に勝ったのか?それは歴史家によって見解が微妙に違っているようです。でも、勝った勝ったと喧伝しているのは北京政府という構図です。日本側は「多大な御迷惑」を掛けたとは言いますが、一度も「負けた」とは言いません。「南京虐殺」の前に片付けておくべき問題でしょうなあ。

■新装成った南京大虐殺記念館とは直接の関係は無いのですが、「歴史」を考える時に参考になる小さな?ニュースを見つけました。


2007年12月12日、ドイツで現在展示公開されている兵馬俑は違法なニセモノ―このニュースをドイツ通信社(DPA)が報道。ドイツ国内に波紋が広がっている。「人民日報」の国際版「環球時報」が伝えた。先月11月27日からハンブルク民族博物館で一般公開されている「秦始皇帝兵馬俑展」。展示会の目玉である8体の兵馬俑はニセモノだと、関係者が先週告発して騒ぎとなった。この関係者は03年にライプチヒで開催された「兵馬俑展」にもかかわっており、当時の展示物もニセモノの可能性がある。

■確か、評判を呼んだ本物を使った「人体展」もドイツとチャイナが関係していたと記憶していますが、今回は出所不明の遺体ではありません。


この告発にドイツ通信社が中国の北京と陝西省西安市の文物管理当局に確認をとったところ、ドイツでの兵馬俑展開催を許可したこともなければ、兵馬俑の国外持ち出し許可を出した事実もないとの答え。さらに、陝西省文物局の担当者は、「少数であろうと複製品であろうと、兵馬俑の展示に関してはすべて当文物局の許可が必要」と話し、ドイツの展示品は違法な複製品である疑いが濃厚となった。近日中に中国から専門家が派遣され、疑惑の兵馬俑を調査。ニセモノと断定されれば、この兵馬俑を貸し出したドイツの「中国文化芸術センター」を訴えるとハンブルグ民族博物館は話している。
12月13日 Record China

■「歴史」を最大の観光資源にしようとしている北京政府ですから、悪い業者が現われても不思議はありません。西安に行けばあちこちで大小の複製兵馬俑のお土産を売っていますし、遺跡では修復作業も続けられています。何よりも欧米諸国が怒り狂っている知的所有権無視の偽者大国でもありますから、メソポタミアには強いドイツの考古学も秦の始皇帝には弱かったという事のようです。それにしても「中国文化芸術センター」という組織は怪しいですなあ。いっそのこと、日本の文科省あたりが南京大虐殺記念館から正式に「資料」を借り受けて、日本国内でも展示会を開いたらどうでしょう?民主党の小沢さんあたりが張り切って協力するかも知れませんぞ。

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今は昔とは言うけれど 其の弐

2007-12-14 09:59:06 | 歴史
■米国の次はロシアです。昔、と言ってもまだ御本人はご存命ですが、ミハイル・ゴルバチョフという人がソ連の最後の書記長になりました。ソ連を崩壊させてパパ・ブッシュ大統領とマルタ会談で冷戦後を語り、ロシアを民主化するかと大いに期待されたものでしたが、共産党内の守旧派にクーデターを仕掛けられた時の対応が拙かったばかりに失脚し、大混乱の中でエリツィンという大酒飲みの大男が大統領になったのでしたなあ。

■ゴルバチョフが登場した時には、何だか世界平和が一挙に実現するのではないか?と能天気な言説が巷(ちまた)に溢れたのでしたが、中には米ソ対立が消滅したらそれまで手下になっていた国々がそれぞれ事情で勝手に喧嘩を始めるぞ!と警鐘を鳴らした慧眼の人士も居たんでした。それでもアルカーイダのようなテロ組織が世界的ネットワークを構築するとまでは想像が出来なかったようです。ソ連が崩壊すると、酷い目に遭っていたユダヤ人はイスラエルに退去して移住し、バルト三国やウクライナなどの「歴史的他人」が分離独立運動を始めてソ連に続いて前身のロシア帝国が瓦解するかとも思われましたが、エネルギー戦略に欠かせないカスピ海沿岸だけは力ずくで引止めに掛かった頃、地方の農業専門家だったエリツィンでは禁じ手だった諜報機関出身の強面(こわもて)プーチンを後継者にしてしまったのでした。

■9・11同時多発テロが起こるを挟んで、それまでは少数民族の弾圧だ!と言われていたチェチェン紛争が、対テロ戦争の中に数えられるようになってしまいました。石油屋一家出身のブッシュ大統領がプーチン政権を世界最大の石油屋に育ててしまったようなものです。社会主義の看板は降ろしたものの、皇帝そのものの独裁体制へと歴史の流れが逆行するかのように一党独裁があれよあれよと思う間に復興したわけです。ロシアには皇帝が復活し、米国は虐殺開拓時代を彷彿とさせるように毎日のように鉄砲が火を噴いているのを見ていると、歴史は決して進歩などしないのだなあ、と思ってしまいますなあ。


ロシア中央選管は12日、3月2日投票の大統領選の立候補者の登録受付を開始した。今月2日投票の下院選で議席を獲得した4党からの立候補者は23日、それ以外の候補者は18日が受け付け期限。しかし、プーチン大統領が後継指名したメドベージェフ第1副首相の当選がすでに確実視されており、野党勢力からは「民主的な選挙とは言えない」(ネムツォフ元第1副首相)と、形式だけの選挙戦に批判の声が出ている。

■主要なマスコミを完全に手中に収めた上で、表では若者を糾合して元気?な支援運動を盛り上げ、裏では邪魔者を消して独裁を強化し続けるプーチンさんは、既にリビアの「カダフィ大佐」と同様に位階肩書きは意味を持たない絶対権力者になっております。首相であろうと大統領であろうと、プーチンはプーチンというわけです。


大統領は10日、政権与党「統一ロシア」のグリズロフ代表(下院議長)、大統領を支持する新党「公正なロシア」のミロノフ代表(上院議長)に、下院選で議席を獲得できなかった農業党、「市民の力」を加えた計4党の代表者と会談し、4党が一致して推すメドベージェフ氏に「同意する」ことを表明した。

