息をするように本を読む

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ワシントンハイツ―GHQが東京に刻んだ戦後

2013-02-08 10:34:20 | 著者名 あ行
秋尾沙戸子 著
日本エッセイスト・クラブ賞受賞。

トータルで20年くらいかなあ、表参道、乃木坂界隈で働いていた。
星条旗通りをタクシーで通りながら、なぜここはこんな名前なのかなあ、
なぜ鉄条網があるのかなあ、と考えたことがある。
確かにヘリが降りるのを見かけたこともある。
でも、それがなんなのか疑問をもつことはなかった。

そこは小さなアメリカだったのだ。
都心の一等地を切り取るように存在する異国。
そしてそれがなぜそこにあるのかを、この一冊がすべて説明してくれた。
手に取るようにわかる場所だけに、その面白さはひときわであった。

敗戦と占領。それは現代日本誕生のあまりにも過酷な真実だった。
戦勝国の人々が、家族で住むために建てられたのがワシントンハイツだった。
異国の華やいだ文化と豊かな暮らしを見せつけた存在は、日本人の中に
かつての敵国に憧れる感情を誕生させるのに十分だった。

それにしても焼け野原に住まいも食糧もなく、大勢の帰還兵や難民を迎えた当時、
この国がどんなに困窮していたか、想像に余りある。
価値観すら反転した中でバラックを建て、闇市でものを売り、短期間に国を立て直す姿には
今の私たちにない力を感じる。

そして、戦中戦後において、アメリカ移民たちが激しい差別をはねかえそうと、
米軍に志願して働いていたことも興味深かった。

また、現在の日本の文化にこの時代が与えた影響も大きい。
ジャニーズ事務所の社長はかつてワシントンハイツに住んでいたアメリカ生まれ。
ミュージカルなど知らない少年たちをスターへと育て、芸能界に大きな足跡を残している。
渋谷・恋文横丁や青山・紀ノ国屋が米兵やその家族のために誕生したといっても過言では
ないしデザイナーの森英恵はGHQ将校夫人宅に通いながらデザインを学んだ。
そして季節の行事としてのクリスマスのあり方も、政教分離を建前とするマッカーサーが
苦肉の策として考えたものが定着したということらしい。

タイトルのワシントンハイツは明治神宮の内苑から現在のNHKのあたりまで広がっていた
米軍家族住宅エリアを指す。
キーワードとなる名前だが、内容的には多岐にわたるので違和感があるかも。

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