息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

陽暉楼

2013-01-02 10:53:19 | 宮尾登美子
宮尾登美子 著

女を売る世界。これ以上シンプルなものはない。
世界で最古の商売という説もあるし、もとでがなくても
弱いものが食べていくためにも最初に手を出す仕事であるという。
それは残酷ながら親を助けることができる方法であり、
貧しく生まれた女の子が出世を夢見る唯一の道でもあった。

四国一の栄華を誇り、華やかな文化で一時代を築いた陽暉楼。
そこで生きた女の悲しみと喜びを綴る。

主人公・房子こと桃若は博打狂いの父の借金のかたに売り飛ばされた。
彼女は踊りの才があり、地のにじむような努力もあって
頭角を現すが、真面目ゆえに客あしらいが下手だ。
才能を愛する粋人のパトロンはつくものの、それをつなぎとめる
ことさえやっとのありさま。
ついには心惹かれた若い銀行員とのあいだにできたと思われる子を
その子に恥じないように産んで育てようと、パトロンの顔に
泥を塗る形で縁を切ってしまう。
この時代の芸妓にうしろだてがないというのは自殺行為に等しく、
彼女は苦労を重ね病に倒れてしまう。

房子がよく比べられていた胡遊はほがらかな可愛らしさのある女性で
それゆえに旦那あしらいもうまく、上手に世をわたっていく。
舞の才能に恵まれた二人だけにその対比が哀しい。

とことん運命に翻弄された房子だが、見方を変えてみれば
現代の女性に通じるものがあると思う。
彼女は仕事を、子どもを産むことを、一人で生きることを
自ら選び取っている。それが苦難の道であってもためらわない。
胡遊のように好きなことを選びながらも軽やかに生きられる人も
いるのだろうが、多くの女性は、房子に近い道を歩くのではないか。
そう思うと彼女の歯がゆいほどの不器用さも、真摯な姿勢も
理解しやすい。

華やかで影に哀しみを秘めた世界。
しかしそれゆえに崇高な芸術の極みを支えた世界。
読むだけで心を捉える陽暉楼。
実は得月楼といい、高知に現存するそうだ。
いろいろな想いはあるものの一度見てみたい場所である。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