■金の卵を産み続けるガスプロムという世界一のエネルギー会社を占有している勢力に対して、誰も何も言えません。ブッシュ政権の主要メンバーが石油会社や軍需産業を本業にしている奇怪な構造よりも、ロシアのプーチンが作り上げた裏も表も完璧に支配してしまう権力構造は磐石と言えるでしょう。「4党一致」が成立した裏側では資金援助から生命の保証まで、さまざまな約束が結ばれたことでしょう。


しかし、会合にはすでに同氏が呼ばれており、事前に大統領が決めて4党による推薦の形を作り上げた「茶番劇」とみられる。下院選で得票率64%と圧勝した「統一ロシア」は17日に党大会を開き、正式にメドベージェフ氏の擁立を決める。一方、下院野党勢力では極右・自民党が13日、共産党が15日にそれぞれ党大会を開き、それぞれの党首を擁立する方針を決める。
12月12日 毎日新聞

■プーチン体制が嫌いなら、極右か共産党に投票するしかない!ソ連時代には党が推薦する候補者に同意するだけの儀式が「選挙」と呼ばれていて、同意票と反対票は別々の投票箱に入れなければならず、怖い監視人が全人民の投票行動を凝視、反対票を投じた者は翌日から行方不明……。命懸けの投票ですから投票率は異常に高く、それをクレムリンは民主化の高さだと誇ったものです。今の北朝鮮がその伝統をそっくり受け継いでいるようです。さてさて、今のロシアを考えるには、ロシア帝国時代の「歴史」を勉強し直しておかねばならないようです。

今は昔とは言うけれど 其の弐

2007-12-14 09:00:40 | 歴史
■米国の次はロシアです。昔、と言ってもまだ御本人はご存命ですが、ミハイル・ゴルバチョフという人がソ連の最後の書記長になりました。ソ連を崩壊させてパパ・ブッシュ大統領とマルタ会談で冷戦後を語り、ロシアを民主化するかと大いに期待されたものでしたが、共産党内の守旧派にクーデターを仕掛けられた時の対応が拙かったばかりに失脚し、大混乱の中でエリツィンという大酒飲みの大男が大統領になったのでしたなあ。

■ゴルバチョフが登場した時には、何だか世界平和が一挙に実現するのではないか?と能天気な言説が巷(ちまた)に溢れたのでしたが、中には米ソ対立が消滅したらそれまで手下になっていた国々がそれぞれ事情で勝手に喧嘩を始めるぞ!と警鐘を鳴らした慧眼の人士も居たんでした。それでもアルカーイダのようなテロ組織が世界的ネットワークを構築するとまでは想像が出来なかったようです。ソ連が崩壊すると、酷い目に遭っていたユダヤ人はイスラエルに退去して移住し、バルト三国やウクライナなどの「歴史的他人」が分離独立運動を始めてソ連に続いて前身のロシア帝国が瓦解するかとも思われましたが、エネルギー戦略に欠かせないカスピ海沿岸だけは力ずくで引止めに掛かった頃、地方の農業専門家だったエリツィンでは禁じ手だった諜報機関出身の強面(こわもて)プーチンを後継者にしてしまったのでした。

■9・11同時多発テロが起こるを挟んで、それまでは少数民族の弾圧だ!と言われていたチェチェン紛争が、対テロ戦争の中に数えられるようになってしまいました。石油屋一家出身のブッシュ大統領がプーチン政権を世界最大の石油屋に育ててしまったようなものです。社会主義の看板は降ろしたものの、皇帝そのものの独裁体制へと歴史の流れが逆行するかのように一党独裁があれよあれよと思う間に復興したわけです。ロシアには皇帝が復活し、米国は虐殺開拓時代を彷彿とさせるように毎日のように鉄砲が火を噴いているのを見ていると、歴史は決して進歩などしないのだなあ、と思ってしまいますなあ。


ロシア中央選管は12日、3月2日投票の大統領選の立候補者の登録受付を開始した。今月2日投票の下院選で議席を獲得した4党からの立候補者は23日、それ以外の候補者は18日が受け付け期限。しかし、プーチン大統領が後継指名したメドベージェフ第1副首相の当選がすでに確実視されており、野党勢力からは「民主的な選挙とは言えない」(ネムツォフ元第1副首相)と、形式だけの選挙戦に批判の声が出ている。

■主要なマスコミを完全に手中に収めた上で、表では若者を糾合して元気?な支援運動を盛り上げ、裏では邪魔者を消して独裁を強化し続けるプーチンさんは、既にリビアの「カダフィ大佐」と同様に位階肩書きは意味を持たない絶対権力者になっております。首相であろうと大統領であろうと、プーチンはプーチンというわけです。


大統領は10日、政権与党「統一ロシア」のグリズロフ代表(下院議長)、大統領を支持する新党「公正なロシア」のミロノフ代表(上院議長)に、下院選で議席を獲得できなかった農業党、「市民の力」を加えた計4党の代表者と会談し、4党が一致して推すメドベージェフ氏に「同意する」ことを表明した。

■金の卵を産み続けるガスプロムという世界一のエネルギー会社を占有している勢力に対して、誰も何も言えません。ブッシュ政権の主要メンバーが石油会社や軍需産業を本業にしている奇怪な構造よりも、ロシアのプーチンが作り上げた裏も表も完璧に支配してしまう権力構造は磐石と言えるでしょう。「4党一致」が成立した裏側では資金援助から生命の保証まで、さまざまな約束が結ばれたことでしょう。


しかし、会合にはすでに同氏が呼ばれており、事前に大統領が決めて4党による推薦の形を作り上げた「茶番劇」とみられる。下院選で得票率64%と圧勝した「統一ロシア」は17日に党大会を開き、正式にメドベージェフ氏の擁立を決める。一方、下院野党勢力では極右・自民党が13日、共産党が15日にそれぞれ党大会を開き、それぞれの党首を擁立する方針を決める。
12月12日 毎日新聞

■プーチン体制が嫌いなら、極右か共産党に投票するしかない!ソ連時代には党が推薦する候補者に同意するだけの儀式が「選挙」と呼ばれていて、同意票と反対票は別々の投票箱に入れなければならず、怖い監視人が全人民の投票行動を凝視、反対票を投じた者は翌日から行方不明……。命懸けの投票ですから投票率は異常に高く、それをクレムリンは民主化の高さだと誇ったものです。今の北朝鮮がその伝統をそっくり受け継いでいるようです。さてさて、今のロシアを考えるには、ロシア帝国時代の「歴史」を勉強し直しておかねばならないようです。

