哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

米原万理さんの『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』

2006-10-20 01:00:30 | 知識人
 今年の話だと思いますが、米原万理さんが50歳台の若さで亡くなられたと聞きました。なかなか面白い本をいろいろ書いておられたので残念です。


 さて、表題の本については米原さんの主著と聞いていながら読んでおらず、遅ればせながら最近読みました(角川文庫)。


 感想を一言で言うと、米原さんも含めて国際情勢に翻弄される子供たちの様子とその後の再会が感動的である一方で、民族主義や国家、イデオロギーに振り回される姿にはやや深刻にさせられました。


 この本には題名の短編を含めて3編ありますが、最も印象深かったのは、旧ユーゴスラビアの話(「白い都のヤスミンカ」)です。


 かつてユーゴスラビアは、多民族国家(5つの民族)で、4つの言語、3つの宗教も抱えるという、統治の難しい国家として知られていました。それがチトー大統領によって一つの国家として治められていましたが、80年にチトー大統領が亡くなって以降、一つの国家としての存続が徐々に難しくなったようです。


 実は私自身もユーゴスラビアの首都ベオグラードに行ったことがあり(86年頃)、その頃は既にチトー大統領は亡くなった後だったにもかかわらず、チトー大統領の顔写真の絵葉書があちらこちらで売られていた様子を覚えています。



 「白い都のヤスミンカ」では、その後のNATO空爆等の様子も少し触れられていますが、その現場に居る人間の視点から淡々と書かれているところが、かえって問題の深刻さを考えさせられます。


 民族と国家とイデオロギーというものが、池田さんがいつも仰る通り「観念」に過ぎないことについて、一体どうすれば思い知ることができるのでしょうか。