風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

円周率

2010-04-01 02:22:17 | 時事放談
 今日の朝刊に、2008年に改訂された新しい学習指導要領に基づいて作られた最初の教科書の検定結果が報道されていました。学力低下批判を受けて、算数や理科のページは3割増しだそうです。象徴的なのが円周率で、悪評高き「3」に代わって「3.14」が復活したといいます。
 実は(Wikipedia等いくつかのWebサイトを調べたら分かりますが)、2002年から完全実施の学習指導要領でも、またそれ以前の指導要領でも、正確には「円周率としては『3.14』を用いるが、目的に応じて『3』を用いて処理できるよう配慮するものとする」と一貫して書かれていたそうで、必ずしも「3」を無条件に教えることになっていたわけではなさそうです。
 それはともかく、「3」がどれほど実態に近いようで実は遠い数値であるか、アルキメデスに倣って、円に内接または外接する正多角形の周囲長から円周率を求めてみれば分かります。直径1の円に外接する正方形の周囲長は「4」であり(この時の円周率=円周÷直径=4)、この正方形と円の4つの接点を結んで出来る正方形の周囲長は「2」である(円周率2)ので、円を構成する弧はまさにこの二種類の正方形のほぼ真ん中を通り、周囲長は「4」と「2」の中間の「3」(すなわち円周率3)に近いことが視覚的にも分かります(上の絵参照)。
 他方、円に内接する多角形を考えていくと、周囲長が「3」(円周率3)になるのは正六角形の時で、これを円と呼ぶには早過ぎます。周囲長が「3.1」になるのは 正十二角形の時で、これでもまだ早過ぎます。周囲長が「3.14」を越えるのは、正五十七角形の時だそうで(「3.140002」となるのだそうです)、ここまで来ると肉眼で円ではないと疑う人はもはやいないでしょう。「3」と「3.14」とでは、これほどの差があります。
 余談ですが、小学生5年生の頃、友人と円周率を暗唱するのを競ったことがあります(同じような経験をした人は恐らく少なくないことでしょう)。当初10桁くらいから始まって、徐々に増やして50桁くらまでは二人とも熱中していたのですが、その次に私がいきなり120桁まで覚えたため、お互いに馬鹿馬鹿しくなって止めてしまいました。当時の世界記録は1210桁だそうで(1973年12月21日、Timothy Pearsonという英国の13歳の少年)、今、思うと、意外に近かったというべきでしょう。何しろ、今、ギネスブックに載っている世界記録は、ある中国人が暗唱した6万7890桁(2005年11月)と言いますから、記憶力が凄いと言うより、なんだか頭の使い方が勿体無い気がしてしまいます。因みに日本の原口證(あきら、1945年11月27日生れ)さんが、それほどお若いわけではないのに(と言っては失礼ですが)、2006年10月3日午前9時~翌4日午前1時30分まで16時間余りかけて円周率10万桁の暗唱に成功し、ギネス世界記録に申請中だそうですが、こちらも、なんだか勿体無い話ですね。
 私の場合、ただただ数字を丸暗記したのですが、所謂「記憶詩」と呼ばれる語呂合わせの要領で覚える人も多く、いろいろなバリエーションがあるようです。短いのでは、「妻子(さいし)肥後の国」(3141592=小数点以下6桁)というのがなかなか秀逸ですが、「見ていいよ、イチゴ食うに向こうさイッパ」(314159265358=11桁)まで来ると、ちょっと苦しい。千桁まで覚える方法もあるそうですが、相当苦しいに違いありません。英語圏(仏語、独語、伊語など)に目を転じると、なかなか日本語のように簡単には行かないため、単語の文字数で表現するらしく、最も簡単なものでYes, I know a number!(3.1416)というのがあるそうですが、語呂合わせ(もどき)は洋の東西を問わないものですね。
 人類は何桁計算したかというと、昨年8月に筑波大・計算科学研究センターでスーパーコンピューターを使って2兆5769億桁まで達成したのは微かに記憶にありましたが、その後、昨年の暮れに1200億桁ほど記録更新して2兆6999億9999万桁まで計算して世界記録を樹立したのは、なんと2.93GHzのクアッド・コア・プロセッサ、6GBのメモリ、7.5TBのディスクを搭載したデスクトップ・パソコンを使用したものだそうです。検証計算を含めて131日も要したと言いますが(先のスパコンの場合は73時間36分と言いますから、僅かに3日強)、それにしても時代は変わったもので、パソコンのパワーは侮れません。
 最後に、いくつか円周率にまつわる微笑ましい話題です。3月14日は円周率の日及び数学の日ですが、今年3月14日には、京阪神の洋菓子店など41店が、円周率のπ(パイ)になぞらえて「パイの日」と称して、特製パイを販売したそうです。またご丁寧に7月22日は「円周率近似値の日」とされているそうです(22/7 すなわち22÷7は近似値)。また、3.14を鏡に映して見ると、不思議なことにパイ"Pie"という文字に見えます(実はPieは食べる方のパイであって、πの本当の綴りは“Pi”が正しい)。
 ひとしきり円周率ネタが続きましたが、事実として「3.14」に代えて「3」を指導するよう記述されていたかどうかは、この際、問題ではありません。「ゆとり」という美名のもとに、子供を甘やかしたツケが学力低下として現出し、文部官僚と日教組の理想主義が破綻した、一つの象徴として円周率が捉えられれば、それで良いと思います。学生の本分は、やはり勉強なのです。
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