今は昔とは言うけれど 其の壱

2007-12-13 20:27:13 | 歴史
■時代はどんどん変わって世界の様子もどんどん変わりますが、歴史という便利な学問がありまして、怒涛のように流れ去る時間に節目となる目印を付けて前後関係を説明してくれます。後に起こった事件の主要な原因になった事実を掘り起こしたり、何度か繰り返される因果関係のパターンを利用して先の事を予測したりします。選択眼と記憶力が勝負となりますが、アマチュアの歴史好きは自分の好みの時代や人物に絞ってあれこれと読んだり考えたりするのが楽しいわけです。

■しかし、生々しい歴史の現場、つまり政治の世界に身を置いている人達にとって「歴史」は楽しみでも暇潰しでもありません。一つの過去を知らなかったばかりに大変な失敗をしてしまう事もあります。特に自前の「歴史認識」を自在に使いこなす外交上手な国を相手にするような場合には、こちらの無知に付け込まれたらおしまいです。


「キューバ・ミサイル危機のことを(記者から)質問されてパニックになった。実は、キューバ危機って何だか知らなかったから」――。 米ホワイトハウスの女性報道官、ダナ・ペリノさん(35)が、世界を核戦争の瀬戸際まで追いやった冷戦期の重大事件を知らなかったと、8日放送の公共ラジオの番組で告白、話題を呼んでいる。

■高学歴者ばかりが集まっているはずのホワイトハウスに、自国の歴史を知らないスタッフが在籍しているというのは衝撃的でもあり、ブッシュ政権ならではの間抜けな話とも言えそうです。トンデモ発言だけを集めた本が何冊も出版されているブッシュ大統領ですからなあ。でも、そんな変な大統領を補佐するスタッフは最新の注意を払ってマトモな人を集めないと大変な事になってしまいますぞ。新聞の写真を見ますと「報道官」としては充分な容姿を持った女性スタッフのようですが、どこかのテレビ局みたいに中身を無視して学歴と容姿で採用したのではないか?と疑いたくもなります。


ペリノさんによると、記者会見で、ミサイル防衛をめぐる米露間の対立と、1963年のキューバ・ミサイル危機を比較する質問が出たが、「危機はキューバとミサイルに関することだろう」と想像はついたものの、歴史的事実をなにも知らなかったため、答えようがなかったという。
12月12日 読売新聞

■別の報道では「知っていた」と苦しい言い訳をしているという話も紹介されているようですが、米国の教育問題にも発展しそうな大ニュースになってしまったのは事実のようです。ケビン・コスナーが熱演した『13デイズ』や、マクナマラ本人が出演しているドキュメント『フォッグ・オブ・ウォー』など、映画界では熱心に取り組んでいるテーマなのですが……。この報道官は忙しくて映画を観ている暇も無いのでしょう。では、一体、何をしていたのでしょう?どこかの国の大学生と同じようなキャンパスライフを送っていただけの事なのでしょうなあ。

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チャイナ・オリジナル 其の参

2007-05-06 22:58:06 | 歴史
■インドから伝来した仏教も、西欧が持ち込んだキリスト教も、はたまたシルクロードと南方航路を渡って来たイスラム教も、チャイナの地に根付くと直ぐに秘密結社を生み出して、超国家的な反乱を起こしたものです。さてさて、清朝末期に起こった辛亥革命が有名ですが、これが「革命」だ!と言い出したのは日本人だったのでした。ハワイの大学で医学を学んでいた孫文は、欧米流の民主主義に憧れて大規模な寄付集めに精を出しますが、人種差別の壁を敗れずに大失敗!ダメかと思って日本に来て見たら、資金の提供ばかりか「革命」の錦の御旗?理論も提供されて勇気百倍!悪評高い『対華21か条要求』の下書きは、袁世凱との権力争いの最中に孫文が日本の恩義に応じて書いたものとか……。根が明るい孫文は、清朝を倒す秘密結社を東京の旅館?で堂々と旗揚げしています。ですから、国民党の革命運動は「ジャパン・オリジナル」とも言えるかも知れないのですなあ。

■30過ぎてから漢訳のルソーを読んだ毛沢東が、欧州近代市民革命の理屈をどれほど理解していたのか怪しいもので、その行き着く先を予言したマルクスの難解な唯物弁証法による経済学批判の理論を、どれほど消化したのやら……。伝統的な秘密結社の流儀よりも、多少はモダンな感じのソ連から流れ込んだコミンテルンが指導する共産党に参加したのは喧嘩好きの毛沢東にとっては勿怪(もっけ)の幸いだったかも知れませんなあ。大日本帝国を焚き付けて国民党と喧嘩させ、双方とも消耗したところで漁夫の利を得ようと考えたのは大したものでした。大日本帝国は米国が料理してくれましたし、お墨付きはモスクワから貰っています。それに加えて崩壊した満洲には日本軍の武器弾薬がごっそりと残っていましたから、高利貸し同然のソ連の世話にならずとも武器は調達出来ました。だから日中友好条約を結ぶ時に、ちょっとだけ「お礼」を口にしたのでしょうなあ。

■ポルポトという極端な例が有りますが、共産主義政権は子供の教育(洗脳)に非常に熱心だそうで、赤い旗と党の書記長(主席)に対する絶対の忠誠を擦り込みます。毎朝欠かさず国歌を流して赤い旗を掲げていますが、それだけでは足りずに子供達の首っ玉にも赤い布を巻き付けております。ソ連の全盛期には「ピオネール」という全国組織が頑張っておりましたが、エリツェン時代に姿を消したようです。レーニン時代のソ連に始まりポルポトの少年殺人部隊まで続いた赤いネッカチーフは、今でもチャイナでは健在のようです。「ソ連オリジナル」が消滅した後ですから、何だか「黄巾族」みたいですが……。

