息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

呪医 ウィッチ・ドクター

2012-08-19 10:41:00 | 著者名 な行
西村寿行 著

大きな木が好きだ。
山の中まで行かなくても、古くからある公園や学校、病院、邸宅などには
驚く程大きな木がある。見ているだけで快く力をもらえる気がする。

少年・広久は校庭の橡の木が切り倒されることを知り、ショック症状を起こした。
そして、伐採の日、現場監督がチェーンソーで足を切断した。
「ぼくがやった、町は幽霊町になる」と言い残して広久は姿を消す。
様々な噂が飛び交い、疑心暗鬼になる人々。

木のもつ力を理解し、広久と橡との関係を知る祖父・小吉は
日本でただ一人『樹医』と呼ばれる庭師である。
広久は「おじいちゃんは『樹医』だから樹木を救えないんだ。『呪医』にならなければだめだ!」
といい家を出てしまう。

植物と人間との関係を考えるとき、植物は軽んじられがちだ。
何も言わずただそこにいるようでいて、あらゆるものと深いつながりをもつ巨木。
黙って伐られてしまい、何事もなかったように思えても、実はその影響は限りなく大きい。
あとに若木を植えれば済むというものではないのだ。

広久は沈黙を守る植物がたったひとつ出したSOSのサインであり、反逆の象徴でもある。
そして共存の鍵でもあった。

個人的には文章のくどさがやや気になるが、これは樹医という存在を印象づけるための
テクニックと考えることもできる。

長い長い時間の価値、異種がともに生きていくことの難しさと大切さ。
これらをじっくり考えさせる作品だ。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