坂東眞砂子 著
明治末期のひなびた農村に奉納芝居の指南のため、東京から芸人がやってきた。
華やかな美貌ときらめくような衣装。それが生み出す芸に人々は目を奪われる。
役者・涼之助は不毛の肉体という秘密を抱えていた。
そして地主の家の嫁・てるは、雪に閉ざされた村の暮らしに絶望していた。
二人は心を通わせ、出奔する。
しかしそれは幸せの出発とはならなかった。
20数年前に起こった殺人事件が結びつき、村に伝わる伝説・山妣(やまはは)の
秘密が暴かれていく。
恐れられた山の怪異は、人そのものの怖さ。
不思議なものなど何もない、ということが逆に恐怖を募らせる。
蔑まれ底辺をうごめいて生きていくしかない人間。
厳しい自然の中生き抜くために獣のようになることを余儀なくされた人間。
異形として生まれたために運命に弄ばれた人間。
心が通い合ったと思っても、命に関わる状況に置かれたとき、それがたやすく
崩れ去るさまも哀しい。
雪に散る鮮やかな血。
恐ろしいのに美しい光景。
狂気と惨劇に満ちた話でありながら、そこにあるのは静かさや穏やかさでもある。
実に読みごたえがある、満足の一冊。
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