■ソ連の「ピオネール」の語源は、英語の「パイオニア」だそうです。漢訳すると「前衛」とでも言うのでしょうか?真理と正義を独占する組織の一員として、強固な歴史の予言を権威にした運動主体となっているのですから、単なる学生ではありません。それはそうと、「ソ連オリジナル」の「ピオネール」は、「ボーイスカウト」のパクリなので、大英帝国の真似だったのですなあ。そうなりますと、レーニンが建国した史上初の社会主義国家というものは、マルクスの予言を下敷きにして、その上にドイツ仕込みの戦時統制経済と陸軍主体の軍隊を乗せ、ナチス仕込みの密告と相互監視による「粛清」制度を加えたものと言えそうです。書記長がかつての「ツァーリ」で、党幹部がロマノフ王朝の貴族と同じ身分になった点が、「ロシア・オリジナル」かも知れませんが、そのロマノフ王朝にしても遠くチンギス汗に始まるモンゴル帝国をモデルにした大汗国を真似て作ったようなところが有りますし、宗教は東ローマ帝国の権威を借りているので、ロシアもなかなかに複雑です。

■日本にもボーイ・スカウトが有りますが、このルーツを探ると大英帝国の栄光?に行き着きます。大英帝国の退役軍人、ロバート・ベーデン=パウエル卿という爺さんが、栄光の英国軍の伝統を青少年の教育に役立てようと思い立ったのが、1907年、つまり第一次世界大戦の直前でした。このパウエル卿という人は、19歳でオックスフォード大学受験に失敗して直ぐに陸軍に入隊しまして、インド、アフガニスタン、アフリカを転戦して大活躍した有名な英雄だったそうで、日本は植民地化されずに日英同盟を結べたので、勝ち組のボーイ・スカウト運動に参加できたようなものです。

■名作『西部戦線異状なし』が生まれた第一次欧州大戦は、少年まで前線に投入する総力戦になってしまったので、ボーイ・スカウト運動も特別年少兵のイメージを払拭するのに苦労したそうですが、習得する技術は当時の軍隊を手本にしたものです。米国を皮切りに世界中に広まったものの、ソ連だけは世界組織に加盟させて貰えなかったので、苦肉の策?で「ピオネール」を作ったという因縁が有ります。それを中華人民共和国が真似たのですから、何が何だか分かりません。今でもアンゴラ・北朝鮮・キューバ・中国本土・ミャンマー・ラオスは加入を拒まれているそうですが、勿論、当該国の政府は自主的に加盟を拒否しているんだ!と言い張っています。これも「正しい歴史認識」でしょう。

■さてさて、今はなきソ連で盛んだった「ピオネール」ですが、この組織に入れないと「人民の敵」になってしまいますから、厳格な退団・除名規定に従って子供達は必死で良い人民を演じることになっていました。これだけでは足りないと思ったソ連共産党は、更に下の世代には「オクチャブリャータ(10月革命の子)」という組織を創設し、ピオネール卒業後には「コムソモール(青年団)」というエリート集団を作りました。実際に、ソ連時代の個人旅行の中で若い兵士と話したところ、子供時代の印象的な思い出の筆頭が、「コムソモール団員としてピオネール団員を指導したこと」だと澄んだ目つきで答えられた時には返事に困ったものです。

■この「コムソモール」が漢訳されると「共青団」になるというわけです。ルーツとなる大英帝国もソ連も消えてしまえば、「チャイナ・オリジナル」として正しい歴史に刻まれる日も近いのでしょうなあ。

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チベット語になった『坊っちゃん』書評や関連記事

チャイナ・オリジナル 其の弐

2007-05-06 22:57:43 | 歴史
■中華に有る物は、全部、「チャイナ・オリジナル」と思い込むのは、圧倒的な情報統制と教育施設の不足による世間知らず政策の成果です。童話にある牛を真似て空気をいっぱい吸って腹を破裂させてしまうカエルの話やら、「井の中の蛙」の警句も思い出されますが、「文の国」「礼の国」の正体は現実を捨象した理想と幻想を文章化して記録し続け、革命政権が次々と手前勝手な『歴史』を書き連ね、驚くほど低い識字率を放置したまま批判的な学問がまったく発達しなかった誤解と曲解に凝り固まった世界の王者の意識です。

■他民族に蹂躙・占領・支配された歴史が、歴代皇帝の『歴史』の中に組み込まれ、西や南から流れ込んだ文化を土着思想で包み込み、何でもかんでも「チャイナ・オリジナル」伝説の材料にしてしまいます。日本はこの文化を1000年間も輸入して熱心に学び続けましたから、関が原の合戦が「天下分け目の戦さ」になりましたし、列島の最高権威が「天皇」と呼ばれるようにもなりました。日本は「東夷」ですから、天下の東の外れに浮かんでいる野蛮な島でしかないのですが、漢籍の「主語」を読み替えることで自分達の歴史像を作り上げるようになったようです。それでも、菅原道真の頃には文化的な独立を企図しましたし、鎌倉時代からはチャイナ文化では考えられない「武家政権」が出現して、最近も話題になっている「武士道」が誕生したような次第です。元寇を撃退したり、信長・秀吉政権がチャイナ侵攻を試みたりしたのも、チャイナ文化に対する日本オリジナルの武家政権の独自性を示すものでした。

■秦の始皇帝以来、「天下」が乱れると北や西から異民族が流れ込んで大帝国を作るのがチャイナの歴史でしたから、東の島から攻め込んでも不思議では無いのですが、匈奴・鮮卑・女真の北方民族が皇帝になるのは認められても、何故か日本だけはその資格は認められないのだそうです。結局は、「勝てば官軍」の卑屈な理屈で、予定通りに朝鮮半島を通過して中原に侵攻していれば、秀吉が新しい皇帝になっていても不思議では無いという説も有りますなあ。まあ、2500年の動乱史をこつこつと学び直さないと、「チャイナ・オリジナル」との議論は出来ません。それに加えて、日本には『四書五経』やチャイナ・オリジナルの『仏典』を聖典として学んだ伝統が有りますから、それが『中国共産党史』や『毛沢東語録』に変わっても、日本のエライ先生方が熱心にこれらを研究して学生を教化するのも不思議なことではないわけです。「マルクス・レーニン・毛沢東」主義などという奇怪な「哲学」が一世を風靡していたのですから、戦後の日本は異様な時代だったことが分かります。

