フジテレビ
外資比率が2割を超えていた東北新社の放送事業の一部認定が取り消された。だが、東北新社よりも外資比率が高いフジと日テレが許されるのはなぜか Photo:PIXTA

 武田良太総務相は3月26日の閣議後の記者会見で、放送事業会社「東北新社」の衛星放送事業の一部の認定を5月1日付で取り消すことを明らかにした。

 放送法で定める外資規制により、外国人等議決権割合が20%を超えていたにもかかわらず、事実と異なる申請を行っていたことが理由だ。

 だが、外国人による株の保有比率を見ると、東北新社よりも高いのがフジ・メディア・ホールディングスと日本テレビホールディングスの2社である。

 東北新社の問題をきっかけに、今後、放送業界の外資規制に注目が集まりそうだ。(株式会社アシスト社長 平井宏治)

各国で放送事業者に
外資規制が設けられている理由

 2021年3月23日に行われた武田良太総務相の定例会見で、記者からは次のような質問が上がった。

「東北新社は免許を取り消され、他方、(外国人等議決権比率が外資規制を超えている)フジテレビと日本テレビが見逃されているのはどういうわけでしょうか。

 法の下の平等や公平性、公正性に反するように思われます。理由をお聞かせください」

 だが、これに対し、武田大臣は「事実関係をよく確認した上で、適切に対処してまいりたい」とだけ述べ、具体的な対応については言及しなかった。

 わが国では、電波法や放送法により放送会社の外国人等議決権割合は5分の1(20%)を超えてはならないと定められている。

 放送業者に対する外資規制が行われている理由は、放送が世論に及ぼす影響を考慮した安全保障上の理由による。

 放送業者に対する外資規制は、わが国だけでなく、アメリカ合衆国でも欧州でも類似の制限が設けられている。

 電波法第5条3項は、認定放送持株会社の欠格事由として、放送法5条1項に定める外国人等の議決権割合が全ての議決権の5分の1を超えないこととしている。

 だが、外国人直接保有比率が、5分の1を超えている企業は、東北新社だけではない。

 2021年3月26日において、フジ・メディア・ホールディングス、日本テレビホールディングスの外国人直接保有比率はそれぞれ、32.12%、23.77%と、発行済株式総数の5分の1を超えている。

 とはいえ、発行済株式総数は議決権の数とは一致しない。

 定款で単元株式数を定めている場合は、1単元の株式につき1個の議決権となるが、単元株式数未満の株式(端株)には議決権はない。

 そして、放送免許の欠格事由では議決権の個数が問題になる。

総務省の通達で変更された
外国人等議決権の計算方法

 だれでも証券会社を通じて上場会社の株式を購入することができる。多くの外国人が上場放送会社の株式を買えば、単元株に付いている議決権も総議決権個数の5分の1を超えてしまい、上場放送会社は何もできない。

 そこで、放送法116条では、外国人等の議決権割合が、全ての議決権の5分の1を超え、欠格事由に該当した場合は、その氏名および住所を株主名簿に記載し、または記録することを拒むことができるとしている。

 なお、外国人等の議決権割合の計算方法は、総務省が2017年9月25日に上場する放送事業会社に出した通達文書により、計算方法が変更されている。

 筆者が総務省と上場放送会社に確認したところ、通達前は、総議決権個数に19.99%を掛けた個数が、外国人等の議決権割合とされていた。

 例えば、総議決権個数が1万個の場合、1999個(1万×19.99%)が外国人等の議決権割合とされていた。

 しかし、この計算方法では、実際に株主総会で外国人等が行使できる議決権個数が5分の1を超えてしまう。どういうことか、順を追って説明したい。

 放送事業者A社について、総議決権個数が1万個、外国人等が保有する議決権の個数が3000個だったと仮定する。

日本人の保有する議決権個数は、7000個(1万-3000)になる。一方、外国人等が保有する議決権3000個のうち、1999個は議決権行使ができるが、残る1001個は上場する放送会社が名義書き換え拒否をする。

 この1001個の議決権を持つ外国人等の株主は株主名簿に記載されないので、株主総会の招集通知は送付されない。

 その結果、株主総会は、1999個の議決権を持つ外国人等株主と7000個の議決権を持つ日本人株主で行われる。

 外国人等が行使できる議決権割合は、1999÷8999=22.21%になり、全議決権個数の5分の1を超えてしまうのだ。

 筆者は、2011年頃からこの問題に気づき、総務省に外国人等が行使できる議決権個数の計算方法を変えるように陳情を行った。

 筆者以外にこの問題に気づいた人たちからも指摘があり、2017年9月25日、総務省は外国人等が行使できる議決権の計算方法を変更する通達を対象となる放送事業者へ出した。

