おしょうさん と つばめ(上)

父は若い時、童話作家だった。31歳の時の作品を、父と同じ少年童話研究会に入っていた叔父の遺品の中から、従兄弟が「これ、読んだことないでしょ」と持ってきてくれた。話には聞いていた作品だが、文字原稿を読んだのは初めてだった。短い作品なので、二回に分けてご紹介しようと思う。

〔童話〕  おしょうさん と つばめ (名取盛雄)

 本堂とくり(坊さんの住んでいる建物)をつないでいる渡り廊下の透明ガラスをふく仕事は、年とったおしょうさんの好きな仕事の一つでありました。

 そのわけは、そこからは中庭のぼたんのつぼみをかぞえることが出来たり、裏庭の柿の若葉にきてうたう小鳥の姿を見る事が出来るということもありますが、それよりも、ガラスをみがいていると、自分の心がみがかれるように思われるからでありました。

ぼたんの花がことしも見事に咲きだしました。

 朝。本堂でのお経をすませて、おしょうさんは、みがきすましたガラス窓をとおしてそれを眺めて

「わし一人で見るのはぼたんの花にすまぬようじゃな」

とつぶやきながら、くりの部屋に入ろうとした時でありました。おしょうさんは、ガラス戸をはげしく打つ音をきいて、思わずふり向きました。

 おしょうさんは、いそいで庭下駄をつっかけて、ぼたんの花の下に落ちている黒いものにかけよりました。

※写真はイメージです。

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