■本家のチャイナでは、文化大革命の後、小平さんが『四人組』を追放して文革自体を否定したのですが、分家?の日本では「文革万歳!」と書き続けた専門家や新聞社は大騒ぎになったそうですなあ。新聞の縮刷版や30年前の古本を漁(あさ)ると、楽しめますぞ。毛沢東の名前さえ出さなければ、文革当時を好き放題に批判できるようになったチャイナでは、当時の日本人が愛読していた奇怪な書物を大笑いする日本語使いもたくさん居ますぞ。


5月4日、中国共産主義青年団の団員数が2006年末現在、7349万6000人に上ったことがわかった。全国の団員数は7349万6000人、支部数は20万5000にも上る。全国の学校には5万5000の支部がある。学生の団員数は3663万5000人で、団員全体の50%近くを占めている。採掘業、製造業、建築業と電力、ガス、水の生産・供給業に携わる団員は565万7000人おり、支部数は3万2000。農業、林業、漁業、牧畜業に携わる団員は2082万1000人、支部数は5万1000。第三次産業及びその他の業種に携わる団員は1038万3000人、支部数は6万7000。中国共産主義青年団は中国共産党が指導する青年組織で、14~28歳の青年が審査を経た上で入団することができる。
5月5日 レコード・チャイナ

■胡錦濤政権の基盤となっているのが、出身組織の「共青団」ですから、寄らば大樹の陰!というわけで組織の一員になろうと優秀な学生達が加入しようと頑張っております。「中国分裂」を予言する本が出回っていますが、各地で軍閥化し続ける人民解放軍が「武の組織」なら、青年団は「文の組織」ですから事情が違います。軍に対して絶対的な権力を持っていた小平によって人民解放軍の大リストラが断行されましたから、入隊するのがますます難しくなっていますが、「共青団」は昔から優秀な学業成績に加えて共産党に対する絶大な忠誠心を持ち合わせている生徒でなければ加入できません。勿論、共産党政府の政治的な主張や見解にも精通し「正しい歴史認識」を骨の髄まで浸透させて居なければなりません。なかなか厳しい選抜試験が有るので、団員は大変なエリートということになりますなあ。

■そんな筋金入りのエリート集団が、全国15万以上の支部に散らばって7千万人規模の大ネット・ワークを構成しているのですから、北京を頂点とするピラミッド構造が簡単に崩壊する可能性は小さいでしょうなあ。この「文の組織」の権威は北京から発していますから、軍隊のように地方に割拠するような動きは見せないはずです。日本のキャリア官僚が構築した役得「天下り」システムなど児戯に等しい強固な結社と言えましょうなあ。動乱が繰り返されたチャイナの歴史は「秘密結社」の歴史とも言えるので、現在の中国共産党さえも、その最後に現れた組織だと考えた方が良い、という説も有ります。「五斗米道の黄巾族」やら仏教系の「白蓮教徒」、密売業者が組織した「紅眉」などが有名ですが、キリスト教をパクッた「太平道」やら日本にも伝播?して『ドラゴン・ボール』や『北斗の拳』の元になったような「義和拳」の結社も有ります。

チャイナ・オリジナル 其の壱

2007-05-06 22:57:11 | 歴史
■日本の「和の精神」を象徴するのが米国から輸入したライン・ダンスだ!と或る大学教授が仰いました。寸分違(たが)わず一直線に並んだ娘さん達の数十本のおみ足が、ひとつの生き物の如くに上がったり下がったり、右上に伸びたかと思った瞬間に一斉に折れて再び左上に伸びるという具合で、本家の米国ミュージカルでは見られない一体感を実現させているのが「和の精神」なのだそうですなあ。同じ文化的遺伝子がテレビ業界にも流れているのか、ニュースやワイド・ショーの時間枠の中で、まったく同じ話題を「横並び」で放送していることが多いようです。独自の取材をしている暇が無いのか?どうでも良いような話だと別のチャンネルに変えると、まったく同じ取材映像が流れていて唖然とすることが有りますなあ。そんな事ならテレビ局をひとつに統合してエネルギーを節約したらどうなんだ?と思ってしまいます。

■何処かの「美味しい店」だの、「今、話題の店」だの、どうでも良い「評判」や「噂」を横並びで報道しているくらいは可愛いものですが、政治の裏側や海外の情勢など、素人には手が届かない情報を扱う時にも金太郎飴のような報道を繰り返すのは危険であります。特に、チャイナの扱い方には「大丈夫か?」と心配になる傾向が目立ちます。「著しい経済成長を続ける」という枕詞がすっかり定着してしまったのも、マスコミの「横並び」姿勢の賜物(たまもの)です。あれほど巨大な場所、まるで別の国家のような違いの有る地域ごとの事情を省略して、乱暴に一括りにしてしまうと報道が一定の傾向が助長されて話の辻褄を合わせるために、どんどん前のめりになって行きますなあ。

■報道管制が厳しい国の場合、「抗議」や「取材禁止」「国外退去命令」が怖いので、面倒が起こらないように提灯記事が増えてしまうことになります。それは国内の「圧力団体」に対しても同じで、大事件が起こった時になって、それ以前の報道をころりと忘れてしまったかのように「真実」が暴露されるようなことになります。


レコードチャイナの記者は、北京市の石景山遊楽園を電話取材した。同園は、ディズニーを模倣したキャラクターを採用しており、著作権侵害の可能性があると指摘されている。

■『クレヨンしんちゃん』のキャラクターが勝手に商標登録されていて、日本の作者や関係企業が締め出されているのは衆知の事実で、音楽や映像も海賊版が氾濫しているのもよく知られている話です。今回の「石景山遊楽園」に関するスクープ映像?には、ドラエモンやキティちゃんが含まれているとは言うものの、「日本の怒り」は最小限に抑えられて、「ディズニーに言い付けよう」という卑屈な姿勢が目立ちます。こんなところにも『憲法9条』病が現れているのでしょうか?ドラエモンやキティちゃんを守るために「不買運動」や「抗議デモ」を起こすのが筋なのですが、巨人ディズニーが激怒するのをにやにやしながら待ち侘びる、まるで独自外交が出来ない政府と同じ病気がマスコミにも蔓延しているかのようです。


