風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

八方塞がりの北朝鮮

2019-11-09 22:17:22 | 時事放談
 ある方の最近の訪朝記によると、昨年の板門店での南北首脳会談後に訪問したときと比べて、北京で搭乗した高麗航空の(素っ気ないはずの)キャビンアテンダントが随分、にこやかな表情で対応してくれたらしい。また入国の税関検査も、(昨年はスマホに入っている画像までチェックされたらしいが、今年はスマホの提示を求められたものの)ほぼ素通り状態だったらしい。こうした現場感覚(特に定点観測)はなかなか貴重だ。これらは単なる気のせいかも知れないし、たまたまだったかも知れないが、もしかしたら北朝鮮で起っている、ささやかながらも重大な変化なのかも知れない。因みに、(所謂)平壌市民も普通に持っているというスマホにどんな機能があるのか、案内してくれた朝鮮対外文化交流協会の幹部に尋ねたところ、電話、メール、写真撮影、辞書、ゲーム、労働新聞や朝鮮中央放送のニュースなどが利用可能らしいが、「検索は?」という問いかけに首を傾げたらしい。なるほど、GoogleやYahooは当然のことながら、北朝鮮版の百度もまだないようだ。
 昨年4月に行われた党中央委員会総会で、金正恩委員長は、核・ミサイル実験の中止や、核開発と経済建設の両方を追う「並進路線」に勝利したと終了宣言し、経済発展に注力する路線への転換を表明した。今年4月の総会では、2月の米朝交渉が不調に終わった後のことでもあって、「自立的な民族経済を土台にし、自力更生の旗を高く掲げ、社会主義建設をさらに進める」(朝日新聞デジタル)などと、「自力更生」という言葉を計27回も繰り返した。「制裁でわれわれを屈服させることが出来ると血眼になり誤った判断をしている敵対勢力に、深刻な打撃を与えるべきだ」(日経新聞)などとも語り、アメリカへの一方的な譲歩には応じず、交渉の長期化を視野に入れた姿勢を示した可能性があるとも報じられた(同)。その後、交渉については年内を一つの区切りとしたのは周知の通りで、来年のアメリカ大統領選挙を睨んで、成果を誇示したいトランプ大統領の足元を見ているのは間違いない。トランプ以前の大統領からは相手にされず、トランプ氏だからこそトップ同士の直接の交渉相手となり得た事情もあり、原則合意から進展が乏しい現状への焦りはあるだろうし、依然続く国連制裁への苛立ちもあることだろう。
 そういう意味で、今年に入って10回以上の度重なるミサイル発射実験で北朝鮮はミサイル技術を着実に向上していることを懸念する声が聞かれるが、真の意図がそこにあるとは思えない。そんな中、10月23日に金委員長が、朝鮮半島五霊山の一角・金剛山を視察したときの報道は興味深かった。韓国資本で作られた数々の観光施設をボロクソに貶し、「わが国の力で、名山・金剛山にふさわしい施設を作り直すのだ」と命じたのは、見方によっては父親の偉業を否定することになりかねない(父親との確執は実は一部で報じられて来たことだが)。そして、それより一週間前の16日に朝鮮中央通信社は、金委員長が白馬に跨り聖地とされる白頭山に登る写真を公開するという、なんとも大仰な報道をして見せた。金委員長に同行した側近は「金氏が雄大な作戦」を計画していることを確信したと、これまた勿体をつけて報じているが、繰り返しになるが何とも大仰で北朝鮮らしい。
 先ず中国は、米中摩擦のために、北朝鮮をカードの一つにしたい思惑をもって背後に控えている。北朝鮮としてはなるべく頼りたくない相手だろうが、カードの一つになるのは間違いない。
 韓国は、金委員長とトランプ大統領の逢瀬を演出したが、いったん個人的関係が構築されてしまうと用済みで、国家間の南北融和を期待しようにも、客観的な国際情勢のせいで、なかなか進展しないのは止むを得ない。北朝鮮は韓国のことをなじることはあっても、次に利用できるまで手加減するだろう。他方、文大統領は、歴史認識問題以外に南北融和に水を差すことでも苦々しく思っている日本との関係を悪化させたこと自体は何ら気にしていないだろうが、ディールのつもりでGSOMIA破棄まで表明したことで、アメリカの虎の尾を踏んでしまった。11月22日までに揺り戻しのキッカケを掴みたい文大統領は、心ならずも日本に接近を図っているが、こうした日米韓、否、米韓の絆の強さを、金委員長はさぞいまいましく思っていることだろう。
 日本は、今は登場する段階ではない。
 最後にアメリカは、かつて北朝鮮の裏切りにも近い行為に学んで、宥和的な姿勢を見せないのは当然で、報道によれば北朝鮮は近海の漁業権を中国に売却したとされるのが本当かどうか知らないが、瀬取りや海外就労者のビザ書き換えやサイバー攻撃に見られるように、経済制裁がそれなりの効果を挙げているのが事実であれば、核開発を停止している北朝鮮との関係で、時間は自らに味方すると思っているであろうことは、これまでブログで触れて来た通りだ。金委員長にとってはそれが自らの公約の妨げとなり、物事が思い通りに進まないことに、さぞ苛立ちを覚えていることだろう。しかし考えてもみて欲しい。北朝鮮のような最貧国の深窓の三代目が、戦後の国際社会が奉じる核不拡散体制に敢然と挑戦し、世界に冠たるアメリカ大統領とディールをしようとは、かつての大統領側近が考えたように、甚だもって異例であり非現実的なことである。多角的あるいは多国間の協調が苦手で、プーチンや習近平などの一対一のディールが出来そうな独裁者ばかりを好むトランプ大統領だからこそ、物好きにも誘いに乗ったのであって、本来はあり得ないことだ。そんなことを容認したら第二・第三の北朝鮮が現れないとも限らない。その意味でも原則論としての非核化は譲れない。
 金委員長にとって、自らの統治に関わる命懸けのこととは言え、世界とりわけ選挙制度があって国民の負託により統治が容易に引っくり返る西側諸国にとって、事態はそれほど深刻ではない、と言うより血統による三代目には冷ややかだ(と思う)。大統領補佐官を解任されたボルトン氏は「北は核放棄しない」と発言し、トランプ外交を切り捨てたようだが、金委員長は少し頭を冷やした方がよいのではないかと思う(がいらぬお節介なのだろう)。
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