風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

台湾への恩返し

2021-06-05 10:46:34 | 時事放談
 台湾の要請を受けて日本が無償提供することを決めていた英アストラゼネカ製ワクチン124万回分が昨日の午後、無事、台湾・桃園国際空港に到着した。日本の関与が報道されるようになって僅か一週間でのスピード決着は見事だったが、漏れ伝わる範囲ながらその経緯を辿るとなかなか興味深い。
 台湾は、新型コロナ禍への対応で優等生と絶賛されるように、感染が広がらない安心感があって台湾人の多くはワクチン接種を望まず、夏には国内製造が始まることもあり、台湾政府もワクチン調達を急いでいなかったと言われる。ところが5月に入って俄かに感染が拡大し、ワクチン調達に動き出すも、中国の妨害があって難航していると、蔡英文総統が不快感を示したことを共同通信が伝えたのは、先月26日のことだった。
 翌27~28日にかけて、日本政府によるワクチン提供案が浮上しているとの報道があったのは、世論の反応をみる観測気球だったようだ。当の日本ですらワクチン接種が進まず、世間では東京オリパラ開催への反対の声が高まる折から、いくら接種後に血栓が生じる事例が僅かながらも報告されて当面は公的接種の対象外とするアストラゼネカ製ワクチンであっても、国民世論がどう受け止めるかは懸念されたようだ。また、日本で余っているからと台湾に融通するのを、台湾が素直に受け取れるかと疑問視する否定的な報道も見られたが、台湾ではアストラゼネカ製ワクチンが他社製に先駆けて承認されていた。結局、茂木外相が3日に台湾へのワクチン提供を発表した際、「台湾は東日本大震災の際、いちはやく義援金を送ってくれた。困ったときは助け合うことが必要だ」と強調したことに表れるように、世論は冷静に好意的に受け止めた。これには、中国がワクチン提供を申し出たのを、台湾が「中国のワクチンは怖くて使えない」などと拒否したことが報じられていたことも大いに影響していそうだ。
 面白くないのは中国である。5月31日の記者会見では、「我々は台湾の同胞のために(ワクチン提供などで)最善を尽くす意思を繰り返し表明してきた。だが(台湾与党の)民主進歩党が善意を踏みにじり、中国から台湾へのワクチン輸入を妨害している」と恨みつらみを述べ、日本に対しても、「新型コロナ対策を政治的なショーに利用しており、中国への内政干渉に断固反対する」などと批判して牽制した。ワクチン外交を進める中国には言われたくないのだが・・・。
 その間、安倍さん(前首相)の意向が強く働いていたことを産経が伝えた(*)。台湾とは正式の外交関係にないし、中国が反発するであろうことは明らかなだけに、まさに政治判断である。この産経の記事にも、外務省は当初、COVAX(コバックス)を通じた提供を検討したが、台湾側からは「数量はともかく、スピード重視で対応してもらいたい」との意向が伝えられており、安倍さんらから「それでは時間がかかりすぎる」との声が上がったとある。まさに政治判断である。
 その際、ポイントとなるのは、アメリカと連携し、日本が発表するのと同時に、アメリカも台湾などアジアに700万回分を提供すると発表したことであろう(但し、COVAXを通じてのためか時期は6月末となる見込み)。中国の神経を逆撫でするようなことは、単独でやるよりは他国と協調して衝撃を分散するのがよい。最近、中国の人権侵害の疑いに対して欧米諸国が制裁で足並みを揃える、あれである。
 台湾が昨日時点で確保できたワクチンは累計で約210万回分にとどまり、全人口(2360万人)の一割に満たない。そのため日本は今後も複数回にわたり台湾にワクチン提供するとみられているが、もはや遠慮することなく、粛々と進めるであろう。以前、日米首脳会談に関するブログで、日本は米中対立の時代に是々非々で(旗幟鮮明に)対応していくことになるだろうと書いたが、着々と日本の外交を進めているようである。

(*)「ワクチンの台湾提供、安倍前首相ら動く 中国妨害警戒 日米台が水面下で調整」(6月3日付、産経新聞)
   https://www.sankei.com/article/20210603-DGRVHC3KZZKGLAFS6RSYO3ULMU/
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