広報の劉(リュー)さんは我々の取材に対し、最近、日本からの取材が殺到してきて困惑していると述べた。しかも日本メディアの取材内容はみな同じで、「ミッキーマウスとドナルドダックがいますよね?」と聞いてくるのだという。遊楽園側はあらぬ疑いをかけられて、大変に迷惑していると強調した。というのも石景山遊楽園にはディズニーを模倣したキャラクターなどはいないからだと劉さんは断言した。いるのはグリム童話を題材にして、同園が作り上げたオリジナルキャラクターという。

■2年ほど前、元朝の絵画に球を棒で叩いている人物が描かれているというので、「ゴルフはチャイナ・オリジナルだ!」という馬鹿馬鹿しい話が無批判に日本の新聞やテレビに出ました。そのうち、唐あたりの美術品の中に、擬人化されたネズミやアヒルの作品が見つかって開き直るかも知れませんなあ。


しかしレコードチャイナの記者は同園の資料写真から、劉さんの主張と合致しない非常によく見慣れたキャラクターを見つけた。日本アニメの代表的キャラクター・ドラえもんそっくりに見えるが、これもグリム童話のキャラクターだろうか?劉さんは自体は企業イメージに拘わることだけに、今後経営陣と協議し、対策を採りたいと述べた。レコードチャイナは現在、同園経営陣からの連絡を待っている。
2007年5月3日 レコード・チャイナ

■是非とも「続報」を期待したいところですが、政府から一言命令が発せられれば即座に施設は廃止されて、跡形も無く消え去るのは目に見えていますが、しばらくは「チャイナ・オリジナル」で踏ん張って見せるかも知れません。

中華数千年の残影 其の参

2007-04-07 18:50:59 | 歴史

世界的な富豪で、10日間のアジア歴訪で3つのホテルを買収したサウジアラビアのアルワリード王子は5日、ロイターとのインタビューで、中国の消費・エネルギーセクターへの投資についても検討していることを明らかにした。サウジアラビアの投資資金はこれまでも中国に流入してきたが、銀行およびホテルセクターに限られてきた。王子は「中国には潜在的な顧客が13億人いる。数年前は1人当たりの国内総生産(GDP)が数百ドルだったが、現在は毎年増加している」とし、「彼らは車やクオリティーの高い食べ物を求めている。消費財に関連するものならすべてが重要だ」と語った。

■インド洋を制したかつてのアラビア商人達とは違って、オイル・マネーを投資して利潤を上げようとするアラブの王族がやって来るとは、明代に大艦隊を率いて国威発揚に貢献した鄭和が聞いたら、どんな感想を持つでしょう?鄭和自身が南部出身のイスラム教徒で、メッカ巡礼という個人的には宿願を持っていたのは有名な話で、インド洋沿岸の華僑とイスラム商人のネット・ワークを巧みに利用してアラビア半島からアフリカの東岸まで到達した歴史が、こうしたアラブとの縁を結ぶ遠因になっているのかも知れませんなあ。

■アラビア商人はグローバル化の先駆者で、うっかりヴァスコ・ダ・ガマという1人の欧州人に南回りでインド洋に出られる航路を教えたばかりに、全アジアが互恵関係の商業圏ではなく、一方的な収奪を目的とする植民地になってしまったのでした。因みに、ヴァスコ・ダ・ガマはポルトガル人で、欲張りな王様の命令でイスラム商人の裏を掻いてインドから香辛料を仕入れる航路を見つけようと、アフリカ大陸南端に辿り着いたのは、鄭和の大艦隊がインド洋を巡った90年以上も後の話で、欧州では大西洋を南下し続けると恐ろしい怪物に食われるか、世界の果ての大きな滝から落ちてしまうぞ!と実(まこと)しやかに噂されていたそうですが、何とか辿り着いてみると、そこはアラビア商人の貿易拠点として輝いているのでした。未知のインド洋を渡れるかどうか、思案しているヴァスコ・ダ・ガマさんに「渡れるよ」と気楽に教えてしまった人の名は、アハメッド・ビン・マジッドというのだそうです。御子孫はお元気なのでしょうか?

■これからの投資活動は大歓迎でしょうが、昔、欧州人を連れ込んだように、今度はテロリストを連れ込まないようにと北京政府も願っていることでしょう。


王子のアジア歴訪中に、王子が率いる投資会社キングダム・ホテル・インベストメント(KHI)はマレーシア、フィリピン、中国のホテルを買収したが、……中国が外国企業の出資をほとんど認めていないエネルギーセクターへの投資にも関心を示した。世界第2位の原油消費国である中国と、世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアは、要人訪問や大型契約などを通じてこのところ関係を強化している。サウジアラビアの石油会社サウジ・アラムコ、中国石油化工(シノペック)、米エクソンモービル<XOM.N>は先週、製油と販売に関する合弁事業設立で合意した。……
4月6日 ロイター

■あちこちで石油採掘権を削られている日本に比べて、チャイナの石油漁りは凄まじい勢いで進められているようですなあ。でも、日本並に工業化を進め、米国並の自動車社会を本気で実現したら、世界中の石油資源が枯渇するのが先か?温暖化での滅亡が先か?という恐ろしい未来が早くやって来そうです。バイオエネルギーも開発するそうですが、その原料は家畜飼料と同じ物ですぞ!産油国と石油会社と自動車会社などは儲かるのでしょうが……。これはまったく新しい歴史の始まりですなあ。


2007年4月5日、山東省桓台県で、100人近い偽僧侶が逮捕された。彼らは少林寺の名前を騙り、高額の精力剤を売りつけていた。5日午前、桓台県の市街地に100人近い僧服姿の男たちが現れた。彼らは3~5人ほどのグループに分かれ、家々をまわった。自らを少林寺の僧侶だと名乗り、武術の演舞と寺への寄付を募りにやって来たのだと自己紹介した。その後、「少林寺秘蔵の精力剤」を販売していると騙り、高値で売りつけていた。相手にあわせて60元(約900円)から330元(約4950円)の値をつけていたという。