 では、一体どのような通達なのか。

 通達内容は非公開だが、筆者が総務省と上場する放送会社に確認した内容を基に、先述のA社の例を使い説明する。少し難しいことはご容赦いただきたい。

 日本人の持つ議決権は7000個だ。この日本人の議決権を総議決権個数の80%とするため、まずは7000÷0.8を計算(8750個)。

 さらに外資規制では外国人等議決権割合が20%を下回る必要があるため、8750個から議決権1個を引いた8749個を総議決権個数とする。

 総議決権個数が8749個なので、外国人等が行使できる議決権個数は、8749-7000=1749個になる。

 その結果、外国人等が保有する議決権総数のうち、1251個(3000-1749)が名義書き換え拒否の対象になるのだ。

 なお、実際の計算は、自己株式の議決権を除いたりするので、これらを加味した計算結果が公表される。

 実際に日本テレビホールディングスの状況はどうなっているのか。

同社のプレスリリース(2020年4月17日)によれば、2020年3月31日の算定となる総議決権個数は、242万9423個。

 そのうち、外国人等が行使できる議決権個数は48万5884個と、外国人等議決権割合は19.99%(正確には、19.99998%)となり、欠格事由を回避している。

 また、同社の有価証券報告書には、名義書き換え拒否をした議決権個数は10万8693個だったことなどが記載されている。

 ところが、東北新社は外国人等が行使できる議決権個数の割合が全議決権個数の5分の1を超えていたにもかかわらず名義書き換え拒否の処理を行わなかったため、欠格事由に該当することになった。

 初歩的なミスだが、法律は法律だ。衛星放送の認可が取り消しになるのは当然であり、東北新社の衛星放送認可取り消しの理由は、これ以上でもこれ以下でもない。

保守系メディアの
外国人直接保有比率は高い傾向

 有価証券報告書を使い、在京5局の外国人等が行使できる議決権個数比率をグラフにまとめた。

 このグラフは、分子は「外国法人等+外国人持株調整株式の単元数」、分母は「全単元株数-自己株式の単元数」とし、それ以外の調整は行っていない。

 テレビ番組が国民世論に及ぼす影響が大きいことを考慮すると、電波法や放送法により放送会社の株主総会で行使できる議決権を制限すれば事足りることだろうか。

 確かに議決権行使は19.99%に調整される。しかし、実際に外国人等が放送会社の株式を大量に保有することが、放送会社の運営に影響を与えないと断言はできない。

 外国人直接保有比率が高ければ、外国による影響が高くなるし、外国人直接保有比率が低ければ、外国による影響が低くなるだろう。

 グラフからも明らかだが、放送業界全体の外国人直接保有比率が高いのではない。日本テレビ(読売系)、フジテレビ(産経系)のいわゆる「保守系」メディアの外国人直接保有比率が高い一方で、TBSやテレビ朝日(朝日系)といったいわゆる「リベラル系」メディアの外国人直接保有比率は低い。

 外国人直接保有比率の高低には配当性向や配当利回りの違いがあるとする意見もあるが、こうしたメディアとしてのスタンスが影響している可能性はないのだろうか。

 国際情勢や安全保障問題などを取り上げる番組の多くが地上波放送から姿を消し、グルメ番組、お笑い番組、スポーツ中継、ワイドショーばかりが放送されている。

 核兵器保有国の谷間にあるわが国の状況や尖閣諸島への領土・領海侵入危機など、国民が知るべき報道が不十分であることを憂慮すべきだ。

 インターネットなどさまざまな方法で情報を集め分析し判断する人たちがいる一方で、情報端末操作ができず地上波だけが唯一の情報収集手段の人たちもいる。

 地上波だけが情報収集手段の有権者に対し、外国の意向を反映した報道が流れ、外国の思惑通りに世論形成され誘導されるリスクを踏まえて、外国人直接保有比率の是非を改めて議論すべきだろう。

 また、外国人直接保有比率については、国別の情報が開示されないことは問題だ。

 放送会社の株主名簿を見ると、主要株主にカストディアン(投資家に代わって有価証券の保管・管理を行う金融機関)の名前が並んでいる。

 また、日本に帰化した外国人が保有する株式は、日本人保有株式にカウントされることも留意する必要がある。

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 放送事業が国民世論に及ぼす影響を考えれば、最低限でも国別の開示は必要であるし、タックスヘイブンやファンドなど真の持ち主の正体を隠す投資家による放送業界の株式取得は規制されてもよいのではないか。

 放送業界と安全保障との関係を考えると、非上場化を行い、非上場化の際に外国人株主をスクイーズアウト(少数株主の排除)する選択肢もある。

 外国の影響を排除するならば、官民ファンドを設け、MBO(経営陣が参加する買収)を行い、外国人投資家を株主から一掃することは可能だ。

 とはいえ、非上場化しても、放送番組の政治的公平性などを定めた放送法4条が守られるとは限らないとの指摘もある。

 放送番組の制作に外国の影響を受けないための制度設計が必要なことは言うまでもない。

 東北新社の認可取り消しで放送業界の外資規制に注目が集まった。このことをきっかけに放送と安全保障の議論が盛り上がることを期待したい。

 保守系メディアの株式を買い、大株主となった外国の思惑が放送会社へ及び、外国の意向を忖度(そんたく)した放送を流しているという意見がある一方で、放送局は外国人直接保有比率に関係なく、日本の国益に資する放送を流しているという意見もある。

 いずれにせよ、外資規制導入の趣旨を考えると、外国人直接保有比率が高いことは、好ましい状況ではない。