哲学とワインと・・ 池田晶子ファンのブログ

文筆家池田晶子さんの連載もの等を中心に、興味あるテーマについて、まじめに書いていきたいと思います。

「円谷さんの死」

2012-08-19 00:06:00 | 時事
今月の日経新聞「私の履歴書」は、オリンピックの時期に合わせてかマラソン銀メダリストが執筆している。そして、昨日のテーマが「円谷さんの死」であった。


この自殺事件は、当時において衝撃的だっただろうし、今でもマスコミはメダルの期待で連日報道しているくらいだから、当時の国民の期待感はさらにものすごいものだったように想像する。東京で銅メダルになったあと、次のメキシコで期待されながら、故障して手術まで行い、結局周囲の期待に答えられないと悟って自殺してしまう。「疲れ切ってしまって走れません」という遺書の文言が、本当に痛ましい。


この事件は多くの書物になっているようだが、こちらは同じ時期にマラソンを走った、ある意味同僚であった人の文章として、短い紹介ながら無念さが胸にしみる。そして「私は円谷さんを救えたかもしれない人間の一人だったと思う。」と言わしめている。「そこまで自分を追い詰める必要はない」と言ってあげるべきだったと。


しかし想像するに、そう声かけたとしても容易に円谷氏は考えを変えないように思える。「君は健康で走れるから、そんなことが言えるんだ。僕の気持ちなんてわかりはしない。」と言われそうだ。所属先からも家族からも期待されて、自らの存在意義が走ることにしかないと思っている以上、走れないことは自らの存在意義を失うことだ。その考えを本人自身が変えられない限り、結果は変わらないのだろう。本人の考えを変えることは、容易なことではない。しかし、あくまで「考え」なのだから、変えられないわけではない。


自殺者の多い今の時代においても、変わらず考えるべきテーマではないか。