■さてさて、少林寺です。日本でも『少林寺』ブランドのカンフー映画が大流行しましたし、日本人の宗道臣さんが始めた格闘技の名前でも有名ですが、それぞれ別物です。達磨大師が修行したと言う伝承を独占している河南省嵩山少林寺は、大唐帝国2代皇帝太宗を助けた武勲を誇る古いお寺で、支店ブログ『五劫の切れ端』で断続的に連載中の三蔵法師玄奘さんが、インドから戻って最初に翻訳場にしたい、と願い出た山奥の静かな御寺です。それとは別に、多くのカンフー映画の題材に使われた神秘的な拳法を作ったと言われているのは福建省の伝説めいた寺の事で、日本で生まれた少林寺拳法の名前の由来となると開祖の自伝しか資料が無いので、何とも言えない模様です。まあ、どれも歴史好きには楽しい伝説がたくさん詰まっているという点では共通しているようです。つまり、詐欺師にとっても便利な名前という事ですなあ。ご用心、ご用心。


市民からの通報を受け、警察はこの偽僧侶たちを逮捕した。ある偽僧侶の供述によると、彼らはみな河南省の出身。この男は4日前に友人の紹介でこの組織に加わったという。僧服と商品の薬は組織が提供したもの。組織は偽僧侶たちに住居と食事を保証した上、毎日15元(約225円)の給料を与えたという。国際的な知名度を誇る少林寺だけに、その名を騙る偽僧侶は後を絶たないが、一度に100人もの偽僧侶が捕まったのは前代未聞だと注目を集めている。
2007年4月6日 レコード・チャイナ

■宗教と詐欺犯罪とを明確に分けるのは至難の業とも言われていますから、日本でも怪しげな集団がアルバイトを雇って托鉢僧侶に仕立て上げて荒稼ぎした事件が起こっていますし、妙な健康法やら占いやら、危ない話はいくらでも有ります。本来は煩悩を絶つ修行に明け暮れる御寺で、どうして「少林寺秘蔵の精力薬」などが開発されるのでしょう?それでは煩悩の炎が燃え上がってお坊さん達はますます苦しむでしょうに!?これはまったく「正しい歴史認識」では御座いませんなあ。お仕舞い。

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雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

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チベット語になった『坊っちゃん』書評や関連記事

中華数千年の残影 其の弐

2007-04-07 18:50:34 | 歴史

開発業者の万福稜園開発有限公司は墓地の各区画を「転売が可能で、購入から1年経過後には自社が時価で買い取ることもできる」と宣伝していたが、買い取りに応じないケースが発覚。業者の経営責任者らは行方をくらましており、開発に便宜を図った衝陽市も事態の収拾に力を注いでいる。業者は政府の規定に沿わない墓地を販売していたという。区画は29タイプで、販売価格は8000-25万元(約12万-380万円)。

■祖先崇拝の伝統を共有しているところに、「土地投機」が起これば住宅や商業地に加えて墓地の転売で一儲けしようとする人が現れるのも当然でしょうなあ。そこに目を付けて、日本の「原野商法」みたいな詐欺を考える悪い奴も出て来るというわけです。


販売開始から1年余りで6500区画が売れたが、実際に使用しているのは296区画のみ。販売総額は1.2億元に上る。開発業者が設けた問い合わせセンターには846件の苦情が寄せられている。計2003万元の返金などを求めるもので、これまでに448件について1078万元が返金された。
4月5日 サーチナ・中国情報局(

■日本のお墓にも多くの問題が有るようですが、「墓転がし」の詐欺騒動はあまり耳にしませんから、複雑な信仰文化を抱え込みつつも何とか折り合いを付けて過ごしているのでしょうなあ。あちらでは墓地の詐欺ですが、こちらにはメイド・イン・チャイナの怪しげな墓石を高値で売り付ける困った業者が暗躍しているとか……。


2007年4月5日、新疆ウイグル自治区の渉外運輸管理事務所が明らかにしたところによると、近隣諸国との貿易が年々活発化するのを受けて、今後、中央アジア諸国と中国を結ぶ12の国際道路を建設する計画だ。同自治区は8か国と接し、国境線総延長が中国国内で最も長いため、客運と貨物運輸の中心になる条件が整っているといわれる。

■紛れも無くこれは「シルクロード」の復活そのものです。かつてはソグド人やペルシア人が活躍した大陸交易を、北京政府が復活させようとしているわけですなあ。NHKが日中国交正常化を記念して『シルクロード』特集を制作して大評判になった頃とは隔世の感が有ります。


計画では中国からロシア、ハザクスタン、タジキスタン、パキスタンなどへ続く国際道路の中国領内部分を建設する予定で、最も長いものはウルムチを出発し、タシケント、マシュハド、テヘラン、イスタンブール、そして欧州へとつながる。同自治区内だけでも全長1680kmに上り、2010年の完成を目指す。

■西や北からエネルギー資源や鉱物資源を大量に輸入して、雑貨や工業製品を輸出する計画でしょうが、この新しいネットワークに乗って漢民族の拡散が進むのでしょうなあ。大唐帝国の復活とも思えますが、「白村江の戦い」の再現は御免蒙りたいものです。


現在、すでに開通している国際道路は101ルート、通行許可を持つ車が自治区内に1500台登録されている。道路が完成すれば国境貿易が一層活発になり、最も外国へ開けたエリアとして繁栄していくことが期待される。
4月6日 レコード・チャイナ

■新疆ウイグル地区で燻(くすぶ)る独立運動が、国境を越えて同じトルコ系民族と結び付く危険を覚悟で貿易に活路を見出そうとする大計画のようですから、ウイグル族の今後には注目しておかねばなりません。同系の民族関係以上に、この国際道路が「イスラムの道」として発展するのは北京政府の望むことではないでしょうからなあ。


2007年4月2日、ウラジオストックで「中華人民共和国とロシア連邦の国境確定に関する協定」が結ばれた。40年以上にもわたり、交渉が続いてきた中ロの国境紛争だが、今回の協定でついに決着を迎えた。この協定により、中ロの最後の紛争地・大ウスリー島とボリショイ島が中国に返還されることとなった。遅々として進まなかった国境紛争交渉だが、プーチン大統領は昨年10月の訪中を期に、ロシア全体の利益に合致するとして、返還に合意したという。両国議会の承認をえて、今回の協定締結を迎えた。

■真冬には一面銀世界となって大河も結氷するややこしい場所ですから、密貿易も横行しますし、ちょっとした国家間の緊張が起こると、すぐに誤射事件が起こる物騒な場所だったようです。これで清朝時代から続いたロシアとの国境争いが、一応、決着したというわけです。お互いに国境警備の軍事費が節約できるようになるのでしょうなあ。敵対関係を解消して、互いに商売に専心することになりそうです。


現在、黒竜江省政府は大ウスリー島の開発計画を策定中で、貿易港・貨物基地が建設される予定。今後、中ロ貿易の中継地として発展が予想される。また今回の中ロの国境確定交渉が、日ロの北方四島返還交渉にどのような影響を与えるのか、注目される。
4月6日 中国情報局

■北方領土の場合は、軍事的な意味と共に水産資源の分配の問題も有りますから、中ロ国境交渉と同列には扱えないかも知れません。敗戦のどさくさ紛れに旧ソ連が占領したのは事実ですが、ロマノフ王朝の東進政策の延長とも言えますし、日露戦争での屈辱をスターリンが晴らした歴史的遺産とも言える「戦利品」ですから、スターリンの業績とロマノフ王朝の栄光を同時に否定して日本と交渉を進められるかどうか、ロシアが求める見返りを日本政府が国民世論の反発を呼ばない方法で用意できるかどうかが鍵となりそうです。

中華数千年の残影 其の壱

2007-04-07 18:50:06 | 歴史
■いよいよ7年ぶりにチャイナの首相が来日し、22年ぶりに国会で演説までする日が目前となりました。「正しい歴史認識」を突きつけられる日本が、どんな「熱烈歓迎」を用意しているのか?相手は「新幹線には乗らん」などと、非常に分かり易いメッセージを次々と投げ込んで、来日直前まで日本政府に対する「圧力」を、陰に陽に与え続けるでしょう。ここで、最近のニュースを材料に、「正しい歴史認識」の復習?をしておきましょう。

2007年4月5日、この日は中国のお盆と呼ばれる墓参りの祭日・清明節だが、陝西省西安市で、中華民族の始祖と呼ばれる黄帝を祀る盛大な儀式が挙行された。会場は陝西省黄陵県橋山にある黄帝廟前の広場。国内外から集まった1万人もの中国人により壮大な儀式が挙行された。全国人民大会常委会李鉄映(リ・ティエイン)副委員長、全国人民大会常委会・蒋正華(ジャン・ジェンホア)副委員長、中国人民政治協商会議・張思卿(ジャン・スーチン)副主席ら多くの要人も出席した。

■「黄帝」と聞いて、何だか効きそうな栄養ドリンクを思い浮かべる日本人も多いのでしょうが、どうして栄養ドリンクにこの名前が付いているかと言うと、『黄帝内経』という古代の医学書を書いた人とされているからです。謎めいた言葉で鍼灸術から占いまで、生き延びる知恵を並べて教えてくれる有り難い書物です。『傷寒論』という古い伝染病を中心とした病理学を解説した書物と共に、今も研究され続けている有名な本の著者だそうです。「正しい歴史認識」に含まれるかどうか、ちょっと微妙ですが、三皇五帝と呼ばれる神話時代の支配者からチャイナの歴史は説き起こされる事が多いようです。「三皇」には諸説有りますが、伏羲・女か・神農が代表的な名前で、どうもモンスターのような姿をしていたようです、神農はミノタウロスみたいに牛の頭を持っていたそうで、薬草と毒草を自分の体を使って試験したそうで、体中を薬草で編んだ服で包み、手当たり次第に植物や鉱物を口に放り込んでいたそうな……。医学の基礎と農業技術を教えて回った方だそうです。

■その後を継いだ「五帝」の筆頭が黄帝だそうで、という。蚩尤(しゆう)と言う巨大ロボットみたいな化け物を倒して中華の元となる地域を初めて統一したのだそうです。黄帝、センギョク、コク、堯、舜と続いたのが「五帝」だと司馬遷が書いています。舜から禹に位が譲られて夏(か)王朝が始まったとされていて、その後の殷(商)、周、秦、漢と王朝が続いて20世紀の辛亥革命で終わります。夏王朝の存在を示す遺跡は未発見なのに、何故かそれより古い黄帝を先祖とする人が多いのは不思議な現象ですなあ。


儀式の内容は以下の通り。1・全員起立、黙礼。2・太鼓と鐘を打ち鳴らす。3・献花。4・陝西省省長の挨拶。5・黄帝像に礼拝。6・礼楽の演奏と踊り。7・黄帝陵へ拝礼。黄帝は中華民族の始祖と呼ばれ、中国人の家系図をさかのぼると必ず黄帝に行き当たると言われている。
4月6日 レコード・チャイナ

■靖国神社の参拝も、こうした神話に基づく盛大な儀式とイメージが重なってしまうのが問題なのかも知れません。でも、こうした世界各地に残る伝説や神話を他国の人があれこれと口出しするのは遠慮しておくべきでしょうなあ。因みに日本の神社のほとんどは、死者の魂が生前の恨みや悲しみから禍を起こすのを避ける「魂鎮め」を目的として建てられています。


湖南省衝陽市で台湾系資本の開発業者が販売していた墓地「観福園」の区画が投機対象になり、購入した市民が売却しようとしたところ業者が応じなかったため、多数の購入者が代金の返還を求める騒ぎが起きている。5日付で人民日報が伝えた。

■先祖崇拝は世界各地に発展した精神文化ですが、それぞれが持つ意味には違いが有るようです。仏教が伝播した場所では土着の信仰を取り込んで釈尊の教えとは随分と違う儀式や文化が付加されていますが、元々、先祖の弔いを専門にして居た儒教集団が漢王朝の時代に国教化されてから、チャイナの精神文化は祖先崇拝を中心にして展開したと考えられます。長男が代々墓を守り、規定の儀式を執り行う独占的な権利と義務を持つとされているので、1人子政策を断行したら男女の人口比が大きく歪んでしまうのも当然とか……。